厚生労働省

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今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方

平成20年8月、厚生労働省は、有識者と労使関係者で構成する「今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会」を立ち上げ、「労働」をめぐる権利・義務に関する教育の意義や課題、より実効的な教育の在り方について総合的な検討を行ってきました。検討結果については、2月末に報告書として取りまとめられましたので、今回はその概要を見ていきましょう。※ 報告書本文については、ホームページに掲載しています。

※図表はクリックで拡大します

なぜ今労働関係法制度の教育が必要なのでしょうか?

近年、派遣労働者やパートタイム労働者などのいわゆる非正規労働者の割合の増加、就業形態の多様化、労働組合への加入割合の低下、労働契約法等の新たな労働法制の創設・施行など、労働者の職業生活に影響を及ぼす環境が大きく変化しています。

このような中、職場内でのトラブルや不利益な取扱についての労働相談が増加の一途を辿るとともに、各種調査によれば、労働関係法制度をめぐる知識、特に労働者の権利の認知度が全般的に低いという状況が見られます。特に、現在相対的に不利な労働条件で働いていたり、将来的に相対的に不利な労働条件になる可能性が高い人ほど、労働者の権利を理解していない可能性が高いと指摘されています。

労働者自身が労働関係法制度についての基礎的な知識を理解していない場合、労働者としての権利を行使することが困難であり、そもそも権利が守られているか否かの判断すらできないことが多いと言えます。

 
※ 図表はクリックで拡大します

こうした状況を踏まえ、労働者が自ら労働関係法制度を正確に理解し、自らの権利を守る必要があるといった認識が高まっており、労働関係法制度をめぐる知識、特に労働者の権利に関する知識を十分に理解してもらうための教育の重要性が各方面から指摘されているところです。

そのため、厚生労働省では、本研究会を設置し、先行の研究や各種提言等を踏まえながら、NPO法人や学校関係者等からの意見聴取や知識の理解状況に関する実態調査の実施などを通し、労働関係法制度をめぐる教育の在り方について検討を行ってきました。

現状における知識の理解はどのような状況でしょうか?

(1)先行調査・研究における指摘

これまで行われた調査では、労働者の基本的な権利の理解度・認知度は高くないことが明らかになっています。また、属性別に認知度に違いが見られることも指摘されています。

※ 第1回研究会における配布資料より(図表はクリックで拡大します)

このような調査結果を踏まえ、先行の研究では、以下のような指摘がされています。

● 本当に知識を必要としている人と実際に知識がある人との間で「知識のミスマッチ」がある。現在相対的に低い労働条件で働いていたり、将来的に相対的に低い労働条件になる可能性が高い人ほど、必要な知識を理解していない可能性が高い。

● 労働者の権利を「知っている」ことが権利を守るための「行動」に直結するとは限らない。労働者の権利が実際に守られるためには、権利が法律で定められているだけではだめであり、まずは労働者自身が自分の権利について理解し、その上で権利を行使できなかった場合や不利益な取扱いを受けた際にそれが違法であることに気付き、さらに権利を行使する手段が活用できることが重要である。

(2)研究会を通じて指摘された問題点等

研究会における委員からの報告や労働相談の関係者等からのヒアリングを通じて、労働関係法制度についての理解状況に関して様々な問題点が指摘されました。

● 中・高校卒や年収200万円未満の低所得層、20歳代の層、労働組合員未加入の層は、他の層と比較して労働者の権利に関する認知度が低く、しかも、労働者の権利を知る機会がなかったとする回答が多かった(連合総研「第16回勤労者短観」)。

● 労働相談は増加する傾向にある。全国の総合労働相談コーナーには07年度において約100万件の相談、連合の労働相談ダイヤルには07年10月〜08年9月に約1万件の相談。

● 労働相談の現場においては、次のような傾向が指摘されている。

・ いわゆる非正規労働者の方が、労働関係法制度に関する基本的な知識について理解していない。

・ 労使ともに基本的な知識について正確な理解がされていない場合が見られ、また、基礎的な知識の不足から生じたと見られるトラブルが多い。

・ 労働関係とは「契約」に基づく相互関係であり、互いに権利と義務を負っているという認識が乏しいと思われる事例が多い。

● そもそもトラブルにあった際の相談先を知らない者が多い。

● 地域における労働関係法制度や労働者の権利に関する教育が後退気味。

(3)基礎的な知識の理解状況に関する実態調査

研究会においては、労働関係法制度の基礎的な知識の理解状況についての実態を的確に把握するために、労働者の権利に関する知識の認知状況、知識の入手経路、希望する又は有効な知識の入手経路、知識がないことによる問題点等を含む調査票を作成し、全国の(1)学生・生徒(15歳〜24歳)及び(2)18歳〜39歳の男女就業者の計約1200名を対象にした郵送によるアンケート調査を実施しました。概要については次の図表をご覧下さい。
※ 調査報告書本文については、ホームページに掲載しています。

※図表はクリックで拡大します

各主体の取組にはどのような課題があるでしょうか?

研究会においては、労働関係法制度をめぐる教育に取り組んでいる関係者からヒアリング等を行いました。その結果、先進的な取組は見られるものの課題も明らかになりました。ここでは、研究会で指摘された「課題」についてご紹介します。

● 学校教育の場

・ 「労働三権」等の言葉としては教えられているが、受験のための知識を与えるという感覚があるなど、権利としては十分に教えられていない場合がある

・ 労働関係法制度やトラブルが起きた際の相談先に関する知識について十分に与えられる機会が多くない

・ 生徒や教員の属人的要素によって理解度に差が出るなどの影響がある

・ 例えば公立学校の教員には労働基準法が一部適用されないなど、労働関係法令の適用状況が異なることから、一般労働者における労働関係法制度に関する知識を生徒に効果的に付与するためには工夫が必要

● NPO法人

・ 各団体の自主的な活動という性質上、地域差や、同じ団体の活動であっても学校や先生の取組み方により成果にも差が出る場合がある

・ 精力的に活動するための組織体制や、教材作成・講演等における予算の問題など、NPO法人の運営上の性質から継続的に活動することが困難な場合がある

● 労使

・ 労働組合がない場合に組合による教育の機会に恵まれない場合がある

・ 企業経営者が十分に法制度を理解しているとは言えない場合がある

・ 経営が苦しい中小企業等においては社内教育・研修の人員的・金銭的余裕がない場合がある

● 行政

・ 様々な取組を行っているものの、必ずしも支援が必要な層に行き届いていない場合がある

・ 特に、分かりやすく情報を提供する機能が十分ではない場合がある

・ 学校を卒業し就職した者に対する相談窓口や必要な情報にアクセスできる環境の整備が十分ではない場合がある

・ 職場に入り問題に直面した際の対処方法の観点が十分ではない場合がある

今後どのような方向で労働関係法制度の教育を行えばよいでしょうか?

以上見てきたように、労働者自身が自らの権利を守っていく必要性が高まっている一方で、必要な者に必要な法知識が行き渡っていない状況では、個々人の置かれた状況に応じた継続的で効果的な教育・情報提供等に取り組むことが取り急ぎ重要となるでしょう。今後は、学校やNPO法人、労使、行政などがそれぞれ適切な対応・措置を講ずることが期待されます。

報告書においては、以上の点を踏まえ、今後の教育に関する方向性についての「基本的な考え方」が示されました。

※図表はクリックで拡大します

本研究会では、個々人の置かれた状況に応じてそれぞれの段階において継続的で効果的な教育が行われるためには、学校、職場、地域、家庭、産業界、労働界、NPO法人等の民間団体、行政等の各主体の連携強化を図ることが重要であるとの認識の下に、別表のような観点から、今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方について提言されました。

※図表はクリックで拡大します

更に詳しく知りたい方は

「労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会」におけるこれまでの議論の経緯については、以下のリンクをご参照下さい。

第1回研究会 配布資料議事録
第2回研究会 配付資料議事録
第3回研究会 配付資料議事要旨
第4回研究会 配布資料議事録
第5回研究会 配布資料議事録
第6回研究会 配付資料/議事録 ※議事録については、後日、ホームページに掲載します。



● お問い合わせ先

政策統括官(労働担当)労働政策担当参事官室
(代表)03-5253-2111 (内線)7991・7992


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