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石綿(アスベスト)問題に関する環境省の過去の対応について

別添−(2)

石綿(アスベスト)問題に関する
環境省の過去の対応について

−精査報告−




平成17年9月
環境省



−目次−


I はじめに
II 社会における予防的アプローチの浸透
III 排出削減のための政策手法の多様化及び省庁連携
IV まとめ


(添付資料)
 資料1 予防的アプローチについて言及がある国際条約等
 資料2 リオ宣言以降における予防的アプローチの展開
 資料3 予防的アプローチが導入された我が国の環境法規の例
 資料4 汚染物質の管理・低減に関する新たな政策手法の例
 資料5 環境庁が行った関係省庁との連携の取組



I はじめに

1.精査の目的
 本年8月26日に取りまとめ公表した 「石綿(アスベスト)問題に関する環境省の過去の対応について −検証結果報告−」(以下、「一次検証結果報告」という。)では、大気汚染防止法の改正による規制制度の導入が平成元年度まで行われなかったことについて、次のような原因があると考えられ、この点について今後精査することと結論づけたところである。

(1) 完全な科学的確実性がなくても、深刻な被害をもたらすおそれがある場合には対策を遅らせてはならないという考え方(予防的アプローチ)が、環境省においても、社会全体においても浸透していなかった。
(2) 当時の環境庁の任務は、汚染物質が工場外に出ることの防止(エンド・オブ・パイプ対策)に限られるという認識が自他ともに強かった。そして、石綿は主として工場内の労働災害の問題(工場近隣の局所汚染もその延長線上の問題)として認識された結果、総合的に石綿問題を捉える視点に欠け、環境庁の限られた所掌の範囲内でしか対策を行っていなかった。環境汚染につながる物質であれば、工場内で使用されているものであれ、製品に含有しているものであれ、積極的に対応すべきところ、関係各省との情報の共有や働きかけ、協同作業が十分でなかった。

 本報告書は、この検証結果を受け、平成元年より前及び平成元年以後の各時点における(1)社会における予防的アプローチの浸透、及び(2)排出削減のための政策手法の多様化等の動向について、過去の行政文書等により精査を行うことにより、過去の対応を検証した。

2.精査の対象期間
 第一次検証結果報告の第一部において対象とされた昭和47年から現在までの期間、とりわけ同報告において精査が必要とされた平成元年までの期間を対象とする。

3.精査の方法
 予防的アプローチ、政策手法の多様化等の、今回の精査対象の事項に関連する文献(審議会答申、検討会報告書等)、及び第一次検証で用いた書類(通達・通知、関係資料等)を点検し行った。


II 社会における予防的アプローチの浸透
*1

(1)リオ宣言における予防的アプローチの規定とその影響
 予防的アプローチとは、環境影響の発生の仕組みや影響の程度等について完全な科学的確実性がなくても、深刻な被害をもたらすおそれがある場合には対策を遅らせてはならないとする考え方であり、この考え方が広く認知されたのは平成4年の地球サミットにおける「環境と開発に関するリオ宣言」以降である。この宣言では、予防的アプローチの考え方を、「深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合」においては、「完全な科学的確実性の欠如」が、「費用対効果の大きな対策」を、「延期する理由として使われてはならない」と整理している。
 リオ宣言における予防的アプローチの規定は、国際的にも国内的もその後の環境政策の考え方に大きな影響を与えており、我が国で環境基本法(平成5年公布)に基づき制定された環境基本計画(平成6年制定、平成12年改正)にも、予防的アプローチの考え方が取り入れられている*2。

(2)平成元年に至るまでの時点における予防的アプローチの浸透
 ひるがえって、平成4年のリオ宣言以前における予防的アプローチの考え方の成立・受容の状況をみると、この考え方は、1980年代以降、一部の国際条約等の中でしだいに取り入れられてきたものの、我が国の法制上、予防的アプローチが受け入れられる状況になかったことが確認できる。
 主要な国際条約等の中で最も早く「予防」の概念が用いられたのは「オゾン層の保護のためのウィーン条約」(昭和60年採択)及び「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」(昭和62年採択)である。これらの条約等の前文では「予防措置」の語が用いられ、オゾン層の破壊の仕組みについての科学的な確実性が十分でない状況の中で条約が合意されたことの意義が評価されている。ただし、これらの条約等においては、後にリオ宣言でなされるような、「予防」の考え方についての明示的な定義・条件づけは、まだ行われていない。
 また、地域的な動向としては、「北海の保護に関する第2回国際会議の閣僚宣言」(昭和62年)において、北海の海洋生態系保護の原則として「予防的行動の原則」が規定され、続く「第3回閣僚宣言」(平成2年)ではこの原則の適用の継続が謳われている。
 一方、我が国においては、当時の環境政策の基本法であった「公害対策基本法」(昭和42年)には、予防的アプローチに関連する規定は存在しなかった。また、個別分野に関する法規をみると、「公害健康被害の補償等に関する法律」(昭和48年)等において「予防」の語の使用例があるが、これらの法律において「予防」は被害の未然防止という意味で用いられており、「予防的アプローチ」が意味するような、科学的不確実性が存在する場合の対応の在り方といった理念は導入されていない。
 このように、予防的アプローチに関する内外の動向を振り返ると、大気汚染防止法の改正により石綿を取り扱う工場・事業場に関する規制措置が導入された平成元年に至るまでの時点では、国際的には、環境政策に予防的アプローチを導入することについて、ある程度認知が進んでいたが、我が国においては、予防的アプローチが一般的に受け入れられる状況ではなかったといえる。

(3)大気汚染防止法による石綿規制に至るまでの経緯と予防的アプローチ
 石綿の健康影響に関して、大気汚染防止法による石綿の規制が実施される平成元年時点までに環境庁が有識者による検討会での検討を経て得ていた評価は、概略、次のようなものであった。(詳細については、第一次検証結果報告を参照。)

 (1) 第一期(昭和47年度〜昭和55年度)
 今後、環境中への排出抑制のための具体的な対策を講じるためには、更なる石綿の健康影響に関する知見、発生源及び環境大気中の濃度に関する詳細なデータが必要。
 (2) 第二期(昭和56年度〜昭和59年度)
 かつての石綿取扱い作業従事者と比べ、現在の作業従事者の安全上のリスクははるかに小さく、一般国民にとってのリスクは、もしあるとしても現在の作業従事者に比べ、著しく小さい。
 未然予防の観点から、石綿を適正に管理し、排出を抑制することが望ましい。
 一般環境における発がん性の危険性の評価は困難。したがって、この環境濃度レベルで国民の健康にどういう影響を与えるかについては、生物学的、疫学的な研究を長期にわたって行うことが必要。
 (3) 第三期(昭和60年度〜平成元年度)
 健康影響面からの排出抑制の目標を定量的に設定するのは現時点では困難。しかし、現在の一般環境においては、石綿に起因する肺がん及び中皮腫のリスクは小さいと考えられる。
 しかし、昭和62年度の発生源精密調査の結果をみると、排出抑制の十分な実施が疑われる場合のあることが判明した。このような濃度が今後継続した場合、発生源周辺においてリスクが相対的に高まることとなる。そのため、石綿製品製造工場において適正な維持管理等の実施を確保するよう、所要の措置を講ずることが必要。
 このように、環境庁は、科学的知見や実態把握の進展度合いに応じ漸進的に対応を強化する姿勢の下に、各時点における科学的知見から推定可能な一般国民におけるリスクの程度を見極めつつ、未然予防の観点も踏まえ、地方公共団体等への通知による排出抑制配慮の要請(昭和60年2月、昭和62年3月)や排出抑制マニュアルの作成(昭和60年3月)を進め、さらには大気汚染防止法の改正による石綿製造・加工工場等に対する規制の導入(平成元年6月)に至っている。
 平成4年のリオ宣言以前、予防的アプローチが我が国の社会において受容されていない段階においては、環境規制を実施するためには、環境汚染による被害が顕在化しているか、又は将来被害が生じる蓋然性が相当に高いことを規制を立案する側が立証せざるを得ない状況にあり、石綿については当時このような立証を行うことは困難であった。このため、環境庁が予防的アプローチに基づいて規制を行うことは難しく、規制の導入に代えて、上述のような、各時点における科学的知見等に応じた漸進的な政策対応が講じられていたものと考えられる。


III 排出削減のための政策手法の多様化及び省庁連携

(1)エンド・オブ・パイプ規制
 環境庁は、昭和46年の発足以降、その初期の時点において、工場・事業場から環境中への汚染物質の排出を防止する手法としては、汚染物質が工場・事業場の建屋ないし敷地から一般環境中に移行する箇所(煙突等の気体排出口、排水口等)で排出レベルを規制する手法(いわゆるエンド・オブ・パイプ規制)を、主たる規制手法として活用してきた。
 こうした姿勢の根拠は、当時の法令上に確認することができる。
 すなわち、昭和42年に制定された公害対策基本法では、国の行う規制措置について、「政府は、公害を防止するため、事業者の遵守すべき基準等を定める等により、大気の汚染、水質の汚濁又は土壌の汚染の原因となる物質の排出等に関する規制の措置を講じなければならない」(第10条第1項)と規定されている。
 これを、平成5年に制定された環境基本法における規定(「国は、環境保全上の支障を防止するため、次に掲げる規制の措置を講じなければならない。」「一 大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、……その他の行為に関し、事業者の遵守すべき基準を定めること等により行う公害を防止するために必要な措置」(第21条第1項及び同項第1号))と比較すると、公害対策基本法の時代においては、環境庁が排出事業者に対して行うべき措置は、基本的にエンド・オブ・パイプ規制に限られると強く通念されていたことがわかる。環境基本法においては、エンド・オブ・パイプ規制以外の規制手段も、「事業者の遵守すべき基準を定めること等」として一括され、エンド・オブ・パイプ規制と同等の重みづけがなされている。
 また、省庁再編により環境政策の一元化がなされた現行の環境省設置法に基づく所掌事務の範囲には、従来からの工場・事業場の排出規制に加え、例えば、事業活動に伴い環境に排出される化学物質の量等の把握等に関する事務や、環境の保全の観点からの化学物質の審査及び製造、輸入、使用その他の取扱いの規制に関する事務等が追加され、より広範な政策手法を用いて汚染物質対策を実施することが可能となっている。
 このように、当時の法令における規定の下、「環境庁の任務は、汚染物質が工場外に出ることの防止(エンド・オブ・パイプ対策)に限られる」という認識が自他ともに強く、石綿問題についても当時の環境庁の所掌の範囲内の対応にとどまったものと考えられる。

(2)政策手法の多様化
 一方、平成元年の石綿規制の導入以降の動向を見ると、上述のとおり環境基本法の制定や省庁再編を経て環境庁(環境省)の任務の範囲が拡大されていくのと並行して、大気環境政策及び化学物質管理政策の分野では、新たな汚染問題に適切に対処するべく、汚染物質の排出の特性等に応じ、政策手法の多様化が図られてきたことが確認できる。
 具体的には、平成8年には、大気汚染防止法が改正され、石綿が使用されている建築物の解体等の作業に対する規制として、石綿の排出・飛散を防止するための作業方法に関する基準が導入された。また、平成11年には、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善に関する法律」(化管法)法が制定され、化学物質による環境への負荷の低減の観点から、環境汚染物質の排出・移動に係る登録制度が導入された。さらに、平成16年には、再度大気汚染防止法が改正され、揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制制度として、工場・事業場の気体排出口における排出規制と、事業者の創意工夫に基づく自主的取組を組み合わせた対策手法が導入された。*3
 このような政策手段の多様化により、大気環境政策及び化学物質管理政策において、よりきめ細かい効果的な政策対応が進められてきたといえる。

(3)省庁連携
 石綿に係る大気汚染防止対策について、環境庁は、報告書の送付、文書の発出、連絡会議の開催により、提供節目ごとに関係省庁に環境庁が有する情報を提供するよう努めてきた*4が、(1)で述べたように当時の所掌の範囲を越えて他省庁に働きかけを行ったものではなかった。


IV まとめ


1.社会における予防的アプローチの浸透について

 予防的アプローチ(予防的方策)の考え方が広く認知されたのは平成4年の地球サミットにおける「環境と開発に関するリオ宣言」以降であった。同宣言は、国際的にも国内的もその後の環境政策の考え方に大きな影響を与えており、環境基本法に基づく環境基本計画にも予防的アプローチの考え方が取り入れられている。
 一方、大気汚染防止法による石綿規制が導入された平成元年に至るまでの時点では、国際的には、環境政策に予防的アプローチを導入することについてある程度認知が進んでいたが、我が国においては、予防的アプローチが受け入れられる状況ではなかった。
 そのような状況においては、環境汚染による被害が顕在化しているか、又は将来被害が生じる蓋然性が相当に高いことを規制を立案する側が立証せざるを得なかったが、石綿については当時このような立証を行うことは困難であったため、環境庁が予防的アプローチに基づいて規制を行うことは難しく、規制の導入に代えて、各時点における科学的知見等に応じた漸進的な政策対応が講じられていた。

2.汚染物質の排出削減のための政策手法の多様化及び省庁連携について

 環境庁は、昭和46年の発足以降、その初期の時点において、工場・事業場から環境中への汚染物質の排出を防止する手法としては、汚染物質が工場・事業場の建屋ないし敷地から一般環境中に移行する箇所(煙突等の気体排出口、排水口等)で排出レベルを規制する手法(いわゆるエンド・オブ・パイプ規制)を、主たる規制手法として活用してきた。
 こうした姿勢の根拠は、当時の法令(公害対策基本法、環境庁設置法)上に確認することができる。これらの規定の下、「環境庁の任務は、汚染物質が工場外に出ることの防止(エンド・オブ・パイプ対策)に限られる」という認識が自他ともに強く、石綿問題についても当時の環境庁の所掌の範囲内の対応にとどまったものと考えられる。
 一方、平成元年以降の動向を見ると、環境基本法の制定や省庁再編を経て環境庁(環境省)の任務の範囲が拡大されていくのと並行して、大気環境政策及び化学物質管理政策の分野では、新たな汚染問題に適切に対処するべく、汚染物質の排出の特性等に応じ、政策手法の多様化が図られ、よりきめ細かい効果的な政策対応が進められてきた。
 なお、石綿に係る大気汚染防止対策について、環境庁は、報告書の送付、文書の発出、連絡会議の開催により、節目ごとに関係省庁に環境庁が有する情報を提供するよう努めてきたが、当時の所掌の範囲を越えて他省庁に働きかけを行ったものではなかった。


資料1
 予防的アプローチについて言及がある国際条約、国内法等

○オゾン層の保護のためのウィーン条約(昭和60年採択) 前文
「……国内的及び国際的に既にとられているオゾン層の保護のための予防措置に留意し、……」

○オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(昭和62年採択) 前文
「……この物質の世界における総放出量を衡平に規制する予防措置をとることによりオゾン層を保護することを決意し、……国内的及び地域的に既にとられているある種のクロロフルオロカーボンの放出を規制する予防措置に留意し、……」

○北海の保護に関する第2回国際会議の閣僚宣言(昭和62年採択) 16
「我々は……難分解性であり、有害で、生物濃縮しやすい汚染物質の排出を、排出源において、適用可能な最善の技術及びその他の適切な手法を用いて削減することにより、北海の海洋生態系を保護するという原則を受け入れる。この原則は、特に、海洋の生物資源に対する確実な損害ないし悪影響がこれらの物質によって生じると推定する理由がある場合には、排出と影響の間に因果関係があるという科学的証拠がない場合にも適用される。(「予防的行動の原則」)」

○北海の保護に関する第3回国際会議の閣僚宣言(平成2年採択) 前文
「排出と影響の間に因果関係があるという科学的な証拠がない場合にも、難分解性であり、有害で、生物濃縮しやすい物質の潜在的な有害影響を避けるための行動をとるという、予防原則の適用を継続する。」

○環境と開発に関するリオ宣言(平成4年採択) 第15原則
「環境を保護するため、予防的方策は、各国により、その能力に応じて広く適用されなければならない。深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きな対策を延期する理由として使われてはならない。」

○1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の1996年の議定書(平成8年採択) 前文及び第3条
「この議定書の締結国は、海洋環境を保護し並びに海洋資源の持続的利用及び保存を促進する必要性を強調し、1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の枠組みにおける成果、特に、予防及び防止に基づく取組方法への進展に留意し、……」
「締結国は、この議定書を履行するに当たり、廃棄物その他の物の投棄からの環境の保護に対し予防的取組方法を適用し、海洋環境に持ち込まれた廃棄物その他の物が害をもたらすおそれがある場合には、投入及びその影響との間の因果関係を証明する決定的な証拠があるか否かを問わず、この考え方により適当な防止措置をとる。」

○国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約(平成10年採択) 第14条第3項
「この条約の適用上、次の情報は、秘密の情報とはみなさない。」
「(d) 予防方法に関する情報(有害性の分類、危険性及び関連する安全性についての助言を含む。)」

○生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタへナ議定書(平成12年採択) 第1条
「この議定書は、環境及び開発に関するリオ宣言の原則15に規定する予防的な取組方法に従い、特に国境を越える移動に焦点を合わせて、現代のバイオテクノロジーにより改変された生物であって生物の多様性の保全及び持続的な利用に悪影響(人の健康に対する危険も考慮したもの)を及ぼす可能性のあるものの安全な輸送、取扱い及び利用の分野において十分な水準の保護を確保することに寄与することを目的とする。」

○残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(平成13年採択) 第1条
「この条約は、環境及び開発に関するリオ宣言の原則15に規定する予防的な取組方法に留意して、残留性有機汚染物質からの人の健康及び環境を保護することを目的とする。」

○持続可能な開発に関する世界首脳会議実施計画(平成14年採択) III. 23
「……環境と開発に関するリオ宣言の第15原則に記されている予防的取組方法に留意しつつ、透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価手順と科学的根拠に基づくリスク管理手順を用いて、化学物質が、人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されることを2020年までに達成することを目指す。……」

○環境基本法(平成5年) 第4条
「環境の保全は、……科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として、行わなければならない。」

○旧(第1次)環境基本計画(平成6年) 第2部第1節、第3部第1章(1)
「……環境保全のための予防的方策をとる必要があるとの認識は国際的に共通のものとなり、……」
「……科学的知見を充実していくとともに、重大な、あるいは取り返しのつかない破壊のおそれがある場合には、科学的な確実性が十分にないことをもって環境悪化を予防するための費用対効果の高い手段をとることを延期する理由とすべきでないという考え方に基づいて施策を進める。」

○現行(第2次)環境基本計画(平成12年) 第2部第2節1(3)
「汚染者負担の原則、環境効率性、予防的な方策及び環境リスクの四つの考え方は、今後の環境政策の基本的な指針と考えます。」
「ウ 予防的な方策
 環境問題の中には、科学的知見が十分に蓄積されていないことなどから、発生の仕組みの解明や影響の予測が必ずしも十分に行われていないが、長期間にわたる極めて深刻な影響あるいは不可逆的な影響をもたらすおそれが指摘されている問題があります。このような問題については、完全な科学的証拠が欠如していることを対策を延期する理由とはせず、科学的知見の充実に努めながら、必要に応じ、予防的な方策を講じます。」

○大気汚染防止法(平成8年改正) 第18条の20
「有害大気汚染物質による大気の汚染の防止に関する施策その他の措置は、科学的知見の充実の下に、将来にわたつて人の健康に係る被害が未然に防止されるようにすることを旨として、実施されなければならない。」

○特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成11年) 第1条
「この法律は、……事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境保全上の支障を未然に防止することを目的とする。」


資料2
 リオ宣言以降における予防的アプローチの展開

 予防的アプローチが国際的に広く認知されたのは、平成4年の地球サミットにおける「環境と開発に関するリオ宣言」以降である。この宣言では、「予防」に関する考え方を、「深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合」においては、「完全な科学的確実性の欠如」が、「費用対効果の大きな対策」を、「延期する理由として使われてはならない」と示している。
 また、平成4年以降に制定された環境保全に関する国際条約等においては、このリオ宣言における規定に言及する等によって、科学的不確実性が存在する場合についての考え方が記述されている例が多数存在する*5。
 一方、我が国においては、平成5年に成立した環境基本法において、「環境の保全は、……科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として、行わなければならない」(第4条)と規定されており、予防的アプローチの考え方が反映されている。また、同法に基づく環境基本計画では、第一次の計画(平成6年)において、「重大な、あるいは取り返しのつかない破壊のおそれがある場合には、科学的な確実性が十分にないことをもって環境悪化を予防するための費用対効果の高い手段をとることを延期する理由とすべきでないという考え方に基づいて施策を進める。」と規定され、予防的アプローチが施策の基本的な方向として取り入れられた*6。また、現行の第二次計画(平成12年)では、「予防的な方策」は、「今後の環境政策の基本的な指針」のひとつとして明示的に位置づけられている。
 また、個別分野の法律についても、近年、大気環境対策や化学物質管理対策の分野では、予防的アプローチを踏まえた法改正や新規立法が行われている。*7
 このように、平成4年の「リオ宣言」を契機として、国際協定等の分野では、環境に関する予防的アプローチが次第に確立・定着する方向にある。また、我が国の国内環境施策においても、予防的アプローチを踏まえた法整備等が行われるようになり、現在に至っている。


資料3
 予防的アプローチが導入された我が国の環境法規の例

 平成8年の大気汚染防止法改正においては、「有害大気汚染物質については、長期暴露に伴う健康影響が顕在してから対策に取り組むのでは手遅れになるため、科学的知見の充実に努めるとともに、健康影響の未然防止の観点に立って、可能な対策から着実に実施していくことが必要である」*8との観点から、有害大気汚染物質の排出抑制に関する規定が導入された。

 平成11年に成立した「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化管法)においては、「人の健康及び生態系への影響を未然に防止するため、有害性がある化学物質による環境への負荷を可能な限り低減すべきである」*9との観点から、環境汚染物質の排出・移動に係る登録制度が導入された。

 平成15年の「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)の改正においては、「難分解・高蓄積性物質について、その製造・使用実態等から判断して必要な場合には、人の健康に係る長期毒性又は生活環境に係る動植物のうち高次捕食動物への慢性毒性……の有無が明らかになるまでの間も、法令に基づく一定の管理の下に置く必要がある」*10等の観点から、難分解性及び高蓄積性の性状を有する既存化学物質に関する製造・輸入実績数量の届出制度等が導入された。



資料4
 汚染物質の管理・低減に関する新たな政策手法の例

 工場・事業場から環境中への汚染物質の排出を防止する手法については、前章で述べたように、初期のエンド・オブ・パイプ規制を中心とした手法から、施設構造等に関する規制、作業方法に関する規制、排出口規制と自主的取組の組合せといった拡張がこれまでに図られてきたところである。
 これに加えて、近年においては、単に排出規制の手法が拡張しているだけでなく、以下に掲げるように、化学物質の製造・輸入といった上流側での規制の強化、排出規制とは異なる手法による化学物質管理・低減方策の導入、各物質の有害性や環境濃度レベル等の知見の程度の差に応じた多段階的な物質リストの作成、事業者の自主的な取組の促進など、汚染物質の管理・低減に関する環境政策の手法そのものが多様化しており、よりきめ細かくかつ効果的に課題に対応できるように変化し続けているところである。

 水環境の分野では、従来からの環境基準項目に加え、平成5年に「要監視項目」(人の健康の保護に関する物質ではあるが、公共用水域等における検出状況等から見て、直ちに環境基準とはせず、引き続き知見の集積につとめるべき物質)[現在27項目]、平成10年に「要調査項目」(水環境を経由して人の健康や生態系に有害な影響を与えるおそれ(=「環境リスク」)はあるものの比較的大きくはない、又は環境リスクは不明であるが、環境中での検出状況や複合影響等の観点から見て、環境リスクに関する知見の集積が必要な物質)[現在 300項目]をそれぞれ設定し、リストアップされた項目について、公共用水域等の水質測定の実施、毒性情報の収集等の措置を順次講じているところである。

 平成8年の大気汚染防止法の改正においては、有害大気汚染物質による健康影響を未然に防止する観点から、健康リスクの程度に応じ汚染物質を3種類に分類してリストアップし、この分類分けに応じて、モニタリングの実施、事業者の自主的取組の促進、工場・事業場における排出抑制基準の設定等の対策を講じる対策枠組みが構築されている。なお、この制度の対象となる有害大気汚染物質の選定に当たっては、国際がん研究機関 (IARC)における評価結果等を活用するとともに、外国及び国際機関における対策の実施状況を勘案して健康リスクの評価が行われた。

 平成11年に制定された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化管法)では、行政庁が事業者からの届出や推計に基づき化学物質の排出量等を把握・集計・公表し、事業者による化学物質の自主的な管理を促進する制度が導入されている。

 平成13年に採択された「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)では、環境中での残留性が高い有機汚染物質(POPs)について、国際的に協調して廃絶、削減等を行う観点から、締結各国に対し、POPsの製造・使用の原則禁止、ダイオキシン類等の非意図的生成物質の排出の削減、POPsを含むストックパイル・廃棄物の適正管理及び処理、及びこれらの対策に関する国内実施計画の作成等の対策が求められている。我が国は平成14年に本条約を締結し、国内実施計画を平成17年6月にとりまとめたところである。

 平成15年に改正された「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)では、従来からの人の健康被害防止の観点からの新規化学物質の事前審査・規制の仕組みに加え、動植物の生息・生育に与える影響の観点からの審査・規制が導入されたほか、難分解性かつ高蓄積性であって毒性が不明な既存化学物質について製造等の実績数量の報告を求める制度等が導入されている。



資料5
 環境庁が行った関係省庁との連携の取組

 石綿に係る大気汚染防止対策について、環境庁が行った関係省庁との連携の取組は次の通りである。

 昭和60年2月、59年度の検討会報告書を関係省庁(厚生省、通商産業省、労働省、建設省、運輸省)に送付し、「アスベストによる大気汚染が長期的には問題となる可能性があるので、本報告書の趣旨を踏まえて石綿の大気環境中への排出の抑制等について配慮するよう取り計らう」ことを依頼。

 昭和62年3月には60年度の測定結果を、昭和63年11月には同年度の検討会報告書を関係省庁(厚生省、通商産業省、運輸省、労働省、建設省)に送付し、石綿の大気環境中への排出の抑制等について配慮が一層徹底されることを依頼。

 昭和62年10月、文部省に対して、学校施設の改修・解体をする場合の石綿の大気中への排出抑制が適切に実施されるよう要請。

 昭和63年2月、厚生省とともに、都道府県・政令市に対し、「建築物内に使用されているアスベストに係る当面の対策」の通知を発出し、適切な指導を要請。

 大気汚染防止法による石綿規制の導入後の平成2年10月、関係省庁*11に呼びかけて石綿対策関係省庁連絡会議(以下「連絡会議」と呼ぶ。)を開催し、関係省庁相互間において必要な情報交換、意見交換を図った。その後、連絡会議は平成5年5月及び阪神淡路大震災後の平成7年2月に開催されている。また、平成7年2月には、大震災被災地における関係省庁の石綿飛散防止対策をとりまとめ、会議名義で文書を公表している。



*1 本章の記述全般について、環境省が実施した「環境政策における予防的方策・予防原則のあり方に関する研究会」の報告書(平成16年10月)において整理された、国際条約等に関する資料を参照した。国際条約等における予防的アプローチの具体的な規定ぶりについては、資料1を参照されたい。
*2 リオ宣言以降における予防的アプローチの展開の詳細については資料2を参照されたい。
*3 最近の政策手法の多様化の事例については、資料4を参照されたい。
*4 取組の詳細については資料5を参照されたい。
*5 例えば、「気候変動に関する国際連合枠組条約」(平成4年採択)、「生物の多様性に関する条約」(平成4年採択)、「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約」(平成10年採択)、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(平成13年採択)、「持続可能な開発に関する世界首脳会議実施計画」(平成14年採択)等。
*6 第一次環境基本計画 第2部第1章(1)
*7 例えば、大気汚染防止法(平成8年改正)、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化管法、平成11年成立)、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法、平成15年改正)など。具体的な内容については資料3を参照されたい。
*8 「今後の有害大気汚染物質対策のあり方について(中間答申)」(平成8年1月中央環境審議会)
*9 「今後の化学物質による環境リスク対策の在り方について(中間答申)」(平成10年11月中央環境審議会)
*10 「今後の化学物質の審査及び規制の在り方について(答申)」(平成15年2月中央環境審議会)
*11 防衛施設庁、文部省、厚生省、通商産業省、労働省、建設省及び環境庁。平成7年2月の緊急対策文書には運輸省も参加。

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