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分煙効果判定基準策定検討会報告書概要

平成14年6月

 現在、分煙を実施する施設が増えているが、その形態は、様々である。
 本検討会では、分煙効果の評価方法や今後の分煙のあり方等について検討を行い、新しい分煙効果判定基準(別紙)を取りまとめた。
分煙効果をより高め、かつその効果を評価するためのまとめと今後の課題は以下の通りである。

1)屋内に設置された現有の空気清浄機は、環境たばこ煙中の粒子状物質の除去については有効な機器があるが、ガス状成分の除去については不十分であるため、その使用にあたっては、喫煙場所の換気に特段の配慮が必要である。

2)受動喫煙防止の観点からは、屋内に設置された喫煙場所の空気は屋外に排気する方法を推進することが最も有効である。

3)受動喫煙防止及びきれいな空気環境を保持する観点から、環境たばこ煙成分をすべて処理できる空気清浄機の機能強化が求められるが、現在においてたばこ煙成分すべてを処理できるものはないのが現状であり、より有効なガス状物質を除去できる適切な機器の開発が今後の課題である。

4)環境たばこ煙の適切な指標となるガス状成分の除去率を定量できる手法を確立する必要がある。


(別紙)

新しい分煙効果判定の基準

屋内における有効な分煙条件

1)排気装置(屋外へ強制排気)による場合
  判定場所その1
喫煙所と非喫煙所との境界
(1)デジタル粉じん計を用いて、経時的に浮遊粉じんの濃度の変化を測定し漏れ状態を確認する(非喫煙場所の粉じん濃度が喫煙によって増加しないこと)
(2)非喫煙場所から喫煙場所方向に一定の空気の流れ(0.2m/s以上)
判定場所その2
喫煙所
(1)デジタル粉じん計を用いて時間平均浮遊粉じん濃度が0.15mg/m3以下
(2)検知管を用いて測定した一酸化炭素濃度が10ppm以下
2)空気清浄機による場合
  判定場所その1
喫煙所と非喫煙所との境界
(1)デジタル粉じん計を用いて、経時的に浮遊粉じんの濃度の変化を測定し漏れ状態を確認する(非喫煙場所の粉じん濃度が喫煙によって増加しないこと)
(2)非喫煙場所から喫煙場所方向に一定の空気の流れ(0.2m/s以上)
(3)ガス状成分について適切な方法で濃度を測定し、喫煙所からの漏れ状態を確認する(現在、その手法は確立されていない)
判定場所その2
喫煙所
(1)デジタル粉じん計を用いて時間平均浮遊粉じん濃度が0.15mg/m3以下
(2)検知管を用いて測定した一酸化炭素濃度が10ppm以下
(3)ガス状成分について適切な方法で濃度を測定し、その値がある一定以下であること(現在、その手法は確立していない)

大気環境全体を視野に入れた場合の条件は1)に以下を追加

(1)大気の環境基準が設定されている浮遊粒子状物質濃度の1時間値が0.2mg/m3を超えないこと
(2)大気の環境基準が設定されているガス状物質のうち、1時間値があるもの(二酸化硫黄が0.1ppm、オキシダントが0.06ppm)は、その濃度を超えないこと


分煙効果判定基準策定検討会報告書


平成14年6月


目次

はじめに
1.受動喫煙の健康への影響
2.分煙対策の評価
3.現在の基準
4.新しい分煙効果の基準
参考文献


はじめに

 平成7年3月に当時の公衆衛生審議会が取りまとめた「たばこ行動計画」では、防煙、分煙、禁煙支援の3つの柱が提言され、分煙対策の推進については、平成8年3月、「公共の場所における分煙のあり方検討会報告書」を公表している。
 さらに平成12年4月から開始した「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」における、たばこ分野の目標として、(1)喫煙が及ぼす健康影響についての十分な知識の普及、(2)未成年者の喫煙をなくす、(3)公共の場及び職場での分煙の徹底及び効果の高い分煙に関する知識の普及、(4)禁煙支援プログラムの普及の4つの目標を掲げたところである。
 このような中で、職場の分煙対策を始め、公共の場所においても、分煙を実施する施設が増えているが、その分煙の形態については、施設によって様々なのが現状である。
 本検討会では、分煙対策の重要な目的のひとつである、受動喫煙による非喫煙者への健康影響の削減・排除をテーマとして、受動喫煙の健康への影響、公共の場所の分煙の実施方法、分煙が効果的に実施されているかの評価方法、今後の分煙対策のあり方等について検討を行った。本報告書は、分煙の実効性を増すためには何をすべきかを中心に、専門家の意見をとりまとめたものである。


1.受動喫煙の健康への影響

1 たばこ煙の成分

(1) タバコ葉と喫煙

 たばこの喫煙によって発生する化学物質の種類は、分析技術の進歩に伴って同定される数が増加してきている。
 1988年にRobertsは3,040の化学物質が喫煙によるたばこ煙あるいはタバコ葉に含まれていることを確認している。タバコ葉の組成は生育土壌や生長の条件によって多少の差が生ずるが、概ね同様である。しかしながら、栽培時に使用する化学物質や、香気成分、保存剤などの添加剤によって違いが生ずることも知られている。表1(PDF:33KB)は、メーカーの違いによる種々の化学物質の発生量を比較したものである。これからも明らかなように、化学物質によっては10倍近く(例えばフェノール:44-371mg/本、ハイドロキノン:26-256mg/本など)も発生量が違うことがあることに注意すべきである。

(2) 喫煙条件

 たばこの喫煙条件は、人によって大きく異なり、一服の吸入量は17〜73ml、一服の吸入時間は0.9〜3.2秒、喫煙間隔は22〜72秒とされ、たばこ業界が表示するニコチンやタール量は、一服の吸入時間を2秒間、吸入量を35ml、喫煙間隔を60秒として示されている。したがって、個々の喫煙者によって発生する粒子状やガス状の化学物質の量は大きく異なることになる。
 たばこの煙は、無機ガス、有機酸、アルデヒド、ケトン、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、ピリジン、フラン、インドール等の複素環化合物、多環芳香族炭化水素を含んでいる。喫煙によって発生する化学物質の代表例は表に示すようである。特に、副流煙では主流煙(喫煙者が吸う煙)に比べ、その発生量はさらに高いものとなっている。喫煙によって吸入する粒子のうち呼吸器にはその約50%が蓄積されるとされており、ここに示された化学物質の大部分は健康に影響を与える可能性を有している。

(3) 喫煙における化学物質群

  a 主流煙で発生する化学物質群
 Norman(1977)およびGuerinn(1980)らは主流煙中の化学物質群について検討している。主流煙中の50%以上は窒素であり、次に酸素あるいは二酸化炭素や一酸化炭素が多く、これらだけで、全体の85%に達している。また、粒子状物質中には水分のほか酸類などが存在している。その他の5%にはアルデヒド、ケトンあるいはその他の有機化合物が含まれている。
 また、上記の空気無機ガスを除く主流煙における化学物質の生成量は、表2(PDF:26KB)に示すようである。粒子状物質の発生量は最も多く、タバコ1本から15〜40mg生成することが認められており、次に一酸化炭素、ニコチンの順となっている。

  b 多環芳香族炭化水素類
 化合物ごとにみると多環芳香族炭化水素類は表3(PDF:41KB)のようである。これら多環芳香族炭化水素類の中には発がん性が認められているものが多く、その生成量と空気中での存在量が注目されている。しかしながら、多環芳香族炭化水素の発生源はたばこばかりでなく、化石燃料の燃焼に伴って排出されることは明らかで、たばこに由来した特徴的な化学物質とはなってはいない。
 また、その発生量はたばこの燃焼条件によっても異なり、主流煙中での発生量は、たばこ100本当たりAnthracene 2.3-23.5μg/100cigarettes、Benzo(a)florene 4.1-18.4μg/100cigarettes、Benzo(a)pyrene 0.5-7.8μg/100cigarettes、Chrysebe 0.6-9.6μg/100cigarettes、Fluoranthene 1-27.2μg/100cigarettes、Phenanthrene 8.5-62.4μg/100cigarettes、Pyrene 5-27μg/100cigarettes、Carvazole 100等の特徴がみられる。一方、副流煙中には、主流煙中で多く確認された化合物とほぼ同様の物質が確認され、その発生量は2〜5倍量多いことが認められた。また、空気中の存在量においても同様の傾向がみられ、特に、Benzo(a)pyrene、Fluoranthene、Pyreneなどが顕著であった。

  c フェノール類
 フェノール類では、表4(PDF:28KB)に示すようにPhenol(9-161 μg/本)、o,m-,p--Cresol(7-82 μg/本)、2-Methoxy-4-propenylphenol(3-15 μg/本)、Catechol(21-502 μg/本)、4-Ethylcatechol(10-46 μg/本)、4-Vinylcatechol(84 μg/本)、Resorcinol(8-80 μg/本)、Hydroquinone(88-55 μg/本)などが生成される。また、高級脂肪酸では表5(PDF:28KB)に示すようにParmitate、Stearate、Oleate、Linoleate、Linolenateなどが生成される。

  d 含窒素化合物及び金属類
 含窒素化合物を生成する種類も多く、表6,7および8(PDF:32KB)などアニリン類、ピリジン類の他ニトロソアミン類も生成される。その他、金属類も多く、表9(PDF:16KB)に示すように24種類が確認されている。

  e アルデヒド類
 アルデヒド類は、主流煙よりも副流煙で4倍も多い発生量を示し、この影響は室内環境での存在量に反映されることが知られている。また、アセトアルデヒドの生成量はホルムアルデヒドに比較してはるかに多い。

  f 農薬類
 たばこ生産過程で混入するものとして表10(PDF:19KB)に示すような農薬類がある。ただし、これらの分析データは、1970年代の海外の情報である。現在我が国では、発がん性あるいは長期蓄積性を有する塩素系農薬類は「化学物質の審査及び製造に関する法律」によって使用禁止となっていることから、我が国で栽培されているタバコ葉中にはほとんどないと考えられる。我が国で市販されているたばこ中の他の農薬類については、情報が少なく明確ではない。

  g 主流煙と副流煙の化学物質の生成割合
 主流煙に対する副流煙の生成割合についてみると、ニコチン等の室内空気中濃度は表11(PDF:25KB)に示したように、主な40化合物のうち、副流煙の方が発生量が少ないものは5〜6種程度、ほぼ同程度の発生量が5〜6種程度でその他の化合物のうち16種の化合物で副流煙の方が極端に多い発生量を示していた。

(4) 室内空気中の喫煙由来の化学物質濃度

 種々の化学物質の室内空気環境における濃度については多くの報告がなされている。その例として表12(PDF:20KB)に示すように、最も濃度が高いものは浮遊粒子状物質であり、次いで窒素酸化物、さらにニコチンである。また、たばこの喫煙状況を評価するための指標として、表13(PDF:20KB)のように浮遊粒子状物質やニコチン量の濃度が示されている。当然のこととして、喫煙条件や程度によってこれらの化学物質の濃度は大きく異なることが示されている。

2 受動喫煙の急性影響

 体の粘膜が、たばこ煙、特に副流煙に暴露することによって生ずる刺激症状として、咳、喘鳴、鼻症状(くしゃみ、鼻閉、鼻汁、かゆみなど)、眼症状(痛み、流涙、かゆみ、瞬目など)、頭痛などが挙げられる。また、鼻咽頭反射を介する呼吸抑制も認められる。これらの粘膜刺激による反応は、主流煙よりも副流煙の影響がより強く、特に副流煙のニコチン濃度により影響の強さが左右される。また、これらの症状はたばこ煙への暴露時間が長くなるほど強くなり、常習喫煙者よりも非喫煙者の方がより強い反応を示すことも明らかにされており、他人のたばこからの煙への迷惑感、不快感の原因となりうる。
 受動喫煙の急性影響としては、上述した粘膜刺激作用の他に、肺に吸引され、体内に吸収された成分による影響がある。血液中のCO-ヘモグロビン飽和度が上昇することにより、呼気中CO濃度が上昇するほか、心筋の酸素需要度増加などの反応が起きる。また、吸収されたニコチン等による反応として、指先の血管収縮、心拍数増加なども起こる。妊婦が喫煙した場合にはCO-ヘモグロビンの増加によって胎児に運ばれる酸素量が減ることにより、胎児の発育が悪くなるなどの影響が出ることが知られており、妊婦の受動喫煙によっても同様に胎児に影響する可能性がある。ただし、どの程度の影響を胎児に及ぼすかは不明の部分が大きい。

3 受動喫煙の子どもへの影響

 受動喫煙の子どもへの影響としては、呼吸器疾患の罹患率、有病率の増加、呼吸機能の低下、発がん、身体発育への影響などが報告されている。
 呼吸器疾患については、母親が喫煙者である場合、非喫煙者である場合と比較して、子どもが肺炎・気管支炎で入院する率が高いこと、遷延性の感冒への罹患率、下部気道疾患の罹患率が高いことなどが報告されている。このような影響は、生後1年目までは明瞭に認められても、児の成長とともにはっきりしなくなるという報告もある。喫煙者のいる家庭では、3歳児の喘鳴、1週間以上持続する咳の有病率が高いことが報告されている。
 父親、母親がともに喫煙する場合と、ともに喫煙しない場合で子どもの呼吸機能を比較すると、ともに喫煙する場合の方が、肺活量、1秒量などで測定した呼吸機能が一般に低いと報告されている。
 未成年の時期の受動喫煙によって、その後の発がんリスクが増加することがいくつかの研究で報告されている。15−29歳のがん患者438名を調査した研究では、父親が喫煙者の場合、発がんの危険性が1.5倍と有意に増加することが観察されている。さらに、非喫煙者が家庭内で経験する受動喫煙の量をsmoker-years(S-Y)、すなわち、家庭内喫煙者数に本人の家庭内生活年数をかけあわせた数値で表すと、小児期及び青年期のS-Yが25以上の場合には、それ以下の場合と比較して肺がんリスクは2.1倍に倍増すると報告されている。
 発育への影響としては、家庭内の喫煙者の人数と6−7歳児の低身長との間に関連性が認められたという報告がある。
 胎児期、新生児期の受動喫煙は、その後の受動喫煙よりも強く影響がでるのではないかと懸念されているが、胎児期、新生児期に受動喫煙する子どもは、ほとんどの場合、その後も受動喫煙が続くため、早期の受動喫煙の影響のみを抽出することはほとんど不可能である。

4 受動喫煙と生活習慣病

 受動喫煙の慢性影響として、最も多く報告されているのは肺がんリスクの上昇である。その先鞭となったのは平山によるコホート研究の解析で、非喫煙者である妻の肺がん死亡リスクは、夫も非喫煙者である場合を1とすると、夫が前喫煙者である場合には1.36倍、夫が現在喫煙者である場合には、1日あたりの喫煙量が、1−14本、15−19本、20本以上では、それぞれ、1.42倍、1.53倍、1.91倍であったと報告されている。その後、多くの研究結果が報告されたが、有意な増加を示すものと示さないものが混在しており、必ずしも明確な成績は得られていない。しかしメタアナリシス(類似の調査を収集し、総合的に評価する方法)では、夫の喫煙による肺がんリスクの増加は、1.3−1.5倍程度であると推定されている。
 循環器疾患、特に虚血性心疾患に対する受動喫煙の影響としては、長期暴露による影響と、短期的な暴露による発作の誘発について報告がなされている。前述した平山のコホート研究では、夫が喫煙していない場合と比較して、一日あたりの喫煙量が1−19本、20本以上の場合には、妻の虚血性心疾患による死亡は、それぞれ、1.10倍、1.31倍となっており、統計的に有意であると報告されている。発作の誘発については、労作性狭心症患者を対象として、受動喫煙させた場合の実験結果が報告されている。受動喫煙中の心拍数増加、血圧上昇、血中CO−ヘモグロビン値上昇は統計的に有意であり、運動負荷による発作発現までの時間は、部屋を換気した場合、換気しなかった場合では、受動喫煙がない場合と比較して、それぞれ、22%、38%ほど短縮したと報告されている。

5 受動喫煙の精神・心理面への影響

 受動喫煙に関する意識調査は職場ではいくつかの実施例が報告されているが、全国的な調査としては以下のものがある。
 総理府が1988年に行った「健康と喫煙問題に関する世論調査」は全国20歳以上、3,000人を層化2段階無作為抽出法で選び、面接聴取によって行ったもので、有効回答数は78%であった。喫煙状況では、「毎日吸っている」、「時々吸うことがある」を合わせると33.3%であった。喫煙に関する意識では、「人が吸うたばこを迷惑と感じることがあるか」の問いに対しては、「よくある」が26.5%、「たまにある」が38.3%で両者を合わせて64.9%の人が迷惑に感じていた。性・年齢別では、女性(76.0%)が男性(51.6%)より多く、特に20〜40歳代の女性は80〜82%と高率であった。この中には喫煙している人も含まれており、特に1日の喫煙本数が10本未満の人は、その54.9%の人が「迷惑と感じることがある」と回答していた。また吸ったことの無い人に限ると79.8%の人が迷惑に感じていた。
 迷惑に感じている内容は、「煙草の煙やにおい」が85.9%と圧倒的に多く、以下「健康や出産への影響」(25.2%)、「肺がんなど病気の心配」(24.5%)、「火災の恐れ」(19.1%)がほぼ20〜25%の回答率であった。
 一方、喫煙する側から見ると、吸わない人に対する配慮として、「喫煙するときは相手の了解を得るなどの配慮をすればよい」と答えた者が44.9%、「吸わない人の近くでは原則として喫煙すべきではない」と答えた者が33.8%と両者を合わせると78.7%と受動喫煙への理解はあるように思われるが、「吸わない人も寛容であるべき」とする者も15.9%あった。
 厚生省の1996年の保健福祉動向調査(健康)では、平成8年国民生活基礎調査の調査区から層化無作為抽出した300地区内における15才以上すべての世帯員38,710人を対象に調査を実施し、回収率は89.6%であった。このうち「たばこ」に関する質問は20才以上の者のみが回答している。現在の喫煙率は、男性55.1%、女性13.3%、全体では33.2%で、前述の報告とほぼ同じである。
 他人の喫煙に対する気持ちでは、「迷惑ではない」が30.0%に対して、「迷惑である」が58.2%であり、女性では「迷惑である」が72.7%でこの率は年代によっても大きな変化はなかった。また、現在喫煙していない人ではその割合は81.8%とさらに高くなっていた。
 労働省の1997年の「労働者健康状況調査報告」では一部島嶼等を除く、全国の常用労働者10人以上を雇用する民営事業所から抽出した約12,000事業所に雇用されている労働者から16,000人を抽出して調査が行われた。喫煙者の割合は、男性59.7%、女性19.4%、全体では45.2%であった。
 喫煙対策に取り組んでいる事業所の割合は全体の47.7%で、このうち「禁煙場所、喫煙場所を設けている」としているところは78.8%であった。「職場での喫煙に関して、不快に感じる事、体調が悪くなること」が「よくある」「たまにある」とした労働者は、喫煙者で33.6%、非喫煙者で63.3%であった。また男女別では喫煙者で男性33.2%女性35.7%、非喫煙者では男性62.5%、女性63.9%で、男女差はほとんどなかった。
 以上3つの調査をまとめると、喫煙率は一般国民全体で33%とほぼ変わらず、職場での調査では45.2%とやや高い。喫煙を不快に感じたり、迷惑に感じたりする割合は、非喫煙者の女性で最も高い傾向が見られ、いずれもおおよそ80%の値であったが、職場ではやや低く63%であった。また、非喫煙者だけでなく、喫煙者であっても、他人の喫煙を不快に感じたり、迷惑に感じたりする者が30%近くいることにも注目する必要がある。 迷惑に感じる事は、煙やにおい等の感覚的なことが最も多く、次いで健康面の心配、火事、焼け焦げの心配であり、受動喫煙に対する対策を多くの人が求めていることがうかがえる。


2.分煙対策の評価

1 評価の必要性

 先の調査報告でも述べたように、労働省(現厚生労働省)は従前より職場での分煙対策を進めており、1996年には「職場における喫煙対策のためのガイドライン」を策定している。また一方、公共の場所においても分煙を実施する施設が徐々に増えてきているが、その形態は様々であり、形ばかりの分煙対策となっている場合があることも否定できない。これは、これまで科学的な客観的指標による分煙効果を判定する基準が示されていなかったのも一因である。
 分煙対策は、非喫煙者の受動喫煙による健康影響や不快感の排除、軽減という目的が達成されて初めて効果的な対策がなされていると判断すべきである。そのためには、分煙環境をできるだけ適切に、科学的に評価することによって、より効果的な分煙環境に改善していくことが今後の分煙対策を行っていく上で重要である。
 先に述べたように、分煙対策の目的は、受動喫煙による健康影響の防止と同時に、精神・心理面の問題の改善もある。従って、評価は利用者の精神・心理面の評価及び室内空気環境の測定による評価の両面が必要である。
 また、分煙効果は非喫煙場所の空気環境が汚染されていないことを評価すればその目的を達しているわけではない。喫煙場所が公共の建物または事業所内であれば、当然喫煙場所も「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(通称ビル衛生管理法)」、「事業所衛生基準規則」の基準を満たした良好な環境に保たれるべきものである。さらに言えば、建物から局所排気などによって大気中に排気されたたばこ煙によって周辺の大気環境を汚染することも好ましくない。
 これからの分煙効果の評価は、受動喫煙による健康影響の防止を第一義とするのは当然であるが、同時に喫煙場所の環境、建物周辺の大気環境も考慮すべきものである。

2 利用者の精神・心理面の評価

 分煙対策を行う際には、職場などでは事前に喫煙対策に対するアンケート調査を行い、その結果に基づいて分煙対策をとった方が協力を得られやすい。一般の公共施設では、不特定多数の利用者に対するアンケート調査になるので、その実施と分析には多少の困難を伴うが、喫煙対策に対する利用者の事前の意識を調査しておくことは、対策後の評価を行う上で重要である。参考資料1(PDF:114KB)に職場で使用される喫煙対策実施前の調査用紙の一例を示した。公共施設等の状況に応じ、これを参考に質問票を作成されることが望まれる。
 分煙対策を行った場合にはその実施後に、再び利用者の意識調査を行い、喫煙者を含めた利用者の分煙対策に対する、精神・心理面の満足度を把握することが重要である。参考資料2(PDF:117KB)にその一例を示した。この様な事後評価を定期的に行って、さらに喫煙者、非喫煙者の両者にとってより満足度の高い分煙対策を推進していくことが重要である。

3 室内空気環境測定による評価

 室内空気環境測定による評価を行うためには、まず室内空気汚染対策の手法の違いによるそれぞれの特色、評価の指標を何にするか等の知識を得ておくことが必要である。

(1) 室内空気汚染対策の原則

 分煙対策に限ったことではないが、室内空気汚染物質の除去手段としては、汚染物質の室内侵入を許さない手段と汚染物質の侵入を許したのちに除去する手段の2つに大別される。前者は、さらに汚染発生源を除去・隔離する方法と、発生源の性質を変え無害化する方法の2つに分けられ、後者は、空気清浄機等によって汚染物質を除去する方法と、換気により室外へ排出する方法の2つに分けられる。

(2) 室内空気汚染の4つの対策

  (1)発生源を除去する方法
 上記4つの方法は、汚染物質に対する働きかけが、列挙した順に積極性が少なくなるという特徴をもっている。第1番目の方法は、その意味で最も積極的であり、この方法が可能な場合もあろうが、通常はかなり困難な対策であると言える。すなわち、対象とする汚染物質がCO2、VOC(揮発性有機化合物)、臭気などの場合、その主要発生源の1つが人及びその活動であることを考えると、十分な対策はとりえない。たばこ煙の場合には喫煙者の自覚と協力があればある程度の隔離は可能と思われる。

 図1は、オフィスビル室内において喫煙を許している場合と、同じ部屋において喫煙を許さない場合の比較結果を示している。 図より明らかなように、喫煙を許さない日の粉じん濃度は極めて低く、変動も少ないのに対し、喫煙を許す場合には、濃度が大きく変動し、ピーク時にはビル衛生管理法の基準(0.15mg/m3)を大きく超えている。
 しかしながら、いつもこの喫煙を許さない方法(施設内の全面禁煙)が使えるわけではない。以下にそれ以外の方法について記述する。

図1

図1 喫煙を禁止することの効果

  (2)発生源を無害化する方法
 この方法はたばこ煙の場合、余り実用的ではない。

  (3)空気清浄機等による汚染物質除去
 この方法は、室内に侵入した汚染物質を除去するものである。但し、除去の対象となる汚染物質が特定されており、さらにその物理化学的挙動特性が十分に知られていなければならない。従って対象とする汚染物質が単なる浮遊粉じん1種類の場合のような単純なケースの場合は実用的であると言えるが、VOC(揮発性有機化合物)、たばこ煙、燃焼排ガス、臭気のように、問題とする汚染物質が気体やエアロゾルなど様々な化学物質からなる場合には、必ずしも全ての原因物質を除去できないという欠点を抱えている。また、空気清浄機等の維持管理が不十分だと、浄化装置の汚染保持容量を越える汚染物質を処理する結果となり、浄化装置からの汚染の再発生という事態も生ずる。さらに、保持容量を越える処理をしていなくとも、管理が悪ければ、捉えた汚染物質を保持している部分に微生物が繁殖する、化学反応を起こすなどして、別な形の汚染を起こす恐れも考えられる。また、浮遊した粉じんであっても空気清浄機の中に入らない限り、除去されることはないのが事実であり、この方法にあまり過大な期待はできない。さらに、使用者によっては、空気清浄機があることにより、精神的な安定を得るといった側面も認められないとは言えないが、逆に、空気清浄機に頼りすぎ、換気や掃除、蒲団の管理など基本的な室内環境整備のための対策を怠るようになるとしたら問題であるため、この点からも、注意が必要である。

図2

図2 空気清浄機の粉じん除去性能

 図2には、空気清浄機運転状況と室内の粉じん濃度の変化を示した。図より、空気清浄機運転前でも、粉じんは壁などへの吸着や沈降などにより少しずつ濃度が減少するが、空気清浄機が運転され始めるとその減衰曲線の傾きが急になることより粉じん除去が有効に行われることがわかる。

図3

図3 実験的に発生させたガス状物質に対する空気清浄機の効果

 一方、図3は、同じ空気清浄機でもガス状物質に対して用いられたときの測定結果である。この場合は、空気清浄機の運転の如何にかかわらず、各ガス状物質の濃度は、壁等への吸着によるわずかな減衰を示すのみである。
 以上より、空気清浄機をたばこ煙処理に適用したとしても、たばこ煙の粒子状成分しか除去できないことになり、ガス状物質は未処理のまま空気中に再放出さされることになる。なお、最近は、活性炭、光触媒、ゼオライト、ホタテ貝の貝殻、お茶の葉などが、ホルムアルデヒド等の一部の化学物質の除去に効果があると言われるようになってきているが、実験室の小さなチャンバー内などではある程度の効果が認められても、実空間で即効的な有効性が証明されたケースは殆どないと言って良い。
 従って、いわゆる「分煙機」なるものには、単なる空気清浄機しか備えていないものが多いが、このような分煙機により処理された空間が「喫煙室」とされていることには、多大の問題があると言える。

  (4)換気による方法
 最後に、換気による室内空気中の汚染物質除去は、最も消極的な方法ではあるが、汚染物質がガス状物質であろうと粒子状物質であろうと、また、それらの汚染物質の挙動等がそれほどよく分かっていなくとも、さらには除去しなければならない汚染物質が何種類あろうとも確実に全ての汚染物質を室外へ排除できるという長所を持っている。特に、たばこ煙、VOC(揮発性有機化合物)、燃焼排ガス、臭気のような複雑な特性を持った汚染物質の除去法としては、最も費用がかからず、また実用性の高い方法と言える。ただし、この方法は換気される外気の汚染物質の濃度が、室内空気中にある汚染物質の濃度より低いことが前提となっている。

図4

図4 換気の効果

 図4は、窓を締め切ると、換気率が0.07回/時となる極めて気密性が高い建物内部における、壁から発生してくるラドンガス濃度の経時変動を示したものである。ほとんど換気(空気の入れ替わり)がない状況であるため、ラドンガス濃度は上がり続け、2日半後には、飽和状態に達する。しかしながら、そのような状況で、窓を開けると濃度は直ちに0に近い状況まで下がることがわかる。すなわち、換気の効果は絶大であるといえる。
 これまで述べてきた換気は、「希釈換気」と呼ばれるもので、室内に発生したたばこ煙のような汚染物質は、室内に拡散することを前提にしているものである。一方、汚染物質が拡散する前に換気フードのようなもので補足し室外に排気してしまえば、少ない換気量で効果的に室内空気を清浄に保つことができるので、きわめて有効な方法である。このような換気方法を「局所換気」と呼び、最も典型的な例が、厨房の換気である。厨房のように、汚染の発生源が、定まったところに固定されているときは効果的である。発生源が定まらなかったり、時には移動したりするたばこ煙の場合には、適用しにくい方法とも考えられるが、逆に考えれば、たばこ煙という移動発生源を、フードの下に位置させることができれば極めて好都合ともいえるため、今後の分煙対策の一つとして、考えられる方法である。

  (5)まとめ
 室内空気汚染物質の除去手段としては、以下の4つに分けられる。
  ア)汚染発生源を除去、隔離する方法
  イ)発生源の性質を変え、無害化する方法
  ウ)空気清浄機等によって汚染物質を除去する方法
  エ)換気による方法
 ア)は、最も根本的で理想的は方法であるが、いつでも適用可能とは限らない。
 イ)の方法は、たばこ煙汚染除去には適用できない。
 ウ)の方法は、たばこ煙中の粒子状物質の除去には効果があるが、ガス状物質については有効な除去はなされていない。なお、最近、活性炭や光触媒等を利用した一部のガス状物質を除去できるタイプの空気清浄機が出回ってきているが、その効果は未だ不十分である。
 エ)の方法は、最も消極的に見える方法であるが、あらゆる場合に適用可能な実用性の高い方法である。局所換気システムと組み合わせると特に効果的である。

(3) 評価のための測定項目の選定

 分煙対策が効果的に行なわれているかどうかを判断するためには、喫煙場所や非喫煙場所の室内空気環境中の喫煙由来物質の濃度を測定することにより定量的な評価を行うことが必要である。
 そのためには、測定対象項目を選定する必要がある。前述したようにたばこ煙中には多くの化学物質が存在するが、ここで言う測定対象項目は、あくまで分煙対策の評価を行うための適切な指標となるもので直接的に生体に悪影響を及ぼす物質の測定を行うものではない。
 測定対象項目を選定するに当たって、米国の国立科学アカデミー(NAS,national academy of sciences,1990)により示されている環境たばこ煙(ETS, Environment Tobacco Smoke)の暴露評価のマーカーの満足すべき要件が参考となる。以下に、環境たばこ煙(以下ETSと略)の暴露評価のマーカーの満足すべき要件の4項目を示した。
  I.ETSに特異的であること(たばこ以外に当該化学物質の発生源がない)
  II.喫煙率が低くても室内で容易に検知できること(発生濃度が低くても検出できる)
  III.発生割合が、たばこの種類(銘柄)に大きく依存しないこと(多くの銘柄からほぼ同じ割合で発生する)
  IV.ほかのETS構成物質と一定の割合にあること(他の化学物質濃度がある程度推測できる)
 また、既存の文献から室内環境濃度へのETSの寄与率(当該物質の喫煙場所の空気中濃度に対するたばこ煙から発生した当該物質の割合)を表14にまとめた。ニコチンは100%がETS由来であり、特異性の点で非常に有効なマーカーである。その次が吸入性浮遊粉塵(RSP)で寄与率は50%であるが測定・分析が比較的容易であるためマーカーとしての価値もある。その他の化学物質は寄与率が低く、他の要因による寄与があり、特異性に欠けるためマーカーとしてはあまり有効ではないと考えられる。

表14 室内環境濃度へのETSからの寄与率1)
一酸化炭素 15%
アンモニア 3%
ホルムアルデヒド 5%
オゾン 0%
窒素酸化物 12%
吸入性浮遊粉塵(RSP) 50%
メタン系炭化水素 5%
塩素化炭化水素 0%
ベンゼン 35%
二酸化硫黄 20%
ニコチン 100%
ベンツピレン 5%
微生物、細菌等 0%

 吸入性浮遊粉塵(RSP)の寄与率は50%であるが、さらにその寄与率を高めるためにたばこ煙中のタール成分などの不揮発成分に注目をして、吸入性浮遊粉塵(RSP)を適当な溶媒に抽出した後、その紫外波長分析成分や蛍光分析成分などの値を測定項目としたUV-PM (ultraviolet particulate matter)、F-PM (fluorescent particulate matter)、Sol-PM(solanesol particulate matter)がマーカーとして注目されている。
 ニコチンは空気中でガス状と粒子状で存在し、ガス状のニコチンは、発生直後から壁などへの吸着による減衰が激しいためマーカーの要件IVを満たさないが、比較的発生直後であれば良いマーカーとなる。
 その他、CO、CO2、VOCについてはETSのマーカーとして良好であるという報告はほとんど見られなかった。
 文献のレビューを行った結果、環境たばこ煙(ETS)の分煙効果を評価するための測定項目として挙げられたものを表15にまとめた。
 このうち、特異性という点からはニコチン濃度、RSP濃度(吸入性浮遊粉じん)、UV-PM濃度(RSPの紫外波長分析成分)、F-PM濃度(RSPの蛍光波長分析成分)、Sol-PM濃度(RSPの紫外波長分析成分)の他、3−EP(3−Etenylpyridine)濃度が有効と考えられる。

表15 環境たばこ煙(ETS)評価のための測定項目等の文献レビューのまとめ
( 3)〜10))文献番号
  測定項目 測定方法 分析方法 備考
海外 RSP ろ過捕集 重量分析  
ニコチン 固体捕集 ガスクロマトグラフ(NPD検出器)  
一酸化炭素 CO測定器 直読  
二酸化炭素 CO2測定器 直読  
UV-PM ろ過捕集 液体クロマトグラフ(UV検出器) RSP試料利用
F-PM ろ過捕集 液体クロマトグラフ(蛍光検出器) RSP試料利用
Sol-PM ろ過捕集 液体クロマトグラフ(UV検出器) RSP試料利用
3-EP 固体捕集 ガスクロマトグラフ 文献が少ない
国内 RSP 粉塵計 直読/換算値  
一酸化炭素 検知管 直読  

 なお、RSP濃度は、ETS以外の粉じんの影響も受けるため他の測定項目との相関が必ずしも良くないが、化学的な処理等がされない単純な量(ろ過捕集―重量分析)であるため一つの比較値としての意味から測定項目とすべきであろう。
 さらに、3−EP濃度は、文献が少ないが、他の測定項目との相関がよいとされているため測定項目として有効と思われるが、今後の検討が必要である。
 また、測定・分析の点からはUV-PM濃度、F-PM濃度、Sol-PM濃度、3-EP濃度については、特殊な測定器具や液体クロマトグラムなど高価な分析装置の他、専門的な技術も必要になるため容易に行うことはできない。またニコチンは、発生直後から急速に環境中濃度が減衰すること、分析にガスクロマトグラムを用いることから、評価のマーカーとして利用するには難点が残る。一方、測定・分析の簡便さの点では既に事務所内の粉じん濃度を測定するために使用されている光散乱方式を用いた粉塵計によるRSP濃度の測定が有効な方法である。
 全く開放された屋外の公共の場における測定による評価に関する文献は見られなかった。


3.現在の基準

 喫煙対策の方法として、全面禁煙、空間分煙、時間分煙などがあるが、喫煙対策の評価方法には、喫煙場所や禁煙場所の状況調査、アンケートによる意識調査、空気環境の測定などがある。分煙対策を行う際には、喫煙区域と禁煙区域が共存しているため、特にたばこ煙による空気環境への影響を評価するための測定が必要となる。
 公共の場所における分煙対策については「公共の場所の分煙のあり方検討会報告書」(厚生省 平成8年3月)の中で分煙方法の具体的内容として空間分煙と分煙手法の組合せによって次の4つに分類しているが、評価基準は示していない。
 A:喫煙場所を完全に分割された空間とする。
 B:喫煙場所を設置し、分煙機器(環境たばこ煙を屋外に排出する機器、空気清浄器、喫煙場所を他の区域と分割する機器やその複合体)により環境たばこ煙が完全に流れ出ないようにする。
 C:喫煙場所を設置し、分煙機器を用いて環境たばこ煙を軽減する。
 D:喫煙場所を設置するが、分煙機器は使用しない。
 一方、職場としての事務所においては事務所衛生基準規則(労働安全衛生法)において室内空気の環境基準として一酸化炭素濃度、炭酸ガス濃度についてそれぞれ50ppm、5000ppmと定められている。また、中央管理方式の空気調和施設等のある事務所においては供給空気の清浄度の基準として浮遊粉じん濃度、一酸化炭素濃度、炭酸ガス濃度についてそれぞれ0.15mg/m3以下、10ppm以下、1000ppm以下と定められている。
 また、ビル衛生管理法では、中央管理方式の空気調和設備、あるいは機械換気設備を設けている場合は、浮遊粉じん濃度、一酸化炭素濃度、炭酸ガス濃度の基準値は、それぞれ0.15mg/m3,10ppm,1000ppm以下、また気流については冷風の人体に対する影響を考慮して0.5m/s以下と定められている。
 職場における喫煙対策については「職場における喫煙対策のためのガイドライン」1)(労働省 平成8年2月)の中で、全面禁煙、時間分煙、空間分煙の3つの方法のうち空間分煙を進めることが適切であるとされている。また、たばこの煙が職場の空気環境に及ぼしている影響を把握するため、事務所衛生基準規則に準じて、空気環境の測定を行い、浮遊粉じん、一酸化炭素の濃度がそれぞれ0.15mg/m3、10ppmの基準値以下となるよう必要な措置を講ずることとされている。


4.新しい分煙効果の判定基準

1 有効な分煙の評価法について

 分煙は非喫煙者の受動喫煙による健康への影響を排除・減少させるのが大きな目的の一つであるが、同時に喫煙する者のために、喫煙場所もビル衛生管理法、事務所衛生基準規則の基準を超えない、良好な空気環境に保持することも重要であり、分煙効果を評価するためには、その両者を評価しなければならない。 また、受動喫煙を防止しても、屋外に環境たばこ煙を排出する場合には、大気環境を損なう恐れもある。従って分煙の評価法の観点として以下の2つの条件が考えられる。
 * 判定条件1 受動喫煙を防止する。
 * 判定条件2 受動喫煙を防止するとともに、きれいな大気環境を保持する。
 判定条件1は、受動喫煙の防止を第一に考えた場合、判定条件2は、受動喫煙の防止だけではなく、大気環境全体を視野に入れた分煙対策と言える。後者の方が理想的ではあるが、費用の面や屋外の分煙対策では困難を伴うことが多いので、判定条件2を考慮しつつ、判定条件1を当面の目標としてもよい。以下に、両者の分煙効果の判定基準を示す。
 なお、以下にいう喫煙場所は、隔離された喫煙室、あるいは非喫煙場所との境界が家具、パーティション、カーテンを用いるなど、何らかの方法で仕切られている場所を、あるべき姿として想定している。したがって、非喫煙場所と境界のない喫煙席や喫煙コーナーを喫煙場所としている場合は、喫煙場所と非喫煙場所の最も適切と思われる境界を決める必要がある。

● 判定条件1(受動喫煙を防止する)の場合
 1)屋内における有効な分煙の条件
 (1) 喫煙場所から非喫煙場所に環境たばこ煙成分(粒子状物質及びガス状物質)が漏れ出ないこと(非喫煙者の受動喫煙防止)
 (2) 喫煙場所における空気環境を良好な状態に保つこと(喫煙者の受動喫煙の軽減)
  a 屋外への排気装置による喫煙場所の場合
   (a) 喫煙場所と非喫煙場所との境界における分煙効果の判定基準
    (1) デジタル粉じん計を用いて、経時的に浮遊粉じんの濃度の変化を測定し、漏れ状態を確認すること。すなわち非喫煙場所の粉じん濃度が喫煙によって増加しないこと(強制排気の場合はガス状物質も粒子状物質と同様に排気されるので、粒子状物質の測定のみで代表できる)
    (2) 非喫煙場所から喫煙場所方向に一定の空気の流れ(0.2 m/ s以上)があること
   (b) 喫煙場所における分煙効果の判定基準
    (1) デジタル粉じん計を用いて測定した時間平均浮遊粉じんの濃度が0.15 mg/ m3以下に保たれていること
    (2) 検知管を用いて測定した一酸化炭素濃度が10 ppm以下であること
  b 空気清浄機による喫煙場所の場合
    (a) 喫煙場所と非喫煙場所との境界における分煙効果の判定基準
    (1) デジタル粉じん計を用いて、経時的に浮遊粉じんの濃度の変化を測定し漏 れ状態を確認すること。すなわち非喫煙場所の粉じん濃度が喫煙によって増加しないこと
    (2) 非喫煙場所から喫煙場所方向に一定の空気の流れ(0.2 m / s以上)があること
    (3) ガス状成分について適切な方法で濃度を測定し、漏れ状態を確認すること(現在、適切な評価対象となるガス状成分および測定手法は確立されていない)
   (b) 喫煙場所における分煙効果の判定基準
    (1) デジタル粉じん計を用いて測定した時間平均浮遊粉じんの濃度が0.15 mg/m3以下に保たれていること
    (2) 検知管を用いて測定した一酸化炭素濃度が10 ppm以下であること
    (3) ガス状成分について適切な方法で濃度を測定し、その値がある一定値以下であること(現在、適切な評価対象となるガス状成分および測定手法は確立されていない)

● 判定条件2(受動喫煙を防止するとともにきれいな大気環境を保持する)の場合<
1) 屋内における有効な分煙の条件
 (1) 喫煙場所から非喫煙場所に環境たばこ煙成分(粒子状物質及びガス状物質)が漏れ出ないこと(非喫煙者の受動喫煙防止)
 (2) 喫煙場所における空気環境を良好な状態に保つこと(喫煙者の受動喫煙の軽減)
 (3) 屋外へ排気する際には、建物周辺の大気環境を汚染しないように、適切な処理をしてから排気すること(周辺住民の受動喫煙防止及び環境の保全)
  a. 屋外への排気装置による喫煙場所の場合
   (a) 喫煙場所と非喫煙場所との境界における分煙効果の判定基準
    (1) デジタル粉じん計を用いて、経時的に浮遊粉じんの濃度の変化を測定し、漏れ状態を確認すること。すなわち非喫煙場所の粉じん濃度が喫煙によって増加しないこと
    (2) 非喫煙場所から喫煙場所方向に一定の空気の流れ(0.2 m/ s以上)があること
   (b) 喫煙場所における分煙効果の判定基準
    (1) デジタル粉じん計を用いて測定した時間平均浮遊粉じんの濃度が0.15 mg/ m3以下に保たれていること
    (2) 検知管を用いて測定した一酸化炭素濃度が10 ppm以下であること
   (c) 屋外排気装置周辺の大気の判定基準
    (1)大気の環境基準が設定されている浮遊粒子状物質濃度の1時間値が0.2mg/m3を超えないこと
    (2)大気の環境基準が設定されているガス状物質のうち、1時間値があるもの(二酸化硫黄:0.1ppm、オキシダント:0.06ppm)は、その濃度を超えないこと
  b. 空気清浄機による喫煙場所の場合
   (a) 喫煙場所と非喫煙場所との境界における分煙効果の判定基準
    (1) デジタル粉じん計を用いて、経時的に浮遊粉じんの濃度の変化を測定し、漏れ状態を確認すること。すなわち非喫煙場所の粉じん濃度が喫煙によって増加しないこと
    (2) 非喫煙場所から喫煙場所方向に一定の空気の流れ(0.2 m/ s)があること
    (3) ガス状成分について適切な方法で濃度を測定し、漏れ状態を確認すること(現在、適切な評価対象となるガス状成分および測定手法は確立されていない)
   (b) 喫煙場所における分煙効果の判定基準
    (1) デジタル粉じん計を用いて測定した時間平均浮遊粉じんの濃度が0.15 mg/ m3以下に保たれていること
    (2) 検知管を用いて測定した一酸化炭素濃度が10ppm以下であること
    (3) ガス状成分について適切な方法で濃度を測定し、その値がある一定値以下であること(現在、適切な評価対象となるガス状成分および測定手法は確立されていない)

 分煙効果をより高め、かつその効果を評価するためのまとめと今後の課題は以下の通りである。今後さらに調査・研究が行われ、より優れた分煙方法及びその効果判定基準が作成されることを望むものである。

1)屋内に設置された現有の空気清浄機は、環境たばこ煙中の粒子状物質の除去については有効な機器があるが、ガス状成分の除去については不十分であるため、その使用にあたっては、喫煙場所の換気に特段の配慮が必要である。

2)受動喫煙防止の観点からは、屋内に設置された喫煙場所の空気は屋外に排気する方法を推進することが最も有効である。

3)受動喫煙防止及びきれいな空気環境を保持する観点から、環境たばこ煙成分をすべて処理できる空気清浄機の機能強化が求められるが、現在においてたばこ煙成分すべてを処理できるものはないのが現状であり、より有効なガス状物質を除去できる適切な機器の開発が今後の課題である。

4)環境たばこ煙の適切な指標となるガス状成分の除去率を定量できる手法を確立する必要がある。


参考文献

1.受動喫煙の健康への影響
  厚生省、喫煙と健康問題に関する報告書、1993
  総理府、健康と喫煙問題に関する世論調査、1988
  厚生省、平成8年保健福祉動向調査(健康)、1996
  労働省、労働者健康状況調査報告、1997

2.分煙対策の評価
0) 池田耕一:「室内空気汚染の現状と対策」日刊工業新聞社刊、1998
1) L.C.Holcomb, J.F.Pedelty: The impact of ventilation on indoor air quality; Environmental tobacco smoke as a point source, proceeding of the annual meeting, air & waste management association, 84th. vol.3, 1-19,1991
2) 労働省安全衛生部環境改善室監修:職場における喫煙対策Q&A、中央労働災害防止協会、p35、1998

3.現在の基準
1) 労働省安全衛生部編:やさしい空気環境へー職場における喫煙対策推進マニュアル、中央労働災害防止協会、1996
2) ACGIH、沼野雄志 訳:1999 TLVs and BEIs、(社)日本作業環境測定協会、1999


参考資料

1.公共の場における環境たばこ煙(ETS)評価のための文献

 フィンランドのレストラン等における環境たばこ煙(ETS)のマーカーとして、ニコチン(nicotine)とエチニルピリジン(3-ethenylpiridine)による評価を行った。その結果、ナイトクラブやデイスコで高く、レストランで低かった。ニコチン(nicotine)濃度は1.4-42.2μg/m3、エテニルピリジン(3-ethenylpiridine)濃度は、1.4-6.3μg/m3であり、両者には比較的よい相関(0.94)がみられた。この2物質はタバコ煙に特異的な物質でエテニルピリジン(3-ethenylpiridine)濃度はニコチンに比べて低いがマーカーとなるといわれている。ニコチンは、発生直後から減衰が激しいので煙が発生した直後であれば、良いマーカーとされている。また、低濃度でも分析は容易である。 その他に、TVOC(total volatile organic compounds)やCO,CO2 の測定も行なわれた。TVOC濃度は、デイスコやナイトクラブで発煙装置が使用された時が最も高かった。


J.N.Cardoso et al.: UV-respirable suspended particles as a marker of ETS in indoor atmospheres in urban cities of Brazil, J.Aerosol Sci., Vol.24(1),pS439-S440,1993
 ブラジルのオフィスやレストランにおいて、ETS(environment tobacco smoke)のマーカーとしてRSP(吸入性浮遊粉塵)、UV-RSP(UV吸入性浮遊粉塵)、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドの測定を行った。
 RSPはフィルターでろ過捕集(15 l/min)後、重量分析、UV-RSPは、フィルターでろ過捕集後、メタノールで脱着、325nm 吸光度分析を行った。 アルデヒド類(aldehydes)とケトン類(ketones)はSep-Pak C18 カートリッジ(SKC)で固体捕集後、脱着し、HPLCで分析した。ニコチン(nicotine)は、XAD-4カートリッジ(SKC)で固体捕集後、脱着し、GC(NPD)で分析した。VOCは活性炭管(SKC)で固体捕集後、脱着し、GC-MSで分析した。
 RSP(27-318μg/m3)濃度は、 UV-RSP(0.44-13.5μg/m3)濃度やニコチン濃度と相関は見られなかった。RSP 中のUV-RSPの割合は0.53-14.7%で、喫煙者の最も多かったオフィスでのこの値は5.19%であった。
 ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドの濃度は、それぞれ33-425μg/m3, 31-352μg/m3であり、ホルムアルデヒドについては最も低かったのはレストラン、高かったのはオフィスで喫煙との関係は一定ではなかった。アセトアルデヒドについては特にそのような傾向は見られなかった。これらの物質は屋外の車の影響も考えなければならない。


Keith Phillips et all: Assessment of personal exposures to environmental tobacco smoke in British nonsmokers, Environment International, Vol.20,6,p693-712,1994
 ノンスモーカーを対象に、24時間のパーソナルサンプリングを行った。
 サンプリングは、2つのフィルター(テフロンフィルター(ETS用)、試薬含浸フィルター(ニコチン用))を装着したホルダーを用い、ろ過捕集法により行った。
 PAS((particles from all sources:分粒特性からTSP、RSPといえない)濃度は、ろ過捕集後、重量分析を行った。 ETS粒子濃度は重量分析後の試料をメタノール脱着し、UV-PM、F-PM、Sol-PMの分析をHPLCで行った。試薬含浸フィルターに捕集されたニコチンは、イソプロピルエーテルで脱着後、分析をGC(NPD)で行った。パーソナルサンプリング開始時と終了時に採取した唾液中のコチニンをジクロロメタンに抽出後、その分析をGCMSで行った。
 結果は、80%の被検者にETS暴露はないか低いレベルであった。暴露に多く影響を及ぼすものの順位は、家にいる時間、レジャーの時間、勤務時間であった。また、旅行は大きな影響を与えなかった。
 ニコチン濃度とETS濃度(Sol-PM)との間には中程度の相関関係(0.66)が見られた。一方、唾液中コチニン濃度とニコチン濃度との間の相関は低く、ETS濃度も同様に低かった。唾液中コチニン濃度の閾値25ng/mlは喫煙者と非喫煙者の区別に使われた。ETS濃度とPAS濃度との相関は見られなかった。
 ETS粒子とニコチンは、たばこ煙から一定の割合で発生するが、ニコチンは、主にガス状で存在し、壁などに吸着して、ETS粒子よりも速く減衰してしまうといわれている。よって、発生時と発生後一定時間たった後のETS粒子とニコチンの割合は異なる。パーソナルモニタリングなど長時間(24時間)の平均値でETS暴露評価を行う際には、ニコチン濃度とETS粒子濃度が有効と思われる。(ETS粒子とニコチンの割合の変化が平均化されるためか?)


C.J.Proctor et all: Measurement of environmental tobacco smoke in an air-conditioned office building, Present and future of indoor air quality, p169-172,1989
 空調のあるビル内の喫煙者のいるオフィスと喫煙者のいないオフィスに対してETSの影響について比較を行うため、ニコチン、RSP、UV-RSP、CO、CO2、VOC(18物質)の測定を行った。
 ニコチンは、吸着剤にXAD-4を用いて固体捕集法で採取し、脱着後、GC(NPD: nitrogen-phosphorous detector)で分析を行った。RSP は、3.5um以上の粒子をカットするインパクター使用して メンブランフィルターでろ過捕集後、重量分析を行った。
 UV-RSPは、重量分析後の試料をメタノールで脱着の後、325nmでの吸光度の測定を行った。COは、CO専用測定器、CO2は検知管による測定を行った。VOCは、TENAX TAに固体捕集し、加熱脱着後、GC-MSで分析を行った。
 喫煙者のいるオフィスと喫煙者のいないオフィスで顕著に差が見られたのは、ニコチン濃度とUV-RSP濃度であった。RST中のUV-RSPの割合は小さかった。また、ニコチン濃度は、中央値で3.1 μg/m3と微量であった。CO、CO2、VOC(18物質)については、ほとんど差が見られなかった。


E.A.Miesner: Particulate and nicotine sampling in public facilities and offices,JAPCA,39,1577-1582,1989
 公共施設(地下、バスステーションなど)やオフィスにおいてPM-2.5(2.5um以下の粒子)、ETS(ニコチン)の他、リアルタイムの粉じん計による測定も実施した。
 PM-2.5濃度は、インパクターで2.5umよりも小さい粒子をテフロンフィルター上にろ過捕集し、重量分析により測定した。ニコチンは、試薬含浸グラスファイバーフィルターに捕集し、GC で分析を行った。リアルタイム粉じん測定器は光散乱を利用したものであり、0.3-2.0umの粒子(比重:1.5g/m3)について測定でき5secごとの平均値が得られるものと、0.1-10umの粒子(比重:2.7g/m3)について測定でき10sec平均値が得られる小型のものを用いた。
 ニコチン濃度は、PM-2.5の濃度とともに増加し、両者の相関係数は0.76であった。また、両者の比(PM-2.5の濃度/ニコチン濃度)は15であった。この比は、室内の壁等に吸着したニコチンの再飛散の影響を受けるかもしれない。その濃度の最大値は喫煙対策の行なわれているビル内の喫煙室で得られたもので26μg/m3であった。リアルタイム粉じん測定濃度とPM-2.5の濃度は喫煙場所での結果で良い一致を見た。


Charles Thomas, Milton Parish, P.Baker, Robert A.Fenner, and John Tindall : The reproducibility of ETS measurements at a single site; Environmental tobacco smoke as a point source, proceeding of the annual meeting, air & waste management association, 82nd. vol.6, 1-19,1989
 オフィスビルでRSP、UV-PM、F-PM、ニコチン、COの測定を行った。
 ニコチンは、XAD-4を捕集剤とした固体捕集法で行い、溶剤で脱着後、GCで分析をした。(NIOSHの方法) RSPは、3.5um インパクターで分粒し、メンブランフィルターでろ過捕集を行った後、重量分析を行った。UV-PMとF-PMは、RSP試料をメタノール脱着後、それぞれHPLC(UV検出器)、HPLC(蛍光検出器)で分析を行った。COについては、専用の連続測定器を用いた。
 喫煙本数と測定項目との関係については、喫煙本数とニコチン濃度の相関は0.76、F-PM濃度との相関は0.79と一番高かった。ついで、UV-PM濃度との相関(0.59)であった。一方、CO濃度は、喫煙本数と良い相関は見られなかった。測定項目間では、一番相関がよかったのはF-PMとUV-PM(0.74)、二番目がニコチンとF-PM(0.67)、三番目がニコチンとUV-PM(0.56)であった。

2.空気清浄機の性能評価に関する文献


W.Mark Pierce, Effectiveness of auxiliary air cleaners in reducing ETS components offices, ASHRAE(American society of heating, refrigerating and air-conditioning engineers) Journal, 38,11,p51-57,1996
 空気清浄器(フィルターろ過、固体吸着機能を有する)の性能を評価するため、空気清浄器の使用の有無、全体換気の有無など種々の条件下で喫煙場所内とその周囲の禁煙場所でRSP、FPM、UVPM、ニコチン、COについて濃度測定を行った。
 測定の結果、RSP、FPM、UVPM、ニコチンについては空気清浄器の効果が見られた。この内特にHEPAフィルターはRSPに、固体吸着剤(活性炭)はニコチンに対して非常に効果が見られた。COについては非常に微量であるが測定可能な量が喫煙場所内からその周囲の禁煙場所への漏洩が確認された。
 また、喫煙場所で全体換気を行うことにより、喫煙場所から禁煙場所への漏れの防止に効果的であることが確認されたが、空気清浄器をさらに効果的に使用するためには次の項目についても注意を払う必要がある。
  I.外気の供給量
  II.空気清浄器の流量
  III.喫煙場所の広さ
  IV.喫煙量
  V.喫煙場所とその周囲との圧力差

3.環境たばこ煙(ETS)評価のためのマーカーの条件に関する文献


D.J.Moschandreas, K.L.Vuilleumier: ETS levels in hospitality environments satisfying ASHRAE standard 62-1989; "ventilation for acceptable indoor air quality", Atmospheric Environment, 33,p4327-4340, 1999
 環境たばこ煙(ETS)の暴露評価には、ETSのマーカーの測定が必要であるが、NAS (national academy of sciences)は、ETSのマーカーとして満足すべき要件として次の4項目を挙げている。(1990)
  I.ETSに特異的であること
  II.喫煙率が低くても室内で容易に検知できること
  III.発生割合が、たばこの種類に大きく依存しないこと
  IV.ほかのETS構成物質と一定の割合にあること
 RSP (respirable suspended particulate:2.5um以下の粒子)については、その半分は屋内の発生源によるが、屋外の発生源による寄与も大きい。そのため特異性に欠けるが、比較基準としてよく用いられる。ニコチンについては、たばこ煙からのものであるため特異性があり、比較的容易に検出できる点ではマーカーとしての要件を満たしている。一方、ニコチンは空気中でガス状と粒子状で存在し、ガス状のニコチンは、発生後、急速に減衰するため4の要件を満足しない。しかし、マーカーとして良く使用されている。
 最近、RSPの成分として、UVPM (ultraviolet particulate matter)、FPM (fluorescent particulate matter)、Solanesol/SolPM(triesquiterpenoid alcohol/MW=631)の3つの分析法による数値が利用されている。これらは、RSPの様に単に粉じんの総重量ではなく、たばこ中のタールの含有率や特異的な不揮発性物質に注目したものであり、マーカーとして注目される。
 本検討では、マーカーとして使用されることが多いニコチン、RSP、UVPM 、FPM 、SolPM、3-EP (3-ethenylpyridine)の6つのETS成分についてマーカーとしての有用性について検討を行った。その結果、ETSのマーカーとしてニコチンとRSPはある限界を持っているが良いマーカーと考えられる。また、UVPM 、FPM 、SolPM、3-EPについても良いマーカーと考えられる。


参考資料3

新しい分煙効果判定の基準

屋内における有効な分煙条件

1)排気装置(屋外へ強制排気)による場合
  判定場所その1
喫煙所と非喫煙所との境界
(1)デジタル粉じん計を用いて、経時的に浮遊粉じんの濃度の変化を測定し漏れ状態を確認する(非喫煙場所の粉じん濃度が喫煙によって増加しないこと)
(2)非喫煙場所から喫煙場所方向に一定の空気の流れ(0.2m/s以上)
判定場所その2
喫煙所
(1)デジタル粉じん計を用いて時間平均浮遊粉じん濃度が0.15mg/m3以下
(2)検知管を用いて測定した一酸化炭素濃度が10ppm以下
2)空気清浄機による場合
  判定場所その1
喫煙所と非喫煙所との境界
(1)デジタル粉じん計を用いて、経時的に浮遊粉じんの濃度の変化を測定し漏れ状態を確認する(非喫煙場所の粉じん濃度が喫煙によって増加しないこと)
(2)非喫煙場所から喫煙場所方向に一定の空気の流れ(0.2m/s以上)
(3)ガス状成分について適切な方法で濃度を測定し、喫煙所からの漏れ状態を確認する(現在、その手法は確立されていない)
判定場所その2
喫煙所
(1)デジタル粉じん計を用いて時間平均浮遊粉じん濃度が0.15mg/m3以下
(2)検知管を用いて測定した一酸化炭素濃度が10ppm以下
(3)ガス状成分について適切な方法で濃度を測定し、その値がある一定以下であること(現在、その手法は確立していない)

大気環境全体を視野に入れた場合の条件は1)に以下を追加

(1)大気の環境基準が設定されている浮遊粒子状物質濃度の1時間値が0.2mg/m3を超えないこと
(2)大気の環境基準が設定されているガス状物質のうち、1時間値があるもの(二酸化硫黄が0.1ppm、オキシダントが0.06ppm)は、その濃度を超えないこと


参考資料4

分煙効果判定のための記録用紙

1.測定者

2.サンプリングの目的(○印)
  1.喫煙対策前の測定
  2.喫煙対策実施後に効果を把握するための測定
  3.喫煙対策の効果を維持管理するための測定

3.サンプリングの実施日等
実施日 測定場所 測定点の高さ
   
cm

4.喫煙場所の定員(    人)

5.喫煙場所の広さ(床面積:    m2, 天井までの高さ:    m)

6.喫煙場所の概略図(主要な設備,測定機器の配置)
   * 図中に分煙機器による空気の流れを矢印で示すこと

















(備考:                )

7. 機器等の稼働状況
1.分煙機器の処理風量
・換気扇(     m3/min ×    台)
・空気清浄機(     m3/min ×    台)
2.分煙機器の稼動状況
・換気扇( 24時間連続運転,  :  〜  :  まで運転, なし )
・空気清浄機( 24時間連続運転,  :  〜  :  まで運転, なし )
3.ドア,窓の開閉状況
(          )
4.各測定点に対する特記事項
(          )
5.温度(     ℃)、湿度(      %)

8.分煙効果の評価項目
  分煙機器 : 換気扇(   台),空気清浄機(   台)

測定場所 測定項目 1回目
 : 〜 : 
2回目
 : 〜 : 
3回目
 : 〜 : 
喫煙場所と非喫煙場所との境界付近
浮遊粉じん濃度の変動
非喫煙場所から喫煙場所方向への空気の流れ
有 ・ 無
m/s
有 ・ 無
m/s
有 ・ 無
m/s
喫煙場所
時間平均浮遊粉じん濃度
CO濃度
mg/m3
ppm
mg/m3
ppm
mg/m3
ppm
・喫煙本数


分煙対策を行う際には,喫煙対策に対する利用者の意識調査を行い,その結果に基づいて分煙対策をとった方が協力を得られやすい。
分煙対策実施後に,利用者の意識調査を定期的に行い,喫煙者,非喫煙者の両者にとってより満足度の高い分煙対策を推進していくことが重要である。


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