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別紙1
分科会報告書

品種:大豆(商品名:「A2704-12及びA5547-127」)
性質:グルホシネート耐性
申請者:アベンティス クロップサイエンス シオノギ株式会社
開発者:Bayer CropScience社

 アベンティスクロップサイエンスシオノギ株式会社から申請されたグルホシネート耐性大豆(商品名:「A2704-12及びA5547-127」)について、開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査基準」(以下「審査基準」という。)に適合しているか否かについて審査した。その結果は次のとおりである。

I 申請された食品の概要

 A2704-12及びA5547-127には、除草剤グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769号、昭和59年6月14日)の影響を受けずに生育できる性質が付与されている。
 グルホシネートの有効成分であるホスフィノトリシンは、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっているグルタミン合成酵素の活性を特異的に阻害するため、その散布により植物は組織中にアンモニアが蓄積し枯死する。
 A2704-12及びA5547-127には、ホスフィノトリシンをアセチル化して不活化させるホスフィノトリシンアセチル基転移酵素(以下「PAT」という。)を発現させる pat遺伝子が導入されているので、グルホシネートを散布してもグルタミン合成酵素は阻害されず、植物は枯死せずに生育することができる。

II 審査結果

1 生産物の既存のものとの同等性に関する事項

 審査基準の第2章第1の各項に規定される資料(1.遺伝的素材に関する資料、2.広範囲な人の安全な食経験に関する資料、3.食品の構成成分等に関する資料、4.既存種と新品種との使用方法の相違に関する資料)について検討した結果、当該食品と既存のものが全体として食品としての同等性を失っていないと客観的に判断し、当該A2704-12及びA5547-127の食品としての安全性を評価するために、既存の食品を比較対象として用いる方法が適用できると判断した。そこで、既存の大豆との比較において、審査基準の第2章第2以下の各事項に掲げられた審査基準に沿って審査を行った。

1)遺伝的素材に関する資料

 宿主は大豆である。挿入されるpat遺伝子は、土壌中のグラム陽性放線菌Streptomyces viridochromogenes Tu494株由来の遺伝子を人工合成したものである。

2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

 宿主である大豆は、食品として古くから利用されている作物であり、食用油や豆腐、醤油、味噌等様々な製品に加工されている。pat遺伝子の供与体であるStreptomyces viridochromogenesは、ヒトの直接の食経験はないが、Streptomyces属は土壌細菌であり、ヒトとの長い接触の歴史がある。

3)食品の構成成分等に関する資料

 A2704-12及びA5547-127は、構成成分(蛋白質、灰分、脂質、炭水化物等)に関し、少数の例外を除き、既存の大豆との間に統計学的有意差は認められず、有意差が認められたものについても文献値の変動の範囲内であった。

4)既存種と新品種との使用方法の相違に関する資料

 A2704-12及びA5547-127は、食品としての利用方法は既存の大豆と同等である。なお、既存の大豆との栽培上の相違は、除草剤グルホシネートにより枯死することなく生育できる点のみである。

2 組換え体の利用目的及び利用方法に関する事項

 A2704-12及びA5547-127には、グルホシネートを不活化するPAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、栽培期間中にグルホシネートを使用できる。この点以外、その栽培方法、利用目的及び利用方法は従来の大豆と変わらない。

3 宿主に関する事項

 宿主である大豆Glycine max (L.) Merrill は、バラ目マメ科Glycine属のSoja亜属に属する一年生の植物である。食品としては、大豆油や豆腐、醤油、味噌などに幅広く利用されており、広範なヒトの安全な食経験がある。有害生理活性物質の生産やアレルギー誘発性等が知られているが、それらに関する情報については十分に得られている。

4 ベクターに関する事項

 A2704-12及びA5547-127の作出には、Escherichia coli K12株の配列を基に作成されたプラスミドpUC19から作成された発現ベクターpB2/35SAcKが用いられた。
 pB2/35SAcKは、それぞれ1コピーのPAT蛋白質産生に関与する遺伝子(P-35S /pat/T-35S)及びアンピシリン耐性を付与するbla遺伝子を含み、そのサイズは4,076bpである。
 pB2/35SAcKに存在する全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。pB2/35SAcKは大豆のような植物体においては伝達性を持たず、植物細胞中では自立増殖をしない。
 bla遺伝子は植物で機能するプロモーターを持たないため植物では発現しない。また、形質転換前にpB2/35SAcKを制限酵素PvuIで切断する際、bla遺伝子は機能しない形に分割されている。

5 挿入遺伝子及びその遺伝子産物に関する事項

1)供与体に関する事項

 A2704-12及びA5547-127に導入されているpat遺伝子は土壌中のグラム陽性放線菌Streptomyces viridochromogenes Tu494より分離され、人工合成された遺伝子である。

2)遺伝子の挿入方法に関する事項

 発現ベクターpB2/35SAcKを制限酵素PvuIで切断後、パーティクルガン法を用いて宿主への導入を行った。

3)構造に関する事項

 A2704-12及びA5547-127にはpat遺伝子が存在しており、プロモーター及びターミネーターとして、カリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーター及び35Sターミネーターを用いている。既知の有害塩基配列は含まれていない。

4)性質に関する事項

 pat遺伝子により発現するPAT蛋白質は、アセチル基転移酵素を生成させる。この酵素は除草剤グルホシネートをアセチル化してN-アセチルグルホシネートとし、グルホシネートのグルタミン合成酵素の阻害作用を不活性化する。これにより、グルホシネートの除草効果を妨げる。

5)純度に関する事項

 挿入した全てのDNA断片はクローン化され、その塩基配列が解明されている。

6)安定性に関する事項

 A2704-12及びA5547-127の3〜5世代からの試料について、pat遺伝子を含む1,329bpの断片をプローブとしてサザンブロット分析を行った結果、pat遺伝子が後代に安定的に遺伝していることが示された。

7)コピー数に関する事項

 サザンブロット分析の結果より、A2704-12には、2コピーの完全なpat遺伝子カセット及びbla遺伝子断片が、A5547-127には1コピーの完全なpat遺伝子カセット及びbla遺伝子断片が導入されている。

8)発現部位、発現時期及び発現量に関する事項

 米国、カナダにおいて栽培されたA2704-12及びA5547-127についてELISA法を用いて分析を行った結果、PAT蛋白質の発現量は、生組織重1g 当たり種子でそれぞれ平均1.24μg 、12.5μgであった。また、発芽10日後のA2704-12及びA5547-127の幼植物葉中のPAT蛋白質発現量は、生組織重1g 当たりそれぞれ平均1.89μg 、1.72μgであった。

9)抗生物質耐性マーカー遺伝子の安全性に関する事項

 A2704-12及びA5547-127には、抗生物質耐性マーカー遺伝子としてbla遺伝子が導入されているが、bla遺伝子断片は植物で機能するプロモーターを持たないため植物では発現しない。また、形質転換前にプラスミドpB2/35SAcKを制限酵素PvuIで切断する際、bla遺伝子は機能しない形に分割されており、組換え体中で発現していないことがサザンブロット分析及びノーザンブロット分析により確認されている。

10)オープンリーディングフレームの有無並びにその転写及び発現の可能性に関する事項

 外来の機能しているオープンリーディングフレームは、PAT蛋白質の発現に係るもののみである。

6 組換え体に関する事項

1)組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する事項

 A2704-12及びA5547-127に新たに導入された性質は、PAT蛋白質の発現により除草剤グルホシネートに対し耐性を持つ点のみである。

2)遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する事項

a 供与体の生物の食経験に関する事項

 pat遺伝子の供与体であるStreptomyces viridochromogenesは、ヒトの直接の食経験はないが、Streptomyces属は土壌細菌であり、ヒトとの長い接触の歴史があるが、ヒトに対する病原性及び毒素産生性は知られていない。

b 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているか否かに関する事項

 挿入遺伝子の遺伝子産物であるPAT蛋白質が、アレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

c 遺伝子産物の物理化学的処理に対する感受性に関する事項

ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
 多くの既知アレルゲンは、ペプシン及びトリプシン消化に対して安定であることを踏まえ、PAT蛋白質を人工胃腸液に反応させ、ウェスタンブロット分析した結果、人工胃液中でPAT蛋白質の免疫反応性は、5秒後に完全に消失することが確認された。人工腸液中では、PAT蛋白質の免疫反応性は15分後に完全に消失することが確認された。

イ 加熱処理に対する感受性
 熱処理によるPAT蛋白質の免疫反応性の不活化がウェスタンブロット分析により確認されている。

d 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるか否かに関する事項

 PAT蛋白質は、大豆種子の生組織重量1gあたり、A2704-12において1.24μg、A5547-127において12.5μg発現しており、日本人の一日一人あたりの大豆の平均摂取量68.4g(平成11年国民栄養調査結果、国民栄養の現状、2001)を全てA2704-12またはA5547-127に置き換えて計算すると、加工損失等がないとして、PAT蛋白質の一日一人あたりの予想摂取量は、A2704-12において85μg、A5547-127において854μgである。

e 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する事項

 蛋白配列データバンク(Swiss Prot , PIR及びHIV)を用いた構造相同性検索と、アレルゲンエピトープ相同性検索を行った結果、挿入遺伝子産物であるPAT蛋白質と既知のアレルゲンとの間に相同性は認められなかった。

f 遺伝子産物が一日蛋白摂取量の有意な量を占めるか否かに関する事項

 日本人の一日一人あたりの蛋白質の平均摂取量78.9g(平成11年国民栄養調査結果、国民栄養の現状、2001)に基づいて計算すると、PAT蛋白質の一日平均予想摂取量は、A2704-12において85?、A5547-127において854?となり、一日蛋白摂取量に対する割合は、それぞれ0.0001%、0.001%である。

3) 遺伝子産物の毒性に関する事項

 PAT蛋白質について、ラットを用いた14日間反復経口投与試験を行った結果、何ら影響は認められなかった。
 また、毒素配列データベースを用いて検索を行った結果、PAT蛋白質と既知の毒性蛋白質との間に相同性は認められなかった。

4)遺伝子産物の代謝経路への影響に関する事項

 PAT蛋白質は厳密な基質特異性を持ち、その基質となり得る化合物は大豆中には存在しない。

5)宿主との差異に関する事項

 A2704-12及びA5547-127は、主成分(脂質、蛋白質、灰分、炭水化物、ミネラル)、脂肪酸組成、アミノ酸組成、トリプシンインヒビター、レクチン及びイソフラボンに関し、既存の大豆との間で意味のある差異は認められなかった。

6)外界における生存及び増殖能力に関する事項

 1995年から1997年にかけて米国で野外試験が行われているが、A2704-12及びA5547-127のグルホシネート耐性形質以外の生存・増殖能力は、非組換え大豆と同等であった。

7)組換え体の生存及び増殖能力の制限に関する事項

 A2704-12及びA5547-127の生存・増殖能力は非組換え品種と同等であることから、生存・増殖能力の制限要因についても両者の間に変化はないと考えられた。

8)組換え体の不活化法に関する事項

 A2704-12及びA5547-127は、物理的防除(耕耘)や化学的防除(グルホシネート以外の非選択性除草剤の散布)など、大豆を枯死させる従来の方法によって不活化される。

9)諸外国における認可、食用等に関する事項

 A2704-12及びA5547-127については、 米国食品医薬品局(FDA)にて食品及び飼料としての安全性に関する協議を1998年5月に終了しており、その他、無規制栽培の認可など、米国においての商品化に必要な全ての認可が得られている。また、カナダにおいても食品及び飼料としての認可が2000年11月に得られている。

10)作出、育種及び栽培方法に関する事項

 A2704-12及びA5547-127と既存の大豆との栽培方法の相違は、生育期の雑草防除に除草剤クルホシネートを使用できる点のみであり、他の点では同等である。

11)種子の製法及び管理方法に関する事項

 A2704-12及びA5547-127の種子の製法及び管理方法については、既存の大豆と同様であり、各種分析に用いた世代の種子は、18-20℃、30-60%湿度の条件下で管理されている。

III 基準適合性に関する結論

 以上のことから、アベンティスクロップサイエンス シオノギ株式会社から申請されたグルホシネート耐性大豆(商品名:「A2704-12及びA5547-127」)については、申請に際して提出された資料を審査基準に基づき審査した結果、人の健康をそこなうおそれがあると認められないと判断される。


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