V 個別の課題
1 標準的な年金(モデル年金)の考え方 |
1 方向性
多くの女性が厚生年金に加入する被用者として就業する機会を持つようになってきている中、モデルとして共働き世帯を想定し、女性の一定の厚生年金加入期間を前提としたモデル年金を想定していくことが妥当である。この場合、従来からの継続性という観点から、片働き世帯を想定したモデルも従来どおり提示していくことが必要である。また、世帯類型の多様化が進展する中では、単身世帯を想定したモデルについても併せて検討すべきである。
モデルとしての共働き世帯等の年金の給付水準がどうあるべきかは、年金制度全体の給付と負担の関係をどうするかといった観点から、別途議論されるべき問題である。
2 今後検討する論点
(1) 平均標準報酬額、厚生年金平均加入期間に男女差が存在する中で、共働き世帯等において、女性のどのような厚生年金加入期間、賃金を想定してモデルとするか。
(ⅱ) あるいは実態に即した一定の加入期間をもって想定するのかどうか。
(ⅲ) また、将来に向かって加入期間の伸びをどのように考えるか。
(2) モデルにおける女性の賃金の取扱い
(ⅱ) 男女の平均標準報酬の差を考慮するのか。あるいは、男女平均報酬を用いることとするのか。
(ⅲ) 将来に向かっての賃金水準についてどのように考えるか。
(3) 単身世帯のモデルに係る論点
(ⅱ) その場合の賃金水準、就労期間についてどう考えるのか。
(2) 共働き世帯等を想定したモデルによって年金水準をどのように設定するか
(2) 現役世代の共働き世帯等の平均的な賃金等を踏まえ、適切な年金水準をどのように設定するか。
(3) 年金水準の設定に当たって、共働き世帯、片働き世帯、単身世帯のバランスや公平をどのように考えるか。
2 短時間労働者等に対する厚生年金の適用 |
1 方向性
短時間労働者については、以下の観点から、現在の厚生年金の適用基準(「通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上である就労者」であること)及び被扶養者認定基準(「年間収入が130万円未満」であること)の見直しを行い、厚生年金の適用の拡大を図る方向で、様々な論点について検討していくべきである。
(1) 被用者にふさわしい年金保障の確立
就業の形態が変わっても被用者として一貫した保障を受けることができ、働いた分が自らの年金に反映される仕組みとすべきである。
(2) 就業に中立的な制度の構築
個人が意欲と能力に応じて力を発揮できる社会を形成していくため、就労意欲を阻害するような制度は見直していくべきである。
(3) 年金制度の支え手の拡大
労働力人口の減少が見込まれ、また就業形態の多様化が進展する中で、国民の能力の有効な発揮を支え、国民経済の発展と年金制度の支え手の拡大を図ることが重要である。
(4) 保険料負担の公平性の確保
応能負担の考え方に基づいた厚生年金制度において、公平性の観点から、賃金がある人には負担を求めていくという方向で応能負担の考え方を徹底していくことが必要である。
(5) 産業間・企業間の公平な競争の確保
産業や企業の間における公平な競争を確保するという観点からも、被用者にはできるだけ厚生年金を適用する方向で見直しが図られるべきではないか。
2 厚生年金の適用拡大に係る基準の提案
検討会では、以下の2つの基準を設けてはどうかという提案がなされた。
(2) 所定労働時間、所定労働日数が通常の2分の1未満の場合であっても、年間の賃金が「65万円以上」ならば厚生年金に適用するという、いわば収入基準を新たに設ける。
3 適用拡大に向けて今後議論を重ねていくべき論点
(1) 保険料負担の増加
保険料負担が増加する者の理解が得られるかどうか。
また新たに第2号被保険者となる者は、第1号被保険者よりも少ない保険料負担で手厚い年金給付(基礎年金+報酬比例年金)を受けることがあり得ることについて、どう考えるか。
(2) 年金財政への影響の検証
年金財政に対してどのような影響を与えるのかについて、今後十分な検証が必要である。
年金財政に対する影響については、給付と負担の関係の設計や、今後の労働力や賃金の見通し、適用拡大の範囲等、前提条件によって結果が変わりうるものであり、今後の財政再計算において詳細に検討を行うこととなるが、定性的には、長期的には年金財政上は概ねバランスがとれ、短・中期的には当面の収支の安定化に貢献するものと考えられる。
(3) 夫と妻ともに第1号被保険者である自営業等の夫婦世帯との関係
夫と妻ともに第1号被保険者である自営業等の夫婦世帯において、妻(夫)が短時間、低賃金で勤務に出ることによって厚生年金が適用される場合、妻(夫)自身の保険料負担が軽減されるのみならず、その夫(妻)が第3号被保険者となって定額保険料負担を免れる可能性があるが、このような事態を防止するための措置について検討する必要がある。
(4) 就業調整が残る可能性
就業調整をとる短時間労働者はかなり限定されると考えられるものの、税制、企業の配偶者手当を要因とする調整行動のほか、新たな基準を免れるための調整行動も、なお一部残るのではないかという論点がある。
(5) 企業行動や労働市場への影響・効果
就労形態、企業行動に与える影響等について、さらに詳細な分析、検討が必要である。
(6) 医療保険との関係
厚生年金において適用対象を拡大していくとすれば、健康保険に対しても大きな影響を与えることとなるので、健康保険における取扱いも含めて検討していく必要がある。
(7) 標準報酬の下限の扱い
短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大に伴う、標準報酬の下限のあり方についても検討する必要がある。
4 派遣労働者に対する厚生年金の適用
派遣労働者に対する厚生年金の適用については、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」や総合規制改革会議等における提言を踏まえ、検討を行うことが必要である。
3 第3号被保険者制度 |
1 方向性
検討会では、現在の第3号被保険者制度についての様々な議論の整理を行った上で、的確な議論を進めるため、第3号被保険者に係る保険料負担の考え方に関する各方面からの意見や検討会で出された様々な提案を踏まえて、典型化した見直し案という形に整理して示すとともに、その利点や議論する際の主な論点も明確に提示したところである。(参考:典型化した見直し案)
この問題は、個人単位と世帯単位、応能負担と応益負担、公平性の確保という社会保障制度としての我が国年金制度の基本に関わる大きな問題である。男女共同参画社会の形成に向けた様々な取り組みが進められている中で、この問題についても、必要な改革が行われることを強く望む。そのためには、国民各界各層の間で、この報告書における議論の整理と問題提起をスタートラインとして幅広い議論が繰り広げられ、この問題についての国民的な合意が形成され、適切な結論が見出されることを求めたい。
2 第3号被保険者に係る保険料負担のあり方を検討する前提としての議論の整理
第3号被保険者に係る保険料負担のあり方について検討する際に、まずその前提としての議論を整理した。
(1) 第3号被保険者に係る給付と負担の比較について
(2) 家事労働による帰属所得等を考えれば片働き世帯は共働き世帯よりも保険料負担能力が高いという意見については、帰属所得等についての議論の深まりを待って検討すべきである。
(3) 第3号被保険者制度は、所得の低い共働き世帯から相対的に所得の高い片働き世帯への事実上の補助となっているという指摘については、平均的には共働き世帯の賃金の合計額は片働き世帯の夫の賃金よりも高くなっているため、前者から後者へ所得移転が行われていると見ることができる。
(2) 第3号被保険者の保険料負担能力に関する考え方について
(2) 配偶者の賃金に対する潜在的な持分権に基づく第3号被保険者の保険料負担能力に関する考え方についても、さらに議論が必要である。
(3) 短時間労働者に対し厚生年金の適用拡大を行う場合の第3号被保険者制度のあり方について、公平性の観点から併せて廃止・見直しが必要であるとの意見、働きたくても働けない者等も第3号被保険者にとどまることに留意すべきとの意見があった。
(3) 第1号被保険者と第3号被保険者の公平性について
第1号被保険者との均衡から、第3号被保険者にも第1号被保険者と同様の保険料負担を求めるべきであるとの指摘については、第1号被保険者と第2号・第3号被保険者グループとの間の所得把握や保険料負担能力のとらえ方の違いについて十分留意が必要である。
(4) 昭和60年までは専業主婦の多くは任意加入し国民年金の保険料を支払っていたことについて
昭和60年改正以前の制度では、専業主婦の約7割が任意加入制度によって国民年金に加入し、保険料負担をしていたのであるから、現行の制度において、専業主婦であっても保険料負担能力はあるのではないかとの指摘については、賛否両方の意見があった。
(5) 第3号被保険者に対する基礎年金の水準について
検討会では、全国民共通の給付としての基礎年金制度を前提として、第3号被保険者に係る保険料負担のあり方について議論が進められた。
(6) 基礎年金の税方式化による第3号被保険者問題の解決について
基礎年金の税方式化は第3号被保険者問題の解決にも資するのではないかとの意見があったが、我が国社会保障のあり方と適合しないのではないか、巨額の負担について税方式によって国民の合意が得られるか、得られなければ年金は「第2の生活保護」化してしまうのではないか等の問題がある。
3 典型化した見直し案
典型化した見直し案は、保険料負担を求める考え方、保険料負担を求める主体、具体的な負担の方法等の点から、次のとおりに整理したものである。
第I案 | 第3号被保険者に係る保険料負担を負担能力に応じて負担―妻―定率負担 |
第II案 | 第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担 ―妻―定額負担 |
第III案 | 第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担 ―夫―定額負担 (第3号被保険者を抱えるグループの中でも受益に着目した負担) |
第IV案 | 第3号被保険者に係る保険料負担を受益に着目して負担 ―夫―定率負担 (第3号被保険者を抱えるグループの中では負担能力に応じた負担) |
この4つの案に加えて、夫の賃金が高くなると専業主婦世帯の割合が高まることに着目して、高賃金者である夫に対して、標準報酬上限を引き上げて保険料の追加負担を求め、応能負担を基本とした体系の下でその考え方を徹底することにより、実質的な公平を図るとする案(第V案)、これらの案とは別の切り口で整理した考え方として、第3号被保険者としての扱いを受ける者を、育児や介護の期間中の被扶養配偶者に限定するという案(第VI案)も提案された。
これら典型化した見直し案を論じる際の主な論点は次のとおりと考えられる。
(1) 潜在的な持分権の具体化による賃金分割という考え方について、我が国の税制、労働法制等の社会制度に組み込まれていない中で、現段階で年金制度のみが政策として採用できるかどうか。(第I案)
(2) 引き続き事業主に負担を求めることができるか、仮に求められない場合これに代わる財源をどこに求めるか。(第I案、第II案、第III案、第IV案)
(3) 第3号被保険者に係る保険料負担について受益に着目して負担するという考え方を導入することの是非については、前述のように、応能負担と応益負担に関する制度体系の基本の選択に関わる問題として、なお綿密な議論が必要である。(第II案、第III案、第IV案)
(4) 定額保険料の仕組みは、保険料負担の逆進性の問題を一層拡大させることになるが、これについてどう考えるか。(第II案、第III案)
(5) 片働き世帯の夫(妻)に課される保険料率が共働き世帯の夫と妻に課されるものよりも高くなることについて、事業主の理解が得られるか。また、雇用行動に何らかの影響を及ぼす可能性はないか。(第III案、第IV案)
(6) 第III案及び第IV案は、所得のない第3号被保険者に係る保険料負担について、被用者の間で共有すべきリスクととらえる社会連帯が崩れているという考え方を背景としているが、社会保険制度の下で国民が共有すべき社会的なリスクをどう考えるかという点も考慮しながら、十分に議論を重ねていくことが必要である。(第III案、第IV案)
(7) 部分的な解決策にとどまるのではないか、また、今日の税制や社会保障制度における所得再分配施策の流れの中でどのように位置付けられるのか。(第V案)
育児・介護期間中にある者以外の被扶養配偶者の扱いをどうするのか、また、育児・介護期間中にある者に対して年金制度上の特別は配慮をとることが妥当かどうか。(第VI案)
雇用関係のない妻自身に賦課される保険料の特別徴収(いわゆる天引き)が可能かどうか、仮に特別徴収ができなければ未納の増加を招くおそれはないか。(第I案、第II案)
医療保険も同じように見直すことが必要なのか。(すべての案)
4 育児期間等に係る配慮措置 |
1 方向性
世代間扶養を基本として成り立っている年金制度において、女性が多様な就労を通じて自らの年金保障の充実を図るという方向性の中で、育児期間等について年金の給付と負担に係る配慮措置を拡充するかどうか、またこれ以外の支援措置を行うべきかどうかについては、積極的な意見と消極的な意見があり、十分な議論の下に判断がなされるべきである。
2 育児期間等に係る配慮措置を考える上での論点
(1) 育児期間に係る配慮措置を拡充しようとする場合の論点
現行の年金制度上の育児期間に係る配慮措置は、育児休業取得者のみを対象としているが、厚生年金の被保険者として育児期間も働き続けている者、第1号被保険者、さらには育児を理由として離職して第3号被保険者となった者等、他の者も対象とすべきかどうか。
(2) 拡大する場合の配慮措置の具体的内容をどうするか
育児を理由として休業、離職、短時間労働の選択を行うことにより、賃金が減少、あるいは厚生年金の加入期間が短くなることに配慮した措置として、報酬比例部分について、年金算定上の賃金の配慮や加入年数の加算措置を講じるべきかどうか。その場合の対象者や措置内容はどう考えるか。その際、
○ 所得との関連のない定額の基礎年金給付のみである第1号被保険者との均衡をどう考えるか、
といった観点も踏まえつつ、検討を進める必要がある。
(3) 保険料における対応は適当か
仮に第1号被保険者に対する配慮措置をとろうとする場合には、所得との関連のない基礎年金の給付で配慮を加えることはできないため、保険料負担等の面で配慮を行う(=保険料を免除する又は年金以外の何らかの給付を行う)かどうかということが問題となる。
(2) 育児期間に係る配慮措置と第3号被保険者制度の見直しを関連させる考え方
第3号被保険者に係る保険料負担あるいは給付の見直しと併せて、現在の第3号被保険者としての保障を育児・介護期間にある者に限るとともに、育児・介護による就労中断を余儀なくされた者に対する報酬比例年金の給付において配慮を講じることが望ましいという意見があった。
(3) 育児期間に係る配慮措置以外の年金制度における対応
年金の給付と負担に係る育児期間への配慮措置を超えて、育児や子育てを支援する措置をさらに拡大させるべきではないかという考え方から、
(4) 年金制度における育児等に対する支援の拡充の是非
将来の年金制度を担う次世代の育成は重要な課題であることから、年金制度としても、育児期における仕事との両立支援や育児負担への配慮のための措置を拡充していくことが必要ではないかという考え方がある一方、年金制度で対応するのではなく、政策目的に応じ、例えば保育サービスなどによって対応するのが本質的な解決であるという意見もある。
(2) 育児を理由とした休業、離職、短時間労働の選択に伴う、年金水準低下の補填という観点
次世代の育成にかかわる育児を理由とした休業等により年金額が低くなることについては、これを補填するような配慮が必要ではないかという考え方がある一方、女性の就労継続への意欲を阻害しないようにする必要がある等との意見もある。
(3) 介護休業期間に関する考え方
将来の年金制度を担う次世代の育成という観点から見ると、介護期間と育児期間は性格が異なっており、また諸外国においても育児期間と介護期間では年金制度上の扱いを異にしているが、介護を理由とした休業や離職等により年金額が低くなる構造は育児と共通しており、このような点も踏まえつつ、今後検討していくべきものと考える。
5 離婚時の年金分割 |
1 方向性
夫婦二人の老後生活を支える年金が離婚してもなおそれぞれの生活を支えるものとなるよう、離婚時の年金分割が可能となるような仕組みを講じる方向で検討を続けていくことが適当である。この場合、専門的、技術的な検討が必要な多くの論点があり、実施可能な方途、その時期等について十分な検討を重ね、結論を出していくべきである。
2 今後検討する論点
(1) 分割の位置付けと割合
民事法制の検討状況や社会の実態から見て、離婚の際に必ず又は原則的に年金分割するという仕組みではなく、年金分割も選択できる仕組みとすることが適当ではないか。
分割割合については、年金受給権の一身専属性の趣旨から、年金を分割した者の老後の生活保障を確保しつつ、一定の範囲内で年金分割を認め得るということではないか。
(2) 分割の対象となる年金
報酬比例年金が年金分割の対象となると考えられる。この場合に、厚生年金の一部を代行している企業年金(厚生年金基金)や企業年金に相当する給付を含む共済年金等の扱いをどうするかという論点がある。
(3) 分割の方法
年金権そのものを分割する方法(我が国の制度においては、「保険料納付記録」の分割と考えられる。)と、支給される年金額を分割する方法(我が国の制度においては、受給権者に帰属する年金債権の一部の譲渡と考えられる。)が考えられる。
女性の老後生活の保障の充実という観点からは、元配偶者から独立した権利としての年金を獲得し、元配偶者が死亡しても年金が支給される、年金権そのものの分割の仕組みを基本とすることが適当ではないか。ただし、年金権の分割には、綿密かつ十分な検討を要する事項が多くある。
(4) 分割の手続
当事者の合意のみによる分割とせず、何らかの形で裁判所等の関与が必要と考えられるが、それは適当かつ可能かどうか。
(5) 対象となる離婚
施行日以降の離婚を対象とすることが適当ではないか。
一定の婚姻年数以上の婚姻のみを対象としてはどうか。
事実婚について対象とすることが可能かどうか。(例えば、内縁関係の始期と終期の確定、分割の手続等の論点がある。)
6 遺族年金制度 |
1 方向性
将来的には、個人単位を貫き遺族年金を廃止する又は希望する者だけが加入する別建ての制度とすべきという意見があるが、高齢の遺族配偶者に対する所得保障の必要性等を考えると、遺族年金を基本的に維持することとしつつ、次に掲げる論点等について、その見直しに向けて綿密に議論していくことが必要である。
2 今後検討する論点
(1) 支給要件における男女差
遺族年金の支給要件における男女の取扱いの違いは、ほとんどの国で存在しておらず、我が国においても男女差を見直していく方向で考えることが適当である。この場合、現実には、例えば母子家庭と父子家庭において年金による所得保障の必要性の度合いが異なると考えられること等を踏まえれば、中高齢寡婦加算等の給付設計や生計維持認定要件のあり方に係る検討と併せ、支給要件における男女差を見直していく方向で、今後、検討を続けることが必要である。
(2) 高齢の遺族配偶者に対する遺族年金と老齢年金の併給
高齢の遺族配偶者について、共働き世帯と片働き世帯との間の給付と負担の均衡をとろうとする場合、遺族厚生年金の水準(現在は老齢厚生年金の3/4)と、遺族厚生年金と老齢厚生年金の併給を選択した場合の水準(現在は両者の老齢厚生年金のそれぞれ1/2)を同じ割合に揃える方向で検討を続けていくことが必要となる。
この場合、
(ⅱ) 遺族厚生年金の水準を現在の3/4から引き下げて両者の割合を合わせた場合、片働き世帯に係る遺族厚生年金の給付水準や、併給問題とは関係のない若齢の遺族配偶者に対する遺族厚生年金の給付水準を引き下げることとなるが、社会保障制度としての年金制度のあり方として適当かどうか、
(ⅲ) 遺族である高齢単身者の生活費用は、高齢者夫婦の生活費用の半分を超える水準となることから、1/2よりは大きく、過剰給付となるおそれのある3/4よりは低い水準で考えるべきではないか(例えば3/5)、
といった観点も併せて検討していくことが必要となる。
(2) 自ら働いて保険料を納付したことが、できる限り給付額に反映されるようにするという観点
また、これと併せて、自ら働いて保険料を納付したことが、できる限り給付額に反映されるようにするとの考え方から、自らの保険料納付に基づく老齢年金の支給を基本とし、遺族年金額を調整する仕組みとなるよう検討することが、一つの方向ではないかと考えられる。
(3) 若齢遺族配偶者に対する遺族厚生年金の水準について
高齢の遺族配偶者に対する遺族厚生年金の水準を見直す場合、若齢遺族配偶者に対する遺族厚生年金の水準についても、様々な制度的論点を含めて検討する必要がある。
(3) 離婚時の年金分割と遺族年金の関係
遺族年金制度のあり方を考える場合に、前述した離婚時の年金分割の仕組みが講じられるのであれば、両制度の間の整合性の観点からの考慮が必要となる。
(参考)典型化した見直し案
【第3号被保険者に係る保険料負担の考え方】
【第3号に係る負担を負担能力に応じて負担―妻―定率負担】 潜在的な持分権の具体化による賃金分割を行った上で、妻自身にも分割された賃金に対して定率の保険料負担を求めるという仕組み。 個人で負担し個人で給付を受けるという考え方を、応能負担のシステムを維持しながら貫くことができ、片働き、共働きを通じて、夫と妻それぞれに給付と負担の連動が明確となる。また、報酬比例部分も含め、離婚した場合の年金給付のあり方が明確となる。 |
現行 | 第I案 (単位:万円、以下同じ) |
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【議論する際の主な論点】
○潜在的な持分権の具体化による賃金分割という手法が、我が国の税制、労働法制等の社会制度に組み込まれていない中で、現段階で年金のみがこの考え方を政策として採用できるか。
○雇用関係のない第3号被保険者に係る事業主負担をどう考えるか。事業主負担が求められない場合、これに代わる財源をどこに求めるか。 ○雇用関係のない配偶者に賦課される保険料の特別徴収(いわゆる天引き徴収)が可能かどうか。特別徴収ができない場合、未納の増加を招くおそれはないか。 ○医療保険も同様に制度を見直して、被扶養配偶者自身が健康保険又は国民健康保険に独自に加入することとするのか。 |
【第3号被保険者に係る保険料負担の考え方】
【第3号に係る負担を受益に着目して負担―妻―定額負担】 第2号被保険者の定率保険料は第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、それとは別に、第3号被保険者たる妻自身に、第1号被保険者と同額(現在13,300円)の保険料負担を求めるという仕組み。 第3号被保険者も含めて個々人全員が受益に着目した負担という考え方から保険料負担を行うことにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を解消できる。 |
現行 | 第II案 (単位:万円、以下同じ) |
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【議論する際の主な論点】
○第3号被保険者に係る保険料負担について、受益に着目した負担の考え方を導入することが妥当かどうか。
○雇用関係のない第3号被保険者に係る事業主負担をどう考えるか。事業主負担が求められない場合、これに代わる財源をどこに求めるか。 ○現在、やむを得ず第1号被保険者に対して採られている定額保険料の仕組みを、さらに第3号被保険者にも課すことになり、保険料負担の逆進性の問題を一層拡大することについてどう考えるか。 ○雇用関係のない配偶者に賦課される保険料の特別徴収(いわゆる天引き徴収)が可能かどうか。特別徴収ができない場合、未納の増加を招くおそれはないか。 ○医療保険も同様に制度を見直して、被扶養配偶者を健康保険から外して、国民健康保険に独自に加入することとするのか。 |
【第3号被保険者に係る保険料負担の考え方】
【第3号に係る負担を受益に着目して負担―夫―定額負担】 第2号被保険者の定率保険料は第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、第3号被保険者のいる世帯の夫には、それに第1号の保険料と同額(13,300円)を加算した保険料負担を求めるという仕組み。 所得のある者から保険料負担を求めるという考え方を貫きつつ、受益に着目した負担という考え方を導入することにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を解消できる。 |
現行 | 第III案 (単位:万円、以下同じ) |
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【議論する際の主な論点】
○第3号被保険者に係る保険料負担について、受益に着目した負担の考え方を導入することが妥当かどうか。
○雇用関係のない第3号被保険者に係る事業主負担をどう考えるか。事業主負担が求められない場合、これに代わる財源をどこに求めるか。 ○現在、やむを得ず第1号被保険者に対して採られている定額保険料の仕組みを、さらに第3号被保険者にも課すことになり、保険料負担の逆進性の問題を一層拡大することについてどう考えるか。 ○片働き世帯の夫(妻)に課される保険料が、共働き世帯の夫と妻に課されるものよりも高くなることについて、事業主の理解が得られるか。また、雇用行動に何らかの影響を及ぼす可能性はないか。 ○被用者間でのリスクの違いは、第3号被保険者の有無だけでなく、例えば性別の違いや子どもの有無のように様々なものがある中で、社会保険制度の下で国民が共有すべき社会的なリスクをどう考えるか。 ○医療保険も同様に制度を見直して、被扶養配偶者の受益に着目した保険料負担を求めることとなるのか。 |
【第3号被保険者に係る保険料負担の考え方】
【第3号に係る負担を受益に着目して負担―夫―定率負担】 まず第2号被保険者の定率保険料を第3号被保険者の基礎年金に係る拠出金負担分を除いて設定し、第3号被保険者のいる世帯の夫には、それに第3号被保険者に係る拠出金負担に要する費用を第3号被保険者のいる世帯の夫の賃金総額で割った率を加算した保険料負担を求めるという仕組み。 被用者の保険料負担に係る応能負担の考え方を貫きつつ、第3号被保険者について世帯単位での受益に着目した負担という考え方を導入することにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を解消できる。 |
現行 | 第IV案 (単位:万円、以下同じ) |
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【議論する際の主な論点】
○第3号被保険者に係る保険料負担について、受益に着目した負担の考え方を導入することが妥当かどうか。
○雇用関係のない第3号被保険者に係る事業主負担をどう考えるか。事業主負担が求められない場合、これに代わる財源をどこに求めるか。 ○片働き世帯の夫(妻)に課される保険料が、共働き世帯の夫と妻に課されるものよりも高くなることについて、事業主の理解が得られるか。また、雇用行動に何らかの影響を及ぼす可能性はないか。 ○被用者間でのリスクの違いは、第3号被保険者の有無だけでなく、例えば性別の違いや子どもの有無のように様々なものがある中で、社会保険制度の下で国民が共有すべき社会的なリスクをどう考えるか。 ○医療保険も同様に制度を見直して、被扶養配偶者の受益に着目した保険料負担を求めることとなるのか。 |
【第3号被保険者に係る保険料負担の考え方】
【第3号に係る負担を、応能負担をより徹底する形で負担―夫―定率負担】 夫の所得が高くなると専業主婦世帯の割合が高まることに着目し、高所得者について、標準報酬上限を引き上げて、保険料の追加負担を求めるという仕組み。 片働き世帯が相対的に高所得であることに着目して、高所得者の保険料負担を引き上げることにより、実質的に第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を縮減できる。 |
現行 | 第V案 (単位:万円、以下同じ) |
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【議論する際の主な論点】
○第3号被保険者に係る保険料負担について、標準報酬の上限があることにより生じている基礎年金の負担の不均衡への対応案であり、部分的な解決策にとどまるのではないか。 ○賃金の高い者により多くの負担を求めることにより解決を図るという手法が、今日の税制や社会保障制度における所得再分配施策の流れの中で、どのように位置付けられるのか。 ○一定以上の報酬について、給付に反映させずに保険料負担のみを求めることは可能か。 |
【第3号被保険者に係る保険料負担の考え方】
第3号被保険者を、育児・介護期間中の被扶養配偶者に限るという仕組み(その余の期間については、他案のいずれかの方法で保険料負担を求める。)。 第3号被保険者としてのメリットを受けられる期間を育児等の活動を行っている期間に限定することにより、第3号被保険者に係る保険料負担についての不公平感を縮減できる。 |
【議論する際の主な論点】
○育児・介護等の期間中にある者以外の被扶養配偶者の扱いをどうするか。
○育児・介護期間中にある者に対して年金制度上の特別な配慮を採ることが妥当かどうか。 |