戻る

第3章 給付と負担の見直しについて

 平成16年改正の最大の課題は、給付と負担の見直しである。

 給付と負担の見直しに当たっては、次の点が本質的な課題である。

 少子化等の進行の中で年金を支える社会全体の所得や賃金の変動に柔軟に対応でき、長期にわたる安定が確保されること。

 将来の現役世代の負担が過重なものとならないようにしていくことと、高齢期の生活の基本的な部分を支えるものとしてふさわしい給付水準を確保していくこととの適切なバランスをとっていくこと。

 給付と負担の見直しを行うに当たっての基本的課題として、
(1) 今回の改正で基礎年金に対する国庫負担割合の2分の1への引上げを行うこととし、その具体的な道筋を明らかにする。
(2) 将来世代への負担の先送りを避けるため、保険料引上げを適切に行っていく。

 将来に向け積立金水準を抑制していくことを基本とし、100年程度で財政均衡を考える有限均衡方式により財政計算を行うこととする。

 給付と負担の見直しの基本として、最終的な保険料水準を法定し、時間をかけて緩やかに給付水準を自動的に調整する保険料水準固定方式を導入する。その際、現役世代の平均的な賃金との対比で適切な給付水準を確保する。

1.給付と負担の見直しに当たっての基本的課題

  給付と負担の見直しを行うに当たっての基本的課題である基礎年金に対する国庫負担割合の引上げ及び保険料引上げの凍結解除について、次のとおりとする。

 (1)基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引上げ

  ○ 基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引上げは、将来の保険料負担が過大となることを避けつつ、高齢期の生活を支えることのできる年金給付の水準を確保するために不可欠である。

 ○ 少子高齢化の急速な進行が見込まれる中で、高齢者にとっても、若い世代にとっても、年金制度が維持され、期待される機能を果たすことの重要性は増しており、社会経済の活力を維持する基盤を盤石なものとする意味でも、国庫負担割合の引上げは重要である。

 ○ 前回の平成12年改正の際に法律上明記されており、年金制度に対する国民の信頼を確保する上でも、今回の改正で引上げを行うこととし、その具体的な道筋を明らかにする。

 ○ 具体的にどのように引き上げていくかについては、
 平成16年度に完全に引き上げる。
 段階的に引き上げ、5年かけて完全実施する。
などの考え方があり、平成16年度に完全に引き上げることが望ましいものであるが、いずれにしても、国庫負担割合の引上げの実現には、多額の安定した財源が必要(平成16年度に完全実施する場合、約2.7兆円程度の財源が必要)となることから、今回改正において将来に向けた道筋を明らかにしつつ、税制の見直しなどにより早期に財源確保に着手する必要がある。

 (2)保険料引上げの凍結解除

  ○ 前回改正において保険料引上げが凍結されている。

 少子高齢化が進む中で、将来世代に負担を先送りすることなく、また、世代間の負担の格差を拡大しないという観点から、最終的な保険料水準をできる限り抑制するため、平成16年改正において、厚生年金保険料については平成16年度から、国民年金保険料については平成17年度から、計画的に引き上げていく。

 なお、年金制度における給付と負担について、世代別の給付と負担の比率が違うことをもって世代間で不公平があるとする考え方がある。
 この比率の違いについては、戦後、段階保険料方式の下で徐々に成熟化してきた我が国の公的年金の歴史や、都市化や核家族化の進展とともに私的扶養から公的年金による社会的扶養に置き換わってきた扶養構造の変化等を十分念頭において考えるべきである。
 また、世代間の公平を論ずるのであれば、扶養負担のみならず、教育、相続や社会資本の充実など家族や社会の営み全体で見ていくことが必要であり、年金制度の中だけの単なる比率の大小を議論することは適切ではない。

 しかしながら、今後、少子高齢化が進行する中にあっては、すべての世代で痛みを分かち合うことが必要であり、年金制度も含め社会保障全体の中で、特定の世代に給付や負担が偏らないよう配慮し、若い世代の理解を得ていかなければならない。


2.有限均衡方式の導入

 ○ 年金財政計算は、長期の給付と負担の均衡を検証するためのものである。

 ○ これまでは、財政計算上、将来にわたるすべての期間について、給付と負担の均衡を考えていた。その結果、将来の高齢化率が高い見通しとなっている下では、運用収入を活用するため、積立金水準は将来にわたって一定の水準を維持することが必要となる。(永久均衡方式)

 ○ 一方で、現時点での財政計算において、給付と負担の均衡を図るべき期間を既に生まれている世代が概ね年金受給を終えるまでの期間として、すなわち100年程度(16年財政再計算時は95年)の期間について、給付と負担の均衡を図る方式もある。(有限均衡方式)
 この場合、財政均衡期間の最終年度において、支払準備金程度の保有となるよう積立金水準の目標を設定することとなる。

 ○ 今後の年金財政計算では、遠い将来においては、少子化の状況の好転など現時点では予測することができないような大きな変化が生じることも否定できないことを考慮し、将来に向けて積立金水準を抑制していくことを基本に考え、最終年度に積立金水準を給付費の1年分程度とする有限均衡方式により行う。

 ○ 有限均衡方式では、定期的(5年ごと)に行う財政の現況及び将来の見通しの作成ごとに、財政均衡期間を移動させることにより、少子化の状況や経済の見通しの状況などを踏まえながら、常に100年程度の期間で年金財政を見直していくことにより、将来にわたる財政均衡を確保することとする。

 ○ なお、平成16年改正においては、これまでの財政計算との連続性を検証する観点から、永久均衡方式による計算結果を、参考表示するものとする。


3.給付と負担の見直し

  保険料水準固定方式を導入し、頻繁な制度の見直しを行わない。
  最終保険料水準は、厚生年金は20%(本人負担は10%)とし、国民年金は17,000円台(平成16年度価格)とする。

  マクロ経済スライドは、公的年金被保険者数の減少率と平均余命の延び率を勘案した調整率で、早期調整を図る。
  給付調整は、被用者の標準的年金額の所得代替率で50%を下限とし、50%台半ばでの維持を目指す。
  試算結果では、基準ケースでは2013年で調整が終了し、最終的な所得代替率は、54.7%。
  新規裁定者、既裁定者ともに同じ調整とし、高齢者の生活に配慮し、名目額を下限とする。

  高額所得者については、年金課税の見直しによる対応が適当である。
  世代間の公平等の観点から、厚生年金加入の70歳の年齢制限をなくし、60歳台後半の在職老齢年金の支給調整の仕組みを70歳以降にも適用する。

 (1)保険料水準固定方式の導入

  ○ 将来の現役世代の過重な負担を回避するため、最終的な保険料水準を法定し、年金を支える社会全体の所得や賃金の変動に応じて、時間をかけて緩やかに給付水準を自動的に調整する保険料水準固定・給付水準自動調整の仕組みである「保険料水準固定方式」を導入する。
 なお、「給付水準の調整」とは、賃金、物価等が伸びていく中で、現役世代の手取り賃金に対する年金額の比率を調整するものであり、この調整に伴って年金額の名目額を引き下げるものではない。

 ○ 保険料水準固定方式においては、最終的な保険料水準とともに、そこに至る各年度の保険料水準を法定することとなる。
 また、厚生年金の保険料についても、国民年金の保険料と同様とし、これまでの5年に1度の引上げに代えて、毎年度小刻みに引き上げて、1回ごとの引上げ幅を抑制する。

 ○ 保険料水準固定方式を導入した場合、給付水準を毎年度自動的に調整するので、給付と負担の均衡を図るために頻繁に制度を見直すことは基本的に必要がなくなる。この場合、保険料率の見直しなどのため最低5年に1度行うこととされていた財政再計算の仕組みは見直すこととなる。
 この場合、定期的(5年ごと)に、その時点における長期的な財政収支の見通しを計算し、マクロ経済スライドによる給付調整を行う必要の有無や、給付水準がどの程度の水準にあるかなどの検証を行っていく。

 (2)最終保険料水準

  ○ 「年金改革に関する有識者調査」(平成15年3月実施。以下「有識者調査」という。)の結果や欧州諸国の保険料水準などを参考に、厚生年金の最終的な保険料率の水準については、20%(本人負担は10%)を超えない水準とする。
 また、試算結果(P.20参照)からは、保険料水準固定方式の下で給付水準を調整する場合、仮に少子化が進行しても公的年金に期待される役割を果たしていける給付水準を維持するためには、前回改正で前提としていた20%の水準は必要である。

 ※ 20%より低い保険料水準や現行の保険料水準を極力上回らない水準とすべきとする意見もあるが、20%を下回る水準の最終保険料率とした場合には、給付水準の引下げ等給付の在り方の制度的な前提を変える必要がある。例えば、仮に15%を上限とした場合、基礎年金の全額税方式化等の手法をとらない限り、直ちに、現在受給している年金も含め、およそ3割程度一挙に名目年金額を削減しなければならないことになる。

 ○ 厚生年金の最終保険料水準を20%とし、これと均衡のとれた国民年金保険料の水準を設定すると、17,000円台(平成16年度価格)となる。

 ※ 国民年金保険料を法定する場合、平成16年改正時の価格表示で将来の保険料額を法定し、その額を毎年度の一人当たり賃金上昇率(可処分所得割合控除前のもの)により、将来の時点の価値に換算することとなる。

厚生年金の段階保険料率の前提のグラフ

国民年金の段階保険料の前提のグラフ
 単年度当たりの保険料(率)の引上げ幅;厚生年金0.354%(総報酬ベース)、
国民年金600円(平成16年度価格)
 ※ 厚生年金の保険料負担は、平均的な被用者(月収36.7万円(ボーナスは年2回合計で月収3.6ヶ月分))の場合、毎年、保険料率の引上げにより、月650円程度(ボーナス1回につき1,150円程度)保険料負担(被保険者分)が増加する。

 (3)給付水準

  ○ 保険料水準固定方式の下に給付水準の調整を行っていく場合においても、その給付水準は、高齢期の生活の基本的な部分を支える機能を果たすことのできる一定の水準が必要である。

 <50%から50%台半ばの給付水準の確保>

  ○ 以上のことにより、将来の給付水準は、被用者の標準的な年金額(※)の所得代替率(現役世代の平均的なボーナス込みの手取り賃金に対する新規裁定時の年金額の割合)でみて、概ね50%から50%台半ば程度を確保する。

 ※ 40年間平均的な賃金で働いた夫及び全期間専業主婦であった妻からなる夫婦世帯の場合の年金額。
 ※ その他の世帯類型の状況については、「(6)世帯類型毎の給付水準表示」参照。

 <給付水準の下限>

  ○ マクロ経済スライドによる給付調整には、一定の下限を設ける。その下限の水準は、現役世代の可処分所得の状況と高齢夫婦世帯の消費支出の状況との比率なども参考に、50%を下回らないものとする。

 ○ また、総合的な次世代育成支援策の積極的推進はもとより、経済活性化のための対策の積極的な取組により、将来の給付水準を50%台半ばで維持できることを目指す。

 (4)マクロ経済スライドによる給付調整

 (4−1)マクロ経済スライド 〜 社会全体の支える力の伸びに応じた調整


  <年金額改定の原則>

   ○ 従来、厚生年金は、5年に1度の財政再計算ごとに、年金を支える被保険者の一人当たりの賃金の伸び率に応じて給付水準が改定されてきた(賃金スライド)。また、基礎年金については、賃金や消費支出の伸びなどを総合勘案して政策改定が行われてきた。
 そして、前回改正より、65歳以上の既裁定者については物価の伸びに応じた改定となっている(物価スライド)。

 ○ 今後、新規裁定者の年金額改定は、厚生年金、基礎年金ともに、毎年度、一人当たり賃金の伸び率を共通の指標とし、それに応じて改定を行うこととする。既裁定者については、これまでと同様とする。

  <保険料水準固定方式の下での給付水準調整>

   ○ 保険料水準固定方式の下で、このような年金額改定について調整をし、給付水準の調整を行うこととする。その調整方法の基本は、厚生年金、基礎年金いずれにも共通して、賃金や労働力人口といった社会全体の保険料負担能力(支える力)の伸びに見合うよう年金改定率(スライド率)を調整する(マクロ経済スライド)というものである。
 給付水準調整は、世代間の公平の観点から、新規裁定者についてと同様に、既裁定者についても行うこととする。

 ○ マクロ経済スライドは、制度改正後速やかに適用を始め、最終的な保険料水準による負担の範囲内で年金財政が安定する見通しが立つまでの間(スライド特例期間)適用し、その後は上記の原則どおりの年金改定方法に復帰する。

 (4−2)スライド調整の基本的内容

  ○ マクロ経済スライドによる調整の基本的内容は、以下のとおりとする。
 なお、マクロ経済スライドによる給付水準の調整は、一人当たり賃金や物価が上昇する場合に行う。
 一人当たり賃金や物価が下落する場合には、通常の賃金スライド、物価スライドによる年金改定を行い、マクロ経済スライドによる給付調整は行わない。

 
 [新規裁定者]
  年金改定率 = 一人当たり賃金の伸び率
(実績値)
 − スライド調整率
 [既裁定者]
  年金改定率 = 物価上昇率
(実績値)
 − スライド調整率


 スライド調整率 = 公的年金被保険者数の減少率(実績値)
+ 平均的な年金受給期間(平均余命)の延び率を勘案した一定率

 ※ 高齢者の生活にも配慮し、前年度の年金額を下回らない調整とする(名目年金額下限型)。

 (4−3)スライド調整の具体的内容

  ○ スライド調整は、
 保険料を負担する現役世代の支える力の減少を反映した調整として、公的年金被保険者数の減少率による調整(毎年度変動するが、2004年から2025年間の平均では、ー0.6%程度の調整)と、
 平均的な年金受給期間(平均余命)の延びによる給付費総額の増大を勘案した調整(−0.3%程度の調整)
の2つの要素からなる。

 (支える力の減少を反映した調整 
  被保険者数の減少率による調整)

  ○ 支える力の減少を反映した調整値である被保険者数の減少率については、被用者年金だけでなく公的年金全体の被保険者数の減少率を指標として使用する。

 ○ スライド調整率としての被保険者数の減少率については、少子化による被保険者数が実際に減少し始めたときに、それに応じて自動的に給付水準を調整する方法である実績準拠法とする。

 ○ ただし、2025年頃から被保険者数の減少が本格化すると見込まれるが、実績準拠法では2025年頃までの給付調整が比較的緩やかであり、世代間の公平の観点からは、早期の給付調整が望ましいことから、給付調整を速めることとする。

 ※ 少子化による被保険者数の減少は社会全体の賃金総額等の実績に反映されるが、それに応じて自動的に給付水準が調整される仕組みとなることから、今後、次世代育成支援策を推進していった結果、少子化の進行に改善が見られれば、調整期間は短くなり、給付水準も想定より改善されることとなる。

  公的年金全体の被保険者数の減少率を使用する理由
 基礎年金と厚生年金の給付調整を同様に行っていくことを考えた場合、両者に共通の指標であることが基本的に望ましいこと
 短期的な景気の変動を強く受けない指標が適当であること
 世代間の公平の観点から、また、これから高齢化の進行が急速となり本格的な高齢社会の到来を控えていることから、速やかな給付水準の調整が可能となる指標が適当であること

 (平均的な年金受給期間(平均余命)の延びによる給付増大を反映した調整)

  ○ 給付と負担の均衡に影響を与える要因として、公的年金被保険者数の減少以外にも平均的な年金受給期間(平均余命)の延びによる給付総額の増大があることを踏まえ、平均的な年金受給期間(平均余命)の延び率を考慮した調整を合わせて行うことにより、早期の調整を行う。

 ※ 例えば、2000年から2025年の平均余命の延び率の見込み値の平均値は、将来推計人口によれば、0.3%あまりとなることから、スライド調整率に0.3%程度の数値を加えることとなる。

  なお、平均的な年金受給期間(平均余命)の延びによる調整については、短期的な要因に左右されて大きく変動しうる実績値に依るよりも、長期的なトレンドにしたがった延びの見込み値を考慮した一定数値を指標とすることにより、受給者にとって予測可能な安定した調整とする。

 ※ 将来見通し平均化法(2025年以降本格化する少子化の影響を予め織り込んで、2050年までの被保険者の減少率の見通しの平均でスライド調整する方法)によるスライド調整率の数値(公的年金被保険者数の減少率で見て、−0.9%程度)と、実績準拠法によるスライド調整率の平均値を少子化の影響が本格化しない期間の2025年まででとった場合の数値(公的年金被保険者数の減少率で見て、−0.6%程度)との差も0.3%程度であり、同程度の数値となる。

 (4−4)既に年金を受給している者の年金の調整

  ○ マクロ経済スライドによる調整を行う場合、世代間の公平の観点から、既裁定者も含めた調整とする。
 ただし、高齢者の生活にも配慮し、マクロ経済スライド調整後の年金額改定率をマイナスとしない、すなわち、年金額改定率の下限については名目額を下限とし、前年度の年金額を下回らない調整とする方法(名目年金額下限型)とする。

 (4−5)基礎年金の給付調整

  ○ 基礎年金についても、国民年金の保険料を負担可能な範囲内に収めるため、マクロ経済スライドにより、厚生年金と同じ調整を行う。

 (4−6)マクロ経済スライドによる所得代替率で見た給付水準の下限

  ○ マクロ経済スライドによる給付調整後の給付水準には下限を設けることとし、その下限の水準は、被用者の標準的な年金額の所得代替率(現役世代の平均的なボーナス込みの手取り賃金に対する新規裁定時の年金額の割合)で見て、50%とする。

 (4−7)スライドの3年平準化

  ○ 一人当たり賃金の伸び率は、景気の変動等の影響を受け、短期的には、大きな変動が生じることから、その伸びを平準化するため、3年平均値をスライド指標として用いる。

 ○ 同様に、マクロ経済スライドのスライド調整率の指標である公的年金被保険者数の変動率についても、3年平均値を使用する。

 ○ なお、物価スライドについては、できる限り直近の状況を反映することが適当であることから、前年の消費者物価の伸び率により、翌年度の年金額の改定を行うこととする。

 (4−8)賃金の伸び率が物価の伸び率を下回った場合

  ○ 名目賃金の伸び率が物価の伸び率を下回った場合(実質賃金上昇率がマイナスの場合)、原則として、既裁定者の年金改定率は賃金スライドとするなど、既裁定者と新規裁定者の年金改定率を合わせる。


 <試算結果の概要>

 
厚生労働省案に基づく試算結果 【有限均衡方式 《財政均衡期間95年間》

 《厚生年金の給付水準調整終了時の所得代替率(新規裁定年金、標準的な年金の世帯)》

厚生労働省案に基づく試算結果 【有限均衡方式《財政均衡期間95年間》】の図


 
<参考> 永久均衡方式で計算した場合

 《厚生年金の給付水準調整終了時の所得代替率(新規裁定年金、標準的な年金の世帯)》

<参考> 永久均衡方式で計算した場合の図


 
<参考> 国庫負担割合1/3の場合 【有限均衡方式 《財政均衡期間95年間》

 《厚生年金の給付水準調整終了時の所得代替率(新規裁定年金、標準的な年金の世帯)》

<参考> 国庫負担割合1/3の場合 【有限均衡方式《財政均衡期間95年間》】の図


 《試算の前提》

 1.保険料負担の上限
 厚生年金の最終的な保険料率は、年収の20%の他、参考として年収の19%及び18%とするケースについても試算した。


 2.保険料の引上げペース
 保険料は最終保険料に到達するまで、毎年度小刻みに引上げ、5年間の引上げ幅を平成11年財政再計算と同じとした。(単年度当たりの保険料(率)の引上げ幅;厚生年金0.354%(総報酬ベース、5年で1.77%)、国民年金600円(平成16年度価格))


 3.国庫負担
 平成12年年金改正法附則の規定を踏まえ、平成16年に基礎年金の国庫負担割合を1/2とした。参考として、国庫負担割合1/3の場合も試算した。


 4.将来推計人口(少子化の状況)の前提
 「日本の将来推計人口(平成14年1月推計)」の中位推計を基準ケースとした。
 少子化改善ケースとして合計特殊出生率が1.5程度まで回復すると仮定した場合、少子化進行ケースとして合計特殊出生率が1.1まで低下する「日本の将来推計人口(平成14年1月推計)」の低位推計とした場合についても試算した。

 合計特殊出生率(2050年)
基準ケース(中位推計)1.39
少子化改善ケース1.52
少子化進行ケース(低位推計)1.10
 注:高位推計の合計特殊出生率(2050年)は1.63

 5.経済前提
(1)物価上昇率
 2003年は、平成16年度概算要求に使用した数値(-0.4%)、2004〜2007年は、「改革と展望−2002年度改定」の試算(消費税増税のない場合)における物価上昇率(GDPデフレータ)により仮定した。
 2008年以降は、1.0%と仮定した。

《物価上昇率の前提》
2003年2004年2005年2006年2007年2008年〜
−0.4%−0.3%0.2%0.7%1.0%1.0%

(2)賃金上昇率、運用利回り

 年金資金運用分科会の報告「運用利回りの範囲について(検討結果の報告)」をもとに実質賃金上昇率及び実質的な運用利回り(対賃金上昇率)を仮定した。

 年金資金運用分科会の報告は、2003〜2007年度については、「改革と展望−2002年度改定」の試算に準拠している。

《賃金上昇率の前提》
  2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度〜
実質賃金
上昇率
0.9% 経済好転ケース 1.5%
基準ケース 1.1%
経済悪化ケース 0.8%
名目賃金
上昇率
0.5% 0.6% 1.1% 1.6% 1.9% 経済好転ケース 2.5%
基準ケース 2.1%
経済悪化ケース 1.8%

《運用利回りの前提》
  2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度〜
実質的な
運用利回り
(対賃金上昇率)
0.9% 経済好転ケース 0.8%
基準ケース 1.1%
経済悪化ケース 1.3%
名目運用
利回り
1.4% 1.5% 2.0% 2.5% 2.8% 経済好転ケース 3.3%
基準ケース 3.2%
経済悪化ケース 3.1%
 注:自主運用分の利回りの前提である。試算に用いている運用利回りは、これに財投預託分の運用利回り(平成13年度末の預託実績より算出)を勘案した数値を使用。

 《試算のまとめ》

 ○ 試算によれば、新規裁定者、既裁定者ともに、公的年金被保険者数の減少率と平均的な年金受給期間(平均余命)の延び率を勘案した一定率とを合算したスライド調整率で早期調整することにより、基準ケースで2013年にスライド特例期間は終了することとなる。
 すなわち、試算の前提が確保されれば、10年間程度の早期の給付調整を行うことで、概ね現在の40歳台以下の若い世代が年金受給を開始する頃には、年金額改定は通常の賃金スライド、物価スライドに戻っていることとなる。


 (5)物価スライドの特例措置の解消

  ○ 過去、物価が下落する中、経済社会情勢への配慮の観点から、物価スライドの特例措置が講じられ、現在、物価の変動に応じた本来の年金水準よりも1.7%分高い水準の年金額が支給されている。
 この特例措置については、計画的に解消することが必要であり、その具体的な方法については、16年度の年金額の改定の在り方と合わせ、予算編成過程の中で結論を得る。

 (6)世帯類型ごとの給付水準表示

  ○ マクロ経済スライドでは、世帯類型の別にかかわらず、同程度の給付水準の調整を行っていくこととなる。

 ○ 複数の異なった世帯類型でどの程度の給付水準となるかについて、被用者世帯の給付水準を見るときの指標である所得代替率(当該世帯の現役時代の平均的な手取り賃金に対する新規裁定時に受け取る年金額の割合)で見たものを参考として示す。

世帯類型別給付水準
世帯類型別給付水準の表

  ○ 現行の年金制度の体系は、定額の基礎年金と報酬比例年金を組み合わせたものであることから、一般的に、世帯類型にかかわらず、世帯一人当たりの賃金が高いほど、その世帯の所得代替率は低下することとなる。
 ただし、世帯一人当たりの賃金が高くなるほど、年金額そのものは高くなり、所得代替率が低いことのみをもって、公的年金の給付水準として不利になっていることは意味しない点に留意が必要である。


世帯(夫婦)所得別の年金月額及び所得代替率
− [最終保険料率20%、基準ケース] −


世帯(夫婦)所得別の年金月額及び所得代替率−[最終保険料率20%、基準ケース]−のグラフ


 (7)高額所得者に対する給付制限の是非と年金課税の見直し

 <高額所得者給付制限の是非>

  ○ 一定以上の高額所得者については、年金の給付制限を行うべきとの意見があるが、これに対しては、同額の保険料を同期間拠出したにもかかわらず、所得・資産によって給付制限を行うのは、拠出に応じた給付を行うという社会保険方式の基本が損なわれるという問題がある。
 特に、第1号被保険者に関しては、年齢により拠出期間と受給期間を一律に区分し、均一拠出・均一給付という保険原理の強い構成となっており、所得・資産によって給付制限を行った場合、保険料拠出意欲を損ない、制度の存立にも影響を与えかねない。
 また、実際にも、現状では、公正な所得把握が現実的に可能かという問題がある。
 年金制度全体の整合性から考えると、年金課税や在職老齢年金制度の見直しの方法が妥当と考えられる。


 <年金課税の見直し>

  ○ 高額所得者の負担力を考慮した負担の公平を図るためには、年金の給付制限によるより、年金に限らず高齢者の収入全体を標準とした負担を求めることが可能な年金課税の見直しによることが適当である。

 ○ 現行の公的年金等控除の仕組みについて、高齢者と給与所得者の間の負担の公平を勘案して縮小し、年金も含めた収入全体に応じた適切な税負担とすることが適当である。
 年金受給者の中における公平という観点から64歳以下と65歳以上とで別々に設けられている控除を一本化すること、控除そのものは給与所得とのバランスを保つこと、また標準的な年金だけで暮らしている高齢者世帯には課税がなされないようにすること等が必要である。

 ○ 公的年金等控除の見直しによる税収については、現役世代とともに高齢者も能力に応じて負担を分かち合う観点から、基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げの財源の一部として、相当する額を繰り入れるべきである。
 これにより、現役世代だけでなく、負担能力のある高齢者が国民共通の活力の基盤である年金制度を支えることを具体的な形とすることができる。


 65歳以降の在職老齢年金制度の見直し 〜 70歳以降も適用>

  ○ 一方で、60歳台後半の在職中の者については、引き続き厚生年金の被保険者となり、厚生年金と賃金の合計額が現役の平均的な賃金水準を上回るものについて支給調整を行う在職老齢年金制度がある。
 この仕組みについて、世代間の公平や高齢世代内の公平の観点から、就労し負担能力のある高齢者が年金制度の負担を分かち合うため、適用年齢を拡大する。

 (1) 現在の厚生年金の被保険者資格は70歳未満までとなっているが、この年齢制限をなくし、70歳以降も在職中は被保険者として保険料負担を求める(その後の退職時に、加入期間に応じて年金額は改定される。)とともに、

 (2) 60歳台後半の在職老齢年金制度を70歳以降にも適用する。


トップへ
戻る