第4章 | 多様な生き方、働き方に対応し、より多くの者が能力を発揮できる社会につながる制度 |
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○ | 60歳台前半の特別支給の老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢の引上げ、短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大などを考慮し、60歳台前半の特別支給の老齢厚生年金の受給者が就労し被保険者となった場合に、一律に2割の年金額の支給停止を行う現行の仕組みは、廃止する。 |
(2) | 65歳以降の老齢厚生年金の繰下制度の導入 〜 本人の選択により受給開始を遅らせることのできる仕組み |
○ | 前回改正では、65歳からの在職者の支給調整を行うことに伴い、老齢厚生年金の繰下制度を廃止した。 | |
○ | 今後、高齢期の就労が進んでいくことが見込まれる中、実際に引退した後から年金を受給することを望む者が増えていくことが考えられるが、年金制度上も65歳からの老齢厚生年金について、自らの引退年齢を自分自身で選択できるような仕組みとするため、支給開始年齢を繰り下げて受給する仕組みを導入する。 これにより、現行の繰り上げ受給の仕組みと合わせて、年金を受給開始する時期について、受給者の選択の幅が広がることとなる。 | |
○ | この場合、65歳から在職しつつ受給したとしたら在職老齢年金制度で支給停止されていたであろう額の残額を繰下の対象とする。 |
(3) | 65歳以降の在職老齢年金制度の見直し 〜 70歳以降にも適用(再掲) |
○ | 60歳台後半の在職老齢年金制度について、世代間の公平や高齢世代内の公平の観点から、就労し負担能力のある高齢者が年金制度の負担を分かち合うため、適用年齢を拡大する。
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○ | 高齢期の生活の安定を図る上では、雇用と年金との接続が最も配慮されるべき課題である。年金の支給開始年齢については、前々回及び前回の改正により、男性は2025年まで、女性は2030年までかけて、雇用との連携を図りつつ、65歳に向けて段階的に引き上げることとされ、現在その引上げ途上にある。 現在、この支給開始年齢の引上げに合わせて、希望すれば65歳まで働き続けられる雇用環境の整備が課題となっており、また高齢者をめぐる雇用情勢も極めて厳しい中で、65歳の支給開始年齢をさらに引き上げることについては、国民の年金制度に対する不信・不安を高めることになりかねない。 なお、諸外国においても、65歳以降に支給開始年齢を引き上げている例は少ない。 | |
○ | 急速に少子・高齢化が進行する中、多くの国民が年齢に関わりなく就労して能力を発揮できる社会を構築することは重要な課題であり、年金制度の在り方もこのような社会を展望しつつ考えていくべきものである。 支給開始年齢の在り方は、雇用と年金の連携を考慮しつつ検討していくべきものであり、長期的課題として認識しておく事項である。 | |
○ | 今回改正では、この問題については、65歳以降の老齢厚生年金の繰下制度の導入や65歳以降の在職老齢年金制度の見直しにより対応していく。 |
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○ | 就労形態の多様化に対応し、年金制度についても、個人の働き方や雇用形態の選択に中立的な仕組みとし、個人が十分能力を発揮していくことができるよう、また、被用者としての年金保障を充実させる観点から、短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大を図る。 その際、適用拡大による雇用への影響、短時間労働者を多く雇用する産業・企業に与える影響、事務負担や保険料負担の増加等を踏まえて、経過措置等一定の配慮を行う。 |
○ | 適用拡大後の適用基準については、雇用保険と同様に、適用事業所における週の所定労働時間が、一般的な正規労働者の週の所定労働時間の半分程度である、20時間以上の者を基本とする。 |
○ | 新たに適用される短時間労働者についての給付と負担の在り方については、短時間労働者は比較的低い賃金で就労している者が多いことから、保険料負担については、現行の標準報酬の下限(月額98,000円)とは別に特別な低い標準報酬区分を設定して適用する。 給付については、被扶養配偶者の給付は行わない。 | |
○ | 短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大に合わせ、標準報酬の算定基礎日数(現在、標準報酬の定時決定等に当たり、3か月のうち報酬支払の基礎日数が20日以上の月を算定基礎とすることとされている。)について、実態を踏まえて見直す。 |
○ | 派遣労働者については、特に登録型の派遣労働者について、社会保険の適切な適用を進めていく必要がある。登録型の派遣労働者は、派遣先が変わる都度、厚生年金保険の資格取得の届出等を行わなければならないことから、事業主・労働者の事務負担の軽減を図るため、事務手続の簡素化を図る。 |
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○ | 現行では、育児休業を取得した厚生年金被保険者について、子が1歳に達するまで保険料を免除し、給付算定上、育児休業取得直前の標準報酬で保険料納付が行われたものとして取り扱う措置がある。 | ||||
○ | 年金制度において次世代育成支援を拡充するため、こうした取扱いについて、育児休業法の措置も考慮し、子が3歳に達するまでの期間について、次の措置を行う。
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○ | 年金資金を教育資金貸付に活用することについては、奨学金・教育資金貸付制度を実施している公的機関の資金調達への支援を行うことが考えられるが、これが年金資金の活用のあり方として適切と考えられるかどうかについて、見直しの過程にある公的機関の今後の動向等も考慮し、引き続き検討することとする。 | |
○ | その他、年金制度の支え手となる次世代の育成支援対策の今後の展開に合わせ、年金制度として果たすべき役割についても、引き続き検討する。 |
女性と年金に関わる課題については、女性の社会進出、就業形態の多様化等、個人の生き方、働き方の多様化に対応した年金制度とし、また、女性自身の貢献が実る年金制度を実現する観点から、必要な見直しを行う。 見直しに当たっては、今後、国民皆年金を維持することを前提としつつ、男女が格差なく働ける社会が現実のものとなることを展望して、できる限り一人一人が負担能力に応じて保険料を納め、その拠出に応じた給付を受けることにつながる仕組みとなることを目指す。 |
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○ | 第3号被保険者制度は、第2号被保険者とその者に扶養される配偶者に係る給付について、1階部分の基礎年金については個人単位の給付とし、2階部分の厚生年金の給付は第2号被保険者名義のものとしている。 | |
○ | 現行のこの仕組みでは、世帯単位で見れば、給付と負担の公平性は保たれている。 しかしながら、直接の保険料負担はなくても基礎年金給付を受けられることについて、個人単位で見て給付と負担の公平を図っていくという観点から見直すべきとする考え方がある。 また、世帯単位で見た場合の給付と負担の公平を維持しつつ、個人単位化を進めるべきとの考え方もある。 | |
○ | この問題については、まず、就業形態の多様化等の状況を踏まえ、短時間労働者への厚生年金の適用拡大により、自ら負担しそれに応じた給付を受ける者を増やしていき、第3号被保険者を縮小していく。 |
○ | 現行制度における世帯単位での給付と負担の均衡を踏まえながら、できる限り個人単位での給付と負担の関係に向けて制度を見直していくという観点から、また、女性の貢献が目に見える形になるということから、年金分割を今回改正で導入することが考えられる。 | ||||||||
○ | この仕組みでは、第2号被保険者が納付した保険料について、給付算定上夫婦が共同して負担したものとみなすこととして、納付記録を分割し、この記録に基づき、夫婦それぞれに基礎年金と厚生年金の給付を行うこととなる。 | ||||||||
○ | この場合、第3号被保険者が就労すれば、分割された納付記録に自らの実際の就労による納付記録が継続され、年金保障は充実していくこととなる。 | ||||||||
※ | なお、第3号被保険者制度の見直し案としては、以下の負担調整案や給付調整案といった案も議論されてきている。 <負担調整案>
<給付調整案>
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○ | 「有識者調査」や「公的年金制度に関する世論調査」(平成15年2月実施)では、世帯単位で給付と負担を考える考え方が多い。 このような中で、今回改正では、世帯単位で見た場合の給付と負担の公平は維持しつつも、今後、男女が格差なく働ける社会が現実のものとなり、自らの就労により負担しそれに応じた給付を受けられることが一般的となる社会を展望し、個人単位での給付と負担の関係に向けた見直しとなる年金分割制度を導入する。
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○ | 近年、離婚件数、とりわけ中高齢者等の比較的婚姻期間の長い夫婦における離婚件数が増加してきているが、現役時代の男女の雇用の格差などを背景として、夫婦双方の年金受給額には大きな開きがあり、女性の高齢期の所得水準が低くなるという問題がある。 このようなことから、離婚時に厚生年金の分割が可能となるような仕組みを設ける見直しを行う。
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○ | 現行の遺族年金制度は、遺族厚生年金(死亡した者の老齢厚生年金の4分の3)を選択した場合や、遺族厚生年金と自分自身の老齢厚生年金の併給(死亡した者の老齢厚生年金の2分の1相当額及び自分自身の老齢厚生年金の2分の1の併給)を選択した場合、自分自身の保険料納付に基づく給付の全部又は一部が受けられなくなるという指摘がある。 | |
○ | この点について、自らの保険料納付が給付に反映される仕組みとすることが望ましく、本人の老齢厚生年金の全額受給を基本とし、現行の遺族となった場合に受給できる額との差額を遺族厚生年金として支給する仕組みとする見直しを行う。 |
○ | 子のいない若齢期の遺族配偶者である女性は、現在、遺族厚生年金を生涯受給できる。この仕組みについて、若年層の雇用条件の格差の縮小の動向を踏まえ、20歳台については5年間の有期給付とするなどの見直しを行う。 |
○ | その他の遺族厚生年金についての課題である支給要件における男女差等については、雇用機会や雇用条件等に男女間で格差がある現状を踏まえ、将来に向けた課題として検討していくべきである。 |
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○ | 現在1階の基礎年金と2階の厚生年金は、基本的に同一事由のものを選択して受給する仕組みとなっている。 このため、障害基礎年金の受給者にとっては、障害を有しながら長期間自ら就労して保険料を納付したことが年金給付に反映されにくい仕組みとなっている。 |
○ | 今日、障害を有していても出来る限り能力を発揮し、就労できる環境整備に向けた取組が進められていることに年金制度としても対応し、就労を年金制度上評価し、地域での自立した生活を可能とするための経済的基盤を強化する観点から、障害基礎年金と老齢厚生年金又は遺族厚生年金の併給ができる仕組みに見直す。 |
○ | 障害基礎年金、遺族基礎年金等の保険料納付要件については、原則として、加入期間の3分の2以上の納付等があることが必要である。 この点について、平成18年4月1日前期間までの経過措置とされている、初診日(死亡日)の前日において、当該初診日(死亡日)の属する月の前々月までの1年間に保険料滞納がないことでもよいとする取扱いの期限を延長する。 |