目次
第1 キャリア・コンサルティング研究会設置の背景と目的 |
1 キャリア・コンサルティングの意義
第一に、現下の厳しい雇用失業情勢の下、失業の要因の3分の2が労働需給のミスマッチであり、その中でもとりわけ能力のミスマッチの問題が大きいといわれている。こうしたミスマッチを全体として解消するためには、離職者はもちろん、在職者に対しても企業内において、職業情報を提供しつつ、成長分野を念頭に置いた適切なキャリア形成を支援していくことが不可欠である。
第二に、技術革新の急速な進展、経済のグローバル化等により、急激な産業構造の変化や企業の興廃が進み、労働移動が活発化し、企業を越えて通用する能力が求められている。一方、企業内においても、内部組織のフラット化等により、個々の労働者に対し、新たな技術への適応力、問題発見・解決能力等の、幅広い能力が求められるようになっている。このため、従来のような企業主導の能力開発・キャリア形成だけでなく、個々の労働者において、自らキャリア形成を進めていくことが求められている。
上記ように、今後、個人主導のキャリア形成を的確に進めることが不可避となる中で、労働市場に係る多様な情報提供や、個人の職業経験、適性等を踏まえた専門的な相談支援を図る「キャリア・コンサルティング」実施のための体制づくりが求められており、「キャリア・コンサルティング」を担う人材の養成とキャリア・コンサルティングの普及・活用は喫緊の課題といえる。
※ キャリア・コンサルティングとは 本調査研究において「キャリア・コンサルティング」とは、「労働者が、その適性や職業経験等に応じて自ら職業生活設計を行い、これに即した職業選択や職業訓練の受講等の職業能力開発等を効果的に行うことができるよう、労働者の希望に応じて実施される相談」(職業能力開発基本計画(第7次))をいう。 |
2 研究会設置の目的
現在、キャリア・コンサルティングを担う人材の養成については、民間企業、事業主団体等において各種講座が開設されているところであるが、その位置づけやキャリア・コンサルティングを担う人材に求められる能力、その人材の養成の在り方等について統一的な枠組みが示されていない。
今後、ますますキャリア・コンサルティングの重要性が増す中で、キャリア・コンサルティングの質的な水準を確保し、その活用を推進するためには、資格のあり方を検討するとともに専門的領域や相談技術のレベル等について整理分類していくことが必要である。
このため、キャリア・コンサルティングを担う人材を養成している現行の民間講座等の実態を踏まえ、標準的なキャリア・コンサルティング体系を作成し、キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力要件を明確にすることとした。
1 能力体系の作成に当たっての考え方
(1) 基本的な考え方
キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力を体系化するに当たって、
(2) 諸外国のキャリア・コンサルティングの歴史と現状などを調べること
を前提に、最終的には、我が国独自のキャリア・コンサルティング能力体系を作成することを目指すこととした。
(2) 具体的な作業方針
我が国の現行のキャリア・コンサルティングの実態を反映させるため、関連資料を収集し、分析することとした。具体的には、いくつかの代表的テキスト(官民を問わず。マニュアルを含む)等を参考に、その中でキャリア・コンサルティング能力に関する記述について抽出し、それぞれについてカード化した上で、グルーピングし、カテゴリーとして編成することとした(KJ法)。
なお、カードの編成に当たっては、次の仮説を立てた。
○ | キャリア・コンサルティング能力には、キャリア・コンサルティングが行われる「場」により(例えば、企業内、需給調整機関、能力開発機関等)、その「場」ごとに固有に必要とされる能力と、あらゆる場所に共通する能力とに分けられる。 |
(3) 作業の実施
上記方針に基づき、カードをグループ分けしていき、体系の素案を作成した。
その後、何回かにわたって各委員の意見を採り入れ加除修正を施し、更に実際にキャリア・コンサルティング関係の養成講座を実施している立場からの各参与の意見も考慮に入れ最終的な体系となった。
(4) 作業結果等
前述の仮説については、キャリア・コンサルティング能力が共通能力と固有能力とに分けられることは明らかになったが、共通能力部分が大半を占めることから、今回の体系は共通能力のみで作成することとした。
さらに共通の能力体系は、大別して4つのカテゴリーに集約した。
なお、各項目の解説においては、知識とスキルの違いが明確になるよう、知識については「〜を理解している」に、スキルについては「〜することができる」に表現を統一した。
2 能力体系の解説
キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力を体系的に整理したのが、以下に示す「能力体系」である。当該能力体系は、4つのカテゴリーから構成されている。各カテゴリーについては、それぞれ必要とされる能力を項目として掲げるとともに、各項目についての理解を得やすくするために解説を付している。
なお、用語の整理として、「キャリア・コンサルタント」は、キャリア・コンサルティングを実施する者を指し、「相談者」は、キャリア・コンサルタントに相談をする者を指すものとする。
能力体系のカテゴリー
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I キャリア・コンサルティングの社会的意義に対する理解
技術革新の急速な進展など様々な社会・経済的な変化に伴い、個人自らのキャリア形成の重要性と、そのための支援の必要性について理解していること。
2 キャリア・コンサルティングの役割と位置付け
(1) キャリア・コンサルティングの役割の理解
キャリア・コンサルティングは、個人の生き甲斐、働きがいまで含めたキャリア形成を支援すること、また、個人が自らキャリアマネジメント(自立/自律)できるように支援すること、さらには、個人と企業との共生の関係をつくる上で重要なものであることなど、その役割、意義について理解していること。
(2) キャリア形成支援におけるキャリア・コンサルティングの位置付けの理解
キャリア・コンサルティングは、個人のキャリア形成において重要な位置を占め、行政その他関係機関による能力開発支援など様々なサービスと相まって行われることについて理解していること。
3 キャリア・コンサルティングの範囲
(1) 任務の範囲の理解
相談者のキャリア形成を支援するために、キャリア・コンサルタントとしての活動に範囲があることについて理解していること。
(2) プライバシーの守秘
相談者のプライバシーについて、秘密を守ることができること。
(3) 倫理規定の厳守
キャリア・コンサルタントが守るべき倫理規定(基本理念、任務範囲、秘密保持等)について理解していること。
II キャリア・コンサルティングを行うための基本的知識・スキル
(1) キャリア・コンサルティングに関連する各理論の理解
キャリア開発に関する代表的理論や、職業指導理論、職業選択理論等について理解していること。
(2) 個人に関する理解
自己理解に関する代表的理論や心理テストなどの具体的な方法その他様々な手法について理解していること。
(3) 仕事に関する理解
職業分野に関する代表的理論をはじめ、各職業に関する各種情報とその入手方法について理解していること。
(4) 職業能力開発に関する理解
職業能力開発に関する各種情報とその入手方法について理解していること。
(5) 雇用管理、労働条件に関する理解
企業における雇用管理の仕組みや、主な業種における勤務形態、賃金等具体的な労働条件について理解していること。
(6) 労働市場等に関する理解
社会情勢、産業構造の変化や雇用動向等について一般的に理解していること。
(7) 労働関係法規、社会保障制度等に関する理解
職業安定法等の労働関係法規や、社会保障制度等について、一般的に理解していること。
(8) メンタルヘルスに関する理解
メンタルヘルスに関連する法令や指針について理解していること。
(9) ライフステージ、発達課題に関する理解
ライフステージごとの解決すべき課題や、青年期、中年期等の発達課題について理解していること。
(10) 転機に関する理解
初めて職業を選択する時や、転退職時などの転機が訪れた時、その受け止め方や対応の仕方について理解していること。
(11) 相談者の類型的・個人的特性に関する理解
相談者の類型的・個人的特性(例えば、障害者については障害の部位や程度)などによって、留意すべき点があることについて理解していること。
2 基本的スキル
(1) 基本的スキルに関する認識
相談者が真に自己を理解するためには、カウンセリング・スキルなど基本的スキルが重要であることを認識していること。
(2) キャリアシートの作成指導
キャリアシート(自らを振り返り今後のキャリア形成の方向性やその実現を図るための手段・方法を整理するための様式や職務経歴書など)の意義を理解し、相談者に対して適切な作成指導ができること。
(3) カウンセリング・スキル
カウンセリングの諸理論を理解し、傾聴をはじめ様々なカウンセリング・スキルを用いて、相談者との相談を進めることができること。
(4) グループカウンセリング・スキル
グループカウンセリングに関する諸理論を理解し、それらを踏まえて、グループカウンセリングを行うことができること。
(5) 相談過程全体のマネジメント・スキル
相談者が相談過程のどの段階にいるかを常に把握し、その段階に応じた適切な相談を行うことができること。
III キャリア・コンサルティングの実施過程において必要なスキル
(1) 物理的環境の整備
キャリア・コンサルティングを行うにふさわしい物理的な環境を設定することができること。
(2) 心理的な親和関係(ラポール)の形成
キャリア・コンサルティングを行うに当たって心理的な親和関係を相談者との間で確立することができること。
(3) キャリア形成及びキャリア・コンサルティングの目的に係る相談者の理解の促進
キャリア形成の必要性や相談の目的などを明確にすることの重要性について、相談者の理解を促すことができること。
(4) 相談の目標・範囲の明確化
相談者の相談内容を把握し、その到達目標、相談を行う範囲、緊要度などについて、明らかにすることができること。
2 「自己理解」支援
(1) 自己理解への支援
職業興味や価値観等の明確化、職業経験の棚卸し、職業能力の確認、個人を取り巻く環境などを分析し、相談者の自己理解を支援することができること。
(2) アセスメント・スキル
相談者に応じて、適切な評価検査を選択、実施し、その結果の解釈を適正に行うことができること。
3 「仕事理解」支援
(1) 職業に関する情報ソースの活用
職業に関する情報ソースを活用し、相談者に提供することにより、相談者の仕事理解を支援することができること。
(2) 最新テクノロジーの活用
職業や労働市場に関する情報を収集及び提供するために、最新のテクノロジーを活用することができること。
4 「啓発的経験」支援
事前に職業を体験してみることの意義や目的について相談者に理解させ、その実行について助言することができること。
5 「意思決定」支援
(1) キャリア・プランの作成支援
仕事だけでなく仕事以外の活動(例えば、ボランティア活動など)も含め、どのような人生を送るのかという観点、家族を含めた基本的生活設計の観点などのライフプランを踏まえて、相談者のキャリア・プランの作成を支援することができること。
(2) 具体的な目標設定への支援
相談者の中長期的な目標や展望の設定と、それを踏まえた短期的な目標の設定を支援することができること。
(3) 能力開発に関する支援
相談者の設定目標に応じて、必要な自己学習や職業訓練などの能力開発に関する情報を提供することができること。
6 「方策の実行」支援
(1) 相談者に対する動機付け
相談者が実行する方策について、その目標、意義について理解を促し、相談者がその目標に自らの意思で取り組んでいけるように働きかけることができること。
(2) 方策の実行のマネジメント
相談者が実行する方策の進捗状況を把握し、相談者に対してその状況を理解させることができること。
7 「新たな仕事への適応」支援
方策の実行後におけるフォローアップの重要性について理解し、相談者の状況に応じた適切なフォローアップを行うことができること。
8 相談過程の総括
(1) 適正な時期における相談の終了
キャリア・コンサルティングの成果が現れ、適正だと判断できる時点において、相談を終了することができること。
(2) 相談過程の評価
相談者自身が目標の達成度や能力の発揮度について自己評価できるように支援することができること。
キャリア・コンサルタント自身が相談支援の過程について自己評価することができること。
IV キャリア・コンサルティングの効果的実施に係る能力
キャリア・コンサルティングを求める可能性のある人や企業などに対して、様々な活動を通じてキャリア形成の重要性、必要性等について普及することができること。
2 ネットワークの認識と実践
(1) ネットワークの重要性の認識
効果的に相談を実施するためには、相談者を支援する他の専門機関との様々なネットワークが重要であることについて理解していること。
(2) ネットワークの形成
地域における関係機関や様々な人々と日頃から情報交換を行い、協力関係を築いていくことができること。
(3) 専門機関への紹介(リファー)の実施
相談者の様々なニーズに応えるために、適切な専門機関等に紹介あっせんすることができること。
(4) 異なる分野の専門家への照会(コンサルテーション)の実施
効果的に相談を実施するために、追加情報を入手したり、異なる分野の専門家に意見を求めることができること。
3 自己研鑚・スーパービジョン
(1) 自己研鑚
コンサルタント自身の自己理解の重要性を理解するとともに、常に学ぶ姿勢を維持し、新たな情報を吸収し、自らの力量を向上させていくことができること。
(2) スーパービジョンの必要性の理解
定期的に専門家から指導を受けることの必要性について理解していること。
1 能力体系の活用
今回作成したキャリア・コンサルティング実施のために必要な能力体系については、現在、民間において実施されるキャリア・コンサルティングに係る能力評価試験のガイドラインとしての役割を担うことが望まれることから、これを推進するための施策として、職業能力評価に係る助成制度等の活用について検討する必要がある。
2 レベル問題
今回作成したキャリア・コンサルティング実施のために必要な能力の体系化にあたっては、我が国において現在行われている養成講座を参考としたものであり、いわば標準的なものとして位置付けられると考えられる。今後、キャリア・コンサルティングをより広く世間一般に普及させていくためには、導入的なレベルの養成講座についても推進していく必要がある。
また、今後、キャリア・コンサルティングの普及をはかるためには、キャリア・コンサルタントに対する指導者(スーパーバイザー)レベルの人材の養成について配慮することが重要である。
3 固有能力の整理
キャリア・コンサルティングを実施するために必要な能力には、キャリア・コンサルティングが行われる「場」(例えば、企業内、需給調整機関、能力開発機関等)により、その「場」ごとに固有に必要とされる能力があると考えられる。
今回整理したキャリア・コンサルティング実施のために必要な能力体系は、キャリア・コンサルティングが行われる「場」に関わらず共通する能力のみで整理したものであり、キャリア・コンサルティングが行われる「場」ごとに固有に必要とされる能力についても、今後、精査していくことが必要である。
4 能力体系の見直し
今後とも労働者を取り巻く経済・社会的環境は、絶えず変化していくものと考えられる。
このため、的確なキャリア・コンサルティングを進めるためには、当該能力体系を定期的に見直していくことが必要である。
◎ | 委員会(○は座長)
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◎ | 参与チーム
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◎ オブザーバー
厚生労働省
文部科学省
雇用・能力開発機構
中央職業能力開発協会
回数 | 日時 | 主な議題 | ||||||
第1回 | 平成13年10月4日 |
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第2回 | 平成13年11月8日 |
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第3回 | 平成13年12月4日 |
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第4回 | 平成13年12月21日 |
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第5回 | 平成14年1月15日 |
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第6回 | 平成14年1月31日 |
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第7回 | 平成14年2月8日 |
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第8回 | 平成14年3月7日 |
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第9回 | 平成14年3月28日 |
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