厚生労働省委託 |
第1 | 若年者向けキャリア・コンサルティング研究会設置の趣旨 |
第2 | 若年者向けキャリア・コンサルティングの意義・目的 |
第3 | 若年者向けキャリア・コンサルティングに係る能力要件の策定の必要性 |
第4 | 若年者向けキャリア・コンサルティング実施に必要な能力 |
第5 | 若年者向けキャリア・コンサルタント養成のためのモデルカリキュラム |
第6 | 今後の課題 |
資料1 | 若年者向けキャリア・コンサルタント養成のための追加モデルカリキュラムの具体例 |
資料2 | 若年者向けキャリア・コンサルティング研究会委員名簿 |
若年者層におけるフリーターの増加や高い離職率が深刻な問題となっている。このような状況を放置することは、若年者自身にとって、若年期に習得すべき職業に関する知識や技能を修得できないことにより、当面の就職困難をもたらすだけでなく、将来にわたっても本人の能力不足、不安定就労を招来する。また、中・長期的な競争力・生産性の低下を通じて、経済基盤の脆弱化等の深刻な社会問題を惹起しかねないことが懸念される。
こうした状況の中、フリーターや早期離職者、就業経験のない学卒未就職者(中退者を含む。)、学生等の若年者に対し、早い時期から職業意識の啓発や適切な自己理解に基づく職業選択、さらに就職後の能力開発や職場定着を支援することなどにより、若年者を職業的自立に導く専門家として、若年者向けキャリア・コンサルタントの養成を推進することが「若者自立・挑戦プラン」(若者自立・挑戦戦略会議 平成15年6月10日)に盛り込まれた。
また、若年者キャリア支援研究会報告書(平成15年9月 厚生労働省職業能力開発局)においても、若年者向けのキャリア・コンサルティングを担う人材や組織を官民で積極的に育成する必要がある旨提言された。
このため、中央職業能力開発協会においては、厚生労働省からの委託を受けて「若年者向けキャリア・コンサルティング研究会」を設置した。研究会委員には学識経験者に加え、大学・高校等での現場の経験を有する方々に参加をいただき、若年者向けキャリア・コンサルタントに必要な能力要件及び養成カリキュラムについて検討を行った。
若年者をめぐる状況については、前述の報告書をはじめとする調査研究報告書等においてすでに様々な指摘がなされているところである。それら指摘事項及び本研究会で出された意見をまとめると、若年者の雇用をめぐる状況はおおよそ次のとおりである。
(雇用をめぐる状況等)
高卒求人はこの10年で8分の1に激減し、求人が量的に不足している。企業においては正社員採用の絞り込みにより、非正規社員の雇用比率が高まり、若年層(新規学卒)においてもパート・アルバイトの比率が上昇している。また、企業内における非正規雇用・アウトソーシングの増加とともに、自社内で人材を育てるゆとりや意欲が低下しており、即戦力を求める傾向にある。このような中で、若年者の失業者数は増加し、失業率も高めに推移している。しかもこうした状況は長期化している。
一方、就職する者の中でも、職業生活設計が不明確なまま就職する者、不本意ながら就職する者が増加し、また、必ずしも安定的就業を求めないなど若年者の仕事に対する意識も変化しているとともに、職場そのものも若年者を定着させる求心力を失ってきている。こうしたことから、若年者の離職率は高く、近年、就職後1年以内の離職率が増加している。いわゆる「フリーター」についても増加傾向にあり、高卒者・中退者だけでなく、大卒等の高学歴層においても相当部分が無業・フリーター化している。
(若年者の職業選択行動、意識の特徴等)
最近の若年者の特徴としては、社会に対し、また自分自身に対してマイナスイメージが強く、将来に対する希望を持つことができないことから前向きな行動をとることができない。また、就職に関しても、成長過程における経験や学習の不足から「働く」ことに対する具体的なイメージを持てないといわれている。こうしたことから、働く意義を見出せず就業意欲や職業意識も希薄であること、職業を自ら探索することができないこと、さらに対人関係におけるコミュニケーション能力等のソーシャルスキルに欠けること等が指摘されている。
もっとも、このような状況に対する責任をすべて若年者に帰すべきではない。たとえば、現在20歳前後の若者は幼年期にバブル崩壊を迎えており、以後の成長期の大半を不況下で過ごしている。そのため、社会に対してマイナスのイメージが強く、このような若者が学校生活から社会に出る際、将来に対して明るい展望を描こうとしても困難を伴うことは容易に想像できる。
また、サービス経済化の進展や経済のグローバル化により産業構造や就業構造が変化し、それに伴う企業行動も大きく変化している。特に、若年者に大きな影響を与える「採用」に関してみると、従来の新規学卒者を4月に一斉採用し企業内で自社に適した労働者となるよう教育訓練を実施していくという雇用慣行が変容し、企業は、即戦力を求めての中途採用、期間雇用者の採用を増加させている。このため、新規学卒者であっても正社員として採用される人数は限られ、やむを得ずパート・アルバイトにならざるを得ず、その結果としてフリーター等が増加しているという状況もある。
(フリーター、無業者が増加することの問題)
いずれにしろ、未来ある若者にとって、適切な時期に修得すべき職業に関する知識や技能を修得できないことは、将来にわたり本人の能力不足、不安定就労を招来するなど、大きな問題である。
また、フリーター、無業者等の増加は「若年者キャリア支援研究会報告書」においても指摘されているとおり、若年者の能力蓄積不足、不安定就労状況の長期化により、将来にわたり国全体の技能・技術レベルの向上が阻害され、我が国の成長力の低下や社会の衰退をもたらすことを懸念させる。
(若年者に対するキャリア・コンサルティングの重要性)
本来「働く」ということは、一人前の大人として社会参加するという意義を有するだけでなく、仕事を通じて自己実現を図ることの喜びや達成感を味わうことでもある。働くことに対するイメージがつかめず、自己評価も低く、将来を展望することのできない者も少なくない。このような若年者に、働く喜び、働くことの意義を理解させ、安定的就業に導く若年者向けキャリア・コンサルティングは、若年者本人の生涯だけでなく、我が国の将来をも左右する重要な取組の一つであると言っても過言ではない。
(若年者向けキャリア・コンサルティングの目的)
こうしたことから、本報告書においては、若年者向けキャリア・コンサルティングの目的を「若年者を安定的就業に導くために、働く意義の理解を進めることにより就業意欲を喚起し、職業生活設計とそれを踏まえた職業選択を自己決定できるように支援すること」と定義することとする。
この際、若年者向けキャリア・コンサルティングの支援の対象は、「フリーターや早期離職者、就業経験のない学卒未就職者(中退者を含む。)、学生等」とする。
また、主な支援の担い手(若年者向けキャリア・コンサルティングを行う者)は、「学校外の若年者就労支援施設等における相談・支援担当者、大学・短大・専門学校等の就職支援担当者、キャリア・コンサルタント(標準レベル)で若年者向けキャリア形成支援分野での活躍を希望する者等」とする。
第3 若年者向けキャリア・コンサルティングに係る能力要件の策定の必要性
若年者向けキャリア・コンサルティングにおいては、その対象(若年者)が、自己が未だ確立されておらず社会的に未成熟な者であるという点で、社会人向けのキャリア・コンサルティングとは異なる特性がある。すでに述べたように、若年者については、成長過程における経験や学習の不十分さから、働くことに対して具体的なイメージがつかめない、将来に向けて目標を設定できないなど、就業意欲の低下、自己理解の不足、職業に対する認識の不足等の特徴が見られる。
若年者に対しては以上のような状況に留意し、職業意識を啓発し、自己理解・仕事理解を通して若年者が自らの意志で目標を設定し、目標に向けての取組が行えるよう支援することが必要である。この役割を担う者がキャリア・コンサルタントである。
しかしながら、「キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力等に関する調査研究報告書」(平成14年4月)で示された能力要件(以下「標準レベルの能力要件」という。)は、様々な場面において実施されるキャリア・コンサルティングについて共通の能力のみを整理し、記述したものであり、若年者に特有のものについてまでは言及されていない。
このため、本研究会において、若年者向けキャリア・コンサルタントに必要な能力要件及び養成カリキュラムについて検討を行った。
若年者向けキャリア・コンサルティングの実施にあたり、実施者となるキャリア・コンサルタントは標準レベルの能力要件に加え、若年者向けキャリア・コンサルティングに特有の能力要件を具えている者であることを前提としている。次表は、若年者向けキャリア・コンサルティングを実施するに当たって必要となる能力要件に関し、標準レベルの能力要件の記述を基に、より具体化したまたは強調すべき事項や追加すべき事項について下線を付して示したものである。
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技術革新の急速な進展など様々な社会・経済環境の変化に伴い、個人自らのキャリア形成の重要性と、そのための支援の必要性について理解していること。 特に、若年者を取り巻く状況と若年者の特性及び職業意識啓発の重要性を踏まえた支援の必要性について理解していること。(*1) |
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キャリア・コンサルティングは、個人の生き甲斐、働きがいまで含めたキャリア形成を支援すること、また、個人が自らキャリアマネジメント(自立/自律)できるように支援すること、さらには、個人と企業との共生の関係をつくる上で重要なものであることなど、その役割、意義について理解していること。 特に、若年者の理解者として、若年者が働くことの意義を理解し、キャリア形成に自らの問題として取り組み、主体的に意思決定できるように支援すること、さらに、能動的・積極的な関わり方も必要になることなど、その役割、意義について理解していること。(*2) |
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キャリア・コンサルティングは、個人のキャリア形成において重要な位置を占め、行政その他関係機関による能力開発支援など様々なサービスと相まって行われることについて理解していること。 特に、学校等関係機関によるキャリア教育などと相まって行われる必要があることについて理解していること。 |
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相談者のキャリア形成を支援するために、キャリア・コンサルタントとしての活動に範囲(限界)があることについて理解していること。 | ||
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相談者のプライバシーについて、秘密を守ることができること。 | ||
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キャリア・コンサルタントが守るべき倫理規定(基本理念、任務範囲、秘密保持等)について理解していること。 | ||
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キャリア開発に関する代表的理論や、職業指導理論、職業選択理論等について理解していること。 特に、発達理論について理解していること。 |
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自己理解に関する代表的理論や心理テストなどの具体的な方法その他様々な手法について理解していること。 | ||
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職業分野に関する代表的理論をはじめ、各職業に関する各種情報とその入手方法について理解していること。 | ||
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職業能力開発に関する各種情報とその入手方法について理解していること。 | ||
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企業における雇用管理の仕組みや、主な業種における勤務形態、賃金等具体的な労働条件について理解していること。 特に、企業の若年者に対する雇用管理の現状と諸問題について理解していること。(*3) |
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社会情勢、産業構造の変化や雇用動向等について一般的に理解していること。 特に、若年者の就業意識の多様化や、若年者を取り巻く雇用環境の変化等について理解していること。 |
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職業安定法等の労働関係法規や社会保障制度等について、一般的に理解していること。 さらに、教育に関係する法規や制度の概要について一般的に理解していること。 |
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メンタルヘルスに関連する法令や指針について理解していること。 特に、社会的に未成熟であるために、若年者がメンタルヘルス上の問題に陥りやすいことについて理解していること。(*4) |
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ライフステージごとの解決すべき課題や、青年期、中年期等の発達課題について理解していること。 特に、働くことを通じた自己実現の意義や職業に対する認識の形成など、若年者特有の発達課題について理解していること。 |
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初めて職業を選択する時や、転退職などの転機が訪れた時、その受け止め方や対応の仕方について理解していること。 特に、学校から社会への移行という大きな転機の受け止め方や対応の仕方について理解していること。(*5) |
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相談者の類型的・個人的特性(例えば、障害者については障害の部位や程度)などによって、留意すべき点があることについて理解していること。 特に、若年者の特性について理解していること。また、個別に抱える問題の本質やその背景を認識することの重要性について理解していること。(*6) |
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相談者が真に自己を理解するためには、カウンセリング・スキルなど基本的スキルが重要であることを認識していること。 | ||
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キャリアシート(自らを振り返り今後のキャリア形成の方向性やその実現を図るための手段・方法を整理するための様式や職務経歴書など)の意義を理解し、相談者に対して適切な作成指導ができること。 特に、これまでの家庭・学校生活や地域活動を振り返り、興味、能力、価値観、現実条件などを整理し、自己理解を進めることができるようにキャリアシートの作成指導ができること。(*7) |
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カウンセリング諸理論を理解し、傾聴をはじめ様々なカウンセリング・スキルを用いて、相談を進めることができること。 特に、若年者に対しては必要に応じて能動的・積極的なアプローチにより、相談を進めることができること。 |
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グループカウンセリングに関する諸理論を理解し、それらを踏まえて、グループカウンセリングを行うことができること。 特に、職業意識を啓発し、自己理解・仕事理解を促すために、グループを効果的に活用することができること。(*8) |
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相談者が相談過程のどの段階にいるかを常に把握し、その段階に応じた適切な相談を行うことができること。 | ||
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若年者の職業意識の啓発や自己理解・仕事理解などを効果的に進めるための各種プログラムを企画し、関係者に提案することができること。(*9) | ||
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キャリア・コンサルティングを行うにふさわしい物理的な環境を設定することができること。(*10) | ||
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キャリア・コンサルティングを行うに当たって心理的な親和関係を相談者との間で確立することができること。 | ||
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キャリア形成の必要性や相談の目的などを明確にすることの重要性について、相談者の理解を促すことができること。 特に、働くことの意義について、また、キャリア形成に自らの問題として取り組み、主体的に意思決定することの必要性について、若年者の理解を促すことができること。 |
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相談者の相談内容を把握し、その到達目標、相談を行う範囲、緊要度などについて、明らかにすることができること。 | ||
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職業興味や価値観等の明確化、職業経験の棚卸し、職業能力の確認、個人を取り巻く環境などを分析し、相談者の自己理解を支援することができること。 特に、これまでの家庭・学校生活や地域活動を振り返り、興味、能力、価値観、現実条件などを整理・分析し、若年者の自己理解を支援することができること。また、グループを活用して、職業意識を啓発し、自己理解を支援することができること。 |
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相談者に応じて、適切な評価検査を選択、実施し、その結果の解釈を適正に行うことができること。 特に、適切な若年者向けの各種検査を選択、実施し、若年者の発達段階に応じてその結果の適切な理解を促すことができること。(*11) |
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職業に関する情報ソースを活用し、相談者に提供することにより、相談者の仕事理解を支援することができること。 特に、若年者向けの各種職業情報ツールを活用して仕事理解を支援することができること。また、グループを活用して、職業意識を啓発し、仕事理解を支援することができること。 さらに、若年者が主体的に職業情報の収集活動に取り組むように働きかけることができること。 |
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職業や労働市場に関する情報を収集及び提供するために、最新のテクノロジーを活用することができること。 | ||
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事前に職業を体験してみることの意義や目的について相談者に理解させ、その実行について助言することができること。 さらに、グループを活用して、啓発的経験を通して職業意識を啓発することができること。(*12) |
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仕事だけでなく、仕事以外の活動(例えばボランティア活動など)も含め、どのような人生を送るのかという観点、家族を含めた基本的生活設計の観点などのライフプランを踏まえて、相談者のキャリア・プランの作成を支援することができること。 特に、将来の生き方・働き方を展望することの重要性について理解を促した上で、キャリア・プランの作成を支援することができること。 |
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相談者の中長期的な目標や展望の設定と、それを踏まえた短期的な目標の設定を支援することができること。 | ||
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相談者の設定目標に応じて、必要な自己学習や職業訓練などの能力開発に関する情報を提供することができること。 | ||
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相談者が実行する方策について、その目標、意義について理解を促し、相談者がその目標に自らの意思で取り組んでいけるように働きかけることができること。 特に、若年者が自ら就業に向けた情報収集活動を行うように働きかけることができること。また、面接など就業に向けた活動の中で、自己の強みを表現できるように支援することができること。 |
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相談者が実行する方策の進捗状況を把握し、相談者に対してその状況を理解させることができること。 特に、若年者が自ら決定した方策を着実に進められるよう強く働きかけることができること。(*13) |
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方策の実行後におけるフォローアップの重要性について理解し、相談者の状況に応じた適切なフォローアップを行うことができること。 特に、学校から社会への移行という大きな転機にある若年者の特性に鑑み、職場適応について適切な助言を行うことができること。(*14) |
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キャリア・コンサルティングの成果が現れ、適正だと判断できる時点において、相談を終了することができること。 特に、相談過程で若年者が過度に依存的にならないように配慮し、自律性を促して相談を終了することができること。 |
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相談者自身が目標の達成度や能力の発揮度について自己評価できるように支援することができること。 キャリア・コンサルタント自身が相談支援の過程について自己評価することができること。 |
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キャリア・コンサルティングを求める可能性のある人や企業などに対して、様々な活動を通じてキャリア形成の重要性、必要性等について普及することができること。 特に、家庭、学校、企業、地域社会に対して、若年者のキャリア形成の重要性、必要性等について普及することができること。 |
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効果的に相談を実施するためには、相談者を支援する他の専門機関との様々なネットワークが重要であることについて理解していること。 | ||
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地域における関係機関や様々な人々と日頃から情報交換を行い、協力関係を築いていくことができること。 | ||
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相談者の様々なニーズに応えるために、適切な専門機関等に紹介あっせんすることができること。 | ||
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効果的に相談を実施するために、追加情報を入手したり、異なる分野の専門家に意見を求めることができること。 | ||
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コンサルタント自身の自己理解の重要性を理解するとともに、常に学ぶ姿勢を維持し、新たな情報を吸収し、自らの力量を向上させていくことができること。 | ||
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定期的に専門家から指導を受けることの必要性について理解していること。 |
(*1) | 職業意識の啓発の重要性について 若年者は職業意識が希薄であり、働くことの意義についての理解も不十分といわれている。このため、若年者向けキャリア・コンサルティングを実施する場合、若年者に対する職業意識の啓発が重要であるが、職業意識の啓発は、自己理解、仕事理解、啓発的経験、意思決定の支援等様々な側面からの働きかけの中で進んでいくことに留意する必要がある。 | ||||||||||
(*2) | 若年者の共感的理解と受容について キャリア・コンサルタントは、若年者との間に年代差があり言葉遣いや服装等の外観にも若年者との隔たりが大きい場合がある。若年者向けキャリア・コンサルティングを実施するに当たっては、若年者をありのままに受け入れ理解すること、若年者と目線を合わせた相談の姿勢をとることができること等、真の「若年者の理解者」として若年者の信頼を得てキャリア・コンサルティングが行われるよう努めることが求められる。 | ||||||||||
(*3) | 企業の採用戦略の動向について 新規学卒者を4月に一斉に採用し企業内で育成していくという長年にわたり行われてきた長期雇用慣行に基づく企業行動は、近年大きく変化し、新規学卒求人、特に高卒求人の数が激減しており、企業は即戦力となる人材を求めている。また、採用時期も4月に限定されず、雇用形態も非正規雇用が増加している。若年者向けキャリア・コンサルティングを実施するに当たっては、このような若年者を取り巻く企業の採用行動をはじめとする需要サイドの大きな変化を十分理解し、この理解の基にキャリア・コンサルティングを行う必要があることに留意する必要がある。 | ||||||||||
(*4) | メンタルヘルスの問題について 若年者の多くはこの時期、自我同一性を獲得していく過程にある。社会からの義務や責任から逃れることのできるモラトリアムの期間であり、自分は何者かを求め人間関係に悩み、将来に対する不安に悩む。若年者にとっては、アイデンティティーが確立していないこと等から生じる悩み多き苦しい時期である。しかも、若年者の家庭環境・背景はそれぞれ異なることから、若年者の抱える問題は一人一人異なる固有のものである。キャリア・コンサルタントは、若年者のこのような状況を理解する必要があるとともに、事案によっては、キャリア・コンサルティングの範疇を超える問題もあることから、適切な専門機関への紹介(リファー)も必要である。 | ||||||||||
(*5) | 学校から社会への大転機について 若年者が就業するということは、それまでの学校生活という保護や示唆を受け、目標を与えられての生活から抜け出し、一人前の社会人として自立し、自己責任の下に自らの人生を決定していかなければならない社会に飛び込むという、生活の基盤が大きく変化する大転機を迎えることである。キャリア・コンサルタントは、若年者がこのような大転機に直面しているということを認識し、若年者がその大転機を受け止め、それに対応し、その後の社会生活を展開していく基盤を創造していく過程において適切に支援する必要があることに留意すべきである。 | ||||||||||
(*6) | フリーター、無業者の類型について フリーター、無業者については若年者キャリア支援研究会報告書(平成15年9月 厚生労働省職業能力開発局)において施策を効果的に講じるため、次のようにタイプ分けを行っている。
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(*7) | キャリアシートについて キャリアシートはこれまでの職業経験などを振り返り自己理解を促すために非常に有効なツールであるが、職業経験のない又は少ない若年者の場合、職業や仕事の面から過去を振り返ることが困難である。このため、生活全般を通じて過去の経験の棚卸しをし、自分の興味や能力、価値観等について整理することとなるが、キャリア・コンサルタントは、若年者の自己理解が深まるよう、キャリアシートの作成に当たり適切な指導ができなければならない。同時に、若年者はキャリアシートを作成する際、“就職に有利な書き方”など、実利的な面にのみ注意を奪われる傾向もあるため、若年者に対してキャリアシートの本来の使用目的を理解させるよう留意する必要がある。 | ||||||||||
(*8) | グループを活用することの有効性について 若年者の職業意識を啓発し、自己理解・仕事理解を進め、さらに、啓発的経験を通じて自己理解・仕事理解を深めるために、グループワークは有効な方法である。このため、キャリア・コンサルタントはグループ討議を通じてグループ内での相互意識啓発を促すなど、グループを有効に活用した支援ができることが必要である。 | ||||||||||
(*9) | プログラムの企画・提案について キャリア・コンサルタントは、大学等におけるキャリア形成支援の重要性に鑑み、グループを活用したキャリア・コンサルティングの実施のほか、自己理解や仕事理解を支援するためのセミナーの開催、インターンシップ・プログラムの企画などを必要に応じて学校側に働きかけていく必要があることについて理解しなければならない。 また、学校側に働きかけるためには、キャリア・コンサルタントは組織内でそれらの活動を可能にする相互協力的なネットワークを築くことが重要であることを理解する必要がある。 | ||||||||||
(*10) | 相談場面の環境整備について 若年者は、自らキャリア・コンサルティングを受けることを決心した場合であっても、相談室に入るには精神的な抵抗があることが多いものである。このため、相談場面の物理的環境の設定に当たっては、若年者に対して事務的・威圧的とならず、気楽に相談に訪れることのできるようなレイアウト、装飾等の環境作り、雰囲気作りに配慮する必要がある。 | ||||||||||
(*11) | アセスメント・ツールについて 自己理解を進める上で各種のアセスメントは情報の一つとして有効であるが、ツールを利用する際、キャリア・コンサルタントは相談者に応じて適切な検査を選択し、実施できるよう配慮しなければならない。 また、最近ではインターネットを活用してテスト等を簡単に利用できる状況にあり、若年者は簡易な方法による検査結果から、短絡的に自分の方向を決定してしまう傾向も見受けられる。このため、キャリア・コンサルタントは若年者に対して、“アセスメント・ツールは自己理解のための一つの側面であり、その結果だけを信用することは危険であること”について認識させることが必要である。 | ||||||||||
(*12) | 啓発的経験について 若年者にとって、事前に職業を体験してみることの重要性はいうまでもないが、啓発的経験の後、若年者が個々の体験を持ちより、数人のグループで体験についての情報・意見交換を行うなど、グループでの活動を通じて、さらに自己理解・仕事理解を深めることは、一層有意義であることについて理解する必要がある。 なお、グループでの情報・意見交換では、職業体験時における現場指導者等が参加することも有効である。 | ||||||||||
(*13) | 方策の実行について 若年者が自ら決めた方策を実行するに当たり、キャリア・コンサルタントは、具体的な情報収集の方法、情報の内容等について助言するとともに、履歴書を書くとき、面接を受けるときに自己の強みを表現できるよう支援すること。さらに、それらの方策の進捗状況を把握し、適切な支援を行うことが必要である。その際、若年者に対しては、背中を一押しするような気持ちでより積極的に関わるよう留意する必要がある。 | ||||||||||
(*14) | フォローアップの重要性について キャリア・コンサルタントは就職後の適応支援において、例えば就職先企業を訪問するなどによりフォローアップを行うことが重要であることについて理解する必要がある。 |
第5 若年者向けキャリア・コンサルタント養成のためのモデルカリキュラム
若年者向けキャリア・コンサルタントを養成するためのモデルカリキュラムを検討するに当たっては、標準レベルのキャリア・コンサルタントが若年者向けキャリア・コンサルティングを実施するために必要な能力を獲得することを前提とした。次表は、標準レベルのキャリア・コンサルタント養成のためのモデルカリキュラムに若年者向けキャリア・コンサルティングの実施に必要な能力を付加するために追加的に行うべき訓練を示したものである。
分野 | 細目 | 標準レベル向け | 若年者向け 目標追加訓練 |
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目標訓練時間 | 講義 | 演習 | |||||
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計11時間程度 | (H) | (H) | 計2時間程度 講義 |
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3時間以上 | 3 | |||||
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3時間以上 | 3 | |||||
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3時間以上 | 3 | |||||
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計36時間程度 | 計8時間程度 講義 5時間以上 演習 2時間以上 |
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9時間以上 | 9 | |||||
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25時間以上 | 7 | 15 | ||||
(うち講義を7時間以上、演習を15時間以上含む) ↑ ↑ | |||||||
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計42時間程度 | 計18時間程度 講義 5時間以上 演習 11時間以上 |
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1時間以上 | 1 | 20 | ||||
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1時間以上 | 1 | |||||
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1時間以上 | 1 | |||||
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1時間以上 | 1 | |||||
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1時間以上 | 1 | |||||
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1時間以上 | 1 | |||||
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1時間以上 | 1 | |||||
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1時間以上 | 1 | |||||
(1〜8までの演習を20時間以上含む) ↑ | |||||||
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計11時間程度 | 3 | 計2時間程度 講義 |
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2時間以上 | 2 | |||||
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2時間以上 | 2 | |||||
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2時間以上 | 2 | |||||
(1〜3までの演習を3時間以上含む) ↑ | |||||||
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I〜IV又はそれ以外のキャリア・コンサルティングに関連する知識・スキル | 計20時間程度 | |||||
訓練時間合計 120 時間程度 | 訓練時間合計 30時間程度 |
(注1) | 「講義」については、講師が一方的に説明する形態だけでなく、討議形式や演習的要素を導入することが望ましい。 |
(注2) | 「演習」については、それを効果的に行うため、演習を実施する前にそのねらいや留意点を説明すること及び演習後には必ず演習を通じて気づいたこと、感じたことを少人数のグループで語り合うこと等が重要である。 |
1 | 若年者向けキャリア・コンサルタントの養成 今後、本報告書をもとに若年者向けキャリア・コンサルタントの養成が開始されることとなるが、公的な取組としては、職業能力開発大学校等において、在職者を中心とした養成訓練を開始することとしている。しかし、その養成数には自ずと限りがあり、この先、民間の養成機関においても、若年者向けキャリア・コンサルタントの養成が始まるものと期待される。 その際に留意すべきは、今回の若年者向けキャリア・コンサルタントの能力要件及び養成のためのモデルカリキュラムを策定するに当たって、標準レベルの能力要件及び養成のためのモデルカリキュラムを基礎としている点である。すなわち、標準レベルのキャリア・コンサルタントの養成に係る目標訓練時間である120時間の講義・演習に、若年者向けキャリア・コンサルティングを実施するために必要な能力を付加するための講義・演習を30時間追加し、合わせて150時間の目標訓練時間としているが、実際の養成に際しては、若年者向けキャリア・コンサルタントとしての能力の付与に力を入れる余り、そもそも、標準レベルのキャリア・コンサルタントとして求められる能力の修得が疎かとならないように十分な注意が必要である。 こうした視点からも、養成講座の質の確保が重要である。 |
2 | 必要な技法等の検討 本報告書の中でも言及したとおり、若年者にとっては実際に職業を体験してみること(啓発的経験)や、啓発的経験の後に、個々の経験を基に若年者同士で意見・情報交換を行って相互に意識啓発を行うなどのグループ・ワークが有効である。しかしながら、若年者対策が緒についたばかりの現段階では、具体的な手法、技法については、なお検討の余地がある。 また、キャリア・シート等の基本ツールについても現存のものは社会人を想定したものが多く、過去の職業経験が少ない若年者にとっては馴染まないものもあると考えられる。 今後は、若年者に有効と思われる手法・技法、ツール等について検討を行うとともに、その有効性について検証することが必要である。 |
3 | 能力要件等の見直し 経済・社会的環境は絶えず変化していくため、キャリア・コンサルタントに必要な能力要件及び養成カリキュラムもこれに応じて、絶えず変化していくと考えられる。まして、今般検討を行った若年者向けキャリア・コンサルタントに必要な能力要件及び養成カリキュラムについては、本報告書の第1に述べられているとおり、現今の喫緊の課題に対応するため、限られた時間の中で策定されたものであることに留意すべきである。今後、実践の結果等を踏まえ、適宜見直しを行い、改善していくことが必要である。 |
(※) | このカリキュラムは標準レベルのキャリア・コンサルティング能力を有していることが前提である。 |
分野 | モデルカリキュラムの具体例 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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計2時間程度 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 講義 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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計8時間程度 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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講義 3H 以上 |
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講義 2H 以上 演習 2H 以上 |
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計18時間程度 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
<講義>
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講義 5H 以上 |
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<演習>
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演習 11H 以上 |
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計2時間程度 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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講義 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
訓練時間合計30時間程度 |
(敬称略 50音順 役職等は委嘱時のもの) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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