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広報誌「厚生労働」

インタビュー 人材を確保したいなら福利厚生に取り組みましょう

「簡易型DC制度」と「中小事業主掛金納付制度」の導入が中小企業にもたらすメリットについて、厚生労働省の社会保障審議会年金部会委員の原佳奈子さんに伺いました。

原 佳奈子
株式会社TIMコンサルティング 取締役/社会保険労務士

はら・かなこ●上智大学外国語学部卒業。社会保険労務士、1級FP技能士、1級DCプランナー。年金・社会保障制度やライフプランに関する講演・執筆を行うほか、幅広い業界で教育体系構築や研修企画提案などにも携わる。早稲田大学大学院政治学研究科公共経営修士(専門職)取得。社会保障審議会年金部会委員。

福利厚生制度の充実に努め従業員に長く働いてもらう

 人材の流動化が進み、転職・離職経験者は男女ともに増加し、平均勤続年数も以前より減少傾向にあります。加えて生産年齢人口の減少もあり、日本商工会議所の調査では、人手不足と感じている中小企業は全体の6割以上に上っています。
 人材が不足すれば、既存の社員の労働時間や負担は増え、商品やサービスの質低下につながる可能性があります。さらには、人材不足による業績悪化や倒産も起きかねません。採用・定着を含めた、優秀な人材の確保は、企業の存続や成長に大きく影響すると言えるでしょう。
 若者の安定志向や大企業志向を考えると、大企業よりも中小企業のほうが人材確保は困難なのが現状です。ですから、自社に合った人を採用し、気持ちよく働き続けてもらうための努力が、中小企業にはより求められているのです。
 人材育成の研修等でさまざまな企業を訪問すると、「この会社なら安心して働き続けることができる」と従業員が感じている企業では、従業員のモチベーションの高さがうかがえます。そうした会社ほど経営がうまくいっている傾向があります。企業は、従業員から信頼感を持ってもらうことが大切と言えるでしょう。
 従業員に信頼感を持ってもらうには、一人ひとりを大切にしているという姿勢を示す必要があります。その方法の一つが、福利厚生制度です。大企業に比べ、中小企業は福利厚生が充実していないというイメージがあります。中小企業のなかには、福利厚生の充実を後回しにしているところもあるでしょう。しかし、福利厚生の充実は、既存の従業員のモチベーション向上にもつながると考えられます。
 さらに、就職活動時に仕事内容や安定性、社風や給与水準だけではなく、福利厚生を重視する学生は多くいます。ですから、福利厚生の充実に取り組むことで、採用時の人材確保においても他社との差別化を図ることができるでしょう。

両制度とも中小企業の負担は少ない

 福利厚生といっても、さまざまな種類・内容がありますが、老後に対して不安を感じている人が多いことを考えると、企業年金の実施は老後の所得確保に向けた支援になるため、とても有用だと思います。
 2012年に適格退職年金が廃止され、その後、厚生年金基金制度が見直されたことで、企業年金を実施している中小企業は減少しています。とはいえ、DBや企業型DCは運営コストや手間を考えると、中小企業が導入するにはハードルが高いようです。今回の簡易型DC制度と中小事業主掛金納付制度は、そうした中小企業の受け皿になることでしょう。
 簡易型DC制度は、企業側の事務負担が少ないシンプルな設計となっていますし、中小事業主掛金納付制度は、従業員が加入しているiDeCoに企業が掛金を上乗せする仕組みです。いずれも敷居が低いうえ、中小企業の負担はそれほど多くありません。どちらが自社に合っているか、また、無理なく継続していけるかなどを考慮して導入を検討してみてください。
 もしかしたら、すでにiDeCoに加入している従業員がいるということもあるでしょう。iDeCoは60歳になるまで引き出すことはできませんが、その分税制優遇もありますので、個人年金としてもニーズは高いのではないでしょうか。
 5月から両制度が始まるので、「今がチャンス」と考えて、中小企業の事業主や担当者の方にはそれぞれの制度内容についてきちんと知るところから始めてほしいと思います。

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