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ホームレスの自立の支援等に関する基本方針(案)

第1 はじめに
 現在、我が国には、自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存在し、食事の確保や健康面での問題を抱えるなど、健康で文化的な生活を送ることができない状況にある。一方、こうしたホームレスの多くは、都市公園、河川、道路、駅舎等を起居の場所として日常生活を送っており、地域社会とのあつれきが随所に生じている。現下の厳しい経済情勢の下、ホームレスの数は今後も増加傾向が続くと思われ、ホームレスに関する様々な問題は、今後、より一層深刻さを増すものと考えられる。
 こうした中、ホームレスの自立の支援等に関する施策を総合的に推進するため、平成14年8月にホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(平成14年法律第105号。以下「法」という。)が成立した。法においては、ホームレスの自立の支援等に関する施策の目標を明示するとともに、国又は地方公共団体の責務として、こうした目標に関する総合的又は地方の実情に応じた施策の策定及び実施を位置付け、国においては、ホームレスの実態に関する全国調査を踏まえ、ホームレスの自立の支援等に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を策定し、また、地方公共団体においては、必要があると認められるときは、この基本方針等に即し、ホームレスに関する問題の実情に応じた施策を実施するための計画(以下「実施計画」という。)を策定しなければならないこととされている。
 本基本方針は、こうした法の趣旨を踏まえ、ホームレスの自立の支援等に関する国としての基本的な方針を国民、地方公共団体、関係団体に対し明示するとともに、地方公共団体において実施計画を策定する際の指針を示すこと等により、ホームレスの自立の支援等に関する施策が総合的かつ計画的に実施され、もって、ホームレスの自立を積極的に促すとともに、新たにホームレスになることを防止し、地域社会におけるホームレスに関する問題の解決が図られることを目指すものである。

第2 ホームレスに関する現状
  ホームレスの現状
 全国におけるホームレスの数を把握するため、国では、平成11年から平成13年にかけて3回の調査を行い、おおむね2万人前後のホームレスの数が把握された。しかしながら、いずれの調査も、全国すべての市町村(特別区を含む。以下同じ。)から報告があったものではなく、報告のあった市町村数も調査ごとに異なっていた。
 こうした中、法において、国が地方公共団体の協力を得てホームレスの実態調査を行うこととされたことから、平成15年1月から2月にかけて、すべての市町村を対象に統一した調査方法による全国調査(以下「ホームレス実態調査」という。)を初めて実施したところ、以下のような結果であった。
(1)ホームレスの数
 ホームレスの数については、巡回による目視により確認したところ、ホームレスが確認された市町村数は581市町村で、その数は25,296人となっている。また、都道府県別に見ると、大阪府(7,757人)や東京都(6,361人)が多く、数のばらつきはあるものの、すべての都道府県でホームレスが確認された。さらに、市町村別では、ホームレスが確認された581市町村のうち、500人以上のところが9か所、100人以上のところが41か所であるのに対し、10人未満のところが391か所と7割弱を占めている。
(2)ホームレスの生活実態
 ホームレスの生活実態については、ホームレスの数が比較的多いと考えられる地方公共団体において、全体で約2,000名を対象に個別面接調査を行った。
 年齢
 ホームレスの年齢分布については、50〜64歳が全体の65.7%を占め、全体の平均年齢は55.9歳となっており、中高年層が大半を占めている。
 野宿生活の状況
 野宿生活の実態としては、生活の場所が定まっている者が84.1%であり、このうち、生活場所としては、「公園」が48.9%、「河川敷」が17.5%となっている。
 また、直近のホームレスになってからの期間は、「1年未満」が30.7%となっている。
 さらに、仕事と収入の状況としては、ホームレスの64.7%が仕事をし、その仕事内容の内訳は、「廃品回収」が73.3%を占めており、平均的な収入月額は「1万円以上3万円未満」が35.2%と最も多い。
 野宿生活までのいきさつ
 野宿生活の直前の職業としては、建設業関係の仕事が55.2%、製造業関係の仕事が10.5%を占めており、雇用形態は、「常勤職員・従業員(正社員)」が38.9%と大きな割合を占め、「日雇」はほぼ同程度の36.1%となっている。
 また、野宿生活に至った理由としては、「仕事が減った」が35.6%、「倒産・失業」が32.9%、「病気・けが・高齢で仕事ができなくなった」が18.8%となっている。
 健康状態と福祉制度等の利用状況
 現在の健康状態については、身体の不調を訴えている者が47.4%であり、このうち治療等を受けていない者が68.4%となっている。
 また、福祉制度等の利用状況としては、これまでに福祉事務所へ相談に行ったことのある者が33.1%、緊急的な一時宿泊所であるホームレス緊急一時宿泊施設(以下「シェルター」という。)の利用を希望する者が38.7%、ホームレス自立支援施設(以下「自立支援センター」という。)の利用を希望する者が38.9%、これまでに生活保護を受給したことのある者が24.5%となっている。
 自立について
 自立に向けた今後の希望としては、きちんと就職して働きたいという者が49.7%であるのに対し、「今のままでいい」という者も13.1%となっている。
 生活歴
 家族との連絡状況については、結婚していた者が53.4%を占めているが、一方で、この1年間に家族・親族との連絡が途絶えている者が77.1%となっている。
 行政への要望・意見
 行政への要望・意見としては、仕事関連のものが27.1%と多くを占めており、以下、住居関連が7.8%、健康関連が3.8%となっている。
  ホームレス対策の現状
 ホームレス対策については、平成11年5月に、関係省庁及び関係地方公共団体によるホームレス問題連絡会議において、「ホームレス問題に対する当面の対応策について」が取りまとめられた。国では、これに基づき、ホームレス自らの意思による自立した生活への支援と老齢や健康上の理由等により自立能力に乏しい人々に対する適切な保護を図るため、総合的な相談及び自立支援体制の確立、雇用の安定、保健医療の充実、要援護者の住まい等の確保、安心・安全な地域環境の整備等に努めてきたところである。
 具体的には、求人開拓、職業訓練、保健所等による健康相談及び訪問指導、生活保護法(昭和25年法律第144号)による保護等のホームレス以外の者も対象とした一般対策を実施するとともに、特にホームレスを対象として、宿所及び食事の提供、健康診断、生活に関する相談及び指導、職業相談等を行うホームレス自立支援事業、緊急一時的な宿泊場所を提供するホームレス緊急一時宿泊事業、地域における安全の確保とホームレス保護活動の推進等を実施している。
 さらに、今般、法が成立したことを踏まえ、既存の施策の充実を図るほか、平成15年度には、新たに、関係者による協議会を設置して総合的な相談を推進するホームレス総合相談推進事業、自立支援センターに入所しているホームレス等を対象に一定期間試行的に民間企業に雇用してもらうホームレス等試行雇用事業及び技能の習得や資格の取得等を目的とした技能講習を実施することとしている。

第3 ホームレス対策の推進方策
  基本的な考え方
 ホームレスとなるに至った要因としては、主として就労する意欲はあるが仕事がなく失業状態にあること、医療や福祉等の援護が必要なこと、社会生活を拒否していることの3つがあり、これらが複雑に重なりあってホームレス問題が発生していると考えられる。こうした中、最近の経済情勢の悪化、家族や地域の住民相互のつながりの希薄化、ホームレスに対する社会的な排除等が背景となって、ホームレス問題が顕在化してきたと指摘されており、こうした要因や背景を踏まえた総合的かつきめ細かなホームレス対策を講ずる必要がある。
 特に、ホームレス対策は、ホームレスが自らの意思で安定した生活を営めるように支援することが基本である。このためには、就業の機会が確保されることが最も重要であり、併せて、安定した居住の場所が確保されることが必要である。その他、保健及び医療の確保、生活に関する相談及び指導等の総合的な自立支援施策を講ずる必要がある。なお、野宿生活を前提とした支援については、恒常的に実施するものではなく、あくまで緊急的かつ過渡的な施策として位置付ける必要がある。
 また、ホームレスの数の違い等ホームレス問題の状況は地方公共団体ごとに大きく異なっており、こうした地域の状況を踏まえた施策の推進が必要である。具体的には、ホームレス数が多い市町村においては、2の取組方針に掲げる施策のうち地域の実情に応じて必要なものを積極的かつ総合的に実施し、また、ホームレス数が少ない市町村においては、2の取組方針を参考としつつ、3の取組方針を踏まえ、広域的な施策の実施や既存施策の活用等を講じる。一方、国は、2の取組方針に掲げる施策に積極的に取り組むとともに、地域の実情を踏まえ、ホームレス数が少ない地方公共団体が取り組みやすいような、事業の要件緩和や既存事業への配慮等を検討する。
  各課題に対する取組方針
(1)ホームレスの就業の機会の確保について
 ホームレスの就業による自立を図るためには、ホームレス自らの意思による自立を基本として、ホームレスの個々の就業ニーズや職業能力に応じた対策を講じて、就業の機会の確保を図り、安定した雇用の場の確保に努めることが重要である。
 このため、就業による自立の意思があるホームレスに対して、国及び地方公共団体は、ホームレスの自立の支援等を行っている民間団体との連携を図り、求人の確保や職業相談の実施、職業能力開発の支援等を行うとともに、地域の実情に応じた施策を講じていくことが必要である。
 ホームレスの雇用の促進を図るためには、ホームレスに関する問題について事業主等の理解を深める必要があり、事業主等に対する啓発活動を行う。
 ホームレスの就業の機会を確保するためには、ホームレスの個々の就業ニーズや職業能力に応じた求人開拓や求人情報の収集等が重要であることから、ホームレスの就職に結びつく可能性の高い職種の求人開拓やインターネット等を活用した求人情報等の収集に努め、また、民間団体とも連携を図り、それらの情報提供に努める。
 ホームレスの就業ニーズを的確に捉えることができるように、自立支援センター等において、きめ細かな職業相談等を実施する。
 また、ホームレスの就職後の就業の安定を図るために、民間団体との連携を図り、必要に応じ、職場定着指導等の援助を行う。
 ホームレスの早期再就職の実現や雇用機会の創出を図るために、事業所での一定期間の試行雇用事業の実施により、ホームレスの新たな職場への円滑な適応の促進を図る。
 ホームレスの就業の可能性を高めるためには、求人側のニーズやホームレスの就業ニーズ等に応じた職業能力の開発及び向上を図ることが重要であり、技能の習得や資格の取得等を目的とした技能講習や職業訓練の実施により、ホームレスの職業能力の開発及び向上を図る。
 常用雇用による自立が直ちには困難なホームレスに対して、清掃業務や雑誌回収等の都市雑業的な職種の開拓や情報収集・情報提供等を行う。
 ホームレスの就業による自立を支援するに当たっては、民間団体を活用することも重要であることから、ホームレスに対する求人情報等の提供や技能講習等の実施に当たっては、民間団体の活用を図る。
(2)安定した居住の場所の確保について
 ホームレス対策は、ホームレスが自らの意思で自立して生活できるように支援することが基本であり、ホームレス自立支援事業等を通じて就労の機会が確保される等により、地域社会の中で自立した日常生活を営むことが可能となったホームレスに対して、住居への入居の支援等により、安定した居住の場所を確保することが必要である。
 このためには、国、地方公共団体等が連携した上で、地域の実情を踏まえつつ、公営住宅及び民間賃貸住宅を通じた施策の展開を図ることが重要である。
 中高年の単身者が多いホームレスの実態にかんがみ、ホームレス自立支援事業等を通じて就労の機会が確保されるなど、自立した日常生活を営むことが可能と認められるホームレスに対しては、地域の住宅事情、住宅のストックの状況等を踏まえつつ、公営住宅の事業主体である地方公共団体において、単身入居や優先入居の制度の活用等に配慮する。
 民間賃貸住宅に関わる団体に対し、以下の事項を要請する。
(ア) 自立した日常生活を営むことが可能と認められるホームレスが、地域における低廉な家賃の民間賃貸住宅に関する情報を得られるよう、これらの情報の提供について、自立支援センターその他福祉部局との連携を図ること。
(イ) ホームレスの大半が家族・親族との連絡が途絶えている実情にかんがみ、民間賃貸住宅への入居に際して必要となる保証人が確保されない場合において、民間の保証会社等に関する情報の提供について、自立支援センターその他福祉部局との連携を図ること。
(ウ) 研修等の場において、法の趣旨等を周知すること。
(3)保健及び医療の確保について
 ホームレスに対する保健及び医療の確保については、ホームレス個々のニーズに応じた健康相談、保健指導等による健康対策や結核検診等の医療対策を推進していくとともに、ホームレスの衛生状況を改善していく必要がある。このため、都道府県と市町村が連携し、ホームレスの健康状態の把握や清潔の保持に努めるとともに疾病の予防、検査、治療等が包括的にできる保健、医療及び福祉の連携・協力体制を強化することが重要である。
 また、ホームレスについては、年齢を問わず結核を発病しやすい者として疫学的に明らかになっていることから、結核のり患率の高い地域等、特に対策を必要とする地域において、保健所、医療機関、福祉事務所等と密接な連携を図り、効果的な結核対策を行うことが必要である。
 ホームレスの健康対策の推進を図るため、保健所等において窓口や巡回による健康相談、保健指導等を行うなど、個々のニーズに応じた保健サービスが提供できる相談及び指導体制を整備し、必要な人材を確保する。
 保健所等は、健康に不安を抱えるホームレスの疾病の発見に努めるため、健康相談等を積極的に実施し、医療の必要があると思われるホームレスが、適切な医療を受けられるよう福祉事務所等と密接な連携を図りながら医療機関への受診につなげる。さらに、これらの者について継続的な相談及び支援を実施する。
 結核にり患しているホームレスについては、服薬や医療の中断等の不完全な治療による結核再発や薬剤耐性化を防ぐために、訪問等による服薬対面指導等を実施する。
 ホームレスに対する医療の確保を図るため、医師法(昭和23年法律第201号)第19条第1項又は歯科医師法(昭和23年法律第202号)第19条第1項に規定する医師又は歯科医師の診療に応ずる義務について改めて周知に努め、また、無料低額診療事業(社会福祉法(昭和26年法律第45号)第2条第3項第9号に規定する無料低額診療事業をいう。以下同じ。)を行う施設の積極的な活用を図るとともに、病気等により急迫した状態にある者及び要保護者が医療機関に緊急搬送された場合については生活保護の適用を行う。
 保健所等は、ホームレスに対し保健医療サービスの充実が図られるよう、福祉事務所、民間団体、地域住民等と連携・協力し、ホームレスが自ら健康づくりを行えるよう支援する。
(4)生活に関する相談及び指導に関する事項について
 ホームレスに対する生活相談や生活指導を効果的に進めるためには、ホームレスの個々のニーズに応じた対策が必要であり、こうしたニーズに的確に応えられるよう、関係機関の相互連携を強化した総合的な相談体制の確立が必要である。
 福祉事務所を中心として、関係機関や救護施設等社会福祉施設が相互に連携して総合的な相談及び指導体制を確立する。
 その際、それぞれの相談機能に応じて必要な人材を確保するとともに、研修等により職員の資質向上を図る。
 ホームレスは、野宿生活等により健康状態が悪化しているケースが多く、身体面はもちろん、精神面においても対応が必要な場合がある。これらのことから、健康相談だけでなく、特にホームレスに対する心のケアについても精神保健福祉センターや保健所等の協力を得て、相談事業の中に含めて行う。
 各地方公共団体は、社会福祉協議会、社会福祉士会、NPO、ボランティア団体等の民間団体をはじめ、民生委員及び児童委員、地域住民等との連携・協力による積極的な街頭相談を実施し、具体的な相談内容に応じて福祉事務所や公共職業安定所等の関係機関への相談につなげる。
 特に、炊き出し等ホームレスが集まるような機会を捉え、積極的に街頭相談を行う。
 相談を受けた機関は、生活相談を受けるだけでなく、相談結果により自立支援センターへの入所指導、シェルターの利用案内、その他福祉施策の活用に関する助言、多重債務問題等専門的な知識が必要な事例に対する専門の相談機関の紹介等、具体的な指導を行うとともに、関係機関に対し連絡を行う。
(5)ホームレス自立支援事業及びホームレスの個々の事情に対応した自立を総合的に支援する事業について
 自立支援事業について
 ホームレスに対し、宿所及び食事の提供、健康診断、生活に関する相談及び指導等を行い、自立の意欲を喚起させるとともに、職業相談等を行うことにより、ホームレスの就労による自立を支援する自立支援事業を実施する。
(ア) 自立支援事業は、自立支援センターの利用者に対し、宿所及び食事の提供等日常生活上必要なサービスを提供するとともに、定期的な健康診断を行う等必要な医療等の確保を行う。
(イ) 自立支援事業においては、ホームレスの個々の状況に応じた自立支援プログラムの策定等を行い、また、公共職業安定所との密接な連携の下で職業相談等を行う等積極的な就労支援を行う。
(ウ) 社会生活に必要な生活習慣を身につけるための指導援助を行うとともに、住民登録、職業斡旋、求人開拓等の就労支援、住宅保証人の確保、住宅情報の提供その他自立阻害要因を取り除くための指導援助を行う。
(エ) 自立支援事業により就労した者の就労後のアフターケアに十分配慮するとともに、利用期間中に就労できなかった者に対する処遇の確保にも努める。
(オ) 自立支援事業の実施主体については、市に限ることなく、都道府県も対象とすることを検討し、また、事業運営については、社会福祉法人等への委託を行う等民間団体の活用を図る。
(カ) 自立支援としての効果や入所者への処遇の確保に十分配慮しつつ、地方公共団体が取り組みやすいような事業の見直しを検討する。
(キ) 自立支援センター等の設置に当たっては、地域住民の理解を得ることが必要であり、そのために地域住民との調整に十分配慮する。
 個々の事情に対応した自立を総合的に支援する事業について
 ホームレスは大別すると、就労する意欲はあるが仕事が無く失業状態にある者、医療や福祉等の援助が必要な者、一般社会生活から逃避している者という3つのタイプがあるが、これらに社会生活への不適応、借金等による生活破たん、アルコール依存症等個人的要因も付加されて複雑な問題を抱えているケースも多い。これらの者に対する対策を講じるに当たっては、ホームレスの実態を十分に把握し、ホームレスのタイプに応じた適切な施策を実施する必要がある。
(ア) 就労する意欲はあるが仕事が無く失業状態にある者については、まずは、就業の機会の確保が必要であり、職業相談、求人開拓等の既存施策を進めるなど、各種の就業対策を実施する。
 また、常用雇用による自立が直ちには困難なホームレスに対して、清掃業務や雑誌回収等の都市雑業的な職種の開拓や情報収集・情報提供等を行う。
 さらに、自立支援センター入所者に対しては、職業相談等により就労による自立を図ることや、また、自立支援センターに入所していない者に対しては、総合的な相談事業の実施等により、雇用関連施策と福祉関連施策等の有機的な連携を図りながら、きめ細かな自立支援を実施する。
(イ) 医療や福祉等の援助が必要な者については、保健所における巡回検診や福祉事務所における各種相談事業等を積極的に行うとともに、無料低額診療事業を行う施設の積極的な活用等対応の強化を図る。このうち、疾病、高齢等により自立能力に乏しい者に対しては、医療機関や社会福祉施設への入所等既存の施策の中での対応を図る。
(ウ) 一般社会生活から逃避している者に対しては、相談活動を通し社会との接点を確保するなど、社会生活に復帰させるように努める。
(エ) これら以外にも、ホームレスは様々な個人的要因が複合的に絡み合って複雑な問題を抱えているため、個々のケースごとに関係機関との密接な連携の下、柔軟に対応する。
(6)ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者が多数存在する地域を中心として行われるこれらの者に対する生活上の支援について
 ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者としては、一般的には現に失業状態や不安定な就労関係にあり、かつ、定まった住居を喪失し不安定な居住環境にある者等が想定される。
 これらの者に対しては、就業の機会の確保を図ることが必要であるとともに、シェルター等による居住の場所の確保等、野宿生活にならないような施策を実施することが必要である。
 ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者が多数存在する地域において、それらの者がホームレスとならないよう、国及び地方公共団体は相互の連携を図り、職業相談等の充実強化を図る。
 ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある日雇労働者の就業の可能性を高めるために、技能講習により技術革新に対応した新たな技能や複合的な技能を付与し、また再就職の実現や雇用機会の創出を図るため、事業所での一定期間の試行雇用事業を実施する。
 現下の厳しい経済情勢による仕事の減少や簡易宿泊所の建て替え等による宿泊代の上昇等により、簡易宿泊所での生活が困難な者が野宿生活になることもあるため、シェルター等による居住の場所の確保を図る。
 また、ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある日雇労働者に対しても、ホームレスと同様、関係機関と関係団体が連携しながら、積極的な街頭相談を実施し、具体的な相談内容に応じて福祉事務所や公共職業安定所等の関係機関への相談につなげ、野宿生活に至ることのないように配慮する。
(7)ホームレスに対し緊急に行うべき援助に関する事項及び生活保護法による保護の実施に関する事項について
 ホームレスに対し緊急に行うべき援助について
 ホームレスの中には、長期の野宿生活により、栄養状態や健康状態が悪化している場合があり、こうした者に対しては医療機関への入院等の対応を緊急に講じることが必要となってくる。
(ア) 病気等により急迫した状態にある者及び要保護者が医療機関に緊急搬送された場合については、医療機関等との連絡体制を整えるなど連携を図ることにより、早急に実態を把握した上で、生活保護による適切な保護に努める。
 福祉事務所は、治療後、再び野宿生活に戻ることのないよう、関係機関と連携して、自立を総合的に支援する。
(イ) 居所が緊急に必要なホームレスに対しては、シェルターの整備を行うとともに、適切な処遇を確保することに留意しつつ無料低額宿泊事業(社会福祉法第2条第3項第8号に規定する無料低額宿泊事業をいう。以下同じ。)を行う施設を活用し、これらの施設への入居を図ることとする。
(ウ) 福祉事務所や保健所等における各種相談事業を通じて、緊急的な援助を必要としているホームレスの早期発見に努めるとともに、発見した場合には、関係機関等に速やかに連絡するなど、早急かつ適切な対応を講じる。
 生活保護法による保護の実施に関する事項について
 ホームレスに対する生活保護の適用については、一般の者と同様であり、単にホームレスであることをもって当然に保護の対象となるものではなく、また、居住の場所がないことや稼働能力があることのみをもって保護の要件に欠けるということはない。こうした点を踏まえ、資産、稼働能力や他の諸施策等あらゆるものを活用してもなお最低限度の生活が維持できない者について、最低限度の生活を保障するとともに、自立に向けて必要な保護を実施する。
 この際、福祉事務所等保護の実施機関においては、以下の点に留意しホームレスの状況に応じた保護を実施する。
(ア) ホームレスの抱える問題・状況(精神的・身体的状況、日常生活管理能力、金銭管理能力、稼働能力等)を十分に把握した上で、自立に向けての指導援助の必要性を考慮し、適切な保護を実施する。
(イ) 就労の意欲と能力はあるが失業状態にあり、各種就労対策を実施しても就労が困難であると判断される者については、当該地域に自立支援センターがある場合には、自立支援センターへの入所を検討する。
 自立支援センターにおいて、結果的に就労による自立に結びつかず退所した者については、改めて保護の要否を判断し、必要な保護を行う。
(ウ) ホームレスの状況(日常生活管理能力、金銭管理能力等)からみて、直ちに居宅生活を送ることが困難な者については、保護施設や無料低額宿泊事業を行う施設等において保護を行う。この場合、関係機関と連携を図り、居宅生活へ円滑に移行するための支援体制を十分に確保し、就業の機会の確保、療養指導、金銭管理等の必要な支援を行う。
(エ) 居宅生活を送ることが可能であると認められる者については、当該者の状況に応じ必要な保護を行う。この場合、関係機関と連携して、再びホームレスとなることを防止し居宅生活を継続するための支援や、居宅における自立した日常生活の実現に向けて就業の機会の確保等の必要な支援を行う。
(8)ホームレスの人権の擁護に関する事項について
 基本的人権の尊重は,日本国憲法の柱であり,民主主義社会の基本でもある。ホームレスの人権の擁護については,ホームレス及び近隣住民の双方の人権に配慮しつつ,以下の取組により推進することが必要である。
 ホームレスに対する偏見や差別意識を解消し,人権尊重思想の普及高揚を図るための啓発広報活動を実施する。
 人権相談等を通じて,ホームレスに関し,通行人からの暴力,近隣住民等からの嫌がらせ等の事案を認知した場合には,関係機関と連携・協力して当該事案に即した適切な解決を図る。
 自立支援センターやシェルター等のホームレスが入居する施設において、入居者の人権の尊重と尊厳の確保に十分配慮するよう努める。
(9)地域における生活環境の改善に関する事項について
 都市公園その他の公共の用に供する施設を管理する者は、当該施設をホームレスが起居の場所とすることによりその適正な利用が妨げられているときは、福祉部局等と連絡調整し、ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ、当該施設の適正な利用を確保するために、以下の措置を講ずることにより、地域における生活環境の改善を図ることが重要である。
 施設内の巡視、当該施設を占拠する者に対する物件の撤去指導等を適宜行う。
 アのほか、必要と認める場合には、法令の規定に基づき、監督処分等の措置をとる。
(10)地域における安全の確保等に関する事項について
 地域における安全の確保及びホームレスの被害防止を図るためには、警察が国、地方公共団体等の関係機関との緊密な連携の下に、ホームレスの人権に配慮し、かつ、地域社会の理解と協力を得つつ、地域安全活動、指導・取締り等を実施していくことが重要である。
 パトロール活動を強化する等により、地域住民等の不安感の除去とホームレス自身に対する事件・事故の防止活動を推進する。
 地域住民等に不安や危害を与える事案、ホームレス同士による暴行事件等については、速やかに指導・取締り等の措置を講じるとともに警戒活動を強化して再発防止に努める。
 緊急に保護を必要と認められる者については、警察官職務執行法(昭和23年法律第136号)等に基づき、一時的に保護し、その都度、関係機関に引き継ぐ等、適切な保護活動を推進する。
(11)ホームレスの自立の支援等を行う民間団体との連携に関する事項について
 ホームレスの自立を支援する上で、ホームレスの生活実態を把握しており、ホームレスに最も身近な地域の社会福祉協議会、社会福祉士会、NPO、ボランティア団体、民生委員及び児童委員等との連携・協力が不可欠である。特にNPO、ボランティア団体は、ホームレスに対する生活支援活動等を通じ、ホームレスとの面識もあり、個々の事情に対応したきめ細かな支援活動において重要な役割を果たすことが期待される。
 地方公共団体は、ホームレスと身近に接することの多い、社会福祉協議会、社会福祉士会、NPO、ボランティア団体、民生委員及び児童委員等との定期的な情報交換や意見交換を行う。
 また、行政、民間団体、地域住民等で構成する協議会を設け、ホームレスに関する各種の問題点等について議論し、具体的な対策を図る。
 地方公共団体は、民間団体等に対して、実施計画や各種の施策や取組みについて情報提供を行うほか、各団体間の調整、団体からの各種の要望に対する行政担当者や専門家による協議を行うなど各種の支援を行う。
 また、ホームレスに対し、地方公共団体が行う各種の施策について、これらの民間団体に運営委託を行うなど、その能力の積極的な活用を図る。
(12)その他、ホームレスの自立の支援等に関する基本的な事項について
 近年の福祉行政をめぐる様々な課題の背景として、核家族化の定着や地域住民の相互のつながりの希薄化が指摘されている。ホームレス問題についても、失業等に直面した場合に、こうした家族の扶養機能や地域の支援機能等の低下の中で、家族や地域のセーフティネットが十分に機能しなくなっているという背景があり、問題をホームレスに特化したものとして考えるだけでなく、社会全体の問題として捉える必要がある。
 こうしたホームレス問題の解決を図るためには、ホームレスの自立を直接支援する施策を実施するとともに、新たなホームレスを生まない地域社会づくりを実現するため、地域福祉の推進を図ることが重要である。
 地域福祉の総合的かつ計画的な推進を図るため、住民の主体的な参加による都道府県地域福祉支援計画や市町村地域福祉計画の策定を促進する。
 NPOや地域住民等によるボランティアの幅広い参加により、地域福祉を住民全体で支え合う「共助」の社会の構築を目指し、NPO等が活動しやすい環境づくりを支援する。
 民生委員及び児童委員活動の円滑な遂行及び充実を図るとともに、研修等の推進を通じて、委員の資質の向上を図る。
 痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者等のうち、判断能力が不十分なものに対して、福祉サービスの利用支援や日常的金銭管理等の援助を行う地域福祉権利擁護事業の利用の推進を図る。
  ホームレス数が少ない地方公共団体の各課題に対する取組方針
 ホームレス数が少ない地方公共団体においては、問題が顕在化していないこと等から行政や地域住民の意識も低く、関係団体の活動も低調となっており、さらに、近年の厳しい財政状況の下で、ホームレス対策に消極的なところが多く見られる。
 しかしながら、現下の厳しい経済情勢の下、今後もホームレス問題の一層の顕在化が見込まれるため、ホームレスの数が少ない段階で、きめ細かな施策を実施することにより問題の早期解決を図ることが重要である。
 このため、ホームレス数が少ない地方公共団体においても、以下の点を踏まえ、積極的にホームレス対策を講ずる必要がある。
(1)地域に根ざしたきめ細かな施策を必要とするホームレス対策は、本来、市町村が中心となって実施すべきであるが、市町村レベルではほとんどホームレスがいない場合には、広域市町村圏や都道府県が中心となって、施策を展開することも必要であり、特に、施設整備については、広域的な視野に立った活用を検討する。
(2)ホームレスのニーズを的確につかむためには、相談事業の実施が不可欠であり、福祉事務所の窓口相談だけでなく、関係団体と連携しながら積極的に街頭相談を実施するとともに、個々のニーズに応じて、雇用や住宅、保健医療等の関係部局と連携して対応する。
(3)ホームレス対策の多くは、既存の福祉や雇用等の各種施策の延長上にあり、既存施策の実施や充実の際に、ホームレス問題にも配慮して実施する。
  総合的かつ効果的な推進体制等
(1)国の役割と連携
 国はホームレス対策に係る施策や制度の企画・立案を行う。また、効果的な施策の展開のための調査・研究、ホームレス問題やそれに対する各種の施策についての地域住民に対する施策の普及、啓発、または関係者の研修等を行う。
 さらに、地方公共団体や関係団体におけるホームレスの自立の支援に関する取組み等を支援するため、各種の情報提供を積極的に行うとともに、財政上の措置その他必要な措置を講ずるよう努める。
(2)地方公共団体の役割と連携
 都道府県は、本基本方針に即して、市町村におけるホームレス対策が効果的かつ効率的に実施されるための課題や方策を検討した上で、必要に応じてホームレス対策に関する実施計画を策定し、それに基づき、地域の実情に応じて計画的に施策を実施する。
 その際、広域的な観点から、市町村が実施する各種施策が円滑に進むよう、市町村間の調整への支援、市町村における実施計画の策定や各種施策の取組に関する情報提供を行うなどの支援を行うとともに、必要に応じて、自らが中心となって施策を実施する。
 市町村は、本基本方針や都道府県の策定した実施計画に即して、必要に応じてホームレス対策に関する実施計画を策定し、それに基づき、地域の実情に応じて計画的に施策を実施する。
 その際、ホームレスに対する各種相談や自立支援事業等の福祉施策を自ら実施するだけでなく、就労施策や住宅施策等も含めた、ホームレスの状況に応じた個別具体的かつ総合的な施策を実施するとともに、こうした施策の取組状況等について積極的に情報提供を行う。
 なお、実施計画を策定しない地方公共団体や策定過程にある地方公共団体においても、必要に応じて、積極的にホームレスの自立支援に向けた施策を実施する。
 また、地方公共団体において、ホームレスの自立支援に関する事業を実施する際には、関係団体と十分連携しつつ、その能力の積極的な活用を図る。
(3)関係団体の役割と連携
 ホームレスの生活実態を把握し、ホームレスにとって最も身近な存在である社会福祉協議会、NPO、ボランティア団体等の民間団体は、ホームレスに対する支援活動において重要な役割を担うとともに、地方公共団体が行うホームレスに対する施策に対し、事業の全部又は一部の委託を受けるなど、行政の施策においても重要な役割を担っている。
 その際、関係団体は、自らが持っている既存の施設や知識、人材等を積極的に活用して事業を行うとともに、地方公共団体が自ら実施する事業についても積極的に協力を行う。
  基本方針のフォローアップ及び見直し
 法附則第3条において、法の施行後5年を目途として、その施行の状況等を勘案して検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられることになっていることから、本基本方針についても策定後5年を目途に見直しをすることとする。
(1)本基本方針の運営期間は5年間とする。
 ただし、特別の事情がある場合には、この限りではない。
(2)5年間の運営期間が経過した際には、基本方針の見直しを行うこととなるが、見直しに当たっては、運営期間の満了前に基本方針に定めた施策についての政策評価等を行う。
 この政策評価等は、ホームレスの数、野宿生活の期間、仕事や収入の状況、健康状態、福祉制度の利用状況等について、再度実態調査を行い、この調査結果に基づき決定する。
(3)評価結果については、関係者や有識者等の意見を聴取するほか、公表することとする。
(4)実態調査の結果や関係者、有識者等の意見については、基本方針や各種施策の在り方についての見直しに際して参考にするとともに、必要に応じて、地方公共団体、民間団体等からの意見も聴取する。

第4 都道府県等が策定する実施計画の作成指針
 法第9条第1項又は第2項の規定に基づき、地方公共団体が実施計画を策定する場合には、福祉や雇用、住宅、保健医療等の関係部局が連携し、次に掲げる指針を踏まえ策定することが適当である。また、実施計画を策定した都道府県の区域内の市町村が実施計画を策定する場合には、この指針のほかに、都道府県の実施計画も踏まえ策定することが適当である。
  手続についての指針
(1)実施計画の期間
 実施計画の計画期間は、5年間とする。ただし、特別の事情がある場合には、この限りではない。
(2)実施計画策定前の手続
 現状や問題点の把握
 実施計画の策定に際しては、ホームレス実態調査における当該地域のデータ等によりホームレスの数や生活実態の把握を行うとともに、関係機関や関係団体と連携しながら、ホームレスの自立支援に関する施策の実施状況について把握し、これに基づきホームレスに関する問題点を把握する。
 基本目標
 アの現状や問題点の把握に基づいて、実施計画の基本目標を明確にする。
 関係者等からの意見聴取
 実施計画の策定に当たっては、当該地域のホームレスの自立の支援等を行う民間団体等ホームレス自立支援施策関係者からの意見を幅広く聴取するとともに、当該地域の住民の意見も聴取する。
(3)実施計画の評価と次期計画の策定
 評価
 実施計画の計画期間の満了前に、当該地域のホームレスの状況等を客観的に把握するとともに、関係者の意見を聴取すること等により、実施計画に定めた施策の評価を行う。
 施策評価結果の公表
 アの評価により得られた結果は公表する。
 次の実施計画の策定
 アの評価により得られた結果は、次の実施計画を策定するに際して参考にする。
  実施計画に盛り込むべき施策についての指針
 実施計画には、第3の2に掲げたホームレス対策の推進方策に関する各課題に対する取組方針を参考にしつつ、当該取組方針のうち地方公共団体において実施する必要がある施策や、地方公共団体が独自で実施する施策を記載する。
  その他
 実施計画の策定や実施計画に定めた施策の評価等に際しては、1(2)ウ及び1(3)アにより、関係者の意見の聴取等を行うほか、公共職業安定所、公共職業能力開発施設、都道府県警察等の関係機関とも十分に連携する。
 また、都道府県においては、この実施計画の作成指針の他に、区域内の市町村が実施計画を策定する際に留意すべき点がある場合には、その内容を都道府県が策定する実施計画に記載する。


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