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広報誌「厚生労働」

ニッポンの仕事、再発見!

《家具類内張工》

家具のなかでも椅子をメインに扱う。背もたれや座面に詰め物を入れて布を張る専門職。レストランやホテル、家庭用などの椅子のほか、クラシックチェアを手がける職人もいる。

長く使えるクラシックチェアを全工程手作業で生み出す

上柳 征信
かみやなぎ・まさのぶ

 1972年、東京都生まれ。大学卒業後、父親の博美さんが代表を務める株式会社上柳製作所に入社し修業に励む。イタリア、フランス、ドイツなど訪欧を重ね、椅子張りの技術を高める。2010年、株式会社I.S.U.house上柳に社名変更し代表取締役に就任。16年、「現代の名工」に選定される。

 18世紀ヨーロッパの宮廷装飾を今に伝える椅子張工の上柳征信さんは、100年先までも愛用される椅子を製作しています。当時の工法そのままに手作業で丁寧につくり込むクラシックチェアは優美で柔らかな曲線で、多くの人を魅了してやみません。また、ロココスタイルをベースにしたオリジナルチェアも考案しています。

すべて一点ものの椅子は100年以上の生命力を持つ

 ロココスタイルの椅子を伝統的な工法で製作している上柳征信さん。その師匠は父親の博美さんです。博美さんが椅子工房を設立したのは1970年のこと。以来、50年近くにわたり親子二代で椅子張りに取り組んできました。征信さんが修業を経て、あとを引き継いだのは2010年のことです。
 ロココスタイルとは、フランスのルイ15世時代に宮廷を中心にヨーロッパで栄えた装飾様式で、1720〜60年ごろまで流行。猫脚など軽やかな曲線を多用し、繊細でエレガントな趣があります。
 ほかにも、ルイ16世時代、ナポレオン3世時代の椅子などクラシックチェアも幅広く手がけています。
「椅子張工とは要するに布を扱う職人なんですよ。ヨーロッパの建築物は石造りのため、防音や断熱を目的に布団のようにふくらませた布を壁に張ります。日本でも装飾としてカウンターの下などに布を張ることがありますが、私がメインで取り組んでいるのは椅子張りです」
 椅子の製作は木工、塗装、椅子張職人の共同作業で、上柳さんが担当しているのは最終工程の椅子張りです。座面に二百数十年の伝統技術であるスプリングを設え、ヤシの繊維と馬毛の詰め物を入れ形をつくってから、布を釘で打ちつけていきます。
「木枠や日本で手に入らない材料・道具はフランスから直輸入しています。布もフランス製です。木枠と布をお客さまに選んでもらい製作するので、すべて一点もの。約30の全工程が手作業ですから、木枠の在庫があるときでも完成までに1カ月はかかりますね」
 同じ椅子張りでも多様な種類の椅子があり、美容院などで使われる電動機能のある椅子を専門にしているところもあれば、ファミリーレストランなどの椅子、家庭用椅子やホテル用椅子を専門にしているところもあります。上柳さんのようにクラシックチェアを専門にしている職人はごくわずかです。
「クラシックチェアは細部までこだわり丁寧につくるので、値段は張ります。でも、ロココ時代の椅子が現代でも座れる耐久性を持っているように、私が製作する椅子も100年後、200年後でも座っていただけますよ」
 注文に応じて製作するだけでなく、孫や曾孫の代まで長く使い続けてもらうため、詰め物の交換や布の張り替えなどの修復も重要な仕事の一つです。実際に、世代を超えて受け継がれてきた椅子の修復依頼も多いといいます。
「一度限りの注文にとどまらず、繰り返しお仕事させていただけるのがうれしいですね。お客様には『私を育ててください』という気持ちを込めて、完成した椅子をお渡ししています。購入してもらうこと、継続して仕事をさせていただくことが、職人を育てていくことになりますから」

ロココスタイルをベースにオリジナルチェアも開発

 上柳さんは、ロココスタイルの技術をベースにしたオリジナルチェアの製作にも取り組んでいます。大量消費で品質の良さ以前に、高いか安いかが選択基準になっている今、手が届きやすいオリジナルチェアをクラシックチェア普及のための最初の入口と位置づけています。
「オリジナルチェアのターゲットは女性です。女性が気に入ってくれる椅子をつくって販売することで、ロココスタイルの椅子や椅子張りの認知度を高めたいと思っています。売れる椅子をつくらないと普及につながりません」
 上柳さんの工房では十数年前から一般向けに椅子づくり教室を開いています。ここでは、一日で完成できるオリジナルスツールだけでなく、本格的なロココスタイルの椅子を、1年かけて自分の手でつくることも可能です。
 また、所属している東京椅子張同業者組合連合会でも年に数回、子どもたちを対象に椅子製作を体験する機会をつくり、ものづくりの楽しさを伝えています。
「組合では、製作した椅子を持ち寄って展示・販売するイベントも行っており、若手の職人たちがおもしろい作品をつくってくるんですよ。若手への刺激になるように、オリジナルチェアづくりに今後さらに力を入れたいと考えています」

上柳征信さん

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