戻る  次ページ

第2章 わが国におけるワークシェアリングの実践例


1.はじめに
 現下の厳しい雇用情勢を改善するため、大きな関心と期待を集めてきた施策の一つが、ワークシェアリングである。それは、雇用の維持・創出を図ることを目的として労働時間の短縮を行うものであり、雇用・賃金・労働時間の適切な配分を目指すものである。
 平成11年の半ば頃から、急激な生産量の減少に対応するため、緊急避難策として労働時間の短縮によって雇用を維持しようという企業事例が見られるようになった。その一方で、短時間労働など多様な働き方を導入することによって、平均的な労働時間を短縮し雇用機会を増やしていくという方向性も提案された。
 こうした状況を踏まえて、政労使による検討会議が開催され、わが国における取組みの基本的な考え方について合意がまとめられた。平成14年3月末に発表された「ワークシェアリングに関する政労使合意」(巻末資料参照)がそれである。

【ワークシェアリングの取組みに関する5原則】

1. ワークシェアリングとは、雇用の維持・創出を目的として労働時間の短縮を行うものである。我が国の現状においては、多様就業型ワークシェアリングの環境整備に早期に取り組むことが適当であり、また、現下の厳しい雇用情勢に対応した当面の措置として緊急対応型ワークシェアリングに緊急に取り組むことが選択肢の一つである。
2. ワークシェアリングについては、個々の企業において実施する場合は、労使の自主的な判断と合意により行われるべきものであり、労使は、生産性の維持・向上に努めつつ、具体的な実施方法等について十分協議を尽くすことが必要である。
3. 政府、日本経営者団体連盟及び日本労働組合総連合会は、多様就業型ワークシェアリングの推進が働き方やライフスタイルの見直しにつながる重要な契機となるとの認識の下、そのための環境作りに積極的に取り組んでいくものとする。
4. 多様就業型ワークシェアリングの推進に際しては、労使は、働き方に見合った公正な処遇、賃金・人事制度の検討・見直し等多様な働き方の環境整備に努める。
5. 緊急対応型ワークシェアリングの実施に際しては、経営者は、雇用の維持に努め、労働者は、所定労働時間の短縮とそれに伴う収入の取り扱いについて柔軟に対応するよう努める。
出所:ワークシェアリングに関する政労使合意(平成14年3月29日)

 この中で、わが国でのワークシェアリングの推進にあたっては、(1)多様な働き方の選択肢を拡大する多様就業型ワークシェアリングの環境整備に早期に取組むことが適当であること、また(2)当面の厳しい雇用情勢に対応するため、緊急対応型ワークシェアリングについて緊急に取組むことが選択肢の一つであるとし、取組みの五原則が示された。これにより、多様就業型と緊急対応型の二つを柱として、ワークシェアリングを進めるための施策が展開されることとなった。
 そこで、本章ではこの二つのタイプ分けに基づき、わが国で行われてきた企業の取組み事例を報告する。ただし、ここで紹介する個々の企業は、必ずしもワークシェアリングの実践として自覚的に行われてきた事例ばかりではない。企業労使の今後の検討に資することを目的に、政労使合意の基本的な考え方に立って、具体的な取組みを整理し、紹介するものである。


2.緊急対応型ワークシェアリングの企業事例
 緊急対応型のワークシェアリングとは、景気の悪化や構造改革に伴い、一時的な生産量や売上げの減少により余剰人員が発生した企業が、当面の緊急的な措置として、労使の合意により、生産性の維持・向上を図りつつ雇用を維持するため、所定労働時間の短縮とそれに伴う収入の減額を行う取組みである。これは、個々の企業において従来から行われてきた操業短縮や一時休業等の雇用調整措置とは異なる新たな雇用調整の手段として位置づけられる(詳しくは第3章「2.緊急対応型ワークシェアリング」を参照)。

(1)事例の類型化と概要
 緊急対応型ワークシェアリングを実践した企業として、4社の事例を取り上げる。半導体製造装置メーカーのA社、総合電機メーカーであるB社、トラックメーカーのC社、そしてコンピューターメーカーのD社である。
 ワークシェアリングの導入部門と労働時間の短縮方法に着目して、これらの事例を整理したものが、下図である。導入対象となった部門は、(1)特定工場、(2)工場部門全体、(3)本社・間接部門、(4)全社に分類し、時短の方法は、(1)1日あたり時間短縮、(2)交替制勤務の再編、(3)月あたり休日増によるものの3つに整理し、企業事例を位置づけている。ここで紹介する4社は、いずれも在籍している従業員の雇用の維持・確保のための取組みとして行われたものであり、ワークシェアリングの実施にともなう新規雇入はない。

緊急対応型の施策類型

緊急対応型の施策類型

 A社は、平成13年のITバブル崩壊という緊急非常事態への対応として、平成13年10月から3ヶ月間の予定で、京都を中心に国内にあるすべての工場部門を対象に「工場週3休制」を導入した(A社1期)。さらに、平成14年1月からはこれを全社に拡大し、同年3月末まで延長された(A社2期)。この間、工場ラインの余裕時間を活用して、若手従業員の多能工化を目的とした研修カリキュラムを実施し、従業員の能力開発を通じた生産性向上にも積極的に取組んだ事例である。
 平成14年4月、政労使合意と相前後して発表され注目を集めたのが、B社の事例である。6ヶ月間という同社の一時休業制度をこえて、仕事量と要員数に乖離がある場合に、生産部門を対象として、1日あたり労働時間の短縮または週あたり労働日数の削減を行う仕組みを労使協定により制度化した。要員再配置努力等の適用要件、適用対象部門と対象者、実施形態と給与の取扱いなどを体系化した実例といえる。平成15年1月には、白物家電の生産拠点であった兵庫県の北条工場において、月間の休日数を3日間増やす形で実施に移された。構造的な生産体制の再編成を行うリードタイムの確保への活用といえる。
 最も早い時期に所定労働時間の短縮による雇用調整措置を実施したのが、C社である。平成11年6月から10ヶ月間にわたり、工場の間接部門に在籍する55歳以上の従業員を対象に1日あたりの労働時間を7時間55分から7時間に短縮し、給与を時間比例で削減した。同社の取組みは、ワークシェアリング論議が始まった早い時期に実施されたことから大きな関心を集めたが、育児・介護のための短時間勤務制度を応用して1日あたり時間短縮を行ったという意味でも注目される。
 D社は、交替制勤務の班直体制を組みかえることにより、緊急避難的に労働時間短縮を実施し、雇用の維持を目指した事例である。具体的には、半導体製造の前工程を担当する3工場の交替勤務のオペレーター約4,000名を対象に、4班二交替から6班三交替へ変更し、一直あたりの勤務時間を12時間から8時間に短縮した。平成14年3月に実施に入り、その後の需要回復で3工場のうち1工場は1ヶ月で、他の2工場でも3ヶ月間で終了したが、交替勤務の体制は元に戻さず4班三交替の一直あたり8時間とし、勤務制度の見直しにつなげた。
 以下、各社の取組みについて詳細に紹介する。

(2)A社 「緊急非常事態に雇用維持しながら対応する工場週3休制」
はじめに
 A社は、平成13年ITバブル崩壊という緊急非常事態への対応策として、「工場週3休制」を実施した。急激な生産水準の低下に対し、徹底した研修カリキュラムの実践で社員の志気低下を防ぐとともに、業界の復活を確信し勝ち残ることができる経営戦略と技術そして財務体質をもって雇用維持を優先に景気回復時に向けた生産調整の手段の一つとして時限的に労働時間の短縮を行ったものである。
 短期的な雇用調整手段の一つとしての緊急対応型ワークシェアリングの先駆例である。

会社概要
 同社は、昭和54年にA精密工業として設立され、現在京都市に本社をおく、東証1部上場の半導体製造装置メーカーである。半導体チップを樹脂で封止する装置で世界有数のシェアを占め、国内国外合わせて約250件の特許を保有する技術開発力を誇るグローバル企業である。主な製品に、同社の開発したマルチプランジャ成形方式を用いた超精密金型、樹脂封止方式の半導体パッケージング装置、半導体ソーイング&リード加工装置、ファインプラスチック成形品がある。
 同社は、その高い技術力を生かして創業以来順調に業績を伸ばしてきたが、平成13年に入って深刻な半導体不況とその後の半導体生産の中国シフトに直面して、まさに非常事態を迎えることとなった。

会社概要

・所在地 本社・工場 京都市南区。京都東事業所、九州事業所、宇治工場。中国蘇州。
・資本金 75億3,197万円
・業種 半導体製造装置、プラスチック用精密金型、プラスチック精密成型品の開発/設計/製造/販売
・売上高 144億42百万円(平成15年3月期、連結)
・社員数 498名(内、出向者54名)(平成16年1月現在)
決算期 平成13年3月 平成14年3月 平成15年3月 平成16年3月(予)
売上高(百万円) 31,757 13,687 14,442 18,500
社員数(名) 472 479 500 444
 *売上高は連結ベース。社員数は各年1月現在、出向者を除く。

・東証1部、大証1部上場

半導体不況に対応する緊急対応
 同社は、前述のように平成13年に入り、ITバブル崩壊による半導体業界の急速な景況の落ち込みの影響を受け始めた。4、5月には厳しさを増し、その長期化が避けられない見通しとなった6月に、会長・社長を除く取締役で構成するボード会議を招集し「緊急非常事態における対応策」の検討に入ることとなった。このうち雇用調整の具体策の一つとして考え出されたのが「工場週3休制」である。
 シリコンサイクルといわれるような半導体生産水準の大きな変動による需要低下に対応するため、雇用を維持しながら需要回復に備える緊急避難措置として労働時間短縮を行ったのである。しかも、生産水準の落ち込みを利用して、生産部門において計画的なOJTを実施し、従業員の能力開発を通じた生産性の向上にも前向きに取り組んだ事例である。1

工場週3休制のしくみ
 工場週3休制の概要は次のようなものであった。工場部門のすべての部署を対象として、平成13年10月から12月までの3ヶ月間、原則として出勤日であった金曜日、土曜日を「休業日」とする形で月当たり4日間の休日増とする。そのうち、1ヶ月に1日、最終週の「休業日」に該当する日に、有給休暇を一斉取得するものとする。

休業日(全12日間)
10月 12日(金)、13日(土)、19日(金)、26日(金)   *26日は有休一斉取得日
11月 02日(金)、09日(金)、16日(金)、30日(金)   *30日は有休一斉取得日
12月 07日(金)、14日(金)、22日(土)、29日(土)   *29日は有休一斉取得日

 給与の取扱いは、有給休暇を除く月あたり3日分について、ノーワーク・ノーペイの原則で休業日の給与を一旦控除したうえで、会社都合による休業に対する補償として日割り給与の80%を支給する。具体的な計算式は次のようになっている。

休業補償の算出のしくみ
一時休業中の給与=休業による控除後の給与+休業補償
(1)休業による控除  (基本給+役付手当+調整給)÷20×休業日数(最大3日)
(2)休業補償  (基本給+役付手当+調整給)÷20×0.8×休業日数

 従業員の約半数にあたる概ね250名が対象となった。給与の減額幅は計算上3%、対象となった従業員の平均では1日あたり2,000円強、月あたり7〜8,000円の減額となった。
 課長職以上の管理職は、工場部門でも休業の対象とはしていない。但し、一時休業を開始した10月から、部長クラスは5%、課長クラスは3%の減給とし、役員については、7月より役位に応じて報酬を50%〜10%減額する措置をとっている。
 3ヶ月間としていた週3休制は、生産の回復が遅れたため平成14年1月から3月までの3ヶ月間延長された。延長にあたっては、当初、不況だからこそ目標達成への努力を要請される営業部門、生産水準の低下に連動して業務量が減少するわけではないとして対象外とされた本社管理部門を含めて、週3休制の対象は全社に広げられた。これは社内の公平性に配慮した措置である。これらの部門(対象約50名)では、一斉休業ではなく、個人ごとに休業日を設定して交代で休む方法が採られた。
 なお、同社には労働組合がないため、制度導入にあたっては、会社が直接従業員に説明会を行うとともに社員代表との協定を結ぶ形をとっている。

工場週3休制の成果と課題
 同社では、一時休業を活用した週3休制の導入が社員の理解を得られた理由として、次の4点をあげている。

従業員の理解が得られた理由
(1)  1日2,000円強(平均)の減額で週3休制による余暇の利用拡大に繋がった
(2)  毎週金曜日、月4日の休業のうち最終週の金曜日は、有給休暇の一斉付与日にした(100%給与支給)ことにより会社の社員に対する想いの理解を得た
(3)  1時間当たりの賃金単価がUP(100%の休みで80%の賃金補償)した
(4)  希望退職(人的リストラ)より雇用確保を実行しているという会社の意思表示が肌で理解を得た

 このうち休日の拡大については対象となった従業員の評価は高く、休日の有効な活用が進んだ一方で、社員の志気の低下に危惧を抱くようになった。つまり、制度導入時には工場では週のうち2日分程度の仕事量しかなく、遊休時間を減らすことで社員の志気の低下を防ぐ狙いがあったが、週4日働き3日休むという勤務のリズムが従業員の体質となってしまうことがむしろ心配になったのである。受注回復が会社の決算に表れない3月の段階で、4月以降の週3休制の延長を取りやめた理由には、そうした体質の払拭もあったという。

会社にとってのメリット
(1)  社員のリストラをしないことで需要が好転した時、いち早く対応でき得る体制を維持できた
(2)  受注の減少による社員の志気(モラール)の低下を防ぐことができた
(3)  雇用維持の会社方針に、社員との信頼関係の強化が図れ、製造部門のOJT研修(マルチスキルの修得)等がカリキュラムどおり実行できた
(4)  光熱費等の経費の削減に微力ながら効果
(5)  給与カットによる人件費の削減に効果

 一方、会社にとってのメリットとして同社では5つの点をあげている。このうち、経費削減効果はいかなるものであったか。月当たり3日分の休業による給与総額の減額は、およそ200万円から300万円にあたる。工場の経費削減効果は1日あたり50万円程度になる。3月までの休業期間の延長と全社への拡大分を含めても、給与および光熱費等の削減した経費の総額は1千数百万円にとどまる。会社としても微力ながらと表現している通り、コスト削減という意味では必ずしも効果は大きかったとはいえない。
 工場部門では、生産水準の落ち込みによる遊休時間を利用して、計画的なOJTを展開し、若手社員のマルチスキル化への取組みを行った。こうした取組みは、工場週3休制を機に、システムやモジュール(金型)の製造部署に定着した大きな成果である(次項参照)。
 最後に、同社の取組みは、景気変動による需要低下に対応するため、雇用を維持しながら需要回復に備える緊急対応措置として先駆的なワークシェアリングの取組みであったといえよう。しかも、従業員のモラールの低下防止や社内の公平性に配慮しつつ、従業員の能力開発を通じて需要回復後の生産性向上にも前向きに取り組んだ事例といえる。こうした出来る限り雇用を維持して不況を前向きに乗り切ろうというA社の選択した背景には、同社の創業者である当時の社長(現会長)の考え方があったことも忘れてはならない2

(3)B社 「緊急対応型ワークシェアリングの協定化」
はじめに
 B社は、平成12年度半ばから、電化機器部門においては「国内だけでやって行くには無理があるのでは」という意見が出るほどの売上高の減少に見舞われた。そこで「雇用システム革新プロジェクト」として、雇用システムの構造改革、人材の確保・育成・活用、処遇システムの改革について労使で協議し、ワークシェアリングが検討・協定化された。
 雇用を維持するための緊急対応型ワークシェアリングの先駆的な取組みである。

会社概要
 同社は、昭和25年に設立された総合電機メーカーで、さまざまな業界初の商品を生み出してきた会社である。近年、「世界の工場」である中国に事業そのものが移りつつあり、特に家電分野で大変苦戦を強いられている。

会社概要
・所在地 大阪府守口市 工場は、群馬県大泉町、大阪府大東市、兵庫県加西市他5工場
・資本金 1,722億円
・売上高 811億円(平成14年度実績)
・業種 AV・情報通信機器、電化機器、産業機器、電子部品関連、電池関連商品の製造・販売
・社員数 16,167名

ワークシェアリングの位置づけ
 同社では、ワークシェアリングを事業構造の転換への対応と位置づけている。これまでは、事業が縮小する分野があっても異動等で新たな分野へ人員を再配置できたが、長引く不況で、新たな事業がなくなってきている。要員の再編がとても難しい状況で、それでも再編をしなければならないので、そのための手段の一つがワークシェアリングである。
 同社のワークシェアリングは、中長期的に仕事量と要員数に乖離が生じていて、要員の再配置を行っても、乖離を埋めることができない場合に、一人当たりの労働時間、または労働日を減少させ、仕事を分かち合うことにより、雇用の維持を図る制度である。一時休業の期間は6ヶ月であるので、それより長い期間の雇用の維持をめざしている。

ワークシェアリング協定の概要
 適用期間は、6ヶ月から3年以内となっている。これは、同社のワークシェアリングが緊急避難的な措置であるということと労使の忍耐の限度を示している。適用要件は4つである。(1)外部就労者を削減、(2)直近6ヶ月間平均の対前年比での当該部署の在籍人員数が10%以上減っていること、あるいは実施時点における当該部署の在籍人員数が検討開始時点と比較して10%以上減っていること、そのいずれかの条件を満たす要員再配置努力をしたこと、(3)要員再配置後も努力したにもかかわらず、要員数と仕事量に乖離が生じていること、(4)今後6ヶ月間にわたり生産の回復が見込まれないことである。
 適用対象部署は生産部門が中心である。資材部門、品質管理部門、生産技術部門などの間接部門は、当該事業の状況によって判断をする。最小単位としては100名前後の部レベルを念頭に置いている。適用対象者は適用対象部署におけるすべての者であるが、短時間勤務を行う従業員には別途対応している。

労働時間の短縮
 勤務形態は2つの選択肢がある。1日当たり労働時間の短縮と月当たり労働日数の削減である。月当たり労働日数の削減は、6ヶ月をひとつの単位としてやり繰りをするもので、毎月必ず削減日を入れなければならない。増加休日数は月当たり1日から5日である。1日当り労働時間の短縮では、ワークシェアリングを2年間実施するならば、その2年間は短縮時間を一定にすることとしている。月当たりの増加休日数から、短縮時間は20分、45分、70分、90分、115分となっている。

B社のワークシェアリング協定(2002/4)の概要
定義 中長期的に仕事と要員に乖離が生じ、要員再配置によってもその乖離を埋められない場合、1人当たりの労働時間または労働日を減少させ、仕事を分かち合うことにより雇用の維持を図る制度
適用要件
(1)  外部就労者を削減したこと
(2)  要員再配置努力をしたこと
 ・  6ヶ月平均の当該部署の在籍人数が対前年比10%以上減
 ・  実施時点の当該部署の在籍人数が検討開始時点比10%以上減
(3)  要員再配置後も要員数と仕事量に乖離が生じていること
(4)  中長期(6ヶ月以上)にわたり生産回復の見込みがないこと
適用対象部署 生産部門(資材、品質管理、生産技術など関連間接部門も可)
 但し、最小単位は100名前後の「部」
適用対象者 適用対象部署のすべての者
 但し、短時間勤務者、準社員、季間社員、シニアスタッフは別途
実施形態
(1)  1日あたり労働時間の短縮(実施期間を通して一定)
(2)  月あたり労働日数の削減(6ヶ月を単位にやり繰り可)
適用期間 6ヶ月以上3年以内
 *6ヶ月以内は一時休業制度で対応
適用期間中の取扱い
(1)  基本給は時短に応じてカット(年齢別最低賃金は保証)
(2)  諸手当は従来通り(基本給リンクの手当を除く)
(3)  昇給は変更前の基本給ベースで実施
(4)  賞与について、定額部分は従来通り、定率部分は変更後の基本給で算出
(5)  退職金・退職年金は従来通り
(6)  時間外労働・休日労働は行わない
月あたり増加休日数 0 1 2 3 4 5
1日あたり短縮時間数 0 20 45 70 90 115
年間所定労働時間 1,856 1,764 1,672 1,580 1,488 1,396
基本給 100% 96% 92% 88% 84% 80%

賃金の取扱い
 賃金については、基本給部分を時短に応じてカットするという考え方である。ただし、若干ではあるが、時間当たり賃金は上回ることになる。月当たりの増加休日数が1日増えると労働時間は95%、基本給は96%になる。2日では労働時間は90%、基本給は92%。3日では労働時間は85%、基本給は88%。4日では労働時間は80%に対して基本給は84%。5日では労働時間75%、基本給は80%となる。手当を含めた基準内賃金では、増加休日数5日の場合で、85%の水準となる。基本給が80%になると、同社が定めている年齢別最低賃金を下回る場合が若年層を中心に起こるため、別途対応することとしている。
 時間外割り増しや休日割り増し等の基本給に連動する手当については、変更後の基本給で算出するが、基本給に連動しない手当は100%支給となる。一時金についても変更後の基本給となるが、退職金については変更されない。

ワークシェアリングの実施
 同社では、平成15年1月21日より、掃除機など主に白物家電を生産する北条工場(兵庫県加西市)でワークシェアリング制度を導入した。対象は北条工場の従業員約580人のうち中国への生産移転など仕事量が減った製造部門の約210人。1ヶ月当たりの増加休日数は3日で基本給は88%の水準である。1年間の期間限定で導入し、約1億円の人件費削減を見込んでいた。ワークシェアリングの適用中に生ゴミ処理機や健康関連製品などの新規事業を育成し、雇用の吸収を急ぐという。
 緊急対応型ワークシェアリングを実施することで、結果的に、構造的な生産体制の再編成を行うリードタイムが確保できたといえる。

(4)C社 「既存の短時間勤務制度を応用した短縮勤務」
はじめに
 C社では、バブル崩壊後、生産量が縮小傾向をたどったため、雇用の維持、コスト削減と企業体質強化へむけて、平成11年に期間限定で、勤務時間を短縮し仕事を分け合うワークシェアリングを実施した。
 さまざまな構造改革の最終手段としての緊急対応型ワークシェアリングの先駆例である。

会社概要
 同社は、昭和17年に設立されたトヨタ自動車系列のトラックメーカーである。トラック・バスのリーディングカンパニーとして、日本、そして世界の物流を支えている。しかし、物流産業の成熟化の影響もあり、バブル崩壊後、業績は上向かず会社存亡の危機を迎えることとなった。

会社概要
・所在地 東京都日野市
・資本金 727億円
・売上高 8,503億円(連結 平成14年度実績)
・業種 トラック・バス、小型商業車・乗用車(トヨタ自動車(株)よりの受託車)、各種エンジン、補給部品等の製造・販売
・社員数 8,555名(平成15年3月)

構造改革の手段
 同社では、短時間勤務によるワークシェアリング導入前に、採用抑制、役員数の減少、部課の統合、派遣社員・嘱託社員・契約社員の契約更新のとりやめ、早期退職制度、管理職の賃金カット等、20種類の構造改革により人件費をカットしていた。

短時間勤務制度の概要
 同社には、子育てや介護のための短時間勤務制度があり、それを応用することでワークシェアリングを実現した。勤務時間を7時間55分から7時間へ短縮し、基準内賃金を時間比例で11.57%減額した。短時間勤務の期間は平成11年6月から平成12年3月までの10ヶ月間に限定して行われた。
 短時間勤務の対象は、工場間接部門で働く55歳以上の組合員約150名であった。製造現場で短時間勤務をすると子会社との連携も全て変更になるため、対象からははずれている。また、時間で区切れない設計やデザイン部門も対象からははずれている。55歳以上に限定した理由は、生活が安定しているため若干の賃金の減少にも耐えられるとの判断からである。
 同社の取組みは、不況期においても雇用には極力手をつけない緊急対応型ワークシェアリングの先駆的な事例であるといえる。

(5)D社 「生産量の急激な変動に対応した交替勤務制度見直し」
はじめに
 D社は、平成13年のITバブル崩壊による半導体部門の市況の悪化に伴う生産量の急激な低下への対応策として交替勤務制度の見直しを行った。デバイス部門はシリコンサイクルにより、回復期には垂直的に事業を立ち上げる必要があるため、職種転換等による異動ではなく緊急避難的に交替勤務制度の見直しを行った。
 短期的な雇用調整手段の一つとしての緊急対応型ワークシェアリング導入の参考となる事例であるといえる。

会社概要
 同社は、大規模な半導体生産工場を抱える大手の電気メーカーである。

会社概要
・所在地 本社事務所 東京都
・業種 通信システム、情報処理システムおよび電子デバイスの製造・販売ならびにこれらに関連するサービスの提供
・社員数 30,000名超

交替勤務制度見直しの概要
 同社ではワークシェアリングという呼称は使用しておらず、単なる交替勤務制度の見直しと捉えている。
 交替勤務の見直しの対象となったのは半導体前工程の3工場でオペレーターとして勤務している約4,000名の従業員である。同社では、オペレーターには交替勤務手当があり、交替勤務の見直しを実施しても給与総額は工場のエンジニアほどには大きく変わらず、導入しやすかったためオペレーターのみを対象としていた。見直しをする期間は3ヶ月ごととし、生産状況により見直しをする枠組みで、期間中に受注量が増えた場合には休日出勤を実施することで対応する取り決めをしていた。
 交替勤務は4班二交替から6班三交替とした。労働時間は12時間から8時間に変更した。月間153時間から104時間へ約3割労働時間が減少した。ただし、出勤日数は変えない編成のため休日数は変わっていない。出勤日数に変更がないため副業は認めていない。

賃金等の取扱い
 賃金は、時間当たり単価は変更せず、労働時間の削減率に応じて減額している。ただし、労働時間は交替勤務の見直しにより3割以上減少しており、賃金も3割減では生活が立ち行かなくなる場合も考えられるため、協力手当を2万円出している。これには、産業別最低賃金を下回らないようにするためという理由もある。同社では、操業の状況によっては休日出勤も有り得るという前提であったため、休日出勤1日につき協力手当から5,000円を減じていく方式を取り入れた。4日休日出勤をすると協力手当はなくなるが、4日出勤すると労働時間も通常の9割になり、収入全体としてそれほど影響がないので、労使で合意にいたった。

検討のポイント
 同社によると、一時帰休は、労働基準法で賃金を最低6割保障しなければならず、労使協定上は9割程度の保障であったため、交替勤務の見直しほど固定費の削減にはつながらない。また、休日を増やすという選択肢もあるが、顧客の突然のニーズがあった場合に対応できないため、デバイス部門の仕事にはあわないという結論に達したという。

導入後の状況
 実施期日は、平成14年3月22日であるが、実際には開始当初から工場によっては休日出勤を行うことになった。特に操業率が高かった工場では4月21日から中止し、残り2工場も6月21日に中止した。しかしまったく元に戻すと、4班二交替の12時間勤務になってしまうため、同社では、4班三交替の8時間勤務に再見直しを行い、実際的には賃金の減額等もなくなっている。
 同社の取組みは、半導体不況による生産調整のための経験を恒久的な交替勤務体制の改変につなげた好事例であるともいえる。


─────
1  同社は後にさらに厳しい構造的な対応を迫られることとなるが、この時点ではこれまでの経験から在庫調整が終われば、必ず半導体の需要が発生し、それとともに半導体製造装置をはじめとする同社に対する客先からの需要も回復してくると考えていたのである。
2  その後の経過
 A社は、平成14年3月に半導体業界が動き始めたと判断して工場週3休制を中止したが、その後半導体メーカーの急速な中国シフトや韓国の競合メーカーの極端な安売り攻勢により、厳しい経営環境を強いられた。これに対応するため、中国・蘇州に製造工場を建設し平成16年1月に従業員約50名で生産を開始し、年内には200名体制をめざしている。
 平成15年7月、社長の交代後、中国への投資資金を借入れる金融機関の理解を得るため、同9月には50名の希望退職にも踏み切った。10月、50名の一斉退職の直後から、受注が急速に増加し始め、皮肉にも工場では人手不足をきたすような状況が発生している。同社では、派遣労働者の導入を試行し始めており、今後は需要変動への対応力の維持も念頭に対処していく方針という。


トップへ
戻る  次ページ