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○ |
血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドラインについて |
(平成11年8月30日)
(医薬発第1047号)
((社)日本血液製剤協会理事長あて厚生省医薬安全局長通知)
血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保については、献(供)血者に対する問診、血漿のウイルス検査、製造工程でのウイルス除去及び不活化処理等の複数の方法を適切かつ相補的に行うことにより達成されるが、なお一層の安全性の向上を図るため、今般、中央薬事審議会血液製剤特別部会において、別添ガイドラインが取りまとめられたところである。
ついては、今後、本ガイドラインの趣旨について御理解の上、血漿分画製剤の安全性確保に努めるよう貴協会会員に対し、周知徹底願いたい。
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○ |
血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドラインについて |
(平成11年8月30日)
(医薬発第1047号)
(日本赤十字社社長あて厚生省医薬安全局長通知)
血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保については、献(供)血者に対する問診、血漿のウイルス検査、製造工程でのウイルス除去及び不活化処理等の複数の方法を適切かつ相補的に行うことにより達成されるが、なお一層の安全性の向上を図るため、今般、中央薬事審議会血液製剤特別部会において、別添ガイドラインが取りまとめられたところである。
ついては、今後、本ガイドラインの趣旨について御理解の上、血漿分画製剤の安全性確保に努めるよう周知徹底願いたい。
血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドライン
目次
1 |
序論
1.1 |
目的
本ガイドラインは、血漿分画製剤のウイルスに対する総合的な安全確保対策についての原則的な考え方を示すものであり、特に血漿分画製剤のウイルスに対する安全性を評価するために実施するウイルス・プロセスバリデーションに関して、使用するウイルスの種類、バリデーション試験の立案、実施、データの解釈、製品の安全性の指標について提示するものである。本ガイドラインは、血漿分画製剤の製造上の一連のウイルス安全対策を全て網羅していることから、本ガイドラインに沿った、献(供)血者の選択、個別血液のウイルス検査、プール原料のウイルス検査、ウイルス除去及び不活化処理、最終製品のウイルス検査、並びに採血後情報及び輸血後情報等の遡及調査を適切に行うことにより、血漿分画製剤の安全性の向上を図ることが可能である。 |
1.2 |
対象
本ガイドラインは国内で使用されるすべての原料血漿及び製品に適用し、安全性確保対策の対象とするウイルスは、当分の間、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、C型肝炎ウイルス(HCV)及びB型肝炎ウイルス(HBV)とする。 |
1.3 |
感染性因子
血漿分画製剤は人間の血液を原料として製造されることから、血液を介して伝播するウイルスに対する十分な対策を講じなければならない。現在ではスクリーニング検査、ウイルス除去及び不活化処理が実施されており、血漿分画製剤の安全性は格段に向上しているが、血液を介したウイルス感染の歴史的経過を顧みると、ウイルス肝炎についての報告もあり、また、1980年代の血漿分画製剤によるHIV感染も記憶に新しいところである。感染性ウイルスで現在までに明らかになっているものにはヒト免疫不全ウイルス(HIV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、そしてパルボウイルスB19などがある。血漿分画製剤は、多くの人の血漿をプールして製造されるため、十分に検出ができないウイルスや未知のウイルスなどが潜在している可能性があり、安全対策を徹底して実施する必要がある。さらに、原料血液以外の材料、例えば、製造工程で使用する酵素やモノクローナル抗体を用いて製造する場合における動物由来のウイルス汚染の可能性や製造環境からのウイルス汚染の可能性も推定されることから、注意深く安全対策を講ずることが必要である。 |
1.4 |
安全性確保の基本
血漿分画製剤のウイルスに対する安全対策は、次に示す複数の方法を適切かつ相補的に行うことにより達成される。
(1) |
献(供)血者の問診を行う。 |
(2) |
血漿のウイルス検査を実施する。 |
(3) |
製造工程でウイルス除去及び不活化処理を実施する。 |
(4) |
最終製品のウイルス検査を実施する。 |
(5) |
採血後情報及び輸血後情報について遡及調査を行う。 |
|
1.5 |
検査の限界
ウイルスの検査方法は技術の進歩とともに向上するため、検査の実施に当たっては常に科学的に最高水準の検査技術を取り入れるとともに適切に検査を行われなければならない。いかなる検査にも検出限界が存在するため、ウイルス検査の結果が陰性であっても、ウイルスの存在を完全に否定できないこともある。また、血液中には未知のウイルスの存在も考えられる。したがって、現在採用している検査技術には検出限界のあることを認識し、プールした血漿を原料として製造される血漿分画製剤は、ウイルスが潜在する可能性を常に有することを前提とした上で安全対策を講ずる必要がある。 |
1.6 |
ウイルス・プロセスバリデーションの役割
原料の血液には常にウイルス潜在の可能性のあることを前提にすると、製造工程においていかに既知のウイルス及び未知のウイルスを除去及び不活化できるかが安全対策上重要である。ウイルス・プロセスバリデーションを実施する目的は、血漿分画製剤の製造工程に導入されているウイルス除去及び不活化技術が、期待された効果をもたらしているか否かを実験的に検証することである。ウイルスの大きさ、形状、脂質膜の有無、核酸の種類(DNA型、RNA型)、耐熱性などの特性を踏まえて適切なモデルウイルスを選択し、実験室規模での添加試験(スパイク試験)を実施することにより、既知のウイルスのみならず未知のウイルスに対する除去及び不活化能力を検討、評価することが必要である。
このように、ウイルス・プロセスバリデーションの役割は、製造工程でのウイルス除去及び不活化技術の有効性と妥当性を間接的な試験により評価することにより、個々の血漿分画製剤の安全性に関する情報とその信頼性を確保することである。
したがって、実際にバリデーションを実施するに当たっては、個々の製品ごとに製造方法を十分に考慮して適切な方法を採用する必要がある。 |
|
2 |
原料
2.1 |
分類
わが国における血漿分画製剤の製造に用いられる原料としては以下のものがある。
(1) |
国内献血原料血漿
国内の献血による原料血漿には、全血採血より得られる血漿と成分採血より得られる血漿とがある。 |
(2) |
輸入原料血漿
外国で採漿され、輸入された血漿である。 |
|
2.2 |
ドナー(献(供)血者)の適性と血液のスクリーニング検査
ドナーの適性については、「採血及び供血あっせん業取締法施行規則(昭和31年6月厚生省令第22号)」及び「血液製剤の製造を目的とする採血の適正化に関する基準について(昭和55年10月9日薬発第1334号)」に記載されている。
血液のスクリーニング検査については、「生物学的製剤基準(平成5年10月厚生省告示第217号)」に記載されている。 |
2.3 |
採血後情報及び輸血後情報システム
血液センターと分画製剤製造施設との間に情報交換を可能とするシステムを確立し、採血後及び輸血後に分画製剤原料血漿の安全性に係る情報を得た場合は、関係者に速やかに情報を提供するとともに、適切に遡及調査を実施することが必要である。また、遡及調査機能の強化のために、inventory hold(隔離保管)を充実していく必要がある。 |
2.4 |
検体保管
採血された血液の一部を保管し、遡及調査等に活用する。 |
|
3 |
製造及び検査
血漿分画製剤を製造する際は、原料血液、原材料及び製造環境に起因するウイルス等による汚染の可能性を極力低減させるため、適切な製造環境、条件及び技術を採用しなければならない。
製造工程中における原料血液以外からのウイルス汚染の可能性として以下のことが考えられる。
(1) |
原材料がウイルスに汚染されている。 |
(2) |
製造従事者より汚染される。 |
(3) |
製造施設環境より汚染される。 |
(4) |
製造工程において動物由来酵素やモノクローナル抗体を用いる場合、これらの試薬からウイルスが混入する。 |
近年の技術進歩はめざましく、有用なウイルスの検査技術や不活化及び除去技術については積極的に導入する必要がある。ウイルスの不活化及び除去については、2つ以上の異なる工程を取り組むことが望ましい。また、医薬品と同程度の品質をもつ試薬を用いることにより、ウイルスの混入の可能性に対する安全性を高める必要がある。
3.1 |
工程前検査
出発原料には一人の供血者の血液から製造された血漿、少人数の血漿をプールしたミニプール血漿及び原料プール血漿がある。一人の供血者の血液から製造された血漿ではその特異性や感度、精度が十分に評価された試験法を用いてHCV、HBV及びHIVの血清学的検査を行う。ミニプール血漿及び原料プール血漿についても、その特異性、感度及び精度が十分に評価された核酸増幅法検査(NAT)を用いてHCV、HBV及びHIVの遺伝子検査を実施する。 |
3.2 |
中間血漿分画物(中間原料)の工程前検査
血漿分画製剤を製造する際に使用する原料は必ずしも血漿とは限らず、血漿由来の中間原料を原料として使用し、精製工程を経て製品化することがある。例えば、クリオ沈殿物(血液凝固第VIII因子製剤原料)、コーンの低温エタノール分画工程から得られるPV(アルブミン製剤原料)、PII+III(免疫グロブリン製剤原料)、PII(免疫グロブリン製剤原料)、そしてPIV―1(アンチトロンビンIII製剤原料)などの中間原料が挙げられる。
これらの中間原料を原料とし、血漿分画製剤を製造する場合においても受け入れ試験として適切なウイルス検査を実施する必要がある。
なお、当該中間原料については、中間原料製造業者により、既に本ガイドラインに沿った試験が行われている必要がある。 |
3.3 |
最終製品の検査
出発原料の各種ウイルス検査の実施、製造工程におけるウイルス除去及び不活化工程を的確に実施するとともに最終製品のウイルス検査を行う。 |
|
4 |
ウイルス・プロセスバリデーション
4.1 |
ウイルス・プロセスバリデーションの目的
ウイルス・プロセスバリデーションの目的は、原料血漿に存在する可能性のある既知のウイルス及び未知のウイルスを、製造工程で効果的に除去及び不活化できることを検証又は推測することにある。
これは、原料血漿又は工程途中の材料に意図的にウイルスを添加し、全製造工程の除去及び不活化の効果を評価することにより達成される。この試験により、ウイルスの有効な除去又は不活化工程が特定され、全製造工程におけるウイルスの除去及び不活化能力の推定値が得られる。
ウイルスバリデーション試験の実施により、製剤のウイルスに関する安全性についての信頼性を高めることができる。しかし、この試験には多くの複雑な変動因子が関与しているので、内容が適切か否かについては個別に検討する必要がある。 |
4.2 |
ウイルスの選択
バリデーション試験に使用されるモデルウイルスとしては、広範囲にウイルス除去及び不活化の情報を得るという観点から、DNAウイルス及びRNAウイルス、エンベロープの有無、粒子径の大小を考慮し、さらに物理的処理及び化学的処理に対する抵抗性が高いものを選択することが望ましい。これらの特性を網羅するには3種類程度のモデルウイルスを組み合わせることが必要になる。
原料血漿に存在している可能性のあるウイルスに類似している、あるいは同じ特性を持っているなどの理由で2種類のモデルウイルスを選択することが可能な場合には、原則的にウイルス除去及び不活化処理に対してより抵抗性の強いウイルスを選択する。
血漿分画製剤のウイルス・プロセスバリデーション試験に用いられるウイルスの例については別紙参照。 |
4.3 |
ウイルス・プロセスバリデーション試験の設計
ウイルス・プロセスバリデーション試験は、対象となる特定の製造工程段階で意図的にウイルスを添加し、当該製造工程のウイルス除去及び不活化の能力を定量的に評価するものである。したがって、当該製剤の全ての製造工程を検証する必要はなく、ウイルスの除去及び不活化に寄与する製造工程だけについて実施する。
バリデーションデータは、製造者がその製造工程を縮小した規模で実施した結果に基づいて作成したものを原則として使用する。いかなるウイルスも製造施設に故意に持ち込むことはできないため、バリデーション試験は、製造設備とは別のウイルス試験設備で行わなければならない。このため、バリデーションは、ウイルス学的研究を行う設備のある隔離された別の施設においてウイルス学の専門家と生産技術者が共同で行う必要がある。この製造規模を縮小して行うバリデーション試験は、実生産規模での製造工程との同等性が検証されていることが前提でなければならない。クロマトグラフ装置については、カラムベット高、線流速、ベット容量に対する流速の比率(すなわち接触時間)、緩衝液、カラム充填剤の種類、pH、温度、たん白濃度、塩濃度、製品濃度に関しても、全て実生産スケールの製造に対応している必要がある。また、溶出のプロフィールも同様のものが得られるように設計するべきである。同様な考え方をその他の工程についても適用することが必要である。しかし、やむを得ない事情により実際の製造工程を反映させることができない場合には、それが結果にどの様な影響を及ぼすかを考察しておくべきである。
ウイルス・プロセスバリデーション試験の計画を立案する際、検討することが望ましい留意点を以下に示す。
(1) |
製造工程の設計には2つ以上の異なるウイルス不活化及び除去工程について検討することが望ましい。 |
(2) |
ウイルスを不活化及び除去することが予想される工程について、その能力を個々に評価し、それぞれが不活化工程なのか、除去工程なのか、あるいは不活化・除去いずれにも関与しているものかを明らかにできるような試験を計画すべきである。 |
(3) |
ウイルス除去及び不活化効果に影響を及ぼす製造工程上の変動因子について検討する。 |
(4) |
ウイルスに対する抗体が出発原料に存在する場合には、ウイルス除去及び不活化工程におけるウイルスの挙動に影響を及ぼす可能性があるので、バリデーション試験ではこのことを考慮して実施する。 |
(5) |
試料中に添加するウイルス量は、その製造工程のウイルス除去及び不活化能力を充分に評価できる量とする。ただし、一般的にウイルスの添加量はウイルスの溶液量として出発原料の10%以下とすることが望ましい。 |
(6) |
試料中のウイルスは、可能な限り超遠心分離、透析、保存などの操作を行わずに定量することが望ましい。しかし、阻害物質や毒性物質を除去するため、又は全ての試料を同時に定量するため、定量前に何らかの処理をすることが避けられない場合には、適切なコントロールを用いて、その処理の試験結果に対する影響を確認するとともに、試料による毒性発現などの検出系に対する影響も考慮する。 |
(7) |
ウイルスの選択にあたっては、クリアランス試験従事者に健康被害をもたらす可能性のあることに配慮するべきである。
また、ウイルス・プロセスバリデーション試験は「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則(H11年3月12日厚生省令第16号)」の手続きに基づいて、実施しなければならない。 |
|
4.4 |
ウイルス・プロセスバリデーションの評価 |
4.4.1 |
ウイルス低減率(ウイルスクリアランス指数)の評価
製造工程の各製造段階でのウイルスクリアランス指数は、ウイルス・プロセスバリデーション試験の結果により得られたウイルス減少値の総和で評価する。製造業者は、得られたウイルスクリアランス指数が受け入れ可能かどうかについて、原料血漿及び製造過程に含まれる可能性のある全てのウイルスを念頭において評価し、その妥当性を示すべきである。 |
4.4.2 |
対数減少値の計算法
ウイルス除去および不活化工程のウイルスクリアランス指数Rは、次式で示される。
R=log((V1×T1)/(V2×T2))
なお、Rは対数で表される減少度、V1は工程処理前の容量、T1は工程処理前のウイルス力価、V2は工程処理後の試料の容量、T2は工程処理後の試料のウイルス力価である。
ウイルスクリアランス指数を算出する場合には、可能な限り、添加したウイルス力価ではなく、添加後の工程処理前の原料中に検出されるウイルスを検証しなければならない。
試験のばらつきは、希釈誤差、統計的な原因、各種測定法に特有な未知又は制御不能な要素の違いなどにより生じる。通常、独立して実施した試験間のばらつき(試験間変動)は、一試験内のばらつき(試験内変動)より大きい。
処理工程前の材料中のウイルス定量値の信頼限界が+Sで、工程処理後のウイルス定量値の信頼限界が+aの場合、ウイルスクリアランス指数の信頼限界は±√(S2+a2)である。
上記の要因を総合的に評価することにより、当該工程のウイルス除去及び不活化の有効性を判断することができる。 |
4.4.3 |
データの解釈上留意すべき事項
製造工程のウイルス除去及び不活化効果の有効性の評価には、下記の要因が寄与しているので、データを解釈する場合には個々の要因について注意深く検討する必要がある。 |
(1) |
ウイルスの選択の妥当性
バリデーション試験に使用するウイルスは、試験の目的及び本ガイドラインに規定された原則に従って、適切な関連ウイルス及びモデルウイルスが選択されていたかを評価しなければならない。 |
(2) |
バリデーション試験の設計の妥当性
製造工程の変動要因や規模縮小における変動要因などを考慮に入れ、適切な試験系が設計されていたかを検証する。 |
(3) |
製造工程の変動因子
製造工程の変動因子の僅かな変動に対しウイルスの除去及び不活化効果が影響を受けやすい場合は、当該製造工程のウイルス除去及び不活化効果に対する影響を評価する。 |
(4) |
対数減少値の評価
一般的に個々のウイルスクリアランス指数の総和で示され、対数で表された各製造段階での減少度を加算することによって算出される。しかし、複数の工程(例えば1log10以下の工程)の減少率を加算すると、工程全体を通してのウイルス除去及び不活化能力を過大評価してしまう可能性がある。従って、クリアランス指数1log10以下の除去及び不活化工程は正当な理由がない限り通常計算にいれるべきではない。なお、同一又は近似した方法を繰り返して達成されたウイルスクリアランス指数は、合理的な理由がない限り加算されるべきではない。 |
(5) |
不活化の速度論の評価
ウイルスクリアランス指数によるウイルス感染性の不活化は、しばしば急速な初期相とそれに続く遅い相からなる2相性の曲性を示す。したがって、試験に際しては、検体を時間を変えてサンプリングし、不活化曲線が描けるように計画すべきである。不活化試験においては、最短暴露時間でのポイントに加えて、暴露ゼロ時より長く、かつ最短暴露時間よりも短い時間でのポイントを少なくとも1点はとることが推奨される。このような工程で不活化を免れたウイルスは、次の不活化工程でより強い抵抗力を示す可能性がある。例えば、抵抗性画分が凝集形態をとるとすれば、各種化学処理や熱処理に対しても抵抗性を示す可能性がある。 |
(6) |
製造工程でのウイルスの挙動
ウイルスクリアランスは、例えば、不活化工程が2段階以上ある場合、相互補完的な分離工程が複数ある場合、あるいは不活化及び分離工程が複数組み合わされている場合に効果的に達成される。分離工程においては、個々のウイルスがもつ特異的な物理化学的特性がゲル・マトリクスとの相互作用や沈降特性にどの様に影響するのかに大きく依存しているために、モデルウイルスが目的ウイルスとは異なる機序により分離される可能性がある。したがって、分離に影響する製造工程のパラメータにはどのようなものがあるかを考慮する必要がある。例えば、糖鎖付加のような表面特性に変化があれば、これに由来してパラメータに違いが生じる可能性がある。しかしながら、こうした変動要因にもかかわらず、相互補完的な分離工程の組み合わせや不活化工程と分離工程との組み合わせにより、効果的なウイルス除去が達成される。クロマトグラフィー工程、濾過工程及び抽出工程等において充分に吟味して設計された分離工程は、適切に管理された条件下で操作を行った場合、効果的なウイルス除去工程となり得る。
製造工程のウイルスクリアランス試験に使用されるウイルス標品は、通常、組織培養で製造される。製造工程において、組織培養ウイルスの挙動は自然界に存在するウイルスの挙動とは異なっている可能性がある。例えば、自然界に存在するウイルスと培養ウイルスとでは純度や凝集の程度が異なっている可能性がある。 |
(7) |
ウイルス力価の減少度の評価
ウイルス力価の減少度を対数で表してウイルスクリアランス指数とするため、残存感染性ウイルス量が著しく低減することは示すことができるが、力価は決してゼロにはならないという限界がある。例えば、mL当たり8log10感染単位を含む標品から8log10のファクターで感染性の低減があっても、試験の検出限界をも考慮すれば、mL当たり0log10すなわち1感染単位を残していることになる。 |
(8) |
緩衝液や製品は、ウイルス力価試験に用いる指示細胞に好ましくない影響を及ぼす可能性がある。したがって、これらのウイルス力価測定法に対する毒性作用又は干渉作用をそれぞれ個別に評価して、測定に支障のないような対策を講ずるべきである。仮に緩衝液が指示細胞に対して毒性を有する場合は、希釈、pHの調整、あるいはスパイクされたウイルスを含有する緩衝液の透析等を試みる。製品そのものが抗ウイルス活性を持っている場合、クリアランス試験を製品そのものは含まない類似工程(mock run)で実施する必要がある。しかし、製造工程によっては、製品を除去すること又は抗ウイルス活性を持たない類似タンパク質で代替することがウイルスの挙動に影響することもあり得る。また、例えば、透析、保存など、測定試料調製の手順による影響を評価するために、同様な調製手順を経るコントロール試験も実施する必要がある。
一方、ウイルスクリアランス指数の総計は、製造条件、緩衝液などの毒性や殺ウイルス性が非常に強い場合には過小評価される可能性があるので、事例ごとに評価されるべきである。逆にウイルスクリアランス指数の総計は、このようなウイルスクリアランス試験に固有の限界ないしは不適切な試験計画のために過大評価される場合もあることに留意する必要がある。 |
(9) |
ウイルス除去及び不活化効果の選択性
あるウイルス除去及び不活化工程が一部のウイルスに対しては極めて有効であるが、それ以外のウイルスに対しては有効ではない可能性がある。例えば、S/D(有機溶媒/界面活性剤)処理は、一般に脂質膜を有するウイルスに対しては有効であるが、脂質膜を有しないウイルスに対しては有効ではない。 |
(10) |
抗体による影響
試料中に試験に用いるウイルスに対する抗体が存在すると、ウイルスの分配不活化処理に対する感受性に影響を与える可能性がある。ウイルスの感染性を中和するのみでなく、試験系の設計を複雑にする。したがって、試料中のウイルスに対する抗体の存在は一つの重要な測定干渉要素であると考えられる。 |
(11) |
アッセイ法の検出感度
ウイルスのアッセイ法は、ウイルスの対数減少値の算定に大きく影響するので、可能な限り検出感度の高い方法を用い、事前にアッセイ法の検出感度を把握しておく必要がある。 |
(12) |
ウイルスクリアランス試験の再現性及び信頼限界
ウイルス不活化及び除去工程として有効であることを示すためには、少なくとも2回以上の独立した試験により添加ウイルス量の低減に再現性があることを立証する必要がある。 |
|
5 |
ウイルスクリアランスの再評価が必要な場合
生産工程あるいは精製工程を変更する場合には、必ずその変更がウイルスクリアランス能力に関して、直接又は間接に影響しないかを考慮し、必要に応じてシステムを再度検証する必要がある。また、精製工程を変更する場合にはウイルスクリアランスの程度を変える可能性がある。 |
6 |
ウイルス・プロセスバリデーションに係る測定法
6.1 |
ウイルス感染価の測定法
感染価の測定法には、プラーク測定法、細胞変性効果による検出法(例えばTCID50法)などがある。測定法は、十分な感度と再現性を持つべきであり、コントロールを用いて統計学的に分析可能な結果が得られるようにする。 |
6.2 |
統計
ウイルスクリアランス試験における結果の評価に当たってはデータを統計学的手法を用いて解析する必要がある。また、得られた結論については、試験結果の妥当性を統計学的に検証しなければならない。 |
6.3 |
核酸増幅法検査
核酸増幅法(Nucleic acid amplification technology;NAT)検査は、現行の血清学的検査が陰性である時でもウイルスゲノムを高感度に検出できる方法であり、血漿分画製剤の原料となる個々の血漿やプール血漿を測定することにより、培養系で測定できないHBVやHCV遺伝子などの検出に応用できる。また、HBV、HCV及びHIVに関しては、ウインドウピリオドの大幅な短縮が可能となり、血漿分画製剤の原料となるプール血漿へのウイルス混入量を低減し、血漿分画製剤のウイルスに対する安全性の向上に寄与するものと考えられる。
核酸増幅法(NAT)検査は、ウイルス・プロセスバリデーションにおいて、ウイルス除去工程の有効な評価法となりうる。しかしながら、ウイルス不活化工程では、不活化されたウイルスが依然として核酸陽性の結果を示すことがあるため、ウイルス不活化の程度が過小評価される可能性がある。また、核酸増幅法(NAT)検査を導入する場合には、検出感度の妥当性、コントロールとして用いる標準品の選定、プライマー等、用いる試薬の品質の維持及び陽性又は陰性結果の評価において十分な注意を払わなければならない。
現在、核酸増幅法(NAT)検査には標準的な方法が確立されておらず、各施設ごとに異なった方法で実施されている。標準化された核酸増幅法(NAT)検査を導入するにあたっては、適切な試薬、標準品等を用いた特異性、検出感度、再現性精度の同等性などを検証するために施設間での共同研究を行い、将来的には国内の全施設において共通の水準で実施できるような核酸増幅法(NAT)検査の開発に資することが期待される。 |
|
7 |
記録と保存
ウイルス・プロセスバリデーションに係る項目についてはすべて文書化し、保存しなければならない。 |
8 |
その他
ウイルスプロセスバリデーションについてICHガイドラインが適切に適用できる場合にはこれを参考にする。 |
用語
モデルウイルス
製造工程がウイルスの除去や不活化に関して一般にどの程度の能力を有するかを解析する目的,すなわち工程が確実にウイルスクリアランス能力を発揮するという面での特性を解析する目的で行うウイルスクリアランス工程特性解析試験に使用されるウイルス。
不活化
化学的又は物理的修飾によって引き起こされるウイルス感染性の減少。
遡及調査
献血後情報及び輸血後情報を収集し、ウイルス汚染の可能性が認められた場合、当該情報等を用いて、どの供血者の原料血液又はどのプール血漿が汚染されていたのかを明らかにすること。
隔離保管(inventory hold)
血液製剤による感染症防止のため、一定期間原料を保管し、輸血等による安全性に係る問題が発生しなかった原料、あるいは次回以降の採血した検査においてウイルス汚染の問題のない場合に保管してある原料がウインドウ期のものでないと判断し、医薬品の製造に用いることが行われる場合がある。このように原料血漿をその安全性の確認まで一定期間保管することを指す。
中間原料
血液製剤等の医薬品製造の初期工程で原料血漿をエタノール処理やクリオ処理等を行い、部分的に分画して得た血漿分画製剤製造のための原料。
S/D(有機溶媒/界面活性剤)処理
不活化方法の1つで、有機溶媒がウイルスの膜成分を破壊してウイルスの感染性を失わせる方法。
界面活性剤は有機溶媒のウイルス膜への作用を促進する目的で用いられる。
核酸増幅法(NAT)検査
ウイルス等の遺伝子を検出するため、目的とするDNAやRNA遺伝子の特定領域を種々の酵素を用いて増幅させ、検出する検査方法。
プール血漿
血液製剤等の医薬品を製造する原料として、多人数(通常5,000〜数万人)の血漿を集めてプールしたもの
ミニプール血漿
原材料のウイルス試験を行うために、数十人から数百人の血漿からサンプルを少量ずつ取り混合したもの。
標準品
適切な特性解析がなされた医薬品の力価や毒性等を測定する際に、その基準として用いる物質。
ウイルスクリアランス
目標とするウイルスを、ウイルス粒子の除去又はウイルス感染性の不活化により排除すること。
別紙
ウイルス・プロセスバリデーション試験に用いられるウイルス例 |
ウイルス |
略号 |
科 |
属 |
自然宿主 |
ゲノム |
脂質膜 |
サイズ (nm) |
形状 |
物理的化学的処理に対する耐性 |
水庖性口内炎ウイルス |
VSV |
ラブドウイルス |
ベシクロウイルス |
ウマ、ウシ |
RNA |
あり |
70×175 |
弾丸形 |
低 |
パラインフルエンザウイルス |
PI―3 |
パラミクソウイルス |
パラミクソウイルス |
種々 |
RNA |
あり |
100〜200 |
多形・球形 |
低 |
ヒト免疫不全ウイルス |
HIV |
レトロウイルス |
レンチウイルス |
ヒト |
RNA |
あり |
80〜100 |
球形 |
低 |
ネズミ白血病ウイルス |
MuLV |
レトロウイルス |
C型オンコウイルス |
マウス |
RNA |
あり |
80〜110 |
球形 |
低 |
シンドビスウイルス |
SIN |
トガウイルス |
アルファウイルス |
ヒト? |
RNA |
あり |
60〜70 |
球形 |
低 |
ウシウイルス性下痢ウイルス |
BVDV |
トガウイルス |
ベスチウイルス |
ウシ |
RNA |
あり |
50〜70 |
多形・球形 |
低 |
仮性狂犬病ウイルス |
PRV |
ヘルペスウイルス |
バリセロウイルス |
ブタ |
DNA |
あり |
120〜200 |
球形 |
中 |
ポリオウイルスSabinI型 |
Polio―I |
ピコルナウイルス |
エンテロウイルス |
ヒト |
RNA |
なし |
20〜30 |
正二十面体 |
中 |
脳心筋炎ウイルス |
EMC |
ピコルナウイルス |
カルジオウイルス |
マウス |
RNA |
なし |
25〜30 |
正二十面体 |
中 |
レオウイルス3 |
REO―3 |
レオウイルス |
オルソレオウイルス |
種々 |
RNA |
なし |
60〜80 |
球形 |
中 |
A型肝炎ウイルス |
HAV |
ピコルナウイルス |
ヘパトウイルス |
ヒト |
RNA |
なし |
25〜30 |
正二十面体 |
高 |
シミアンウイルス40 |
SV―40 |
パポパウイルス |
ポリオーマウイルス |
サル |
DNA |
なし |
40〜50 |
正二十面体 |
非常に高い |
ブタパルボウイルス |
PPV |
パルボウイルス |
パルボウイルス |
ブタ |
DNA |
なし |
18〜24 |
正二十面体 |
非常に高い |
イヌパルボウイルス |
CPV |
パルボウイルス |
パルボウイルス |
イヌ |
DNA |
なし |
18〜24 |
正二十面体 |
非常に高い |
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この表はバリデーション試験に用いられているウイルス例である。したがって、表中に記載されたウイルスの使用を強制するものではなく、他の適切なウイルスを選定することができる。