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輸血用血液製剤の安全性に関する報告書の送付について


輸血用血液製剤の安全性に関する報告書の送付について
(平成7年6月12日)
(薬企第47号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省薬務局企画課長通知)
 血液事業の推進については、平素より格別のご高配を賜っているところである。
 さて、今般、血液問題について幅広く検討するため、昨年12月に血液問題検討会を設置し、当面、製造物責任法制定を契機に、輸血用血液製剤の安全性確保対策について本検討会において検討し、別添のとおり報告書が取りまとめられたところである。
 貴職におかれては、本報告書の内容を踏まえ、輸血用血液製剤の安全性確保対策の一層の推進等につき、特段のご配慮を願いたい。
 なお、別添報告書については、日赤赤十字社事業局血液事業部長あて通知したのでご了知願いたい。
輸血用血液製剤の安全性に関する報告書の送付について
(平成7年6月12日)
(薬企第48号)
(日本赤十字社事業局血液事業部長あて厚生省薬務局企画課長通知)
 血液事業の推進につきましては、平素より格別のご高配を賜っているところであります。
 さて、今般、血液問題について幅広く検討するため、昨年12月に血液問題検討会を設置し、当面、製造物責任法制定を契機に、輸血用血液製剤の安全性確保対策について本検討会において検討し、別添のとおり報告書が取りまとめられたところであります。
 貴職におかれましては、本報告書の内容を踏まえ,輸血用血液製剤の安全性確保対策の一層の推進等につき、特段のご配慮をお願いします。
(別添)
輸血用血液製剤の安全性に関する報告書(平成7年6月)
1  はじめに
 わが国では、日本赤十字社を中心とした関係者のたゆまぬ努力により,輸血用血液製剤の供給が安定的に確保されている。
 今日、輸血用血液製剤はすべて国内献血によって賄われており、国内自給を支える献血制度は、安定供給及び安全性の確保に大きく貢献している。献血制度は、わが国の血液事業の文字通り根幹をなすもので、世界に誇り得るものである。
 また、無償で自発的に行われる献血は,安定供給及び安全性の確保に貢献するのみならず、倫理面においてもわが国の血液事業の倫理性を一層高めており、言わば人と人との連帯を示す行為として、その根底にある人々の善意は高く評価されなければならない。
 輸血用血液製剤の安全性に関しては、献血による国内自給のほか、血液検査を始めとする種々の方策の研究及び試行がなされ、また実施に移されてきた。その結果,わが国における安全性の確保対策は、世界的にも高い水準にある。
 しかしながら、それらの成果をもってしても、現在の科学技術の水準の下では、ウイルス等の感染や免疫反応等による副作用を、技術的に完全に排除することは困難である。
 その一方で、国民の輸血用血液製剤の安全性に対する意識は高まっており、適正使用と相俟って輸血用血液製剤の安全性確保は、今日的課題となっている。
 本検討会では、以上の背景を踏まえながら、輸血用血液製剤の安全性の確保に関する検討を鋭意行い、以下のような結論に達した。
2  輸血用血液製剤の安全性確保対策
 輸血用血液製剤の安全性を確保するには、製剤の調整過程での細菌混入の防止等の品質管理とともに、受血者への感染症の伝播や免疫反応等による副作用の防止が重要である。
 このため、問診で特定の疾病または危険因子を有することが明らかになった者を献血から排除すること、血液検査の結果から受血者にとって危険性があることが確認された場合や、採血後に当人より輸血に供せられるべきではないことが申し立てられた場合、当該血液を廃棄すること、移植片対宿主病(GVHD)予防のため、主治医の判断により製剤に放射線を照射することなどの対応がとられてきた。
 これらの対策が適切に行われることが、受血者の安全性確保にとって重要である。
(1) 献血者
 (1)  献血者の啓発、理解
 献血者からの採血に際しては,献血者自身の健康に悪影響を来さないよう十分な対応がとられることは当然であるが、他方、輸血用血液製剤は、患者の生命・健康に直接関わるものであり,受血者に対する安全性の確保に可能な限りの対応がなされなければならない。
 献血者には、献血の方法や危険性等に関する理解が必要であるが、併せて「受血者に安全な血液」の提供に関しても、正しい理解と認識があるべきであり、受血者の安全を考えた「自信のある献血」の姿勢が必要となる。
 このため、献血者に対して、問診の意義・目的や、検査を目的とした献血の危険性、後述の自己申告の重要性等が正しく理解される必要がある。
 また、広く国民に対しても、輸血用血液製剤の安全性に関する啓発を図り、献血の善意が受血者に伝わることが重要である。
 検査を目的とした献血は、善意の献血から程遠いものであり、感染初期の場合、検査による感染の事実の発見は困難で、受血者の安全を脅かす恐れが大きく問題がある。したがって、検査を目的とした献血は排除されねばならない。
 また、外国人等で、言語の障壁等のため問診による安全性の確認をなし得ない場合は、献血を受け入れない。
 献血者の同意に関しては、米国では、ア)血液に対し事実を応えたこと、イ)受血者の安全性確保の観点から献血できない条件を理解したこと、ウ)献血検査の結果等から,受血者に対してエイズやその他の疾病を感染させる危険性があることが明らかになった場合その血液は輸血に使用されないこと、などについて同意したことを署名により確認するという対応がとられており、これらのことは参考にすべきである。
 また、受血者に対して危険性があるため輸血に使用できない血液を、輸血の安全性の確保のための検査及び安全性の向上を目的とする研究のために使用することがあり得ることについて、献血者に対して説明をする必要がある。
 (2)  問診の実施
 輸血用血液製剤は、実施し得る全ての予防措置をとったとしても安全性が完全に確保されるものではないが、適切に問診及び検査等が実施されることで、受血者への感染症の伝播等のリスクを最小限に食い止めることは可能である。
 問診は病原体に対する実施可能なマススクリーニング法がある場合であっても、感染直後から抗原または抗体が検出できるまでの感染の事実を検知できない期間(ウインドウピリオド)における実施可能な唯一の排除方法であり、検査の限界を補う唯一の方法である。
 特に、今後のHIV感染の拡大の可能性を考えればその重要性はますます増大する。したがってHIVに感染している可能性のある者を献血から排除すべく、個人のプライバシーに十分な配慮を払いつつ、具体的に踏み込んだ問診を行うことも、受血者の安全を考慮すれば止むを得ない。この点既に外国の問診では、HIV感染の危険性に関してより具体的に聴取されており参考となる。
 問診は、また、エプスタイン・バーウイルスやヒトパルボウイルスB19、プリオン等現在ではマススクリーニングが不可能な病原体についても、その輸血を介する感染の危険性の唯一の排除方法である。
 さらに、マラリアやシャーガス病等についても、海外旅行者や海外で生活をした者等の増加とともにわが国においても感染の危険性が高まる可能性があり、今後問診に際して注意を払っていく必要がある。
 問診項目に関しては、問診について全国一定の質の確保を図る目的から、その項目は全国で統一されたものにすべきである。
 また、問診項目個々について「はい」なのか「いいえ」なのかを問われることが、問診を受ける者の各問診項目の内容に対する理解を一層確かなものとし、正確な回答に繋がると思われる。
 輸血後に発生した感染症等の原因精査のため、問診の記録を必要な期間保存しておく必要がある。
 なお別添の問診票は、前述の内容及び「4 個別の安全性確保対策」を踏まえたもので、参考例として示したものである。
 (3)  自己申告
 献血された血液の安全性について献血者本人が自信を持てないと再考した場合には、例えば献血後にそのことを申し立てる方法が用意されていることは、提供された血液の安全性を一層高めることになる。
 既にわが国においては、献血を終えた者からの、HIVに感染している恐れがある旨の申し出を電話によって受け付けてきた。
 わが国のHIV抗体陽性者率が上昇していることを考慮すれば、今後このような自己申告の重要性はますます高まっていくと考えられる。したがって、献血者にその趣旨及び重要性を十分に説明し、自己申告の実効性を高めていくことが必要である。
(2)  検査
 安全性確保の上で最も重要なのは、検査の充実である。
 これまで関係者の努力により、検査のための知識・技術の蓄積や人材の育成が行われてきた。
 (1)  検査項目
 わが国で実施されている検査項目は、現在の科学的知見及び技術水準の下では適切なものであり、各国と比較してもほぼ同様の項目が網羅されている。
 伝染の危険性のある病原体、或いはその可能性が否定されていない病原体で、実施可能なスクリーニング法がない場合として、例えば、エプスタイン・バーウイルスや、ヒトパルボウイルスB19、プリオン等が挙げられるが、現在のところこれらは問診で対応するほかに適切な方法は見当たらない。
 (2)  検査法
 わが国でなされている各検査法の感度、特異性や信頼性等は、現在の科学技術の水準の下では最善のものである。
 しかし、輸血用血液製剤の安全性向上に果たす検査の役割は大きく、技術の進歩に合わせて、試薬の変更等による検査法の改良や新たな検査法の導入等の検討は続けられるべきである。
 (3)  過去の献血時の検査結果
 検査には、検出限界の問題が常に伴うが、これを補うものとして、前述の問診や自己申告に加え、過去の献血時の検査結果の活用の有効性について、今後検討することが望ましい。
(3)  検査結果の通知
 検査の結果、献血者の健康にとって看過できない異常が見つかり、献血者への通知が必要とされる場合がある。
 しかし、その検査の医学的な意義や結果の持つ意味等について十分に説明がなされ得ない場合、いたずらに献血者の不安を招くのみである。また、その基準は輸血用血液製剤としての適否を判断するためのものであり、臨床の立場で診断をし、加療を要するか否かを判断する基準とは異なる。
 したがって、献血者に対する検査結果の通知については、以上の点を考慮し、仮に通知するにしても,献血者自身が適切に理解し得るように、十分な配慮が必要である。 また、医療機関を訪れる代わりに、検査を目的として献血する行為は、前述のとおり受血者の健康を脅かすものである。
 特にHIVに関しては、受血者の安全を期するため、検査を目的とした者を可能な限り排除することが必要である。また、HIV抗体検査は輸血用血液製剤の安全性を確保するために行うものであり、診断を目的として実施するものではない。したがって、HIV抗体の検査結果を通知しない方針であることを明言することが現状においてとり得る最善の策である。HIV感染の診断のための検査を希望する場合には、保健所や専門の医療機関等を利用すべきであり、保健所においては居住地にかかわらず匿名で検査を受けられる。
 また、HTLV―Iに関しては、抗体陽性の者への通知のあり方について、本人の精神的苦痛に対する十分なカウンセリング等検討すべき点が残されている。現在厚生科学研究によって適切な方策が研究されているところであり、その結果を待って慎重に対応する必要がある。
3  警告表示
 現在の科学技術水準の下で、輸血用血液製剤によるウイルス等の感染症や免疫反応等による副作用の危険性を完全に排除することはできない。したがって、こうした危険性について警告が適切に表示されていることが必要であり、使用上の注意が分かりやすく記載された文書が添付されるなどの対応が求められる。
 感染の危険性に関して、たとえ問診や検査がなされている感染症であっても、輸血による伝播の危険性は完全には排除されていないので、それらについても記載しておく必要がある。
 また、副作用等の発症に関して、これに対する予防措置等の対応をとり得る場合には、その内容が具体的に説示されているべきである。
 それらが適切に表示されていれば、医師はそれに基づき適切な予防措置等を講じ得る。
 また、これに基づき、医師は患者に対して輸血の有効性と危険性を十分に説明し、患者の同意を得た上で使用することが可能となる。
4  個別の安全性確保対策
 輸血用血液製剤によって生じる個々の疾病の発生予防のための対応は、その危険性の防止を極端に図るとすれば、その一方で献血量の確保に困難を生じ、また、そのための費用負担が増嵩し、社会的に耐え難い非現実的なものとなる。
 したがって、個々の疾病の発生予防のための対応は、現在の科学及び技術水準等を基本として、献血量の確保や費用負担も視野に入れつつ、多面的・多角的に検討していかねばならず、その中でいわば「最善の選択」を行っていく必要がある。
(1) ウイルス
 (1)  B型肝炎ウイルス(HBV)
 わが国は、かつてHBVの高度感染地域であったし、現在もなお欧米と比較するとウイルス保有率は高い。
 すなわち、わが国でのウイルス保有率は約1%であるのに対して、欧米では約0.1%である。
 このような状況下で、輸血一単位当たりの危険率が平成5年の報告によれば、米国では0.0005%であるのに対し、わが国では0.000038%であることは、世界的にも高く評価される。わが国で実施されているHBs抗原とHBc抗体によるスクリーニングを組み合わせた方法が優れたものであることを示す結果である。
 しかし、まれではあるが、輸血後発症例が見られることも事実であり、輸血によるものかどうかも含め、その原因を究明し、変異株の検出のための検査方法の改善等技術の進歩に合わせて適切な対応を講じていくべきである。
 問診に際しては、6ヵ月以内に急性肝炎を発症した者やHBV保有者(キャリア)は、献血から排除する。
 また、1年以内の肝炎ウイルスキャリアとの親密な接触や、他人の血液や体液に暴露された可能性が考られる事例についても問診により排除し、ウインドウピリオドにおける感染を可能な限り防止する。
 (2)  C型肝炎ウイルス(HCV)
 平成5年度厚生科学研究報告によれば、輸血後感染の危険率は0.2%であり、また、輸血一単位当たりの危険率は、他の報告によれば、わが国では0.046%、米国では0.03%である。
 わが国は世界に先駆けてHCV抗体のスクリーニングを実施に移し、また、第一世代から第二世代への検査法の進歩とともに、輸血を介した感染防止の状況には顕著な改善が認められており、これらの実績は世界的にも高く評価される。
 なお、C型肝炎は慢性化し易く、ウイルスキャリアになりやすい。したがって、C型肝炎の既往歴のある者は、問診に際して献血から排除する。また、ウイルスキャリアを問診に際して排除する。さらに、HBVと同様、1年以内の肝炎ウイルスキャリアとの親密な接触や、他人の血液や体液に暴露された可能性が考えられる事例についても問診により排除し、ウインドウピリオドにおける感染を可能な限り防止する。
 (3)  上記以外の肝炎ウイルス
 A型肝炎ウイルス(HAV)は、通常経口摂取により感染するが、潜伏期から急性期にかけてウイルス血症が起こり、血液により感染が起こり得る。
 したがって、家族内発生がある場合等では、1ヵ月以内は献血から排除するのが適切である。
 その他の肝炎の既往歴のある者は、検査法の一般化されていない潜在性の肝炎ウイルス等の感染を防ぐ意味から、問診に際して排除するのが適当である。
 また、潜在性の肝炎ウイルス等の感染者からの感染を防止するため、ALTが測定されているが,現時点でとり得る最も適切な方法である。
 (4)  ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
 問診により、HIVに感染している危険性のある者を献血から排除する。
 具体的には、1年以内に不特定の者と性的接触のあった者や、売(買)春行為をした者、麻薬や覚せい剤を不正に注射したことがある者等を献血から排除すべきである。
 また、ウインドウピリオドの危険性を献血者に十分に理解してもらうことが大切である。
 さらに、自己申告の実効性を高めていく必要がある。
 わが国のHIV抗体検査は、感度、特異性ともに世界的に優れた方法である。
 抗体検査導入以降これまでのところ輸血によるHIV感染者の報告は見られない。
 将来、技術の進歩により、ウインドウピリオドを短縮し得る、より感度の高いマススクリーニング法の開発がなされた場合には、偽陽性による血液の廃棄が過度にならないことや費用、信頼性等を考慮しつつその導入を検討すべきである。
 (5)  HTLV―I/II
 検査によりHTLV―I抗体陽性血を除く必要がある。
 現在までのところ、第II世代試薬による抗体検査導入後は、輸血によるHTLV―I感染者は見られない。
 HTLV―IIと疾病発生との関連については、未だ明確になっていない。
 また、現行のHTLV―I抗体検査は、多くの場合HTLV―II抗体と交差反応をするが、わが国の調査によれば、HTLV―I抗体陽性血のHTLV―II抗体の有無を見ると,HTLV―II抗体は現時点では見られない。
 さらに、米国ではHTLV―IIの感染の危険性の高い者は静脈注射による薬物濫用者とされているが、わが国における麻薬の問題は米国と比べ未だ大きくないと考えられる。
 これらのことから、HTLV―II抗体検査の導入は現在は必要な状況ではないと考えられる。
 (6)  ヒトパルボウイルスB19
 適切なマススクリーニング法は、現時点では世界的にも確立されていない。
 わが国では、成人の約50%でヒトパルボウイルスB19に対する抗体が陽性である。
 通常、ウイルス血症の頻度は低く(わが国の報告によれば流行期で1/4000である。)、また国民の抗体陽性率は高いので、輸血によるヒトパルボウイルスB19の感染の危険性は非常に低い。また、仮に症状が出現しても、急性に経過し、かつ重症化しない。
 ただし、溶血性貧血の患者、胎児、免疫抑制の状態にある者等には危険性が高いとされている。
 これらのことから、当面、流行を把握するとともに、感染者と接触のあった者を除くべく、具体的には1ヵ月以内に家族にリンゴ病(伝染性紅斑)を発症した者がいる場合には、問診に際し排除する。
 また、今後、適切なマススクリーニング法が確立されれば、医師の要望に応えて、前述のような危険性の高い者に対して抗原陰性血を提供できる体制を整えることが期待される。
 (7)  サイトメガロウイルス(CMV)
 わが国では、成人のほぼ90%がCMVの抗体を保有していることから、免疫機能の正常な受血者では輸血を介した感染による症状の発生頻度は低い。また、仮に症状が出現したとしても軽症であり、輸血の必要性を考え併せるならば問題とすべきものではない。
 しかも、CMV抗体陰性血を全ての受血者に対して提供するには、血液確保量を現在の10倍量確保する必要があり、実際上も不可能である。
 しかし、CMV抗体陰性で未熟児や免疫抑制の状態にある者等にCMVが感染すると、肝炎、肺炎、胃腸炎等を引き起こし、生命を脅かす危険性がある。
 したがって、それらの高い危険性を伴うと判断される輸血に際してはCMV抗体陰性血を用いるのが合理的かつ実際的で、事実わが国を含む各国では医師からの要望に応えてCMV抗体陰性血が提供されており、これが実現可能な最も適切な供給方法である。
 (8)  エプスタイン・バーウイルス(EBV)
 適切なマススクリーニング法は、現時点では世界的にも確立されていない。
 わが国では、生後2〜7歳ではほぼ80%が、成人ではほぼ100%が抗体陽性であり、輸血によるEBV感染は一般的に不顕性である。
 このため、輸血に伴う疾病発生の報告は、わが国では見られない。しかし、外国では伝染性単核症や肝炎の発症が数例報告されている。
 当面は問診により、伝染性単核症の症状消退後6ヵ月間は献血から排除することが望ましい。
 (9)  その他のウイルス
 麻疹、風疹、流行性耳下腺炎の治癒後3週間以内の者は、献血から排除し、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルスの感染を予防する。
 輸血歴、臓器移植歴のある者は、未知のウイルス等の感染を防ぐ意味から、問診に際して排除する。
(2) 細菌等
 (1)  エルシニア・エンテロコリティカ
 輸血を介したエルシニア・エンテロコリティカの感染についてわが国では報告例がない。ただし、米国の報告によれば、死亡の危険率は輸血一単位当たりおよそ1/900万である。
 現在、スクリーニングに適した信頼性のある検査法はない。
 したがって、当面は、問診によって危険性のある者を排除するほかないが、献血量の確保等を考慮すれば、1ヵ月以内に発熱を伴う食中毒様の激しい下痢の見られた者を献血から排除するのが適切である。
 また、エルシニア・エンテロコリティカが著しく増殖し、エンドトキシンが相当量に達した場合に受血者の健康に対する影響が生じることから,「赤血球M・A・P」の使用期間が21日以内にされた。
 (2)  梅毒スピロヘータ
 梅毒は血小板製剤及び新鮮血の使用により起こり得る。特に血小板製剤の使用が増加している今日では、血清梅毒反応陽性血を排除することは今後も必要である。
 また、過去に梅毒等性病に罹ったり、またはその治療を受けたことのある場合は、他の性行為感染症の罹患の可能性もあるものとして、それらの者を献血から排除することは、安全性を高めることに役立つと考えられる。
 (3)  抜歯後の菌血症
 3日以内に抜歯した者は、菌血症を起こしている可能性があり、献血から排除すべきである。
(3) 原虫
 (1)  マラリア原虫
 輸血による感染頻度については、米国の報告によればおよそ100万単位当たり0.25である。
 わが国では、その頻度はこれよりさらに低いものと考えられているが、今後海外旅行者や海外で生活をした者等が増加するに伴い、輸血による感染の危険性が高まる懸念がある。
 このため、WHOの指定しているマラリア流行地域に旅行した者については1年間、それらの地域からの移住者については3年間、原則として輸血から排除する。
 また、まれにマラリア感染から10年以上経過した者の血液を介して感染したという報告もあることから、マラリアの既往歴のある者は、抗体の検査等適切なスクリーニング法による検査を行い得ない間は、献血から除外することが適切である。
(4)  今後問題となる可能性のある感染症
 (1)  トリパノソーマ/バベシア
 わが国では、現在のところ極めてまれな感染症であり、輸血による感染の報告はない。
 しかし、今後海外旅行者や海外で生活をした者等の増加に伴い、輸血による感染の危険性が問題となることも考えられる。
 現在のところ、信頼性のあるマススクリーニング法は確立されていない。 したがって、問診によりシャーガス病やバベシア症の既往歴のある者は献血から排除する。
 (2)  プリオン
 英国の報告によれば、輸血による感染は証明されていないが、その感染の危険については、未知の部分が残されている。
 スクリーニング法のない現在、問診によって以下のような、受血者に対して感染させる危険性のある者は献血から排除すべきである。
 すなわち、人由来の脳下垂体ホルモン剤の投与を受けたことがある者や、角膜や硬膜の移植手術を受けたことがある者から献血を受け入れるべきではない。
(5)  免疫反応等
 GVHDの可能性について警告することにより、医師が適切に予防措置を取り得るようにすべきである。
 溶血性副作用に関しては、脳床上重要な赤血球不規則抗体のスクリーニングを実施し、抗体を有する血液を排除する。
 非溶血性副作用に関しては、警告表示の中で過敏症やショック等の出現の危険性について注意を促す必要がある。
(6)  ワクチン、トキソイド及び抗血清
 不活化ワクチンやトキソイドの接種を受けた者からは、無症状で発熱もなければ、接種後24時間を経過すれば献血を受け入れてよい。例えば、インフルエンザ、日本脳炎、コレラ、B型肝炎、百日咳、A型肝炎、狂犬病、破傷風等が挙げられる。
 ただし、B型肝炎ワクチンと抗HBsヒト免疫グロブリンを併用した者は1年間は献血から排除する。
 また、狂犬病ワクチンに関しては、動物に噛まれた後にワクチンを接種された者からは、その後1年間献血を受け入れるべきではない。
 弱毒生ワクチンに関しては、黄熱、麻疹、ポリオ、おたふくかぜ、風疹、水痘、BCGの接種後4週間は献血から排除する。
 破傷風、蛇毒、ジフテリアの抗血清の投与を受けた者からは3ヵ月、抗HBsヒト免疫グロブリンの投与を受けた者からは1年間は献血を受け入れない。
5  輸血に伴う疾病発生の把握及び情報管理
 輸血用血液製剤が、それによる未知の感染症等の発生を完全に防止し、絶対の安全を確保し得るものではない以上、その危害の拡大を防止するための必要な対策を講ずるべく、輸血時及び輸血後の感染症等の発生を速やかに把握することが必要である。
 また、輸血に伴う感染症等は、たとえそれが既知のものであっても、病原体の変異や受血者の免疫応答の変動、さらには国際交流の活発化等の社会情勢の変化等に伴い、その発生率は変動し得るものである。
 したがって、常時その発生状況を確認し、データを管理するシステムが必要である。
 これにより適切な対応を速やかに取り得るとともに、得られたデータに基づき中長期的な安全対策を策定し得る。
 既に日本赤十字社では、このためのシステムが構築されているが、医療関係者の理解を得て、機能が更に充実・強化されることが望まれる。
6  技術の進歩・普及、新たな疾病への対応
 現行の安全対策は現時点における科学技術水準に鑑み、きわめて高いレベルにあるが、長期的、将来的には、より優れたスクリーニング技術の開発や病原体の変異、受血者の免疫応答の変動、未知の感染性因子の追求等今後も安全性確保の礎となるべき研究の推進が図られねばならない。
 また、輸血に伴う感染症や副作用の病状進行の阻止や治療法の研究も必要である。
 さらに、輸血による未知の感染症の伝播等、新たな疾病に対応すべく、速やかにその発生を確認し、適切な再発防止措置等を講じ得るよう、前述のような情報管理システムの一層の充実・強化が望まれる。
7  おわりに
 わが国では、先にも述べた通り、関係者の長年の努力により必要な献血量が確保され輸血用血液製剤の国内自給が達成されている。
 国民の間に広く深く浸透した献血への理解と協力が、国内自給を可能にしているのであり、輸血用血液製剤の一層の安全性の向上もまた、国民の理解と協力に依存していることは言うまでもない。今後も関係者による国民への理解と協力を求める働き掛けが必要である。
 また、適切な問診、検査等の実施は重要である。さらに、輸血用血液製剤は現在の科学技術水準をもってしても除去し得ない危険性をもった製剤であり、輸血による感染症及び副作用が生じる恐れがある旨の警告表示が行われることも大切である。
 他方、感染症等の発生の把握及び情報管理のためのシステムやスクリーニング法の検討等基礎的研究の充実は今後も必要である。
 本報告において、技術的実現可能性等を勘案し、現時点でとり得る最善の安全性の確保のための対応を示したが、本報告の趣旨を踏まえた輸血用血液製剤のさらなる安全性の確保のため、科学技術の進歩に合わせた適切な対応が今後とも講じられていくべきである。

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