厚生労働省


政策レポート(介護予防)

1.介護予防の取組の重要性

我が国では、高齢化が進み、介護が必要な高齢者の方々が増加しています。 そのうち、特に、要介護度が軽度の方(要支援1,2)が増加しています。軽度(要支援1,2)とは、 「要介護状態までにはいかないものの、家事や身の回りの支度などの日常生活に支援を必要とする状態」をいいます。

図1 認定者の推移
要介護度別認定者数の推移

要支援1・2のような軽度の方々が要介護状態になる原因としては、「高齢による衰弱」「関節疾患」「骨折・転倒」が約半数を占めていることがわかりました。

「膝痛・腰痛」がある方や、「骨折・転倒」を起こした方は、体を動かす機会が減ってしまうことがあります。 それが原因で、筋肉が衰えたり骨がもろくなったりして、体の機能が低下して動けなくなるおそれもあります。 このように、「体を動かさない状態が続くことによって、心身の機能が低下して動けなくなること(「廃用症候群」といいます。)を防ぐためには、体を動かすことが重要です。

また、一方で、「廃用症候群」になってしまった方は、骨がもろくなったり転びやすかったりしますので、要支援状態になる危険性が高まります。

ですから、「体を動かす」ということは、要支援状態になることを予防するためには、とても大切なことなのです。

図2 要介護度別の原因割合
要介護度別の原因割合

2.介護予防事業とは

高齢者の方々が、介護サービスを受けずにできるだけお元気で過ごしていただくために、「介護予防事業」があります。 「介護予防事業」は、お住まいの市町村が実施するもので、大きく2つの対象に分けて行われています。

(1) 介護予防一般高齢者施策

目的は、高齢者の方々に「介護予防」というものを広く知っていただき、できるだけ自立してお元気で過ごしていただくための取り組みが盛んになるような地域社会をつくることです。

65歳以上の高齢者の方々を対象として、お住まいの市町村では、「介護予防」に関する講演会の開催、介護予防手帳の配布、ボランティア等の人材を育成するための研修、介護予防に資する地域活動組織の育成などを行っています。

(2) 介護予防特定高齢者施策

体の機能が少し弱くなっていて、近い将来介護サービスを利用する可能性がある高齢者の方々に対して、その方の弱っている機能を回復するような事業を提供して、要支援・要介護状態にならないようにすることを目的としています。

具体的には、[1]運動機能の向上、[2]栄養改善、[3]口腔機能の向上、[4]閉じこもり予防・支援、[5]認知症予防・支援、[6]うつ予防・支援 について、通所による集団的な事業を中心に、必要に応じて個人のお宅を訪問するなど、その方の状態に応じて様々なメニューを組み合わせて無理なく参加していただくこととしています。

大切なことは、「早期発見・早期対応」です。つまり、体の機能が弱くなっている高齢者の方々を早く見つけ、介護サービスを利用する前に、上記のような事業に参加していただき、弱っている機能を回復させることです。

この考え方に基づき、厚生労働省は、平成21年度から、「要介護認定の申請を行ったが、認定されなかった(給付の対象にならなかった)方」が、上記の事業に参加しやすいように、市町村等からご案内をする仕組みをつくり、心身の状態を回復していただくことを目指しています。

図3 介護予防事業

3.事例の紹介

介護予防事業は全国で行われていますが、その中でも積極的に取り組んでいる市町村の事例をご紹介します。

(1)「アミューズメント・カジノが楽しみ!」 〜埼玉県和光市〜

人口約7万人の埼玉県和光市は、介護予防に対する様々な取組を行っています。その中の1つに、「アミューズメント・カジノ」といって、ルーレットやトランプのような娯楽性のある設備を使ったものがあります。

参加者はゲームに集中しながら、勝ったり負けたり、笑ったり、点数の計算もしています。実は、軽度認知症改善のプログラムに自然に参加しているのです。このように、感情が豊かに表現できる場を提供することで、「次回も来たい!」という参加意欲につなげることができて、「閉じこもり予防」の役割も果たしています。

さらに、人気のある「アミューズメント・カジノ」と運動・栄養・口腔機能向上の介護予防事業を組み合わせて実施することによって、他の事業への参加率も自然に高まっています。

写真1
アミューズメント・カジノで楽しむ参加者
アミューズメント・カジノで楽しむ参加者

このような和光市の取組は、国に先んじて平成15年度から独自に始められました。「介護度が軽くなることや自立になることが幸せ」という意識が、高齢者やその家族及び地域住民に徐々に浸透してきました。そして、その結果、要介護認定者が減少してきたこと、第1号被保険者保険料が低くなってきたことなど、高齢者の方にとっても、うれしい効果がでてきました。

図4 要介護認定率の推移 (和光市)
要介護認定率の推移(和光市)
(2)「美味しく食べ、楽しく話し、元気な笑顔になる」 〜宮城県岩沼市〜

人口約4.4万人の宮城県岩沼市では、口腔機能向上と栄養改善を合体させた3カ月コース(計8回)の介護予防事業が行われています。

地元の食材を使って(地産地消)、自分たちで栄養バランスのとれた食事を作り、みんなで楽しみながら食事をします(栄養改善)。食事が終わった後には、口の中を清潔にすることをはじめとして、口腔機能の重要性について実習を通して学ぶことができます(口腔機能の向上)。

「食べる」ことを中心に、「栄養」、「調理」、「歯の大切さ」「口腔機能」についての知識が得られるとともに、「仲間づくり」などが、楽しく自然にできる教室です。

参加者からは、「教室前は『外に出たくない』感じだったが、皆さんと仲良くなり笑顔が増えた。」とか「食事をするのも楽しみになり、今後も口腔体操を続けていこうと思った。」など、良い効果についての意見が出ています。さらに事業の波及効果として、参加者が自発的に事業の内容や効果を、家族・友人など多くの人へ発信していることがわかりました。

4.まとめ

平成20年度に実施された研究の報告によると、介護予防事業に参加された方のうち、「普段の過ごし方において、自分に役割がある」、「通所型サービスに積極的に参加している」という方は、健康状態が保たれたり改善しやすいことがわかりました。

ですから、高齢者の方々が、介護予防事業などを活用しながら、生活の中に「ご自分の役割や目標」をもって生活することが、いつまでも元気で長生きするこつかも知れません。

それぞれの市町村では、「明るく・楽しく・効果のある」介護予防事業を行うために、さまざまな工夫をこらしていますので、ぜひご参加ください。

詳しい内容は、お住まいの市町村にお問い合わせください。

○ お問い合わせ先
厚生労働省老健局老人保健課

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