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3.環境中の生物への影響に着目した化学物質の審査・規制について

(1)化学物質による環境中の生物への影響事例

 化学物質が環境中の生物に影響を及ぼしていると考えられる事例として以下が挙げられる。

 

(1)残留性有機汚染物質

 PCB、DDT、ダイオキシン等の残留性有機汚染物質(POPs)は、人の健康への影響に加え、北極圏の海棲哺乳類等にも蓄積していること等から地球規模での環境中の生物への影響が懸念されている。これらPOPsへの対策を講ずるため、POPsの廃絶・削減を図り、人の健康及び環境の保護を図ることを目的として、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」が2001(平成13年)5月に採択されている(日本は本年8月30日に加入)。
 第1回POPs条約政府間交渉会議に提出された、POPs12物質の評価レポートでは、POPsの人の健康への影響に加えて環境中の生物への影響についても報告されている。様々な生態毒性を示唆する実験データの他、実際の生物への影響事例としては、ヘプタクロルによるカナダガン等複数の野生鳥類の数の減少(米・コロラド盆地)、鳥類の生殖障害(米・オレゴン)、DDTによるカモメの性転換(米・五大湖、カリフォルニア南部)、アルドリンによる鳥類の死亡(米・テキサス湾岸)などが報告されている。

(2)トリブチルスズ化合物

 船底塗料や漁網防汚剤として広く用いられたトリブチルスズ(TBT)化合物は、海水中に溶け出して底質や生物に蓄積し、長期にわたり環境中に残留する。TBT化合物による環境中の生物への影響としては、世界各地での巻き貝の生殖障害・数の減少、ヒラメの免疫機能の低下、牡蠣等の奇形が報告されている。
 2001年(平成13年)10月には、船舶用の防汚剤による海洋環境及び人の健康への悪影響を削減又は廃絶することを目的とし、「船舶についての有害な防汚方法の管理に関する国際条約」(AFS条約)が採択された。TBTを含む有機スズ化合物を含有した船舶用防汚塗料を当面の対象とし、2003年以降総ての船舶への塗布を禁止する等の規制を求めている。

(注) 国内においては、14物質のTBT化合物が化学物質審査規制法の対象となっており、これらの製造・輸入は行われていない。また、船舶用防汚塗料向けのその他のTBT化合物は、製造・輸入ともされていない。


(2)化学物質による環境中の生物への影響の評価検討事例

我が国における事例

 これまで我が国で環境中の生物への影響に関する観点から化学物質について評価・検討を行った事例としては以下が挙げられる。

 

(1)化学物質排出把握管理促進法

 平成11年に制定された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化学物質排出把握管理促進法)においては、人の健康を損なうおそれのある化学物質とともに、第2条第2項第1号において「動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがあるもの」もその対象とされている。具体的には、水生生物(藻類、ミジンコ、魚類)を用いた急性毒性又は慢性毒性試験の結果に基づき、一定程度の生態毒性(急性毒性値LC50が10mg/L以下等)を有するものが選定されており、排出量等の把握を行うPRTR制度の対象となる354物質のうち、有害性の根拠に生態毒性を含むものは118物質あり、そのうち56物質は生態毒性のみを有害性の根拠として選定されている(参考1参照)。

(2)環境リスク初期評価

 環境省が実施した環境リスク初期評価パイロット事業(平成9年〜12年度)における39物質についての評価結果によれば、生態リスクに関して3物質(ディルドリン、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、ホルムアルデヒド)の予測環境中濃度(PEC※)が予測無影響濃度(PNEC※※)を上回り、より詳細な評価を行う候補物質とされ、さらに6物質についてはPECがPNECを下回っているものの比較的近い値であることから、情報収集に努める必要があるとされた(参考2参照)。

※: 予測環境中濃度(PEC):実測データをもとに安全側にたった評価の観点から設定した環境中の予測濃度。

※※: 予測無影響濃度(PNEC):試験生物種の毒性値をアセスメント係数で除することにより算出した、生態系に対して有害な影響を及ぼさないと予想される濃度。

(3)環境省「水生生物保全に係る水質目標」

 「水生生物保全水質検討会」は平成14年8月に水生生物保全に係る水質目標の考え方を示した報告を取りまとめた。報告では、水生生物への有害性が考えられ、かつ、水生生物が継続して暴露する可能性の高い物質の中から、環境中濃度が既存の文献の急性毒性値を上回っている物質及び環境リスク初期評価で詳細な評価を行う候補とされた物質を中心に水質目標値の導出可能性について検討した結果が取りまとめられた。具体的には、現時点までに十分な知見が得られたものとして、9物質(ホルムアルデヒド、アニリン、クロロホルム、ナフタレン、フェノール、エンドスルファン、2,4-ジクロロフェノール、カドミウム、亜鉛)につき水質目標値が導出されている(参考3参照)。

(4)既存化学物質安全性評価シート

 経済産業省では、平成8年度より、既存化学物質による人の健康や環境への影響に関する安全性情報を文献調査等により収集した上で、専門家による評価を加え、その結果を既存化学物質安全性(ハザート)評価シートとして取りまとめ公表している。環境中の生物への影響に関する情報としては、各種文献データベース等から収集した生態毒性試験データや有害性に関するOECD分類基準による分類が記載されている。これまでに化学物質排出管理促進法の第一種指定化学物質を中心に256物質の評価シートを作成してきている。

(5)新規化学物質のうち「生態影響に関し環境への影響に留意する物質」と判断されたもの

 化学物質審査規制法に基づく新規化学物質の審査に際し、環境省では生態影響など同法の視野に入っていない環境影響について留意すべき物質を「フォロー物質」として記録に残している。平成9年度以降審査された約1,300物質のうち魚の急性毒性試験等の結果が添付されていたのは約650物質であったが※、そのうち「生態影響に関し環境への影響に留意する物質」※※と判断されたのは110物質であった。この110物質のうち20物質は人の健康を損なうおそれが疑われる「指定化学物質」相当とは判断されておらず、人の健康に対する有害性はそれほど強くないものの環境中の生物に対する有害性が疑われている(参考4参照)。

※: 濃縮度試験の予備試験として魚の急性毒性試験が実施されている場合及びその他の生態毒性試験結果が添付されている場合(欧州からの輸入物質など)につき、これらの試験結果を元に判断したもの。届出された全ての物質について判断しているわけではない。

※※: 「生態影響に関し環境への影響に留意する物質」とは、魚類急性毒性試験等の短期毒性試験で得られたLC50 値等が概ね10 mg/l 以下のもの等


(参考1)生態毒性のみを根拠に指定された化学物質排出把握管理促進法第一種指定化学物質

番号 CAS 政令
番号
物質名 番号 CAS 政令
番号
物質名
1 2439-35-2 5 アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル 29 115-32-2 215 2,2,2-トリクロロ-1,1-ビス(4-クロロフェニル)エタノール(別名ケルセン又はジコホル)
2 78-67-1 13 2,2'-アゾビスイソブチロニトリル 30 55335-06-3 216 (3,5,6-トリクロロ-2-ピリジル)オキシ酢酸(別名トリクロピル)
3 141-43-5 16 2-アミノエタノール 31 118-79-6 221 2,4,6-トリブロモフェノール
4 591-27-5 21 m-アミノフェノール 32 3452-97-9 223 3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール
5 - 24 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩(アルキル基の炭素数が10から14までのもの及びその混合物に限る。) 33 108-67-8 224 1,3,5-トリメチルベンゼン
6 80-05-7 29 4,4'-イソプロピリデンジフェノール(別名ビスフェノールA) 34 108-88-3 227 トルエン
7 4162-45-2 31 2,2'-{イソプロピリデンビス[(2,6-ジブロモ-4,1-フェニレン)オキシ]}ジエタノール 35 86-30-6 238 N-ニトロソジフェニルアミン
8 100-41-4 40 エチルベンゼン 36 100-02-7 239 p-ニトロフェノール
9 111-87-5 58 1-オクタノール 37 25154-52-3 242 ノニルフェノール
10 1806-26-4 59 p-オクチルフェノール 38 1014-70-6 245 2,4-ビス(エチルアミノ)-6-メチルチオ-1,3,5-トリアジン(別名シメトリン)
11 576-26-1 62 2,6-キシレノール 39 61789-80-8 251 ビス(水素化牛脂)ジメチルアンモニウム=クロリド
12 1330-20-7 63 キシレン 40 110-86-1 259 ピリジン
13 1319-77-3 67 クレゾール 41 117-84-0 269 フタル酸ジ-n-オクチル
14 51218-49-6 81 2-クロロ-2',6'-ジエチル-N-(2-プロポキシエチル)アセトアニリド(別名プレチラクロール) 42 84-74-2 270 フタル酸ジ-n-ブチル
15 95-49-8 89 o-クロロトルエン 43 3648-21-3 271 フタル酸ジ-n-ヘプチル
16 108-90-7 93 クロロベンゼン 44 85-68-7 273 フタル酸n-ブチル=ベンジル
17 96491-05-3 98 2-クロロ-N-(3-メトキシ-2-チエニル)-2',6'-ジメチルアセトアニリド(別名テニルクロール) 45 95-31-8 282 N-(tert-ブチル)-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド
18 90-02-8 104 サリチルアルデヒド 46 13356-08-6 289 ヘキサキス(2-メチル-2-フェニルプロピル)ジスタノキサン(別名酸化フェンブタスズ)
19 51630-58-1 106 α-シアノ-3-フェノキシベンジル=2-(4-クロロフェニル)-3-メチルブチラート(別名フェンバレレート) 47   307 ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル(アルキル基の炭素数が12から15までのもの及びその混合物に限る。)
20 108-91-8 114 シクロヘキシルアミン 48 9036-19-5 308 ポリ(オキシエチレン)=オクチルフェニルエーテル
21 95-33-0 115 N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド 49 9016-45-9 309 ポリ(オキシエチレン)=ノニルフェニルエーテル
22 121-75-5 155 ジチオりん酸O,O-ジメチル-S-1,2-ビス(エトキシカルボニル)エチル(別名マラソン又はマラチオン) 50 688-84-6 315 メタクリル酸2-エチルヘキシル
23 51-28-5 158 2,4-ジニトロフェノール 51 105-16-8 317 メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル
24 122-39-4 159 ジフェニルアミン 52 2867-47-2 318 メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル
25 95-64-7 164 3,4-ジメチルアニリン 53 97-88-1 319 メタクリル酸n-ブチル
26 1643-20-5 166 N,N-ジメチルドデシルアミン=N-オキシド 54 98-83-9 335 α-メチルスチレン
27 11070-44-3 202 テトラヒドロメチル無水フタル酸 55 108-99-6 336 3-メチルピリジン
28 - 207 銅水溶性塩(錯塩を除く。) 56 25155-23-1 353 りん酸トリス(ジメチルフェニル)


(参考2)化学物質の環境リスク初期評価(平成9〜12年度、パイロット事業)
における生態リスク評価結果の概要と関連情報

番号 CAS番号 物質名 PEC(μg/L) PNEC
(μg/L)
評価結果 分解性 濃縮性 製造・輸入量区分
淡水 海水 淡水 海水
1 79-06-1 アクリルアミド 0.083 <0.05 41   10000
2 75-07-0 アセトアルデヒド <1 <1 370   1000
3 62-53-3 アニリン <0.06 0.074 0.4 ×   100000
4 309-00-2 アルドリン <0.0001 <0.05 0.0012 ×  
5 78-79-5 イソプレン <0.5 <1 43 1000
6 100-41-4 エチルベンゼン <0.03 1.1 26   100000
7 106-89-8 エピクロロヒドリン <1 <0.5 11   100000
8 72-20-8 エンドリン 0.00035 <0.05 0.001 ×  
9 1330-20-7 キシレン 0.042 1.5 8.2   1000000
10 100-00-5 1-クロロ-4-ニトロベンゼン <0.3 <0.3 3.2 10000
11 123-86-4 酢酸ブチル <0.2 <0.2 100     10000
12 75-56-9 酸化プロピレン <2 <0.2 × ×   100000
13 75-35-4 1,1-ジクロロエチレン <5 <5 79 1000
14 542-75-6 1,3-ジクロロプロペン <2 <0.2 0.9 × ×    
15 95-50-1 o-ジクロロベンゼン <0.01 <0.04 <1 × × 10000
16 106-46-7 p-ジクロロベンゼン 0.094 0.11 10   10000
17 68-12-2 N,N'-ジメチルホルムアミド 0.1 0.07 71000 10000
18 74-83-9 臭化メチル <0.01 <0.01 × × 10000
19 100-42-5 スチレン <0.01 0.02 9.1   1000000
20 50-29-3 p,p'-DDT <0.0002 <0.002 0.002 ×  
21 60-57-1 ディルドリン 0.0097 <0.01 0.0026 ×  
22 79-94-7 テトラブロモビスフェノールA <0.04 <0.04 0.8 10000
23 95-53-4 o-トルイジン <0.08 <0.08 0.13 × × 100
24 108-88-3 トルエン 0.09 2.4 12   1000000
25 584-84-9 トルエンジイソシアネート 160 × ×     100000
26 302-01-2 ヒドラジン <2 <2 0.005 × × 10000
27 92-52-4 ビフェニル 0.069 <0.021 0.072 ×   1
28 108-95-2 フェノール 0.58 0.43 0.8   100000
29 117-81-7 フタル酸ジ(2-エチルヘキシル) 1.6 0.4 0.77 100000
30 84-74-2 フタル酸ジ-n-ブチル <0.3 <0.3 4 10000
31 131-11-3 フタル酸ジメチル <0.1 <0.1 96   1000
32 118-74-1 ヘキサクロロベンゼン <0.05 <0.002 0.002 × ×  
33 110-54-3 n-ヘキサン 0.5 15 ×     10000
34 76-44-8 ヘプタクロル <0.000004 <0.05 0.00003 × ×  
35 82-68-8 ペンタクロロニトロベンゼン <0.002 <0.42 0.84 ×   1000
36 87-86-5 ペンタクロロフェノール 0.00092 <0.05 <0.041 × × 1
37 50-00-0 ホルムアルデヒド 3 2 <1   100000
38 108-90-7 モノクロロベンゼン <0.01 <0.3 0.5 × 10000
39 115-96-8 リン酸トリス(2-クロロエチル) 0.7 1.1 100 100

(注)  ○:現時点では作業は必要ない(PEC/PNEC<0.1)、▲:情報収集に努める必要(0.1≦PEC/PNEC<1)、■:詳細な評価を行う候補(1≦PEC/PNEC)、×:現時点では生態リスクの判定はできない。製造・輸入量区分はオーダーを示したもの。

予測環境中濃度PEC: 実測データを基に安全側に立った評価の観点から設定した環境中の予測濃度。
予測無影響濃度PNEC: 試験生物種の毒性値をアセスメント係数で除することにより算出した、生態系に対して有害な影響を及ぼさないと予想される濃度。

詳細は、「化学物質の環境リスク評価:第1巻」(平成14年3月 環境省環境保健部環境リスク評価室)を参照のこと



(参考3)水生生物保全に係る水質目標値

  Cas 物質名 水域 区分 目標値案
(μg/L)
1 50-00-0 ホルムアルデヒド 淡水域 A:イワナ・サケマス域 1,000
B:コイ・フナ域 1,000
S-1:イワナ・サケマス域 1,000
S-2:コイ・フナ域 1,000
海域 一般海域 300
S:繁殖・幼稚仔の生育の場等特に保全が必要な水域 30
2 62-53-3 アニリン 淡水域 A:イワナ・サケマス域 20
B:コイ・フナ域 20
S-1:イワナ・サケマス域 20
S-2:コイ・フナ域 20
海域 一般海域 -
S:繁殖・幼稚仔の生育の場等特に保全が必要な水域 -
3 67-66-3 クロロホルム 淡水域 A:イワナ・サケマス域 700
B:コイ・フナ域 3,000
S-1:イワナ・サケマス域 6
S-2:コイ・フナ域 3,000
海域 一般海域 800
S:繁殖・幼稚仔の生育の場等特に保全が必要な水域 800
4 91-20-3 ナフタレン 淡水域 A:イワナ・サケマス域 20
B:コイ・フナ域 300
S-1:イワナ・サケマス域 20
S-2:コイ・フナ域 300
海域 一般海域 40
S:繁殖・幼稚仔の生育の場等特に保全が必要な水域 40
5 108-95-2 フェノール 淡水域 A:イワナ・サケマス域 50
B:コイ・フナ域 80
S-1:イワナ・サケマス域 10
S-2:コイ・フナ域 10
海域 一般海域 2,000
S:繁殖・幼稚仔の生育の場等特に保全が必要な水域 200
6 115-29-7 エンドスルファン 淡水域 A:イワナ・サケマス域 0.007
B:コイ・フナ域 0.001
S-1:イワナ・サケマス域 0.003
S-2:コイ・フナ域 0.001
海域 一般海域 0.004
S:繁殖・幼稚仔の生育の場等特に保全が必要な水域 0.004
7 120-83-2 2,4-ジクロロフェノール 淡水域 A:イワナ・サケマス域 30
B:コイ・フナ域 800
S-1:イワナ・サケマス域 3
S-2:コイ・フナ域 20
海域 一般海域 -
S:繁殖・幼稚仔の生育の場等特に保全が必要な水域 -
8 7440-43-9 カドミウム
淡水域 A:イワナ・サケマス域 0.1
B:コイ・フナ域 0.2
S-1:イワナ・サケマス域 0.03
S-2:コイ・フナ域 0.2
海域 一般海域 10
S:繁殖・幼稚仔の生育の場等特に保全が必要な水域 7
9 7440-66-6 亜鉛 淡水域 A:イワナ・サケマス域 30
B:コイ・フナ域 30
S-1:イワナ・サケマス域 30
S-2:コイ・フナ域 30
海域 一般海域 7
S:繁殖・幼稚仔の生育の場等特に保全が必要な水域 7

詳細は、「水生生物の保全に係る水質目標について」(平成14年8月 水生生物保全水質検討会)を参照のこと。
(環境省ホームページにも掲載。http://www.env.go.jp/water/report/h14-03/index.html


(参考4)新規化学物質のうち「生態影響に関し環境への影響に留意する物質」と判断されたもの(平成9年度以降)

  人の健康への影響について「指定化学物質」相当と判断されたもの 人の健康への影響について「指定化学物質」相当と判断されなかったもの 合計
期間
用途
H9.4〜
 H12.12
H13.1〜
 H14.10
合計 H9.4〜
 H12.12
H13.1〜
 H14.10
合計 H9.4〜
 H12.12
H13.1〜
 H14.10
合計
染料 1 1 2 1 1 2 2 2 4
染料原料・色素原料 3 1 4 0 0 0 3 1 4
塗料・顔料 4 0 4 1 1 2 5 1 6
防菌剤・防カビ剤 6 2 8 0 0 0 6 2 8
防菌剤原料・防カビ剤原料 1 0 1 0 0 0 1 0 1
殺虫剤・防虫剤 3 3 6 0 1 1 3 4 7
界面活性剤 0 0 0 0 0 0 0 0 0
洗剤 0 0 0 0 0 0 0 0 0
漂白剤 0 0 0 0 0 0 0 0 0
香料 0 0 0 1 0 1 1 0 1
溶剤・乾燥剤 0 0 0 0 0 0 0 0 0
溶剤中間体 1 0 1 0 0 0 1 0 1
洗浄剤 0 0 0 0 0 0 0 0 0
触媒 1 1 2 0 0 0 1 1 2
冷媒・発泡剤 0 0 0 0 0 0 0 0 0
水処理剤 0 0 0 0 0 0 0 0 0
安定剤・老化防止剤・樹脂添加剤 7 0 7 0 0 0 7 0 7
硬化促進剤 3 0 3 1 0 1 4 0 4
潤滑油添加剤 1 1 2 0 0 0 1 1 2
樹脂 0 0 0 2 2 4 2 2 4
樹脂原料 4 3 7 1 1 2 5 4 9
ポリマー原料(モノマー) 2 1 3 0 0 0 2 1 3
重合開始剤 0 1 1 1 0 1 1 1 2
金属防錆剤 1 0 1 0 0 0 1 0 1
難燃剤 0 0 0 0 0 0 0 0 0
写真感光材料 1 0 1 2 1 3 3 1 4
写真感光材料添加剤 1 0 1 0 0 0 1 0 1
液晶原料 3 0 3 0 0 0 3 0 3
感熱色素 1 0 1 0 0 0 1 0 1
感熱色素中間体 1 0 1 0 0 0 1 0 1
農薬 1 0 1 0 0 0 1 0 1
農薬中間体 7 1 8 0 0 0 7 1 8
医薬品中間体 7 3 10 0 1 1 7 4 11
その他 6 6 12 1 1 2 7 7 14
合計 66 24 90 11 9 20 77 33 110

(注)  H9.4〜H12.12:化学物質安全性評価検討会における検討結果を踏まえたもの
 H13.1〜H14.10:中央環境審議会環境保健部会化学物質審査小委員会における検討結果を踏まえたもの
 「生態影響に関し環境への影響に留意する物質」とは、魚類急性毒性試験等の急性毒性試験で得られたLC50値等が概ね10mg/l以下のもの等


諸外国の事例

 POPs条約、AFS条約の他、海外で環境(生物やその生息環境を含む)保全の観点から化学物質が規制の対象として取り上げられている事例としては以下が挙げられる。

 

(1)短鎖塩素化パラフィン

 EUでは、人の健康保護及び環境保全の観点から有害性が強い化学物質についてリスク評価を実施し、その結果に応じてEU全体で規制対象としてリスク低減措置を講じている。
 金属加工油用の添加剤やゴム用の難燃剤、可塑剤等に用いられている短鎖塩素化パラフィンは、リスク評価の結果、環境に対するリスクについて以下のように判断された。

  • PEC/PNEC比によれば、金属加工時の潤滑油の製造・使用及びレザー加工工程からの排出源近傍の水生生物への重大なリスクを示唆している。

  • 陸生生物に関しては、スクリーニング評価では、金属加工時の潤滑油及びレザー加工用油の製造・使用及び広域的な排出についてPEC/PNEC比が1を超える。

  • 食物連鎖による高次捕食動物への影響については、スクリーニング評価では、金属加工における使用やレザー加工用油の製造・使用により、食物連鎖による高次捕食動物へのリスクが示唆されている。

 これを受けて、2002年6月には金属加工及び皮革の加脂加工における用途向け上市を禁止する等のリスク低減措置に関する理事会指令が採択されている。

(2)ノニルフェノール

 界面活性剤、油溶性フェノール樹脂等の原料として広く利用されているノニルフェノールは、EUではリスク評価の結果、水生生物及び陸上生物にリスクを及ぼすものと判定され、EUレベルでの上市と使用の制限措置をとる必要があると提案された。
 これを受けて、2002年8月にはノニルフェノール及びノニルフェノールを原料とするノニルフェノールエトキシレートについて、金属加工、織物及び皮革の加脂加工における用途向け上市を禁止する等のリスク低減措置に関する理事会指令が提案されている。



(3)欧米等における生態リスクの評価及び規制方法

米国

 

(1)生態リスクの評価方法

 TSCAにおける新規化学物質のリスク評価は、試験生物の生死、成長、発生、生殖への影響を把握して生物の個体群(population)レベルで影響を及ぼす可能性のある濃度を算出し、これと暴露される可能性のある環境中濃度とを比較することにより行われている。
 最初の段階では、試験データやQSARにより藻類、ミジンコ類、魚類の中で最も感受性の高い種とそのエンドポイントについて影響を及ぼす可能性のある濃度を求め、その値を表1のアセスメント係数で除することにより、CC(Concern Concentration:影響の懸念がある濃度)を算出する。暴露される可能性のある濃度は、最悪のケースを想定した水中の流れによる希釈によるモデルから予測環境濃度(PEC)を算出する。予測環境濃度がCCを超える場合には、リスクの可能性があると判断され、生態毒性試験の追加や、さらに詳しい暴露に関する情報を求め、それらに基づきさらに詳細なリスク評価が行われる。
 図1に、リスク評価のフローを示す。

表1 アセスメント係数

データ アセスメント係数
データが限られている場合
(SAR/QSARによる急性LC50値が1つなど)
1000
急性毒性基本セット
(魚類及びミジンコのLC50と藻類のEC50)
100
慢性毒性値(最大許容毒性濃度:MATC) 10
野外試験データ 1


図1 新規化学物質の生態リスク評価のフロー

図1 新規化学物質の生態リスク評価のフロー

(2)評価に基づく規制

 リスク評価の結果、リスク管理の必要があると判断された化学物質については、一般的にはその製造、輸入、使用を制限又は禁止する同意命令や重要新規利用規則(SNUR)に基づく規制が行われる。
 同意命令は届出者のみを規制の対象とするものであり、EPAと届出者とで話し合いを行い、追加情報の提出、規制の遵守、届出の取下げ等のうちのいずれかを届出者に選択させるものである。SNURはすべての者を対象とする規制であり、届出以外の用途での使用に係る届出義務、事業所ごとの取扱量制限、排水基準設定などいくつか用意されている措置のメニューから必要なものを選択して規制を実施している。この中には水への排出に関する規定など水生生物への影響を考慮した内容も含まれる。SNURの対象物質を製造、輸入又は使用する場合には、その化学物質に関するSNURの要件を遵守する必要があり、その範囲を超えて当該化学物質を利用したい場合は事前に届出が必要である。

(3)PBT(難分解性・高蓄積性・毒性)化学物質への対応

 米国ではPBT化学物質によるリスクの低減のための「PBTプログラム」が進められている。TSCAにおいても1999年にPBTカテゴリーが定められ、難分解・高蓄積性の物質は人の健康影響に関する試験及び生態毒性試験(一般的には哺乳類及び鳥類等の慢性毒性試験)の結果に基づいて分類され、その結果が出るまでは製造が禁止される。人や環境へのリスクがある可能性がある場合はリスクがないことが確認されるまで製造が禁止され、最終的にリスクが低いと判断される場合もSNURにより環境排出は禁止される。なお、POPsについては製造・使用を原則禁止することが提案されている。


EU

 

(1)生態リスクの評価方法

a) 環境リスク評価(生態リスク評価)の基本的考え方

 環境リスク評価は、基本的には、予測環境濃度(PEC)と予測無影響濃度(PNEC)との比較により行われる。保全すべき対象は(1)水生生態系、(2)陸生生態系、(3)高次捕食者(食物連鎖に伴うもの)、(4)排水処理施設中の微生物、(5)大気環境の5媒体となっている。生態系の感受性は最も感受性の高い生物種に依存すること及び生態系の構造を保護することにより生態系の機能も保護されるという考え方を踏まえ、リスク評価により環境の保全を図ろうとしている。

b) 環境暴露評価

 環境暴露評価手法のポイントは以下のとおりである。

化学物質の全てのライフサイクルを考慮し、「排出シナリオ」を仮定して排出量を推計する。

実測値とモデル計算との両方を考慮し、相互補完的に利用する。

発生源近傍の地方レベルの予測濃度(PEC local)と、バックグラウンドとして考慮すべき広域レベルの予測濃度(PEC regional)を求める。この場合、PEC localは C local(発生源からの排出をもとに算出される濃度)とPEC regionalの和となる。実測値についてはどちらに該当するかを検討して割り振る。

c) 生態リスク評価

 生態リスク評価のポイントは以下のとおりである。

保全すべき対象はa)に示した5つであるが、水生生物への影響データが最も多く提出されることから、水生生物への影響の評価のみが詳細に行われることが多い。底質や土壌への影響評価は限定的になる。大気への影響は、酸性雨やオゾン層への影響などの非生物影響も考慮するが、手法は確立されていない。生体内への蓄積性が高い物質については、魚や虫などにおける化学物質濃度予測値(PEC oral, fish, PEC oral, worm)を計算して、これと魚や虫の捕食動物のPNECと比較してリスク評価を行う。

水生生物に係るPNECは、最も高い感受性を示した生物種の急性又は慢性毒性の試験結果を表2のアセスメント係数で除することによって算出する。ただし、データの状況によって変更もありうる。新規化学物質について言うと、域内における予定上市量が一事業者当たり年間1トン以上(累積5トン以上)の場合、通常はベースセットデータが提出されるので、アセスメント係数は1000を用いる。定量的構造活性相関(QSAR)については、補完的に用いる。

表2 アセスメント係数

  アセスメント係数
ベースセット(魚、ミジンコ、藻類)の3つの栄養段階からそれぞれ少なくとも1種以上の短期L(E)C50 1000
魚かミジンコのいずれかの長期NOEC 100
魚・ミジンコ・藻類のうちいずれか2つの栄養段階からの2つの長期NOEC 50
3つの栄養段階からの3つ以上の種(通常は魚・ミジンコ・藻類)についての長期毒性 10
フィールドデータ又はモデル生態系 ケースバイケース

d) リスクの判定

 最終的なリスクの判定は、環境媒体ごとに算出した様々なPECとPNECとを比較して、

  • 追加情報や試験によりPEC/PNEC比が変わるかを判断し、
  • 適当なら追加情報や試験を求め、
  • PEC/PNEC比を精査して再度判断する。

追加データが得られた場合、これを繰り返して、最終的に

  • 追加試験やリスク低減措置が必要ない
  • リスク低減措置が必要

のいずれかの結論を得ることになる。
 図2に、リスク評価のフローを示す。

 リスク評価の結果については、以下のとおり扱われる。

新規化学物質については、PEC/PNEC比が1以下であれば、

  当該物質は直ちに問題になることはなく、追加情報が提出されるまでは再度検討する必要なし。

という結論になる。もし1を超えれば、当局は以下の3つのどれにするかを決定する。

  当該物質は問題があり、当局は評価の改善のためにどんな情報が必要かを決定するが、次の量的裾切りレベルに達するまでその要求を延期する。
当該物質は問題があり、追加情報を直ちに要求すべきである。
当該物質は問題があり、当局は直ちにリスク低減の勧告をすべきである。

既存化学物質については、PEC/PNEC比が1以下であれば、

  現在のところ追加情報や追加試験の必要はなく、既に適用されているリスク低減措置を超える措置の必要はない。

という結論になる。もし1を超えれば、

  追加情報や追加試験が必要である。
リスクを低減する必要がある。ただし既に適用されているリスク低減措置を考慮に入れなければならない。

という結論のいずれかとなる。この場合、PEC/PNECの値の大きさや、濃縮可能性、生態毒性試験における経時変化、その他の毒性、構造類似物のデータを考慮に入れて検討することとされている。

図2 リスク評価のフロー

図2 リスク評価のフロー

(2)評価に基づく規制

 新規化学物質については、生態毒性試験の結果に基づき、必要に応じ危険有害性の分類及び表示(リスク警句及び安全警句)が行われる。また、リスク評価の結果に基づき、必要に応じてリスク低減措置が求められる。
 既存化学物質についても同様に分類及び表示と、リスク評価に基づくリスク低減措置が講じられる。

(3)PBT化学物質への対応

 EUでは、現在、「将来の化学物質政策の戦略」(欧州委員会作成白書)において新たな化学物質対策が提案され、その具体化が検討されているが、その中でPOPsについては認可(やむをえない場合に特定の用途のみ暫定的に認める)の対象とすることとされ、その他のPBT(生態毒性も含む。)化学物質も認可の対象とするかどうか検討されている。



GESAMP

 船舶による有害物質輸送に伴う海洋汚染防止という観点から、国際海事機関(IMO)が中心となり設立した各分野の科学者による助言組織であるGESAMP(海洋汚染について科学的観点から助言する専門家グループ)の作業グループにより、船舶で運搬される種々の化学物質の有害性評価が行われている。

 

(1)生態毒性等の判断方法

 評価は、生物蓄積性、生分解性、水生生物に対する毒性等について行われ、ランク付けがなされる。水生生物に対する毒性のうち、船舶で有害化学物質を運搬する場合に必ず要求される急性毒性試験の評価については、OECDテストガイドライン等に準拠した信頼性の高い試験データを用いて、最も感受性の高い生物種に対する最も強い毒性値に基づき毒性の程度に応じて7段階に分類される。また、必要に応じて要求される(亜)慢性毒性試験のデータについては、毒性の程度に応じて5段階に分類され評価される。
 これらのうち、生物蓄積性と生分解性(サブカラムA1、A2)及び水生生物への毒性(サブカラムB1、B2)については、表3.1〜表3.4にしたがってランク付けがなされている。

表3.1 生物蓄積性(サブカラムA1)の評価※

記号 蓄積性の程度 Log Pow BCF
0 蓄積性がない <1または
>約7
(分子量700以上)
-
1 蓄積性が非常に低い 1〜<2 1〜<10
2 蓄積性が低い 2〜<3 10〜<100
3 中程度の蓄積性 3〜<4 100〜<500
4 蓄積性が高い 4〜<5 500〜<4000
5 蓄積性が非常に高い >5 >4000

log PowとBCFの両方のデータが入手できるときは、後者の実測値を優先させる。(log Pow:化学物質の1-オクタノールと水との間の分配係数。被験物質を1-オクタノールと水の2つの溶媒層中に加えて十分に混和した後、2層に分離し、各層中の濃度を測定することにより求める。BCF:生物濃縮係数ともいう。被験物質を溶解した水中で魚を飼育し、被験物質の魚体中の濃度と試験水中の濃度より濃縮倍率を求める。)


表3.2 生分解性(サブカラムA2)の評価

記号 生分解性の程度
R 易分解性
NR 易分解性ではない
NI データがない


表3.3 水生生物に対する急性毒性(サブカラムB1)の評価※

記号 急性毒性の程度 96時間LC50(mg/L)
0 毒性がない >1000
1 事実上毒性がない 100〜1000
2 わずかに毒性がある 10〜100
3 中程度の毒性がある 1〜10
4 毒性が高い 0.1〜1
5 毒性が非常に高い 0.01〜0.1
6 とくに毒性が高い <0.01

96時間魚類毒性試験でのLC50、48〜96時間甲殻類毒性試験でのLC50又はEC50及び72〜96時間藻類生長阻害試験でのEC50を用い、信頼できるデータの中で最も強い毒性のものを用いて評価される。


表3.4 水生生物に対する慢性毒性(サブカラムB2)の評価※

記号 慢性毒性の程度 NOEC(mg/L)
0 毒性が低い >1
1 中程度の毒性がある 0.1〜1
2 毒性が高い 0.01〜0.1
3 毒性が非常に高い 0.001〜0.01
4 とくに毒性が高い <0.001

OECD TG215(28日間の幼魚生長試験)、OECD TG210(魚類初期生活段階毒性試験)、OECD TG202(21日間ミジンコ類繁殖試験)や、この他海産あるいは淡水生物について国際的に認知されている標準的な毒性試験の結果に基づき、信頼できるデータの中で最も強い毒性のものを用いて評価される。

(2)評価に基づく規制

 この評価結果は、海洋汚染防止のための国際条約であるマルポール条約に基づく規制(我が国の海洋汚染防止法を含む)に反映されている。



GHS

 

(1)検討の経緯

 化学物質の有害性による分類や表示方法は、国や地域、化学物質のタイプ等により各国ごとに異なっており、人の健康保護や環境保全の観点から不適当なことから、GHS (Globally Harmonized System)、すなわち地球的規模で調和のとれた有害性の分類と互換性のあるラベリングシステムの確立が、1992年の地球サミットにおいて採択されたアジェンダ21において国際的な目標として決定された。これを受け、現在、有害性項目ごとにOECD等において分類・表示システムの検討が行われ、2002年12月に当面のシステムについて合意し、2003年7月に国連勧告が行われる見込みとなっている。

(2)水生環境における有害性分類

 水生環境における有害性分類についてはOECDにおいて検討され、最終的に図4.1〜図4.2に示すように、急性毒性について3区分に、慢性毒性について4区分に分類する方法が提案されている。

(3)評価に基づく対応

 GHSは自主的な仕組みではあるが、化学物質の安全性に関する政府間フォーラム(IFCS)では2008年までの完全実施を目標として各国が早期に取り組むよう奨励されている。また、APEC諸国においても2006年までの実施を目標としている。

図4.1 水生環境 急性毒性

有害性
カテゴリー
クライテリア 表示項目
1
96hr LC50 (魚) < 1 mg/l 及び/又は
48hr EC50 (甲殻類) < 1 mg/l 及び/又は
72又は96hr ErC50 (藻類又は他の水生植物)
   < 1 mg/l
規制システムによってはLC50< 0.1 mg/lというレベルでカテゴリー内に区分を設ける場合もある
シンボル シンボルの図
注意喚起語 警告
有害性の説明 水生生物への強い毒性を有する
2
96hr LC50 (魚) >1-< 10 mg/l 及び/又は
48hr EC50 (甲殻類) >1-< 10 mg/l 及び/又は
72又は96hr ErC50 (藻類又は他の水生植物)
   >1-< 10mg/l
シンボル 無し
注意喚起語 無し
有害性の説明 水生生物への毒性を有する
3
96hr LC50 (魚) >10-< 100 mg/l 及び/又は
48hr EC50 (甲殻類) >10-< 100mg/l 及び/又は
72又は96hr ErC50 (藻類又は他の水生植物)
   >10-< 100 mg/l
規制システムによってはさらにL(E)C50>100mg/lというカテゴリーを設ける場合もある
シンボル 無し
注意喚起語 無し
有害性の説明 水生生物に有害

図4.2 水生環境 慢性毒性

有害性
カテゴリー
クライテリア 表示項目
1
96hr LC50 (魚) < 1 mg/l 及び/又は
48hr EC50 (甲殻類) < 1 mg/l 及び/又は
72又は96hr ErC50 (藻類又は他の水生植物)
   < 1 mg/l
上記に加え、
 低分解性 及び/又は
 log Kow >4
(実験的に求められたBCFが500未満でない場合に限る)
シンボル シンボルの図
注意喚起語 警告
有害性の説明 長期にわたり影響し、水生生物への強い毒性を有する
2
96hr LC50 (魚) >1-< 10 mg/l 及び/又は
48hr EC50 (甲殻類) >1-< 10 mg/l 及び/又は
72又は96hr ErC50 (藻類又は他の水生植物)
    >1-< 10mg/l
上記に加え、
 低分解性 及び/又は
 log Kow >4
(実験的に求められたBCFが500未満でない場合に限る)
ただし慢性NOEC>1mg/Lである場合はこの限りではない
シンボル シンボルの図
注意喚起語 無し
有害性の説明 長期にわたり影響し、水生生物への毒性を有する
3
96hr LC50 (魚) >10-< 100 mg/l 及び/又は
48hr EC50(甲殻類) >10-< 100mg/l 及び/又は
72又は96hr ErC50 (藻類又は他の水生植物)
   >10-< 100 mg/l
上記に加え、
 低分解性 及び/又は
 log Kow >4
(実験的に求められたBCFが500未満でない場合に限る)
ただし慢性NOEC>1mg/Lである場合はこの限りではない
シンボル 無し
注意喚起語 無し
有害性の説明 長期にわたり影響し、水生生物に有害
4
低溶存性であって水への溶解するレベルでは急性毒性が報告されていないこと

低分解性であって、log Kow >4、潜在的に生物蓄積性があることを示すこと

ただし分類が不要であることを示す他の科学的証拠がある場合はこの限りでない。そのような科学的な証拠は実験的に求められたBCFが500未満であること、又は慢性NOEC>1mg/Lであること、又は環境中での易分解性を示す証拠を含む。
シンボル 無し
注意喚起語 無し
有害性の説明 水生生物に長期の有害影響を有する可能性がある


(4)化学物質の生態毒性試験方法

OECDテストガイドライン

 OECDテストガイドラインは、当初、各国が独自に開発していた化学物質の安全性等に関する試験法について、試験結果を各国が共通に使用できるようにすることを目的に、OECDにおいて統一的な試験方法として定められたものである。
 OECDテストガイドラインにおいては、生態系の機能に着目して生物群を選定し、その中で取扱が容易でかつ感受性が比較的高いものを供試生物種として示しており、その生物種を用いて試験を行うことが推奨されている。
 生態毒性に関するテストガイドラインとしては、現在、以下に示す17種類が承認されており、さらに8種のドラフト(TG 202及び208の改訂版を含む)が提案されている。

主な生態毒性試験方法の概要

 

(1)藻類生長阻害試験(TG201)

 水系食物連鎖における生産者である藻類(単細胞緑藻類)を対象とし、化学物質に72時間暴露した際の藻類の生長、増殖に及ぼす影響を把握する。試験にはSelenastrum capricornutum, Scenedesmus subspicatus, Chlorella vulgarisを用いることとされている。
 一定時間後の生物量又は細胞数を測定し、成長阻害半数影響濃度EC50、無影響濃度NOECを求める。

(2)ミジンコ急性遊泳阻害試験(TG202)

 水系食物連鎖における一次消費者であるミジンコ(推奨種:Daphnia magna)を対象とし、化学物質に48時間暴露した際のミジンコの遊泳に及ぼす影響を把握する。ミジンコ繁殖阻害試験の予備試験の役割も有する。
 24時間、48時間後の行動、生死、異常行動及び外見の変化を観察し、遊泳阻害半数影響濃度EC50を求める。

(3)ミジンコ繁殖試験(TG211)

 水系食物連鎖における一次消費者であるミジンコ(推奨種:Daphnia magna)を対象とし、化学物質に21日間暴露した際のミジンコの繁殖に及ぼす影響を把握する。
 親ミジンコの生死と状態、産仔数とその状態、放出卵の有無を観察し、繁殖阻害半数影響濃度EC50、無影響濃度NOECを求める。

(4)魚類急性毒性試験(TG203)

 水系食物連鎖における高次消費者である魚類を対象とし、化学物質に96時間暴露した際の魚類に及ぼす影響を把握する。試験には、ヒメダカ、ゼブラフィッシュ、ファットヘッドミノー、コイ、グッピー、ブルーギル、ニジマスを用いることが推奨されている。
 死亡数を測定し、半数致死濃度LC50を求める。

(5)魚類の初期生活段階毒性試験(TG210)

 魚類を対象とし、受精卵から稚魚へ成長するまで試験物質を連続的に暴露した際の慢性的な影響を把握する。試験にはヒメダカ、ニジマス、ファットヘッドミノー、ゼブラフィッシュ、シープスヘッドミノーを用いることが推奨されている。
 孵化数と生存数、体形異常、行動阻害、体長、体重を測定又は観察し、最小影響濃度LOEC、無影響濃度NOECを求める。

(6)ユスリカ毒性試験(TG218, TG219(ドラフト))

 底生生物であるユスリカ(Chironomus属)の1齢幼虫を対象とし、試験に用いるユスリカの種に応じて、化学物質に20〜28日間又は28〜65日間暴露した際のユスリカへの影響を把握する。TG218では化学物質を底質に、TG219では水中に添加して試験が行われる。
 羽化にかかった日数及び羽化総数、行動障害、成長と死亡について測定又は観察を行い、羽化率、半数影響濃度EC50、最小影響濃度LOEC、無影響濃度NOECを求める。

(7)鳥類繁殖試験(TG206)

 陸棲の高次消費者である鳥類を対象とし、化学物質を20週間以上投与した際の親鳥及び雛鳥への影響を把握する。試験には1種又はそれ以上の種を用いるとされ、マガモ、コリンウズラ、ウズラが推奨されている。
 死亡及び中毒症状、親鳥の体重、雛鳥の体重、親鳥の摂餌量、雛鳥の摂餌量について測定又は観察を行うとともに肉眼的病理検査を行い、統計的に有意な影響濃度、無影響濃度NOECを求める。
 なお、現在、本テストガイドラインとは別に、「ウズラに対する鳥類繁殖毒性試験」のテストガイドラインが検討されているところである。



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