平成17年6月28日
(照会先)
 厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課
  齋藤(内7933)、木阪(内7939)
  電話 代表 03−5253−1111
 夜間直通 03−3595−2544

「小児科産科若手医師の確保・育成に関する研究」
報告書の公表について


 小児科・産科の医師不足問題の解決に向けて、平成14年度より平成16年度までの3年間、厚生労働科学研究(子ども家庭総合研究事業)「小児科産科若手医師の確保・育成に関する研究」(主任研究者:鴨下重彦 社会福祉法人賛育会賛育会病院院長)において研究を行ってきましたが、このたび報告書のとりまとめを行ったので、その概要を下記のとおり公表します。


I 研究成果概要

 1.小児科・産科の医師不足問題の解決に向けて、
(1)その過酷な労働状況の現状把握と分析を行い、
(2)その改善のための人材の確保・育成のための積極的支援策について調査を行い、
(3)その限られた人材、財源などの医療資源の効率的な配備の検討を行い、
(4)21世紀の小児医療・周産期医療のあるべき姿を幅広く提言した。

 2.あわせて、小児科医・産科医の意識改革を推進し、地方自治体保健担当者、医師会、病院会など医療関係者に広く問題を提起するとともに、マスメディアなど社会一般に問題を訴え、患者、家族、市民の教育啓発を行うために、研究班ホームページを開設して研究成果の公表を行い、ニュースレター(定期刊行物)を年4回発行、公開シンポジウムを8回開催した。


II 研究組織

 □主任研究者  鴨下 重彦(社会福祉法人賛育会賛育会病院院長)
 □分担研究(名簿
1.小児科・産科医師の労働状況の現状把握と分析
「小児科医・産科医をとり巻く環境の現状と認識に関する研究」
2.小児科・産科医師確保・育成のための積極的支援策の調査
「小児科医・産科医の勤務状態の改善に関する研究」
3.小児科・産科医療の効率化と質の向上方法の検討
「今後の小児科・周産期医療体制に関する研究」
4.コメディカルによるサポート体制の充実
「小児科・周産期医療に関連する保健医療専門職員の育成に関する研究」


研究結果の骨子

1.現状

 (1)小児科

1)小児医療提供体制の問題点は小児科医の数の不足ではなく、医師の配置の偏在と役割分担の不明確さにある。わが国における15歳未満小児人口10万人当たりの小児科医数は79.9人であり、米国における56.5人(18歳未満小児人口)と比較して決して少なくない。一方、1施設当たりの小児科医数がわが国では2.5人と少なく、センター的病院への医師の集約化が必要
2)小児科医は最近10年間減少はしておらず、むしろ僅かながら増加がみられるが、実際の活動性(ワークフォース)は明らかに低下している。その最大の原因の一つは、現在、全体の5割に近づこうとしている女性医師の結婚、出産、育児のための離職。そのため、女性医師が生涯、小児科臨床に従事できるような環境を整備することが急務
3)小児医療に関しては、診療ニーズと休日夜間の診療体制のミスマッチがある。病院及び大学病院の勤務医では、勤務時間は法定勤務時間を遙かに超えており、その負担の要因は夜間の時間外診療や救急によるもの。小児科の病院収支が算出された施設のうち約40%で小児科が赤字であり、地域医療圏ごとの小児医療体制の見直しと赤字対策に抜本的な対策が必要。

 (2)産科

1)産科医は10年来入局者が明らかに減少し、医師の4割以上が既に60歳以上と高齢化が進んでおり、今後、実働可能な産婦人科医師の数が急速に減少することが予想される。さらに、女性医師が急増し、若手医師ではすでに5割を超えていることから、小児科と同様、女性医師の継続就労支援が重要な課題。
2)産科志望者が減っている原因としては、「分娩に医師は不要」というイメージが医師の中にあることや、労働量や責任に対して報酬が低いこと、さらに、周産期訴訟の多いこと(医療訴訟の3割以上が産婦人科関連)等が指摘されている。また、多くの産婦人科医にとり産科診療における当直、不規則な診療時間、医療訴訟が多いこと等が多大なストレスとなっている。
3)毎年300人前後が産婦人科専門医になるが、医療の専門分化が進んでおり、産科医以外に、不妊専門医、一般婦人科診療医、婦人科腫瘍専門医などに分化しており、分娩を取り扱う産科の専門医の絶対数が減少しているため、産科医療の地域センター的病院への医師の集約化が必要

2.提言

(1)小児科・産科共通
1)勤務条件の改善
(1) 多様な勤務形態(フレックスタイム、時間帯交代主治医制、グループ制、ワークシェアリング等)の導入
(2) 労働基準法等関係法令を踏まえた勤務時間の再検討を行う:医師の長時間の連続勤務時間を安全管理及び労務管理の面から改善し、医師の当直・夜間勤務の翌日の休みの保障
(3) 研修・研究時間の保障

2)女性医師が仕事と家庭を両立できる就労環境の整備:現在女性医師は、わが国の小児医療・産科医療の担い手として増加しており、その積極的な支援を行う必要がある。
(1) 仕事と家庭を両立できる、柔軟性のある勤務形態の導入:時間帯交代主治医制、グループ制、ワークシェアリングの導入に対する支援
(2) 医師の仕事と家庭の両立支援、働き方の見直しに対する社会的な認知・合意の形成への支援
(3) 仕事と育児の両立支援制度の充実
 育児中の医師を雇用する医療施設に対する優遇措置
 産前・産後、育児休業を安心してとれる体制の整備:産休・育休代替要員の確保
 保育施設の充実・柔軟性と多様化への支援(職場併設保育所の整備、24時間保育の整備、病児保育の整備、学童保育の改善と充実)
 保育施設、ベビーシッター等利用可能な両立支援システムに関する情報ネットワークの整備
 いったん離職した医師の再就業に当たっての再研修制度(臨床研修、講習会等)の導入

3)小児科・産科医師バンクの設立:非常勤医師要望情報連絡制度、休職中の小児科・産科医師登録制度等、学会・医会等の自主的な医師バンク・情報ネットワーク整備に対する支援、定年退職後の医師の再雇用の促進(復職に際しての再教育システム等)を行う。

4)「魅力ある小児医療」「魅力ある産婦人科医療」を目指し、十分に臨床研究、卒前・卒後教育を行える場の確保

5)大学病院における「母子センター」の設立:大学病院における、従来の小児科、産科を統合し、設備や人員など診療体制の拡充を図ると同時に、小児外科や新生児集中治療室(NICU)も含む大学病院における母子センター化を推進する。小児眼科、小児耳鼻科、小児泌尿器科、小児放射線科、臨床検査、画像診断など専門診療科の協力体制を構築し、総合診療機能と教育研修機能を強化することで、診療の質の向上と医師の確保・育成に資する(具体的には、全国各地の大学病院内に、小児の高度な医療を担うと同時に医師の供給源として機能するセンターが設立するイメージ)。

6)大学における小児科、産科の複数教授制導入:大学、特に旧国立大学に小児科、産科の複数教授制を導入する。現在、旧国立で小児科にて複数教授制を導入している大学は、全国で5大学であるが、今後は特に小児精神科(こころのケア科)の増設が望まれる。

7)医学生、卒後研修医師に対する小児医療・周産期医療への積極的動機付けへの支援(奨学金制度、優先枠、地元枠の設定など)

8)労働量に見合った収入の確保(高次施設に見合った収入の確保)

9)小児科・産科医師の確保のための財政的基盤の整備のため、診療報酬上の手厚い評価

 10)次世代の健全育成の観点からも母子医療への思い切った国費の投入(高齢者優位の医療費を大幅に母子医療にシフト)

 11)コメディカルによるサポート体制の構築
(1) 第一次から第三次小児救急にいたる調整役を担うことができる看護師を育て、小児科医師の過重な業務の軽減と小児救急の質を保証
(2) 助産師の実践能力を高め、助産師の専門性を発揮できる各施設に適合した助産師外来の設置により、産科医師との業務の役割分担
(3) 新生児集中治療室(NICU)退院児に対する育児支援を目的とした訪問看護の推進
(4) 小児栄養ケアシステム・協働モデルの開発により管理栄養士が、一人ひとりの子どものニーズに合った栄養ケアプランを作成、実施、評価
(5) わが国の医療現場では、医療処置や病気・病状を人形や絵本などの視覚的ツールを用いて説明(プレパレーション)する医師や看護師は少ないが、こうした方法により、医療処置を受ける際の「心の準備」を実施することで、医療の質を高め、効率化を図る

 12)小児科医・産科医への過度の患者集中を避けるための方策の検討
 他科医師の小児初期診療のためのマニュアル作りと研修、小児科・産科診療を強調したプライマリケア研修の充実


(2)小児科
 1)有効で持続可能な小児医療提供体制の構築
 小児人口の分布や、傷病の発生、小児科医数などの小児医療資源を考慮した、有効で持続可能な小児医療提供体制を計画的に構築する必要がある。そのため、都道府県は医療計画に小児医療提供体制の計画を盛り込む必要がある。
 その前提として、正確な地域の小児科医数や活動状況に関する「小児科医マスターファイル」を作成、維持する必要がある。

 2)効率的な小児医療提供体制に向けての構造改革(図参照(PDF:45KB)
 診療ニーズと休日夜間診療体制のミスマッチがみられ、夜間の急患の6〜8割は小児、その8〜9割は軽症者となっている。それが、夜間休日の診療に当たる病院小児科医の過重労働をひき起こし、小児科医が疲弊する要因の一つとなっている。その結果、小児科医の充足状況はますます地域格差が大きくなっている。これを改善するために、次のような医療機関の役割分担を進める。
(1) 入院小児医療の集約化:二次医療圏(いくつかの市町村で構成)に1カ所(地方においては、複数の二次医療圏に1カ所、都市部においては、二次医療圏に数カ所)の「地域小児科センター」を整備する。この地域小児科センターは、地域の診療所から医師の派遣などを受けて、休日夜間のプライマリケア的小児救急医療を中心的に担う。
(2) 二次医療圏内の大胆な医師の集約化を図り、「地域小児科センター」への診療報酬上の評価を行う。
(3) 三次医療圏(都道府県全域)には大学や小児病院を中心に少なくとも一カ所の中核小児科を整備して、高度な小児医療を提供するとともに、教育・研究を担う。
(4) 小児救急医療は、広域的な視点に立ち、地域全体の診療所と病院に勤務する小児科担当医全体で実施する体制を整備する(小児医療ネットワーク)。
(5) 小児救急医療における重症児の対応については、小児専用の三次救急医療施設を確保する。
(6) 小児の初期救急医療を小児科医単独で行うことの限界から、他科医師との協働が重要。

 3)効率的な小児医療のための患者のふるいわけ
(1) 患者教育、理解を促進すると同時に、いわゆる「0.5次救急」としての小児救急電話相談の活用を広めて保護者の不安を解消
(2) 「お子さんの急病対応ガイドブック」の普及により保護者の不安に応え、時間外小児救急患者の受診を抑制する

 4)NICU退院児が入院できる人工呼吸管理設備のある後方病床の整備
 重症慢性疾患をもつ子ども、自宅や障害児施設では管理できない高度の呼吸管理を必要とするいわゆる超重症長期入院児がNICUに長期入院しており、NICU不足の原因となっている。そのため、人工呼吸管理、療養機能を含む「NICU退院児が入院できる後方病床の整備」をする必要がある。

 5)小児保健、育児援助、学校保健などの充実

 6)最も立ち後れている分野である小児精神保健医療を担う人材の育成および診療体制の整備


(3)産科
 1)地域の特性に応じた周産期医療システムの確立・推進
(1) 周産期医療の集約化に関する中長期計画の策定
(2) 妊産婦救急への迅速な対応と医療スタッフ集約化のための分娩のセンター化
 複数医師による診療により、勤務の調整、仮眠や十分な睡眠の確保を図ることができ、医療事故防止に繋がる。また、診察を定時に行うことが可能となり、患者とその家族への説明、相談に十分な時間を使うことができ、母体、新生児に対する十分な処置が可能となる。複数医師で行う産科医療のセンター化を進めるためには次のような対応が必要。
 機能に応じた産科施設のレベル分けとネットワーク化:総合周産期母子医療センター(三次医療)、地域周産期母子医療センター(二次医療)、診療所(一次医療)の三者間の役割分担の明確化
 周産期医療集約化への移行期における一次医療機関(有床産科診療所)の保護
 患者情報の連絡体制の整備
 患者搬送体制の整備
 周産期医療センターのオープンシステムの導入推進することにより産科リスクの軽減:妊婦を診察する診療所医師が分娩時に病院を紹介することで病診連携により一人の妊婦を診て分娩のリスクを軽減。
(3) 周産期医療のセンター化に向けた財政的基盤の整備

 2)高次周産期医療機関に勤務する産婦人科医師の付加的給与

 3)出産後も視野に入れた周産期小児保健指導(ペリネイタルビジット)の推進

 4)医療安全の確保に向けての対応として周産期訴訟問題の解決
 産科を志望する若手医師が減少している理由の一つとして、出産をめぐる医療の高訴訟率が挙げられている。そのため、周産期医療をめぐる訴訟の軽減を図り、患者・医師双方にとって納得できる接点を得るための無過失補償制度(NFC:No Fault Compensation)の検討

 5)産婦人科医療研究への支援



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