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中期的な労働移動の見通しについて

1 趣旨
 ○ 産業構造の変化が急速に進む中で、各産業の労働力需要が大きく変化し、それに伴い産業間の労働移動が必要になると考えられる。こうした産業間の労働力需要の変化に対しては、これまでは豊富な若年労働力を背景に新卒者の成長産業への就職により対処してきた。しかし、今後は若年労働力が減少することから、中高年齢者も含め産業間での労働移動による調整を増加させることが必要になるものと見込まれる。
 ○ こうしたことから、構造改革調整期(集中調整期間)を含む今後5年間程度(2002〜2006年位)の期間に生じるものと想定される産業別にみた労働力需要面での変化に伴い必要となる労働移動(転職)に関し分析を行った。
 ○ なお、産業間の労働力需要の変化に対応して労働市場において実際に生じる労働移動には、企業間の転入出以外に、新規学卒者や非労働力人口からの転入、非労働力人口への転出等がある。こうした労働移動について分析するに当たっては、本来、転入出に係る経路全般を対象とすることが必要であるが、利用可能な統計に関する制約等から、ここでは企業間の転入出のみを取り上げ、分析しているものである。

2 推計方法

 イ 2006年に想定される産業別の就業者数
 1999年に行った雇用政策研究会における推計作業(労働力率関数を2001年実績値で足下調整。以下同じ。)に沿って、産業別に求める。
 ロ 2006年に想定される産業別の常用雇用者数
 イのベースとなった、1999年の雇用政策研究会における推計作業から「自営・家族従業者」と「臨時・日雇」を除いて、常用雇用者ベースとして、産業別に求める。
 ハ ロを実現するために必要な移動(転職)数の変化
(1) 2000年の移動(転職)数〔産業内・産業間〕(表1
 「労働力調査」(2000年)の常用雇用者に、「雇用動向調査」(2000年)の移動率を乗じて、「労働力調査」ベースに調整した移動(転職)数を求める。
(2) ロを実現するために必要な移動(転職)数〔産業内・産業間〕(表2
 厚生労働省「雇用動向調査」(2000年)の産業間転職者数のパターンのデータをもとに、想定される2006年の産業別の常用雇用者数の実現のために必要な2001年からの5年間の転職者数の合計数を求め、これから年平均の移動(転職)数を求める。
(3) 移動(転職)数の増減比較((2)−(1))〔産業内・産業間〕(表3

(注)
 イの前提
  ・ 就業者数を求める基本となる、実質経済成長率は1%程度の成長。
  ・ 2006年までの各年の完全失業率は、経済財政諮問会議「構造改革と経済財政の中期展望」の参考資料に示す数値。
 ロの前提
  ・ 前回の雇用政策研究会の推計作業は、「労働力調査」ベース(就業者ベース)。ハにおいて「雇用動向調査」の移動(転職)数のデータを用いることとなるところ、両統計の対象事業所・労働者の範囲(概念)の違いがあるため、ここでは、「労働力調査」の常用雇用者ベースとなるよう調整を行った。


労働移動の推計結果

表1 2000年の労働移動(転職) (万人)
  移動(転職)後の産業
産業計 建設業 製造業 電気・ガス・熱・水道業
運輸・通信業
卸売・小売業
飲食店
金融・保険業
不動産業
サービス業
移動(転職)前の産業 産業計 323 37 59 29 87 18 94
建設業 40 22 3 2 5 1 6
製造業 64 5 32 3 11 2 11
電気・ガス・熱・水道業
運輸・通信業
25 1 3 13 4 0 4
卸売・小売業
飲食店
52 2 7 2 29 2 10
金融・保険業
不動産業
15 1 2 1 4 4 3
サービス業 127 5 13 8 34 8 59
注: 「雇用動向調査」の対象外である小規模企業を含めた実績推計値.ただし、「その他の産業」からの転入を除く.
産業内
移動
産業間
移動
158 164


表2 2006年の産業構造実現に向けて移動が変化した場合 (万人)
  移動(転職)後の産業 
産業計 建設業 製造業 電気・ガス・熱・水道業
運輸・通信業
卸売・小売業
飲食店
金融・保険業
不動産業
サービス業
移動(転職)前の産業 産業計 379 40 79 33 78 20 128
建設業 44 21 7 2 4 2 8
製造業 76 6 38 4 10 2 17
電気・ガス・熱・水道業
運輸・通信業
30 1 4 14 4 1 6
卸売・小売業
飲食店
68 4 10 4 27 3 20
金融・保険業
不動産業
14 1 2 1 3 4 4
サービス業 146 8 18 8 29 8 74
産業内
移動
産業間
移動
178 201


表3(表2−表1) (万人)
  移動転職後の産業 
産業計 建設業 製造業 電気・ガス・熱・水道業
運輸・通信業
卸売・小売業
飲食店
金融・保険業
不動産業
サービス業
移動(転職)前の産業 産業計 56 3 20 4 -9 2 35
建設業 5 -2 4 0 -1 1 2
製造業 12 1 6 0 -1 -0 6
電気・ガス・熱・水道業
運輸・通信業
5 -0 2 1 -0 0 2
卸売・小売業
飲食店
16 1 4 2 -1 1 9
金融・保険業
不動産業
-1 -0 0 -0 -1 0 1
サービス業 19 3 5 1 -5 0 15
産業内
移動
産業間
移動
20 36


移動(転職入職)数の推移

図

(資料出所)厚生労働省「雇用動向調査」及び総務省「労働力調査」より職業安定局試算
(注)
1.1985年、1990年、1995年の移動(転職)数は、2006年までの推計移動数と比較可能な数値とするため、「労働力調査」常用雇用者ベースの数値として以下の方法により推計した。
イ.「雇用動向調査」現職産業大分類別・前職産業大分類別の入職者数のデータを用いて、前職産業から現職産業への転出率を、期初の常用雇用者数に対する比率として計算した。
ロ.イで計算した前職産業大分類から現職産業大分類への転出率を、「労働力調査」の常用雇用者数に乗じて「労働力調査」ベースの移動数とした。
ハ.なお、1990年以前は建設業が一般産業とは別に掲載されており、転職入職者数が前職の3大産業分類でしか得られない。このため、その内訳を1991年時点の前職の構成比で分割した。
2.新規学卒入職者数は、「雇用動向調査」の数値。
2002−2006年平均の新規学卒入職者数は、「労働力調査」の15〜29歳の非労働力人口、失業者、自営・家族従業者、臨時・日雇の人数に占める雇用動向調査の新規学卒就業者数の比率の過去の平均値をもとに、将来の当該年齢階級の非労働力人口、失業者、自営・家族従業者、臨時・日雇の人数に乗じて計算した。


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