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厚生労働省発表
平成14年7月18日
職業安定局雇用政策課
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「雇用政策の課題と当面の展開」
「多様選択可能型社会」の実現に向け
個人の新たな挑戦を支援する政策展開
(雇用政策研究会報告の取りまとめについて)


 雇用政策研究会(厚生労働省職業安定局長が参集を委嘱した学識経験者 (12名)による研究会(座長:小野 旭 東京経済大学教授))は、昭和59年以降、我が国の雇用政策の方向性や雇用に関する重要課題について、報告を取りまとめて来たところであり、直近では、平成11年5月に、21世紀初頭の約10年間の雇用の見通しと課題について報告をとりまとめた。政府は、この報告を基に雇用審議会における議論を経て同年8月に「第9次雇用対策基本計画」を閣議決定し、これに基づき、雇用対策を実施してきた。
 その後3年が経ち、経済・産業構造の転換が進む中で、前報告が提示した今後の労働市場をめぐる諸変化が、より広汎にかつ急速に進展しつつある。この間、完全失業率が5%台と高水準となるなど、雇用情勢は依然として厳しい状況で推移している。
 このような状況の中で、同研究会では、同計画策定後これまでの雇用・失業をめぐる情勢の変化について分析し、その分析結果も踏まえた雇用政策の課題と、我が国経済の集中調整期間に当たる今後2〜3年の時期を見据えて重点的に展開する雇用政策のあり方等について検討を重ね、今般、別添(PDF:100KB)のとおり報告を取りまとめたところである。
 本報告では、社会全体としての生産性の向上を図ると同時に働きがいを確立するという視点に立って、今後の労働市場システムの目指すべき方向として「多様選択可能型社会」の形成というビジョンを示すとともに、こうした中長期にわたって目指すべき方向を念頭に、当面、「労働市場のインフラ整備の推進」、「雇用・就業機会の整備」などに重点的に取り組むよう提言している。
 厚生労働省としては、本報告で提言された内容を参考に、今後の雇用政策の企画・立案に取り組むほか、雇用保険制度についての検討の場にもこれを提供するなどし、今後の政策展開に当たり最大限活用したいと考えている。


「雇用政策の課題と当面の展開」(要旨)
「多様選択可能型社会」の実現に向け
個人の新たな挑戦を支援する政策展開

◎ 取りまとめの趣旨等
 ○ 1999年8月に「第9次雇用対策基本計画」が閣議決定され、その後これに基づき、雇用対策が実施されてきたところ。その後3年が経ち、経済・産業構造の転換が進む中で、労働市場をめぐる諸変化が、より広汎に、かつ、急速に進展
 ○ このため、本年4月より、まず基本計画策定後これまでの雇用・失業をめぐる情勢の変化について分析し、その分析結果も踏まえた課題と、特に我が国経済の集中調整期間に当たる今後2〜3年の時期を見据えて重点的に展開する雇用政策について検討

◎ 構成

第1 雇用・失業をめぐる情勢の変化と課題

1 労働市場の変化

  ○ 依然として厳しい雇用失業情勢(完全失業率5.4%、有効求人倍率0.53倍(5月))
  ○ 雇用者数が前年同月比で大幅減少(▲93万人(5月))
  ○ 35時間未満の短時間雇用者が、年々増加。常用雇用者数の割合が低下
  ○ 週間就業時間が60時間以上の雇用者の割合は、バブル崩壊以降低下してきたが、近年再び上昇に転じており、男性で長時間労働をする者の割合が上昇
  ○ 非自発的失業者が自発的失業者数を上回り、その差も拡大
  ○ 失業期間の長期化(1年以上の長期失業者103万人(本年1〜3月、5年前の2倍以上))
  ○ 自営業主、家族従業者は、長期的(2000年2月以来2年4か月連続)な減少傾向
  ○ 転職希望率が過去最高を更新する等、景気が悪化している中での労働移動の増加

2 企業、労働者の行動、意識等の変化

 厳しい経済・雇用情勢の見通し、国際化・IT化の影響、企業組織の変化等の下で以下のような変化がみられる。
  ○ 「採用・就職」
職種別採用、通年採用の導入など企業の採用方法の変化、多様化
若年層の高い転職希望率など労働者側の仕事に対する意識の変化、「フリーター」の急増
  ○ 「処遇、賃金」
勤続年数は全体では増加傾向にあるが、若年層では横ばいないしは減少傾向
賃金を勤続年数別でみると、格差は徐々に縮小
企業側には、「労働者の企業に対する貢献の度合とは無関係に単に勤続に伴い賃金が上昇するような仕組み」について是正しようとする意識。
労働者側は、能力主義の必要性を認めつつも、評価基準の設定とその運用に当たり、「正しく成果や能力が評価されるか不明」との不安
  ○ 「能力開発等」
従業員に対する能力開発の実施状況をみると、OFFーJT(通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練・研修)を実施した企業は、全体の約3分の2
4割を超える従業員が、自己啓発に当たっての問題点として「忙しくて自己啓発の余裕がない」ことを指摘
キャリアコンサルティングの導入について検討している企業は、4割強
  ○ 「離職、退職」
2000年の離職者661万人を理由別にみると「個人的理由」が67.0%と最も高く、「契約期間の満了」が10.5%、「経営上の都合」が9.3%、「本人の意思」が6.3%
定年制については、1998年4月に60歳定年制が義務化されたが、大企業を中心に、定年年齢に先立つ早期の退職が行われている実態

3 中期的な労働移動の見通し
 ○ 1999年に行った当研究会における推計作業に沿って、今後5年間程度(2002年〜2006年)の期間に生じるものと想定される産業別にみた労働力需要面での変化に伴い必要となる労働移動(転職)に関し分析
※ なお、利用可能な統計に関する制約等から、今回は企業間の転入出のみを取り上げた。(詳細は「参考」を参照)
 ○ 完全失業率の傾向的上昇の下、労働移動が増加傾向で推移する見通し
今後5年間で労働移動の年平均は379万人(2000年は323万人)
   うち産業間移動は201万人(2000年は164万人)
   うち産業内移動は178万人(2000年は158万人)
 ○ 産業間移動を主体として、労働者が円滑な労働移動を実現し、失業を経る場合でも失業期間をできる限り短くするためには、労働者が自らの能力、適性等を的確に評価・把握し、必要に応じ新たな職業能力を身につけた上で転職することが不可欠であり、こうした点を前提とした政策面での対応が必要。

4 労働市場システムをめぐる今後の課題

 (1) 個人の個性・能力と経済活力が両立できる働き方の必要性
  ○ 従来は「長期雇用、年功賃金」といういわゆる日本的雇用慣行に則った働き方が中心
  ○ 今後は、個人が「仕事」を含めた「生活」の場全体を通じてその個性・能力を十分に発揮することにより、新たな働き方を含む豊かさを実感できる新しいライフスタイルの形成・定着を促すような経済社会システムが求められている
 労働市場システムについても、こうした要請に応える、我が国における新たなスタンダードの在り方を考えることが必要
  ○ いわゆる「正社員」以外の働き方による者が雇用者全体に占める割合は傾向的に高まっているが、こうした働き方が、「正社員」を含む他の働き方との間での転換の可能性を欠いた、言わば閉鎖的なままで並存しているような「多様化」の進展のみでは、上記の要請に応えるには不十分
  ○ 個人の個性と能力に応じた働き方が、複線型で、かつ随時選択可能なものとして用意され、誰もがそれを明確に認識している社会「多様選択可能型社会」と呼ぶこととする。

 (2) 「多様選択可能型社会」の実現に向けた労働市場システムの整備
  ○ 「多様選択可能型社会」の実現のためには、
(1) 労働市場の基礎となる基本的なルール、
(2) 働き方の選択可能性を保障する社会的インフラ
の2つの面から、労働市場システムの整備を進めることが必要

  (1) 労働市場の基礎となる基本的なルールの在り方
〜雇用の入口から出口までのルールの明確化〜
   (イ) 雇用の入口
 性にかかわりない均等待遇、年齢による制限の緩和
 労働契約期間の上限の見直し、期間及び更新条件等の契約内容の明確化
   (ロ) 在職中の処遇等雇用・労働条件管理
 多様な働き方について、相互に選択・転換、公正な評価、処遇制度の確立
 働き方や職務にふさわしい労働時間管理の検討(裁量労働制の見直し等)
 男女の均等な機会及び待遇の確保、仕事と子育て等との両立を可能とするため、企業経営者の自覚の醸成
 職業生活設計に即した自発的な職業能力の開発及び向上への援助
 年齢に関わりなく働ける社会の実現
   (ハ) 雇用関係の終了
 円滑な再就職に向けた各種支援措置を事業主が実施することの定着
 解雇ルールを立法で明示することを検討
 定年制の今後の在り方について、年齢に関わりなく働ける社会の実現を図るとの課題認識の下、議論を深める
   (ニ) その他
 非雇用のテレワークなどの働き方の就業環境の整備

 (2) 多様な働き方の選択を保障する社会的インフラ整備
〜個人の個性と能力に応じた主体的な選択を可能とする社会的なインフラの整備〜
 ○ 個人が、職業生涯を通じたキャリア形成についての戦略を持った上で、主体的なキャリア形成、能力開発を行えるような体制・制度の整備
 ○  求人情報や自己啓発機会に関する情報へのアクセスを容易にすることが必要
 ○ 労働移動が円滑に行われるよう、あるいは、失業を経由する場合にあっても再就職が早期に実現するよう、労働力需給調整機能の強化
 ○ 労働関係に関する紛争を簡易・迅速に解決するため、ADR(裁判外紛争処理)である個別労働紛争解決制度の円滑な運用

第2 当面重点的に展開する雇用政策

 第1に示した様々な変化に対応し、あるべき労働市場システムの実現に向けて、当面(今後2〜3年間)の構造改革調整期において重点的に講じるべき雇用政策について検討

1 労働市場のインフラ整備の推進

 (1) 労働力需給調整機能の強化
  ○ 官民の紹介機関の連携・協力の強化
  ○ しごと情報ネット、「働らコール」の活用
  ○ ハローワークインターネットサービスにおける求人企業名の掲載の早急な実現
  ○ 労働者派遣事業についての更なる規制改革
  ○ 地域のニーズ・特性に応じた需給調整の円滑化の促進(高齢者、障害者などを対象とした地域性の強い施策を展開する上で必要な職業紹介について、都道府県も一定の役割を担うことができるよう見直すことも検討)

 (2) 相談・評価機能の充実
  ○ 企業の内外を問わず各人が必要とするときに受けられるようキャリアコンサルティングの充実(能力要件明確化、養成充実、活用促進)
  ○ 企業横断的な職業能力評価制度の整備

 (3) 職業能力開発機会の提供等
  ○ 職業生活の全期間を通じて職業能力開発機会を利用できる体制
  ○ 主体的な選択によるキャリア形成を意識した自発的に能力開発を行うための休暇制度等の充実
  ○ 自己啓発に対する経済的支援の充実

2 雇用・就業機会の整備

 (1) 雇用機会の創出
  ○ 「雇用創出企画会議」の活用
  ○ 地域の実情に応じ、地域の主体的な発意に基づく雇用対策の尊重、国の支援
  ○ 雇用期間終了後の安定雇用への移行にも配慮した「緊急地域雇用創出特別交付金事業」の活用
  ○ 戦略的な研究開発分野等における起爆剤となりうるよう、高度の技術・知識を有する外国人の獲得のための積極的な措置

 (2) 多様な働き方に係る環境整備等
  ○ パートタイム労働の公正・均衡処遇のあり方に関する検討を早急に進める
  ○ 多様な働き方のいずれを選択しても公平な処遇の下にふさわしい保障を受けられる社会保障制度(「多様就業型ワークシェアリング」の普及にも関わる問題)
  ○ 社会保険のいわゆる「正社員」以外の雇用者への適用
  ○ 雇用保険制度の見直し(雇用形態の差異に応じて設けている給付の差)
  ○ 安心して働くことができるよう賃金、労働時間等の法定労働条件の遵守

3 重点的な支援を要する者への対応

 (1) 長期失業者への対応
  ○ 失業後できるだけ早い段階で十分な相談援助の実施
  ○ 失業者本人の再就職意欲に応じ、雇用保険の訓練延長給付を活用しつつ効果的な訓練などの取組の推進
  ○ 長期失業に陥った者について、ケースワーク制の導入も含めた相談・支援
  ○ 中高年ホワイトカラー離職者等への多様な職業訓練の推進(民間活用、IT活用能力向上、職業訓練の複数回受講)
  ○ 募集・採用時の年齢制限緩和の促進
  ○ 「トライアル雇用」の活用
  ○ 「紹介予定派遣」、「常用目的紹介」の活用
  ○ 中高年についての派遣期間の特例措置(1年→3年)の活用 等

 (2) 若年者への対応
  ○ 学校教育と職業社会との連携の強化
  ○ 夏期休暇を利用した応募先企業への職場見学会の開催、インターンシップ等の就業体験を通じた新卒採用時の適職選択の促進
  ○ 個々の状況に応じた相談援助の充実
  ○ 「紹介予定派遣」、「常用目的紹介」等の活用
  ○ 「若年者トライアル雇用」の推進

4 セーフティネットとしての雇用保険制度のあり方

 (1) 「再挑戦型セーフティネット」の構築
  ○ 再就職の意欲のあるものに対し、その意欲を阻害しないようにしつつ、必要な給付を行うよう、早急に見直し
  ○ 公共職業安定所が職業紹介と雇用保険のサービスをワンストップで提供しうるメリットを最大限活かす

 (2) セーフティネットとしての役割が持続的、安定的に果たせるよう、雇用保険財政の健全化に向けた取組
  ○ セーフティネットとしての役割が持続的・安定的に果たせるようにするために、雇用保険制度の構築に当たり、給付について最大限合理化した上で、労使双方による費用負担が適切に行われるようにし、雇用保険財政の健全化に向けた取組を推進

 (3) 雇用保険三事業の見直し
  ○ 雇入助成の見直し
  ○ 雇用維持支援から円滑な労働移動の支援や能力開発の支援への重点化
  ○ 雇用保険受給者向けの公共職業訓練の訓練コースの評価を踏まえた機動的設定 等


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