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広報誌「厚生労働」

ニッポンの仕事、再発見!

《日本料理調理人》

煮物、焼き物、揚げ物、酢の物、刺身など、あらゆる和食を調理し盛り付けまで行う。伝統的、かつ基本的なルールを守りつつ、時代に合った料理を提供するため、柔軟な発想力や想像力も求められる。

五味五色五法の伝統を守りつつ時代の変化をとらえて料理を開発

大河原 実
おおかわら・みのる
1954年、福島県生まれ。高校卒業後、日本料理店で修業を始める。その後、伊豆熱海ホテル「水葉亭」、築地本願寺日本料理「紫水」などで修業を積み、2004年、虎ノ門パストラルホテルの副総料理長に。13年、水月ホテル鷗外荘の総料理長に就任。16年、「現代の名工」に選定される。

ユネスコ無形文化遺産に登録され、改めて注目を集めている日本料理。日本人には身近な存在ですが、日本料理の王道「懐石料理」の基本ルールや調理法、盛り付けなどに関しては知らないことも多いのではないでしょうか。日本料理調理人として卓越した技能を有する大河原実さんに、その神髄をお聞きしました。

妥協せず常識にとらわれず、追求しつづける姿勢が肝要

 懐石料理の調理人である大河原実さんは、45年にわたって腕を磨き続けています。これまでに修業を積んできた店は、ホテル内の日本料理店だけでも複数に及び、カウンターで料理を提供する店などもあります。あらゆる業態での豊かな経験により、オールマイティーな技能を有するに至りました。
 「どんな業態の店でも日本料理の基本的な伝統手法は変わりませんが、調理人は職人ですから、店のスタイルに合わせた料理をつくらなければなりません。勤務先が変われば料理も変わりますから、そのつど頭を切り替え、新しい料理に挑戦することになります。私がいろいろなスタイルの店を経験してきたのは、どんな料理にも対応できる力を磨きたかったからです。もちろん、ひとつの店に勤続するという選択もありますが、それでは料理の幅が広がるのに多くの時間が必要になると思いますね」
 日本料理調理人は店のスタイルに柔軟に対応する力だけでなく、時代の要請に応える料理をつくることも、常に求められます。大河原さんが肝に銘じているのは、修業時代に師匠から繰り返し言われた言葉です。
 「『満足したら、それで終わりだ。妥協したり常識にとらわれたりすることなく追求しつづけないと、前には進めない』。師匠の言葉が座右の銘であり、若手にも伝えています。日本料理は著しく変化しているので、伝統を重んじつつ発想の豊かさも求められる。終わりがない奥が深い料理なんです」
 大河原さんによれば、日本料理とは広義には、うどん、そば、寿司など伝統的に日本で食べられてきた料理全般の総称ですが、厳密には懐石料理に見られる五味五色五法に則った料理を指すそうです。五味とは甘み、辛み、塩味、苦み、酸味。現在はそれに旨味が加わっています。五色とは赤、青(緑)、黄、白、黒。五法とは焼く、煮る、蒸す、揚げる、生のままのこと。これらの条件を組み合わせると、その数は無限大。さらに、日本料理は季節を感じさせる調理法や盛り付けも必要とされるため、まさに終わりがない世界です。
 「五味五色五法は、陰陽五行説からきている調理法で、プラス五感も含まれます。素材には体を冷やすものと温めるものがありますし、器にも平らなものと深いものがあります。すべてに陰陽が反映されているので、陰と陽を組み合わせるわけです。たとえば、お椀自体は陰の素材ですから、温かい汁物を入れて陽にするという具合ですね」
 季節に合わせて色を組み合わせたり、器を使い分けたりと、幅広い知識を習得していないと日本料理調理人は務まらず、一人前になるのは容易ではありません。知識だけでなく考える力も必要だと、大河原さんは言います。
 「私の修業時代は『見て覚えろ』でしたが、今は論理的に説明して理解させることを優先します。でも、すべて教えてしまうと自分で考えなくなるので、肝心なところは教えないんですよ(笑)。それに、経験を積まないと身につかないことも多いですからね」
 考え抜き、徹底的にやりつくすことが技術の習得や発見につながるそうです。たとえば、里芋ひとつとっても、掘り出してから何日経過しているかによって、煮る時間が異なったり、調味料の量や入れるタイミングも違うため、その見極めができないとおいしい煮物はできません。こうした判断ができるようになるには、幾度となく繰り返し料理をつくるしかないのです。

江戸東京野菜を使った料理を創造するために試行錯誤中

 大河原さんが近年取り組んでいるのは、小学校での食育のほか、江戸東京野菜を使った地産地消の料理の開発です。配合せずに種を守り続けてきた江戸野菜だけでも43種類あるとか。
 「東京では練馬大根や大蔵大根、千住ネギ、伝統小松菜、谷中生姜、馬込三寸人参など数多くの野菜が栽培されており、それらを使った料理づくりに力を入れています。新しい素材との出会いはとてもおもしろいですが、試行錯誤している段階ですね。でも、手こずった野菜をうまく調理できたときの喜びがあるから、また挑戦する。その繰り返しです。失敗がなければ成功もありませんから、若手も壁を乗り越える体験を大切にしてほしいですね」

大河原実さん

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