厚生労働省

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基発第0728001号

平成20年7月28日

都道府県労働局長 殿

厚生労働省労働基準局長

(公印省略)


情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施
のためのガイドラインの改訂について


標記については、平成16年3月5日付け基発第0305003号「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドラインの策定について」により、通知したところである。

標記ガイドラインは、在宅勤務が適切に導入及び実施されるための労務管理の在り方を明確にし、もって適切な就業環境の下での在宅勤務の実現を図ることを目的としたものであるが、在宅勤務の普及に伴い、その記載内容に関しさらなる詳細な解釈が各方面より求められている状況にある。

また、テレワーク普及促進に係る目標を掲げた「テレワーク人口倍増アクションプラン」(平成19年5月29日テレワーク推進に関する関係省庁連絡会議決定)や「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(平成19年12月18日ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議決定)などが策定されたことを受けて、在宅勤務を含むテレワークの普及促進に関しては政府全体で取り組んでいるところであり、今後さらにテレワーク人口は増加することが見込まれ、標記ガイドラインの重要性も高まるものと考える。

このような状況にかんがみ、今般別添のとおり、標記ガイドラインの改訂を行ったので、この周知に遺漏なきを期されたい。

なお、平成16年3月5日付け第0305003号「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドラインの策定について」は、本通達の発出をもって廃止する。


別添

情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のた
めのガイドライン

1 在宅勤務の現状と課題

(1)在宅勤務を巡る現状

近年、インターネットや情報処理を中心とした技術革新により、IT(Information Technology:高度通信情報ネットワーク)化が急速に進んでおり、パソコンや端末等のVDT(Visual Display Terminal)が家庭や職場を問わず広く社会に導入され、職場環境や就業形態等についても大きく変化している状況にある。

このような中で、情報通信機器を活用して、働く者が時間と場所を自由に選択して働くことができる働き方であるテレワークは、通勤負担の軽減に加え、多様な生活環境にある個々人のニーズに対応することができる働き方であり、そのような働き方は広がりをみせてきている。

その中で、事業主と雇用関係にある労働者が情報通信機器を活用して、労働時間の全部又は一部について、自宅で業務に従事する勤務形態である在宅勤務についても、労働者が仕事と生活の調和を図りながら、その能力を発揮して生産性を向上させることができ、また、個々の生きがいや働きがいの充実を実現することができる次世代のワークスタイルとして期待されている。国土交通省「平成17年度テレワーク実態調査」(平成18年6月)によると、2005年時点で、テレワークのうち在宅勤務を実施することがある者(週8時間以上テレワークを実施している者のうち自宅で実施することがある者)は、約450万人であり、労働者全体の約8.2%を占めるとされている。

一方でテレワークの普及促進については、平成19年5月に政府を挙げてテレワークの円滑な導入を促進するための施策を総合的、重層的かつ集中的に実施するための「テレワーク人口倍増アクションプラン」(平成19年5月29日テレワーク推進に関する関係省庁連絡会議決定)が策定されたほか、「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(平成19年12月18日ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議決定)にテレワーク人口に係る数値目標が掲げられるなど、政府全体で取組を実施しているところである。このようなことから、今後テレワーク人口は更に増加することが見込まれるものである。

なお、テレワークには、事業主と雇用関係にある働き方として、在宅勤務以外に、労働者が属する部署があるメインのオフィスではなく郊外の住宅地に近接した地域にある小規模なオフィス等で業務に従事する、いわゆる「サテライトオフィス勤務」、ノートパソコン、携帯電話等を活用して臨機応変に選択した場所で業務に従事する、いわゆる「モバイルワーク」がある。また、在宅勤務と似かよっているが、事業主と雇用関係にない請負契約等に基づく働き方として、いわゆる非雇用の就業形態である「在宅就業」がある。

(2)在宅勤務の評価

在宅勤務に関しては、総務省「テレワーク人口等に関する調査」(平成14年3月)や国土交通省「テレワーク・SOHOの推進による地域活性化のための総合的支援方策検討調査」(平成15年3月)及び厚生労働省「在宅勤務の推進のための実証実験」(平成17年9月)等によれば、事業主は、「仕事の生産性・効率性の向上」、「オフィスコストの削減」、「優秀な人材の確保」等の効果の面を評価しており、在宅勤務を行う労働者の側からも、「仕事の生産性・効率性の向上」、「通勤に関する肉体的、精神的負担が少ない」、「家族との団欒が増える」等の効果の面を評価している。

例えば、「仕事の生産性・効率性の向上」に関しては、事業主から、在宅勤務の方が職場における場合よりも業務成果がかなり高いという評価があり、同様に、在宅勤務を行う労働者からも、労働者の私生活が確保されている自宅において一人で業務に携わる方が、職場において行うよりも、精神的負担が少なく、かつ集中できる時間が長く続くという評価もある。

また、「通勤に関する肉体的、精神的負担が少ない」に関しては、事業主から、育児・介護等の事情により有能な人材が離転職することを防ぐことが可能であり、かつ職場復帰も比較的早期に実現できるとの評価があり、同様に、育児期の児童を抱える労働者からも、通勤に係る時間を家庭に対する時間に充てることができ、仕事と家庭の両立を図ることができるとの評価もある。

(3)在宅勤務の課題

(2)に記したように、在宅勤務は一般に、労働者が仕事と生活の調和を図りながら、その能力を発揮して生産性を向上させることを可能とするものとして一定の評価を受けている勤務形態であるが、その一方で、労働者の勤務時間帯と日常生活時間帯が混在せざるを得ない働き方であること等、これまでの労務管理では対応が難しい面もあることから導入をためらう事業主もあると考えられる。前出した総務省調査及び国土交通省調査、加えて厚生労働省「在宅勤務に関する実態調査」(平成16年)においても、在宅勤務を実施していない理由として、労働者の労働時間や健康等「労働者の管理が難しい」を挙げる事業主が多くなっている。また、「労働者の評価がしにくい」等を挙げる事業主も多くなっており、在宅勤務を行う労働者からも同様の課題が挙げられているところである。

なお、これらの課題は、いわゆる非雇用の就業形態である「在宅就業」も含め、勤務時間帯と日常生活時間帯が混在せざるを得ない働き方に共通の点もあり、今後はこれらの働き方が、その長所を生かして次世代のワークスタイルとして普及定着していくための課題を明らかにし対策を講じていくことが求められることになろう。

2.在宅勤務についての考え方

在宅勤務を制度として導入するか否かは、基本的には事業主が労働者等の意向を踏まえ、業務の内容や事業場における業務の実態等を勘案して判断するものであろうが、1の(1)(2)に照らし、仕事と生活の調和等の観点から在宅勤務を希望する労働者の存在等を随時把握し、在宅勤務の可能な業務の検討などを進めておくことが望まれる。 

また、導入に当たっては、3及び4に留意するとともに、1(3)の課題の解決方策について、労働者の合意を得て、適切な在宅勤務の導入及び実施に努めることが求められる。

3.労働基準関係法令の適用及びその注意点

(1)労働基準関係法令の適用

労働者が在宅勤務(労働者が、労働時間の全部又は一部について、自宅で情報通信機器を用いて行う勤務形態をいう。)を行う場合においても、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働基準関係法令が適用されることとなる。

(2)労働基準法上の注意点

ア 労働条件の明示

使用者は、労働契約を締結する者に対し在宅勤務を行わせることとする場合においては、労働契約の締結に際し、就業の場所として、労働者の自宅を明示しなければならない(労働基準法施行規則第5条第2項)。

イ 労働時間

(ア)在宅勤務については、事業主が労働者の私生活にむやみに介入すべきではない自宅で勤務が行われ、労働者の勤務時間帯と日常生活時間帯が混在せざるを得ない働き方であることから、一定の場合には、労働時間を算定し難い働き方として、労働基準法第38条の2で規定する事業場外労働のみなし労働時間制(以下「みなし労働時間制」という。)を適用することができる(平成16年3月5日付け基発第0305001号「情報通信機器を活用した在宅勤務に関する労働基準法第38条の2の適用について」。(参考)参照)。

在宅勤務についてみなし労働時間制が適用される場合は、在宅勤務を行う労働者が就業規則等で定められた所定労働時間により勤務したものとみなされることとなる。業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該必要とされる時間労働したものとみなされ、労使の書面による協定があるときには、協定で定める時間が通常必要とされる時間とし、当該労使協定を労働基準監督署長へ届け出ることが必要となる(労働基準法第38条の2)。

(イ)在宅勤務についてみなし労働時間制を適用する場合であっても、労働したものとみなされる時間が法定労働時間を超える場合には、時間外労働に係る三六協定の締結、届出及び時間外労働に係る割増賃金の支払いが必要となり、また、現実に深夜に労働した場合には、深夜労働に係る割増賃金の支払いが必要となる(労働基準法第36条及び第37条)。

このようなことから、労働者は、業務に従事した時間を日報等において記録し、事業主はそれをもって在宅勤務を行う労働者に係る労働時間の状況の適切な把握に努め、必要に応じて所定労働時間や業務内容等について改善を行うことが望ましい。

なお、みなし労働時間制が適用されている労働者が、深夜又は休日に業務を行った場合であっても、少なくとも、就業規則等により深夜又は休日に業務を行う場合には事前に申告し使用者の許可を得なければならず、かつ、深夜又は休日に業務を行った実績について事後に使用者に報告しなければならないとされている事業場において、深夜若しくは休日の労働について労働者からの事前申告がなかったか又は事前に申告されたが許可を与えなかった場合であって、かつ、労働者から事後報告がなかった場合について、次のすべてに該当する場合には、当該労働者の深夜又は休日の労働は、使用者のいかなる関与もなしに行われたものであると評価できるため、労働基準法上の労働時間に該当しないものである。

[1] 深夜又は休日に労働することについて、使用者から強制されたり、義務付けられたりした事実がないこと。

[2] 当該労働者の当日の業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合など、深夜又は休日に労働せざるを得ないような使用者からの黙示の指揮命令があったと解し得る事情がないこと。

[3] 深夜又は休日に当該労働者からメールが送信されていたり、深夜又は休日に労働しなければ生み出し得ないような成果物が提出された等、深夜又は休日労働を行ったことが客観的に推測できるような事実がなく、使用者が深夜・休日の労働を知り得なかったこと。

ただし、上記の事業場における事前許可制及び事後報告制については、以下の点をいずれも満たしていなければならない。

[1] 労働者からの事前の申告に上限時間が設けられていたり労働者が実績どおりに申告しないよう使用者から働きかけや圧力があったなど、当該事業場における事前許可制が実態を反映していないと解し得る事情がないこと。

[2] 深夜又は休日に業務を行った実績について、当該労働者からの事後の報告に上限時間が設けられていたり労働者が実績どおりに報告しないように使用者から働きかけや圧力があったなど、当該事業場における事後報告制が実態を反映していないと解し得る事情がないこと。

(3)労働安全衛生法上の注意点

事業者は、通常の労働者と同様に、在宅勤務を行う労働者についても、その健康保持を確保する必要があり、必要な健康診断を行うとともに(労働安全衛生法第66条第1項)、在宅勤務を行う労働者を雇い入れたときは、必要な安全衛生教育を行う必要がある(労働安全衛生法第59条第1項)。

また、事業者は在宅勤務を行う労働者の健康保持に努めるに当たって、労働者自身の健康を確保する観点から、「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(平成14年4月5日基発第0405001 号)等に留意する必要があり、労働者に対しその内容を周知し、必要な助言を行うことが望ましい。

(4)労働者災害補償保険法上の注意点

労働者災害補償保険においては、業務が原因である災害については、業務上の災害として保険給付の対象となる。

したがって、自宅における私的行為が原因であるものは、業務上の災害とはならない。

4.その他在宅勤務を適切に導入及び実施するに当たっての注意点

(1)労使双方の共通の認識

在宅勤務の制度を適切に導入するに当たっては、労使で認識に齟齬のないように、あらかじめ導入の目的、対象となる業務、労働者の範囲、在宅勤務の方法等について、労使委員会等の場で十分に納得のいくまで協議し、文書にし保存する等の手続きをすることが望ましい。

新たに在宅勤務の制度を導入する際、個々の労働者が在宅勤務の対象となり得る場合であっても、実際に在宅勤務をするかどうかは本人の意思によることとすべきである。

(2)業務の円滑な遂行

在宅勤務を行う労働者が業務を円滑かつ効率的に遂行するためには、業務内容や業務遂行方法等を文書にして交付するなど明確にして行わせることが望ましい。また、あらかじめ通常又は緊急時の連絡方法について、労使間で取り決めておくことが望ましい。

(3)業績評価等の取扱い

在宅勤務は労働者が職場に出勤しないことなどから、業績評価等について懸念を抱くことのないように、評価制度、賃金制度を構築することが望ましい。また、業績評価や人事管理に関して、在宅勤務を行う労働者について通常の労働者と異なる取り扱いを行う場合には、あらかじめ在宅勤務を選択しようとする労働者に対して当該取り扱いの内容を説明することが望ましい。

なお、在宅勤務を行う労働者について、通常の労働者と異なる賃金制度等を定める場合には、当該事項について就業規則を作成・変更し、届け出なければならないこととされている(労働基準法第89条第2号)。

(4)通信費及び情報通信機器等の費用負担の取扱い

在宅勤務に係る通信費や情報通信機器等の費用負担については、通常の勤務と異なり、在宅勤務を行う労働者がその負担を負うことがあり得ることから、労使のどちらが行うか、また、事業主が負担する場合における限度額、さらに労働者が請求する場合の請求方法等については、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましい。

特に、労働者に情報通信機器等、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされている(労働基準法第89条第5号)。

(5)社内教育等の取扱い

在宅勤務を行う労働者については、OJTによる教育の機会が得がたい面もあることから、労働者が能力開発等において不安に感じることのないよう、社内教育等の充実を図ることが望ましい。

なお、在宅勤務を行う労働者について、社内教育や研修制度に関する定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされている(労働基準法第89条第7号)。

5.在宅勤務を行う労働者の自律

在宅勤務を行う労働者においても、勤務する時間帯や自らの健康に十分に注意を払いつつ、作業能率を勘案して自律的に業務を遂行することが求められる。


(参考)

基発第0305001号

平成16年3月5日

改正 基発第0728002号

平成20年7月28日

京都労働局長 殿

厚生労働省労働基準局長

(公 印 省 略)

情報通信機器を活用した在宅勤務に関する労働基準法第38条の2の
適用について


平成16年2月5日付け京労発第35号(別紙甲)をもってりん伺のあった標記について、下記のとおり回答する。

貴見のとおり。

なお、この場合において、「情報通信機器」とは、一般的にはパソコンが該当すると考えられるが、労働者の個人所有による携帯電話端末等が該当する場合もあるものであり、業務の実態に応じて判断されるものであること。

「使用者の指示により常時」とは、労働者が自分の意思で通信可能な状態を切断することが使用者から認められていない状態の意味であること。

「通信可能な状態」とは、使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて電子メール、電子掲示板等により随時具体的指示を行うことが可能であり、かつ、使用者から具体的指示があった場合に労働者がそれに即応しなければならない状態(即ち、具体的な指示に備えて手待ち状態で待機しているか、又は待機しつつ実作業を行っている状態)の意味であり、これ以外の状態、例えば、単に回線が接続されているだけで労働者が情報通信機器から離れることが自由である場合等は「通信可能な状態」に当たらないものであること。

「具体的な指示に基づいて行われる」には、例えば、当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これらの基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれないものであること。

また、自宅内に仕事を専用とする個室を設けているか否かにかかわらず、みなし労働時間制の適用要件に該当すれば、当該制度が適用されるものである。


別紙甲

京労発基第3 5 号

平成16年2月5日

厚生労働省労働基準局長 殿

京 都 労 働 局 長

(公 印 省 略)


情報通信機器を活用した在宅勤務に関する労働基準法第38条の2
の適用について


今般、在宅勤務に関し、下記のとおり労働基準法第38条の2の適用に係る疑義が生じましたので、御教示願います。

次に掲げるいずれの要件をも満たす形態で行われる在宅勤務(労働者が自宅で情報通信機器を用いて行う勤務形態をいう。)については、原則として、労働基準法第38条の2に規定する事業場外労働に関するみなし労働時間制が適用されるものと解してよろしいか。

[1] 当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。

[2] 当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。

[3] 当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。


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