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広報誌「厚生労働」

ニッポンの仕事、再発見!

《造園工》

庭を設計し施工する、木を植える、植木を剪定するなど、庭づくりに関わるすべてを一貫して行う。日本庭園や洋風庭園はもちろん、公園緑地などの築造や道路などの緑化、植栽の維持管理など幅広い業務を担う。

「造園に終わりはない」 長い時をかけて維持管理に努める

小峯 吉衛
こみね・きちえ

1946年、埼玉県生まれ。中学卒業後、16歳で造園工の父親に弟子入りし修業を積む。68年、川越造園組合青年部を設立し初代青年部長に就任、現在は顧問を務める。埼玉県造園技能検定推進協議会理事、埼玉県造園技能士会相談役。2016年、「現代の名工」に選定される。 (植鍋 住所:埼玉県川越市南通町18番地2)

植木の剪定をしている職人を見かけることは多いはず。
この職人は造園工と呼ばれ、剪定はその仕事の一部にすぎません。
庭の設計からの施工、その後の維持管理を含めた
庭づくりに関わるすべての業務を担っています。
この道一筋の小峯吉衛さんに、造園の奥深さについて伺いました。

出入り職として信頼を獲得。思い切ったアイデアを駆使

 中学校を卒業後、すぐに父親に弟子入りして以来、五十有余年にわたり造園工として数々の日本庭園づくりに取り組んできた小峯吉衛さん。小峯家は代々、造園を生業としており、小峯さんは5代目です。
 造園工とは、庭を設計し施工まで行う庭づくりの専門職です。その仕事のなかには植木の手入れも含まれます。しかし現代では、庭づくりと植木の手入れを切り離して考えている造園工がほとんどだそうです。
「庭づくりと植木の手入れに一貫して取り組むのが造園工だと思いますね。自然の素材で庭をつくるので、木が庭にぴったりと収まらない場合も多い。木の成長を何年も待ったり、枝を伸ばしてみたり切ってみたりしながら、ようやくぴたっと庭に収まるわけです」
 庭は長い歳月をかけて完成するため、造園工は自分が手がけた庭を継続的に見ていく義務と責任があります。しかし、現代では長期スパンの視点をもった造園工は少なくなっていると、小峯さんは言います。
 また、造園工は客が見ているところで仕事をするため、客との親密な関係を築ける点がほかの建築関係の職人とは異なります。
「昔は『駆けつけ』と言って、たとえば、消防車が客の家のほうに向かっていることに気づいたら、延焼被害がおよばないように駆けつけて手伝いをしました。そのため、客も私たちに対して家族のように接してくれました。その場限りの請負では、そうはいきません。出入り職として、長年にわたる付き合いのなかで信頼関係を築いていくのが本来の造園工なんです」
 現代は造園業界も設計図と見積書で業務が進行するのが中心ですが、出入り職として厚い信頼を獲得している小峯さんの場合は見積書不要が多いとか。依頼時には造園の一切を任されているので、思い切ったアイデアを取り入れることも可能です。
 地元川越の寺院で催された野点の席(お茶会)では、平坦な庭に50?もの流れる水路をつくることに成功しました。これも寺院からの注文ではなく、小峯さん自身のアイデアです。
「流路をつくるには高低差が必要なので、1pに満たない落差をつくったのですが、試行錯誤の連続でした。なかなかうまくいかなくて、失敗するたびにスーッと血の気が引きましたよ。アイデアが浮かび、成功したときは『やった! どうだ!』と叫びたい気持ちでしたね」

技法の再興にも注力。持てる技術をすべて若手に

 小峯さんは、竹蓑垣や水琴窟など、失われつつある製作技法の再興にも力を注ぎ、高いレベルでの施工に実現しています。
「竹蓑垣を見に、現存している場所に頻繁に通いましたが、内部構造がわかりませんでした。つくっては壊して、を繰り返した末にようやく復元できたときは、父親のお墓に報告に行きましたよ。『おやじ、やったぞ!』と。それほどうれしかったですね」
 水琴窟の再興にも、実験を何度も繰り返し、手探りしながら取り組みました。水琴窟とは、手水鉢の近くの地中に空洞をつくりだし、その中に水滴を落下させ、その際に発せられる音を反響させる仕掛けで、日本庭園の装飾のひとつです。
「流路にしても竹蓑垣や水琴窟の再興にしても、すべてが手探り。でも、試行錯誤しているときがおもしろい。そこが、造園の魅力ですから、いつも楽しんで取り組んでいます」
 小峯さんは、自身が再興した仕掛けを惜しげもなく若手の造園工に伝授しています。技術を時間を掛けて見つけ、成功するとこの技術を後世まで残さなければならないという使命感にかられました。
「小峯家6代目を継ぐ息子だけではなく、若手が私の技術のすべてを学び継承してくれることが今の目標です。そうすることで後世に技術を伝えてくれれば、こんなにありがたいことはありません。私も、まだまだ学ぶことがたくさんあります。自分の知識が正しいのかどうかを確認するためにスマートフォンも使えるようになりましたよ」

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