報道発表資料  厚生労働省ホームページ

厚生労働省
平成16年6月22日
担当 厚生労働省雇用均等・児童家庭局
雇用均等政策課
 課長石井 淳子
 課長補佐千谷 真美子
  電話 03-5253-1111(内線7836)
  夜間直通 03-3595-3272

「男女雇用機会均等政策研究会」報告書について

 昭和60年の男女雇用機会均等法の成立後、男女平等に対する社会の意識には大きな変化が見られるとともに、平成9年の法改正によってそれまで努力義務規定であった募集・採用や配置・昇進も含め女性に対する差別が禁止され、また、女性に対する優遇措置も原則禁止とされるなど、我が国の雇用の分野における男女の均等取扱いは徹底が図られてきたところであるが、男女が共にその持てる力を十分に発揮できるような社会を構築するためには、なお課題が残されているところである。
 このため、厚生労働省では、学識経験者の参集を求め、平成14年11月より「男女雇用機会均等政策研究会」(座長:奥山明良成城大学法学部教授)を開催し、男女双方に対する差別の禁止、妊娠・出産等を理由とした不利益取扱い、間接差別の禁止、ポジティブ・アクションの効果的推進方策の4つの事項について、男女均等の実現をどう促進していくのかという観点に立って検討を進めてきた。このたび、その検討結果が別添のとおり取りまとめられたので、その内容を公表する。
 今後、厚生労働省としてはこの報告を受け、男女雇用機会均等の更なる推進のための方策について、労働政策審議会雇用均等分科会において検討をしていただくこととしている。




男女雇用機会均等政策研究会報告書の概要

 はじめに
 雇用の分野における男女の均等取扱いを図る上で4つの検討事項はそれぞれ重要な課題であり、いずれも前向きな対応が望まれる。今後、本報告書を受けて、関係者の議論を経て適切な対応、措置が講じられることを願うものである。

 男女双方に対する差別の禁止
(1)  検討の経緯
 制定当初は女性が有利に扱われることを許容していた均等法も平成9年改正で女性に対する優遇を原則禁止としたが、先進諸国では概ね男女双方を対象に差別を禁止しており、我が国のその後の法制の動きも男女双方を対象としている等から、改めて男女双方差別禁止の意義を整理することが必要。
(2)  女性に対する差別禁止を男女双方に対する差別禁止とする意義
 女性についてのみの保護という福祉的な色彩から脱却し、職業上の能力等他の合理性のある根拠に基づき処遇するという考えが明確になること
 男女間の職域分離の是正が進むとともに、賃金を含む男女間の格差の縮小が図られることが期待されること 等
(3)  男女双方に対する差別の禁止と女性労働者に係る特例措置との関係
 仮に、男女双方に対する差別を禁止した場合、均等法第9条に規定する特例措置について、(1)男性もその対象とするのか、(2)男性も対象とする場合、特例措置として許容される範囲をどうするのか、についても検討が必要。
 特例措置は、政策的に暫定的な措置として実施されてきたものであり、我が国の女性の置かれた状況、特に男女間格差の現状に十分留意して検討が進められる必要。

 妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い
(1)  検討の経緯
 妊娠・出産についての手当てが十分でないと実質的な男女の均等は確保できない。少子・高齢化が進展する中、働く女性が妊娠・出産に伴い不利益を専ら負担するという在り方は望ましくない。
 現行法制上産休等の母性保護措置はあるが、産休等について解雇以外の局面について規制する規定はなく、この問題の検討が必要。
(2)  我が国における裁判例の動向
 最高裁判決では産休取得を理由とした不利益取扱いについて、労務を提供しなかった部分に応じた賃金の減額等は許容されるとしても、法律上の権利行使を抑制し、法律が労働者に権利を保障した趣旨を実質的に失わせるような不利益な取扱いは許されないと判示。
(3)  諸外国における妊娠・出産等を理由とした不利益取扱い
 いずれも解雇以外の不利益取扱いについても規制
 妊娠・出産に関して特別な保護を行っていないアメリカにおいても、能率低下・労働不能状態を伴わずに単に妊娠していることのみを理由とした不利益取扱いは禁止
 妊娠・出産に起因する症状による能率低下や労働不能の場合の取扱いについては、対応は一様ではない。
 産休を制度化している国においては、産休からの復帰において、原職又は原職相当職への復帰を求めるのが大勢。
(4)  我が国において妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを検討するに当たって留意すべきこと
(1)  諸外国においては、解雇以外の不利益取扱いについても規制していること
(2)  育児休業の申出又は取得を理由とした不利益取扱いを禁止している育児・介護休業法とのバランスがとれたものとなる必要があること
(3)  産休の期間、産後休業の強制休業という性質、諸外国の法制を踏まえれば、産休後に原職又は原職相当職への復帰を求めることも合理性はあると考えられること
(4)  産休期間中の評価については、仮に休業をしない労働者と同様の扱いを求めれば企業が女性の採用を敬遠する懸念がある一方、法による保護のある産休と一般の疾病等による労働不能とで差を設けることも合理性があるとも言え、前述の最高裁判決の趣旨を踏まえつつ、社会的コンセンサスを形成していく必要があること
(5)  産休以外の母性保護措置、母性健康管理措置を受け又は受けようとしたことを理由とした不利益取扱いについても(4)と同様に考えられること
(6)  妊娠・出産に起因する症状による能率低下・労働不能を理由とした不利益取扱いについても考え方は(4)と同様と考えられ、今後裁判例の動向に注視する必要があるが、少なくとも一般の疾病より不利に扱われるべきではないと考えられること

 間接差別の禁止
(1)  検討の経緯
 一見男女間で異なる取扱いをしていると言えないが、女性が不利となる制度や運用については、現行の規制では対応が困難な場合がある。
 間接差別については、平成9年改正均等法検討の際は国会の附帯決議で今後の検討課題とされたが、昨年夏の女子差別撤廃委員会の審査後、益々注目されつつあり、概念の明確化と我が国においてどのようなものが該当するのかについてのイメージを示すことが必要。
(2)  間接差別の概念
 一般的に、間接差別とは、外見上は性中立的な規定、基準、慣行等(以下「基準等」という。)が、他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与え、しかもその基準等が職務と関連性がない等合理性・正当性が認められないものを指す。
 初めて間接差別の概念が登場したのはアメリカの連邦最高裁判決であり、裁判例を通じて生成・発展した概念がヨーロッパに渡り、裁判例の集積を通じて徐々に具体的イメージが形成。
 我が国において、間接差別法理に立って判断された裁判例は雇用の分野には見出せないが、世帯主被災要件が男女差別等を招来し、かつ、それらの差別に合理的理由を見出すことができないため、公序良俗に違反すると判示した裁判例があり、今後の動向が注目される。
 間接差別の概念と他の概念との比較
(1)  いわゆる直接差別との関係:性に基づく取扱いの違いに着目する直接差別に対し、間接差別は、外見上は性中立的な基準等が男女に与える影響の違いに着目するものであり、かつ差別意図の有無は問わない。
(2)  いわゆる結果の平等との関係:間接差別は、格差の存在が前提になるものの、問題となっている基準等に職務との関連性や業務上の必要性等の合理性が認められれば差別とはならないものであり、格差の存在自体を問題とし、数値上の平等という結果自体を直接目的とする結果の平等とは異なる。
(3)  ポジティブ・アクションとの関係:いずれも女性という集団に与える不合理な障壁の是正を図るという同様の目的を有するが、間接差別は違法という評価を受けるものであるのに対し、ポジティブ・アクションはより望ましい状態に向けた雇用管理等の改善を図るというものであり、効果が異なる。
(3)  諸外国における間接差別法理の状況
 法律上規定されている違法性の判断方法は、各国ともほぼ同様の手法となっており、原則として、一応どのような事案も間接差別の俎上に載りうる。
 ただし、各国の置かれた状況は異なり、実際の間接差別法理の適用状況については、国によってかなりの違いがある。
(例) ・ 不利益の有無の判断基準として、アメリカではEEOCのガイドラインがあるのに対し、イギリスには定まったものはない。
・ 取扱い事案として、アメリカは採用・昇進に関するものが多く、賃金、パートタイムに係るものは把握されていないのに対し、イギリスはシングルマザーやパートタイム等に関わる事案が多い。
(4)  我が国において間接差別を検討するに当たって留意すべきこと
(1)  諸外国においては、間接差別について規定の仕方は異なるが、何らかの形で法規制を行っている状況にあること
(2)  いわゆる結果の平等とは異なること等、間接差別法理の理解の徹底が必要であること
(3)  どのようなものが間接差別に該当する可能性があるかについて、あらかじめ、イメージを示し、予測可能性を高め法的安定性を高めることが必要であること
(4)  間接差別に該当しない場合であっても、ポジティブ・アクションの積極的な推進により機会の均等の実質化のための取組が広く行われることが望まれること
(5)  間接差別として考えられる例(別添

 ポジティブ・アクションの効果的推進方策
(1)  検討の経緯
 近年、明白な差別は是正されつつあるが、個々人の意識等に起因する男女の処遇差の改善は、ポジティブ・アクションによることが適切。ポジティブ・アクションについては、企業のイメージアップや生産性向上にも資するとの指摘もなされ、ポジティブ・アクションについては、企業の理解は進みつつあるが、なお大きな広がりを持った動きには至っていない。
(2)  諸外国におけるポジティブ・アクションの取組
諸外国において行われている手法は(1)使用者の自主的取組を尊重する例(イギリス)、(2)政府調達企業への雇用状況報告等の提出義務付け・審査を実施する例、(アメリカ)、(3)雇用状況報告書等の作成を義務付けする例(フランス・スウェーデン)等様々であり、女性の登用状況も様々。
(3)  我が国においてポジティブ・アクションの効果的推進方策を検討するに当たって留意すべきこと
(1)  ポジティブ・アクションには、職業生活と家庭生活の両立支援施策や採用・登用の基準の明確化等男女双方を対象した幅広い、多様な手法が含まれていることについて、今一層の理解を進めることが重要であること
(2)  雇用状況報告の作成や雇用状況の改善のための計画の策定を義務付ける等の規制的手法によれば、一定の成果が上がることが期待される一方、企業・行政にコストも伴うことから、費用対効果を上げる工夫が必要であること
(3)  (2)のような規制的な手法によらず奨励的な手法において実効性を持たせるには、企業へのインセンティブ付与の工夫、特に企業トップに必要性を理解させる仕組みの在り方が重要であること
(4)  意欲と能力のある女性の活躍を推進するには、女性のチャレンジを阻む社会制度・慣行の見直しも必要不可欠であり、そのためには、個々の企業の取組だけでなく、様々な分野においてポジティブ・アクションが着実に実施されることも重要であること



(別添)
間接差別として考えられる例

 間接差別に該当するかどうかについては、いずれの事例においても、実際には個別具体的な事案ごとに事実認定を行い、判断していくものである。

 外見上性中立的な基準等が一方の性に不利益を与えるか否か及び当該基準等の合理性・正当性に関する使用者の抗弁について、総合的に判断を行うものであることに留意すべきである。


 以下の事例のうち(2)、(4)、(6)、(7)については、女性に不利益を与えることとなる基準等の適用を受けることについては、職業に関する当該女性自らの意思や選択に基づく結果であるという点で他と異なっており、これを差別の俎上に載せることは性別役割分担等現状の固定化につながる懸念もあることから、そもそも間接差別の俎上に載せるべき事案ではないのではないかとの意見も根強かったが、仮に俎上に載せた場合にはどのような場合に間接差別となりうるのかについて整理したものである。

【間接差別として考えられる例】
 (1)  募集・採用に当たって一定の身長・体重・体力を要件としたことにより、女性の採用が男性に比べ相当程度少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 従事する職務の遂行に当たって一定の身長・体重又は体力を必要とする等、職務関連性があること
 他の方法によって身長・体重・体力を補うことが困難である、又は機械を購入する等の、より一方の性に不利とならない他の方法を採用すると使用者に過大な負担を生じること 等

※(2)  総合職の募集・採用に当たって全国転勤を要件としたことにより、女性の採用が男性に比べ相当程度少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 全国に支店・支社等がある場合であって、異なる地域の支店・支社で管理者としての経験を積むこと、生産現場の業務を経験すること、地域の特殊性を経験すること等が幹部としての職務能力の育成・確保に必要であること
 組織運営上全国転勤を伴う人事ローテーションを行うことが必要である等業務上の必要性があること
 実際の運用に当たっては、転勤をする時点において個々の労働者の状況に配慮する等労働者の不利益を緩和する措置を講じていること、またそのことが労働者に周知されていること 等

(3)  募集・採用に当たって一定の学歴・学部を要件としたことにより、女性の採用が男性に比べ相当程度少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 実際に従事する職務の遂行に当たって一定以上の学歴の者が有すると期待される教養・知識や特定の学部で修得される専門知識を必要とする等の職務関連性があること
 他の方法によってこれらの教養・知識を有しているか否かを判断することが困難である、又はより一方の性に不利とならない他の方法があったとしても当該方法を採用すると使用者に過大な負担が生じること 等

※(4)  昇進に当たって転居を伴う転勤経験を要件としたことにより、昇進できる女性の割合が相当程度男性よりも少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 昇進後の職務が、異なる地域の支店・支社での管理者としての経験、生産現場の業務の経験、地域の特殊性の経験等を必要とすること
 当該企業において人事ローテーション上転居を伴う転勤が必要な場合であって、組織運営上、転居を伴う転勤を経験した者に対して、一定の処遇を与えることにより、企業内のモラルを維持することが必要である等の業務上の必要性があること
 実際の運用に当たっては、転勤をする時点において個々の労働者の状況等に配慮する等労働者の不利益を緩和する措置を講じていること、また、そのことが労働者に周知されていること 等

(5)  福利厚生の適用や家族手当等の支給に当たって住民票上の世帯主(又は主たる生計維持者、被扶養者を有すること)を要件としたことにより、福利厚生の適用や家族手当等の支給を受けられる女性の割合が男性に比べ相当程度少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 原資に制約があることから、福利厚生の適用や家族手当等の支給の対象を絞ることが制度の目的や原資の配分上合理的であること
 より一方の性に不利とならない他の方法が存在しない又はより一方の性に不利とならない方法があったとしても当該方法を採用すると使用者に過大な負担が生じること 等

※(6)  処遇の決定に当たって正社員を有利に扱ったことにより、有利な処遇を受けられる女性の割合が男性に比べ相当程度少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 正社員とパートタイム労働者の間で職務の内容や人材活用の仕組みや運用などが実質的に異なること 等
 (※総合職と一般職との間の処遇の違いについても同様。)

※(7)  福利厚生の適用や家族手当等の支給に当たってパートタイム労働者を除外したことにより、福利厚生の適用や家族手当等の支給を受けられる女性の割合が男性に比べ相当程度少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 人材活用の仕組みや運用、労働者の定着への期待などが実質的に異なること
 原資に制約があり、当該福利厚生の適用や家族手当等の支給の対象を絞ることが制度の目的や原資の配分上、合理的であり、より一方の性に不利とならない他の方法が存在しない、又はより一方の性に不利とならない方法があったとしても当該方法を採用すると使用者に過大な負担が生じること 等



【男女雇用機会均等政策研究会報告書の概要】

男女双方に対する差別の禁止
 
妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い
 
間接差別の禁止
 
ポジティブ・アクションの効果的推進方策

 【検討の経緯】
平成9年改正で均等法も女性に対する優遇を原則禁止したが、
先進諸国は概ね男女双方を対象に差別禁止
我が国のその後の法制の動きも男女双方が対象

 【男女双方に対する差別禁止とする意義】
女性のみの保護という福祉的な色彩から脱却し、職業上の能力等他の合理性のある根拠に基づき処遇するという考えが明確になる
男女間の職域分離の是正が進むとともに、賃金を含む男女間の格差の縮小が図られることが期待 等

 【特例措置との関係】
男女双方差別禁止とした場合、均等法第9条の特例措置の扱いを検討する必要
特例措置の検討に当たっては我が国の女性の置かれた状況に十分留意することが必要
 【検討の経緯】
妊娠・出産についての手当てが十分でないと実質的な男女の均等確保はできない
少子・高齢化の下、働く女性が妊娠・出産に伴い不利益を専ら負担する在り方は問題
現行法制上産休等について解雇以外の局面につき規制がない

 【裁判例の動向】
最高裁判決では産休取得を理由とした不利益取扱いについて、労務を提供しなかった部分に応じた賃金の減額等は許容されるとしても、法律上の権利行使を抑制し、法律が労働者に権利を保障した趣旨を実質的に失わせるような不利益な取扱いは許されないと判示

 【諸外国における状況】
いずれも解雇以外の不利益取扱いについても規制
いずれも単に妊娠していることのみを理由とした不利益取扱いは禁止
妊娠・出産に起因する症状による能率低下や労働不能の場合の取扱いについての対応は、様々
産休からの復帰において、原職又は原職相当職への復帰を求めるのが大勢

 【検討に当たり留意すべきこと】
(1) 諸外国では解雇以外の不利益取扱いも規制
(2) 育介法とのバランスがとれたものとなる必要
(3) 産休後に原職又は原職相当職復帰を求めることも合理性ありと考えられる
(4) 産休中の評価については最高裁判決の趣旨を踏まえつつ社会的コンセンサスの形成が必要 等
 【検討の経緯】
男女で異なる取扱いをしていなくとも女性が不利となる制度等につき現行の規制では対応が困難な場合がある
昨年夏の女子差別撤廃委員会の審査後、益々注目されつつある

 【間接差別の概念】 【間接差別のイメージ】→(別添)
(1) 間接差別とは
一般的に、間接差別とは、外見上は性中立的な規定、基準、慣行等(以下「基準等」という)が、他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与え、しかもその基準等が職務と関連性がない等合理性・正当性が認められないものを指す
(2) 裁判例
諸外国では裁判例の集積を通じて、徐々に具体的イメージが形成
我が国では、雇用の分野において間接差別法理に立って判断された裁判例は見出せないが世帯主被災要件につき判断された例あり。
(3) 他の概念との比較
いわゆる直接差別と異なり、外見上性中立的な基準等が与える影響の違いに着目するものであり、差別意図の有無を問わない
いわゆる結果の平等とは異なり、格差の存在は前提となるものの、基準等に職務との関連性等が認められれば差別とはならない
ポジティブ・アクションもともに集団に与える不合理な障壁を是正する目的を有するが、間接差別は違法という評価を受けるもの

 【諸外国における状況】
各国とも違法性の判断方法はほぼ同様であるが、実際の適用状況はかなりの違い

 【検討に当たり留意すべきこと】
(1) 諸外国においては、間接差別について何らかの形で法規制を行っている状況
(2) いわゆる結果の平等とは異なること等、間接差別法理の理解の徹底が必要
(3) どのようなものが間接差別に該当するかについて、あらかじめイメージを示し、予測可能性を高め、法的安定性を高めることが必要
(4) 間接差別に該当しない場合でもポジティブ・アクションの積極的な推進により機会均等の実質化のための取組が広く行われることが望まれる
 【検討の経緯】
個々人の意識等に起因する男女の処遇差の改善にはポジティブ・アクションによることが適切
企業の理解は進みつつあるが、大きな広がりをもつ動きには至っていない

 【諸外国における取組】
使用者の自主的取組を尊重する例(イギリス)
政府調達企業への雇用状況報告等の提出義務付け・審査を実施する例(アメリカ)
雇用状況報告書等の作成を義務付ける例(フランス・スウェーデン)
等様々であり、女性の登用状況も様々

 【検討に当たり留意すべきこと】
(1) ポジティブ・アクションは職業生活と家庭生活の両立支援や採用・登用の基準の明確化等男女双方を対象とした幅広い、多様な手法が含まれていることについての一層の理解の促進が重要
(2) 規制的手法によれば、一定の成果が上がることが期待される一方、企業・行政のコストも伴うことから、費用対効果を上げる工夫が必要
(3) 奨励的な手法で実効性を持たせるには、企業へのインセンティブ付与の工夫、特に企業トップに理解させる仕組みの在り方が重要
(4) 女性のチャレンジを阻む社会制度・慣行の見直しも必要で、そのためには、様々な分野においてポジティブ・アクションが着実に実施されることも重要
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上記4つの検討課題は雇用の分野における男女の均等取扱いを図る上で重要であり、いずれも前向きな対応が望まれる。



男女雇用機会均等政策研究会報告書

平成16年6月



【目次】
1 はじめに

2 男女双方に対する差別の禁止
(1) 検討の経緯
(2) 女性に対する差別禁止を男女双方に対する差別禁止とする意義
(3) 男女双方に対する差別の禁止と女性労働者に係る特例措置との関係

3 妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い
(1) 検討の経緯
(2) 我が国における裁判例の動向
(3) 諸外国における妊娠・出産等を理由とした不利益取扱い
(4) 我が国において妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いを検討するに当たって留意すべきこと

4 間接差別の禁止
(1) 検討の経緯
(2) 間接差別の概念
(3) 諸外国における間接差別法理の状況
(4) 我が国において間接差別を検討するに当たって留意すべきこと
(5) 間接差別として考えられる例

5 ポジティブ・アクションの効果的推進方策
(1) 検討の経緯
(2) 諸外国におけるポジティブ・アクションの取組
(3) 我が国においてポジティブ・アクションの効果的推進方策を検討するに当たって留意すべきこと


1 はじめに

 昭和60年の男女雇用機会均等法の成立により、雇用の分野で女性に対する差別的取扱いを規制する法律が誕生してから、本年は20年目に当たる。男女雇用機会均等法制定以来、企業の雇用管理はもとより、男女平等に対する社会の意識には大きな変化が見られたが、平成9年の法改正においては、それまで努力義務規定であった募集・採用や配置・昇進も含め女性に対する差別が禁止され、また、女性に対する優遇措置も原則禁止とされるなど、その後も雇用の分野における男女の均等取扱いの徹底が図られてきたところである。
 しかしながら、この間、諸外国では雇用の分野における男女の均等取扱いの問題に関し、更なる法制の進展が見られており、我が国においては、男女雇用機会均等法が女性に対する差別のみを禁止する法制であって性差別を禁止する法律にはなっていないこと、妊娠・出産についてはこれを理由とした解雇の禁止のみの規定となっていること、いわゆる間接差別についての概念の明確化がなされず対応がなされていないこと、女性の職域拡大や登用を推進するポジティブ・アクションの更なる進展が求められていることなど、なお課題が残されている。
 これらの点については、平成9年に改正男女雇用機会均等法が国会で審議された際の附帯決議や平成12年に策定された男女雇用機会均等対策基本方針でも指摘しているところである。

 本研究会は、これらの課題を検討するために、平成14年11月に発足し、これまで15回にわたり、議論を重ねてきた。
 ここでは、
 男女双方に対する差別の禁止
 妊娠・出産等を理由とした不利益取扱い
 間接差別の禁止
 ポジティブ・アクションの効果的推進方策
の4つの事項について雇用の場における男女均等の実現をどう促進していくのかという観点に立って整理を行った。これら4つの事項はそれぞれが重要な事項であるとともに相互に関連し合っているところがある。
 現在、我が国が置かれている様々な状況の中で、男女が共にその持てる力を十分に発揮できるような社会の構築は労働者個人にとっても、企業にとっても、また、社会にとっても極めて重要な課題と考えるが、その実現を図る上でこれらの4つの事項についてはいずれも前向きな対応が望まれる。今後、本報告書を受けて、労使を始め関係者の活発な議論を経て適切な対応、措置が講じられることを願うものである。


2 男女双方に対する差別の禁止

(1)  検討の経緯
 現行男女雇用機会均等法は、女性に対する差別を禁止することにより、雇用の分野における男女の均等取扱いを確保しようというものである。その背景としては、実態として雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保という観点から問題となっているのは、女性に対する差別であるということがある。このことはひとり我が国だけの事情ではなく、女性が男性に比べ不利な扱いを受ける事例は世界的に見られ、それが故に女性に対する差別を撤廃するために国際連合で採択された女子差別撤廃条約など、歴史的にも国際的にも女性に対する差別を撤廃することにより男女平等の実現を希求する取組が展開されてきた経過がある。
 したがって、男女雇用機会均等法の制定当初は、男性と比較して女性により多くの機会が与えられていることや、女性が有利に扱われていることについては、法が直接関与するところではないとしてきたところである。しかし、平成9年の改正により、女性の職域の固定化や男女の職務分離をもたらしているとして、女性に対する優遇措置を原則として禁止し、その結果、反射的効果として男性に対する差別も禁止されることになり、男女平等の徹底に向けた進展が図られている。
 一方、海外に目を転じると、本研究会において行った諸外国の調査の結果を見ても、性に基づく差別について法律の規定の仕方としては、イギリスのように女性に対する差別の禁止を男性にも準用するという規定の例を含め、いずれも性差別それ自体を禁止しており、先進諸国では概ね男女双方を対象に差別を禁止している状況にある。また、平成11年に成立した男女共同参画社会基本法や平成14年に通常国会に提出された「人権擁護法案」においては男女双方を対象としており、実態面においても、なお厳しい雇用情勢の下で、募集、採用を中心に男性からの差別の相談が都道府県労働局等に寄せられるようになってきている。
 女性に対する差別の禁止にとどまらず男女双方に対する差別を禁止するかどうかという問題は、現行の男女雇用機会均等法が女性に対する差別を禁止することを目的とするものであることから、法の基本理念に直接関係する問題であり、法体系全体に影響を及ぼすものであるが、改正男女雇用機会均等法の施行から5年が経過した現在、改めて、この問題の意義について整理することが必要と考える。
 言うまでもなく、現在においてもなお男女の雇用機会均等の確保の観点から見て、より問題であるのは女性に対する差別であるということは変わっていない。仮に女性に対する差別の禁止を男女双方に対する差別の禁止とする場合、これがどのような意義を有するのかについて、特に女性に対する差別問題に関してどのような影響を与えるかという視点で見ていく必要がある。

(2)  女性に対する差別禁止を男女双方に対する差別禁止とする意義
 女性に対する差別禁止を男女双方に対する差別禁止とする意義としては、まず、法律上、性差別の理念が明確になることが挙げられよう。
 すなわち、女性に対する差別の禁止は、そもそも「女性」という属性に基づく不合理な差別を禁止するものであるところ、女性に対する差別の禁止のみである限り、女性についてのみの保護というような福祉的な色彩をもって受け止められることも避けられないであろう。男女双方に対する差別を禁止することはこうした福祉的な色彩から脱却し、職業上の能力等他の合理性のある根拠に基づき処遇するという考えを明確に打ち出すことを意味しよう。
 次に、賃金格差の縮小を始め、実質的な男女平等の推進に資するということも挙げられる。男女双方に対する差別を禁止し、男女双方に等しく性差別に関する法的救済措置が適用されることになれば、女性、男性に偏りのある職種において今よりも双方が参入しやすくなり、その結果、男女間の職域分離の是正が進むとともに、賃金を含む男女間の格差の縮小が図られることが期待される。
 この他、男性に対する差別を禁止することが明確化されることにより、性差別の問題が男性の側から共感を得られ易くなり、そのことが女性に対する差別の是正にとり促進的に働くことも期待される。現行男女雇用機会均等法においては、女性に対する優遇措置を原則として禁止し、その結果、反射的効果として男性に対する差別も違法とされるにとどまるが、これが直接的に男性に対する差別を禁止し、男性も女性と同じように救済されるということになれば、男性も性差別の問題を女性だけの問題ではなく、自らの問題として捉え直すきっかけとなることになろう。そしてそのことを通じ、男性の側の理解と共感が得られ易くなることはこの問題の解消に向けた取組の環境としてプラスに働くことが期待される。

(3)  男女双方に対する差別の禁止と女性労働者に係る特例措置との関係
 男女雇用機会均等法は原則として「女性のみ」や「女性優遇」を含め、女性に対する差別を禁止しているところであるが、同法第9条は、事業主が雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として「女性のみ」や「女性優遇」の措置を行うことは法違反とはならないこととしている。
 仮に男女雇用機会均等法において、男女双方に対する差別を禁止することとした場合、同法第9条に規定する特例措置について、職種等に性の偏りがある場合には男性もその対象とするのかどうか、また、男性もその対象とする場合には、特例措置として許容される範囲について現在女性に対して許容しているものと同じ範囲とするのかについても検討を行う必要がある。
 すなわち、調査を行った諸外国では、いずれも男女双方に対する差別を禁止した上で性差別に関する過去の経過などを踏まえて暫定的に一方の性に対する他方の性についての優遇措置を規定している、あるいは規定していないまでも裁判では認められているが、例えば、EU、イギリス、スウェーデンでは、男女双方について明文規定でこれを許容しているのに対し、フランスやドイツにおいては、優遇措置は女性についてのみ明文規定で許容している等その在り方は一様ではない。また、男女双方に対して優遇措置を許容する国においても、その内容については、イギリスのように、明文規定で、ある職務について一方の性が皆無か比較的少数の場合に、その仕事に関し、一方の性にのみ訓練において便宜を図ることや応募を奨励することを認める等一定の範囲に限定している国もあれば、EUのように、より広範な取組を許容している例もある(参照:資料1)。
 このような特例的な優遇措置は、もともとは、固定的な性別役割分担意識や過去の経緯から女性が男性と均等な取扱いを受けてこなかったという状況の改善を図るために、政策的に暫定的な措置として実施されてきたものである。したがって、男女双方に対する差別の禁止や特例措置の在り方を検討する場合には、我が国の女性の置かれた状況、特に男女間格差の現状に十分留意して検討が進められる必要がある。


3 妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い

(1)  検討の経緯
 妊娠・出産は女性のみが担う機能であり、特別な保護を必要とする場合が多いが、この点についての手当てが十分でないと男女の雇用機会均等の実質は確保できない。また、少子・高齢化が進展する中にあって、働く女性が妊娠、出産に伴い不利益を専ら負担するという在り方は望ましくなく、女性が働きながら安心して子供を産み育てることができる環境の基盤を整備する上でもこの問題を検討することは重要なことと考える。
 近年、我が国では妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い事案が増加の傾向にある。例えば、全国の都道府県労働局に持ち込まれた男女雇用機会均等法に係る個別紛争解決の援助の申し立てのうち、解雇事案は平成12年度には69件であったが平成15年度には123件となり、そのうちの約8割を妊娠・出産等を理由とする解雇が占めている。また、解雇に限らず、妊娠を告げたところ、不利益な配置転換を求められたり、パートタイムへの身分変更を強要された等の相談事案が寄せられている。
 労働基準法及び男女雇用機会均等法においては、母性保護の観点から産前産後休業等や母性健康管理措置の定めが置かれているところであり、男女雇用機会均等法第8条においては妊娠、出産又は産前産後休業の取得を理由とした解雇が禁止され、労働基準法第19条においては産前産後休業中及び産前産後休業後30日間の解雇禁止規定が設けられているが、解雇以外の局面について規制する規定はない。
 一方、育児・介護休業法においては育児休業申出をしたこと又は育児休業をしたことを理由とする不利益な取扱いを禁止する規定が設けられているところである。その結果、妊娠し、産前産後休業を取得した女性の場合、産前産後休業取得後に職場復帰しようとする場合と、育児休業後に職場復帰しようとする場合とで、規定上、差が生じている。

 ここでは妊娠・出産に関連する不利益取扱いについては、一般の性差別とは異なり、実際に職務遂行ができない場面や、能率の低下を伴う場面が想定されることを踏まえて、以下のように場合分けをして、検討を行った(以下まとめて「妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い」という。)。
 妊娠・出産したこと自体を理由とする不利益取扱い
 妊娠・出産に起因する症状による能率低下・労働不能を理由とする不利益取扱い
 産前産後休業を取得したこと又は取得しようとしたことを理由とする不利益取扱い
 母性保護措置(産前産後休業以外)や母性健康管理措置を受けたこと又は受けようとしたことを理由とする不利益取扱い

(2)  我が国における裁判例の動向
 先述のように現行法制上、妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いについては解雇の禁止に関する規定しか設けられていないが、裁判例においては、解雇以外の局面に関する事案も見られる。最高裁判例としては、産休取得を理由とした不利益取扱いについて、日本シェーリング事件(平成元年12月14日 最高裁判決)、学校法人東朋学園事件(平成15年12月4日 最高裁判決)があり、いずれも労務を提供しなかった部分に応じた賃金の減額等は許容されるとしても、法律上の権利行使を抑制し、法律が労働者に権利を保障した趣旨を実質的に失わせるような不利益な取扱いは許されないと判示している。

 ■ 日本シェーリング事件(平成元年12月14日 最高裁判決)
 「賃上げは稼働率80%以上の者とする」旨の労使間協定に関し、年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休業、育児時間、労働災害による休業ないし通院、同盟罷業等による不就労を含めて稼働率を算定するとの取扱いについて問題となった事件。労働基準法又は労働組合法上の権利に基づく不就労を稼働率算定の基礎としている点は、労働基準法又は労働組合法上の権利を行使したことにより経済的利益を得られないこととすることによって権利の行使を抑制し、ひいては各法が労働者に各権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものというべきであるから公序に反するものとして無効とされた。
 ■ 学校法人東朋学園事件(平成15年12月4日 最高裁判決)
 賞与の支給要件として、支給対象期間の出勤率を90%以上とし、出勤率の算定に当たり、産後休業日数及び育児のための勤務時間短縮措置を受けた時間を欠勤日数に算入するとの取扱いについて問題となった事件。労働者が産前産後休業をした期間ないし育児のための勤務時間短縮措置を受けた期間を出勤として取り扱うかどうかは原則として労使の合意に委ねられているが、本件90%条項により、賞与を一切支給しないとすることは、その経済的不利益の大きさと90%という数値から見て、労働基準法や育児休業法がこれらの権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものというべきであるから、公序に反するものとして無効とされた。
 ■ 住友生命保険事件(平成13年6月27日 大阪地裁判決/平成14年12月 大阪高裁和解成立)
 女性従業員に対し、既婚女性は、産前産後休業、育児時間、年次有給休暇などを取得するので、労働の質、量が大きくダウンする、家族的責任の負担が仕事の制約となるという特有の諸事情があるとして、一律に低く査定し昇給させなかったことについて問題となった事件。労働基準法は、産前産後休業や育児時間など労働基準法上認められている権利の行使による不就労を、そうした欠務のない者と同等に処遇することまで求めているとはいえないが、その権利を行使したことのみをもって、能力が普通より劣る者とするなど、低い評価をすることは、労働基準法の趣旨に反する。さらに、労働基準法の権利行使による不就労を理由として、一般的に能力の伸長がないものと扱うことは許されないとされた。

(3)  諸外国における妊娠・出産等を理由とした不利益取扱い
 今回調査を行った諸外国の法制について類型化して示すと、次のように整理することができる(参照:資料2)。
(1)  妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いは、性差別として規制し、産休等を母性保護措置としては設けない。性差別であるかどうかを判断するに当たっては、疾病等により同様の労働能力又は労働不能の状態にある労働者を比較対象としている例。
【アメリカ】(妊娠差別禁止法、家族医療休暇法)
 妊娠・出産又は関連する医学的な状態を理由とする労働者の雇入れの拒否は、労働者がその職務の主要な機能を果たすことができる限り、原則として性差別となる。
 また、妊娠・出産又は関連する医学的状態に影響を受けている女性は同様の労働能力又は労働不能の状態にある他の者と同じ扱いを受けなければ性差別とされる。
 なお、家族医療休暇法に基づき、出産や病気、育児や介護について12ヶ月で12週間の休暇取得が可能であるが、同休暇終了後は、原職又は原職と賃金その他労働条件が同等の職に復帰する権利を有する。
(2)  妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを性差別として規制。産休等母性保護措置を設け、当該母性保護措置については、性差別に該当しないものとして取り扱うとともに、産休を取得しても不利にならないよう措置する例。
【EU】(雇用、職業訓練、昇進へのアクセス並びに労働条件についての男女均等待遇原則の実施に関する指令、妊娠中及び出産直後又は授乳期の女性の安全衛生改善促進措置の導入に関する指令)
 妊娠又は出産に伴う女性に対する不利な待遇は、性差別として規定し、禁止している。母性保護措置も規定し、性差別には該当しないものとして取り扱う。産休を取得した女性は、産休明けに休暇中に受けられたであろう労働条件の改善の恩恵を受ける権利及び産休明けに原職又は原職と労働条件が同等の職に復帰する権利を有する。
 産休以外の母性保護措置を受けたことに係る不利益取扱いの禁止については、賃金の保障についての規定はあるものの、労働条件の改善の恩恵を受ける権利といった産休に規定されている保護と同程度の保護までは規定されていない。
(3)  妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを性差別とは別途に規制。産休等母性保護措置を設けるとともに、産休を取得しても不利にならないよう措置する例。
【イギリス】(雇用権利法)
 妊娠・出産、産休を取得したこと又は取得しようとしたことを理由とするあらゆる不利益取扱いを禁止している。通常産休を取得した女性は休暇前の職務に復帰する権利を有し、追加産休を取得した女性は休暇前の職務又は妥当な別の職務に復帰する権利を有する。通常産休を取得した労働者は、休暇を取得しなかった場合に適用されたはずの雇用条件(賃金を除く)の利益を受ける権利を有し、義務を負う。
 産休以外の母性保護措置を受けたことに係る不利益取扱いの禁止については、賃金の保障についての規定はあるものの、休暇を取得しなかった場合に適用されたはずの雇用条件の利益を受ける権利を有するといった産休と同程度の保護までは規定されていない。
【フランス】(労働法典)
 雇用の拒否、試用期間中の労働契約解除、一定の配置転換に当たり、妊娠していることを考慮すること、及び妊娠中、産休期間中、産休期間満了後4週間の間に労働契約を解除することを禁止している。産休終了時には、自動的に自分の職に復帰し、当該職が無くなっている場合には、同等の報酬を伴う類似の職が提供される。産休の期間は、勤続年数を基にした被用者が有する諸権利の決定に当たっては、実働期間としてみなされる。
 産休以外の母性保護措置を受けたことに係る不利益取扱いの禁止については、賃金の保障等についての規定はあるものの、勤続年数を基にした被用者が有する諸権利の決定に当たって、休暇の期間を実働期間とみなすといった産休と同程度の保護までは規定されていない。

 上記から各国共通に見られる特徴を大まかにまとめると以下のとおりとなる。
 妊娠・出産等に基づく不利益取扱いについて規定の仕方、内容に差はあるものの、いずれも解雇以外の不利益取扱いについても規制している。
 妊娠・出産に関して特別な保護を行っていないアメリカにおいても、能率低下・労働不能状態を伴わずに単に妊娠していることのみを理由とした不利益な取扱いは禁止している。
 妊娠・出産に起因する症状による能率低下や労働不能の場合の取扱いについては、差別又は不利益と判断する際の比較の対象を、疾病等により同様の能率低下、労働不能にある男性に置く例から、妊娠・出産をしておらず、能率低下、労働不能に陥っていない労働者に置く例まであり、対応は一様ではない。
 産休についてはこれを制度として有する国においては、産休を取得したことにより産休を取得しない男女労働者に比べて処遇面で不利にならないように何らかの措置を設けており、特に産休からの復帰において、原職又は原職相当職への復帰を求めるのが大勢である。
 産休以外の母性保護措置を受けたことに係る不利益取扱いの禁止については、賃金の保障についての規定はあるものの、その他については必ずしも産休と同程度の保護までは規定されていない。

(4)  我が国において妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いを検討するに当たって留意すべきこと
 妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いを検討するに当たっては、以下の点に留意する必要がある。
(1)  今回調査を行った諸外国においては、妊娠・出産等に基づく不利益取扱いについて解雇以外の不利益取扱いについても規制していること。
(2)  育児・介護休業法において、育児休業の申出をし、又は育児休業をしたことを理由とした不利益取扱いを禁止していることとのバランスがとれたものとなる必要があること。
(3)  現行規定上は、産前産後休業の取得は保障されているが、不利益取扱い一般を禁止する規定はない。産前産後休業は休業期間が長期にわたるものではなく、かつ、産後休業については強制休業という性質であること、さらには諸外国の法制の動向を踏まえれば、原職又は原職相当職への復帰を求めることも合理性はあると考えられること。
(4)  産前産後休業期間中の評価は、休業をしなかった者とのバランスをどう考えるかという問題があり、仮に休業期間中、休業しない労働者と同様に扱うことを法律上義務付けることとすれば、女性が男性に比べ、より一層コストの高い労働力となることを印象づけ、妊娠する可能性の高い女性の採用を企業が敬遠することにならないかという懸念がある。一方で、我が国においては、疾病とは異なり、妊娠・出産に関しては法による保護がなされており、産前産後休業と一般の疾病等による労働不能とで保護に差を設けることにも合理性があるとも言える。また、裁判例においては、法が権利を保障した意義を失わせるほどの不利益を課すことは、違法・無効とするという判断が出されている(6頁日本シェーリング事件、学校法人東朋学園事件、住友生命保険事件参照。)。これらを踏まえれば、今後、裁判例の趣旨を周知するとともに、それを超えた保護をすべきか否かについて、議論を重ね、社会的コンセンサスを形成していくことが必要であること。
(5)  産前産後休業以外の母性保護措置、母性健康管理措置を受け、又は受けようとしたことを理由とした不利益取扱いについても(4)と同様と考えられること。
(6)  妊娠・出産に起因する症状による能率低下・労働不能を理由とした不利益取扱いについても考え方は(4)と同様と考えられる。今後裁判例の動向に注視する必要があるが、少なくとも一般の疾病より不利に扱われるべきではないと考えられること。


4 間接差別の禁止

(1)  検討の経緯
 平成9年の改正男女雇用機会均等法により雇用の各ステージにおける女性に対する差別が禁止されることにより、男女間で異なる取扱いをすることは、法律上例外として許容されるもの以外は許されなくなった。しかしながら、必ずしも意図的な差別であるとは言えず、一見男女間で異なる取扱いをしていると言えないものの中にも、女性が不利となる制度や運用は存在しており、このようなケースについては現行の規制では対応が困難な場合がある。
 こうした問題の存在は平成9年の改正男女雇用機会均等法を検討した際にも認識され、諸外国の法制の例にあるように間接差別概念を取り入れるべきとの議論もなされたが、その概念自体が必ずしも明確でなく、具体的にどのようなものが該当するのかについての共通理解が必要であったことから法案には盛り込まれず、その後の国会審議において、附帯決議に今後の検討課題として盛り込まれた経過がある。そして間接差別については、昨年夏に、我が国が批准している女子差別撤廃条約に基づき設置された女子差別撤廃委員会の審査において指摘を受けたことから、益々注目されるようになってきた。
 今後、これらの、現行の規制では対応が困難となっている問題に対処していくためには、既に間接差別法理が導入されている諸外国の運用について整理することにより間接差別という概念を明確化するとともに、我が国において、具体的にどのようなものが違法な差別に該当するのかについてのイメージを示すことが必要である。

(2)  間接差別の概念
 一般的に、間接差別とは、外見上は性中立的な規定、基準、慣行等(以下「基準等」という。)が、他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与え、しかもその基準等が職務と関連性がない等合理性・正当性が認められないものを指すと理解できる。
 ヨーロッパでは、「間接差別(indirect discrimination)」と称されていることが多いが、初めてこの概念が登場したのは、アメリカにおける1971年のGriggs事件連邦最高裁判決であり、1964年公民権法第7編(以下「第7編」という。)の解釈として、「差別的効果(disparate impact)法理」が確立した。この差別的効果法理は、裁判例の蓄積を経て、1991年には第7編に規定が追加されている。
 一方、アメリカにおいて生成、発展した差別的効果法理の概念はヨーロッパに渡り、間接差別と呼ばれるようになった。EUの均等待遇に関する76年指令や各国国内法において規定が設けられ、やはり裁判例の集積を通じて徐々に具体的なイメージが形成されてきたものである(以下、アメリカの「差別的効果法理」を含め、「間接差別」と呼ぶこととする)。
 我が国においては、現在までのところ間接差別法理に立って判断された裁判例は雇用の分野には見出せない。家族手当に関して、男女同一賃金の原則を定めた労働基準法第4条違反が争われた日産自動車家族手当事件、勤務地限定、非限定を基準とした賃金の差について同じく労働基準法第4条違反が争われた三陽物産事件等はあるものの、いずれも間接差別を認めたものと断定することはできない。しかし、雇用の分野ではないものの、平成14年に大阪高裁で判決が下された被災者自立支援金請求事件においては、阪神・淡路大震災の被災者自立支援金の世帯主被災要件が世帯間差別及び男女差別を招来し、かつ、それらの差別に合理的理由を見出すことができず、公序良俗に違反すると判示されており、今まで明白に取り上げられなかった形態の差別を認めたものとして、今後の動向が注目される。

 ■ 日産自動車家族手当事件(平成元年1月26日 東京地裁判決/平成2年8月 東京高裁和解成立)
 親族を実際に扶養している世帯主である従業員に対し家族手当を支給するとし、「世帯主」とは、住民票上の世帯主ではなく、現実・実質的に親族を扶養している者とし、共働き夫婦の場合については、いずれか収入額の多い方とするとの取扱いがなされている家族手当支給規程について問題となった事件。共働き夫婦による分割申請を認めず支給対象者を1人に絞ることはやむを得ず、本件家族手当が生活補助費的性質が強い事実に鑑みると、家族手当を実質的意味の世帯主に支給することやいずれか収入の多い方に支給することは明確かつ一義的な運用であり不合理なものとはいえない。本件規程よりも優れた規程ないし運用もあり得るが、本件規程が不当なものでない以上、本件方式を採用するか否かは会社の裁量に属するものであって、当該会社において妻より夫の方が収入の多い家庭が多数を占め、それがために家族手当の支給対象の多くが夫即ち男性に限られていたとしてもやむを得ない。したがって、本件規程および運用基準は労働基準法4条及び民法90条違反とはならず、女子従業員を不当に差別したものでもないとされた。
 ■ 三陽物産事件(平成6年6月16日 東京地裁判決/平成7年7月 東京高裁和解成立)
 非世帯主及び独身の世帯主か、勤務地域限定の労働者には所定の本人給を支給せずに、26歳の年齢給が適用されるとの賃金規程を定め、男性に対しては全員勤務地域無限定とし、非世帯主及び独身の世帯主である女性に対しては勤務地域限定であるとして給与を据え置いたことが問題となった事件。(1)被告会社が世帯主・非世帯主の基準を設けながら、実際には男子従業員については非世帯主又は独身の世帯主であっても、女子従業員とは扱いを異にし、一貫して実年齢に応じた本人給を支給してきていること、(2)一般論として、勤務地域の限定・無限定の基準の制定及び運用が男女差別といえるものでない限り、何ら違法とすべき理由はないが、被告会社においては、男子従業員には勤務地無限定、女子従業員には勤務地限定と記入した勤務地確認票を送付していたこと、(3)男子従業員であっても必ずしも営業職に就くとはいえず、営業職についても広域配転の割合は微々たるものであると認められることから、当該基準は、真に広域配転の可能性がある故に設けられたものではなく、女子従業員の本人給が男子従業員のそれより一方的に低く抑えられる結果となることを容認して制定され運用されてきたものであるから、労働基準法4条の男女同一賃金の原則に反し、無効とされた。
 ■ 被災者自立支援金請求事件(平成14年7月3日 大阪高裁判決/確定)
 阪神・淡路大震災からの早期復興のための各般の取組を補完することなどを目的とした民法上の財団法人として設立された被告が、被災者自立支援金支給の要件を大震災から3年半経過した基準日時点に世帯主である者が被災していることととする世帯主被災要件を設けたことが問題となった事件。一般に、結婚した男女が世帯を構成する場合、男性が住民票上の世帯主となることが圧倒的に多いという社会的実態においては、当該要件は女性を男性よりも事実上不利益に取り扱う結果となる。また、世帯主自ら大震災に被災しているが、大震災後に同一世帯を構成するに至った他の世帯主構成員は被災していない場合と、世帯主は被災していないが、大震災後に同一世帯を構成するに至った他の世帯構成員が被災している場合とで、生活再建を図る困難さにおいて、後者の場合にのみ、本件自立支援金の受給資格を失わせることを合理的とするだけの差があると認めることは困難である。本件世帯主被災要件は、世帯間差別及び男女間差別を招来するものであり、かつ、それらの差別に合理的理由を見出すことができず、被告が世帯主被災要件を定めたことは、政策的・技術的要請に基づく裁量権を逸脱・濫用したものと考えられ、公序良俗に違反し無効とされた。

 間接差別概念の基本的考え方は各国ほぼ共通であるが、間接差別の概念を他の概念との比較で整理すれば、以下のとおりとなる。
(1)  いわゆる直接差別との関係
 我が国の法律においては男女雇用機会均等法も含め、およそ直接差別と間接差別という切り口で整理・制定されているものはない。しかし、既に法概念として定着している諸外国の法制の例から見れば、いわゆる直接差別は性に基づく取扱いの違いに着目する概念であるのに対し、間接差別は外見上は性中立的な基準等が男女に与える影響の違いに着目し、かつ差別意図の有無は問わないという相違がある。
(2)  いわゆる結果の平等との関係
 間接差別法理導入の目的は、一方の性に対して不利益を与える不必要かつ不合理な障壁を取り除き、実質的に機会の均等を確保することにある。
 間接差別は、格差の存在が前提になるものの、問題となっている基準等に職務との関連性や業務上の必要性などの合理性が認められれば差別とはならないものであり、格差の存在自体を問題とし、労働者の意欲や能力にかかわらず数値上の平等という結果自体を直接の目的とするようないわゆる結果の平等とは明らかに異なる。
(3)  ポジティブ・アクションとの関係
 ポジティブ・アクションには、女性のみを対象とする、あるいは、女性を有利に扱う取組のみならず、男女双方を対象とした取組として、女性が事実上満たしにくい採用・登用基準を見直したり、女性の勤続年数の伸長を図ることを目的として職業生活と家庭生活との両立支援施策を推進する等の取組も含まれるものであるが、後者については、女性という集団に与える不合理な障壁の是正を図るものであるという点で、間接差別法理と同様の目的を有しているという共通点がある。
 しかし、問題となっている基準等が間接差別であるとされた場合は、違法という評価を受けるものであるのに対し、ポジティブ・アクションは違法という評価を受けず、より望ましい状態に向けた雇用管理等の改善を図るというものであり、効果が異なる。また、それゆえ、ポジティブ・アクションの取組の対象は、間接差別におけるよりも広範な内容が含まれる。

(3)  諸外国における間接差別法理の状況
 今回調査を行った諸外国の間接差別に係る規定や適用状況は資料3のとおりである。法律上規定されている違法性の判断方法は、各国ともほぼ同様の手法となっており、原則として、一応どのような事案についても間接差別法理の俎上に載りうる仕組みとなっている。しかしながら、アメリカでは、既存の法律との関係等により、間接差別法理が適用されない事案があったり、また、各国の置かれた状況がそれぞれ異なること等から、実際の間接差別法理の適用状況については、国によってかなりの違いがある。なおフランスでは、法において間接差別法理を導入した時期が2001年であるということもあり、具体的な適用例は把握されていない。
(1)  ある基準等が一方の性に与える不利益の有無の判断基準
(@)  アメリカ
 アメリカにおいては、平等雇用機会委員会(EEOC)の労働者選考手続きに関する統一ガイドラインにおいて、一定の選考手続きにおけるあるグループ(人種・性等)の成功率が最も成功率の高いグループの5分の4を下回る場合は、その選考手続きは、一般的に差別的効果があると判断されることとなっており、裁判所の判断にも影響を与えている。ただし、必ずしも裁判所を拘束するものではない。
(A)  EU
 欧州司法裁判所においては、定まった判断基準はなく、具体的な判断は各国の裁判所に委ねるものとしている。
(B)  イギリス
 イギリスにおいては、定まった判断基準はなく、具体的な判断は労使が参加する個々の雇用(労働)審判所が行い、個別の事案によって不利益の有無の判断が様々である。
(2)  (1)に関し、不利益があると判断された場合の当該基準等の合理性・正当性に関する使用者の抗弁
(@)  アメリカ
 アメリカにおいては、使用者が「当該行為が職務関連性や業務上の必要性に合致していること」を証明しなかった場合には、使用者の行為は、差別的効果に基づく違法な雇用慣行とされる。また、上記を証明した場合であっても、原告がそれに代わる別の方法が存在することを証明したのに対し、使用者がその採用を拒否した場合には、差別的効果に基づく違法な雇用慣行となる。
(A)  EU
 EUにおいては、使用者が「当該規定、基準又は慣行が、正当な目的によって客観的に正当化され、その目的を実現する手段が適切かつ必要であること」を証明しない限り、間接差別が存在しているものとされる。
(B)  イギリス
 イギリスにおいては、使用者が「当該規定、基準又は慣行が性別に関係なく正当であること」を立証できない場合、女性(男性)に対する差別を行ったものとされる。
 なお、上記(1)(B)における不利益の有無の判断と同様、具体的な判断は雇用(労働)審判所が行うこととされているが、使用者の必要性と差別的効果の程度とのバランスで判断される傾向がある。
(3)  取扱い事案の特徴
(@)  アメリカ
 採用・昇進に関する事案が多く、解雇は少ない。
 賃金については、同一賃金法が、男女間の格差が「性別以外の要素」によるものであれば違法でないと定めており、第7編の下でも、同一賃金法により是認されている場合は違法な雇用慣行とならないとされていることから、賃金格差問題への差別的効果法理の適用は事実上否定されている。
 真正な先任権制度(雇用上の様々な権利や利益について勤続年数を基準にして優先順位を決める方法であって、差別的意図がないもの)により生じた雇用条件の差異については、第7編において違法な雇用慣行とならないと規定していることから、適用された例は把握されていない。
 また、パートタイム労働者や家族的責任の有無等に係る事項が間接差別とされた例は把握されていない。
(A)  EU
 各国からEU指令との関係において欧州司法裁判所における先行判断を求められる立場であるが、パートタイム労働者に関する賃金を含めた処遇格差事案が多い。
(B)  イギリス
 シングルマザーやパートタイム労働者など社会的な問題や家族的責任等に関わる事案が多い。

(4)  我が国において間接差別を検討するに当たって留意すべきこと
 我が国において間接差別を検討するに当たっては、以下の点に留意する必要がある。
(1)  今回調査を行った諸外国においては、間接差別について、規定の仕方は異なるが、何らかの形で法規制を行っている状況にあること。
(2)  間接差別法理の理解を徹底する必要があること。間接差別についての関心が高まってきたとはいえ、現状においては同概念については未だ正確な理解がなされていない。例えば、間接差別は結果の平等であるとの指摘や批判である。実際のところ、具体的な事例を引用し、これが間接差別であるとされる記述を見ると、性中立的な基準等について職務関連性や業務上の必要性など合理性・正当性があれば差別にはならないということの説明が欠けているものがある。本来、間接差別法理とは、不必要・不合理な障壁を取り除き、実質的に機会の均等を確保することにその意義があるところ、とりわけ、いわゆる結果の平等とは異なるものであることについての理解が広くなされることが間接差別法理についての冷静な議論を進める上で重要である。
(3)  不必要・不合理な障壁の除去という間接差別法理の効果に鑑みれば、あらかじめどのようなものが間接差別に該当する可能性があるかについて、イメージを示し、予測可能性を高め、法的安定性を高めることが必要であること。間接差別の具体的なイメージは諸外国においては裁判例の集積により徐々に形成されてきたという経過がある。しかし、裁判になってみなければ差別であるかどうか分からないというのでは労働者にとっても使用者にとっても様々な意味で負担が少なくない。違法状態が生じないようあらかじめ見直しが促され、また、早期に是正が図られることが重要であり、実際にどのような場合が間接差別に該当するのかということについて共通理解が得られていることが必要であろう。
(4)  仮に間接差別に該当しない場合であっても機会の均等の実質化のための取組はポジティブ・アクションの積極的な推進により広く行われることが望まれること。間接差別法理導入の意義は、不必要・不合理な障壁を取り除き、実質的に機会の均等を確保することにあるものであり、違法な差別に該当すれば是正が図られるべきこととなるが、違法な差別には該当しない場合においてもポジティブ・アクションの中でこうした見直しが積極的になされることが期待されるものである。

(5)  間接差別として考えられる例
 本研究会では間接差別として考えられる典型的な事例についてイメージを示すため、これまで様々なところで間接差別に該当するのではないかと指摘されたものを中心に、若干追加をした事例について検討を加えた。その結果は次の(1)から(7)に示すとおりである。
 間接差別に該当するかどうかについては、いずれの事例においても、実際には個別具体的な事案ごとに事実認定を行い、判断していくものである。
 また、外見上性中立的な基準等が一方の性に不利益を与えるか否か及び当該基準等の合理性・正当性に関する使用者の抗弁について、総合的に判断を行うものであることに留意すべきである。
 なお、(2)、(4)、(6)、(7)については、女性に不利益を与えることとなる基準等の適用を受けることについては、職業に関する当該女性自らの意思や選択に基づく結果であるという点で他と異なっており、これを差別の俎上に載せることは性別役割分担等現状の固定化につながる懸念もあることから、そもそも間接差別の俎上に載せるべき事案ではないのではないかとの意見も根強かったが、仮に俎上に載せた場合にはどのような場合に間接差別となりうるのかについて整理したものである。

【間接差別として考えられる例】
(1)  募集・採用に当たって一定の身長・体重・体力を要件としたことにより、女性の採用が男性に比べ相当程度少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 従事する職務の遂行に当たって一定の身長・体重又は体力を必要とする等、職務関連性があること
 他の方法によって身長・体重・体力を補うことが困難である、又は機械を購入する等の、より一方の性に不利とならない他の方法を採用すると使用者に過大な負担を生じること 等

(2)  総合職の募集・採用に当たって全国転勤を要件としたことにより、女性の採用が男性に比べ相当程度少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 全国に支店・支社等がある場合であって、異なる地域の支店・支社で管理者としての経験を積むこと、生産現場の業務を経験すること、地域の特殊性を経験すること等が幹部としての職務能力の育成・確保に必要であること
 組織運営上全国転勤を伴う人事ローテーションを行うことが必要である等業務上の必要性があること
 実際の運用に当たっては、転勤をする時点において個々の労働者の状況に配慮する等労働者の不利益を緩和する措置を講じていること、またそのことが労働者に周知されていること 等

(3)  募集・採用に当たって一定の学歴・学部を要件としたことにより、女性の採用が男性に比べ相当程度少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 実際に従事する職務の遂行に当たって一定以上の学歴の者が有すると期待される教養・知識や特定の学部で修得される専門知識を必要とする等の職務関連性があること
 他の方法によってこれらの教養・知識を有しているか否かを判断することが困難である、又はより一方の性に不利とならない他の方法があったとしても当該方法を採用すると使用者に過大な負担が生じること 等

(4)  昇進に当たって転居を伴う転勤経験を要件としたことにより、昇進できる女性の割合が相当程度男性よりも少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 昇進後の職務が、異なる地域の支店・支社での管理者としての経験、生産現場の業務の経験、地域の特殊性の経験等を必要とすること
 当該企業において人事ローテーション上転居を伴う転勤が必要な場合であって、組織運営上、転居を伴う転勤を経験した者に対して、一定の処遇を与えることにより、企業内のモラルを維持することが必要である等の業務上の必要性があること
 実際の運用に当たっては、転勤をする時点において個々の労働者の状況等に配慮する等労働者の不利益を緩和する措置を講じていること、また、そのことが労働者に周知されていること 等

(5)  福利厚生の適用や家族手当等の支給に当たって住民票上の世帯主(又は主たる生計維持者、被扶養者を有すること)を要件としたことにより、福利厚生の適用や家族手当等の支給を受けられる女性の割合が男性に比べ相当程度少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 原資に制約があることから、福利厚生の適用や家族手当等の支給の対象を絞ることが制度の目的や原資の配分上合理的であること
 より一方の性に不利とならない他の方法が存在しない、又はより一方の性に不利とならない方法があったとしても当該方法を採用すると使用者に過大な負担が生じること 等

(6)  処遇の決定に当たって正社員を有利に扱ったことにより、有利な処遇を受けられる女性の割合が男性に比べ相当程度少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 正社員とパートタイム労働者の間で職務の内容や人材活用の仕組みや運用などが実質的に異なること 等
  (※総合職と一般職との間の処遇の違いについても同様。)

(7)  福利厚生の適用や家族手当等の支給に当たってパートタイム労働者を除外したことにより、福利厚生の適用や家族手当等の支給を受けられる女性の割合が男性に比べ相当程度少ない場合において、当該基準等の合理性・正当性に関する以下のような使用者の抗弁が認められない場合。
 人材活用の仕組みや運用、労働者の定着への期待などが実質的に異なること
 原資に制約があり、当該福利厚生の適用や家族手当等の支給の対象を絞ることが制度の目的や原資の配分上、合理的であり、より一方の性に不利とならない他の方法が存在しない、又はより一方の性に不利とならない方法があったとしても当該方法を採用すると使用者に過大な負担が生じること 等


5 ポジティブ・アクションの効果的推進方策

(1)  検討の経緯
 我が国においては、固定的な性別役割分担意識や過去の経緯から処遇面で男女間の事実上の格差が残っているケースが少なくなく、例えばUNDP(国連開発計画)のGEM(ジェンダー・エンパワーメント測定)を見ても女性の活躍の状況は十分とは言えない。登用、職域などの面で男女労働者の間に事実上生じている格差は、女性労働者に対する差別を禁止した規定を遵守するだけでは解消はできないため、男女雇用機会均等法においては第20条で事業主がこのような差の解消を目指して女性の能力発揮の促進についてそれぞれの状況に応じて具体的に取り組む場合に国が相談・援助を行うことができる旨規定している。
 また、近年、明白な差別は是正されつつあるが、個々人の意識や企業内部の意思決定の構造等に起因する男女の処遇差は、一律的な方法で解消するのは困難である。このような問題に対しては個別に規制を加えていくことは実際上不可能であり、また適切とも考えられず、むしろ個々の企業の置かれた状況に応じ、将来に向けた前向きな取組であるポジティブ・アクションによることが適切と考えられる。さらに、ポジティブ・アクションによってこうした状況を改善していくことは、女性がより能力を発揮して働くことを促進し、企業のイメージアップや生産性向上にも資するものであるとの指摘もなされている。
 このように、ポジティブ・アクションについては積極的な推進が望まれるところであるが、平成12年度の女性雇用管理基本調査によれば、ポジティブ・アクションに取り組んでいる企業の割合は、5000人以上規模企業では67.7%であるものの、企業規模計では26.3%と4社に1社という状況である。現在、我が国ではポジティブ・アクションの普及のため、女性の活躍推進協議会の開催、均等推進企業表彰やベンチマーク事業など各種の施策を展開しており、企業側においても積極的な取組がなされ始めるなど、その意義や必要性についての理解は進みつつあると見られるが、なお大きな広がりを持った動きには至っていない状況にある。

(2)  諸外国におけるポジティブ・アクションの取組
 今回調査を行った諸外国において行われている主要な手法を整理すると、以下のとおりである(参照:資料4)。
(1)  使用者の自主的取組を尊重する例
 あくまで国がポジティブ・アクションを積極的に奨励していることが前提となるが、自主的取組を尊重していても女性の登用が進んでいる例としてはイギリスが挙げられる。一方、ドイツについては民間についてEUの方針に従い周知を行っているものの、女性の登用はあまり進んでいない。
【イギリスの例】
 政府がパンフレット等を作成し、積極的に推進している。教育制度の改革により女性のキャリア志向が高まったことや企業の両立支援施策の充実が女性の活躍推進に結びついたとの指摘や、オポチュニティ・ナウ(注)に代表される企業トップが女性の活躍推進に積極的に関わる組織の活動が活発であることが女性の登用に結びついたとの指摘がある。オポチュニティ・ナウについては現在イギリスの女性の労働力の4分の1以上をカバーする広がりをもった活動になっているが、その背景としてオポチュニティ・ナウへの参加により売上げ増加など良い影響が出ていることも指摘されている。
(注)  オポチュニティ・ナウ
 1991年に活動が開始され、2000年にオポチュニティ2000から現在のオポチュニティ・ナウに名称が変更された(加盟数365(2004年3月現在))。調査、ベンチマーキング(毎年会員に対し実施する会員企業各社の女性登用に関する自己診断(部門、産業ごとの比較が可能)のため行う調査)、表彰の実施と、ベストプラクテイス(女性の登用のための優れた取組)の収集・情報提供を行っている。
(2)  政府調達企業への雇用状況報告及び改善のための計画の提出義務付け及び審査を実施する例
【アメリカの例】
 一定数以上の労働者を雇用し、一定規模以上の政府契約を締結する事業主等に、女性の活躍状況に関する統計的分析(労働力構成の分析、目標の設定等)及び計画の実施方法に関する記述を盛り込んだ改善のための計画を毎年作成し、目標を達成することが求められるとともに、必要に応じて、労働省連邦契約遵守局 (OFCCP)に提出することが求められる。この手法については、一定の効果が上がっている一方、企業においては毎年実態把握や計画を策定しなければならず、政府も審査体制を整えなければならない等、各々コストを伴っており、企業が計画の審査を意識した結果、数合わせに走る傾向が見られる等の指摘もある。
 なお、アメリカでは政府調達企業以外の一般の企業についてはポジティブ・アクションに取り組むかどうかは自由であるが、女性やマイノリティーの能力発揮促進等の見地から、自発的にこれを実施している企業も少なくない。政府もベストプラクティスの普及に努めており、また、カタリスト(注)のように、専門家集団を擁して啓発や調査研究、人材紹介など企業の自主的な取組を支える民間団体の活動が活発である。
 (注)  カタリスト
 1962年に設立された会員数311のNPO(2004年5月現在)。女性がビジネス・職業において能力を最大限に発揮できるようにすること、企業が女性の才能を十分に活用できるようにすることを目的として、出版、調査研究、助言制度、企業役員会への援助、カタリスト賞の授与などの活動を実施。
(3)  雇用状況報告書又は/及び改善のための計画書の作成を義務付けする例
【フランスの例】
 一定規模以上の民間企業について雇用状況報告の作成、企業委員会等(注)への提出を義務付け、同報告書に基づき、労使の協議により男女職業平等計画を策定することが想定されており、模範的な男女職業平等計画等に対して財政援助を行うこととされている。また、最近になって(2001年)、企業内の義務的年次交渉において、男女間の職業上の平等を取り上げることが義務付けられている。
 助成金はあまり利用されていないものの(政府と男女平等契約を締結し、これに基づき職業訓練等を実施した企業を助成する制度の利用は年3〜4件、中小企業を対象に労使が合意した計画に政府が支援する制度で助成を受けた企業は30社程度など)、女性の登用は進みつつある。
 (注)  企業委員会等
 企業委員会等とは次を指す。
 従業員50人以上の企業が設置を義務付けられている企業委員会
 従業員10人以上の企業で選任を義務付けられている従業員代表
 従業員50人以上の企業に設置される組合代表

【スウェーデンの例】
 10人以上規模の民間企業について男女平等計画(労働条件、採用等の実態把握と取組計画、実施状況を含む)の策定を義務付けているほか、オンブズマンによる審査制度もある。公務部門と比較して、民間部門の女性の登用はあまり進んでいないと受け止められている。

(3)  我が国においてポジティブ・アクションの効果的推進方策を検討するに当たって留意すべきこと
 ポジティブ・アクションを効果的に進める手法を検討するに当たっては、以下の点に留意する必要がある。
(1)  ポジティブ・アクションは、いわゆるクォータ制(割当制)のような手法のイメージも強いが、職業生活と家庭生活の両立支援施策や採用・登用の基準の明確化といった男女双方を対象とする措置など幅広い、多様な手法が含まれていることについて、今一層の理解を進めることが重要であること。
(2)  ポジティブ・アクションには、雇用状況報告の作成や、雇用状況の改善のための計画の策定を義務付ける等の規制的手法もあり、これらによれば、一定の成果が上がることが期待される一方、企業及び行政それぞれにコストを伴うことからどのように費用対効果を上げるかの工夫が必要であること。
(3)  (2)のような規制的な手法によらず奨励的な手法において実効性を持たせるためには、企業へのインセンティブ付与の工夫が必要であり、特に企業トップに必要性を理解させる仕組みの在り方が重要であること。例えば近年、社会的責任投資が注目されてきているが、ポジティブ・アクションを推進することによって、投資家や消費者からの評価が得られることや有能な人材を確保できることは、インセンティブとなるものと考えられる。それを可能とするためには、客観的な基準による認定など外部からの評価が透明化される仕組みやそうした評価をアピールする仕組みが求められると考える。また、諸外国におけるオポチュニテイ・ナウやカタリストのような活発な民間団体の存在もポジティブ・アクションの普及には重要である。
(4)  意欲と能力のある女性の活躍を推進するには、女性のチャレンジを阻む社会制度・慣行の見直しも必要不可欠であり、そのためには、個々の企業の取組だけでなく、様々な分野においてポジティブ・アクションが着実に実施されることも重要であること。



関係資料


○資料1  諸外国における性差別禁止に係る規定等(概要)

○資料2  諸外国における妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いに係る規定等(概要)

○資料3  諸外国における間接差別に係る規定等(概要)

○資料4  諸外国におけるポジティブ・アクション(P・A)に係る規定等(概要)

○資料5  諸外国における女性管理職割合及びその推移



男女雇用機会均等政策研究会参集者名簿


  浅倉 むつ子   早稲田大学大学院法務研究科教授

  阿部 正浩 獨協大学経済学部助教授

奥山 明良 成城大学法学部教授

  黒澤 昌子 政策研究大学院大学助教授

  田島 優子 弁護士

  冨田 安信 大阪府立大学経済学部教授

  中窪 裕也 九州大学大学院法学研究院教授

  山川 隆一 慶應義塾大学大学院法務研究科教授



(○は座長 50音順、敬称略)



研究会参集者以外に諸外国の資料の作成に当たり、御協力をいただいた有識者


濱口 桂一郎   東京大学大学院法学政治学研究科
附属比較法政国際センター客員教授

水野 圭子 法政大学法学部兼任講師

宮崎 由佳 法政大学大学院博士後期課程

両角 道代 明治学院大学法学部助教授

(50音順、敬称略)



諸外国における性差別禁止に係る規定等(概要)
  アメリカ EU イギリス フランス ドイツ スウェーデン 日本
雇用におけ
る性差別
禁止の根拠法
 公民権法第7編

※多様な条項を含む1964年公民権法中に、第7編として雇用差別の禁止についての条項を設けた形態。
雇用、職業教育及び昇進へのアクセス並びに労働条件における男女均等待遇原則の実現のための指令(男女均等待遇指令)(76/207/EEC)

※雇用、職業における差別の禁止について定めた指令。
性差別禁止法

※雇用の分野に加えて、教育、物品・施設・サービスの供与、広告に関する性差別まで禁止する網羅的な法律。公的部門にも適用される。
労働法典

※労働関係の諸規制が定められた
労働法典の中に性差別禁止の規定
を設ける形態。
民法典

※民法の中に性差別禁止の規定を設ける形態。
機会均等法

※労働生活における男女の機会均等について定めた法律。
男女雇用機会均等法

※雇用の分野の女性差別禁止等に関する法律。
男女双方
に対する
禁止規定か
【男女双方に対する差別禁止型】 【男女双方に対する差別禁止型】 【女性に対する差別禁止の男性に対する準用型】 【男女双方に対する差別禁止型】 【男女双方に対する差別禁止型】 【男女双方に対する差別禁止型】

※ただし、1条において、法の目的は男女の平等促進であるが、特に女性の諸条件の改善を目指すとしている。
【女性差別のみ禁止型】
性差別を
禁止する
根拠規定
法 703条(a)「以下の行為は、使用者の違法な雇用慣行とする。(1)人種、皮膚の色、宗教、性別、または出身国を理由として、個人を雇用せず、その雇用を拒否し、解雇すること、あるいは雇用に関する報酬、期間、条件または特典について、差別待遇を行うこと。(2)・・性別・・を理由として、個人の雇用機会を奪い、奪う可能性のある方法で被用者または就職応募者を制限、分離、類別すること、あるいは被用者たる地位に不利益を及ぼすこと。」(1964年) 指令2条1 「以下の条項において、均等待遇の原則とは、・・・直接的または間接的ないかなる性差別もないことを意味する。」(1976年) ・法1条(1)「本法のすべての規定の目的に関し、いかなる場合においても以下の行為を行った者は、女性に対する差別を行ったものとする。」
・法2条(1)「女性に対する性差別に関する・・規定は、男性に対する取扱いに関しても同様に適用されるべきものと解釈し・・」(1975年)
法123条-1「・・何者も以下のことを行うことはできない。・・・性別・・に基づいて異なった選択基準に準拠したり、性別・・を考慮することによって、採用を拒否したり、給与生活者に転勤を命じたり、労働契約の更新を拒否したり、取り消したりすること・・。」 (1983年) 法611条a(1)「使用者は・・・雇用契約の設定、昇進、職務上の指示、解雇を行う場合に、性を理由として不利益に扱ってはならない。・・・」(1980年) 法15条第1項「使用者は、求職者または労働者を、同様の状況にある他方の性別の者よりも不利に取り扱ってはならない。ただし使用者が当該不利益取扱いが性別に関係がないことを証明した場合はこの限りではない。」(2000年) 法6条他「・・労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない。」(1997年)
ポジティブ・
アクション
(P・A)を
許容する
根拠規定
○法令に明文の規定なし。
※裁判所については公民権法706条(g)に基づき、差別に対する救済措置としてアファーマティブ・アクション(A・A)を命ずることができる。

○連邦最高裁は公民権法第7編の趣旨に合致することを認め、一定の範囲内で許容。
○EEOCガイドラインに規定。
・A・Aの実施が適切な場合として、(1)不利な影響を生じさせている慣行の存在、(2)過去の差別的慣行の影響の存続、(3)過去の排除を原因とする登用可能な層の不足
・A・Aの手順として、(1)合理的な自己分析と、(2)これに基づく合理的な根拠に基づく計画の下での合理的な行動、(3)さらにそれが文書化されていることが必要。
○欧州共同体設立条約
 職業生活の慣行における男女の完全な均等待遇を確保するために、均等待遇原則は、加盟国が、より少数の性に属する者が職業活動を追求することを容易にし、または職業経歴における不利益を防止しもしくは保障するために、特別の便宜を提供する措置を維持しまたは採用することを妨げるものではない。(条約141条4項)(1997年)

○男女均等待遇指令
 加盟諸国は、実際に男女の完全な均等待遇を目的として、欧州共同体設立条約141条(4)の意味する範囲内の施策を維持または採用することができる。(指令2条8項)(2002年)
※2002年改正前の2条4項
「・・女性の機会に影響を及ぼす既存の不平等を排除することにより、男女の機会均等を促進する措置を妨げるものではない・・」
○性差別禁止法
 限定的に、過去12ヶ月間に、グレート・ブリテンにおいて当該性の者でその仕事を行う者が全くいないか比較的少数の場合において、女性または男性にのみ、(1)その職務に適合するのに役立つ訓練施設の利用を認めること、(2)職務を行う機会の利用を奨励すること等の場合のみ、許容される。(法47条他)
○労働法典
 法123条-1,123条-2の規定は、男女の機会、とくに女性の機会に影響する事実上の不平等を是正して平等を確立するために、女性に対してのみとられる暫定的措置の実施を妨げるものではない。
(法123条-3)(1983年)
○民間部門を対象とした明文の規定なし。

○公務部門を対象としたものとして、「連邦行政機関及び連邦裁判所における女性の雇用促進並びに家庭と職業の両立のための法律」(1994年)
 女性はこの法律の基準に基づき、適正、能力および専門の仕事についての優位を考慮して、雇用を促進される。個々の部門で雇用されている女性が男性よりも少数である限り、決められた基準目標に即して女性の割合を高めることも雇用促進の目的である。男性並びに女性のための家庭と職業の両立も同様に促進すべきものである。(法2条)
○機会均等法
・P.Aに対しては差別禁止を適用しない。(法15条2項)(2000年)
・使用者はその活動の枠内で、職業生活における男女平等を促進するために、目標に向けた努力を行う。(法3条)(1991年)
・使用者は教育訓練・能力開発その他適切な措置により、各職種における男女比および異なる職種間の男女比を均等にするよう努力する。(法7条)(1991年)
・使用者は、求人に際して男女両者が応募できるように努力するものとする。(法8条)(1991年)
・使用者は、ある特定の職種あるいはあるカテゴリーの労働者の中で性の偏りがある場合には、少ない性の応募者を採用するよう努力する。(法9条)(1991年)
○男女雇用機会均等法
 事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げない。(法9条)(1997年)



諸外国における妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いに係る規定等(概要)
  アメリカ EU イギリス フランス ドイツ 日本
根拠法令 ○妊娠差別禁止法(PDA)(公民権法第7編701条(k))(1978年)
○家族医療休暇法(FMLA)(1993年) ※FMLAの適用対象となる使用者は、州際通商に従事又は影響を与える活動を行う50人以上の労働者を雇用する使用者であり、対象労働者は、12ヶ月以上雇用され、直近の12ヶ月に1250時間以上勤務した労働者。
○男女均等待遇指令(改正76指令)(2002年)
○妊娠中及び出産直後又は授乳期の女性の安全衛生改善促進措置の導入に関する指令(92/85/EEC指令)(1992年)
○雇用権利法(1996年)及び1999年出産及び育児休暇等規則(2002年規則により改正) ○労働法典 ○母性保護法(1997年) ○男女雇用機会均等法(1997年)
○労働基準法(1947年)
妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いと性差別の関係 ○妊娠・出産及び関連する医学的状態に基づく差別は、性に基づく差別とされる。(公民権法第7編701条(k)第1文前半)
 →公民権法第7編703条

















(a)以下の行為は使用者の違法な雇用慣行とする。
(1)人種・・性別・・を理由として、個人を雇用せず、その雇用を拒否し、解雇すること、あるいは雇用に関する報酬、期間、条件または特典について、差別待遇を行うこと、あるいは
(2)人種・・性別・・を理由として、個人の雇用機会を奪い、奪う可能性のある方法で被用者または就職応募者を制限、分離、類別すること、あるいは被用者たる地位に不利益を及ぼすこと。
○妊娠・出産又は関連する医学的状態により影響を受けている女性は、福利厚生を含むすべての雇用に関連する条件において、同様の労働能力又は不能力の状態にある他の者と同じ取扱いを受けなければならない。(公民権法第7編701条(k)第1文後半)
○指令92/85/EECの範囲内の、妊娠又は出産に伴う女性に対する不利な待遇は、本指令の範囲内の差別に相当することとする。(改正76指令2条7)







→改正76指令第2条
1・・待遇平等の原則とは、直接的または間接的ないかなる性差別もないことを意味する。
※性差別禁止法には「妊娠・出産を理由とした」という文言が入っていないため、雇用権利法に基づいて不当性を判断。(英政府からのヒアリング)
※EOCは、妊娠・出産に関連した理由による不利益取扱いは直接性差別になるとしている。
※性差別ではなく、妊婦に対する差別(仏政府からのヒアリング) ※妊娠・出産を理由とする解雇からの保護と差別禁止は別体系であるが、妊娠を理由とする不利益取扱は性を理由とする直接性差別とされる。 ○女性であることを理由とした差別ではなく、妊娠・出産に対する不利益取扱い。(解釈通達)
妊娠・
出産 、
産休
取得を
理由
とした
不利益
取扱い
募集

採用
○妊娠・出産及び関連する医学的状態に基づく差別は、性に基づく差別とされる。(公民権法第7編701条(k)第1文前半、703条(a))
○妊娠・出産又は関連する医学的状態により影響を受けている女性は、福利厚生を含むすべての雇用に関連する条件において、同様の労働能力又は不能力の状態にある他の者と同じ取扱いを受けなければならない。
(公民権法第7編701条(k)第1文後半)
○妊娠・出産又は関連する医学的な状態を理由とする、応募者の雇入れの拒否は、原則としてPDA違反(EEOCガイドライン29CFR1604.10)
○使用者は、労働者がその職務の主要な機能を果たすことができる限り、妊娠している労働者の雇入れ拒否をしてはならない。(EEOCFacts about Pregnancy Discrimination)
○指令92/85/EECの範囲内の、妊娠又は出産に伴う女性に対する不利な待遇は、本指令の範囲内の差別に相当することとする。(改正76指令2条7)

(参考裁判例)
○妊娠女性に対する法律上の就業制限を理由として妊娠女性を期間の定めのないポストに雇用することを拒絶することは許されない。(マールブルク事件(独)欧州司法裁判所2000年)
○妊娠・出産、通常産休・追加産休を取得したこと又は取得しようとしたことを理由とするあらゆる不利益取扱いの禁止。(法47条C、規則19条) ○使用者は、雇用の拒否、試用期間中の労働契約解除、一定の配置転換に当たり、妊娠していることを考慮に入れてはならない。(法122条-25)
○使用者の女性労働者の妊娠状態に関する情報収集の禁止。(法122条-25)
※女性労働者は、採用に際し、自らが妊娠していることを使用者に告げる義務はなく、使用者からの質問に答える義務はない。従事する予定の業務内容が、妊娠中の女性の就業が禁止されているものでも同様。  
配置 ○妊娠・出産及び関連する医学的状態に基づく差別は、性に基づく差別とされる。(公民権法第7編701条(k)第1文前半、703条(a))
○妊娠・出産又は関連する医学的状態により影響を受けている女性は、福利厚生を含むすべての雇用に関連する条件において、同様の労働能力又は不能力の状態にある他の者と同じ取扱いを受けなければならない。 (公民権法第7編701条(k)第1文後半) ○非自発的な配置転換は差別申立の基礎になりうる。(EEOCからのヒアリング゙)

(参考裁判例)
○妊娠5ヶ月以降のサービス係のウェイトレスを、他の収入が減る係に配置することは、PDA違反。(W&O社事件2000年)
○指令92/85/EECの範囲内の、妊娠又は出産に伴う女性に対する不利な待遇は、本指令の範囲内の差別に相当することとする。(改正76指令2条7) ○妊娠・出産、通常産休・追加産休を取得したこと又は取得しようとしたことを理由とするあらゆる不利益取扱いの禁止。(法47条C、規則19条) ○合意がある場合、賃金の減額を伴わない一時的な配置転換は可能。(法122条-25-1)    
原職

への
復帰の
権利
○使用者は、他の休業の際と同じ期間だけ、妊娠・出産による休業の場合に原職を空けておかなければならない。(EEOC"Facts about Pregnancy Discrimination")
○家族医療休暇終了後は、原職又は原職と賃金その他労働条件が同等の職に復帰する権利を有する。(FMLA104条(a)(1))
○産休を取得した女性は、産休明けに、原職又は原職と労働条件が同等の職に復帰する権利を有する。(改正76指令2条7) ○通常産休を取得した労働者は、休暇前の職務に復帰する権利を有する。(法71条(4)(c)、規則18条(1))
○追加産休を取得した労働者は、休暇前の職務又は妥当な別の職務に復帰する権利を有する。(法73条(4)(c)、規則18条(2))
○通常産休からの復帰の権利は、(1)休暇を取得しなかった場合と同様の年功、年金及び類似の権利を伴い、かつ(2)休暇を取得しなかった場合に適用される条件よりも劣らない条件であることが必要。(法71条(4)、(7)、規則18条A(1)(a)(A)、(b))
○追加産休からの復帰の権利は、(1)休暇を取得する前の雇用と取得した後の雇用が継続していた場合と同様の年功、年金及び類似の権利、かつ(2)休暇を取得しなかった場合に適用される条件よりも劣らない条件であることが必要。(法73条(4)、(7)、規則18条(2)、18条A(1)(a)(@))
○産休中の剰員の場合は、(通常産休か追加産休かにかかわらず)代替の雇用を提供される権利を有する。(法74条(1)、規則10条)

(参考裁判例)
○金融サービス部門の秘書をしていた女性が、産休復帰後、異なる部門の秘書 の地位を提供されたことは、復帰前の仕事に戻ったと判断された。(バンクス事件1994年)
○一時的な配置転換は、妊娠期間終了または女性が従前の職に復帰することが可能な健康状態となれば、終了する。産休終了後就労を再開する際には、従前の職に再配置される。(法122条-25-1、122条-26)
○産休後、労働者は産業医の診察を受ける利益を享受する。この診察は、従前の職への復帰する能力を回復したか、労働条件に適合するか、場合によっては何らかの措置が必要か判断するものであり、復帰後8日間の間に行われる。(規則241-51)
※産休の終了時には、自動的に自分の職に復する。当該職が無くなっている場合には、同等の報酬を伴う類似の職が提供される。(仏政府からのヒアリング)
○母性保護法に規定なし。
※労働法の一般原則から、労働契約上あるいは実際に就業していた職場と同等の職場への復帰が保障される。ただし、使用者の指揮命令権の範囲内で、今までと異なった職場・職務への復帰も認められる。
 
昇進 ○妊娠・出産及び関連する医学的状態に基づく差別は、性に基づく差別とされる。(公民権法第7編701条(k)第1文前半、703条(a))
○妊娠・出産又は関連する医学的状態により影響を受けている女性は、福利厚生を含むすべての雇用に関連する条件において、同様の労働能力又は不能力の状態にある他の者と同じ取扱いを受けなければならない。(公民権法第7編701条(k)第1文後半)
○指令92/85/EECの範囲内の、妊娠又は出産に伴う女性に対する不利な待遇は、本指令の範囲内の差別に相当することとする。(改正76指令2条7)

(参考裁判例)
○産前産後休業を取得したことにより女性労働者が年に一度業績査定を受ける権利を否定することは、女性を差別することとなる。(チボー事件(仏)欧州司法裁判所1998年)
○妊娠・出産、通常産休・追加産休を取得したこと又は取得しようとしたことを理由とするあらゆる不利益取扱いの禁止。(法47条C、規則19条)      
教育
訓練
○妊娠・出産及び関連する医学的状態に基づく差別は、性に基づく差別とされる。(公民権法第7編701条(k)第1文前半、703条(a))
○妊娠・出産又は関連する医学的状態により影響を受けている女性は、福利厚生を含むすべての雇用に関連する条件において、同様の労働能力又は不能力の状態にある他の者と同じ取扱いを受けなければならない。(公民権法第7編701条(k)第1文後半)
○指令92/85/EECの範囲内の、妊娠又は出産に伴う女性に対する不利な待遇は、本指令の範囲内の差別に相当することとする。(改正76指令2条7) ○妊娠・出産、通常産休・追加産休を取得したこと又は取得しようとしたこ とを理由とするあらゆる不利益取扱いの禁止。(法47条C、規則19条)

(参考裁判例)
女性の見習い巡査に対し、かかりつけ医の危険はないとの所見があるにも関わらず、妊娠を理由として、訓練から外し、実質上女性のキャリアを停止してしまうことは、妊娠を理由とした差別。(タップ事件:雇用審判所1998年)
     
福利
厚生
○妊娠・出産及び関連する医学的状態に基づく差別は、性に基づく差別とされる。(公民権法第7編701条(k)第1文前半、703条(a))
○妊娠・出産又は関連する医学的状態により影響を受けている女性は、福利厚生を含むすべての雇用に関連する条件において、同様の労働能力又は不能力の状態にある他の者と同じ取扱いを受けなければならない。 (公民権法第7編701条(k)第1文後半)
○指令92/85/EECの範囲内の、妊娠又は出産に伴う女性に対する不利な待遇は、本指令の範囲内の差別に相当することとする。(改正76指令2条7) ○妊娠・出産、通常産休・追加産休を取得したこと又は取得しようとしたことを理由とするあらゆる不利益取扱いの禁止。(法47条C、規則19条)      
解雇 ○妊娠・出産及び関連する医学的状態に基づく差別は、性に基づく差別とされる。(公民権法第7編701条(k)第1文前半、703条(a))
○妊娠・出産又は関連する医学的状態により影響を受けている女性は、福利厚生を含むすべての雇用に関連する条件において、同様の労働能力又は不能力の状態にある他の者と同じ取扱いを受けなければならない。
(公民権法第7編701条(k)第1文後半)
○妊娠・出産又は関連する医学的な状態を理由とする労働者の解雇は、原則としてPDA違反。(EEOCガイドライン29CFR1604.10)
○指令92/85/EECの範囲内の、妊娠又は出産に伴う女性に対する不利な待遇は、本指令の範囲内の差別に相当することとする。(改正76指令2条7)
○妊娠の開始から産前産後休暇の終了までの解雇の禁止(労働者の状況とは関係がない例外的な場合として国内法等において容認される場合を除く。)。(92/85/EEC指令10条)

(参考裁判例)
○産休の代替要員として期間の定めのない雇用契約を締結していながら、採用直後に妊娠したために勤務できない当該女性を解雇することは性差別となり、雇用契約の基本的な部分の遂行が不可能であることを根拠としても解雇は正当化されない。(ウェッブ事件(英)欧州司法裁判所1994年)
○雇用契約が有期であれ期間の定めないものであれ、妊娠を理由とする解雇の差別的な性質に影響を及ぼさない。(テレ・デンマーク事件(デンマーク)欧州司法裁判所2001年)
○採用後、妊娠していることを告げた女性労働者が、募集の際に妊娠していることを報告しなかったことを理由として解雇されたことについて、妊娠を理由とする解雇は性による直接差別に該当し正当化されないとした。(ニールソン事件(デンマーク)欧州司法裁判所2001年)
○妊娠・出産、通常産休・追加産休を取得したこと又は取得しようとしたことを理由とするあらゆる不利益取扱いの禁止。(法47条C、規則19条)
○妊娠・出産、通常産休・追加産休を取得したこと又は取得しようとしたことを理由とする解雇は不当解雇とみなされる。(雇用権利法99条、規則20条)

(参考裁判例)
○女性労働者が、出産休暇復帰後、出産休暇中の代替要員と労働時間をシェアするために、度々労働時間を削減され、退職に至ったのは、巧妙な解雇であり、性差別とされた。(ギレスピー事件2002年)
○妊娠中、産休期間中、産休期間満了後4週間の間の労働契約の解除の禁止。(妊娠に関係しない労働者による重大な過失等による場合を除く。)(法122条-25-2) ○妊娠中および出産後4ヶ月までの女性労働者に対して、使用者が解雇告知の時点で妊娠・出産を認識していた場合、または解雇告知受理後2週間以内にその旨を通知された場合は、解雇告知は認められない。(法9条)ただし、行政官庁の許可を得て例外的に特別解雇をすることは可能。(法9条(3)) ○婚姻、妊娠、出産したことを退職理由として定めることを禁止。(均等法8条(2))
○婚姻し、妊娠し、出産し、産前産後休業をしたことを理由とする解雇の禁止。(均等法8条(3))
雇止め ○妊娠・出産及び関連する医学的状態に基づく差別は、性に基づく差別とされる。(公民権法第7編701条(k)第1文前半、703条(a))
○妊娠・出産又は関連する医学的状態により影響を受けている女性は、福利厚生を含むすべての雇用に関連する条件において、同様の労働能力又は不能力の状態にある他の者と同じ取扱いを受けなければならない。(公民権法第7編701条(k)第1文後半)
○指令92/85/EECの範囲内の、妊娠又は出産に伴う女性に対する不利な待遇は、本指令の範囲内の差別に相当することとする。(改正76指令2条7)
(参考裁判例)
○ホームヘルパーとして有期の労働契約を4回更新(うち最初の2回は契約の終了期間が示されていたが、後の2回は契約の終了期間が示されず、後に手紙で終了日が示される方式)された女性が、妊娠を告げた後、使用者から、契約を終了される旨告げられ、契約が終了された事案について、労働者が妊娠したために有期契約を更新しないことは、均等待遇指令に規定する性による直接差別を構成するとされた。(メルガー事件(スペイン)欧州司法裁判所2001年)
○妊娠・出産、通常産休・追加産休を取得したこと又は取得しようとしたことを理由とするあらゆる不利益取扱いの禁止。(法47条C、規則19条)     ○形式的には雇用期間を定めた契約であっても、それが反復更新され、実質においては期間の定めのない雇用契約と認められる場合には、その期間の満了を理由として雇い止めをすることは「解雇」に当たるものであること。(解釈通達)
賃金 ○妊娠・出産及び関連する医学的状態に基づく差別は、性に基づく差別とされる。(公民権法第7編701条(k)第1文前半、703条(a))
○妊娠・出産又は関連する医学的状態により影響を受けている女性は、福利厚生を含むすべての雇用に関連する条件において、同様の労働能力又は不能力の状態にある他の者と同じ取扱いを受けなければならない。 (公民権法第7編701条(k)第1文後半)
○昇給について、他の一時的労働不能の労働者と同様に取り扱わなければならない。(EEOC"Facts about Pregnancy Discrimination")
○指令92/85/EECの範囲内の、妊娠又は出産に伴う女性に対する不利な待遇は、本指令の範囲内の差別に相当することとする。(改正76指令2条7)
○産休を取得した女性は、産休明けに、休暇中に受けられるはずであった労働条件の改善の恩恵を受ける権利を有する。(改正76指令2条7)
○妊娠・出産、通常産休・追加産休を取得したこと又は取得しようとしたことを理由とするあらゆる不利益取扱いの禁止。(法47条C、規則19条)      
産休中

取得


権利
○妊娠・出産及び関連する医学的状態に基づく差別は、性に基づく差別とされる。(公民権法第7編701条(k)第1文前半、703条(a))
○妊娠・出産又は関連する医学的状態により影響を受けている女性は、福利厚生を含むすべての雇用に関連する条件において、同様の労働能力又は不能力の状態にある他の者と同じ取扱いを受けなければならない。
(公民権法第7編701条(k)第1文後半)
○健康保険の提供に当たっては、妊娠に関連する健康状態を他の健康状態と同様に取り扱わなければならない。(EEOC"Facts about Pregnancy Discrimination")
○先任権の蓄積及び付与、休暇の計算、昇給及び一時的障害給付において、他の一時的労働不能の労働者と同様に取り扱わなければならない。(EEOC"Facts about Pregnancy Discrimination")
○健康給付については、家族医療休暇中に勤務を継続していたならば与えられていたはずの内容と同内容で継続しなければならない。(FMLA104条(c))
○家族医療休暇から復職する労働者は休暇前に有していた全ての雇用上の権利を有する。(FMLA104条(a)(1))
○指令92/85/EECの範囲内の、妊娠又は出産に伴う女性に対する不利な待遇は、本指令の範囲内の差別に相当することとする。(改正76指令2条7)
○産休を取得した女性は、産休明けに、休暇中に受けられるはずであった労働条件の改善の恩恵を受ける権利を有する。(改正76指令2条7)
○妊娠・出産、通常産休・追加産休を取得したこと又は取得しようとしたことを理由とするあらゆる不利益取扱いの禁止。(法47条C、規則19条)
○通常産休を取得した労働者は、休暇を取得しなかった場合に適用されたはずの雇用条件(賃金を除く)の利益を受ける権利を有し、義務を負う。(法71条(4)(a)及び(b)、規則9条)
○追加産休を取得した労働者は、事業主の黙示の義務から生じる利益、雇用契約終了通知等に関する雇用条件から生じる利益を受ける権利を有する(法73条(4)(a)及び(b)、規則17条)。また、事業主に対する黙示の義務及び自己による雇用契約終了通知等に関する雇用条件に拘束される。(法73条(4)、規則17条)。
○産休の期間は、勤続年数を基に被雇用者が有する諸権利の決定に当たっては実働期間とみなされる。(法122条-26-2)

○男女均等待遇指令(改正76指令)の「産休中の労働条件の改善の恩恵を受ける権利」が国内法で担保できているのか否かは検討中。(仏政府からのヒアリング)
   
妊娠・出産起因の症状を理由とした不利益取扱い ○妊娠・出産及び関連する医学的状態に基づく差別は、性に基づく差別とされる。(公民権法第7編701条(k)第1文前半、703条(a))
○妊娠・出産又は関連する医学的状態により影響を受けている女性は、福利厚生を含むすべての雇用に関連する条件において、同様の労働能力又は不能力の状態にある他の者と同じ取扱いを受けなければならない。(公民権法第7編701条(k)第1文後半)

(参考裁判例)
○試用期間中に、妊娠による健康状態の問題から欠勤、遅刻、早退を繰り返し、解雇されたことについて、妊娠以外の理由による労働者の欠勤を見過ごすのでなければ、PDA違反ではないとした。(アーミンド事件2000年)
○指令92/85/EECの範囲内の、妊娠又は出産に伴う女性に対する不利な待遇は、本指令の範囲内の差別に相当することとする。(改正76指令2条7)
○妊娠の開始から産前産後休暇の終了までの解雇の禁止(労働者の状況とは関係がない例外的な場合として国内法等において容認される場合を除く。)。(92/85/EEC指令10条)

(参考裁判例)
○女性労働者が妊娠に起因する病気が原因の就労不能により欠勤したため、26週以上病気のために欠勤する場合は解雇されると規定された雇用契約に従い、(産休取得前であっても)妊娠中に解雇されたことは、性差別となる。(ブラウン事件(英)欧州司法裁判所1998年)

○(産休前とは異なり)産休後については妊娠及び出産が原因で生じた病気を他の病気と区別する理由はなく、出産1年後に100日間の病休を取得した女性労働者を解雇した場合、女性と男性とで取扱いが異ならない場合、性差別とはならない。(ヘルツ事件(デンマーク)1990年)
      ○妊娠・出産に伴うものであることが通常である症状により休業を取得したことを理由とする解雇は、通常、労働者が同様の休業等を取得しても解雇に至らない場合には、実質的には妊娠・出産を理由とした解雇となる可能性がある。(解釈通達)
母性保護措置、妊娠・出産休暇等 【PDA、EEOC"Facts about Pregnancy Discrimination"】
○他の一時的労働不能の労働者と同様に取り扱わなければならない(仕事内容の軽減、代替的業務の割当、障害休暇の付与、無給の休暇の付与等)。
○健康保険(使用者が提供する健康保険においては、妊娠に関連する健康状態を、他の健康状態と同様にカバーしなければならない。)
○付加給付(使用者が、休業中の労働者に何らかの給付を行っている場合は、妊娠・出産に関連する状態により休業中の労働者に対して、同様に給付を行わなければならない。)
○先任権等(先任権の蓄積及び付与、休暇の計算、昇給及び一時的障害給付において、他の一時的労働不能の労働者と同様に取り扱われなければならない。)

【FMLA】
○資格のある労働者に、(1)子の誕生及び生まれた子の世話のため、(2)労働者自身が職務を遂行できないような深刻な健康状態(妊娠によって日常生活が不能になること及び産前のケアを含む)にあるため、(3)労働者の配偶者、子又は親が、深刻な健康状態にある場合に、その世話をするため等の事由による休暇の権利(12ヶ月で12週間)の付与。(法101条(b)(1)、102条(a)(1)(2))
※州法によっては、出産休暇をFMLAとは異なる形で義務づけているものもある(カリフォルニア州等)。
○最低14週間の出産休暇(出産前後の最低2週間の強制出産休暇を含む)(92/85/EEC指令8条)
○出産休暇中の雇用契約に関する権利、賃金の確保及びもしくは十分な手当の受給の保障。(92/85/EEC指令11条)

○妊婦検診のための休暇を受ける権利の付与(賃金は全額保証)。(92/85/EEC指令9条)
○使用者は、安全・健康への危険性、妊娠中・授乳期の労働者への影響が明らかな場合、労働条件、労働時間を一時的に調整することにより、必要な措置を講じなければならない(労働条件、労働時間の調整ができない場合、別の仕事に異動。別の仕事への異動ができない場合、必要な全ての期間、休暇が与えられる。)。(92/85/EEC指令5条)
○妊娠中・授乳期の労働者の、安全・健康が冒されるような暴露の危険のある業務の禁止。(92/85/EEC指令6条)
○妊娠中の労働者は、診断書の提出を条件に、夜業を行わないことを保障される(昼間の仕事への転換。それができない場合は休暇もしくは出産休暇の延長)。(92/85/EEC指令7条)
○92/85/EEC指令5,6,7条の場合、労働者は、賃金の確保、もしくは十分な手当の受給等の保障。(92/85/EEC指令11条)
○通常産休の取得(出産するすべての女性労働者が取得できる26週間の休暇。強制産休は出産後2週間)。(法71、72条、規則7条(1))
○追加産休の取得(通常産休をとる権利を有し、勤続1年以上の女性労働者が取得できる、通常産休期間終了後26週間の休暇)。(法73条、規則7条(4))○産休中は、法定出産給付ないし出産手当が支給。(社会保障拠出・給付法1992年)

○妊娠した女性労働者は出産前診察休暇のため有給のタイムオフを取ることができる。(法55条)
○妊娠、出産、授乳中の女性が、健康・安全に有害な仕事についている場合には、就業を中断する権利がある(法66条)(労働者は代替の仕事を提供される権利を有し、代替労働が与えられず休職せざるをえない場合には、報酬の支払いを保障)。(法64条、68条)※性差別禁止法の趣旨から、妊娠中・出産後の女性に対する包括的な就業禁止規定は存在しない(妊娠、出産、哺育に対し危険性の高い業務や要素について政府の広報資料に示されているが、事業主はケースバイケースで対応。必要に応じて就業中断措置。)。
○産休の取得(第1子、第2子は産前6週間、産後10週間、第3子以降は産前8週間、産後18週間。なお、双子の場合、産前12週間、産後22週間、3つ子以上の場合、産前24週間、産後22週間。)。(法122条-26)
○産休に対する賃金保障
○医学的な証明書により、妊娠・分娩に起因する病理状態については、出産予定日前の2週間及び出産後の4週間を限度として、産休の延長。(法122条-26)

○医学的に証明された妊娠の状態または出産直後である労働者について、(1)危険業務に就いている場合、雇用主は産業医の所見を勘案し、他の職務を提案しなければならず、また、(2)夜間労働に就いている場合、本人の要求または産業医の証明により、昼間の職務に配置転換される。・配置転換は、産業医の申請書により最長1ヶ月の延長が可能である。この配転により、賃金の減額は認められない。他の事業所への配転については労働者の同意を必要とする。(規則2002-792)
・夜間業務・危険業務に就いている場合、雇用主が別の職務を提案できない場合、当該労働者の雇用契約は産休開始日まで停止される。労働契約の停止期間中、労働者は(1)雇用主により給付される補足手当、(2)第1次的疾病保険金庫により給付される日給手当を受ける。(法122条-25-1-1、122条-25-1-2)
○妊娠中の女性は給与を喪失することなく、義務的定期検診を受診するために欠勤する権利を持つ。(法122条25-3)
○授乳時間の取得(子の誕生後1年間、授乳を行っている母親は、労働時間中の1時間授乳時間に使うことができる。)(法224条-2)
○国籍、既婚、未婚、フルタイム・パートタイムに関係なく、ドイツ国内において雇用関係にあるすべての女性労働者に対し適用される。(法1条)

○産前6週間は妊娠中の女性が意思表示をした場合のみ就業させることができる。(法3条(2))
○産後8週間の絶対的な就業禁止。(法6条1項)
○産前産後保護期間中の所得保障(要件を満たす法定疾病保険加入者は、法定疾病金庫による母性手当及び使用者から付加給付が支給される等。)。(法13条)

○使用者に対し、妊娠・授乳期間の女性労働者に対する職場や作業内容の構成に関する配慮義務。(法2条)
○妊娠・授乳期間中の女性労働者を著しい肉体的負担を伴う業務、有害な影響にさらされる業務に就かせてはならない。(法4条(1)、6条(3))
○使用者は、妊娠中の女性労働者に対し、就業の継続が母体・胎児に危険を及ぼす可能性があると医師が診断した場合、就業させてはならない。(法3条(1))
○産後数ヶ月は、医師の診断書により、女性労働者の体調が労働のために完全ではないとされた場合、使用者は労働能力を超える就業をさせてはならない。(法6条)
○妊娠・授乳期間中の女性労働者の夜間・休日労働の禁止。(法8条)

○時間外労働の制限。(法8条(2))
○授乳時間の保障。(法7条)
○就業禁止時の所得保障(産前産後の保護期間外で一般的及び個別就業禁止により、就業できず、職務が変わった場合においても、それまでの平均賃金を得ることができる。)。(法11条)
○6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の産前休暇、8週間の産後休暇(産後は強制。但し、産後6週間を経過した女性が請求し、医師が支障ないと認めた業務に就かせることは差し支えない。)。(労基法65条(1)(2))
○出産一時金の支給及び一定の労務に服さなかった期間、1日につき標準報酬日額の6割に相当する出産手当金の支給。(健康保険法101,102条)

○使用者は、妊娠中の女性が請求した場合、軽易な業務に転換しなければならない。(労基法65条(3))
○使用者は、妊産婦を危険有害業務に就かせてはならない。(労基法64条の3)
○妊産婦が請求した場合は変形労働時間制の適用が制限され、時間外労働、休日労働、深夜業が禁止される。(労基法66条)
○育児時間の確保。(労基法67条)
○使用者は、女性労働者が妊娠中及び出産後の保健指導又は健康診査を受けるための時間を確保し、指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等の必要な措置を講じなければならない。(均等法22、23条)



諸外国における間接差別に係る規定等(概要)
  アメリカ EU イギリス ドイツ
間接差別に関する規制 1964年公民権法第7編703条(k)(1)(1991年改正後)

【703条(k)(1)】
 本編の下では、以下のいずれかの場合には、差別的効果に基づく違法な雇用慣行となる。
(i)原告が、ある使用者の行為により差別的効果が発生することを証明したのに対し、使用者が、それが当該地位における職務と関連性があり、かつ業務上の必要性に合致していることを証明しなかった場合
(A)原告が、それに代わる別の方法が存在することを証明したのに対し、使用者がその採用を拒否する場合
均等待遇に関する76年指令修正(76/207/EEC指令)(2002/73/EC指令により改正)

【2条2】
間接差別:外見上は中立な規定、基準又は慣行が、他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に特定の不利益を与える場合。ただし、当該規定、基準又は慣行が、正当な目的によって客観的に正当化され、その目的を実現する手段が適切かつ必要である場合はこの限りではない。

 (参考:1976年当初の76/207/EEC指令の規定)
【 2条1】
均等待遇の原則とは、直接的か又は間接的であるかにかかわらず性別、特に婚姻上もしくは家族上の地位に関連した理由に基づくいかなる差別も存在してはならないことを意味するものである。

性差別事件の挙証責任に関する1997年12月15日の理事会指令(97/80/EC)

【2条】
1 本指令では、均等待遇原則とは、間接的にも直接的にも、性別に基づくなんらの差別もないことである。

2 第1項で言及した均等待遇原則に関して、外見上は中立的な規定、基準、慣行が、一方の性別に属する成員に不均衡に不利益を与える場合、かかる規定、基準、慣行が適切かつ必要であり、性別と関連性のない客観的要素によって正当化できない限り、間接差別が存在しているものとする。
1975年性差別禁止法1条1(2)(b)、2条(1)(2001年改正後)

【1条1(2)(b)】
本項が適用される規定に関するいかなる場合においても、以下の行為を行った者は女性に対する差別を行ったものとする。
・当該行為者が男性に対し同様に適用し、又は適用するであろう以下のような規定、基準又は慣行を、女性に対して適用した場合
(@)それにより不利益を受ける女性の割合が、不利益を受ける男性の割合よりも相当程度大きく、かつ、
(A)当該行為者がその適用される者の性別に関係なく正当であることを立証し得ず、かつ
(B)その女性に対し、不利益となるもの
【2条(1)】
この規定は男性にも適用される。

(参考:1975年当初の性差別禁止法の規定)
【1条1(1)(b)】
本項が適用される規定に関するいかなる場合においても、以下の行為を行った者は女性に対する差別を行ったものとする。
・当該行為者が男性に対し同様に適用し、又は適用するであろう以下のような要件又は条件を、女性に対して適用した場合
(@)それに適合し得る女性の割合が、それに適合し得る男性の割合よりも相当程度小さく、かつ
(A)当該行為者がその適用される者の性別に関係なく正当であることを立証し得ず、かつ
(B)女性がそれに適合し得ないが故に、その女性に対し、不利益となるもの
【2条(1)】
 この規定は男性にも適用される。
民法第611条a第1項、612条第3項(間接差別についての明確な規定はないが、解釈によって、上記規定に含まれていると解されている。)

(参考)
【611条a(1)】
 使用者は、被用者と約定をなし、又は労働者に関する措置を講ずる場合に、特に雇用契約の設定、昇進、職務上の指示、解雇を行う場合に、性を理由として不利に扱ってはならない。ただし、約定や措置が被用者の遂行する職務の性質に基づき、かつ、一定の性が当該職務の不可欠の前提であるときには、性による異なった取扱いが許される。紛争が生じた場合に、被用者が性による不利益取扱いを推測せしめる事実を疎明したときには、使用者は不利益取扱いが性によらない合理的な理由に基づくものであること又はその性が遂行される職務にとって不可欠の前提をなすものであることにつき、立証責任を負うものとする。
【612条(3)】
 雇用契約において同一又は同等とみなされる労働に対し、性別を理由として、他方の性の者より低い報酬を約定してはならない。被用者の性を理由に特別な保護規定が適用されることは低い報酬の約定を正当化するものでない。611条a第1項第3文は準用する。
間接差別として処理される事案の範囲等 【取り扱う事案の特徴】
・採用・昇進に関する事案が多く、解雇は少ない。
・賃金については同一賃金法で規定していることとの関係で適用例はない。
・パートタイム労働者や家庭責任の有無等に係る事項が間接差別とされた例はない。

【間接差別として処理される事案】
・男女の生物的な相違に関する基準(例:身長、体重要件を課すこと、体力テストによる選考等)
・過去の教育上の差別等が原因で、あるグループにおいて満たしにくい基準(例:一般知能テスト、学歴、経験要件、教育要件、主観的選考決定等)

(参考裁判例)
・使用者が、発電所の作業員の資格要件として、高卒以上の学歴と一般的知能・理解力テストへの合格を要求したケースにつき、連邦最高裁判所は、いずれの要件も(1)過去の教育上の差別のために黒人に対して差別的な効果をもたらし、かつ、(2)職務の十分な遂行との明白な関係がなく、業務上の必要性や職務関連性が認められないという事実を指摘した上で、使用者に差別意思がなかったとしても第7編違反が成立するとした。この判決は、第7編の目的が、明らかな差別の禁止にとどまらず、雇用からマイノリティを差別的に排除する効果を持つ「人為的、恣意的かつ不必要な障壁」の除去も含むことを強調している。(グリッグス事件 連邦最高裁 1971年) ・刑務所の看守について、体重120ポンド以上、身長5フィート2インチ以上という要件が女性に対して差別的な効果を有し、職務関連性が認められないので、違法と判断された。(ドサード事件 連邦最高裁 1977年)
・銀行に雇用されている黒人女性の原告は応募した4つのポストのいずれにも採用されなかった。当該銀行は、応募者を評価するための確立した基準を有しておらず、監督者の主観的判断に委ねており、原告を拒否した監督者は全て白人であった。地裁、控訴審は、原告の訴えを棄却したが、連邦最高裁は、差別的効果理論は客観的基準による選考のもたらす差別的効果のみならず、主観的基準による選考のもたらす差別的効果にも適用されると判示し、差し戻した。(ワトソン事件 連邦最高裁 1988年)

【間接差別として処理されない事案】
・真正な先任権制度によって生じた雇用条件の差異は、それが差別的意図の結果でない限り、違法とはならない。(公民権法第7編703条(h))
・性別を理由とする報酬における差別は原則として違法だが、性による賃金格差が同一賃金法(EPA)の規定により是認されている場合は、第7編違反に該当しない。
 ※ EPA6条 同一事業所内の同一労働について性別による賃金差別を行ってはならない。ただし、その賃金格差が(1)先任権制度(2)能力成績による任用制度(3)生産の量や質による出来高払い制度(4)その他の性別以外の要素に基づく差異、に基づく差異である場合には違法ではない。)

(参考裁判例)
・大学の看護学部(大多数が女性)の教員が、賃金が職務の価値が匹敵する大多数を男性が占める学部の教員の賃金より低く、各学部の職務の市場価値に基づいて賃金を設定するという表面上中立的な大学の方針、行為が差別的効果を有し違法であると訴えたが、第7編が具体化する連邦政策は機会の平等であり、結果の平等ではなく、市場価格は本来的に職務に関連するものであり、原告の主張を認めることは、使用者に独立した経営判断ではない賃金格差の責任を課すことになると判示した。(スポルディング事件 連邦第9巡回裁判所 1984年)
【間接差別として処理される事案】
・パートタイム労働者とフルタイム労働者とで異なる処遇等

(参考裁判例)
・被告会社の年金制度が、パート労働者は、合計20年のうち15年以上フルタイムで勤務した場合のみ年金を受給できることとしていることについて、受給できなかった原告が、家族や子供の面倒を見るためには女性は男性よりもパート労働に従事することが多いため、女性を不利益な立場に置くものとし、訴えた事案につき、欧州司法裁判所は、パート労働者が年金から除外されることが性に基づくいかなる差別にも関連しない客観的に正当化される事由に基づいていることを企業が証明しない限り、条約119条に抵触するとした。その際、会社側に差別の意図は必要ではない。(ビルカ事件(独)欧州司法裁判所 1986年)
・税アドバイザー資格試験の免除を受けられる勤務期間が、フルタイムとパートタイムとで異なることとするのは、ブレーメンの税事務所で勤務する119名のパートタイムのうち110名が女性であることから、間接差別として訴えた事案につき、欧州司法裁判所は、本件は実際に女性に性差別的効果を与えており、原則として指令違反であり、性に基づく差別と関係のない要因によって正当化できる場合に限り、結論が異なるとした。(コーディング事件(独)欧州司法裁判所 1997年)
・整理解雇されたパート労働者の原告が整理解雇をする場合に使用者が社会的基準に基づき選択しなければならない労働者のカテゴリーからパート労働者を除外することは指令に違反するとして訴えた事案につき、欧州司法裁判所は、76指令は、パート労働者がフルタイム労働者と比較し得ないという一般的な根拠に基づいて進行する国内ルールも、その対象とするとした。(カッヒェルマン事件(独)欧州司法裁判所 2000年)
【取り扱う事案の特徴】
・シングルマザーやパートタイム労働者など社会的な問題や家庭責任等に関わる事案が多い。

【間接差別として処理される事案】
・男女の生物的な相違に関する基準(例:身長、体重要件を課すこと、体力テストによる選考)
・社会問題や女性に家庭責任があることを前提として、シングルマザーにとって満たしにくい基準やパートタイム労働者とフルイム労働者とで異なる基準等

(参考裁判例)
・剰員解雇の際、フルタイム労働者には先任権ルールを適用する一方、パート労働者を先に解雇するという労働協約について、労働審判所及び雇用上訴審判所はフルタイム労働を先任権基準とすることは、性差別禁止法に規定する間接差別を構成するとし、更に、先任権基準が必要ということと、パートタイムの優先解雇は異なるものであり、非常に差別的であり、正当性は認められないとした。(クラーク事件 雇用上訴審判所 1982年)
・子供を産んだ未婚の女性がパート勤務を申し出たが、受け入れられず、フルタイム勤務を要求されることは間接差別として訴えた事案につき、裁判所は、現代社会における女性の役割の変化にも拘わらず、男性よりも女性は育児が大きな負担となっているのは事実とし、使用者はフルタイムで働くという要求が正当化されるということを示していないとして、間接差別が認められた。(ホルムズ事件 雇用上訴審判所 1984年)
【取り扱う事案の特徴】
・パートタイム労働者に関する事案がほとんどである。
・通常の賃金以外の、企業年金や休暇等の付加的給付の支給要件に関する事案が多い。

(参考裁判例)
・昇格要件である6年の適性観察期間(勤続年数)の計算につき週労働時間が通常の4分の3以上の労働者を1,半分以上の者を0.5として計算する協約規定に基づき、週20時間労働の大学事務職員の昇格請求を認めなかった事案において、右協約規定により適性観察期間(勤続年数)が2倍とされるパートタイム労働者における女性の比率が90%を超えること、また、右不平等取扱いを正当化する理由がないことで、間接差別に当たるとされた例(ニンツ事件 連邦労働裁判所 1992年)
一方の性に対する不利益の有無の判断基準 ・「5分の4ルール」による認定。(EEOC等)
(一定の選考手続き等における、あるグループ(人種・性等)の成功率が最も成功率の高いグループの5分の4を下回る場合は、その選考手続き等は、一般的に差別的効果があると判断される。ただし、統計的有為性の有無等によって、例外はある。)

(参考裁判例)
・見習いから正式な自主消防士になるための身体敏捷性テスト(PAT)のテストの1つについて、6人の女性見習い消防士は4人しか合格しなかったが、24人の男性見習い消防士は全員合格した。連邦巡回裁判所は、PATを課すことは、女性の合格率が男性の8割を下回ることから、女性に対する差別的効果を有していることを認めた。また、テストの職務関連性についても証拠がないとし、被告に対し、同テストへの不合格を理由に解雇した原告を見習いとして再雇用し、原告を正式な消防士とする前提として差別のないテストの再開発を命じた。(ファーミングビル事件 連邦第2巡回裁判所 1999年)
・具体的な判断は各国の裁判所が行う。
(定まった判断基準はない。)

(参考裁判例)
・雇用権利法において不公正解雇の申立をなし得る要件が勤続2年以上とされていることは男性に比べこれを満たす女性が少なく、間接差別であるとして訴えた事案につき、欧州司法裁判所は、この要件は男性77.4%、女性68.9%が満たしており、一見して女性が男性に比べて相当程度少ないということを示しているようには見えない。国内裁判所は、男性よりも圧倒的に少数の女性しかその措置により課される要件を充足できないことを入手可能な統計が示しているかを実証しなければならず、もしそうであれば、その措置が性別に基づく差別に関連しない客観的な要素により正当化されない限り、間接差別と判示した。
(シーモア・スミス事件(英)1999年)
・具体的な判断は雇用(労働)審判所が行う。
・差別的効果の有無について定まった判断基準はなく、実際事件が起こって審判所が判断を下すまで結果を予測することが困難な傾向がある。

※2001年改正により、「要件や条件」は「規定、基準又は慣行」に改正された。

(参考裁判例)
・パート教員である原告が剰員解雇された際、年金制度が50歳から60歳で5年以上勤続しており剰員等により退職した教員に対して、常用の雇用契約における労働時間に比例して付加的な勤続年数が加算される仕組みになっていることは、女性に対する間接差別として訴えた事案につき、労働審判所は、フルタイムの50歳以上の女性教師の割合(89.5%)はフルタイムで50歳以上の男性教師の割合(97%)より相当程度小さいとはいえないとした。雇用上訴審判所も何が相当程度小さいといえるか否かは労働審判所の決定する事柄とし、労働審判所の判断を支持した。(ブラック事件 雇用上訴審判所 1994年)
・地下鉄運転手とした働くシングルマザーの原告が、会社が新たに導入した交替制勤務の下では、シフト交換の継続が図れず退職した後、間接差別として訴えた事案につき、労働審判所は、2023人の男性運転手は全員が適応できた(100%)が、21人の女性運転手のうち適応できないのは原告のみであり、交替条件を充足できる女性は95.2%である、男性運転手の数と女性運転手の数を考慮し、さらに女性の方が男性より1人親となって育児する可能性が高いことを考慮すると、この交替制は女性にとって満たしにくい要件であるとした。控訴院も労働審判所が要件が差別的か否かを判断するとしてその判断を支持した。(ロンドン・アンダー・グラウンド事件 控訴院 1998年)
・具体的な判断は労働裁判所が行う。
・当該措置の対象となる全ての者において、不利益を受けるグループにおける一方の性の比率が、不利益を受けないグループないしは全対象者におけるその性の比率より「はるかに」高い場合。
使用者の抗弁 ・当該行為が、職務と関連性があり、かつ業務上の必要性に合致していること。(法703条(k)(1))
・使用者が専門家によって開発された能力テストに依拠した場合は、違法な差別を意図したものでない限り、間接差別とはならない(法703条(h))。ただし、採用や昇進の選考方法として用いられるテストについては、テストの結果と当該職務の遂行能力との間に高度の関連性が存在することの「妥当性検定」が求められる。

(参考裁判例)
・鉄道警察隊の体力レベルをあげるために課した採用試験の条件の1つについて、男性応募者は69%が合格したのに対し、女性応募者は12%しかテストに合格しなかったため、テストに落ちた女性が訴えた。被告側はこの条件が女性に対する差別的効果を有することを認めていたため、この条件が業務上の必要性の有無が争点となった。裁判所は、差別的効果であるとの主張に反論するためには、差別的な足切り点は職務の良好な遂行に必要な最低限の資格を測定するものでなければならないとし、当該条件が、そのようなものであったと被告側が立証し得たか否かを検討するため、地裁に差し戻すこととした。(ラニング事件 連邦第3巡回裁判所 1999年)
・当該規定、基準又は慣行が、正当な目的によって客観的に正当化され、その目的を実現する手段が適切かつ必要である場合。(指令2条2)
・具体的な判断は各国の裁判所が行うべき。

(参考裁判例)
・昇格要件である6年の適性観察期間(勤続年数)の計算につき、週労働時間が通常の4分の3以上の労働者を1,半分以下の者を0.5として計算する協約規定に基づき、週20時間労働の大学事務職員の昇格請求を認めなかったことは、右協約規定により適性観察期間(勤続年数)が2倍とされるパートタイム労働者における女性の比率が90%を超えることから間接差別であるとして訴えた事案につき、欧州司法裁判所は、パート男性の比率がパート女性の比率より遙かに少ない場合には、使用者が客観的な要因によって協約上の規定を正当化できない限り、条約119条に違反するとしつつも、事実を評価し、問題となっている労働協約の規定が性と無関係な客観的に正当化できる要因に基づくものであるか否かをあらゆる状況に照らして決めるのは国内裁判所であるとした。(ニンツ事件(独) 欧州司法裁判所 1991年)
・税アドバイザー資格試験の免除を受けられる勤務期間が、フルタイムとパートタイムとで異なることとするのは、ブレーメンの税事務所で勤務する119名のパートタイムのうち110名が女性であることから、間接差別として訴えた事案につき、欧州司法裁判所は、本件は実際に女性に性差別的効果を与えており、原則として指令違反であり、性に基づく差別と関係のない要因によって正当化できる場合に限り、結論が異なる。あらゆる状況に照らして、性に関係なく適用されるものの実際に男性に比べ女性に影響を与える法律の規定が、性に基づくいかなる差別とも関係のない客観的な理由により正当化されるのかどうかを決定するのは、事実を評価し国内法を解釈する司法権限を有している国内裁判所であるとした。(コーディング事件(独)欧州司法裁判所 1997年)
・当該規定、基準又は慣行が性別に関係なく正当であること。(法1条1(2)(b))
・具体的な判断は雇用(労働)審判所が行う。
・要件や条件を課す使用者の必要性と、その要件や条件の差別的効果の間のバランスで判断するという考えでなされるため、実際に事件が起こって審判所が判断を下すまで結果を予測することが困難な傾向がある。

(参考裁判例)
・パートの先順位解雇は既婚女性にとっては、子育てをしなければならないため、フルタイムで働ける未婚の女性や男性と比べて不利であるため、女性又は既婚であることを理由とした差別として訴えた事案につき、労働審判所は比較のための適切なプールは、フルタイム勤務と両立できないような小さい子のいる家庭であるとし、フルタイム要件は、一般的に女性又は既婚女性でこれを充足できる者の割合は相当程度少ないのは自明の理とする原告の主張を却下した。雇用上訴審判所も幼い子供を持つ未婚の女性よりも既婚の女性の方が育児責任を担っているとは仮定できないとした。さらに、労働審判所はたとえ剰員選定手続きが間接差別効果を有する場合であっても、特定の状況においては正当化されうると判断する権利があり、コストや効率の上で付随的な利点があるため、パートタイムを先順位で解雇することに正当性があると判断することも許されるとした。(キッド事件 雇用上訴審判所 1985年)
・子供を産んだ女性が、パートタイム勤務を申し出たところ、ジョブシェアをする者が見つからないこと等から拒否されたため間接差別として訴えた事案につき、労働審判所は使用者側がパートタイム勤務できるように様々な手段を講じたこと等を考慮し、正当性を認め、原告の訴えを却下し、雇用上訴審判所もこれを認めた。(ブレン事件 雇用上訴審判所 1997年)
・地下鉄運転手として働くシングルマザーの原告が会社が新たに導入した交替制勤務の下ではシフト交換の継続が図れず退職した後間接差別として訴えた事案につき、労働審判所は証拠に基づき正当性なしとの結論に至る権限を有する、会社の経費節約、効率性の必要性と1人親で子供の世話をしている者への差別的効果を考慮すべきところ、会社は便宜を図ることはできたはずとして正当性は認められないとして雇用上訴審判所は労働審判所の判断を支持、控訴院もこれを認めた。(ロンドン・アンダー・グラウンド事件 控訴院 1998年)
・異なる取扱いが性別によらない合理的な理由に基づくものであること又は性別が遂行される職務の不可避の前提をなすものであること。(法611条a第1項)
※フランスの状況:労働法典122条-45で「いかなる人も、採用手続きまたは実習あるいは企業内での教育訓練機関への機会から排除されてはならず、いかなる労働者も、特に賃金、教育訓練、再就職訓練、配属、資格、分類、昇進、人事異動、契約更新の問題について、(中略)、性(中略)、を理由に、懲戒、解雇または直接・間接を問わず差別的処置の対象とされてはならない。」と規定。しかし、フランス政府に対する調査結果によれば、間接差別の概念は、欧州司法裁判所からきているもので、フランス国内で、間接差別が争われた裁判例はほとんどないため、まだ明確な概念とはなっていない。また、パートタイム労働者とフルタイム労働者の間の均等問題については、労働法典において、両者の間における賃金の平等について規定されているため、間接差別の問題として争われることを想定するのは難しいとのこと。 (労働法典122条-45の2001年改正の際、「直接・間接を問わず」という文言が追加された。)



諸外国におけるポジティブ・アクション(P・A)に係る規定等(概要)
  アメリカ EU イギリス フランス ドイツ スウェーデン 日本
ポジティブ・
アクション
(P・A)を
許容する
根拠規定
○法令に明文の規定なし。
※裁判所については公民権法706条(g)に基づき、差別に対する救済措置としてアファーマティブ・アクション(A・A)を命ずることができる。

○連邦最高裁は公民権法第7編の趣旨に合致することを認め、一定の範囲内で許容。
○EEOCガイドラインに規定
・A・Aの実施が適切な場合として、(1)不利な影響を生じさせている慣行の存在、(2)過去の差別的慣行の影響の存続、(3)過去の排除を原因とする登用可能な層の不足
・A・Aの手順として、(1)合理的な自己分析と、(2)これに基づく合理的な根拠に基づく計画の下での合理的な行動、(3)さらにそれが文書化されていることが必要。
○欧州共同体設立条約
 職業生活の慣行における男女の完全な均等待遇を確保するために、均等待遇原則は、加盟国が、より少数の性に属する者が職業活動を追求することを容易にし、または職業経歴における不利益を防止しもしくは保障するために、特別の便宜を提供する措置を維持しまたは採用することを妨げるものではない。(条約141条4項)(1997年)

○男女均等待遇指令
 加盟諸国は、実際に男女の完全な均等待遇を目的として、欧州共同体設立条約141条(4)の意味する範囲内の施策を維持または採用することができる。(指令2条8項)(2002年)
※2002年改正前の2条4項
「・・女性の機会に影響を及ぼす既存の不平等を排除することにより、男女の機会均等を促進する措置を妨げるものではない・・」
○性差別禁止法
 限定的に、過去12ヶ月間に、グレート・ブリテンにおいて当該性の者でその仕事を行う者が全くいないか比較的少数の場合において、女性または男性にのみ、(1)その職務に適合するのに役立つ訓練施設の利用を認めること、(2)職務を行う機会の利用を奨励すること等の場合のみ、許容される。(法47条他)
○労働法典
・法123条-1,123条-2の規定は、男女の機会、とくに女性の機会に影響する事実上の不平等を是正して平等を確立するために、女性に対してのみとられる暫定的措置の実施を妨げるものではない。(法123条-3)(1983年)
○民間部門を対象とした明文の規定なし。

○公務部門を対象としたものとして、「連邦行政機関及び連邦裁判所における女性の雇用促進並びに家庭と職業の両立のための法律」(1994年)
 女性はこの法律の基準に基づき、適正、能力および専門の仕事についての優位を考慮して、雇用を促進される。個々の部門で雇用されている女性が男性よりも少数である限り、決められた基準目標に即して女性の割合を高めることも雇用促進の目的である。男性並びに女性のための家庭と職業の両立も同様に促進すべきものである。(法2条)
○機会均等法
・P.Aに対しては差別禁止を適用しない(法15条2項)(2000年)
・使用者はその活動の枠内で、職業生活における男女平等を促進するために、目標に向けた努力を行う(法3条)(1991年)
・使用者は教育訓練・能力開発その他適切な措置により、各職種における男女比および異なる職種間の男女比を均等にするよう努力する(法7条)(1991年)
・使用者は、求人に際して男女両者が応募できるように努力するものとする。(法8条)(1991年)
・使用者は、ある特定の職種あるいはあるカテゴリーの労働者の中で性の偏りがある場合には、少ない性の応募者を採用するよう努力する。(法9条)(1991年)
○男女雇用機会均等法
 事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げない。(9条)(1997年)
ポジティブ・アクション(P・A)施策 【政府の活動】
○大統領命令11246,11375号
 50人以上の労働者を雇用する年5万ドル以上の政府契約を締結する事業主等は、マイノリティや女性の活用状況に関する統計的分析と計画の実施方法を盛り込んだ計画を毎年作成し、実行しなければならない。

○OFCCP規則(41CFR60-1.7)
 上記の事業主に加え、100人以上の労働者を雇用する事業主は、毎年、労働力構成の報告書をOFCCP及びEEOCに提出しなければならない。
○EEOCにおいて、ベスト・プラクティスの報告書の作成(1998年第2版)・普及
○グラスシーリング委員会提言(1995年)
○717条に基づく連邦公務員のアファーマティブ・アクション実施。

【民間団体の活動】
○カタリストの活動
 会員数284のNPO(1962年設立)。女性がビジネス・職業において能力を最大限に発揮できるようにすること、企業が女性の才能を十分に活用できるようにすることを目的として、出版、調査研究、助言制度、企業役員会への援助、カタリスト賞の授与などの活動を実施。
○第1次アクションプログラム(1981年-1985年)
(国家レベルの法的枠組みによってP・Aを展開する方針の提起)

○女性のためのP・A促進に関する理事会勧告の採択(1984年)
(女性が少ない分野でのP・Aの実施等)

○P・Aのガイドの策定(1988年)

○第2次アクションプログラム(1986年-1990年)
(P・Aを通した総合的な特別措置の採用を指摘。特に公共が模範となるべきこと、女性の意思決定への参画促進等を提言。)

○第3次アクションプログラム(1991年-1995年)
(「女性のための均等」を「男女のための均等」と位置づけを正す。)

○第4次アクションプログラム(1996年-2000年)

○第5次アクションプログラム(2001年-2005年)
【政府の活動】
パンフレット等を作成して、周知。

【民間団体の活動】
○オポチュニティ・ナウの活動
 女性が働きやすい環境を創造する企業参加型のキャンペーン活動から生まれた、公共団体、民間企業、高等教育機関により構成されている会員数364の団体。1991年に活動が開始された。リサーチ、ベンチマーキング、表彰、ベストプラクティスの認識と会員へ の情報提供を行っている。
【政府の活動】
○「労働法典」
・毎年企業委員会等への「男女の雇用及び職業訓練の一般条件の比較状況」報告書の提出を義務づけ(法432条-3-1)(1983年)
・企業内の義務的年次交渉において、男女間の職業上の平等等をとりあげることについて義務づけ。(法132条-27)(2001年)
・報告書に基づき、労使の協議により男女職業平等計画を策定することが想定されており(法123条-4)模範的な男女職業平等計画等に対して財政援助を行う。
(規則123条-6)(1983年)
・労働協約において、3年に1度男女間の職業上の平等を確保するための措置及び確認された不平等を改善するための是正措置について交渉する旨規定。
(法132条-12)(2001年)

【民間団体の活動】
○労働組合の活動
 職業における平等ガイドの配布。
【政府の活動】
○「連邦行政機関及び連邦裁判所における女性の雇用促進並びに家庭と職業の両立のための法律」
・3年毎に女性雇用促進計画の作成・公表。(法4条)
・統計資料の報告、提出(法5条)
・女性の雇用促進義務(法7条)
・女性問題委員の任命(法15条)

○EUの方針に沿い、偏見除去等意識の改革に向けた周知。

【民間団体の活動】
○E−クオリティー・マネジメントの活動
 1996年に協会設立。企業の自主的な機会均等政策を促進することを目的として、機会均等政策において優れた企業に「トータル・イー・クオリティ」の称号を与える運動。有力企業、労使団体、省庁が参加して発足。
【政府の活動】
○「機会均等法」
・10人以上の被用者を雇用する使用者は、毎年平等に関する職場計画(労働条件、採用等に関する措置の概要を示した上、そのうち当該年に開始するか、次年に実行することを計画している措置を示す。また、同一賃金に関する行動計画の総括的な報告も含む。)を策定しなければならない。(法13条1項、2項、4項)
・次年の計画においては、法13条1項により計画した措置の実施状況について報告するものとする。(法13条3項)
・機会均等オンブズマンは、計画を精査する。P.A等の規定を使用者が遵守するよう指導・監督調査を行う(法30-33条)違反した使用者に対しては、機会均等委員会が罰金を課すことができる。(35条)

【民間団体の活動】
○経営者団体「スウェーデン産業」およびこれに加盟する産業別組織の活動
 機会均等計画作成、実施についてのセミナーを行うなどの啓発。

○労働組合の活動
 雇用主が機会均等計画を作成する際に労働組合も状況分析などを行って関与。
【政府の活動】
○P・Aを講じようとする事業主に対する相談援助。

○女性の活躍推進協議会の開催。

○パンフレット等による周知・啓発。
特記すべき施策 ○家族・医療休暇法(1993年)(育児休暇、介護休暇、病気休暇、出産休暇の付与の義務づけ。) ○欧州産業経営者連盟(UNICE)、欧州公共企業体センター(CEEP)、欧州労連(ETUC)により締結された育児休業に関する枠組み労働協約に関する1996年6月3日の指令96/34/EC(働く親の親としての責任と職業的責任の両立を容易にするために考案された最低要件を規定。) ○長期の出産休暇制度(育児休暇制度はなし)。2003年から父親の出産休暇が新たに施行。 ○労働法典において、育児休業、看護休暇、付添親休暇、終末介護休業が認められている。休暇中の賃金の補填として、社会保障法典により、手当制度が定められている。 ○育児休業制度の改革(2000年)(子が満3歳になるまでの「親時間」の取得、2歳になるまでの育児手当の受給、親時間中のパートタイム労働の許容、親時間中の解雇の禁止等。) ○育児休暇(親保険)(子供が満8歳になるか基礎学校第1学年を終了するまでに、所得保障付きで合計480日間取得可能。さらに、臨時親保険もあり。)
○労働時間の短縮(8歳以下、基礎学年第1学年終了までの子供がいる場合は、労働時間を4分の3に短縮可。)
○育児・介護休業法(育児休業・介護休業等の義務づけ。)(育休:1991年、介休:1995年)
○両立支援策に係る雇用改善のための事業主に対する助成金の支給。
雇用者総数に占める女性の割合 47.2%

出典※(1)
  49.4%

出典※(1)
46.0%

出典※(1)
44.9%

出典※(1)
50.3%

出典※(1)
40.5%

出典※(2)
女性の管理職割合
民間: 45.5%   公務: 51.4%
全体: 45.9%  

出典※(3)
 
民間: 28.0%   公務: 40.0%
全体: 32.3%  

出典※(4)
民間: 31.7%   公務: 30.0%
全体: 34.4%  

出典※(6)
民間: 19.8%   公務: 28.9%
全体: 26.9%  

出典※(5)
民間: 16.5%   公務: 51.5%
全体: 31.5%  

出典※(7)
民間: 11.3%   公務: 5.5%
全体: 10.9%  

出典※(8)
男女賃金格差)(男性=100) 76.0%

出典※(9)
  80.6%

出典※(5)
79.8%

出典※(5)
74.2%

出典※(5)
82%

出典※(10)
66.5%

出典※(11)
平均勤続年数 男性:7.9年
女性:6.8年
出典※(12)
  男性:8.9年
女性:6.7年
出典※(12)
男性:11.0年
女性:10.3年
出典※(12)
男性:10.6年
女性:8.5年
出典※(12)
男性:10.7年
女性:10.4年
出典※(12)
男性:13.5年
女性:8.8年
出典※(11)
※(出典)
(1)ILO Year book of Labour Statistics 2001/(2)労働力調査(平成14年)/(3)Employment &Earnings 2002/(4)Woman&Equality Unit(2001)、Office for National Statistics(2003)/(5)ILO Year book of Labour Statistics 2000/(6)ILO Year book of Labour Statistics 2000、フランスキリスト教労働者同盟CFTC(1999)/(7)ILO Year book of Labour Statistics 2000、Women and Men in Sweden(1998)/(8)2000年国勢調査/(9)Employment &Earnings 2001/(10)Wage/salary statistics,Statistics Sweden(1998)/(11)賃金構造基本統計調査(平成14年)/(12)OECD Employment Outlook ,1997



諸外国における女性管理職割合及びその推移


1 諸外国における女性管理職割合

(%)
   
民間 公務 民間+公務 民間部門における主なポジティブ・アクションの取組(類型)
アメリカ
45.5
51.4
45.9
  政府契約締結事業主に計画作成義務付け
  自主的な取組
イギリス 28 40 32.3
  自主的な取組
フランス
31.7
30 34.4
  事業主に雇用状況報告の作成義務付け
  国による財政支援
ドイツ 19.8
28.9
26.9
  自主的な取組
スウェーデン
16.5
51.5 31.5
  事業主に計画作成の義務付け
日本 11.3 5.5 10.9
  自主的な取組
 小数点以下第2位四捨五入
 (注1)
 
 
 何らかの法的義務が課されている
 
 
 連邦政府と一定規模以上の契約を締結する企業等に対し義務付けられている

 (注2) 管理職の定義は国により異なる

 (資料出所)各国のデータの年は( )内に示すとおり
 アメリカ     U.S. Bureau of Labor Statistics “Employment & Earnings”(2002)
 イギリス A: Women & Equality Unit (2001)
B: Office for National Statistics (2003)
 フランス A: ILO (2000)
B: フランスキリスト教労働者同盟CFTC (1999)
 ドイツ   ILO (2000)
 スウェーデン A: Women and Men in Sweden(1998)
B: ILO (2000)
 日本   総務省「2000年国勢調査」


【アメリカにおける女性管理職割合の推移】

アメリカにおける女性管理職割合の推移 民間のグラフ

(資料出所)  U.S. Bureau of Labor Statistics "Employment & Earnings"

アメリカにおける女性管理職割合の推移 民間+公務のグラフ

(資料出所)  U.S. Bureau of Labor Statistics "Employment & Earnings"

【アメリカにおけるアファーマティブ・アクション政策】
(民間) ・大統領命令の性への適用(1967年〜)
・ベスト・プラクティスの普及 ・カタリスト等の活動
(公務) 平等な雇用機会の提供を促進する措置を講じることを義務づけ
(連邦政府(1972年〜))


【イギリスにおける女性管理職割合の推移】

イギリスにおける女性管理職割合の推移 民間+公務のグラフ

(資料出所)

 1974〜2000 Institute of Management and Remuneration Economics
 2003 Office for National Statistics

【イギリスにおけるポジティブ・アクション政策】
 ・ パンフレット等を用いて政府が推進
 ・ オポチュニティ・ナウ等の活動

【オポチュニティ・ナウ加盟企業における女性の管理職割合の推移】

  1994年 1995年 2001年
会員企業数 188 275 350
女性役員 8% 16% 16%
上級管理職 12% 17% 25%
中級管理職 24% 28% 39%
下級管理職 39% 42%

(資料出所)

 1996年度「グラス・シーリング解消のための国際交流事業」
 (2001年数値:オポチュニティ・ナウ2002ベンチ・マーキング・レポート)


【フランスにおける女性管理職割合の推移】

フランスにおける女性管理職割合の推移 民間+公務のグラフ

(資料出所) フランスキリスト教労働者同盟CFTC


【フランスにおけるポジティブ・アクション政策】
 ・ 民間について、雇用状況報告の作成、提出等の義務付け及び国による財政支援の規定
(1983年〜)


【ドイツにおける女性管理職割合の推移】

ドイツにおける女性管理職割合の推移 民間+公務のグラフ

(資料出所) ILO Yearbook 2001


【ドイツにおけるポジティブ・アクション政策】
 ・ 民間については、EUの方針に沿い周知
 ・ 公務(連邦行政機関等)については女性雇用促進計画の作成・公表の義務化(1994年〜)


【日本における女性管理職割合の推移】

日本における女性管理職割合の推移 民間のグラフ

日本における女性管理職割合の推移 民間のグラフ

(資料出所) 総務省 国勢調査(抽出速報集計結果)


【日本におけるポジティブ・アクション政策】
(民間) ・法に基づくポジティブ・アクションを講じようとする事業主への相談・援助
(1999年〜)
・女性の活躍推進協議会の開催(2001年〜)
(公務) ・「女性国家公務員の採用・登用拡大に関する指針」の策定
(各府省ごとに女性職員 対象の研修の実施、合格者に占める女性割合に
関する目標の設定等)(2001年〜)


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