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広報誌「厚生労働」

<特集>
20年目を迎えるからこそ知ってほしい つながっていく臓器移植の輪

臓器移植法が施行されて今年で20年を迎えました。
臓器移植の認知度が上がってきている一方で、臓器提供を「する・しない」の意思表示や、その意思の家族間での共有は、未だに進んでいないのが現状です。
本特集では、法施行からこれまでの20年間を振り返るとともに、臓器移植に関わるドナー(臓器を提供する人)とその家族やレシピエント(臓器移植を受ける人)、医師や臓器移植コーディネーターの方々に臓器移植への思いを伺いました。 自分自身で臓器提供について考え、それを家族と共有する機会をつくることにつながれば幸いです。

図表

<Part1>
臓器移植法施行20周年 感謝の気持ちを込めて振り返る

臓器移植は、ドナーとレシピエントを中心に、それぞれに関わる医療従事者や臓器移植コーディネーターなど多くの人に支えられています。そうした人たちへの感謝の気持ちを込めて、臓器移植法施行からの20年を振り返ります。

厳しい条件設定で安全性を確保

 臓器移植は、病気や事故によって臓器(心臓や肝臓、腎臓など)が機能しなくなった場合に、ほかの人の健康な臓器を移植して機能を回復させる医療です。
 日本では、1964年に生体腎移植や肝臓移植が行われたのが移植医療の始まりです。それ以前に1956年には、新潟大学で急性腎不全の患者に一時的に腎臓を移植する手術が行われていました。1963年にアメリカで世界初の肝臓移植と肺移植、1967年に南アフリカで世界初の心臓移植が行われており、日本も世界とほぼ同じ時期に移植医療を始めたといえます。
 世界各国で移植医療の研究と臨床への応用が行われるようになってくると、「拒絶反応」や「脳死の定義」などの問題も出てきました。
 日本では、1968年に札幌医科大学で日本初の心臓移植が行われました。手術の環境(密室)や脳死判定などについて、さまざまな方面から批判があがりました。この件をきっかけに、日本の移植医療は一度中断してしまったのです。
 移植医療への国民の不信感を払拭するため、国は臨時脳死及び臓器移植調査会などを設けて、何度も審議を重ね、遂に1997年、「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」の成立・施行に至りました。これにより、日本でも脳死後の臓器提供が可能になったのです。
 同法では、「脳死後の臓器提供は、本人の生前の書面による意思表示がない限り法的脳死判定および臓器提供ができない」「その書面の有効性を遺言可能年齢に準じて15歳以上とし、15歳未満は脳死後の臓器提供を行うことができない」などの厳しい基準が定められました。このルールは、移植医療の安全性を確保するためのものだったのですが、厳しい内容から、臓器移植が法施行後初めて実施されたのは1999年2月でした。
 2015年12月までに、359人の方が脳死後に臓器提供し、計1,572件の臓器移植が行われました。
 日本は、世界各国と比べてみても臓器移植の件数はまだまだ少ないのが現状です。100万人あたりの臓器提供者数はスペインが35.1人、アメリカが26.0人なのに対して、日本は0.7人と極めて少なくなっています(図表1)。その理由として日本では、脳死後に臓器を提供する場合に限定して脳死は人の死とされますが、世界のほとんどの国では、臓器提供とは無関係に、脳死は人の死として認められていることや、臓器移植に関するガイドラインが大きく影響しているものと考えられています。

図表1

改正臓器移植法成立

 2008年の国際移植学会で、臓器移植は自国の待機者を優先して行うように求める「イスタンブール宣言」が採択されました。これにより日本では、海外に頼っていた小児の心臓移植への対応が早急に求められ、同法の改正が必要になりました。
 これを受け、2009年7月の国会審議を経て、「臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律(改正臓器移植法)」が同年7月17日に公布され、その6カ月後の2010年1月17日から改正臓器移植法の一部(親族への優先提供)が施行、1年後の2010年7月17日からは全面施行されました。
 改正臓器移植法のポイントは次の2点になります。
   (1)本人の意思が不明な場合も、その家族の承諾があれば臓器提供ができるようになった。これにより、15歳未満の人からの臓器提供も可能に
   (2)親族への優先提供の意思表示が可能に

 親族への優先提供が行われる場合は、次の3つの要件をすべて満たしていなければなりません。
   (1)本人(15歳以上の人)が臓器提供をする意思表示に併せて、親族への優先提供の意思表示を書面により表示している
   (2)臓器提供の際、親族(配偶者、子ども、父母)が移植希望登録をしている
   (3)医学的な条件(適合条件)を満たしている

 親族優先の臓器提供には、留意事項もあります。
   ・医学的な条件などにより移植の対象となる親族がいない場合は、親族以外の人へ臓器提供が行われる
   ・優先提供する親族を指名した場合は、その人を含めた親族全体への優先提供意思として取り扱われる
   ・提供先を限定する意思表示があった場合、親族も含め臓器提供は行われない
   ・親族への提供を目的とした自殺を防ぐため、自殺者からの親族への優先提供は行われない
 これらの改正内容を受け、2011年4月に初の15歳未満の脳死下臓器提供、同年5月に初の親族優先提供、その翌年6月には初の小児脳死判定基準を適用した6歳未満の脳死下臓器提供が、それぞれ実施されました。

臓器提供の意思を持つ人の割合は4割強に増加

 2013年の内閣府世論調査によると、43.1%の人が脳死後に臓器を提供する意思を持っていることがわかりました(図表2

図表2

 一方、提供したくないと回答した人は23.8%でした。ここ10年間の調査によると、提供したいという人の割合が増加し、逆に提供したくないという人が減っているなど、臓器移植への意識や理解は年々高まっているといえます。実際に提供者の数も少しずつ増えてきています(図表3)。

図表3

 43.1%のうち臓器移植に関する意思をカードなどに記入している人は5年前の調査の3倍の12.6%まで増加しています。
 今年8月31日現在、心臓・肝臓・腎臓などの移植を希望する患者でJOT(日本臓器移植ネットワーク) ※1に登録している人は、1万3,896人に上ります(図表4)。
JOTに登録せず海外に渡った人も数多くいます。残念ながら日本では、移植を受けた方よりも、移植の機会を待ちながら亡くなった方のほうが多いのが現状です。

図表4

 2017年4月より、高等学校の保健体育の教科書に、臓器移植について記載され、保健体育や道徳教育の場でも、いのちの授業として、臓器提供や臓器移植についての授業が行われるようになりました。中学生向けの啓発パンフレットを活用した授業を展開している先生による出前授業も行われています。子どもたちが授業で学び、感じとったことをもとに、家庭でも臓器提供について話し合い、お互いの意思を明確にしていく機会へとつなげていってほしいものです。

※1:JOT(日本臓器移植ネットワーク)
死後に臓器を提供したいという人やその家族の意思を活かし、移植を希望する人に最善の方法で臓器が贈られるように橋渡しをする、日本で唯一の組織。国内の移植希望者の登録受付や最新データの整備なども行っている。ドナーの情報への対応は、専任の臓器移植コーディネーターがおり、臓器提供先の選択や、移植施設への連絡、臓器摘出チームの手配、臓器搬送の手配まで手がけている。なお、眼球(角膜)の移植は、アイバンクが手がけている。

<臓器移植後の高い生存率を支える医療従事者の熱意と技術の向上>

磯部 光章・・・公益財団法人日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院 院長
          厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会 委員長 

情報公開を徹底することで臓器移植への不信感を払拭

 日本で臓器移植法が1997年10月に施行されてから現在に至るまで、臓器移植に関して大きな事故や問題が起きることなく20年を迎えることができました。
 臓器移植法ができる以前に、和田心臓移植(※)の問題が起き、国民の脳死判定や臓器移植への不信感も募り、日本では臓器移植そのものが行われなくなっていました。
 そのなかで、臓器移植法が成立し、日本の移植医療も動き出すかに思われましたが、実際に臓器移植が行われたのは、その2年後となりました。
 この法律の成立にあたって、臓器移植に関しては“一点の曇りもないものにしたい”との国の考えもあり、情報公開に努めてきました。病院側は臓器移植が行われ るたびに会見を開いたり、押し寄せるドナーの家族や友人たちに対応したりと、移植手術以外の面での苦労もありました。こうしたことにしっかりと対応し続けてきたことで、脳死判定や臓器移植への不安や疑念を少しずつ払拭できてきたのです。
 移植後の高い生存率も、この20年の成果です。海外と比較すると、心臓移植の場合、海外では5年で約3割の人が亡くなっているのに対して、日本では1割に止まっています(図表5)。

図表5

 これは、医療従事者たちの熱意や技術の向上と、ドナーとレシピエントが適切に選定されてきたことによるものだと思います。臓器移植の基準は、他国と比べてとても厳しいものになっています。それだけ慎重に扱ってきたことで、確実な成果を出しているのです。
 ドナーの数が少ないとの課題もありますが、一方でドナー一人あたりの提供臓器の数の多さも日本の臓器移植の特徴といえます。臓器を傷つけないように丁寧に 扱う医療従事者の技術の高さと、多くの臓器を提供したいという意思を持つドナーの多さに支えられてきたのです。
 臓器移植そのものに関しては周知が進んできました。しかし、ドナーはまだ足りていなく、希望者の約半分も移植を受けられていません。待機者は年々増加しているのです。アメリカは心臓移植を希望してから、移植を受けるまでに平均で半年ですが、日本は3年かかっています。
 国民一人ひとりに、自身の健康や命、臓器提供について考えてもらい、提供する・提供しないのどちらかの意思表示をしてもらいたいと思っています。
 臓器移植法が施行されてから20年の間に、実績も成果も積み重ねてきました。節目の年であることを活かして、改めて、臓器移植について積極的に普及・啓発をしていきます。
 今後は国民への普及・啓発と併せて、臓器移植を行う医療機関の負担を減らせるように、移植医療のシステムの見直しもしていかなければならないと考えます。
 
※和田心臓移植
1968年に札幌医科大学の和田寿郎教授(当時)らが行った、日本初の心臓移植のこと。移植手術の環境(密室)や脳死判定などについて、さまざまな方面から批判があがった。

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