ホーム > 報道・広報 > 国民参加の場 > 「国民の皆様の声」募集 > アフターサービス推進室活動報告書(Vol.10:2012年12月)平成25年1月11日

アフターサービス推進室活動報告書(Vol.10:2012年12月)平成25年1月11日

0.はじめに

 患者が、休日診療所、救急、旅先あるいは緊急避難所等でかかりつけでない医師・歯科医師の診療を受ける場合、あるいは、複数の医療機関等で診療を受ける場合、薬の重複服用や不適切な飲み合わせを避けるため、現在服用している全ての薬について、医師・歯科医師に対して適切な説明を行う必要がある。しかし、医療や薬の専門家ではない一般人(患者)にとって、通常それは容易なことではない。そこで、薬局等が発行する(患者は一般的に無料で貰える)「お薬手帳」などに「代わりに語って貰う」ことが考えられる。
 お薬手帳の発行は1990年代に始まり、2000年(平成12年)には、お薬手帳に調剤結果を記入することを希望する患者から、薬剤情報提供料を毎回算定出来るようになるなど、徐々にその利用度が向上していた。東日本大震災においては、津波被害等により医療機関や薬局、カルテや薬剤服用歴等の医療インフラが大きな被害を受ける中、お薬手帳の活用により、スムーズかつ適切に医薬品が供給され、適切に医療が提供される場面も多く見られ、お薬手帳の有用性が広く強く認識されるに至った。
 一方、今回の津波災害では、紙のお薬手帳が汚れたり、流されて使えなかったケースも少なくなかった。そこで、お薬手帳を電子化し、携帯性の向上を目指すべきとの声もある。
 こうした状況を踏まえ、平成24年9月に一般社団法人保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)が「JAHIS電子版お薬手帳データフォーマット仕様書Ver.1」を公表し、厚生労働省は同仕様書を周知するため通知を発出した。各般から期待されていたお薬手帳のデータフォーマットが示されたことにより、電子版お薬手帳の普及に向けた素地が整いつつある。
 本調査においては、これまで国民から寄せられた意見等を踏まえ、お薬手帳に関する全体像を調査し報告する。

ページの先頭へ戻る

1.お薬手帳及びお薬手帳に含まれる情報

  • 「お薬手帳」は、国内の保険薬局や医療機関で調剤された薬の履歴(調剤履歴)をまとめるための手帳のことで、薬識手帳(やくしきてちょう)とも呼ばれる。
  • 紙の健康保険証と同じサイズ(A6:105mm×148mm)ものが多く、大体30〜40ページの厚さである。保険調剤の場合には、保険薬局から無償で提供される。手帳のデザインは薬局によって異なる。
  • お薬手帳に記載される患者の主な基本情報は次の通り:氏名、性別、生年月日、血液型、住所、電話番号、緊急連絡先、アレルギーの有無、副作用履歴の有無*1(本節末尾参照)、主な既往症の履歴、かかりつけ医療機関・薬局。
  • 主な医薬品情報は次の通り:処方日、薬品名、処方量、服用回数・方法
  • 病状・薬に関して、薬剤師や医師・歯科医師に対して質問する事項及びそれらに対する回答を記入するメモ欄も設けられていることが多い。
  • 2012年4月1日より、保険薬局における薬学的管理指導の充実を図るため、お薬手帳を通じた情報提供、残薬確認、後発医薬品に関する情報提供に対し、薬剤服用歴管理指導料を加算出来ることになった。このため、保険薬局では、従来よりも積極的にお薬手帳を発行できるようになった。

  • *1:薬に対するアレルギーや薬による副作用は必ず現れるというものではないが、一旦発現すると、軽症でも油断は禁物である。早めに医師・歯科医師や薬剤師に相談すべきである。また、起こり得るアレルギーや副作用について、あらかじめ説明を受けておくことが大事である。下記に当てはまる人は、 特に注意が必要である。「どの薬を、どの位の量・期間使用し、どのような症状が出たか」正確に説明できるよう、お薬手帳に記録すると良い。
    • 特異体質(アレルギー)のある人
    • 過去にひどい副作用を経験している人
    • 肝臓・腎臓など、薬を代謝・排泄する臓器に疾患のある人
    • 他にも薬を飲んでいる人
    • 妊娠している女性、授乳中の女性
    • 高齢者
    • 仕事などで特別な環境にある人(例:高所作業者、ドライバーなど)

ページの先頭へ戻る

2.お薬手帳を活用する機会と方法

  • 初めて受診する医師・歯科医師に対し、お薬手帳に蓄積した薬剤服用歴を開示することにより、薬の重複や相互作用の防止など、適切な治療法を選択する場合の参考情報としてもらい、納得・安心して医療を受けることが可能となる。
  • かかりつけの医師・歯科医師にとっても、お薬手帳は、患者が他所で処方された薬の名前と飲んだ量・頻度と、疾病の症状の改善状況や副作用等との関係を判断する場合の重要な情報源となる。病院・診療所・歯科医院、薬局に行く場合、お薬手帳を常に持参することが望ましい。
  • 同時期に飲むと効果が弱くなったり、反対に強く出過ぎたりする薬の組み合わせがあるので、使用中の全ての薬について名称や用法・用量を記録すべきである。
  • 処方せんなしで薬局等で買える一般用医薬品でも、飲み合わせが問題になることがあるので、一般用医薬品の購入・服用履歴も記録することが望ましい。
  • 介護を受ける場合、ヘルパー、保健師、ソーシャルワーカー、ケースワーカー等に対する連絡帳として、患者自身、あるいは家族が自主的にお薬手帳を見せることにより、服薬等を支援してもらうことができる。
  • その他、子どもの健康づくりに活用できる手帳として、「こどもXくすりXデザイン実行委員会」(代表:平井康之九州大学准教授)が企画制作した「けんこうキッズ」などもある。基本情報の外に、「平熱は?」、「排便は?」、「睡眠は?」など、普段の健康観察ポイントや変化の見付け方を盛り込んでいる。調査研究段階から手帳づくりに協力した福岡市のNPO法人「こどもとくすり」(代表:中村守男氏)から、薬局や病院に販売している。2年余で4万冊が売れたという。

ページの先頭へ戻る

3.お薬手帳を使う場合の注意点

  • 患者がかかりつけ薬局を持ち、複数医療機関から出た処方せんを、その1つの薬局で応需してもらい、相互作用や重複投与をチェックし、必要があれば処方した医師に疑義照会をして処方を変更して貰えれば理想的である。かかりつけ薬局を1つに絞ることが難しければ、少なくとも、1冊のお薬手帳に全ての薬剤服用歴をまとめ、複数の薬局における調剤履歴を統合管理することが望ましい。

ページの先頭へ戻る

4.お薬手帳の過去・現在・将来

  • 1993年11月に、帯状疱疹治療薬ソリブジンをフルオロウラシル系の抗がん剤と併用したことで1ヶ月の間に、血液障害などで15人が死亡、8人が重症となった*2ことがきっかけとなり、一部の大学病院や薬局などがお薬手帳の活用に取り組み始めた。
    (*2:抗ウイルス剤ソリブジンが腸で分解されて出来た物質が、肝臓における抗がん剤の分解を妨げ、抗がん剤の血中濃度を必要以上に上昇させて、血液障害などの副作用を引き起こした。)
  • 1999年には、厚生省と社団法人(当時) 日本薬剤師会が、全国7市(札幌・八戸・花巻・いわき、日進(愛知県)・三原・小倉(北九州))でモデル事業を実施した。
  • 2000年に、保険薬局は、お薬手帳を希望者に発行し、お薬手帳に調剤結果を記入することを希望する患者から、薬剤情報提供料を算定出来るようになった。
  • 2011年3月11日(金)に発生した東日本大震災では、地震及び津波により病院・診療所・歯科医院・薬局などの施設及びカルテや調剤履歴等の医療インフラが大きな被害を受けたが、お薬手帳の活用により、医療及び医薬品がスムーズかつ適切に供給される場面が多く見受けられた。(日経ドラッグインフォメーション東日本大震災取材班「ドキュメント そのとき薬剤師は医療チームの要になった」日経ブックス(平成23年6月23日)、公益社団法人 日本薬剤師会「東日本大震災における活動報告書」平成24年3月(当時は社団法人)、「東日本大震災におけるお薬手帳の活用事例」平成24年6月)
  • 2012年4月1日より、保険薬局は、「薬学管理料(薬剤服用歴管理指導料)」を算定する場合に、毎回お薬手帳への記載を行うことになった。
  • ここ数年、情報通信技術の発展に伴い、様々なグループがそれぞれ独自に調剤履歴を電子データとして保存し活用することを検討している。例えば、香川県の香川医薬連携情報共有システム(K−CHOPS)、P社(大阪府守口・門真地域)の「どこでもMY病院」事業、京都からスタートし現在では全国で使われている「どこカル・ネット」、石川県七尾市の恵寿総合病院が推進している「能登地域医療情報化推進コンソーシアム」事業、D社が薬局チェーン及びヘルスケア企業と提携して進めているスマートフォンお薬手帳、保険薬局/IT会社が独自に提供するモバイル・システムなどがある。
  • 2013年度以降、これらの活動が互換性を有したまま発展し続けられるよう、厚生労働省や公益社団法人 日本薬剤師会はインターフェース・フォーマットの標準化など環境整備を関係機関に働きかけ、それを受けた一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)は、2012年9月14日に電子版お薬手帳のフォーマットを公開した。(JAHIS技術文書12-102 電子版お薬手帳データフォーマット仕様書 Ver.1.0)。また9月26日には、厚生労働省より都道府県や関係団体に対し、同仕様の周知をお願いする旨の通知が発出された。

ページの先頭へ戻る

5.紙以外の媒体を使うお薬手帳(電子版お薬手帳など)

 お薬手帳は、一般的にA6サイズの紙媒体の冊子が多いが、利便性を求めて多様な使い方が提案されている。以下、主な使い方などについて比較対照した。
 なお、現在の医療保険制度においては、診療報酬の要件としては、お薬手帳としており、電子版お薬手帳が従来の紙媒体のお薬手帳にそのまま取って代わるもののではないことにご留意いただきたい。

記録媒体
(列見出し)
紙媒体
(従来のお薬手帳)
電子媒体
 項目
(行見出し)
写真撮影 QRコード撮影 ICカード読み書き
[1]使用上必要と考えられる能力
  • 基本的な読み書き能力 (医師・歯科医師・薬剤師が記載した内容と、授与された医薬品が一致していることを確認する能力(イメージ認識能力でも可)。状況に応じて、薬や体調に関する情報を自ら追記する能力も必要である。)
  • 基本的な読み書き能力に加えて、携帯電話、タブレット端末、デジタルカメラ等の写真機能を使いこなせる能力
  • 基本的な読み書き能力及びカメラ機能を使いこなせる能力に加えて、QRコードを変換して得られたデータを処理するアプリを使いこなす能力
  • 基本的な読み書き能力に加えて、ICカードへの読み書きで得られたデータを処理するアプリを使いこなす能力(ICカードへのデータの読み書きでは、患者は読み書き用端末機器の上にカードをかざすだけであり、薬剤師がレセコン等のシステムを操作してデータの読み書きを行う。)
[2]記録方法
  • 紙冊子への筆記、あるいはラベルシール等の貼付
  • 紙冊子やラベルシールの撮影
  • QRコード等画像データの読取変換
  • ICカードへの非接触データ伝送
[3]用具
  • お薬手帳及び筆記用具(ボールペンなど)
  • 携帯電話(スマートフォン)、タブレット端末、デジタルカメラなど
  • 患者の用具は携帯電話など
  • 薬局の用具は、QRコード等を印刷するシステム機器
  • 患者の用具は携帯電話など
  • 薬局の用具は、ICカードのリーダー・ライター及びそれに繋がるシステム機器
[4]記録単位
  • 手帳のページ
  • フラッシュメモリなど(例:USB、microSD)
[5]記録容量
  • 1手帳当たり30〜40ページ
  • 1ページはA6サイズ
  • microSD(最大2GB)、microSDHC(最大32GB)など
(2GBで記録出来る写真の枚数は約1,000枚)  
[6]携帯性
  • 常時持ち運ぶ場合、A6サイズは少し嵩張り、扱いにくいという意見もある
  • 携帯電話等は、緊急避難時でも忘れずに持ち出されることが多い
  • 左記の通り、携帯電話等は緊急避難時でも忘れずに持ち出されることが多い
  • お薬手帳のデータを、全てあるいは一部、ネットワーク・システムに登録する場合、ネットワーク自体も含めて、システム端末が何処でも利用出来ることが必須条件となる
[7]患者が負担する費用(薬学管理料以外に掛かる費用)
  • 無料(保険調剤の場合には、お薬手帳は保険薬局で無償で提供される(一部の保険医療機関でも発行している))
  • 携帯電話等の使用に必要な電気代(通常、携帯電話等にはカメラ機能が付いているので、イニシャルコストはゼロと考えた)
  • 追加使用するmicroSD等の費用
  • 左記の通り、携帯電話等の使用に際して、電気代やmicroSD等のランニングコストが掛かる
  • お薬手帳のデータを処理するアプリやそれに繋がるシステムは、基本的な機能については無償、高度な機能については有償というケースが多い。
  • アプリやシステムの構築・提供に掛かる費用を、プロバイダーは、有償機能の売上、あるいは患者を囲い込むことによる薬や健康関連サービスの売上増により回収することを期待している。
[8]標準化
  • 基本情報は定義済みである
  • 多様な写真(画像)データ・フォーマットが存在し、互いに変換可能である
  • 平成24年9月に「JAHIS電子版お薬手帳データフォーマット仕様書Ver.1」が公表された
  • 左記の通り、JAHISのフォーマットを利用可能。
  • 多様なICカードがあり、互換性の確立など、まだ十分整備されていない
[9]セキュリティ強度
  • ゼロ (誰でも盗み見ることが出来る)
  • 中程度(4桁などの暗証番号で携帯電話をロックすることが出来る。しかし、暗証番号を設定しない、あるいは、し忘れる患者も少なくない)
  • 携帯電話等自体のセキュリティ強度は左記の通り「中程度」
  • データを処理するアプリが、患者識別番号(ID)と定期的に変更するパスワードを用いていれば「高度」
[10]データの保管及び管理(漏洩防止を含む)
  • 自己責任(落とす、盗まれる、汚して読めなくなるなどの可能性がある)
  • 自己責任(落とす、盗まれるなどの外、microSDなどの媒体が破損すると、データが読めなくなる可能性がある)
  • お薬手帳のデータを携帯電話等に保管するだけであれば「自己責任」
  • お薬手帳のデータを、全てあるいは一部、ネットワーク・システムに登録する場合、ネットワーク運用者の管理責任もしっかり確認する責任が、患者側に生じる
[11]他人には明らかにしたくないデータの消去
  • 可能(記入しない。あるいは、記入したページを破棄する)
  • 可能(撮影しない。あるいは、撮影したデータを削除する)
  • 可能(アプリやそれに繋がるシステムの機能及び運用ルール次第である)
[12]個人で保管していたデータを損失した場合の対応(予防策)
  • データ復元出来ない(別途ハード・コピーを取っておくことは可能)
  • データ復元出来ない(別途PC等にバックアップしておくことは可能)
  • お薬手帳のデータを携帯電話等に保管するだけであれば「データの復元は出来ない」(別途PC等にバックアップしておくことは可能)
  • お薬手帳のデータを、全てあるいは一部、ネットワーク・システムに登録する場合、ネットワーク運用者に保管データを復元して貰うことが出来る
[13]データ・ポータビリティ(引っ越し、転勤時、旅先へのデータ可搬性)
  • お薬手帳を持参する限り、日本語圏におけるデータの移動に支障は生じない
  • お薬手帳への記載内容の写真データを携帯電話等に登録している限り、日本語圏におけるデータの移動に支障は生じない(英語名を含む、お薬そのものやラベルの写真データがあれば、外国語圏でもデータの移動に支障は生じない)(但し、電池切れにならないよう、電源を確保する必要がある)
  • 左記の通り、写真データを携帯電話等だけに登録していれば、日本語圏におけるデータの移動に支障は生じない(但し、電池切れにならないよう、電源を確保する必要がある)
  • ネットワーク・システムにデータ登録していた場合、当該システムが全国展開(あるいはインターネット等で世界展開)していれば、データ・ポータビリティに支障は生じない
  • 移動先で新システムを使う場合、既存システムと新システムが連結されていれば、(既存システムがデータのオーナー・シップを主張し、既存データの提供を拒否しない限り、)新システムから既存データの参照、複製、移動など可能であろう

ページの先頭へ戻る

6.各種お薬手帳の活用事例紹介

 以下に、お薬手帳の活用事例を紹介する。これらを厚生労働省として推薦するということではないことに、予めご留意頂きたい。

ページの先頭へ戻る

6-1.A6サイズの紙のお薬手帳の活用事例

ページの先頭へ戻る

6-1-1.東日本大震災時における活用例

  • 2011年3月11日(金)に発生した東日本大震災では、数多くの病院・診療所が被災したため、避難された方がかかりつけの病院・診療所で処方を受けられなくなった。また、紙であれ、電子データ化されたものであれ、カルテが失われたケースも多く、避難者が服用していた薬の特定は困難であった。しかし、避難所にお薬手帳を持参されていた方は、直ちに常用薬を特定し処方を受けることができた。この時災害救助医療に従事された方の体験談を取り纏めたものが「東日本大震災時におけるお薬手帳の活用事例」として、公益社団法人 日本薬剤師会から平成24年6月に発表されている。平成23年9月から11月に掛けて、被災地で支援活動を行った薬剤師ほか医療・保健関係者が849件の事例を提供し、うち代表的な31事例が上記事例集に収録された。

ページの先頭へ戻る

6-1-2.西日本にある某保険薬局でヒアリングした活用例

  • 今年(2012年)4月に、処方せんの受付1回ごとにお薬手帳により患者への情報提供を行うことが薬剤服用歴管理指導料の算定要件に加わったが、最近になって漸くお薬手帳が根付いて来た感触を得ている。医師・歯科医師は、診察時に、お薬手帳を見せて下さい、と患者に言うようになった。薬剤師も、必ず調剤前にお薬手帳により調剤履歴を確認するので、患者がお薬手帳を持ち歩くことが常識になって来た。
  • 近くの病院・診療所・歯科医院が院外処方に切り替えた時、不便になった、薬代が高くなったなど苦情を言う患者もいたが、最近、苦情は殆ど無い。患者と薬剤師の間に信頼感が生まれている。
  • 過去、保険薬局毎にお薬手帳を個別管理していた患者が多かったが、最近では1冊にまとめるようになって来た。
  • 病院・診療所や自宅等で測定した血圧値を、お薬手帳に記入して来る患者もいる。
  • 高齢者に特に多いが、携帯電話の写真機能も使えない患者がいるので、紙のお薬手帳は大事である。現時点では無くせない。将来的には電子化になると期待している。
  • お薬手帳の普及率は90%程度か。持って来るのを忘れた患者に対して、服薬履歴を聞き出すようにする。(全部分かるとも限らない。患者は薬の内容を忘れている)
  • ラベル・シールを紛失した患者に対して、シールを再発行してお薬手帳に貼る。ラベル・シールを束にして持っている患者に対しては、シールを整理してお薬手帳に貼るなど、お薬手帳の意義を理解してもらう努力をしている。
  • 試験的に、OTC薬もラベル化してお薬手帳に貼っている。この場合は、OTC薬の内容成分量も記載している。
  • ラベル・シールを輪状(蛇腹状)になったビニール製の名刺入れに入れて来る患者もいるが、最新のシールを捜すのに手間取る。紙の手帳の方が見易い。
  • 今はテストケースなので電子版お薬手帳を使い始めた患者はまだ1人だけ。データ照会やデータ入力で特に不便は感じないが、積極的に患者に奨めることはしていない。紙の手帳が根付き始めた段階であり、電子版を奨めると混乱を来しかねないと考えている。
  • しかし、近い将来、電子版お薬手帳を大いに取り入れたいと考えている。その日に備えて、既存及び初めて来局した患者のお薬手帳の情報(調剤履歴)を、薬局が患者に代わって、電子版お薬手帳に入力することもある。

ページの先頭へ戻る

6-2.紙のお薬手帳を携帯電話で撮影して保存する活用事例

  • お薬手帳をいつも持ち歩くのは面倒だという場合、下図のように、携帯電話にお薬手帳の写真を保存し、手帳代わりにすることが考えられる。

  • 「写真を撮ってその画像を保存する、という方法があることには気付かなかった。また、自分の携帯電話のカメラはピント合わせが甘く、文字などの被写体だと何枚か撮って1枚1枚拡大してちゃんと確認しておかないと、後で開いたら読めなかった、ということになりかねない。現在使っている機種で同じ運用をするのは難しいかもしれない。」という意見もある。
  • しかし、携帯電話の画素数が急激に増加している現在、ある程度接写すれば文字も十分読むことができる。また、文字は読めなくても、薬剤情報提供文書にある薬の形状(外見)を撮影しておけば、薬剤師によっては薬を特定出来ることもある*3
    (*3:「ドキュメント東日本大震災 そのとき薬剤師は医療チームの要になった」日経ドラッグインフォメーション 東日本大震災取材班、日経DIブックス(2011年6月27日発行))
  • 調査員自身も5.2メガ・ピクセルの画素数を持つ携帯電話で撮影している。写真データには撮影日時が付いているので、調剤履歴を時系列管理することができる。病院や診療科目別にフォルダ管理することも可能である。また、写真データを関係者にメールして共有することも可能であり、特殊なアプリを必要としない点が一番の長所かもしれない。
  • 「iアプリ版おくすり手帳2」など、個人が自分で使うために作った、お薬手帳(あるいはラベル・シール)を撮影・管理する専門の携帯電話アプリが無償提供されている。一般大衆薬も含めた服用薬一覧、服用時間アラート、飲んだことを記録する服用チェック、病院などカテゴリ別お薬管理、子供など家族の服薬管理、薬が無くなる日時を教えるカレンダー、備忘録などの機能も開発されている。
    • 開発者は、2005年以降の処方薬(約80種類、延べ500点)、薬剤情報提供書の効能効果及び注意事項の文章を全て入力しているという。データファイルサイズは約90KBであり、PCにデータファイルをバックアップ保管している。
    • 「日本薬局方」アプリは無償提供されているが、「添付文書」アプリ、「添付文書HD」アプリなど、有料サービスも存在する。
  • 東日本大震災では、携帯電話を持って避難した人が多かったことも事実である。処方を受けた薬の情報を、携帯電話に残しておくことに一定の効果があると考えられる。
  • 但し、本人しか携帯電話を使用できないよう常にロックを掛けていると、持ち主が街中で突然意識を失った場合、通りすがりの人に、紙の手帳のように、お薬手帳の写真を見て貰えない。

ページの先頭へ戻る

6-3.電子版お薬手帳の活用事例

  • 現在、お薬手帳に記載される情報は、主に5つの方式で電子データ化されている。ラベルシールなどに印刷される調剤情報を、情報端末から直接データ入力する方式、印刷された調剤内容のQRコードを携帯電話等で読み取り自動データ変換する方式、ICカードに読み取る方式2つ、そして、保険薬局のレセプトコンピュータ(通称:レセコン)からデータを直接他システムに伝送するオンライン方式の5つである。

「どこでもMY病院」構想の実現について
医療情報化に関するタスクフォース報告書付属資料(2011年5月)

ページの先頭へ戻る

6-3-1.患者がデータを直接入力する方式

  • 患者が調剤情報を自身の携帯電話のメモ機能を使って記録していく。
  • 医薬品名など必要な情報を、患者自身が携帯電話に入力する必要がある。
  • キー操作に慣れない人には向かない方式である。

ページの先頭へ戻る

6-3-2.患者がQRコードを読み取る方式

  • 調剤明細書等に印刷されたQRコードを携帯電話で読み込み、データに自動変換されたものを、携帯電話(本体あるいはmicroSD)あるいはWEBサーバに登録する。登録された調剤データは、様々な様式で携帯電話の画面上に表示することが出来る。
  • QRコードを印刷する汎用ロジックが既に確立されているので、レセコンなどどのIT機器を選んでも、比較的容易かつ安価にソフトウェアを追加することが出来る。
  • 但し、この方式には、携帯電話にダウンロードしたアプリに対応するQRコードを印刷する保険薬局でしか使えないという欠点がある。(この短所は、JAHISの医事コンピュータ部会調剤システム委員会処方情報分科会が中心となり、公益社団法人 日本薬剤師会と意見交換を行いつつ取りまとめ、2012年9月14日に公表された「JAHIS技術文書12-102 電子版お薬手帳データフォーマット仕様書 Ver.1.0」を搭載したレセコンが、既存レセコンのソフトウェアの更新あるいは新型レセコンの普及により広まれば、解消される可能性がある。)
  • QRコードにしわが寄ると読めなくなるので、QRコードの読み込みが、保険薬局の店頭に限定される恐れがある。
  • QRコード問題とは別に、携帯電話内でデータを記録する方式が統一されないと、アプリ間での互換性が保証されない。複数のアプリを1台の携帯電話にインストールすることは可能であるが、便利な使い方とは言い難い。

ページの先頭へ戻る

6-3-2-1.事例紹介1:医療機器メーカー 株式会社 EMシステムズのヘルスケア・サービス
  • 株式会社 EMシステムズは、2000年に、「『国民が受けた自らの医療情報』を、いつでもどこでも必要なときに医療機関ならびに国民が確認出来る環境の構築」を会社方針とした。これは、レセコン・メーカーとして、お薬手帳の代替品となり得るものを提供するということである。
  • 上記会社方針に基づき、2002年6月に、ASPレセコンを開発・出荷した。また、2008年から開発・出荷した全ての新機種が10分間隔で、調剤履歴等のデータをデータセンターでバックアップすることを開始した。(公衆回線をあたかも専用回線であるかのように利用でき、専用回線より安価なVPN(Virtual Private Network)サービスを使っている。)
  • このデータ・バックアップ・サービスは、顧客(保険薬局及び診療所)サービスの一環であり、別途使用料が掛かるものではない。
  • 2004年10月、経済産業省の公募テーマにおいて、「電子カルテと電子薬歴のシステム相互運用によるシステム普及促進に資する実証実験」が採択された。
  • 2006年9月から11月まで、「あなたのお薬ナビ」という電子版お薬手帳の実証実験「患者薬局連携」を、社団法人(当時)千葉県薬剤師会学術倫理専門調査会の承認を得て実施し、21店舗の保険薬局と約200人の患者の参加を得た。
    • 「あなたのお薬ナビ」は、薬の服用時間や服用履歴などを患者の携帯電話にメールなどで伝えるという、いわば携帯電話版「お薬手帳」+「服用スケジューラー」のようなサービスであった。
    • 緊急時や災害時に、紙のお薬手帳は持っていなくても、携帯電話を持っている人は多いだろうという想定の下に、携帯電話サービスを開発した。
    • データをセンターで自動収集し、一元管理した。保険薬局は、服薬指導のためデータを参照する、患者は、医師・歯科医師に見せるため、データを薬局でプリントアウトするなどの使い方を工夫した。
    • 患者の利用度が最も高かったのは「服用履歴」(お薬手帳のように、自分で服用実績を確認したり、医療機関や薬剤師にいつでも自分の服用医薬品を提示できる携帯電話の機能)(38.8%)であり、「次回服用内容」(30.0%)、「登録情報」(12.5%)が続いた。
    • 薬の服用時刻を報せるメールに対する「服用確認」の返信数は調査が進むに連れ激減した。携帯電話で警告メールを受信することは歓迎しても、都度返信するのは煩わしい、返信費用がもったいないということが原因と考えた。
    • 薬剤師が最も便利と感じた機能は「服用履歴」(60.0%)であり、「調剤完了メール」(50.0%)、「服用時刻メール」(42.9%)が続いた。
    • 医療関係者が最も便利と感じた機能は「調剤完了メール」(92.6%)であり、「服用履歴」(84.6%)、「医薬品情報」(80.8%)が続いた。
    • 「調剤完了メール」は、院内処方病院や院外処方薬局において、待ち時間の有効利用に繋がり、患者の満足度向上に役立った。
  • 2013年には、医療情報管理を推進する。主機能は「お薬できましたメール」、「電子お薬手帳(調剤明細書に調剤内容をQRコードとして印刷する)」、「服薬状況記録」、「服薬に関するコメント記録」及び「診療所・薬局別医療データ公開権限設定」など、提供を考えている。
  • JAHIS対応である限り、他社のレセコンが印刷するQRコードも携帯電話等で読み取り可能である。データを株式会社EMシステムズのデータセンターに集中登録することも可能になるという。(逆もまた可能であろう。)
  • データセンターに蓄積した自分のデータを、患者自身がダウンロードできる。

ページの先頭へ戻る

6-3-2-2.事例紹介2:NTTドコモのヘルスケア・サービス
  • NTTドコモのヘルスケア・サービスは、スマートフォンにより、ユーザーの健康管理や病気予防をサポートするものである。現在、ダイエット支援プログラム、乳幼児の予防接種管理サポートプログラム、薬の服用履歴が記録できる「お薬手帳」サービス及び体重・血圧などを記録・管理できるサービスが利用可能である。

    「お薬手帳」の画面例

  • NTTドコモの「お薬手帳アプリ」は、NTTドコモ以外のスマートフォンでもダウンロードして使用できる。NTTドコモは、スマートフォンの売上や通信料を増やすことよりも、スマートフォンやインターネット上で健康データを蓄積し、それをユーザーの健康の維持・増進に役立つサービスの有償提供に繋げることを目標としている。
  • 提携先保険薬局では、スマートフォンへの調剤情報の取り込みに、JAHISフォーマットのQRコードをスマートフォンのカメラ機能を使って読み込む方法と、ICカード・リーダ・ライタを使って、スマートフォンに搭載したICカードチップ(フェリカ(Felica)チップ)にデータを転送(FALP(FeliCa Ad-hoc Link Protocol)機能)する方法の2種類を提供している。
  • NTTドコモは、健康医療機器メーカーの血圧計・体重体組成計・歩数計等とスマートフォンを機器連携させ、体重や血圧などの測定データをはじめとした健康・医療データを、簡易に蓄積・管理できる環境を提供している。
  • NTTドコモは、電子版お薬手帳や健康機器データ連携などの標準化に積極的に準拠し、将来的には、他薬局を含めた医療機関とも連携を拡げ、患者と医療従事者間の円滑なヘルスケアコミュニケーションや、モバイル技術等を利用した遠隔・在宅医療を可能とするプラットフォーム(データサーバ・システム)の確立を目指している。
  • ユーザー(患者)から高い評価を受けている点は以下の通り:
    • 薬の効能、服用の仕方などに関するインターネット検索は好評である。
    • QRコードは、自宅に戻ってからデータを読み込むことが出来る。(QRコードにしわを寄らせると読めなくなるので、調剤明細書などを丁寧に取り扱う必要がある。)
  • ユーザー(患者)の評価が低かった点は以下の通り:
  • スマートフォンの操作に慣れていない人には少し不便であった。
  • 「お薬手帳」の代替品としての患者の評価:
    • スマートフォンは画面表示を自在に拡大・縮小出来るので、データの見やすさなど使い勝手が良い。
    • 使用した薬の一覧表示、ヘルスケア・メニューの充実など、ユーザーの要望を取り入れて貰えれば、紙のお薬手帳の代替品という枠を超え、健康増進ツールとして重宝する可能性がある。

ページの先頭へ戻る

6-3-2-3.事例紹介3:医薬系企業 株式会社カマタのモバイル・システム
  • 約10年前から、インターネットのバナー広告等で、患者向けに調剤情報を発信して来た。
  • 福井県の支援を受け、IT企業のベンチャー支援プログラムを利用し、約4年前にモバイル・システムを開発し、某携帯通信会社の公式サイトで無償及び有償サービスを提供している。他の通信会社の機器でも使用可能である。
  • 「マイお薬手帳(旧マイ薬箱)」登録数は、サービスを開始して4年後の現在27万人近くに達している。

    株式会社 カマタのサービス提供状況

  • 患者が使用するモバイル機器は、その98%強が携帯電話であり、スマートフォンの使用はまだ少ない。
  • 「ケータイお薬手帳」は、調剤レセコンのデータを、保険薬局窓口PCからインターネット経由でデータセンターに登録したものを、患者が携帯電話を通じて何時でも何処からでも確認することが出来るサービスである。患者が、携帯電話等からコンプライアンス情報や副作用などに関するメモを入力すれば、かかりつけ薬局と情報を共有し、次回の医薬品購入時に適切な服薬指導を受けることが出来る。
  • 「マイお薬手帳(旧マイ薬箱)」は、患者が自分の携帯電話に医薬品服用情報や病院・薬局情報を登録するものである。「お薬カレンダー」により、毎日の服用薬及び服用時間を一目で確認すると共に、服薬履歴を残すことが出来る。
  • 「お薬できたメール」では、「処方せん受付メール(患者は、病院・診療所にあるFAXコーナーから、自ら処方せんを保険薬局にFAX送信する)」と「調剤完了メール」の2つのサービスを受けることが出来る。患者あるいは家族の携帯電話を登録する必要があるが、インターネットの公式サイトを利用する、QRコードを読み込む、あるいは、携帯電話にお財布携帯機能がついている場合は、フェリカ・リーダーに携帯をかざすことにより、簡単に登録手続きを開始することが出来る。
  • 福井県の県民は、車で移動することが多い。病院や診療所から遠い薬局を利用する場合、高齢者を介護している場合、幼児を連れている場合など、「お薬できたメール」は、無駄な待ち時間を減らす効用がある。
  • 株式会社カマタのモバイル・システムは、「紙のお薬手帳」の代替品として実際に多くの人に長期間使われている。しかし、福井県の現状を鑑みると、当分の間、紙(ラベル・シート)とモバイル(電子データ)の両方が併用されると考えられる。
  • サーバの運用費、データ保管に関わるセキュリティ費など、ユーザー(患者)数に連れて増大する。専門の運用者を置く必要も出て来るであろう。今後も、有料サービスの収入で、モバイル・システムの費用を賄えるかどうか不明である。そこで、近い将来、モバイル・システムの提供により薬剤服用歴管理指導料が算定できるようになることを、株式会社カマタは期待している。
  • 2012年10月から、レセコンから出力した「JAHIS技術文書12-102 電子版お薬手帳データフォーマット仕様書 Ver.1.0」対応QRコードを携帯電話で読み込み、調剤情報に復号し、インターネット経由で「マイお薬手帳」に登録するサービスを開始する予定である。また、同時に「お薬のお時間です」メール配信も始まるので、「お薬手帳」の代替品以上の使い勝手向上が期待される。

ページの先頭へ戻る

6-3-2-4.事例紹介4:パナソニックヘルスケア株式会社の「どこでもMY病院」事業

経済産業省(平成22年度医療情報化促進事業 パナソニック「どこでもMY病院」事業 成果報告書(平成24年2月)より抜粋)

[本事業の背景]

  • パナソニックグループでは、院内及び在宅ヘルスケア機器、コンティニュア関連機器*4からのデータ連携や保健指導支援システムなど医療ITを用いた仕組みづくりに従来より寄与していることから、医療情報・健康情報の取り扱いについては精通している。また、地域の診療所、薬局の医事会計システムや電子カルテシステム、服薬指導システムなどを構築しており、診療明細や調剤情報などの医療情報の個人による管理の仕組みづくりに必要な知見がそろっている。
    (*4:コンティニュア・ヘルス・アライアンス(コンティニュア)という国際的な団体が存在し、さまざまな健康・医療システムやサービスをシームレスに扱えることを目標として活動している。例えば、血圧計、体重計、体温計などの健康機器や医療機器を、例えば近距離無線通信仕様(NFC(Near Field Communication))といった同一の通信仕様で作ることにより、より扱いやすい環境を整える活動等を行なっている)
  • これらの点を踏まえ、本事業ではパナソニック・三洋電機グループとパナソニック健康保険組合を中心に、大阪府守口・門真地域の診療所および薬局の協力を得て、コンソーシアムを組み、「どこでもMY病院」事業のシステム構築とともにサービスの実証を行うこととした。

[本事業の目的]

  • 本コンソーシアムでは、医療機関から入手した診療明細情報、調剤情報と健康保険組合・健康管理センターに保存されている個人健診情報の過去3年分、家で計測される個人バイタル情報を、個人が特定できるIDによって一元管理が可能となり、医療機関の医師や健康管理センターの医師・保健師など医療従事者が「医療情報」と「健診・健康情報」を「治療」や「保健指導」などに、より効果的に使える環境整備を行った。具体的には、
    • 病院、診療所、薬局、健康管理センターの診療明細情報や調剤情報、健診情報を個人に提供する仕組みの構築
    • 実証事業への参加者(被保険者及びOB)に対しては、前述の情報を個人が参照、また、PC等から入力できる仕組みや、個人の同意を得て医療機関等に診察等に必要な情報を開示できる仕組みの構築
    • 利用者が自分のバイタル情報(体重、血圧、歩数)を自動的にDB(データベース)に登録・参照・開示できる仕組みの構築
    • 上記参加者の診療・健康情報を健診センター、病院、診療所、薬局の各施設が安全に参照できるセキュアな環境の構築
    を行い、各関係機関がそれぞれの立場からみた実用性を検証し運用を含む事業化にむけた課題抽出を行うことを目的とした。
  • 実証するサービスとしては以下のものを想定した。
    1. (1)パナソニック健康保険組合被保険者・OBなど実証参加者が、自身のバイタルデータ(血圧・体重・歩数)を簡単に登録・閲覧することを可能にし、健康意識向上をはかるサービス。
    2. (2)参加者が医療・健康情報を入力・参照するだけでなく、医療機関等(病院、診療所、薬局)の受診時に、診療や調剤情報を医療従事者が参照することで診療や調剤での指導に役立てるサービス。
    3. (3)健康管理センターでの保健指導において、健診情報だけでなく「どこでもMY病院」情報のもつ診療や調剤情報、また、バイタル情報を活用し、より適切な保健指導を行うサービス。

    実証するサービス

  • 提供したサービスの一覧は次の通りである。(※1:参照のみ、※2:手入力可)

[本事業で実証した各施設のサービス概要]

  • 個人が病院・診療所を受診したとき、会計窓口に設置した端末を通じて診療明細の電子化情報を「MY病院サーバ」に送ることを可能とした。診療所にある専用端末に参加者カードをかざして暗証番号を入れることで個人認証ならびに参加者の同意を得たと判断し、病院・診療所職員または本人自身でタッチパネルより送信する。病院では参加者IDを識別して自動的に診療明細情報を送信するような仕組みとなっている。
  • 薬局に参加者が来局したとき、受付端末を通じて、お薬手帳相当の調剤情報をQRコード化したものを付けた明細書等を交付する。参加者は、薬局にある専用端末に参加者カードをかざして暗証番号を入れることで、参加者であることを個人認証され、薬局職員または本人自身で薬局の調剤明細書にある2次元バーコード(JAHIS標準記録仕様(案)準拠)を読み取り、タッチパネルで操作して「MY病院サーバ」に調剤情報を送信する。
     また、薬局職員は調剤の際に、参照用専用端末を用いて来局した参加者をカード認証し、本人が許可した「MY病院サーバ」情報を参照できる。これにより参加者の薬歴・薬の飲み合わせやアレルギーなどを把握し、一人ひとりに応じたより適切な服薬指導をすることが可能と思われる。患者へは薬の飲み忘れ防止などのサポートにつながる情報基盤ともなりうる。
  • パナソニック健康保険組合組合員参加者は、「MY病院サーバ」から過去数年間の各種健康診断情報を参照できる。健康管理センターにて人間ドックを受けている場合はその情報の参照も可能である。個人が健康情報をいつでも参照でき、経年変化も含めて理解、気づきを得ることで健康意識の向上につながると考えられる。
     また、健康管理センターにて保健指導を受ける場合には、保健指導支援システムの画面上で、本人が許可した「MY病院サーバ」情報を参照できる。これにより保健指導で参加者自身の体重・血圧・歩数などのバイタル測定情報や、医療機関の受診状況を把握し、保健師等による測定値の変化や受診状況を把握した上で適切な保健指導を行うことが期待できる。
  • 参加者はインターネットを通じて、IDとパスワード認証により「パナソニックどこでもMY病院ホームページ」にログインし、「MY病院サーバ」に登録された自己の医療・健康情報を参照できる。また、どの情報をどの医療機関のどの医療職に開示を可能にするかを指定することもできる。
     また参加者は、「パナソニックどこでもMY病院ホームページ」にて、体重計、歩数計、血圧計で自己測定したバイタル情報およびその他の医療・健康情報をインプットすることができる。さらに、コンティニュア規格により無線通信が可能な体重計、歩数計、血圧計を用いれば、測定データを自動的に「MY病院サーバ」に登録することができる。日々インプットされた情報はグラフ化され、医療健康情報とともに視覚的に参照できる。

[成果]

  • サービス面での利用者健康意識変化では、事業に関わったことで健康意識向上者は6割、加えて、意識の低下は見られず。事業参加後に始めた健康管理・維持のための取り組みでは、「食事に気をつける」が59.0%、「徒歩」が44.3%、「十分な睡眠」が32.8%となり、日常生活において比較的容易に取り組めることから始めていることが示された。
  • 調剤薬局における服薬指導サポートビジネスを実現するためのMY病院情報の有効性測定では、有効であることが明確であった。
  • 本事業開始後のアクセス頻度の変化について、実証開始から3ヶ月経過後、約5割の参加者が「大きな変化はない」と回答した。「少し減少した」「かなり減少した」が約2割、「殆どログインしていない」も約2割を占めていることから、本事業の参加に対する動機付け、参加者が継続して利用させる仕組み作りやログインにおける簡便さの改良・改善の必要性が確認された。
  • 利用者(個人・患者)における課題としては、以下のとおり、データの登録自体はある程度簡単に行えたと評価されたものの、データ入力・登録時にPCを立ち上げる必要がある事などを面倒に感じられていた。
  • 現サービスでは、登録を行う際にパスワード(ホームページ表示)と暗証番号(転送時)の2種を記憶する必要がある。

ページの先頭へ戻る

6-3-2-5.事例紹介5:石川県七尾市における「どこでもMY病院」事業
  • 経済産業省(平成22年度医療情報化促進事業)
  • 石川県七尾市にある恵寿総合病院が中心となって、「のとの私のMY病院」事業を、平成23年より実施している。
  • 本事業に参加している病院・診療所・調剤薬局・施設では、「のとの私のMy病院」ICカードを用いている。
  • 本事業に参加している利用者の情報(基本・処方履歴・健康履歴・血液検査・血圧・血糖等)は、個人の意思に基づき、恵寿総合病院内に設置した「のとの私のMy病院システム」に登録される。
  • 上記登録情報は、個人が希望すれば、「のとの私のMy病院カード」とパスワードを使えば、本事業に参加している地域の開業医や保険薬局に情報提供が可能であり、個人を経由しての医療情報の共有に役立っている。
  • 病院・診療所が発行した処方せんを保険薬局に持って行き、薬の処方を受けると、薬局のレセコンからJAHIS準拠のQRコード(調剤情報)が発行されるので、これを「のとの私のMy病院システム」に登録する。(保険薬局が、薬局内に設置された専用端末から、QRコード読み込みを代行しているケースが多い。)
  • 糖尿病、高血圧、喘息、アトピーなどにより食事制限を受けている患者にとって服薬管理は重要なので、保険薬局で申請登録すれば、「コールセンター」から携帯電話に「服薬確認メール」を受けることができる。また、別途契約をすることで、「コールセンター」に日々の血圧・食事内容・体調などを記録した紙を送り、「のとの私のMy病院システム」に登録代行して貰うことが出来る。
  • 「服薬確認メール」の目的は、患者自身による飲み忘れ防止であるが、離れて暮らす子ども達が、老親の安否を確認する手段にもなっている。
  • 「薬局でもう一度一から説明し直す必要が無くなった」など、本システムは、患者の間で好評を博している。また、調剤情報等を治療に活用して欲しいという意見も多い。
  • 医師の間でも、正しい、適切な医療の提供に繋がると好評である。

ページの先頭へ戻る

6-3-2-6.事例紹介6:京都から全国展開している「ポケットカルテ」
  • 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から得た教訓に基づき、大規模災害時でも健康・医療・福祉情報履歴を保持・参照出来る仕組みとして、「ポケットカルテ」の原型システム(EMRタイプ(Electronic Medical Record))を国立京都病院(現・独立行政法人国立病院機構京都医療センター)で開発した。1997年3月から国立病院ネット上で稼働を始め、1999年3月には、約30万人の診療記録を二次利用可能な形で蓄積するところまで発展させた。
  • しかし、入院治療の効果を上げるためには入院前の病歴も必要であり、退院後の病状把握も欠かせない。そこで、周辺地域の病院・診療所と医療情報を共有化する仕組み(ASP型EHRタイプ(Electronic Health Record))作りを2004年に開始した。
  • 2005年4月に施行された個人情報保護法により、医療情報の二次利用が困難となったため、OECDのガイドラインに基づき、患者が「自己情報コントロール権」を持って自己の診療情報を蓄積し、PHR(Personal Health Records)あるいはPLR(Personal Life-log Records)ツールとして使う仕組みに変更した。
  • 上記ASP型システムを、日本サスティナブル・コミュニティ・センター(以下、SCCJ)のプロジェクト(どこカル.ネット)でクラウド型「ポケットカルテ」(個人向け健康医療福祉情報履歴管理システム)として作り直し、2008年10月1日より正式無料サービスを開始した*5。(「MCPC award 2009」で、モバイルコンシューマー賞を受賞。)
    (*5:「ポケットカルテと地域共通診察券」、調剤と情報 2012.1 (Vol.18 No.1)pp.47-54)
  • 「医療機関のデジタル領収書プラットフォーム構築とヘルスケア家計簿との連携による地域住民への付加価値サービスの実現」プロジェクトが、2009年11月に、総務省の「ICT経済・地域活性化基盤確立事業(「ユビキタス特区」事業)」として採択され、京都ユビキタス特区で、2010年2月から無料サービスを開始した。
  • 患者によるデータ入力の手間を省くため、健康医療福祉情報を仮登録したWEBサイトのURLを二次元バーコード(国際標準QRコード)に変換したものを領収書に印刷し(以下、デジタル領収書)、これを携帯電話で読み取り、サイトにアクセスする方式とした。URLを読むだけなので、古い携帯電話でも十分機能する。
  • WEBサーバでは、携帯電話番号と機器番号の両方を使ってセキュリティ・チェックし、仮登録データを1回限り本登録出来るようにした。(機種によっては、機器番号の無いものもある。)上記URLも1回使用すれば無効となるので、携帯電話に残す必要は無い。
  • 蓄積する情報としては、処方内容(全自動記録化した「電子版お薬手帳」サービスとして提供)、検査内容とその結果、処置内容、領収書・明細書の金額情報(保険点数を含む)を選択した。
  • 医療機関のサーバはWEBに接続していないので、健康医療福祉情報のWEBサーバへの伝送は、ファイヤーウォール越しに夜間バッチで行われる。そして、健康医療福祉情報のWEBサーバへの本登録は、夜間バッチ送信後に行われる。
  • 携帯電話などIT機器を使いこなせない人のために、2011年から、ICカード(地域共通診察券「すこやか安心カード」)も発行した。利用者の氏名、生年月日、「ポケットカルテのID」、及び、保険医療機関コードとその医療機関における患者番号のセットを30セットまで登録出来る。カードを紛失するリスクを勘案し、診療情報などの個人情報は記録しない。
  • 患者が希望すれば、調剤明細書に印刷されたJAHIS対応QRコードの情報をWEBサーバに登録することも出来る。
  • 医療従事者及び保険薬局のメリットは以下の通りである:
  • 会計システムから領収書にURLのQRコードを印刷するので、病院・診療所・保険薬局の区別無く対応可能である。
  • 患者の病歴などを容易、かつ正確に把握出来る環境が整い、更に質の高い医療を迅速に提供することが可能になる。
  • 救急現場などでは迅速な現場処置が可能になり、救急隊員と医療機関の連携を容易かつより効果的にする。
    • 患者の最終診療記録(歯科を除く)にはロックを掛けていないので、患者の「ポケットカルテID」が分かれば、加盟医療機関であれば何処でも最終診療記録を見ることが出来る。また、他の医療機関に過去の診療履歴を問い合わせることが出来る。
    • 指静脈紋で個人(患者)を特定し、救急現場などで健康医療福祉情報を見られる仕組み作りも行っている。(2004年11月に実証実験済み。)
  • 個人(患者)のメリットは以下の通りである:
  • 個人別口座管理形式により、何時でも何処でも自分の健康医療福祉情報を閲覧・メンテナンスすることが出来る。また、世帯主等が申告すれば、家族の情報も管理することが出来る。
  • 患者本人が希望すれば、データを患者のPC等に送信して貰える。
  • WEBサーバからデータを完全に抹消することは出来ないが、どの医療機関や保険薬局に見せるかコントロール出来る。(特別なリクエストをすれば、データの閲覧を復活することは可能である。)
  • 「ポケットカルテ」を採用している病院に転院した場合、再検査などに煩わされず、効率的な診療が受けられる。
  • 担当医の診療方針などについて他者に意見(セカンドオピニオン)を求め易くなり、安心・安全な受信が可能となる。
  • 蓄積された個人(患者)の健康情報に基づいた予防医療サービスを、有償ベースで利用することが出来る。例えば、「服薬管理」、「服薬後確認メール」など。
  • 所得税及び住民税に関わる確定申告用に、医療費控除計算ロジックを組み込んだ。
    • JANコード*6により、医療費控除対象品目を自動仕分けする。
      (*6:JAN(Japanese Article Number)コードは、全国で共通使用されている商品コードである。商品などにバーコード(JANシンボル)を印刷し、それをPOSシステム、受発注システム、棚卸、在庫管理システムなどで読み取ることにより、商品などの流通管理がより正確かつ高速になった。JANコードは日本における呼称であり、国際的にはEANコード(European Article Number)と呼称されるものと同一である。米国、カナダにおけるUPC(Universal Product Code)と互換性を有する。)
    • 「ヘルスケア家計簿」では、「医療費控除に関わる情報の収集」 → 「帳簿化」 → 「e−Taxフォームへの自動整形」を半自動化した。(通院用タクシー代など、自動仕分け出来ないものもある。)
  • ICD−10(病名分類)及びICD−9−CM(手術および処置の分類)に対応しているので、海外に出張・駐在・転居した場合でも、「ポケットカルテ」を現地でシームレスに継続使用出来る可能性が有る。
  • 未実施ではあるが、保険者等のメリットとして以下のものが考えられる:
    • 他の加盟医療機関における診療情報を、最速で1日後に確認することにより、検査や投薬の重複を防止することが出来る。医療費の節減に繋がる。
    • 蓄積された健康医療福祉情報を(匿名化して)統計分析すれば、より効率的かつ効果的な治療法を開発することが出来る。これも、医療費の節減に繋がる。
  • 利用者の広がり:
    • 無料のコールセンター・サービスが、9時-17時の間、利用可能である。
    • 24時間対応のメール・サービスもある。
      • 2012年8月末現在、主に京都府の支援の下に、京都市を中心に5市1町域、24,000人以上に利用されている。
      • 参加病院・診療所は100ヶ所以上。関東でも1市民病院で利用されている。
      • 保険薬局の加盟店数は約550。今後、1,000店前後が新規加盟する予定である。
  • 平成23年5月30日から平成23年11月8日にかけて、患者に対して実施したアンケート調査(配布枚数3,000枚、回収率98.8%)では、ポケットカルテが浸透し、参加医療機関なら、どこでも1枚の地域共通診察券「すこやか安心カード」で受診が出来るようになったため、「大変便利になった」あるいは「少し便利になった」と回答した割合が約92%(診察券を多く保有している患者の評価が、特に高かった)あった。また、受診した医療機関と診察券番号が、「すこやか安心カード」に安全に保存されており、他人に知られることがないので、「大変安心」あるいは「少し安心」して使うことが出来ると回答した割合が約84%あった。更に、一人ひとりに医療情報・健康情報が医療機関から提供され、蓄積・管理して様々な活用が出来ることに「大変期待」あるいは「少し期待」すると回答した割合が約94%あった。

ページの先頭へ戻る

6-3-2-7.事例紹介7:香川県におけるWEBお薬手帳の事例
  • 本事例は、平成20〜22年度文部科学省戦略的大学連携支援事業「高度な医療人養成のための地域連携型総合医療教育研究コンソーシアム」及び平成23・24年度総務省健康情報活用基盤構築事業「処方情報の電子化・医薬連携事業」(香川県高松市、三木町、さぬき市 日本版EHR フィールド1)に対応するものである。
  • 平成23年度総務省健康情報活用基盤構築事業の概要は、「第12回 医療情報化に関するタスクフォース」の資料6-1として報告されている。(平成24年2月13日 総務省 情報流通行政局 情報流通高度化推進室)

  • データセンターサーバを介したインターネットによる病院/診療所・薬局間相互伝送システム「電子処方せんネットワークシステム」(現在は「香川医薬連携情報共有システム(K−CHOPS)」)の開発は、平成20〜22年度文部科学省戦略的大学連携支援事業「高度な医療人養成のための地域連携型総合医療教育研究コンソーシアム」(代表者 桐野 豊)の事業費の一部充当に始まる。この事業の医薬連携のコンセプトを引き継ぎ、実用に向けてのさらなる取組みとして、電子お薬手帳の機能追加などを行ったものが、平成23・24年度総務省健康情報活用基盤構築事業「処方情報の電子化・医薬連携事業」である。
  • これらの事業の基本理念は、医薬の連携である。薬剤師の側から医療側へ、相互理解を深める提案をした。
    • 保険薬局で薬剤師が行う服薬指導の質を向上するため、病院・診療所から薬局に、処方に加えて、病名、検査情報をデータ伝送して貰った。
    • 保険薬局から病院・診療所に、処方変更内容、後発医薬品名、副作用状況、薬剤師コメントをデータ伝送した。これは、保険薬局から病院・診療所への処方変更の連絡が通常FAXで行われるが、IT化が進んだ病院・診療所では紙情報が活かされることが少なく、変更前の処方が繰り返される傾向にあることを改善するためであり、また、副作用を回避するためであった。
  • 平成20〜22年度文部科学省戦略的大学連携支援事業の実証事業*7は、平成22年11月末から平成23年3月まで、香川大学医学部附属病院と香川県内の保険薬局41店との間で行われた。参加患者数は21名、患者が実際に利用した薬局は5店。この事業の成果は、実証期間の短さ、参加患者数の少なさなどの限界はあるが、「日本遠隔医療学会雑誌 Vol.7(1) 2011 pp.35-38」「第14回 日本医薬品情報学会総会・学術大会記念誌 1、2012、pp.78-83」に、以下の通り報告されている。
    (*7:保険医療機関及び保険医療養担当規則 第二条の五(特定の保険薬局への誘導の禁止)「保険医療機関は、当該保険医療機関において健康保険の診療に従事している保険医(以下「保険医」という。)の行う処方せんの交付に関し、患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示等を行つてはならない。」とされているため、本事業では、患者は病院・診療所で紙の処方せんと電子データの引換券を受け取り、任意の保険薬局に赴いて両者を提示し、薬局に電子データをASPサーバからダウンロードさせる形を取った。
     任意の保険薬局に行けることは自由度が高いと言えるが、FAX送信のように、使用する保険薬局に事前に情報を送れないのでは利便性が低い。調査員の感想としては、実運用では、医療機関関係者から見えない環境で処方せんデータを伝送し、「お薬出来ましたメール」を受信したいものである。)
  • システムの普及には、薬剤師の理解、医師・薬剤師の相互信頼、患者・社会の理解が不可欠であった。
  • 本事業に参加した医師1名は、病名など患者情報を薬剤師に開示することに懸念を示したが、保険薬局の薬剤師が、病名などを知らずに苦労している様子を知り、保険薬局との情報共有・交換の必要性を理解した。
  • 医師と薬剤師が別々のコメントをして患者を混乱させないよう、薬剤師がまず医師に情報をフィードバックして確認するなど、患者への情報の出口の一元化が必要であった。
  • 保険(院外)薬局の薬剤師は、「病名や検査値が分かるので、探らずに済む。これまでは、患者から聞き出すのに時間が掛かっていた」、「検査結果を見せてくれる患者がこれまでもいたが、その時点のものだった。患者の状態を推移として把握出来る」など、本機能を評価した。
  • システムを利用した患者は、病院・薬局間連携による安心感、ケアの継続、相談のし易さなどを感じたが、他方で、検査データを信頼している薬剤師にしか見せたくないなど、プライバシー保護と医療情報開示の有用性との狭間で揺れることもあった。
  • また、「病院と薬局で同じ話をせずに済む」、「薬に対する不安が軽減」、「副作用が早期に発見できる」、「薬が体の状態に合う」などの意見が多かった。
  • 平成23・24年度総務省健康情報活用基盤構築事業「処方情報の電子化・医薬連携事業」は、上記の医薬連携の機能に加えて、(1)薬局レセコンと電子的に情報互換でき(2)平成20〜22年度総務省・厚生労働省・経済産業省「健康情報活用基盤構築実証事業」の仕組みを取り入れつつ、医薬間でのメッセージ構造や各種コードの標準化を図り(3)PHR基盤を活用して電子お薬手帳の機能を追加した。電子お薬手帳は、服用期間に応じてカレンダー形式で調剤後の薬の内容を閲覧でき(「おくすりカレンダー」という)、また、同画面から「飲んだ」「飲まない」の服薬状況を登録することが可能で、登録情報は、医師や薬剤師に公開することもできる。この事業の特徴、患者20名の評価は次ページの図表の通りである。
  • 「服薬状況」の登録や閲覧では、PCや携帯電話からASPサーバにアクセスする。PCを使用する場合、ユーザー(患者)はICカード(健幸IruCa*8)による認証を受けるので、ICカードリーダーが必要となる。携帯電話を使用する場合、機器の個体識別番号が認証のサブキーとなる。
    (*8:IruCaは、ことでん(高松琴平電気鉄道)のICカード(電子マネーカード)の愛称である。IruCaを使って、ことでんの電車・バスを利用出来ると共に、買い物も出来る。
     平成22、23年度の四国経済産業局の「健幸支援産業創出事業」において構築した、個人が自身の医療・健康情報を一元的に管理・活用するPHR情報基盤における認証キーとしてICカード内に「本人であることを証明するユニークID(鍵)」を格納する。本カード認証の仕組みについては、平成21、22年度の厚生労働省「社会保障カード(仮称)の実証事業」における成果に基づく。)
  • 疾病名や検査情報は、当該患者に関して、医師・歯科医師が適切と判断したものを選別して、保険薬局に送付するようにした。これら情報の薬局での参照は、薬剤師はできるが、患者はできない運用にしている。また、これら情報は電子お薬手帳で参照できない。

    日本遠隔医療学会雑誌 Vol.7(1) 2011 p.36 「患者の評価(文部科学省戦略的大学連携支援事業)」

  • 「お薬カレンダー」の画面を以下に示した。

  • 「お薬カレンダー」には、患者が服薬状況を登録し、どの病院・診療所・保険薬局に開示するか個別指定出来るようにした。平成24年4月のアンケート調査では、開示率は100%であった。
  • データ入力の煩雑さを軽減するため、過去5日間まで遡って纏め入力出来るようにした。「お薬カレンダー」の利用度は、「週に数回」が一番多く、50%であった。
  • 良く利用した画面は、「処方せんごとのカレンダー」(45%)、「月別のカレンダー」(22%)、「過去に処方された薬剤の一覧」(22%)であった。
  • 紙のお薬手帳と比較して、利用の機会が増えたと回答した患者は87%であった。患者の90%が、利便性が向上したと回答している。
  • 全ての患者が、「薬を飲んだ/飲んでいない」チェックを利用した。82%が、飲み忘れや、飲み違いの防止に有効であると回答した。
  • 「お薬カレンダーサービス」について、「やや満足」と「どちらとも言えない」が共に50%であったが、75%が継続して使用すると回答した。
  • 患者の92%が、病院や薬局で服用薬の飲み合わせチェックが出来れば、副作用被害の早期発見が可能になると回答している。
  • 香川全県に亘る事業であるので、参加病院・診療所・保険薬局が使用するレセコンは様々であり、メーカーによって用語や用法の表現が異なった。そこで、情報連携においては標準のコードにてやり取りし、薬局でのレセコンへの取込み直前においては、医療機関からの処方情報とレセコン用の薬剤名・用法に変換した後の処方情報を左右に並べて表示して目視確認をする運用としている。
  • 実証事業では、病名・検査情報のレセコンへの取込みまでは実装せず、処方せんASPサーバへアクセスのうえ、参照する仕組みまでとした。
  • 保険薬局では、窓口で患者の同意が得られれば、紙のお薬手帳の情報などをレセコンに入力し、薬効成分の飲み合わせチェックや重複チェックを行っている。
  • OTC薬との飲み合わせチェックを可能とするための一般用医薬品の患者による登録機能は、2012年10月に付加した。
  • 現在、院内処方は対象外であるが、このような全県に及ぶ健康関連情報のネットワーク管理により、院内の医療スタッフが受けるメリットとして大きいものは、患者入院時に、過去の調剤履歴を手入力しなくて済むことである。電子データが全く無い場合、院内の薬剤師などは、患者が持参した薬の現物を確認し、電子カルテにキー入力しなければならない。薬の飲み合わせチェックはシステムで自動的に行えるとしても、薬の確認とキー入力に多大の時間を取られる現状は非効率である。
  • 医師・薬剤師・患者をつないで、副作用の回避に着目しているのも香川の特徴である。
    • 薬による患者の健康被害を早期に探知できるよう、有害事象に関して、薬剤師が医師にコメントを返せる仕組みを構築した。患者が体調管理を電子お薬手帳に入力出来る仕組みを構築した。
    • 保険薬局において副作用を疑った患者に対する対応の課題は、「医薬品情報学 Vol.13、No.4(2012) pp.194-198」に報告されている。121名の薬剤師が議論した結果、「副作用の(重篤度の)判断が困難」、「副作用の医師への連絡が困難」、「医師の副作用についての判断が不明」、「患者や家族(介護者)への副作用の説明が困難」などの課題が明らかになった。
    • 今後、副作用疑いの症例に直面した場合に副作用や重篤度を正しく評価できるよう、教育・研修制度を整備し、病院・診療所と保険薬局とで双方向にコメントを入力出来るようシステムを改造し、地域のチームスタッフ全員で患者の副作用を見守る仕組みの確立が必要である。
    • 徳島文理大学香川薬学部は、「副作用診断教育プログラム」というe−ラーニングをWEBサイトから提供している。
      https://kp.manabinaoshi.jp/schedule/

ページの先頭へ戻る

7.まとめと提言

7-1.紙のお薬手帳について

  • 国民のITリテラシーが全般的に向上したとは言え、PCやスマートフォンを含む携帯電話などを全国民が十分に使いこなせる状況にはまだなっていない。したがって、紙のお薬手帳に対するニーズは、当分の間続くと考える。
  • パスワードが無くても見ることができる点は、紙のお薬手帳の長所でもあり、短所でもある。街中で突然気を失った人に対し救急医療を施す場合、紙のお薬手帳は使い易い。

ページの先頭へ戻る

7-2.携帯電話のカメラ機能の活用について

  • 日頃服用している薬の形状、ラベル・シールあるいは調剤明細書の写真を取っておくことは有意義と考える。
  • また、所有者が意識を失ったため、携帯電話に保存した薬の写真を、医師・歯科医師・薬剤師に開示出来ない場合に備え、薬の写真を、家族等信頼できる人にメールしておくことも有意義と考える。(携帯電話を用いた、私的バックアップ・ネットワークの構築)

ページの先頭へ戻る

7-3.電子版お薬手帳について

  • 様々なPHRサービスの提供を可能にするお薬手帳の電子化は、携帯電話を中心に、今後急速に広まる可能性がある。
  • しかし、現状では、電子データの活用事例が少なく、個人(患者)から見た電子版お薬手帳のメリットはまだ小さいと言わざるを得ない。コンティニュア機器を活用する事例も幾つか存在するが、電子版お薬手帳を大流行させるほどの要因にはなっていない。これらの機器の使い方、健康関連データの活用の仕方など、改善を要する点は多く残されていると考える。
  • お薬手帳の電子化は、民間企業や医療・介護グループが先行し、全国的な標準化が追い掛ける状況である。
  • 国内何処に転居しても、どんなシステムに切り替えても/併用しても、過去のデータが技術的な理由で失われる、新システムへのデータ移行に苦労する、あるいは複数のシステムのデータを自力で統合出来ないなどの不都合を避けるため、データフォーマットの標準化が課題となっている。
  • このことから、一般社団法人保健医療福祉情報システム工業会が2012年9月に公表したQRコードのフォーマットVer.1.0 や、公益社団法人 日本薬剤師会が著作権を有する調剤データに関わるインターフェース・フォーマット(調剤システム処方IF共有仕様(NSIPS))が全国共通に使われるためには、先行事例の運営主体との調整など、先行事例の資産が有効活用されるような配慮が必要である。

ページの先頭へ戻る

7-4.災害対策について

  • 東日本大震災において、お薬手帳は被災者への薬のスムーズな交付に非常に役だった。今後、お薬手帳が役に立った事例を紹介することで、お薬手帳の更なる普及を図りたい。また、災害時にはお薬手帳を携帯して避難するよう啓発していきたい。

ホーム > 報道・広報 > 国民参加の場 > 「国民の皆様の声」募集 > アフターサービス推進室活動報告書(Vol.10:2012年12月)平成25年1月11日

ページの先頭へ戻る