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2 概要

 内分泌かく乱化学物質とは、内分泌系の機能に変化を与える外因性化学物質のうち生体に障害や有害な影響を起こすものを指すが、現時点では、合成ホルモン剤の薬理効果のような例を除けば、ヒトに対して内分泌かく乱作用が確認された事例はない。この点については、平成10年に中間報告をとりまとめた時点と大きく変わっていない。
 重点課題に対する検討結果によって、今後必要な調査研究等の取組が提言された。現時点ではヒトに対する明白な影響は分かっていないとしても、ヒトの健康を確保する観点から、提言された取組を着実に進めていくために行動計画を定め、具体的な達成目標を示した。

(1)試験スキーム

1) 内分泌かく乱作用のスクリーニング試験系は、(1)電算機内予測(SAR)、(2)超高速自動分析装置を使ったヒト細胞のホルモン応答の測定(HTPS)、(3)卵巣摘出動物又は幼若動物、あるいは去勢動物を用いたホルモン様作用の観測から構成される。

2) この試験系によって、ホルモン様作用(低用量域の作用を含む)を有することが生物学的に説明可能な物質を順位付けすることができる。

3) スクリーニングが終了した物質は、順位付けに従って、リスク評価のための詳細試験を行い、ヒトに対して内分泌かく乱作用を有するかどうかを予測する。

4) 詳細試験としては、生体の成長過程(胎児期・新生児期・思春期)や生体反応(神経系、内分泌系、免疫系など)に特異的な実験を実施するなど、現時点の知識に照らして適切な検討を行うことが必要である。

 (今後の取組)

1) 試験系を構成する各試験についてガイドライン及び評価基準を整備する。

2) スクリーニングを行って、ホルモン様作用(低用量域の作用を含む)を有することが生物学的に説明可能な物質を順位付けし、リスト化する。

3) リストされた物質のリスク評価を行い、ヒトに対して内分泌かく乱作用を有するかどうかを予測する。

4) ヒトに対する内分泌かく乱作用の可能性があると判断された物質に関して、暴露の実態も踏まえた上で、用途制限や監視等必要な法的措置又は行政措置を講ずる。

(2)採取・分析法

1) いわゆる内分泌かく乱化学物質の分析結果について、公表されている学術論文を精査した。その結果、  などが分かった。

2) 数少ない信頼性のおける方法を基に、食品についての一般試験法、及び食品中に混入する3物質(ビスフェノールA、フタル酸エステル類、ノニルフェノール)の分析法について暫定ガイドラインをとりまとめた。

 (今後の取組)

1) 生体試料についても、信頼性の高い採取・分析法ガイドラインをとりまとめる。

2) 複数の試験機関で同一試料を分析した結果を評価し、分析法の信頼性を確認する。

3) 各分析法について、精度管理を保証する措置を講ずる。

4) 実験動物について、飼育環境及び実験環境からの暴露調査を実施し、内分泌かく乱作用のスクリーニングや観測を目的とした動物実験の信頼性を検証し、分析法の改善に役立てる。

(3)低用量問題

1) 低用量作用を、「標準的な毒性試験において観察されてきた無作用量や無毒性量よりも低い用量で観察されるホルモン様の影響」と定義し、内分泌かく乱性に関する実験報告について調査を行った。

2) その結果、再現性のある実験結果は得られておらず、現時点では低用量域における内分泌かく乱作用を断定することには疑問がある。

3) 低用量域のホルモン様作用を検出するための試験法を開発するためには、以下の点を克服する必要がある:

 (今後の取組)

1) 実験結果の再現性に関する問題を克服するために、以下の調査研究を進める:

2) 一方、(1)の試験スキームによって、スクリーニングが終了した物質が今後リスト化されてくることから、スクリーニングの結果の補強と内分泌かく乱性の確定試験の開発を目的とした研究を進める。

3) 内分泌かく乱作用に関するの試験の評価に関する包括的なガイドラインを策定する。

(4)暴露疫学等調査

(4−1)生体暴露量等

1) ビスフェノールA、クロロベンゼン類、パラベン類、フタル酸エステル、ベンゾピレン、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、クロルデン、トリブチルスズ化合物等について、採取抽出法・測定法を改良して、同一母体から得られたさい帯血、血液、母乳、尿、毛髪、腹水、臓器等中の濃度を測定した結果、クロルデン及びナフタレンを除く上記物質は、いずれかの生体試料中に含まれており、環境中暴露の点から問題となりうる。

2) いわゆる内分泌かく乱化学物質の一部は、ヒト由来細胞の受容体に結合する。また、乳腺細胞・子宮内膜細胞を増殖させる他、栄養膜幹細胞分化に影響する。代謝過程ではグルクロン酸抱合の役割が示唆される。

 (今後の取組)

1) 内分泌かく乱作用が疑われるその他の環境汚染化学物質についても、同一母体の複数部位から得られる生体試料を採取し、濃度分析データを蓄積する。また当該母体の胎児からも生体試料の採取及び濃度分析データの蓄積を行い、母体からの暴露の実態を解明する。

2) これらの物質が生体内に実際に存在する量(体内負荷量)の範囲で、生体にどのような作用が発現するのか、代謝・解毒の全容も含めて明らかにする。

(4−2)疫学研究

1) 乳がんのリスクはDESにより20〜30%上昇する可能性があるが、その他のいわゆる内分泌かく乱化学物質による明らかな上昇は認められていない。
 その他のがんといわゆる内分泌かく乱化学物質との関係については、信頼できる疫学研究が少なく、関連性について言及できない。

2) PCBの高濃度暴露は、甲状腺異常を来す可能性が示唆される。

3) 尿道下裂、停留精巣など器官形成にかかわる問題については、疫学研究が少なく、化学物質との関連性について言及できない。

4) PCBは日常摂取されるレベルで、小児の神経系の発達に悪影響を与える可能性が示唆される。

5) 精子数低下及び子宮内膜症については、疫学研究が少なく、化学物質との関連性について言及できない。

 (今後の取組)

1) 日本国民の代表となりうる対象者を設定し、いわゆる内分泌かく乱化学物質の暴露と疾病についての現状把握と継続的な監視を行う。

2) 疫学の方法論に基づく、ヒトを対象とした研究を推進する。具体的には、

3) いわゆる内分泌かく乱化学物質のヒト健康影響に関する研究を継続的に総括(刊行論文のレビュー及び更新)し、その成果を継続して広く国民に周知する。

(5)リスクコミュニケーション

1) 本検討会で扱うリスクコミュニケーションは、「調査研究の成果を国民の健康的な生活のために調整・活用する立場にいる者(行政)が、一般消費者に、内分泌かく乱化学物質のリスクについての予測を伝える場合」及び「一般消費者が、行政に、内分泌かく乱化学物質のリスクについて尋ねる場合」を指すものとした。

2) リスクコミュニケーションの視点からみた場合、内分泌かく乱化学物質には、以下のような問題点があることが確認された:

3) 具体的に検討すべき事項を、次のように整理した:

 (今後の取組)

1) 整理した各事項についての調査研究や現場での実践を通して、リスクコミュニケーションガイドラインを策定する。

2) コミュニケーションの効果を継続的に判定し、改善に生かす。

3) 行政科学規準を整備することによって、従来の手法では予測できない内分泌かく乱性のような化学物質の安全性に関する問題に対して、限られた知見を国民の健康的な生活のために最大限に調整・活用できるようにする。



行動計画

行動 目標
 スクリーニング試験系を構成する各試験についてガイドライン及び評価基準を整備する。 〜2002年度
 スクリーニング試験を行い、ホルモン様作用(低用量域の作用を含む)を有することが生物学的に説明可能な物質を順位付けし、リスト化する。 2002〜2005年度
 リストされた物質の詳細試験を行い、ヒトに対して内分泌かく乱作用を有するかどうかを予測する。 2002年度〜
 詳細試験の結果及び暴露の実態を踏まえ、必要な化学物質について監視の対象とする等の措置を講じる。 2002年度〜
 生体試料について、信頼性の高い採取・分析法ガイドラインを整備する。 〜2002年度
 複数の試験機関で同一試料を分析した結果を評価し、分析法の信頼性を確認する。さらに精度管理保証のための措置を講じる。 〜2003年度
 実験動物について、飼育環境及び実験環境からの暴露調査を実施し、動物実験の信頼性を検証する。 〜2002年度
 低用量域のホルモン様作用を検出する実験結果の再現性に関する問題を克服するための調査研究を進める。 〜2005年度
 スクリーニングの結果の補強と内分泌かく乱性の確定試験の開発を狙った研究を進める。 〜2005年度
 内分泌かく乱性の試験評価に関する包括的ガイドライン(仮称)を策定する。 〜2005年度
 いわゆる内分泌かく乱化学物質の暴露と疾病についての現状把握と継続的な監視を行う。 2002年度〜
 主として日本人を対象とした、疫学の方法論に基づく相当規模の研究を進め、あわせて生体試料の保存を継続的に行う。 2002年度〜
 疫学研究を継続的に総括し(刊行論文のレビューと更新)、その成果を広く国民に周知する。 2002年度〜
 同一母体の複数部位及び当該母体の胎児からの生体試料について、いわゆる内分泌かく乱化学物質の濃度分析データを蓄積する。 2002年度〜
 いわゆる内分泌かく乱化学物質が生体内に実際に存在する暴露量の範囲で、どのような作用が発現するかを解明するための研究を進める。 〜2005年度
 リスクコミュニケーションガイドラインを策定する。 〜2002年度
 リスクコミュニケーションの効果を継続的に判定し、改善に生かす。 2002年度〜
 行政科学規準を整備する。 〜2005年度


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