別紙2 |
品種: | とうもろこし (商品名:B.t.Cry1F害虫抵抗性、グルホシネート耐性トウモロコシ1507系統) |
性質: | 除草剤(グルホシネート)耐性、 鱗翅目害虫(タマナガヤ及びヨトウ類等)抵抗性 |
申請者: | ダウ・ケミカル日本株式会社 |
開発者: | パイオニア・ハイブリッド・インターナショナル社(米国) マイコジェン・シード/ダウ・アグロサイエンス社(米国) |
ダウ・ケミカル日本株式会社から申請されたとうもろこし「B.t.Cry1F害虫抵抗性、グルホシネート耐性トウモロコシ1507系統」、(以下「1507系統」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下「審査基準」という。)に適合しているか否かについて審査した。その結果は次のとおりである。
I 申請された食品の概要
1507系統は、タマナガヤ及びヨトウ類等の特定の鱗翅目害虫の防除に効果を発揮するBacillus thuringiensis var. aizawai (B.t.a.)が産生する蛋白質(以下「Cry1F蛋白質」という。)を産生させる遺伝子(以下「cry1F遺伝子」という。)が導入されている。Cry1F蛋白質は、タマナガヤ及びヨトウ類等の特定の鱗翅目の昆虫の消化管のみに存在する中腸上皮細胞の特異的受容体と結合して、陽イオン選択的小孔を形成する。その結果、消化プロセスが阻害され、昆虫は死に至る。1507系統は、組織中に発現するCry1F蛋白質によりタマナガヤ及びヨトウ類に侵食されることなく生育できる。
また、除草剤として利用されるグルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769号、昭和59年6月14日)の有効成分は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化するグルタミン合成酵素の活性を特異的に阻害するホスフィノトリシンである。1507系統には、選択マーカー遺伝子として非病原性の一般土壌微生物であるStreptomyces viridochromogenesに由来するホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ蛋白質(以下「PAT蛋白質」という。)を発現させるpat遺伝子が挿入されている。PAT蛋白質が発現することによって、ホスフィノトリシンはアセチル化され不活化されるので、グルホシネートを散布してもグルタミン合成酵素は阻害されず、一般の植物は組織中にアンモニアが蓄積し枯死するのに対し、1507系統は枯死せずに生育することができる。なお、PAT蛋白質は、植物、微生物及び動物細胞に一般的に存在するアセチルトランスフェラーゼ酵素群の一つである。
II 審査結果
1 生産物の既存のものとの同等性に関する事項
審査基準の第2章第1の各項に規定される資料(1.遺伝的素材に関する資料 2.広範囲な人の安全な食経験に関する資料 3.食品の構成成分等に関する資料及び4.既存種と新品種との使用方法の相違に関する資料)について検討した結果、当該食品と既存のものが全体として食品としての同等性を失っていないと客観的に判断し、当該1507系統の食品としての安全性を評価するために、既存の食品を比較対象として用いる方法が適用できると判断した。そこで、既存の食品との比較において、審査基準の第2章第2以下の各事項に掲げられた審査基準に沿って審査を行った。
宿主は、Zea mays L.種に属するデントコーンの商業栽培品種である。遺伝子供与体としては、cry1F遺伝子はBacillus thuringiensisに、また、pat遺伝子はStreptomyces viridochromogenes に由来する。
2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
とうもろこし(Zea mays L.)は、世界各国で食品として利用され、広範囲なヒトの安全な食経験がある。
cry1F遺伝子の供与体であるBacillus thuringiensis については、ヒトの直接の食経験はないが、これを基材とする生物農薬等としてこれまで世界各国で安全に使用されてきた。pat遺伝子の供与体であるStreptomyces viridochromogenesは非病原性微生物である。
3)食品の構成成分等に関する資料
1507系統は、主要構成成分、アミノ酸組成、脂肪酸組成、無機物、栄養素、抗栄養素等に関し、既存のとうもろこしと同等であった。
4)既存種と新品種との使用方法の相違に関する資料
1507系統は、食品としての利用方法は既存のとうもろこしと同等である。なお、既存のとうもろこしとの栽培上の相違は、特定の鱗翅目害虫に対する殺虫剤の使用量を削減できる点と除草剤(グルホシネート)に耐性である点のみである。
2 組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項
1507系統はタマナガヤ及びヨトウ類を含む特定の鱗翅目害虫の食害を受けずに生育することができる点以外、その栽培方法、利用目的、利用方法は従来のとうもろこしと変わらない。
3 宿主に関する事項
とうもろこし(Zea mays L.)は、世界各国で食品及び飼料として利用され、広範囲にわたり安全な食経験がある。とうもろこしのアレルギーは比較的希であり、有害生理活性物質等の産生は知られていない。
4 ベクターに関する事項
1507系統の作出に用いた発現ベクターPHP8999は、プラスミドpUC19を基に構築されており、そのサイズは9,504bpである。
PHP8999には、それぞれ1コピーのcry1F遺伝子、pat遺伝子、抗生物質カナマイシン耐性のnptII遺伝子及びこれらの発現を調整する遺伝子領域が含まれており、これらが予想された順序で正しく配列されていることが確認されている。
この発現ベクターに由来する全ての遺伝子は、その機能が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。また、接合性がなく、伝達性がないこと、自律増殖可能な宿主域がE.coliのみに限られていることが知られている。
5 挿入遺伝子及びその遺伝子産物に関する事項
1507系統に導入されたcry1F遺伝子は、Bacillus thuringiensis var. aizawai (B.t.a.)PS811系統に、またpat遺伝子はStreptomyces viridochromogenes に由来する。いずれも植物体内での発現を最適化するよう人工合成された遺伝子である。
2)遺伝子の挿入方法に関する事項
発現ベクターPHP8999を制限酵素PmeIで切断後、パーティクルガン法により、とうもろこし組織へ挿入している。nptII遺伝子はPmeIで切断する際に除去されている。
3)構造に関する事項
発現ベクターとして用いたPHP8999は、Cry1F蛋白質産生に関与する遺伝子カセット(UBIZM1ユビキチンプロモーター/cry1F/ORF25polyA転写ターミネーター)及びPAT蛋白質産生に関与する遺伝子カセット(カリフラワーモザイクウイルスCaMV35Sプロモーター/pat/CaMV35Sターミネーター)を有する。なお、既知の有害塩基配列は含まれていない。
4)性質に関する事項
cry1F遺伝子により発現するCry1F蛋白質は、特定の鱗翅目昆虫の消化管のみに存在する中腸上皮細胞の特異的受容体と結合して、細胞膜に陽イオン選択的小孔を形成する。その結果、消化プロセスが阻害され、昆虫は死に至る。
pat遺伝子により発現するPAT蛋白質が、グルホシネートをアセチル化し、グルタミン酸合成酵素の阻害作用を不活化するため、グルホシネートの影響を受けずに生育できる。
5)純度に関する事項
遺伝子導入に用いたPHP8999発現ベクター及び宿主に導入されたDNA断片は塩基配列が全て決定されており、その特性は明らかになっている。
6)安定性に関する事項
1507系統を4世代について戻し交配し、サザンブロット分析を行った結果、cry1F遺伝子及びpat遺伝子が安定的に遺伝していることが確認された。
7)コピー数に関する事項
サザンブロット分析の結果より、cry1F遺伝子については完全な1コピーと1コピーの断片が導入されている。
また、pat遺伝子については完全な1コピーと2コピーの断片が導入されている。
8)発現部位、発現時期、発現量に関する事項
1998年から99年にかけてチリの圃場4カ所から採取した1507系統の各種組織を試料として、ELISA分析を行ったところ、Cry1F蛋白質の発現量は穀粒1g当たり8.4μgであった。また、PAT蛋白質は、いずれの組織においても検出限界(総蛋白として20pg/μg)以下であった。
9)抗生物質耐性マーカー遺伝子の安全性に関する事項
1507系統には、抗生物質耐性マーカー遺伝子は挿入されていない。この系統がnptII遺伝子を有さないことはサザンブロット分析により確認されている。
10)オープンリーディングフレームの有無並びにその転写及び発現の可能性に関する事項
外来の機能しているオープンリーディングフレームは、Cry1F蛋白質及びPAT蛋白質の発現に係るもののみである。
6 組換え体に関する事項
1507系統に導入された性質は、特定の鱗翅目害虫に対する防除効果を有する点及び除草剤グルホシネートに対し耐性を持つ点のみである。
2)遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する事項
cry1F遺伝子は、Bacillus thuringiensis var. aizawaiから同定、単離されたものであり、Cry1F蛋白質を基剤とする生物農薬は古くから世界各国で安全に使用されてきた。
pat遺伝子の供与体であるStreptomyces viridochromogenesは、ヒトの直接の食経験はないが、Streptomyces属は土壌細菌であり、ヒトとの長い接触の歴史があるが、ヒトに対する病原性及び毒素産生性は知られていない。
b 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているか否かに関する事項
Cry1F蛋白質及びPAT蛋白質が、アレルギー誘発性を有するということは報告されていない。
c 遺伝子産物の物理化学的処理に対する感受性に関する事項
イ 加熱処理に対する感受性
75℃、30分の加熱により、Cry1F蛋白質の免疫反応性がほぼ完全に失われることが、ELISA法により確認されている。
また、50℃、10分の加温により、PAT蛋白質の免疫反応性は完全に失われる。
d 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるか否かに関する事項
穀粒中での発現蛋白質量の平均は、1g当たり、Cry1F蛋白質で8.4μg、PAT蛋白質で検出限界(総蛋白として20μg/g)以下であった。
日本人の一日一人あたりの「その他の穀類」の平均摂取量2.0g(国民栄養の現状、1999)を全て1507系統に置き換えて計算すると、加工損失等がないとして、Cry1F蛋白質の一日一人あたりの最大予想摂取量は、16.8μgとなる。
e 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する事項
Cry1F蛋白質及びPAT蛋白質と既知のアレルゲンとの構造相同性を検索するため、アミノ酸配列の比較をデータベースより抽出して解析した結果、既知アレルゲンとの間に相同性は認められなかった。
f 遺伝子産物が一日蛋白摂取量の有意な量を占めるか否かに関する事項
Cry1F蛋白質の一日予想最大摂取量は16.8μgであり、これは、日本人の一日一人当たりの平均蛋白質摂取量80.5g(国民栄養の現状、1999)に対する割合は0.00002%と極めて少なく、当該摂取量の有意な量を占めていない。
また、穀粒試料からのPAT蛋白質の量は検出限界値以下なので、人が摂取する総蛋白に占める割合は、ごく僅かである。
3) 遺伝子産物の毒性に関する事項
4)遺伝子産物の代謝経路への影響に関する事項
Cry1F蛋白質は酵素活性を持たないため、植物中の代謝経路に影響を与えるとは考えられない。また、PAT蛋白質はその基質であるホスフィノトリシンにのみ特異的に作用することが報告されており、植物中の代謝経路に影響を与えるとは考えられない。
5)宿主との差異に関する事項
1507系統を灰分、蛋白質、アミノ酸、脂肪酸、糖類、総炭水化物、繊維、ビタミン及びミネラルについて、既存のとうもろこしの間で比較したところ、意味のある差異は認められなかった。
6)外界における生存及び増殖能力に関する事項
1507系統の圃場試験は米国及びにプエルトリコ等を中心として行われているが、鱗翅目害虫抵抗性及びグルホシネート耐性形質以外の生存・増殖能力は非組換え品種と同等であった。
7)組換え体の生存・増殖能力の制限に関する事項
1507系統の生存・増殖能力は非組換え品種と同等であることから、制限要因についても同等であると考えられた。
8)組換え体の不活化法に関する事項
1507系統は、物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、とうもろこしを枯死させる従来の方法によって不活化される。
9)諸外国における認可、食用等に関する事項
1507系統は、2001年5月に米国(FDA)で食用及び飼料としての販売認可が得られている。
10)作出、育種及び栽培方法に関する事項
1507系統と既存のとうもろこしとの栽培方法の相違は、グルホシネート除草剤を使用できる点及び、特定の鱗翅目害虫の防除に薬剤散布を必要としない点のみであり、他の点では同等である。
11)種子の製法及び管理方法に関する事項
1507系統の製法及び管理方法については、既存のとうもろこしと同様である。また、各種試験に用いた世代の種子は、4℃、50%湿度の条件下で、発芽能力を失わせずに保存されている。
III 基準適合性に関する結論
以上のことから、ダウ・ケミカル日本株式会社から申請された1507系統については、申請に際して提出された資料を審査基準に基づき審査した結果、人の健康を損なうおそれがあると認められないと判断される。