厚生労働省

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このサイトは、2009年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)に関する情報提供のために厚生労働省が制作し、新型インフルエンザ発生時の参考資料として当面掲載しているものです。
このサイト内で「新型インフルエンザ」と記載しているものは、基本的に新型インフルエンザ(A/H1N1)を指しており、掲載している情報も主に発生当時から2011年3月31日までのものであることにご注意ください。
インフルエンザに関する最新の情報は、2011年4月1日から厚生労働省ホームページのインフルエンザ情報サイト(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/index.html)に順次掲載してまいりますので、以前の新型インフルエンザ対策関連情報サイトをお気に入り登録されている方は、ご変更をお願いいたします。

A病院職員新型インフルエンザ発生事例報告

平成21年5月28日

国立感染症研究所感染症情報センター

新型インフルエンザ大阪派遣チーム

1.背景

2009年5月15日に神戸市から、翌16日には大阪府から新型インフルエンザの発生報告があり、その後この両府県を中心に日本国内での報告数は累積で321例となった。大阪では、新型インフルエンザの患者発生は大阪市以北の北摂地域が中心であり、同地域での新型インフルエンザ対策を含めた医療体制は非常に厳しい状況を迎えていた。

A病院は同地区の地域医療の中核を担っており、平時からの入院、一般外来、二次救急、小児科救急に加えて、新型インフルエンザ対策においても、発熱外来を開設し、文字通り地域医療の中心的役割を担っている。

5月20日、同病院に勤務する看護師が日勤の勤務終了後に38℃以上の発熱をきたし、翌21日に発熱外来を受診し、同日の夜に新型インフルエンザであると確定診断された。我々は5月22日の午前に断片的ながらこの情報を入手し、大阪府健康医療部と協議の上、実態の把握と感染拡大防止に向けた提言を行うために、直ちに現地に調査員を派遣し、大阪府B保健所と合同で積極的疫学調査を行ったので、その結果を以下に報告する。

2.当該発病者の発病までの概要と病棟について

当該発病者(以降B氏とする)はC病棟に看護師として勤務している。同病棟は内科系・外科系の混合病棟であり、入院患者の多くは糖尿病や呼吸器疾患等の慢性疾患を持った高齢者であり、通常の季節性インフルエンザの罹患に関してはいわゆるハイリスク者に分類される。

B氏は5月16〜18日は勤務がなく、自宅のある大阪北部やその周辺地域、兵庫県尼崎市内のショッピングモール、京都市内等に外出していた。5月19日、20日の両日は日勤の病棟勤務であったが、20日の日勤の勤務が終了して帰宅した後の19時に38℃以上の発熱をきたし、21日午前に発熱外来を受診し、同日夜に新型インフルエンザと確定診断された。

3.調査方針と調査対象

新型インフルエンザの感染経路であるが、通常の季節性インフルエンザに準じているというこれまでの我が国や米国CDC、WHO等からのガイドラインに矛盾する所見はこれまでの我々の疫学調査からは得られていないことから、今回の調査においてもその季節性インフルエンザに準じて感染経路を考慮することとした。しかしながらまだ新型インフルエンザに関してははっきりとした感染経路に関するエビデンスが存在していないことと、入院患者の多くがハイリスク者であるとことから、接触者のリストアップは広めに行うことを基本方針とした。

B氏が勤務していた5月19日および20日に、同氏が接触した可能性のある病院の患者および職員を対象とした。B氏の発症は5月20日19時頃であったため、厳密には5月19日の19時より前(発病24時間より前)に接触した可能性のある者は接触者の定義には当てはまらない可能性が高い(積極的疫学調査の実施要綱)が、今回は接触者としてのリストアップは広めに行うという方針のもとに、19日の接触者もリストアップすることとした。

なお、病棟への面会者については、病院によって18日以降はサージカルマスク着が必須とされていたことや、B氏との接触があったとしてもごく短時間にとどまることを考慮し、今回の調査対象からは除外した。

4.調査方法

5月22日の午後に保健所と共にA病院に到着し、直ちに調査に取り掛かった。病院側によってすでに行われていた接触者調査結果の提供を受け、それが接触者をすべてカバーしているかを検討した。B氏との接触状況を確認するために、接触者個々の調査の詳細を確認することに加えて、同日、一部の調査員をB氏が療養中である自宅に派遣し、対面による聞き取り調査を行い、改めてリストアップされた者に対する状況や、他にリストアップすべき接触者が存在するか否かの確認を行った。リストアップされた患者に対しては、接触状況に応じて、改めて抗インフルエンザウイルス薬の予防内服を含めた健康観察の方法について検討することとした。

5.結果

(1)病院による接触者調査の評価

病院による接触者調査では、5月21日時点で病院職員34名と入院患者7名がリストアップされており、そのうち多くの者については、すでに予防投薬が開始されていた。検討の結果、病院職員34名中、医師6名は接触の可能性がないと判断され、5月22日にリストからは除外された。逆に、病棟の入院患者はB氏の受け持ちであった6名と、勤務時間中に錯乱して暴れ、臨時にサポートを行った患者1名の計7名の外に、このサポートを行った患者と同室であった3名の患者を新たに加えることとした。

以上より、今回のリストアップの対象者は、病院職員では同じ病棟に勤務していた看護師25名、医師1名、病棟や事務室での接触が疑われる病院関係者2名の計28名、病棟の入院患者ではB氏の受け持ちであった患者6名、暴れたため臨時にサポートを行った患者1名、及びその患者の同室者3名の計10名(総計38名)となった。

(2)リストアップされた病院職員に対する検討結果

この病院では職員のサージカルマスク着用が徹底されており、B氏も休憩や食事以外では常にサージカルマスクを着用していた。これは本人からの聞き取り調査からも裏付けられた。

B氏、もしくは接触者の両者か、あるいはどちらかがサージカルマスクを着用した状態であれば、接触のレベルとしては低いものであると考えた。一方、B氏と接触者の両者が、ともにマスクを着用せずに食事を共にしたり、会話を交わしたりしている場合は比較的濃厚な接触であると判断した。また、5月19日の日勤中での接触者は、発症前24時間より以前の接触であることも考慮に入れるべきと考えられた。以上を踏まえ、接触者を以下の4つの段階に分類し、感染の可能性は、レベル1→4の順と評価した。

レベル1: 双方ともに、マスクをはずした状態で会話や食事を共にした濃厚接触者(5月20日)(2名)

レベル2: 双方ともに、マスクをはずした状態で会話や食事を共にした濃厚接触者(5月19日)(2名)

レベル3: 双方ともに、マスクをはずした状態での接触者(同一空間にいたのみで会話等はなし)(12名)

レベル4: 少なくとも一方がマスクを着用した状態での接触者(12名)

(3)最終的にリストアップされた入院患者に対する検討結果

患者のケアにあたる際には、B氏は常にサージカルマスクを着用している状態であった。したがって検討の対象となった入院患者10名は、全て濃厚接触者にはあてはまらない。中でも、臨時にサポートを行った患者1名と、その同室者3名については、接触のレベルはかなり低いものと判断された。しかしながら、感染の可能性を完全には否定できないことや、入院患者はいずれも重篤な基礎疾患を有し、新型インフルエンザ発症時のハイリスク群であることから絶対に新型インフルエンザを発病させてはいけないこと等より、濃厚接触者に準じて取り扱うこととした。

6.調査結果を踏まえての提言

これまでの調査結果を踏まえて、新型インフルエンザ大阪派遣チームは、池田保健所およびA病院に対して、5月22日に以下の提言を行った。

「リストアップされた病院職員に対して」

[1]全てのリストアップされた病院職員に対しては、B氏との最終接触日を0日目として、7日目が終了するまでの間を健康観察期間とし、1日2回の体温測定を実施するとともに、抗インフルエンザウイルス薬の予防内服を、健康観察期間中は実施する

[2]病院職員のうち、最も感染している可能性のある濃厚接触者2名(レベル1)は、上記健康観察期間中は自宅待機とする

[3]レベル2(2名)は、B氏と濃厚接触しているものの、発症前24時間よりも以前の接触であり、レベル3(12名)は濃厚接触とはいえない。従って健康観察期間中も原則として勤務は可能とするが、検温によって37.5℃以上の発熱がみられた場合は速やかに連絡し、勤務中の場合はその勤務を離れる

[4]レベル4(12名)は、感染している可能性は最も低いが、ハイリスク者の入院する医療機関である事を考慮し、感染拡大防止の観点から健康観察の対象とし、その取り扱いはレベル2および3に準ずることとする

「最終的にリストアップされた入院患者に対して」

[1]全てのリストアップされた入院患者に対しては、B氏との最終接触日を0日目として、7日目が終了するまでの間を健康観察期間とし、新型インフルエンザの症状の発生について慎重に経過観察を行うと共に、抗インフルエンザウイルス薬の予防内服を、健康観察期間中は実施する

6・終わりに

2009年5月22日午前、A病院において、医療従事者が新型インフルエンザを発病した、との連絡が我々に入った当初は、情報が錯綜しており、自治体や病院現場が相当混乱していることが容易に想像された。我々は、「病院に入院し、新型インフルエンザを発病した場合にはハイリスクとなる患者を保護し、合わせて大阪の北摂地域の医療を守るために最適な対策とは何か」を合言葉に、直ちに調査員を現地に派遣し、調査に取り掛かった。この、積極的疫学調査によって得られた知見をもとに、合同調査を実施した池田保健所(大阪府)およびA病院に対していくつかの提言を行ったが、これらは直ちに実行に移された。今後、今回のA病院で発生したことと同様の事例が、他の新型インフルエンザ発生地域でも起こることは容易に予想される。その場合に今回の事例が、少しでも対策の立案の参考になれば、と考え、本稿を作成した。全国の医療機関、公衆衛生機関の方々にお役立ていただければ幸甚である。なお、全員の健康観察が終了した5月28日現在で、最終的なリストアップ者を含め、院内におけるB看護師の接触者のうちで、インフルエンザ様症状を発症したものは確認されなかった。


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