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広報誌「厚生労働」

ニッポンの仕事、再発見!

《機械式時計組立・修理工》

電池をエネルギー源とするクオーツ時計と異なり、ゼンマイを動力とするのが機械式時計。その組み立て調整・メンテナンスを行うのが機械式時計組立・修理工である。仕組みが複雑な機械式高級時計を手がけるには、熟練した技術と豊富な経験が必要である。

指先しか動かさない緻密な作業 妥協を許さず高精度を追求する

平賀聡
ひらが・さとし
1970年、千葉県生まれ。89年、高校卒業後、セイコー電子工業株式会社(現:セイコーインスツル株式会社)に入社。95年、時計技能競技全国大会第一部門において、当時の最年少記録となる25歳で優勝し、労働大臣賞受賞。2003年、時計修理技能士1級に合格。14年、国際時計見本市バーゼルワールドで「グランドセイコー」の組み立て実演。その後も世界の都市で実演。15年、「現代の名工」に選定される。

腕時計には、電池で動き比較的安価なクオーツ時計と、調整しながら部品を組み立てていく機械式時計があります。
機械式時計組立・修理工は顕微鏡をのぞき込みながら、極小の部品を一つひとつ組み立てていく極めて緻密な作業を担当しています。
平賀聡さんは、機械式時計のなかでも最高級品を手掛けています。

試行錯誤の連続の末に完成。世界最小体積のトゥールビヨン

 平賀聡さんは、セイコーインスツル社内随一の技能の持ち主として高い信頼を得ている機械式時計組立・修理工です。量産品は工場で製造されるため、手がけているのは、高級品のなかでも最高級品だけ。それを一から組み立てます。メンテナンスに関しても、担当しているのは最高級品のみ。客が愛用している時計に不具合が生じた際、その原因を見つけ分解・再調整し、元の状態にまで回復させます。
 さらに、海外に向けてセイコー製の機械式時計をPRするため、世界各都市で組み立てのデモンストレーションを行うなど、営業活動にも取り組んでいます。
 機械式時計の構造は、まさにミクロの世界です。ましてや数千万円という超高級品となると顕微鏡を使用しながら、ムーブメントから外装まで非常に微妙な調整が求められます。
 「組み立てはとても細かな作業で、指先しか動かしません。グランドセイコー メカニカルハイビートモデルの場合は、てんぷという時計の心臓部が1秒間に10振動するムーブメントが採用されますが、これは一般に使用されている時計のなかで最もぶれが少なく安定性が高いものです。部品は221点もあり、それらを一つひとつピンセットで組み立てていきます。精度が高い時計ほど、緻密な作業が必要になるんですよ。たとえば、コマを回してぶつけ合う遊びがあります。回転が遅いコマは、回転が速いコマにはねとばされてしまうのに対し、回転が速いコマは安定して動き続けます」往復運動が速い10振動の時計も同じ原理だとか。
 平賀さんが、これまでに組み立てた時計のなかの最高級品は、豪華な彫金をふんだんに施した美術工芸品としての価値が高いクレドール「FUGAKU」で、1本5,000万円というから驚きです。「FUGAKU」は、スイス以外では日本で初めて採用されたトゥールビヨン構造。日本初の試みに挑戦し、薄くて軽く、精度も高い世界最小体積のトゥールビヨンを完成させることに成功しました。
 「最高級品ですし、初めての試みですから試行錯誤の連続。最初のうちはとても緊張しましたし、うまくいかずにつらいこともたくさんありました。でも、気持ちを切り替えて楽しんで取り組むようにしたんです。1個完成したときは心底ホッとしましたね。2個、3個と手がけていくうちに組み立てのコツもつかめてきて、それにともない組み立てスピードも速くなりました」
 機械式時計の部品は工場で大量生産されますが、それをそのまま使って組み立てているわけではありません。同じような形状に見えても微妙に異なるため、極小の部品をピンセットで調整することから組み立ての仕事は始まります。精度の高い時計をいかに手数を減らして速くつくりあげていくかが、やりがいだと言います。
 「組み立て中は指先しか動かさないので、体が固まっちゃうんです。これが、この仕事のつらいところですね。でも、呼吸を止めたままだと手に震えが出たりするので、呼吸のタイミングにも配慮が必要です。目も疲れますから、目薬も手放せません」

「常にベストをめざせ」先輩の言葉を胸に挑戦し続ける

 45歳の若さで卓越した技能が認められ、15年の受賞者のなかで、最年少で「現代の名工」に選定された平賀さんですが、この仕事を始めたころは命じられた仕事になかなか合格点がもらえず、何度か突き返されたことがあるとか。
 「若いころは、先輩方から『妥協するな。ここで諦めたら、これ以上伸びないぞ。常にベストをめざせ』と厳しく指導されました。先輩方のおかげで今の自分があると感謝しています」
 先輩の言葉を胸に刻みつけて、日々全力で仕事に取り組み培った技能や経験を、若手組立・修理工や設計者、デザイナーに対して伝えています。後進の育成に努めるだけでなく、自身のさらなる成長にも貪欲です。
 「トゥールビヨン構造は初めての仕事でしたが、ほかにも手がけたことのない機械式時計は各種あります。今後も意欲的に新しいことにチャレンジしていきたいですね」

平賀聡さん

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