厚生労働省

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3.家庭用品等に係る吸入事故等に関する報告

(財)日本中毒情報センターは、一般消費者や医療機関の医師からの種々の化学物質による急性の健康被害に関する問い合わせに応ずる機関である。毎年数万件の問い合わせがあるが、このうち、最も多いのが幼少児の化粧品やタバコの誤飲誤食で、それぞれ年間3,900件、3,400件に達し、これらは合わせると問い合わせの全件数の約20%を占める。

本報告では、(財)日本中毒情報センターから提供された問い合わせ事例の中から、家庭用品等による吸入事故及び眼の被害事例について収集・整理している。

なお、原因とされる製品のなかには医薬品等、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」上の家庭用品ではないものも一部含まれている。

(1)原因製品の種別の動向

全事例数は842件で、前年度(728件)と比較して1.2倍に増加し、過去最多であった。原因と推定された家庭用品等を種別で見ると、前年度と同様、殺虫剤(医薬品等を含む)の報告件数が最も多く、210件(24.9%)であった。次いで洗浄剤(住宅用・家具用)133件(15.8%)、芳香・消臭・脱臭剤88件(10.5%)、漂白剤59件(7.0%)、消火剤43件(5.1%)、園芸用殺虫・殺菌剤36件(4.3%)、洗剤(洗濯用・台所用)35件(4.2%)、防虫剤22件(2.6%)、防水スプレー21件(2.5%)、灯油16件(1.9%)の順であった(表5)。なお、防水スプレーは平成14年度に12件、平成15年度11件、平成16年度14件、平成17年度13件、平成18年度17件、平成19年度は21件の報告があった。

製品の形態別の事例数では、「スプレー式」が368件(43.7%)(そのうちエアゾールが200件、ポンプ式が168件)、「液体」237件(28.1%)、「粉末状」103件(12.2%)、「固形」66件(7.8%)、「蒸散型」52件(6.2%)、その他11件、不明が5件であった。ここでいう蒸散型とは、閉鎖空間等において一回の動作で容器内の薬剤全量を強制的に蒸散させるタイプの薬剤で、くん煙剤(水による加熱蒸散タイプを含む)、全量噴射型エアゾール等が該当する。蒸散型の健康被害は平成12年度までは年間20件前後で推移し、以後平成15年度の63件をピークとして増加した後、前年度までは、若干減少の傾向がみられていたが、今年度は、前年度の40件に比較して増加した。なお、蒸散型は医療機関からの問い合わせが多いのも特徴である。

(2)各報告項目の動向

年齢から見ると、0〜9歳の小児の被害報告事例が358件(42.5%)で、前年度と同様、最も多かった。次いで30歳代が多く、40歳代及び50歳代が続き、その他の年齢層は総件数、該当人口当たりの件数とも大きな差は見られなかった。年齢別事例数は製品によって偏りが見られるものがあり、芳香・消臭・脱臭剤は0〜9歳にピークが見られ、漂白剤や洗浄剤(住宅用・家具用)は0〜9歳以外に30歳代の報告件数が、殺虫剤は0〜9歳にピークが見られ、30歳代と50歳代の報告件数も多かった。

性別では、女性が473件(56.2%)、男性が333件(39.5%)、不明が36件(4.3%)で男女比は前年度とほぼ同等であった。電話での問い合わせのため、記載漏れ等があり、被害者の性別不明例が多少存在する。

健康被害の問い合わせ者は、一般消費者からの問い合わせ事例が684件(81.2%)、受診した医療機関等医療関係者からの問い合わせ事例が158件(18.8%)であった。

症状別に見ると、症状の訴えがあったものは555件(65.9%)、なかったものは280件(33.3%)、不明のものが7件(0.8%)であり、症状の訴えがあったものの割合は前年度とほぼ同様で7割程度であった。症状の訴えがあった事例のうち、最も多かったのが、咳、喘鳴等の「呼吸器症状」を訴えたもの227件(27.0%)、次いで、悪心、嘔吐、腹痛等の「消化器症状」を訴えたもの193件(22.9%)で、眼の違和感、痛み、充血等の「眼の症状」を訴えたものが160件(19.0%)、頭痛、めまい等の「神経症状」を訴えたものが136件(16.2%)であった。前年度と比べて上位に占める症状はほとんど変動していない。

発生の時期を見ると、品目別では、殺虫剤による被害が5〜10月に多い。また、曜日別では、特に傾向は認められなかった。時間別では午前8時〜午後8時の間にほぼ均等に発生しており、午前0時から午前6時頃までが少なくなっていた。これらの発生頻度は前年度と比較して際だった変化はなく、発生頻度は、生活活動時間に相関している。

(3)原因製品別考察

1)殺虫剤・防虫剤

殺虫剤・防虫剤に関する事例は232件(有症率71.6%)で、そのうち、殺虫剤が210件(前年比1.3倍)、防虫剤22件(前年比1.7倍)といずれも増加していた。

被害発生状況として、頻度の高い順に、

1.乳幼児・認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例

2.適用量を明らかに超えて使用した事例

3.人の近辺で使用し、影響が出た事例

4.用法どおり使用したと思われるが、健康被害が発生したと思われる事例

5.蒸散型の薬剤を使用中、入室してしまった事例

6.換気を十分せずに使用した事例

7.本来の用途以外の目的で使用した事例

8.スプレーで噴射方向を誤ったことによる事例

9.薬剤を使用中であることを周知しなかったことによる事例

10.容器の破損により吸入したあるいは眼に入った事例

等が挙げられる。手軽に使用できるエアゾールや蒸散型は、使用方法を誤ると健康被害につながる可能性が高く、使用の際には細心の注意が必要である。蒸散型薬剤の使用中に在室した、屋外用の殺虫剤を室内で使用した等、用法を十分に確認せず使用した事例も散見されたことから、使用前に製品表示を熟読し、安全な使用方法等についてよく理解した上で、正しく使用するべきである。また、保管、廃棄の際にも注意が必要である。

家庭用に販売される不快害虫防除を目的とした殺虫剤に関して、平成17年7月に家庭用不快害虫用殺虫剤安全確保マニュアル作成の手引きが作成された。製造・輸入を行う事業者においては、当該マニュアル作成の手引きに基づき安全性の確保や表示の方法等に対する適切な取組みが期待される。

◎事例1【原因製品:殺虫剤(液体タイプ)】
患者

10か月男児

状況

殺虫剤成分含有の設置型虫よけ剤を倒したらしく、内容液が床の上にこぼれていて、小児が咳き込んでいるのを家族が発見した。近医を受診後、

症状

が強いため、経過観察目的で転送された。

症状

咳、発熱

処置・転帰

化学性肺炎と診断された。輸液、抗生物質を投与。5日入院。

◎事例2【原因製品:殺虫剤(スプレータイプ)】
患者

10歳男児

状況

小児喘息のある子供がエアゾール式の殺虫剤をいたずらし、友達とかけ合って周囲が真っ白になるくらい噴射した。朦朧として倒れているところを発見され、医療機関を受診した。

症状

喉の痛み、頭痛、軽度意識障害、嗄声

処置・転帰

外来(経過観察)

◎事例3【原因製品:殺虫剤(スプレータイプ)】
患者

69歳女性

状況

家の中に入ってきたハチに、窓を開けずマスクを着用せずに屋外用のエアゾール式の殺虫剤を使用した。製品は、何メートルも先の虫に強力噴射するタイプのもの。

症状

頭痛

処置・転帰

洗眼、鼻洗浄、うがい、入浴後、家庭内で経過観察

◎事例4【原因製品:防虫剤】
患者

成人女性

状況

ネズミ駆除に効果があると聞いて、大量の防虫剤を密室で使用したところ症状が出現した。その後、使用量を減らしたが、1か月後も症状が続いている。

症状

咳、頭痛

処置・転帰

不明

◎事例5【原因製品:殺虫剤(1回使い切りタイプ)】
患者

30歳女性

状況

くん煙剤を1階と2階に1個ずつ使用した。用法どおりに使用し、窓を開けるため部屋に入り、数分間吸入した。マスクはしていなかったが、途中服で口を覆った。翌日になっても具合が悪い。

症状

喉の痛み、息苦しさ、咳、頭痛、発熱、めまい、耳鳴り、背部痛

処置・転帰

外来で、鎮痛薬、喘息用薬を処方。喉の痛みと咳以外は数日で治まった。

◎事例6【原因製品:殺虫剤(スプレータイプ)】
患者

37歳女性、8か月女児(双生児)

状況

部屋の端に置いていたエアゾール式のダニ用殺虫剤を、掃除中に誤って破損させ、中身が噴出した。

症状

喉の違和感、小児2名は不機嫌

処置・転帰

水洗、うがい、換気、家庭内で経過観察

2)洗浄剤(住宅用・家具用)、洗剤(洗濯用・台所用)

洗浄剤及び洗剤に関する事例は168件(有症率70.8%)で、前年度(144件)と比較し増加した。そのうち、洗浄剤に関する事例は133件(前年比1.2倍)、洗剤に関する事例は35件(前年比1.1倍)であった。最も多いのは、次亜塩素酸ナトリウムなど、塩素系の製品によるもの(65件)であり、製品形態で多いのはポンプ式スプレー製品(90件)であった。

被害発生状況として、頻度の高い順に、

1.乳幼児・認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例

2.複数の薬剤が作用し、有毒ガスが発生したと思われる事例

3.適用量を明らかに超えて使用した事例

4.液体や粉末の薬剤が飛散し、吸入したあるいは眼に入った事例

5.マスク等の保護具を装着していなかったことによる事例

6.換気を十分せずに使用した事例

7.用法どおりに使用したが、健康被害が発生したと思われる事例

8.薬剤使用後、そのまま放置したことによる事例

9.スプレーで噴射方向を誤ったことによる事例

10.使用後に十分すすぎを行わなかったことによる事例

11.人の近辺で使用し、影響が出た事例

等があり、被害を防ぐには、保護具を着用する、換気を十分に行う、長時間使用しない、適量を使用すること等に気を付ける必要がある。

特に、塩素系の洗浄剤と酸性物質(事故例の多いものとしては塩酸や有機酸含有の洗浄剤、食酢等がある)との混合は有毒な塩素ガスが発生して危険である。これらの製品には「まぜるな危険」との表示をすることが徹底されているが、いまだに発生例が見られ、一層の周知が必要である。

スプレー製剤に一部共通するところがあるが、前項の殺虫剤・防虫剤と同様に、喘息等の呼吸器疾患のある患者において、塩素系薬剤、酸性薬剤の使用時にそのミストやガスの吸入がきっかけとなって原疾患の症状が出現したと思われる事例があった。

乳幼児の事故事例は、保管場所を配慮することによって防止できるものが多い。

◎事例1【原因製品:トイレ用洗浄剤(ポンプ式スプレー)】
患者

1歳男児

状況

小児が急に泣き出したので行ってみると、ポンプ式スプレータイプのトイレ用洗浄剤をいたずらして噴射した様子で顔が濡れていた。ロックをしていなかった。

症状

眼の充血

処置・転帰

洗眼、家庭内で経過観察

◎事例2【原因製品:排水パイプ用洗浄剤(塩素系)/食酢】
患者

34歳女性

状況

床にこぼれた排水パイプ用洗浄剤を食酢で拭き取った。その場に5分程度いたところ、症状が出現したため受診した。

症状

胸部不快感、悪心、頭重感、口唇しびれ感、顔面紅潮

処置・転帰

2日間通院し、外来で輸液を行った。

◎事例3【原因製品:カビとり用洗浄剤(塩素系)】
患者

40歳女性

状況

浴室で、マスクを着用しポンプ式スプレータイプの塩素系カビとり用洗浄剤を30分程度使用した後、シャワーのお湯で洗い流した。換気扇は使用していたが、窓はなく換気は不十分だった。

症状

喉の違和感、咳、呼吸困難、酸素飽和度低下

処置・転帰

化学性肺炎の診断。外来にてネブライザー使用、鎮咳薬・気管支拡張薬投与。

◎事例4【原因製品:カビとり用洗浄剤(塩素系)/浴室用洗剤】
患者

21歳男性

状況

喘息の既往あり。窓を閉め切った浴室でポンプ式スプレータイプのカビとり用洗浄剤を使用した。水ですすいだあと浴室用の洗剤を使用したところ、症状が出現した。翌日になっても治まらないため、受診した。

症状

喉の痛み、息苦しさ、気管支喘息発作

処置・転帰

うがい後、外来にて気管支拡張薬を吸入して改善、ステロイド投与、酸素投与し、2〜3日で軽快。通院1日。

◎事例5【原因製品:洗濯用洗剤(液体)】
患者

5歳男児

状況

鼻洗浄用のスプレーと誤って、ポンプ式スプレータイプの洗濯用洗剤を小児の鼻に噴射してしまった。暗かったことや容器が似ていたことから間違えた。

症状

鼻と喉の痛み

処置・転帰

鼻洗浄、うがい、乳製品摂取後、家庭内で経過観察

3)漂白剤

漂白剤に関する事例は59件(有症率71.2%)で、このうち塩素系が46件と最も多く、大半を占めた。

被害発生状況として、頻度の高い順に、

1.複数の薬剤が作用し、有毒ガスが発生したと思われる事例

2.乳幼児・認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例

3.本来の用途以外の目的で使用した事例

4.使用後に十分すすぎを行わなかったことによる事例

5.液体や粉末の薬剤が飛散し、吸入したあるいは眼に入った事例

等があり、注意が必要である。塩素系の漂白剤と酸性物質とを混合し発生した塩素ガスを吸入した事例も相変わらず見られ、前述の洗浄剤と合わせると混合により塩素ガスが発生したと考えられる事例は11件(有症率72.7%)であった。塩素ガスを発生させるおそれのある漂白剤には「まぜるな危険」の表示、そうでなくとも「他剤と混合しない」という注意書きがなされているところではあるが、これら混合の危険性について更に一層の周知を図る必要がある。また同じシリーズの他の製品(ハンドソープや除菌スプレー)と誤認して使用した事例があり、購入時や使用前には必ず容器の記載をよく確認する必要がある。

なお、喘息等の呼吸器疾患のある患者において、塩素系薬剤の使用時にそのミストやガスの吸入がきっかけとなって原疾患の症状が出現したと思われる事例が前年度報告され、引き続き注意が必要である。

◎事例1【原因製品:漂白剤(塩素系)/入浴剤】
患者

62歳女性

状況

浴室で塩素系漂白剤を1/3本分使用し、入浴剤の入ったお湯で洗い流した。直後より症状が出現した。ガスが発生していないか心配になった。

症状

悪心、眼の痛み

処置・転帰

洗眼後受診、外来で経過観察。

◎事例2【原因製品:漂白剤(塩素系)/漂白剤(酸素系)】
患者

32歳女性

状況

布に擦り傷の血がついていたので、まず酸素系漂白剤の原液を付けた。しかし落ちなかったので、その上から塩素系漂白剤の原液をかけた。ガスが発生し、症状が出現した。

症状

喉の痛み・違和感

処置・転帰

うがい・水分摂取後、外来で経過観察

◎事例3【原因製品:漂白剤(塩素系)/ドライアイス】
患者

6歳女児

状況

配水管にドライアイスを捨てた。そこに塩素系漂白剤を流したところ、眼に刺激のあるガスが発生した。

症状

眼の刺激感

処置・転帰

不明

◎事例4【原因製品:漂白剤(酸素系)】
患者

10か月男児

状況

酸素系漂白剤の希釈液が入った洗面器にタオルをつけ置きしていた。小児がその洗面器の内容物を自分の顔に大量にかけた。

症状

眼の充血

処置・転帰

洗眼、家庭内で経過観察

◎事例5【原因製品:漂白剤(塩素系)】
患者

1歳男児、34歳女性、65歳女性

状況

ハンドソープの詰め替え用を購入するつもりが、間違えて同じシリーズの塩素系漂白剤のつけかえ用を購入した。気づかずにハンドソープの容器に入れ、家族3名が使用した。

症状

喉の痛み、悪心、顔面蒼白

処置・転帰

水分摂取、家庭内で経過観察

4)芳香・消臭・脱臭剤

芳香・消臭・脱臭剤に関する事例は88件(有症率46.6%)で、前年度(85件)からほぼ横ばいである。

被害発生状況として、頻度の高い順に

1.乳幼児・認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例

2.スプレーで噴射方向を誤ったことによる事例

3.点眼薬と間違えて点眼した事例

4.用法どおり使用したと思われるが、健康被害が発生した事例

5.用法を十分確認せずに使用したことによる事例

6.適用量を明らかに超えて使用した事例

7.人の近辺で使用し、影響が出た事例

等が見られた。多種多様な製品が販売されており、事故の発生状況も製品の形態や使用方法により様々であることから、今後も注意が必要である。

芳香剤スプレーにおいて、噴射方向を十分に認識していなかったために眼に入ってしまったという事故が過去より散見されている。一部の製品では販売形態及び表示の改善が行われ、事例の件数は減ったものの、今年度も類似の問い合わせがあった。また、携帯用液体消臭剤(トイレ用)を点眼薬と間違える事故に関しては、平成17年度の報告時期半ばで容器の大幅な変更がなされた製品があり、前年度は類似の事故報告はなかった。しかしながら、今年度は4件の問い合わせがあり、改良後の製品でも1件が確認された。これらについては、今後も引き続き、注意喚起を行うことが必要であると思われる。

◎事例1【原因製品:脱臭・消臭・芳香剤(スプレータイプ)】
患者

69歳女性

状況

ポンプ式スプレータイプの消臭剤を初めて使用する際、独特のデザインのために、噴射口が本来の位置と反対側にあると思っていた。誤認したまま噴射し顔にかかってしまった。

症状

口腔咽頭・眼・皮膚の違和感

処置・転帰

洗眼・洗顔後、家庭内で経過観察

◎事例2【原因製品:脱臭・消臭・芳香剤(液体タイプ)】
患者

46歳女性

状況

いつも点眼剤を入れているバッグに消臭剤も一緒に入れていて、確認せずに誤って消臭剤を1滴点眼してしまった。ノズルが赤く長いタイプで、輸入して使用しているアメリカ製点眼薬の容器が大きく、消臭剤の容器と大きさが似ていた。

症状

眼の痛み

処置・転帰

外来にて、洗眼、点眼薬処方。

◎事例3【原因製品:脱臭・消臭・芳香剤(液体タイプ)】
患者

85歳女性

状況

設置型の液体芳香剤を直接防臭に使おうと、3倍程度に希釈し、スプレー容器に入れて噴霧した。噴射口が顔の方を向いていて、眼鏡をかけていたが眼に入った。

症状

眼の違和感、充血

処置・転帰

洗眼

5)園芸用殺虫・殺菌剤等

園芸用殺虫・殺菌剤等に関する事例は53件(有症率71.7%)、そのうち、園芸用殺虫・殺菌剤に関する事例は36件、除草剤は12件、肥料3件であり、前年度と比較して減少していた。成分別では有機リン含有剤17件、ピレスロイド含有剤11件、グリホサート含有剤5件であった。

被害発生状況として、頻度の高い順に、

1.マスク等の保護具を装着していなかったことによる事例

2.人の近辺で使用し、影響が出た事例

3.本来の用途以外の目的で使用した事例

4.使用時に風下にいたため、吸入した事例

5.薬剤を使用中であることを周知しなかったことによる事例

6.乳幼児・認知症患者など危険認識能力が十分にないものによる事例

等が見られた。屋外で使用することが多く、使用者以外にも健康被害が発生しているのが特徴である。家庭園芸用であっても十分な注意喚起を図る必要がある。

◎事例1【原因製品:園芸用殺虫・殺菌剤(液体タイプ)】
患者

61歳男性

状況

自宅で、マスク・手袋を着用せず庭木にアルカリ性の園芸用殺虫・殺菌剤の希釈液を噴霧した。液体がたれて直接手に付着した。また、使用直後から胸痛があり、30分後からマスクを着用した。その後も症状が続くため受診した。

症状

手全体のびまん性紅斑、皮膚の痛み、間欠的な胸部圧迫感

処置・転帰

作業中・作業後に水洗いし、医療機関の外来でも洗浄した。通院日数は不明。

◎事例2【原因製品:園芸用殺虫剤(スプレータイプ)】
患者

44歳女性

状況

バルコニーで、マスクを着用せずエアゾール式の殺虫剤を噴霧していたところ、風向きが変わり吸入してしまった。2〜3時間後より症状が出現した。

症状

喉の痛み、息苦しさ

処置・転帰

水洗い、うがいをした後、家庭内で経過観察

◎事例3【原因製品:園芸用殺虫殺菌剤(スプレータイプ)】
患者

65歳女性

状況

扇風機を掃除する際、住宅用洗剤と間違えて殺虫殺菌剤を水でぬらしたスポンジに吹きつけて、素手で羽を洗った。ポンプ式スプレー容器の色は殺虫剤が赤、洗剤は緑と違うが、同じ場所に保管してあり間違えた。

症状

喉の痛み、動悸

処置・転帰

水洗い、換気後、家庭内で経過観察

6)消火剤

消火剤に関する事例は43件(有症率69.8%)であり、前年度(50件)と比較して減少した。被害状況としては、消火器が倒れて消火剤が噴出した例、危険認識能力が十分にないものによる事例のように、使用時以外の被害が目立ち、取扱いや保管には十分な注意が必要である。また、火災のため使用の際や、その後の清掃時に吸入する事例も見られ、清掃時にはマスクをするなど、吸い込んだり、眼や皮膚に付着したりしないよう注意が必要である。

健康被害の防止のためには、消火器の使用者はあらかじめ製品表示や取扱説明書をよく読んで使用方法や清掃方法について確認し、いざという時に正しく使用する必要がある。また消火器設置者には、保管中の誤噴射を防ぐため、消火器格納箱へ収納する、転倒防止スタンドを使用するなどの工夫をすることが望まれる。

なお、喘息等の呼吸器疾患のある患者において、消火剤粉末の吸入がきっかけとなって原疾患の症状が出現したと思われる事例があった。

◎事例1【原因製品:粉末消火剤】
患者

5歳男児(5〜6名)

状況

粉末消火器を誤作動させ、近くにいた小児5〜6名が吸入した。

症状

喉の痛み、悪心

処置・転帰

うがい後、家庭内で経過観察

◎事例2【原因製品:粉末消火剤】
患者

31歳女性

状況

隣家で発生した火災で、粉末消火器を使用して消火活動を行った際、消火剤を吸入した。症状が出現したため救急車で受診した。

症状

喉の違和感、咳

処置・転帰

外来でステロイドを投与した。1日通院。

◎事例3【原因製品:粉末消火剤】
患者

30歳男性

状況

自宅でボヤを起こし、消火器を使用した際に消火器の粉を吸入した。喘息の既往がある。

症状

息苦しさ、咳、喘息発作

処置・転帰

不明

7)防水スプレー

防水スプレーに関する事例は21件(有症率81.0%)であり、報告件数は前年度より増加した。防水スプレーについては、過去に、死亡事故を含む、呼吸困難、咳等の呼吸器系中毒症状を主訴とした急性中毒事故が多発した。その後、エアゾール協会によるエアゾール防水剤の安全性向上のための暫定指針(平成6年)や防水スプレー安全確保マニュアル作成の手引き(平成10年)が策定され、一旦、事故が減少していたが、近年、再び増加傾向にある。また過去には冬場に多く事故が発生する傾向があったが、最近では必ずしも特定の季節に集中しておらず、使用する目的の幅が広がっていることが推測される。

いずれの事故も咳、呼吸困難等、呼吸器を中心とした症状を来たしており、重症化し、呼吸管理のため入院を必要とした事例も見られた。防水スプレーは、本来は屋外で使用すべきものであるが、室内で使用したため換気がなされず吸入したと考えられる事例が大半を占めた。また風が強い屋外で使用したために吸入した事例もあった。また過量使用と思われる事例も複数あった。使用にあたっては、マスクを着用する等の安全対策を確実に講じるとともに、使用する場所や周囲の環境、使用量に十分な注意を払うよう、改めて注意喚起したい。

◎事例1【原因製品:防水剤・撥水剤】
患者

41歳女性

状況

換気状態の悪い玄関で、ブーツにエアゾール式の防水剤を1本使用した。作業は1時間程度であった。作業終了30分後より症状が出現したため受診し、5時間後に他院に転送された。

症状

頻呼吸、呼吸困難、発熱、低酸素血症

処置・転帰

急性間質性肺水腫の診断で、酸素投与、ステロイドパルス療法を行った。 7日入院。退院後外来通院。

◎事例2【原因製品:防水剤・撥水剤】
患者

30歳女性

状況

換気をせずに室内で靴にエアゾール式の防水剤を15分程度使用した。マスクは着用していなかった。2〜3時間後より症状が出現した。

症状

息苦しさ、咳、酸素飽和度低下

処置・転帰

胸部X線異常(肺炎像)が見られた。酸素投与、輸液。3日入院。

(参考)防水スプレー安全確保マニュアル作成の手引き

http://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/katei/manu/bousui/bousuimanual.html

8)その他

昨今、色々な商品が発売されているが、それに伴って家庭の中でも様々な目新しい商品による事故の発生例が報告されている。

ケミカルライトやビニール風船(風船玉)、花火、風船などの玩具に関する事故については、小児に集中していた。玩具であっても、小児が使用する、あるいは小児の周囲で使用する際には、親など周囲の大人が注意することが必要である。事例4に挙げたガリレオ温度計については、平成19年12月に、国民生活センターが、当該商品による危害に関する報道発表を行った。これによると、当該商品が割れて内部の液体を浴びたために生じた化学やけど等の健康被害が報告されている。

◎事例1【原因製品:ケミカルライト】(33〜34ページ【事例15】参照)
患者

4歳男児

状況

小児が祭りで購入したケミカルライトをくわえて遊んでいたところ、破損して内容液を飲み込んだ。また、飛散した液体が眼にも入った。

症状

眼球結膜充血

処置・転帰

洗眼、水分摂取後、医療機関で洗眼。1日通院。

◎事例2【原因製品:ビニール風船(風船玉)(注)】
患者

7歳女児

状況

ビニール風船をふくらませる時に、中の空気を吸ったり吐いたりして遊んでいるうちに症状が出現した。約12時間後に受診した。

症状

喉の痛み、頭痛、発熱

処置・転帰

不明

ビニール風船(風船玉)」:ゲル状の樹脂をストローの先端に付けてふくらませ、シャボン玉状の風船を作る玩具。成分として、酢酸ビニル樹脂、酢酸エチル、エタノール等が使用されているものがある。

◎事例3【原因製品:ガリレオ温度計(注)】
患者

高校生、成人3名

状況

液体に浮かんだ球体で温度を見るタイプの温度計を落として割ってしまった。ガソリンのような臭いがする。

症状

鼻・喉の刺激感、動悸、めまい、眼の痛み

処置・転帰

不明

ガリレオ温度計」:気温の変化に伴い、温度計内部の液体の比重が変化することを利用した温度計のことをいう。温度計の内部は液体で満たされ、内部に、色の付いた液体が入った球体が複数入っており、それぞれの球体に温度を示すプレートが付けられている。成分として、パラフィンオイル等が使用されているものがある。

また、日常生活においてよく使用されてきた商品であっても、使用方法を誤ることにより健康被害につながるおそれがあるため、どのような製品であっても、使用前には必ず製品表示を熟読し、安全な使用方法等についてよく理解した上で正しく使用するべきであることを改めて注意喚起したい。

◎事例4【原因製品:シールはがし】
患者

25歳男性

状況

密室で、エアゾール式のシールはがしを使用して8時間ほど作業した後、症状が出現し受診した。

症状

喉の痛み

処置・転帰

外来にて、酸素投与、輸液

(4)まとめ

この報告は、医療機関や一般消費者から(財)日本中毒情報センターに問い合わせがあった際、その発生状況から健康被害の原因とされる製品とその健康被害について聴取したものをまとめたものである。医療機関に対してはアンケート用紙の郵送により、また一般消費者に対しては電話によって追跡調査を行い、問い合わせ時以降の健康状態等を確認しているが、一部把握し得ない事例も存在する。しかしながら、一般消費者等から直接寄せられるこのような情報は、新しく開発された製品を含めた各製品の安全性の確認に欠かせない重要な情報である。

今年度も前年度同様、小児の健康被害に関する問い合わせが多くあった。保護者は家庭用品等の保管や使用には十分注意するとともに、製造事業者等も小児のいたずらや誤使用等による吸入事故が生じないような対策を施した製品開発に努めることが重要である。

製品形態別では、スプレー式の製品による事故が多く報告された。特に防水スプレーの使用に伴う事故は近年再び増加傾向にあり、前年度に引き続き、今年度も入院加療が必要な重症例がみられた。スプレー式の製品は内容物が霧状となって空気中に拡散するため、製品の種類や成分に関わらず吸入や眼に入る健康被害が発生しやすい。使用にあたっては換気状況を確認すること、一度にたくさんの量を使用しないこと等の注意が必要である。

本報告でもいくつか事例があったように、形態的に誤使用及び事故を生じやすいと考えられる商品も存在するため、事業者においては、出来る限り使用状況についての情報を収集し、改良を施す等の適切な対応をとることが求められる。また、消費者においても、製品を使用する際には使用上の注意をよく読み、適正な使用方法を守ることで、事故の発生を防ぐように努めることが大切である。

新しいタイプの製品では、予期しない事故が生じる可能性も考えられるため、事業者においては成分の安全性や類似製品による事故情報等の収集に努め、安全性に留意した対応を取るべきである。消費者においては、たとえ使用上の注意に書かれていないことであっても、小児が使用する際には最大限注意することが、新たな事故防止につながると考えられる。

主成分別では、塩素系の洗浄剤等による健康被害報告例が相変わらず多く見られた。塩素系の成分は、臭いなどが特徴的で刺激性が強いことからも報告例が多いものと思われるが、使用方法を誤ると重篤な事故が発生する可能性が高い製品でもある。また、呼吸器疾患のある患者において、塩素系薬剤、酸性薬剤の使用時にそのミストやガスの吸入がきっかけとなって原疾患の症状が出現したと思われる事例もあった。消費者が使用方法等に特に注意を払うことも必要であるが、製造事業者等においては、より安全性の高い製品の開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等について表示等による継続的な注意喚起をし、適正な使用方法の推進を図る必要がある。なお、平成18年度の家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告を受け、平成20年7月15日付けで、洗浄剤・漂白剤等安全対策協議会が作成している自主基準において、全塩素系スプレー製品については、「体調がすぐれない方は使用しない」に加え、「心臓病・呼吸器疾患のある方は使わない」旨の表示を自主基準として追加すること、塩素系洗浄剤及び塩素系漂白剤については、「体調がすぐれない方は使用しない」旨の表示を自主基準として追加するとの報告をいただいている。

事故の発生状況を見ると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の発生を防ぐことができた事例や、わずかな注意で防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者も日頃から使用前には注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることが重要である。万一事故が発生した場合には、症状の有無に関わらず、(財)日本中毒情報センターに問い合わせをし、必要に応じて専門医の診療を受けることを推奨する。行政においては、一般消費者における安全使用を徹底する観点から必要な措置を講ずるべきである。


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