厚生労働省

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2. 家庭用品等に係る小児の誤飲事故に関する報告

(1)原因製品の種別の動向

小児の誤飲事故の原因製品としては、「タバコ」が261件(33.6%)で最も多かった。次いで「医薬品・医薬部外品」が137件(17.6%)、「玩具」が60件(7.7%)、「金属製品」が55件(7.1%)、「プラスチック製品」が47件(6.0%)、食品類が31件(4.0%)、「硬貨」が25件(3.2%)、「洗剤・洗浄剤」が23件(3.0%)、「化粧品」が17件(2.2%)、「文房具」、「電池」がそれぞれ12件(1.5%)であった(表4)。

報告件数上位10品目までの原因製品については、順位に若干の変動はあるものの、例年と概ね同じ品目により占められていた。上位2品目については、小児科のモニター報告が始まって以来変化がなく、本年も同様であった。

(2)各報告項目の動向

障害の種類については、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の「消化器症状」が認められたものが100件(12.9%)と最も多かった。次いで咳、喘鳴等の「呼吸器症状」が認められたものが59件(7.6%)となっていた。全体として、症状の発現が見られたものは181件(23.3%)であったが、これらには複数の症状を認めた例も含んでいた。本年度は幸い命が失われるといった重篤な事例はなかったが、「入院」、「転科」及び「転院」となったものが32件あった。それ以外はほとんどが「帰宅」となっていた。

誤飲事故発生時刻については、例年同様夕刻以降に発生件数が増加するという傾向が見られ、午後4時〜10時の時間帯の合計は388件(55.0%:発生時刻不明を除く報告件数に対する%)であった。

誤飲事故発生曜日については、曜日間による大きな差は見られなかった。

(3)原因製品別考察

1)タバコ

平成19年度におけるタバコの誤飲に関する報告件数は261件(33.6%)であり、前年度よりも全報告例に対する割合が減少したが、過去の変動の範囲内である。その内訳を誤飲した種別で見ると、タバコ172件、タバコの吸い殻**77件、タバコの溶液***12件となっていた。

タバコを誤飲した年齢について見ると、例年と同様、ハイハイやつかまり立ちを始める6〜11か月の乳児に報告例が集中しており、146件(55.9%)に上った。これに 12〜17か月の幼児(69件)と合わせると82.4%を占めた(図4)。

乳幼児は1歳前後には独力で室内を移動できるようになり、1歳6か月以降には動きも早くなって、両手で容器を持ち飲水できるようにもなる。事例4のように自力で予測できない場所からタバコを取り出すことや、予測できない場所に移動してタバコを誤飲することもあるので注意が必要である。タバコの誤飲事故の大半は、この1歳前後の乳幼児に集中して見られ、この時期を過ぎれば急激に減少する。この期間に注意を払うことにより、タバコの誤飲事故は大幅に減らすことができるので、この時期の小児の保護者は、タバコ、灰皿を小児の手の届く床の上やテーブルの上等に放置しないこと、飲料の空き缶、ペットボトル等を灰皿代わりに使用しないこと(親子共に誤飲する可能性がある)等、その取扱いや置き場所に特に細心の注意を払うことが必要である。さらに、タバコを誤飲した小児の家庭内には喫煙者がいるケースが非常に多く、192件(73.6%)に上った。喫煙者の内訳は、父親が114件(59.4%)、母親が43件(22.4%)、そのうち両親とも喫煙している件数は28件であった。喫煙者を中心に、保護者など周囲の人がタバコの誤飲の危険性を十分認識し、禁煙する、あるいは家庭における喫煙を中止すること等により、小児のいる環境からタバコを遠ざけていくことが重要である。なお、タバコ水溶液の場合はニコチンが特に吸収され易い状態にあるので、タバコ水溶液の誤飲の原因となりかねないジュースの空き缶等を灰皿代わりにするなどの行為は避けるべきである。

誤飲の発生した時刻は、朝から夜遅くまで幅広く分布していた。

タバコの誤飲による健康被害を症状別に見ると、症状を訴えた42件中、消化器症状の訴えがあった例が32件と最も多かった。他には、呼吸器症状(咳)、循環器症状(チアノーゼ・脈の異常)、神経症状(冷や汗、頭痛)、顔色不良が認められた。一般に、タバコの誤飲においては、軽い場合は悪心、嘔吐、重くなるにつれて顔色不良、痙攣・チアノーゼが生じる。事例1及び2のように、これらの症状は、誤飲した直後に出てくるとは限らないため、始めは症状がなくても慎重に対応する必要がある。タバコは、その苦みやニコチンの催吐作用により、実際の摂取量が家族等が推測した量と比べて少ないこともあるが、誤飲した現場を目撃していないことも多く、また小児は正確な自己申告はできないため、受診後も十分経過に注意して適切に対応することが必要である。

来院前に応急処置を行った事例は155件あった。行った処置としては「かき出した、拭いた」事例が、58件と最も多かった。応急処置として、何らかの飲料を飲また例は30件あった。タバコの誤飲により問題となるのは、タバコに含まれるニコチン等を吸収してしまうことである。タバコを吐かせるのはニコチン等の吸収量を減らすことができるので有効な処置であるが、この際飲料を飲ませると逆にニコチンが吸収され易くなってしまい、かえって症状の悪化につながることがある。飲料を飲ませ、吐かせようとしても吐かなかった例も見られており、タバコを誤飲した場合には、飲料は飲ませず直ちに受診することが望ましい。

:「タバコ」:未服用のタバコ
**:「タバコの吸い殻」:服用したタバコ
***:「タバコの溶液」:タバコの吸い殻が入った空き缶、空瓶等にたまっている液
◎事例1【原因製品:タバコ】
患者

11か月男児

症状

不機嫌、顔色不良

誤飲時の状況

11時頃、居間でタバコ1/2本を食べていたのに気がつき、他院に相談したら、様子を見てよいと言われた。15時40分頃から不機嫌になり、顔色不良のため受診。

来院前の処置

吐かせた。

受付までの時間

4時間〜6時間未満

処置及び経過

排泄未確認

<担当医のコメント>

紙巻きタバコは2cmまでは無処置でよいということになっているが、1/2本の場合は、この基準から中毒量と判断すべき。自宅で吐かせたから大丈夫とは言えない。また、この事例のように、かなりの時間が経過してから症状が出現する場合があることに留意すべきである。

タバコの中毒に関してややもすると安易に考えられすぎていると思われる。中毒の対処に関して一考すべき症例。

◎事例2【原因製品:タバコ】
患者

10か月男児

症状

嘔吐、顔色不良

誤飲時の状況

8時半頃、居間でタバコ1/2本を食べたので、母親が口の中からかき出した。その後一旦眠ったが、起きて嘔吐し、顔色が不良となったため来院した。

来院前の処置

吐かせた、かき出した、拭いた。

受付までの時間

1時間〜1時間30分未満

処置及び経過

胃洗浄を行うもタバコはほとんど出ず、そのまま帰宅した。

◎事例3【原因製品:タバコ】
患者

9か月女児

症状

腹痛・下痢

誤飲時の状況

祖母の部屋でタバコをいじっていた。発見時、タバコを口の中に入れていた。

来院前の処置

かき出した、拭いた。

受付までの時間

1時間〜1時間30分未満

処置及び経過

処置なく帰宅

◎事例4【原因製品:タバコ】
患者

1歳1か月男児

症状

なし

誤飲時の状況

バッグの中に入っていたタバコを取って口に入れた。口の中にあったタバコは少量のみであった。牛乳を飲ませた。タバコは、以前母が吸っていたもので、今は吸っていないが、バッグに入れっぱなしにしていた。

来院前の処置

牛乳を飲ませた。

受付までの時間

30分未満

処置及び経過

処置なく帰宅

<担当医のコメント>

長い間放置されていると誤飲事故となりやすい。

◎事例5【原因製品:タバコの吸い殻】
患者

11か月男児

症状

悪心、嘔吐

誤飲時の状況

17時頃、ゲームセンターの遊具のそばにあった灰皿に入っていたタバコを手にとって食べていた。嘔吐させたら吐物にタバコ葉が混入していた。 来院前の処置吐かせた。

受付までの時間

30分未満

処置及び経過

吐根シロップを処方したら大量のタバコ葉が出てきた。点滴をした後帰宅。

<担当医のコメント>

タバコ誤飲は多彩であり、吐かせたからあるいは吐いたから様子を見ていてよいとは言えない。症状の出現が早い小児は30分ぐらいから、遅い小児は4時間近くになって出現したのを何度も経験している。

◎事例6【原因製品:タバコの溶液】
患者

2歳女児

症状

脈の異常

誤飲時の状況

車に置いていた、吸いがらの入ったペットボトルのお茶を飲んだ。「苦い」と言った。

来院前の処置

うがいさせた。

受付までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過

血液検査にて異常なし、吐根シロップにて胃の内容物にタバコ葉があるのを確認。輸液点滴後帰宅。

<担当医のコメント>

いまだに飲みかけのペットボトルなどに吸い殻を捨てている。この危険性をもっと広報すべき。

◎事例7【原因製品:タバコの溶液】
患者

11歳女児

症状

悪心、嘔吐、冷汗、頭痛

誤飲時の状況

公園にて、母親がタバコの吸い殻入れにしていたペットボトルの中身(お茶)を誤飲した。10分程度で嘔吐し、その後持続的な頭痛が見られた。 来院前の処置自ら嘔吐(処置はせず)

受付までの時間

1時間30分〜2時間未満

処置及び経過

血中並びに尿中のニコチン及びコチニン濃度を測定したが、血中ニコチン濃度はいずれも高値ではなかった。輸液点滴後1日入院。

<担当医のコメント>

ペットボトルにタバコをいれてはいけない。

なお、血中濃度と症状は相関しないことがある。

2)医薬品・医薬部外品

 

平成19年度における医薬品・医薬部外品に関する誤飲の報告件数は137件(17.6%)であった。前年度は111件(17.2%)であり、件数及び全体に対する割合はほぼ同じであった。症状の認められた25件中、悪心、嘔吐、腹痛、下痢などの消火器症状が認められた例が最も多く、次いで傾眠などの神経症状が認められた例が8件あった。入院を必要とした事例も12件あった。入院例の多くの場合は保護者が注意をそらしている間に薬品を大量服用してしまっている例であった。

誤飲事故を起こした年齢について見ると、タバコが6か月〜17か月児に多く見られているのに対し、医薬品・医薬部外品は、年齢層はより広いものの、特に1〜2歳児にかけて多く見られていた(88件、64.2%)。この頃には、自らフタや包装を開けて薬を取り出せるようになり、また家族が口にしたものをまねて飲んだりもするため、誤飲が多くなっているものと思われた。

また、誤飲の発生した時刻は、昼や夕刻の食事前後と思われる時間帯に高い傾向があった。本人や家族が使用し、放置されていたものを飲むこと、家族が口にしたのをまねて飲むこと等が考えられ、使用後の薬は大人が責任を持って管理する等、薬の保管には注意が必要である。

原因となった医薬品・医薬部外品の内訳を見ると、中枢神経系の薬が31件で最も多いなど、一般の家庭に常備されているものだけではなく、保護者用の処方薬による事故も多く発生していた。

また、ホウ酸団子(殺虫剤)に関しては、見かけが食物に似ているため毎年誤飲例が見られるが、本年度においても何例か見られており、引き続き注意が必要である。

医薬品・医薬部外品の誤飲事故は、薬がテーブルや棚の上に放置されていた等、保管を適切に行っていなかった時や、保護者が目を離した隙等に発生している。また、シロップ等、小児が飲みやすいように味付けしてあるもの等は、小児がおいしいものとして認識し、冷蔵庫に入れておいても目につけば自ら取り出して飲んでしまうこともある。小児の医薬品類の誤飲は、時に重篤な障害をもたらすおそれがある。家庭内での医薬品類の保管・管理には、場所とともに保管容器を開けにくいものにする等の十分な注意が必要である。

◎事例1【原因製品:錠剤】
患者

4歳女児

症状

悪心、嘔吐

誤飲時の状況

19時頃、酔い止めの錠剤を飴と間違えて食べてしまったとのこと。その際には母親は気が付かず、夕食後に気付いた。21時15分頃2回嘔吐した。 来院前の処置水又はお湯を飲ませた。

受付までの時間

4時間〜6時間未満

処置及び経過

処置なく帰宅

◎事例2【原因製品:錠剤】
患者

1歳4か月男児

症状

悪心、嘔吐

誤飲時の状況

おじの喘息薬を姉が小児に渡し、2/3錠〜1錠程飲んだ様子

来院前の処置なし

受付までの時間

3時間〜4時間未満

処置及び経過

テオフィリンの血中濃度は38.5μg/mLであり、2日間入院した。輸液の点滴を行った。

<担当医のコメント>

この血中濃度は非常に危険

小児の目につくところ、手の届くところには決して薬を置いておかないよう再度強調すべきである。

◎事例3【原因製品:錠剤】
患者

1歳9か月女児

症状

なし

誤飲時の状況

お菓子入れに紛れ込んでいた便秘薬を祖母が与えた。

来院前の処置

かき出した。

受付までの時間

30分未満

処置及び経過

吐根処置にて錠剤1/2個ずつの錠剤が2個出てきた。その後帰宅

<担当医のコメント>

医薬品の保管に関する注意喚起が必要

◎事例4【原因製品:吸入液】
患者

1歳3か月男児

症状

悪心、嘔吐

誤飲時の状況

寝室の手の届かないところに喘息用の吸入液を置いたが、足台を登って取ってしまって飲んだ。

来院前の処置

なし

受付までの時間

4時間〜6時間未満

処置及び経過

帰宅

◎事例5【原因製品:シロップ剤】
患者

2歳女児

症状

なし

誤飲時の状況

20時45分ごろ、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬等のシロップ剤を1回分飲ませた。21時20分に、小児が空の容器を持っていた。自分で飲んだ様子(20ml程度)

来院前の処置

吐かせようとするも吐かず。

受付までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過

インフルエンザ罹患中であり、親の不安も強かったので、特に誤飲による症状は無かったが、誤飲の経過措置をかねて1日入院

<担当医のコメント>

こども用シロップは、味がよいため多量誤飲を起こしやすい。シロップ容器のキャップがプッシュターン(セーフティキャップ)でなければあかないものにすることを徹底すべき。

◎事例6【原因製品:殺虫剤】
患者

1歳男児

症状

なし

誤飲時の状況

母親が台所で料理をしている5分ぐらいの間に、冷蔵庫との間にあったホウ酸ダンゴ(手作り)をなめていた。

来院前の処置

なし

受付までの時間

30分未満

処置及び経過

処置なく帰宅

◎事例7【原因製品:染髪剤】
患者

1歳11か月男児

症状

口唇、口腔内びらん及び発赤、左下口唇の水疱様腫脹

誤飲時の状況

母親が目を離したすきに、居間で母親の染髪剤を箱から取り出し、チューブごとかじってヘアカラーを摂取した。

来院前の処置

かき出した、拭いた。

受付までの時間

1時間30分〜2時間未満

処置及び経過

軟膏剤を塗布した後、口腔外科に転科

3)電池

平成19年度の電池の誤飲に関する報告件数は12件(1.5%)であった。報告件数は2年間連続で減少しているものの、前年度14件(2.2%)と比較して件数、割合は、同程度で推移しており、単独製品による事故数としては依然軽視できない数である。

誤飲事故を起こした年齢について見ると、前年度と同様、本年も特に6か月〜17か月児に多く見受けられたが、依然幅広い時期に発生している。

誤飲した電池の大半は、ボタン電池であった(8件)。放電しきっていないボタン電池は、体内で消化管等に張り付き、せん孔を起こす可能性があるので、小児の目につかない場所や手の届かない場所に保管するなどの配慮が必要である。誤飲してから時間が経つと、消化管等に癒着してしまい、取り出せなくなってしまう。誤飲したことが判明した際には直ぐに医療機関を受診するべきである。

電卓やリモコン等ボタン電池を使用した製品が多数出回っているが、誤飲事故は小児がこれらの製品で遊んでいるうちに電池の出し入れ口のフタが開き、中の電池が取り出されたために起こっている場合がある。製造業者は、これらの製品について小児が容易に電池を取り外すことができないような設計を施すなどの配慮が必要であろう。また、保護者は、電池の出し入れ口のフタが壊れていないか確認すること等が必要である。

◎事例1【原因製品:ボタン電池】
患者

9か月

症状

なし

誤飲時の状況

自宅の居間で児がペンライトで遊んでいた。それが分解され、中からボタン電池が出てきているのを母親が発見。1つが口の中にあった。

来院前の処置

なし

受付までの時間

1時間〜1時間30分未満

処置及び経過

X線撮影により胃内に2個のボタン電池を認め、その後帰宅。翌日に排泄。

◎事例2【原因製品:ボタン電池】
患者

2歳男児

症状

誤飲時の状況

自分でおもちゃの中からボタン電池を出して口の中に入れていた。母親が気づき、注意したところ飲み込んでしまった。

来院前の処置

取り出そうとして口に手を入れたら、吐き出した。

受付までの時間

1時間30分〜2時間未満

処置及び経過

X線撮影により異常なし。その後帰宅。

4)食品

本年度は、酒類の誤飲事故の報告が11件と前年(8件)より増加していた。放置されたものの誤飲や保護者が誤って飲ませてしまった例などであった。全般的に言えることであるが、誤飲の危険のあるものを放置しないようにすることが重要である。また、酒類の保管方法を工夫すること、小児に飲料を与える前には内容を確認する等の注意も必要である。

飴、豆、丸いチーズ、こんにゃくゼリーは、大きさや形状、硬さのために誤飲事故の原因となりやすい。しかもこのような食品は、気道に入ってしまうと摘出が困難であり、重篤な呼吸器障害につながるおそれがあり、小児にそのまま食べさせること自体控えるべきである。これらのように、食品を小児等に与える際には、保護者は食品の性状といった点等にも十分な注意を払い、必要な場合には細かく刻んで与える等の配慮が必要である。

◎事例1【原因製品:銀杏】
患者

4歳女児

症状

けいれん発作

誤飲時の状況

16時頃銀杏を30〜40個食べた。夕食後嘔吐し、21時20分に顔面が蒼白となり呼びかけに反応しなくなった(けいれん発作)。

来院前の処置

なし

受付までの時間

6時間〜12時間未満

処置及び経過

点滴、モニター管理、けいれんに対する処置

「銀杏中毒」:銀杏には4’-O-メチルピリドキシンが含まれているため、食べ過 ぎるとけいれんを起こすことがある。

<担当医のコメント>

銀杏中毒はその存在を知らないと診断されない可能性がある。意外に多いことを知らせたい。

◎事例2【原因製品:酒】
患者

11か月男児

症状

顔面紅潮

誤飲時の状況

11時頃、祖母の自宅でミルクを飲ませた。12時半頃、顔が赤いので調べたところ、アルコール度20度の焼酎100mlとお湯でミルクを作ったことが判明した。100ml飲んでいる。

来院前の処置

なし

受付までの時間

1時間30分時間〜2時間未満

処置及び経過

血液検査にて異常なし。輸液の点滴を行った後帰宅。

<担当医のコメント>

アルコール飲料の誤飲は意外と多い。アルコール類を飲むときは、小児が飲まないよう注意が必要。

◎事例3【原因製品:あめ玉】
患者

2歳女児

症状

呼吸困難

誤飲時の状況

居間であめ玉(直径23mm、厚さ7mm)をなめていたところ、突然苦しがり、顔を真っ赤にしていた。

来院前の処置

逆さにして背中をたたいた。

受付までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過

そのまま帰宅

◎事例4【原因製品:ピーナッツ】
患者

1歳3か月男児

症状

咳、喘鳴、呼吸困難、ラ音聴取

誤飲時の状況

口いっぱいにピーナッツをほおばって立ち上がって遊んでいたところ、後ろに倒れた。

来院前の処置

背中を叩いた。

受付までの時間

1時間30分〜2時間未満

処置及び経過

X線検査にて左肺過膨張、CTにて気道に異物あり。内視鏡下摘出術でピーナッツを摘出。

◎事例5【原因製品:麩】
患者

1歳男児

症状

咳、喘鳴(呼吸音異常あり)、呼吸困難、悪心、嘔吐

誤飲時の状況

咳き込んで嘔吐した時に麩を嘔吐した。その時に喘鳴が出現した。

来院前の処置

なし

受付までの時間

不明

処置及び経過

のどに一時的につまり、その後胃に下降した。咽頭ファイバーによる検査では異常なし。

◎事例6【原因製品:錠剤】
患者

2歳女児

症状

咳、チアノーゼ

誤飲時の状況

自宅にて健康補助剤を内服させようとしたところ、苦しがりチアノーゼが発現した。背中を叩いたところ、錠剤は出てきたが来院。

来院前の処置

背中を叩いた。

受付までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過

そのまま帰宅。

<担当医のコメント>

幼児期に錠剤状のものを飲ませるのはよくない。

また、食品ではないが、食品の付属物や関連器具による誤飲例も次のように見られている。同様な誤飲は例年も報告されており、誤飲の可能性のあるものとして注意が必要である。

◎事例7【原因製品:乾燥剤】
患者

4歳女児

症状

なし

誤飲時の状況

両親が目をはなしているすきに、乾燥剤(シリカゲル・エタノール)をヨーグルトにかけて食べた。乾燥剤の袋を親が持参して来院。

来院前の処置

なし

受付までの時間

2時間〜3時間未満

処置及び経過

処置なく帰宅

5)その他

代表的な事例だけではなく、家庭内・外にあるもののほとんどが小児の誤飲の対象物となりうる。1歳前であっても指でものをつまめるようになれば、以下に紹介する事例のように様々な小さなものを口に入れてしまう。床など小児の手の届くところにものを置かないよう注意が必要である。

固形物の誤飲では、おはじき、パチンコ玉、ビー玉、キーホルダー等の玩具、磁石、ヘアピン、シール、温度計、文房具等が報告された。これら固形物の場合は、誤飲製品が体内のどこにどんな状態で存在するか一見したところで分からないので、専門医を受診し、経過を観察するか、摘出するかなど適切な判断を受けることが望ましい。また、ビニールの薄片のように誤飲したことが分かりづらいものについても注意が必要である。例年、食品の包装に用いられていると思われるビニールの誤飲は一定の件数見られ、今年度は、ストローの袋やお菓子の袋のように食卓に置かれる可能性があると思われるものの誤飲が6件、ペットボトルのラベルの誤飲は6件あった(事例11、12)。ペットボトルのラベルは、はがしやすいように切取線が付されているのでその部分に小児が興味を持ってはがし、誤飲に至る可能性も考えられる。

誤飲製品が胃内まで到達すれば、いずれ排泄されると考えられることから問題はないとする向きもあるが、硬貨が胃内から長時間排泄されなかったり(事例5)、小型磁石や先に別途例示されたボタン電池等の場合に腸壁に張り付きせん孔してしまったりして、後日腹痛や咳などの障害を発生させる可能性もあるので、排泄の確認は是非するべきである。排泄が確認できないときは、フォローアップのX線検査等を行い、消化管の通過障害をきたすおそれがある場合や、せん孔に至る危険性がある場合は、外科的な摘出術を考慮することも必要である。

本年も防虫剤の誤飲事例があった。防虫剤は見かけ上よく似ているが、よく使用されている成分は数種類あるので、医療機関等に相談する場合は誤飲した製品名等を正確に伝える方がよい。防虫剤を誤飲した場合は、応急処置として牛乳を飲ませてはいけない。牛乳は防虫剤の吸収を促進するためである。

液体の誤飲では、液体洗剤、ガソリン、ケミカルライトの中身、瞬間接着剤等が報告された。液体の場合にはコップ、飲料用ボトル等に移し替えたもの(事例20)や、詰め替えボトル入りのものを誤飲する事例が見受けられる。また、今年度の報告事例は1件のみであったが、灯油の誤飲は毎年度報告されている。灯油は暖房など身近で使われるが、利便をはかるためにペットボトル等に小分けされることも多い。誤飲して危険なものは、飲料用ボトルに移し替えるべきではない。また、そのようなものを小児の手の届かない場所へ片付ける配慮が必要である。

【固形物】

◎事例1【原因製品:指輪】
患者

6歳女児

症状

なし

誤飲時の状況

19時頃に、居間で口の中に指輪を入れて遊んでいたところ、誤飲。誤飲後、父が背中を叩いたところ、ゴクンと飲み込んだようだった。

来院前の処置

なし

受付までの時間

1時間30分〜2時間未満

処置及び経過

X線検査にて、胃に指輪が写っていた。処置なく帰宅。

◎事例2【原因製品:ヘッドホン部品】
患者

1歳女児

症状

誤飲時の状況

ヘッドホンのメッシュの部分を触って遊んでいた。その時突然むせた。

来院前の処置

なし

受付までの時間

不明

処置及び経過

CTによる食道内に金属影あり。当日、鋭匙鉗子による摘出術を行った。9日間入院した。

◎事例3【原因製品:クリップ】
患者

2歳男児

症状

なし

誤飲時の状況

食事中にクリップを飲み込んだ。何故食事中にクリップを飲み込んだかは不明。

来院前の処置

なし

受付までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過

X線検査にて、腸内にクリップを認めた。3日後に排泄されたことを確認した。

◎事例4【原因製品:コイン】
患者

8歳男児

症状

なし

誤飲時の状況

18時半頃、居間で、口を開けて上を見ていたら、棚の上にあったコインが落ちてきて飲み込んだ。

来院前の処置

なし

受診までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過

X線検査にて、腸管内に円形のコインを認め、その後帰宅。排泄確認は行っていない。

<担当医のコメント>

誤飲は思わぬ経緯で生じることがあるので、小児が誤飲する可能性のあるものは大人が責任をもって管理するべきである。

◎事例5【原因製品:コイン】
患者

6歳女児

症状

喉の痛み

誤飲時の状況

自宅の居間でコインを飲み込んだ。のどの痛みを訴え受診。

来院前の処置

なし

受付までの時間

1時間〜1時間30分未満

処置及び経過

X線検査にて、胃内に硬貨を認め、その後帰宅。16日後に排泄を確認した。

◎事例6【原因製品:硬貨】
患者

3歳女児

症状

腹痛、下痢

誤飲時の状況

自宅の居間で100円玉を口に入れていて飲み込んでしまい、泣いて唾液を吐いた。15分くらい吐き気を催し、その後断続的に上腹部痛を訴えた。

来院前の処置

なし

受付までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過

X線検査にて、食道下部に硬貨を認め、その後転院。転院先で、食道にバルーンカテーテルを挿入し、当日摘出。

◎事例7【原因製品:おはじき】
患者

5歳女児

症状

なし

誤飲時の状況

おはじきを口に入れているところを兄が見つけ、小児が驚いて飲み込んだ。

来院前の処置

なし

受付までの時間

1時間30分〜2時間未満

処置及び経過

X線検査で食道内に異物を認め、その後NGチューブで胃内に押 し込んだ。2日後に排泄を確認した。

◎事例8【原因製品:携帯ストラップ】
患者

5か月女児

症状

なし

誤飲時の状況

居間で携帯電話を手に持って遊んでいた。母親が一瞬台所に行った隙に、携帯電話のストラップの先についていたネコの形の金具のアクセサリーがなくなっていた。小児がオエッとしたので、飲み込んだようだと思い救急車を呼んだ。

来院前の処置

吐かせようとするも吐かず

受付までの時間

30分未満

処置及び経過

X線検査で食道中部〜下部のあたりにネコの形をしたアクセサリーの金具が映っていた。他院に摘出術を依頼し、2日後に排出。

<担当医のコメント>

携帯ストラップは、ひもに連結された小さな数珠状の金具とその先にネコの形をしたアクセサリーがついていたもの。つくりが雑だったかひもが摩耗していたため、生後6か月の乳児がなめた時に容易にちぎれ、誤飲したのではないかと推測される。

◎事例9【原因製品:包帯固定用金具】
患者

1歳9か月男児

症状

なし

誤飲時の状況

居間で包帯固定用の金具を誤飲した。

来院前の処置

なし

受付までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過

X線検査で胃内に金具を認め、その後帰宅

◎事例10【原因製品:掃除機の部品】
患者

1歳2か月

症状

なし

誤飲時の状況

居間にて、母が目を離している隙に掃除機で遊んでいた。その後、使用時に部品の一部が欠けていることに気づく。

来院前の処置

なし

受付までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過
X線検査で異常なし、その後帰宅。

<担当医のコメント>

部品はプラスチックと考えられる。

◎事例11【原因製品:ビニール袋】
患者

10か月女児

症状

悪心、嘔吐

誤飲時の状況

気付いたら小児に吐き気があった。居間のテーブルにおいてあったピンセットの先を保護するビニールの小さな袋がなくなっていたので、外来受診。

来院前の処置

なし

受付までの時間

30分未満

処置及び経過

当日中に、口腔内より摘出

<担当医のコメント>

ビニールの誤飲は意外と危険である。何ヶ月か誤飲が分からないこともあり、ファイバースコープで調べてみて初めてビニールの薄片が貼り付いているのを発見したというケースもある。厚みのあるビニールやプラスチック片では、気道をふさぎ、窒息の危険性もある。

◎事例12【原因製品:ペットボトルのラベル】
患者

8か月男児

症状

誤飲時の状況

ペットボトルのラベルをかじっていた。

来院前の処置

なし

受付までの時間

2時間〜3時間未満

処置及び経過

そのまま帰宅。

◎事例13【原因製品:シール】
患者

1歳1か月女児

症状

咳、悪心、嘔吐

誤飲時の状況

保護者が注意を払っていなかった隙に、1cm弱の大きさのシールを1枚飲み込んだ。

来院前の処置

なし

受付までの時間

1時間30分〜2時間未満

処置及び経過

ピンセットによる摘除を行い帰宅

◎事例14【原因製品:パソコンのキーボード】
患者

10か月女児

症状

なし

誤飲時の状況

19時頃、パソコンのキーボードのキーが散乱しているのを母親が発見し、その後1つの部品が不足していることに気付いた。

来院前の処置

なし

受付までの時間

30分未満

処置及び経過

X線検査にて異常なし。そのまま帰宅。

【液体】

◎事例15【原因製品:ケミカルライト】
患者

7歳男児

症状

悪心、腹痛

誤飲時の状況

お祭りにて、腕輪型のケミカルライト(注)を噛み、口に少量入った。すぐに口をゆすいだが、その後気分が悪くなり、腹痛も軽度出てきて受診。

来院前の処置

うがいさせた

受付までの時間

1時間30分〜2時間未満

処置及び経過

処置なく帰宅

(注)ケミカルライト」:ポリエチレンチューブの中にガラスアンプルが入った 2重構造の棒状やリング形の製品が多い。チューブを軽く曲げて、中のガラスアンプルを割ることで、アンプル内外の液体が混ざり合い、発光する。主成分として、フタル酸エステル、シュウ酸化合物、過酸化水素等が使用されているものがある。

◎事例16【原因製品:接着剤】
患者

1歳5か月女児

症状

なし

誤飲時の状況

祖父の部屋で、引き出しの中にあった文房具を取り出して遊んでいた。急に泣き出したので見たら、瞬間接着剤を口の周りにつけていた。

来院前の処置

かき出した、拭いた。

受付までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過

帰宅した後、皮膚科に行った。

◎事例17【原因製品:防カビ剤】
患者

1歳6か月男児

症状

悪心、嘔吐

誤飲時の状況

防カビ剤の空き缶のフタをなめた。

来院前の処置

なし

受付までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過

処置なく帰宅

◎事例18【原因製品:防虫剤】
患者

1歳1か月

症状

腹痛、下痢

誤飲時の状況

午前10時頃、目を離した隙に、ベランダで防虫剤を食べていた。その後機嫌もよく昼食も食べた。午後4時頃、腹痛、下痢を認め、陰部発赤があったため来院。

来院前の処置

なし

受付までの時間

6時間〜12時間未満

処置及び経過

整腸剤を処方し帰宅

◎事例19【原因製品:液体洗剤】
患者

2歳女児

症状

なし

誤飲時の状況

洗面所にて、母が洗濯中に目を離した隙に少量飲んでしまった。

来院前の処置

なし

受付までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過

そのまま帰宅

◎事例20【原因製品:液体石けん】
患者

11歳男児

症状

悪心、嘔吐

誤飲時の状況

母親が目を離した隙に、ペットボトルに入った液体石けんをコップに入れて1口飲んだ。

来院前の処置

水又はお湯を飲ませた。

受付までの時間

30分〜1時間未満

処置及び経過

処置なく帰宅

◎事例21【原因製品:ガソリン】
患者

2歳男児

症状

なし

誤飲時の状況

父親が自宅の外でバイクの修理をしていた。誰も見ていないときに、缶に入ったガソリンを飲み終わったところをおばが発見。残ったガソリンは1〜2cmだった。本人の状態は良かった。

来院前の処置

ミルクを飲ませた。

受付までの時間

2時間〜3時間未満

処置及び経過

血液検査、生化学検査にて異常なし。酸化マグネシウムを内服。入院1日。

(4)まとめ

小児による誤飲事故については、減少傾向にはあるものの相変わらずタバコによるものが多い。タバコの誤飲事故は生後6か月からの1年間に発生時期が集中しており、この1年間にタバコの管理に特段の注意を払うだけでも相当の被害の軽減が図れるはずである。

一方、医薬品の誤飲事故はむしろこれよりも高い年代での誤飲が多い。それ自体が薬理作用を有し、小児が誤飲すれば症状が発現する可能性が高いものなので、その管理には特別の注意を払う必要がある。また、昨年度、今年度とも、高い所に保管していたものが、小児の手の届く場所に落下した結果、誤飲事故が生じた事例が見られた。ただ高い所に置くのではなく、セーフティキャップ等の空けにくい容器に入れる、置き場所を決めて大人が管理する等の対策も必要と思われる。

食品であっても、気道を詰まらせ、重篤な事故になるものもあるので、のどに入るような大きさ・形をした物品には注意を怠らないように努めることが重要である。また、酒類にも注意が必要である。

小児による誤飲事故の発生は、夕刻以降の家族の団らんの時間帯に半数近くが集中するという傾向が続いている。保護者が近くにいても、小児はちょっとした隙に、身の回りのものを口に入れてしまうので注意が必要である。特に、近年様々な形をした製品が出回るようになったので、その中でも見かけ上食べ物に見えるような商品には特別の注意が必要であると考えられる。

一方、保育所や幼稚園等、多数の小児が生活している施設で起こった誤飲の報告事例は少数で、このことからも、誤飲は避けられない事故ではないこと、誤飲をする可能性があるものを小児が手にする可能性のある場所に極力置かないことが最も有効な対策であることがうかがい知れる。

事故は家族が側で小児に注意を払っていても発生してしまうことがある。小児のいる家庭では、小児の手の届く範囲には極力、小児の口に入るサイズのものは置かないようにしたい。特に、歩き始めた小児は行動範囲が広がることから注意を要する。口に入るサイズはおよそ直径3cmの円に入るものであるとされている。しかしながら、3cmより大きいものであっても安心せず、小児が玩具等のものを口に入れないよう、常に注意を怠らないことが必要である。

誤飲時の応急処置は、症状の軽減や重篤な症状の発現の防止に役立つので重要な行為であるが、しかし間違った応急処置を行うと、かえって症状が悪化することがある。応急処置に関しては、正しい知識を持つことが重要である。

なお、(財)日本中毒情報センターにより、小児の誤飲事故に関する注意点や応急処置などを記した啓発パンフレットが作成され、全国の保健センター等に送付されている。

(参考)窒息時の応急方法等に関するウェッブサイト

国立保健医療科学院「子供に安全をプレゼント〜事故防止支援サイト」

http://www.niph.go.jp/soshiki/shogai/jikoboshi/index.html


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