厚生労働省

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アレルギー性鼻炎の代替医療(民間医療)

千葉大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科

岡本 美孝

○はじめに

民間医療(代替医療)とは、通常多くの医師が医療施設において施行したり指導する医療以外の医療で、その多くのものは作用機序が科学的には検証されていないものと考えられています。アレルギー性鼻炎に対してもいわゆる健康雑誌やインターネット上には多数の代替医療に関連した宣伝記事や情報があふれています。

米国で比較的最近行われた調査では、国民の40〜60%が何らかの民間医療を受けているとされていますが、日本国内でもかなり増えていると考えられています。私達は、厚生労働省の研究班で平成12年に山梨県で、約1,500名のアレルギー性鼻炎の、患者さんを対象に民間医療の実態調査を行いました。また、平成19年からは全国110ヶ所以上の耳鼻咽喉科の診療所、病院で調査を行っています。全国調査はこれまで成人アレルギー性鼻炎患者7,400名、小児アレルギー性鼻炎患者は3,170名を対象に行っています。成人では19%の患者さんが、小児では7%の患者さんが民間医療を受療していました。地域差は花粉症が比較的少ない鹿児島では受療率は6%程度で低値でしたが、その他の地域は20−30%程度でした。山梨県では平成12年と同一の医療機関群で行われましたが、民間医療の受療率は19%から28.5%と増加が見られていました。民間医療を受療した理由としては安全性が高いと判断、安価、医療機関の受診が面倒といった理由が主ですが、10万円以上の高額を出費している方では、代替医療の副作用が少ないと思う、医師の治療の効果に疑問、医師の治療の副作用が心配といった理由が増えていました。治療の内容を知ったのは家族、友人、あるいはテレビを介したものが主でした。患者さんの民間医療の効果についての評価は、「少しある」も含めて30%以下のことがほとんどでした。

○民間医療の内容は

民間医療の内容は多彩です。米国では薬草関連、カフェイン関連、その他ホメオパチー、灸、アロマ療法、マッサージなどが中心のようです。

国内ですが、いわゆる健康雑誌やインターネットの情報から代表的なものを集めてみますと表1のようになります。また、前述の私達が行った民間医療の調査時の結果でも、その内容は非常に多彩でした。表2に示しますが、このうち頻度の高いものとして、漢方(医師の処方によらないものです)、甜茶、鼻スチーム療法、鼻内洗浄、クロレラ、ハリ、花粉グミ、シジュウム茶、灸、ツボ、情報水、シジュウム入浴剤、波動水、スギの葉エキスなどでしたが、昨年から行っている調査では、甜茶、ヨーグルト、乳酸菌剤やアロマ療法の増加が目立っています。

○民間医療の効果は

民間医療の科学的評価についてはほとんど行われていません。その方法が必ずしも容易ではないこと、コスト、時間がかかることも原因です。前述の平成12年の私達の調査では、アンケートにより患者さんが実感している民間医療の効果を調べたところ、治療内容によって異なりますが、代表的なものに対しては、漢方薬では効果有50%、効果無35%、不明15%、甜茶に対しては効果有14%、効果無51%、不明35%、鼻スチーム療法は効果有46%、効果無44%、不明10%といったところでした(表3)。すなわち、患者さん自身の評価ですが、漢方やスチーム療法などでは40%以上の有効率も示されましたが、多くのものは20〜30%以下でした。また、有効率が高いものでも、逆に効果を認めなかったとする率が高いのも特徴でした。また、鼻スチーム療法は温度を守れば副作用もなく、どうしても薬物治療を受けたくないという例えば妊婦さんには使用中の一時的効果は期待されます。ただ、なかにはリバウンド現象といって使用後一過性に鼻閉が強くなる方もいます。使用頻度が増加しているヨーグルト、乳酸菌剤ですが、一般医療機関を受診しているアレルギー性鼻炎患者さんの調査では、効果ありと判断されている方は30%以下です。

○民間医療の抱える問題点

確かにストレスの改善がはかられ、体への有害成分が含まれていなければ民間医療に問題は無いとも考えられます。しかし、花粉症に効果があるといったことを公言し販売するなら、その疾患に対する有効性を示す必要がありますが、残念ながら民間医療の多くに十分な効果の根拠があるとは言えません。通常の薬物の開発では、患者さんにも投与する医師にもわからないようにしたその薬物と偽薬を投与し、それぞれの効果を評価した後に、投与されたものが本当の薬物だったのか、偽薬だったのかを明らかにして薬物の有効性を調べる盲検試験というものが行われます。この時、偽薬でも医師から投与された場合、ある程度の「有効性」が認められることが少なくありません。これをプラセボ効果と言いますが、特にアレルギー性鼻炎(花粉症を含む)ではプラセボ効果が高いことが知られています。偽薬に30%を越える高い有効性、すなわちプラセボ効果がみられた報告もあります。薬物の治療効果を証明するためにはこのような盲検試験が必要です。

その他、安全性が危惧される民間医療も指摘されています。例えば、薬草療法で比較的広く用いられているephedraは重篤な心血管障害、神経障害を引き起こす可能性があり、また、漢方薬には重金属や毒性物質の汚染の可能性があること、同じ薬草でもそれぞれの産地によって組成の違いがあることなども意外に知られていません。民間医療が持つ危険性の情報は、患者さんにほとんど情報は伝わっていません。

また、患者さんが代替医療に頼った結果、通常の医療に対する受け入れが低下してしまい、コンプライアンスが低下してしまうことが指摘されています。

○患者さんへ

花粉症は死に至る病気ではありませんが、自然に治るという事は少なく、難治性であり、かつ長期間にわたって服用する通常の治療薬の副作用に対する不安などがあるのも事実です。これまでの民間医療の調査報告をみますと、やはり通常の治療に対しての効果が不十分な患者さんが民間医療を求める傾向が強いことが示されています。最近は、お茶、乳酸菌、いわゆるサプリメントなどにも花粉症の症状の緩和作用が指摘されています。盲検試験でも効果が認められた報告もありますが、その結果はわずかですし、有用性の確認はまだまだ検討の積み重ねが必要です。花粉症の治療には現在いろいろな特徴を持った薬剤があり、それぞれの症状に合わせて医師から処方出来るようになっています。眠気や口渇が生じやすい方には、このような副作用の出現が非常に少ない薬剤もあります。また、薬物治療以外にも減感作療法などその効果が科学的に評価されている治療法があります。花粉症の有効な治療へのなによりの近道は、御自身の症状、特にどんな症状に困っているのかを医師に相談し、治療法について医師から十分な説明を受け、症状に合わせた治療を受けることです。また、平成22年のスギ花粉飛散数は、全国的に昨年より少なく、最近10年間の平均値を下回るところが多いと考えられていますが、少ないと言っても花粉症の患者さんに症状を引き起こすには十分な量の花粉が飛散します。花粉数が半分になったからといって、症状の強さも半分になる訳ではありません。花粉飛散数は参考にしながらも、症状に合わせた治療をきちんと受けましょう。

一方、花粉症の自然改善は中・高年になるまでは多くありませんし、少ない花粉飛散の年でも初めて発症する方もいない訳ではありません。昨年まで症状がなかった方でもくしゃみや水様性鼻水、眼のかゆみなどが続いた場合には医療機関への受診をおすすめします。また、一旦、強い症状が出て鼻の過敏性が強くなってしまうとなかなかやっかいです。少しでもおかしいと思われたら早期の治療の開始がシーズン中の症状の緩和に重要です。

表1

《花粉症に対する民間療法》

〈健康食品〉

霊芝(抗アレルギー作用),甜茶(化学伝達物資遊離抑制)
シソ(TNFα抑制),羅漢果(活性酵素抑制),南瓜種(IgE産生抑制)
アマランス(抗ヒスタミン作用),紅花,パパイアエキス,クロレラ,
花粉食,ニンジン紅茶,シジュウム茶,スギの葉エキス,花粉すっきりグミ,
優喉茶,ヘテロフィラ,天然にがり,アロマテラピー,エゾウコギ,
リノレン酸摂取,リノール酸摂取制限,うずらの卵のホモゲナイズ,
天然ミネラルエキス

〈一般食品〉

ヨーグルト・乳酸菌剤・ジャガイモ(ビタミンC)
ネギ・ニンニク・ニラ・ショウガ・ウド・フキ・シナモン(身体を温め冷えに強くなり、花粉症発作に効果),
ピーナッツ・干し柿・ゴマ・ユリ根(鼻閉による乾燥症状に効果)
クズ・ゴボウ・ハッカ・キクの花・ミョウガ・スイカ・ナシ・柿(急性副鼻腔炎の合併に効果)
山芋・ウコギ・ドジョウ・エビ(花粉症発作のだるさに効果)
わかめ,大根おろし,カフェイン

表2

《受療した代替医療の種類》

成人アレルギー性鼻炎患者数7,401名調査:受療率19%

回答数

表2

表3

《民間療法の患者さん自身の評価(未記入除く)》

  効果有 効果無 不明
漢方 50% 35% 15%
甜茶 14% 51% 35%
鼻スチーム療法 46% 44% 10%
鼻洗浄療法 46% 54% 0%
クロレラ 8% 44% 48%
ハリ 44% 44% 11%
花粉グミ 29% 64% 7%
シソジュース 18% 36% 45%
シジュウム茶 40% 40% 20%

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