ホーム > 報道・広報 > 広報・出版 > 広報誌「厚生労働」 > 特集 ニッポンの未来像がここにある 最新『労働経済分析』を読み解く

広報誌「厚生労働」

特集 ニッポンの未来像がここにある 最新『労働経済分析』を読み解く

厚生労働省は、2017年9月29日に『平成29年版 労働経済の分析』(労働経済白書)を公表しました。本年の白書では、「我が国の経済成長とイノベーション・雇用との関係」と「働き方をめぐる環境の変化とワーク・ライフ・バランスの実現」をテーマとしています。少子高齢化の下で、持続的な経済成長を実現していくために何が必要なのか。本特集では、こうした問題意識の下、雇用・労働面を中心にさまざまな課題の分析に取り組んだ白書の要点をご紹介します。皆さんも、「ニッポンの未来像」を一緒にのぞいてみませんか。

<Part1>解説 『労働経済の分析』のポイント


日本が持続的な経済成長を実現するには、どのような課題を克服していけばよいのでしょうか。Part1では、4つのポイントから見ていきます。

1.イノベーションの現状と促進に向けた課題とは?

イノベーションの実現が経済成長には不可欠

 我が国が、少子高齢化の下で、持続的な経済成長を実現していくためには、イノベーションを通じた労働生産性の向上が必要不可欠です。
 こうした問題意識の下、『平成29年版 労働経済の分析』の第II部第1章では、我が国の経済成長の現状を紹介したうえで、イノベーションの重要性とその実現に向けた課題を分析しています。
 まず、2000年代以降、日本のGDPの成長率は主要国と比較すると低い水準にあり、その要因の一つとして考えられるのが、TFPの上昇率の低さです。TFPとは「全要素生産性」のことで、経済成長を要因分解した際に、資本投入や労働投入といった要因以外の成長要因を指します。
 では、どうしたらTFPを上昇させることができるのでしょうか。
 その方策の一つがイノベーションの促進です。経済学者のシュンペーターによれば、イノベーションとは、「新しいものを生産する、あるいは既存のものを新しい方法で生産すること」と定義されています。従来、イノベーションは「技術革新」と訳される傾向にありましたが、経営の革新といったプロセス面に係ること等によっても生じることから、「技術革新」だけにとどまらない概念となっている点に留意が必要です。
 国際的に見ると、イノベーションとTFPには相関関係があり、イノベーションを促進することで、TFPの上昇率が向上する傾向にあります(図表1)

図表1

 しかし、我が国のイノベーションの実現割合を国際比較すると、製造業・サービス業ともに低い水準にとどまっていることがわかります(図表2)
 したがって、各分野・各企業においてイノベーションの実現を促進していくことは、今後の日本の経済成長にとって不可欠な要素です。

図表2

積極的な研究開発や先進的な機械等への設備投資が鍵

 イノベーションの促進に向けて、設備投資面と人材面の観点から、より具体的な課題に言及していきます。
 まずは、設備投資面から見ていきます。我が国の設備を見ると、主要国と比較して、設備のヴィンテージ(平均年齢)の上昇が進んでおり、新規の国内設備投資が増加していない状況にあります(図表3・図表4)

図表3

図表4

 こうしたヴィンテージの上昇は、イノベーションとも負の相関が見られ、新規の設備投資の重要性がわかります(図表5)。特に、「研究開発」に関係するものが重要であり、国際的に見ると、研究開発が進むほどイノベーションが実現しやすいという傾向が確認できます。

図表5

 しかし、日本企業が設備投資を行う目的を見ると、「能力増強」が最も多く、「維持・補修」が2番目となっており、「研究開発」や「新製品・製品高度化」の割合は低い水準となっています。こうした状況がイノベーションの実現が促進されない要因の一つとなっています。

イノベーションの促進に向けた効果的な人材マネジメント

 次に、人材面について見ていきます。
 まず、博士卒など高度な人材の確保もイノベーションの実現には重要です。国際的に見ると、博士卒人材の割合とイノベーション実現割合は、大卒人材の割合と比較し、相関関係が強い傾向にあります(図表6)

図表6

 しかし、日本企業における博士卒の割合は、主要国のなかで最も低い水準にあります。
 さらに、博士卒の人材に対する企業の採用方法においても、重視する項目として「熱意・意欲」や「行動力・実行力」などが挙がっており、「専門知識・研究内容」が重視されていない状況にあります(図表7)

図表7

 また、博士卒の専門性を重視しない企業側の姿勢は、「博士卒に見合った待遇が用意されないのではないか」といった学生側の不安感にもつながります。博士課程への進学に対する学生の意識を見ると、理工系修士学生のうち7割以上が「博士課程に進学すると修了後の就職が心配である」、約6割が「博士課程進学のコストに対して生涯賃金などのパフォーマンスが悪い」と考えています(図表8)

図表8

 企業においても、高度人材を確保し、イノベーションを促進していく観点から、今後、採用段階においても専門性を重視し、それに見合った処遇を用意していくことが重要です。
 次に、イノベーションの促進にとって、人材マネジメントのあり方も重要な要素です。
 まず、イノベーションの実現に向けては、教育訓練を実施し、従業員の能力を向上させていくことが重要です。
 しかし、我が国の状況を見ると、イノベーションの促進に向けた阻害要因として、「能力のある従業員が不足している」と認識している企業であっても、6割以上の企業では、教育訓練が行われていない状況にあります(図表9)。イノベーションを促進するためには、教育訓練を実施し、従業員の能力を高めていくことが重要であり、その中身については、現場と協働しながら人事部で作成することや、従業員自らが能力開発に積極的に携わるよう意識変革を促していくことが、効果的な取り組みだと考えられます。

図表9

 続いて、従業員のモチベーションを向上させる人事評価とイノベーションの実現割合との関係性について言及します。従業員のモチベーションを向上させる方法として、個人の業績に応じた給与制度に着目すると、業績評価の際に「結果・個人・高業績者重視」の企業のほうが、相対的にイノベーションを実現している傾向にあります(図表10)。つまり、個人の業績に応じた給与制度の導入が、イノベーションを促進するには効果的であることがわかります。

図表10

 最後に、高度人材にとって、働きやすい環境の整備についてです。イノベーションを実現するためには、特に高度人材の活用が重要ですが、高度人材は、仕事の進め方や時間配分に関し、柔軟な働き方が可能になることで研究活動などの仕事を効率的に進め、成果を出す可能性があると考えられます。実際に、柔軟な働き方を導入している企業は、イノベーションの実現割合が高いという結果が出ています(図表11)

図表11

 以上をまとめると、イノベーションを促進するためには、教育訓練の実施、個人の業績に応じた給与制度の導入、柔軟な働き方が可能な環境整備などが効果的です。
 なお、こうした雇用管理制度を導入するにあたっては、従業員が長時間労働にならないよう、ワーク・ライフ・バランスに配慮した取り組みを同時に進めていくことが重要です。

イノベーションの進展を賃金上昇につなげることが重要

 就業者の変化を見ていきます。日本はサービス業化が進んでおり、職業別の就業者数の推移によると、事務従事者や専門的・技術的職業従事者の占める割合が増加しています(図表12)

図表12

 また、スキル別に就業者数の変化を見ると、高スキル職種(複雑な作業を求められる職種)と低スキル職種(定型的な業務を求められる職種)の二極化が進んでおり、米国と比べると低スキル職種の就業者が増えています(図表13)。その背景としては、1990年代後半以降のIT革命に乗り遅れたことや、働き方の多様化、企業による人件費の削減などの影響で、非正規雇用労働者が増えたことが考えられます。

図表13

 低スキル職種の増加は、イノベーションの進展が賃金の上昇に結びつかない一つの要因になります。イノベーションの進展を賃金の上昇に結びつけていくためには、イノベーションの進展に伴う高スキル化に合わせ、労働者が積極的にスキルの向上に取り組むことができるように環境の整備を行うことが重要です。しかし、日本の企業における労働者の能力開発の実施状況(計画的なOJTまたはOFF―JTの実施割合)については、正社員が8割弱であるのに対し、正社員以外では5割弱にとどまっています。正社員に限らず労働者は積極的に能力開発に取り組むとともに、企業側も正社員以外が積極的に能力開発を行えるように支援していくことが求められています。

  • 続きを読む
    (発行元の(株)日本医療企画のページへリンクします)

ホーム > 報道・広報 > 広報・出版 > 広報誌「厚生労働」 > 特集 ニッポンの未来像がここにある 最新『労働経済分析』を読み解く

ページの先頭へ戻る