第1 労働行政を取り巻く情勢

1 社会経済情勢
(1) 経済社会の構造的な変化

我が国経済社会をみると、急速に少子・高齢化が進む中、平成17年には戦後初めて総人口が減少へと転じ、平成19年以降には団塊の世代の多くが企業での引退過程を迎えることとなるなど、人口構造や労働力の面で大きな転換期を迎えている。

また、グローバル化に伴う厳しい市場競争や産業構造の高度化、生産・サービスの柔軟な供給体制をとる企業の経営戦略、高齢化等に伴う労働力需給構造の変化、勤労者意識の変化などの複合的な背景のもと、就業形態の多様化が進展しており、パートタイマー、アルバイトや派遣労働者、契約社員、嘱託社員など、非正規雇用の形態が広がっている。

こうした、我が国経済社会が直面する大きな構造変化の中、少子・高齢化の進展による経済成長の鈍化や税・社会保障負担の増大、非正規労働者の増加による将来の格差拡大や少子化の更なる進行などが懸念されている。また、国際的にはILOで、基本的な労働条件・労働環境等を備えた「適切な仕事(ディーセント・ワーク)」を各国で実現することが課題となっている。

(2) 最近の経済情勢

景気は、消費に弱さがみられるものの、回復している。政府は、「新成長経済」の実現に向けた改革への取組を加速・深化する。政府・日本銀行は、マクロ経済運営に関する基本的視点を共有し、重点期間内に物価の安定基調を確実なものとするとともに、物価安定の下での民間主導の持続的な成長を図るため、一体となった取組を行う。



2 雇用を巡る動向
(1) 最近の雇用情勢

最近の雇用情勢は、厳しさが残るものの、改善が進んでいる。

新規求人数は、景気の回復を背景に、前年水準を上回って推移している。また、新規求職者は、在職求職者が前年を上回る動きをしている中で、事業主都合による離職者等が減少しているため、全体としては減少傾向で推移している。こうした中で、有効求人倍率は、平成17年12月以降1倍台で推移し、19年1月には1.06倍となっている。

しかしながら、正社員等の安定した雇用形態での就職を希望する者が多い(全求職者のうち常用フルタイム求職者の割合は7割以上)中で、正社員有効求人倍率(常用フルタイム有効求職者1人当たりの正社員有効求人数)は前年水準を上回って推移しているものの、依然として全体の有効求人倍率と比べると低い水準にあり、19年1月は0.67倍となっている。

また、平成5年度以降20%台後半で推移していた就職率は、平成17年度は31.6%となり、平成18年度上半期においては、33.2%と改善している。

完全失業者数は、平成15年4月に過去最多の385万人となった後、減少傾向で推移し、平成19年1月は前年同月差28万人減の264万人となっている。  完全失業率は、平成14年6月、8月、15年4月に過去最高の5.5%となった後、概ね低下傾向で推移し、平成19年1月には4.0%となった。

就業者数、雇用者数については、両者とも前年と比較して概ね増加が続いている。雇用者数を従業上の地位別にみると、特に常雇については、平成16年に7年ぶりに増加に転じて以降、平成18年も増加が続いている。雇用形態別にみると、非正規職員・従業員の増加が続いている中で、正規の職員・従業員は減少傾向で推移してきたが、平成18年に入り増加が続いている。日銀短観により企業の雇用人員判断についてみると、平成17年3月に不足超過となった後、さらに、不足感が高まり、18年に入ってからも、全規模、全産業で不足超過が続いている。また、雇用調整の実施事業所割合については、18年はやや上昇した時期もみられたものの、概ね低下傾向にある。

地域別には、平成19年1月において、有効求人倍率については6ブロック (東海、北陸、北関東・甲信、南関東、中国、近畿)で1倍台となっているが、北海道ブロックにおいては0.6倍台、九州、東北の各ブロックにおいては0.7倍台、四国ブロックでは0.9倍台となっており、完全失業率についても2%台から5%台までブロックごとにばらつきがみられている。

(2) 若者の雇用状況

若者の雇用失業情勢については、平成19年3月高校新卒者の就職内定状況(平成19年1月末)をみると、全国の内定率は88.1%と、前年同期(平成18年1月末現在)に比べ2.8ポイント上昇と4年連続で上昇し、平成19年3月大学新卒者の就職内定状況(平成19年2月1日現在)についても、全国の内定率は87.7%と、前年同期(平成18年2月1日現在)に比べ1.9ポイント上昇している。

また、フリーター数については、平成15年の217万人から平成18年の187万人と3年連続で減少するなど、改善の動きが加速している状況にある。

しかしながら、若者の完全失業率は、依然、年齢計の4.0%(平成19年1月)と比べて8.4%(平成19年1月)と相対的に高水準で推移しており、早期離職率も高い状況にある。

さらに、新卒採用が特に厳しい時期、いわゆる就職氷河期に正社員となれず、フリーターにとどまっている若者(以下「年長フリーター」という。)や、ニート状態にある若者(若年無業者)はいまだ多い状況にある。

(3) 高齢者の雇用状況

高齢者の雇用管理の状況(平成18年6月1日現在)をみると、改正高年齢者雇用安定法(以下「改正高齢法」という。)に基づく高年齢者雇用確保措置を導入している企業は84%となっている(51人以上規模企業からの報告)。また、雇用情勢については、平成19年1月の60〜64歳層の有効求人倍率は0.68倍と改善傾向にあるものの依然として低水準にとどまっており、一旦離職すると再就職が厳しい状況にある。

(4) 女性の雇用状況

女性雇用者数は平成18年には2,277万人となり、17年に比べ48万人増加(前年比2.2%増)している。

また、年齢階級別に労働力率をみると、M字型カーブの底である30〜34歳層の労働力率は62.8%(前年差0.1ポイント上昇)、35〜39歳層の労働力率は63.6%(前年差0.6ポイント上昇)と上昇している。

(5) パートタイム労働者の雇用状況

短時間雇用者(週間就業時間が35時間未満の非農林業の短時間雇用者)数は、平成18年においては1,205万人と、雇用者総数の22.5%を占めるに至るとともに、近年では、勤続年数の伸張、基幹的な役割を担う者の増加もみられる。

(6) 障害者の雇用状況

障害者の雇用状況については、公共職業安定所を通じた障害者の就職件数が平成17年度には年間約3万9千件と過去最高となり、また平成18年度においても11月末現在で約2万9千件と、引き続き高い伸びを示すとともに、平成18年6月1日現在の民間企業の実雇用率は1.52%と前年比0.03ポイント上昇するなど、着実な進展がみられる。

しかしながら、有効求職者数は15万人前後と依然として高い水準で推移しており、雇用率達成企業の割合も43.4%(平成18年6月1日現在)にとどまるなど、引き続き改善すべき点も多い。



3 労働条件等を巡る動向
(1) 申告・相談等の状況

総務部企画室及び総合労働相談コーナーには、労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争(以下「個別労働紛争」という。)に関する相談やあっせんの申請等が数多く寄せられており、引き続き増加傾向にある。その内容をみると、解雇や労働条件の引下げに関するものが中心であるが、いじめ・嫌がらせなどもあり、多様なものとなっている。

また、労働基準監督署に寄せられる労働基準関係法令上問題が認められる申告事案は、賃金不払を中心に、依然として数多く寄せられている状況がみられる。

さらに、雇用均等室には、採用・募集、解雇等に関する性別を理由とする差別的取扱い、妊娠・出産等を理由とする解雇やその他不利益取扱い、セクシュアルハラスメント、母性健康管理措置、育児・介護休業の取得等に関する相談が多数寄せられており、複雑・困難化の傾向がみられる。

(2) 労働時間・賃金の状況

平成18年における年間総実労働時間は1,842時間(所定内労働時間は1,687時間、所定外労働時間は155時間)となっており、前年に比べて13時間増加している。一般労働者(常用労働者のうち、パートタイム労働者を除いた労働者)については、年間総実労働時間は2,023時間(所定内労働時間は時間は1838時間、所定外労働時間は185時間)と前年に比べて14時間増加している。「労働力調査」により週労働時間別の雇用者の分布をみると、35時間未満及び60時間以上の雇用者が減少し、35時間以上60時間未満の雇用者は増加したが、依然として、「労働時間分布の長短二極化」の状況にある。平成17年における年次有給休暇の取得率については、47.1%となっており、50%を下回る状況で推移している。


また、平成18年の一般労働者の所定内給与額の男女間賃金格差は男性を100としたときに女性は65.9となった。

この他、パートタイム労働者と通常の労働者との賃金格差について、平成18年の賃金構造基本統計調査をみると、一般労働者の所定内給与額を男女別に時給換算したものをそれぞれ100とした場合、男性パートタイム労働者は52.6、女性パートタイム労働者は69.7となっている。こうした格差については、合理的な説明が困難な事例がみられることなど、パートタイム労働者の雇用管理の改善等が十分に図られているとはいえない状況にある。

(3) 労働災害・労災補償の状況

労働災害については、平成18年は休業4日以上の災害、重大災害(一度に3人以上の労働者が死傷する災害)が増加に転じた。特に、製造業や建設業における死亡災害、重大災害が大幅に増加しており、また、依然として化学関連施設において爆発・火災災害が多発している。

労働者の健康面については、一般健康診断の結果、脳・心臓疾患につながる血中脂質、血圧等に係る有所見率が増加傾向にあり、また、職場においてストレス等を感じている労働者の割合も高い。

また、化学物質による疾病は増減を繰り返しながら長期的に減少がみられない。

労災保険給付の新規受給者数は、ここ数年約60万件で推移しており、脳・心臓疾患事案及び精神障害等事案の労災請求件数は、依然として増加している。また、石綿関連疾患に係る労災請求件数は、社会問題となった平成17年以降急増しており、平成18年3月に施行された「石綿による健康被害の救済に関する法律」に基づく特別遺族給付金の請求も多数なされている。


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