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平成12年度家庭用品に係る健康被害病院モニター報告

平成13年12月27日

目次

はじめに

報告結果(総括)

1.家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告

2.家庭用品等に係る小児の誤飲事故に関する報告

3.家庭用品等が原因と考えられる吸入事故等に関する報告

おわりに

<図表>

表1 年度別・家庭用品カテゴリー別皮膚障害報告件数
表2 年度別・家庭用品による皮膚障害のべ報告件数(上位10品目)
表3 金属製品のパッチテスト結果
表4 年度別・家庭用品等の小児の誤飲事故のべ報告件数(上位10品目)
表5 年度別・家庭用品等の吸入事故のべ報告件数(上位10品目)
図1 家庭用品による皮膚障害報告件数比率の年度別推移
図2 小児の家庭用品等誤飲事故報告件数比率の年度別推移
図3 時刻別誤飲事故発生報告件数
図4 年齢別誤飲事故報告件数

平成12年度家庭用品に係る健康被害病院モニター報告

平成13年12月27日

厚生労働省医薬局審査管理課 化学物質安全対策室

はじめに

 技術の進歩や生活慣習の変化に伴い毎年新たな家庭用品が登場してきている。これらの製品の安全性については事前に十分考慮されるべきものではあるが、誤使用による事故や、当初は想定し得なかった危険性に起因する健康被害が生じてくる可能性は常に存在する。健康被害防止の観点から、現状の変化をモニターし迅速な対応を行うためのシステムを構築することは意義深いことであろう。そのための制度の一つとして、家庭用品に係る健康被害病院モニター報告制度が昭和54年5月から実施されており、今年度で22年目を迎えた。本制度により、日常生活において使用している衣料品、装飾品や時計等の身の回り品、家庭用化学製品等の家庭用品による皮膚障害ならびに小児による家庭用品等の誤飲事故の健康被害について、医師の診療を通じて最新の情報が収集されている。報告された健康被害の実態は専門家により検討され、その結果が本報告書としてとりまとめられている。本報告書は関係事業者、行政機関に配布するとともに広く一般へも公開し、健康被害の情報収集と、消費者・事業者への注意や対策の喚起を行ってきているところである。平成12年度までの22年間に18,760件の健康被害事例が報告され、その結果は、家庭用品の安全対策に反映されてきている。
 本制度の実施にあたっては、モニター病院として皮膚科領域8病院(慶應義塾大学病院、堺市立堺病院、信州大学医学部附属病院、東京医科大学附属病院、東京慈恵会医科大学附属病院、東邦大学医学部附属大森病院、名古屋大学医学部附属病院及び日本赤十字社医療センター)と小児科領域8病院(伊丹市立伊丹病院、川崎市立川崎病院、医療法人財団薫仙会恵寿総合病院、埼玉社会保険病院、東京医科大学附属病院、東京都立墨東病院、東邦大学医学部附属大森病院及び名古屋第一赤十字病院)の協力を得ている。
 また、平成8年度からは(財)日本中毒情報センターの協力を得、主に吸入事故及び眼の被害等に関して同センターで収集した情報を提供していただいている。
 今般、平成12年度の報告を家庭用品専門家会議(危害情報部門)(座長:新村 眞人 東京慈恵会医科大学皮膚科教授)において検討し、その結果を以下のとおりとりまとめた。

報告結果(総括)

報告件数の変動について

 平成12年度の報告件数は1,560件であった。
 そのうち家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告は225件であり、報告件数は前年度(180件)より増加した。皮膚科領域においては、複数の家庭用品が原因としてあげられている報告については、家庭用品の種類別の集計ではおのおの別個に計上しているため、のべ報告件数は254件となった。ここ5年間ののべ報告件数の推移を見ると、最低が平成9年度の168件、最高が平成8年度の318件であり、その間増減の傾向は一貫していない。平成12年度の報告数は前年度と比較して約2割増加したが、前後の報告数の増減と比較すると変動の範囲内である。
 小児の家庭用品等の誤飲事故に関する報告は789件であり、報告件数は前年度(797件)よりわずかながら減少した。ここ5年間の推移を見ると最低は平成10年度の747件、最高は平成9年度の871件であった。
 また、(財)日本中毒情報センターに寄せられた家庭用品等に係る吸入等による健康被害の報告件数は546件であり、報告件数は前年度(569件)に比べてわずかながら減少した。件数については、幅広く被害情報を収集するという観点から平成10年度より液が眼に入るなどの眼の被害も集計に加えたため、平成10年度以降の報告数は8,9年と比較して多くなっている。
 なお、これらの健康被害は、患者主訴、症状、その経過及び発現部位等により家庭用品等によるものであると推定されたものであるが、因果関係が明白でないものも含まれている。

1. 家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告

(1)原因家庭用品カテゴリー、種別の動向

 原因と推定された家庭用品をカテゴリー別に見ると、洗剤等の「家庭用化学製品」が93件で最も多く、次いで装飾品等の「身の回り品」が85件であった(表1)。
 家庭用品の種類別では「洗剤」が65件(25.6%)で最も多く報告された。次いで「装飾品」が51件(20.1%)、「ゴム手袋・ビニール手袋」が25件(9.8%)、「洗浄剤」が13件(5.1%)、「ベルト」が10件(3.9%)、「眼鏡」、「スポーツ用品」及び「下着」が9件(3.5%)、「時計」が7件(2.8%)、「時計バンド」と「ナイロンタオル」が4件(1.6%)の順であった(表2)。
 報告件数上位10品目について平成11年度と比較すると、上位3品目に変動はないものの、報告数には若干変動が見られた。「洗剤」の報告件数は7件増加したが全体に対しての割合は約2ポイント減少し、「装飾品」の報告件数は13件増え、全体に対する割合も約2ポイント増加した。「ゴム・ビニール手袋」の報告件数は14件から25件に増加し、全体に対する割合も約3ポイント増加した(表2)。

「洗剤」: 野菜、食器等を洗う台所用及び洗濯用洗剤
「洗浄剤」: トイレ、風呂等の住居用洗浄剤

 上位10品目の全報告件数に占める割合を長期的な傾向から見ると、変動はあるものの「洗剤」と「装飾品」の割合が常に上位を占めており(図1)、平成12年度も同様であった。

(2)各報告項目の動向

 患者の性別では女性が173件(76.9%)と大半を占めた。そのうち20代が49件と全体の21.8%を占めた。前年度と比べると6ポイント近く減少しているが、依然として最も高い割合となっている。この49件中25件はアレルギー性の接触皮膚炎で、さらに15件が金属アレルギーによるものであった。
 障害の種類としては、「アレルギー性接触皮膚炎」が110件(48.9%)と最も多く、次いで「刺激性皮膚炎」50件(22.2%)、「KTPP*型の手の湿疹」が37件(16.4%)、「湿潤型の手の湿疹」が18件(8.0%)、であった。それぞれの報告件数は若干減少していたが、全体に占める割合はほとんど変動していなかった。

*:KTPP(keratodermia tylodes palmaris progressiva:進行性指掌角皮症)
 手の湿疹の1種で、水仕事、洗剤等の外的刺激により起こる。まず、利き手から始まることが多く、皮膚は乾燥し、落屑、小亀裂を生じ、手掌に及ぶ。程度が進むにつれて角質の肥厚を伴う。

 症状の転帰については、「全治」と「軽快」を合計すると130件(57.8%)であった。なお、本年も「不明」が67件(29.8%)あった。このような転帰不明の報告例は、症状が軽快した場合に受診者が自身の判断で途中から通院を打ち切っているものと考えられる。

(3)原因製品別考察

1)洗剤
 平成12年度における洗剤に関する報告件数は65件(25.6%)であった。報告件数は前年度58件(27.1%)より増加していたが、全報告件数が増加していたため、これに対する割合は約2ポイント減少した(表2)。
 原因製品の種類が判明しているものを用途別に見ると、台所用が29件、洗濯用が12件、両製品による事例が11件であった。用途が特定できないものも13件あった。
 洗剤が原因となった健康障害の種類は、刺激性の皮膚炎が27件(41.5%)、KTPP型の手の湿疹が24件(36.9%)湿潤型の手の湿疹が9件(13.8%)であった。これら報告数上位の順位に変動はなかった。
 事例のように、皮膚を高頻度で水や洗剤にさらすことにより、皮膚の保護機能が低下し、刺激性皮膚炎が起こりやすくなっていたり、また高濃度で使用した場合に障害が起こったりというように、症状の発現には、化学物質である洗剤成分と様々な要因(皮膚の状態、洗剤の使用法・濃度・頻度、使用時の気温・水温等)が複合的に関与しているものと考えられる。基本的な障害防止策としては、使用上の注意・表示をよく読み、希釈倍率に注意する等、正しい使用方法を守ることが第一である。また、必要に応じて、保護手袋を着用することや、使用後保護クリームを塗ることなどの工夫も有効な対処法と思われる。それでもなお、症状が発現した場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、早期に専門医を受診することを推奨したい。

◎事例1【原因物質:洗濯用洗剤】
患者 40歳 女性
症状 来院前3ヶ月頃から腹部に痒みを伴う丘疹が出現し、種々の外用剤を外用していたが改善しなかった。
障害の種類 刺激性皮膚炎
パッチテスト 洗濯用洗剤(+?)
治療・処置 ステロイド剤外用

<担当医のコメント>
 初診3ヶ月前より洗濯用洗剤を変更した。そのころより腹部に痒みを伴う丘疹が出現した。種々のステロイド外用剤を塗布するも症状を繰り返し、大腿部にも皮疹が出現したため、精査を希望し来院した。使用洗剤(0.3%)のパッチテストで刺激反応を認めた。洗剤変更に伴う刺激性皮膚炎と診断した。


◎事例2【原因物質:台所用洗剤(コンパクト洗剤)】
患者 30歳 女性
症状 1〜2ヶ月前より手指に小水疱が出現した。ここ最近(症状出現前)より洗剤を変更していた。水仕事が多く、手袋はしたりしなかったりであった。
障害の種類 手の湿疹(湿潤型)
治療・処置 ステロイド剤外用、洗剤の使用回数を減らすよう指示

<担当医のコメント>
 パッチテストは施行していないが、頻回の水仕事により皮膚のバリアー機能が低下をきたし、洗剤の使用により刺激性皮膚炎をきたしていると考えた。

2)装飾品
 平成12年度における装飾品に関する報告件数は51件(20.1%)であった。前年度38件(17.8%)と比較すると報告件数、全報告件数に対する割合とも増加していたが、過去5年の変動の範囲内であった(表2)。
 原因製品別の内訳は、ネックレスが13件、指輪が7件、ピアスが6件、イヤリングが4件、ブレスレッドが2件であった。これらの複数によるものも11件あった。
 障害の種類では、アレルギー性接触皮膚炎が43件(84.3%)と昨年と比較して若干割合が減少したが、依然8割を占めた。原因となった素材は、ほとんどが金属であった。
 46件のパッチテスト施行例が報告され、前年度同様、ニッケルにアレルギー反応を示した例が29件と最も多かった(表3)。それに次いでコバルトで14件、クロムで9件、金で7件等でパッチテストによりアレルギー反応が観察された。このパッチテストは同時に複数の金属について行われたが、ほとんどの場合、被験者は複数の金属に対して強弱の差はあるが、陽性反応を示していた。
 このような金属が原因の健康障害は、金属が装飾品より溶けだして症状が発現すると考えられる。そのため、直接皮膚に接触しないように装着することにより、被害を回避できると考えられる。しかしながら、夏場や運動時等、汗を大量にかく可能性のある時には装飾品類をはずす等の気を配ることが被害を回避する観点からは望ましい。また、ピアスは耳たぶ等に穴をあけて装着するため、表皮より深部と接触する可能性が高いため、初めて装着したり、種類を変えたりした際には、アレルギー症状の発現などに対して特に注意を払う必要がある。症状が発現した場合には、原因製品の装着を避け、装飾品を使用する場合には別の素材のものに変更することが症状の悪化を防ぐうえで望ましい。さらに、早急に専門医の診療を受けることを推奨したい。ある装飾品により金属に対するアレルギー反応が認められた場合には、別の装飾品、眼鏡、金属の時計バンド、ベルト、ボタン等の金属製品の使用時にもアレルギー症状が起こる可能性があるので、同様に注意を払う必要がある。例えば、最も症例の多いニッケルアレルギーの場合、金色に着色された金属製品はニッケルメッキが施されている場合が多いので注意が必要である。
◎事例1【原因製品:ピアス】
患者 25歳 女性
症状 3ヶ月程前にピアスの穴をあけ、その後ピアスを変更したところ頬が赤くなり、滲出液が出るようになった。チタン性のピアスを使用した時は問題なく、受診時には障害はなかったが原因精査のため来院した。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト コバルト(++)、ニッケル(++)、銅(+)

<担当医のコメント>
 ピアス装着後、装着部孔より滲出液が出るようになった。パッチテストでニッケル、コバルトに小水疱を伴う紅斑、丘疹、浮腫を生じ、この反応は2週間後まで続いた。ニッケル、コバルトによるアレルギー性接触皮膚炎と診断した。

◎事例2【原因製品:ネックレス、イヤリング】
患者 53歳 女性
症状 数年前よりネックレス、イヤリングを装着すると、装着部位に一致して紅斑が出現するようになった。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト ニッケル(+)
治療・処置 ステロイド剤外用、原因製品の使用を避けるよう指示

<担当医のコメント>
 典型的なニッケルアレルギーによる接触皮膚炎であり、アクセサリーが直接皮膚に接触するような着用方法を避けることを指導した。

3)ゴム、ビニール手袋
 平成12年度における報告件数は25件(9.8%)であった。全報告件数に対する割合は、前年度(6.1%)に比べ約3ポイント増加し、一昨年の状態に戻っている。素材別の内訳は、ゴム手袋が15件、ビニール手袋が3件、不明のものが7件であった
 障害の種類としては、アレルギー性の接触皮膚炎が9件(36.0%)、KTPP型手の湿疹が7件(28.0%)、湿潤型手の湿疹と接触じんましんがそれぞれ6件(24.0%)、刺激性皮膚炎が5件(20.0%)、報告された(重複事例含む)。
 3つの事例で紹介しているように、材質に対する反応は個人差がある。特にラテックスアレルギーは時にアナフィラシキー反応を引き起こし、じんましんの発疹、ショック状態等、重篤な障害をまねく恐れがあるので、製造者において、製品中のラテックス蛋白質の含有量を低減する努力が引き続き行われることが重要であるとともに、ラテックスに対するアレルギー反応の有無等、自己の体質にも注意が必要である。基本的には、既往歴があり、ゴム・ビニール手袋による皮膚障害が心配される場合には、以前問題が生じたものとは別の素材のものを使うようにする等の対策をまずはとる必要がある。はじめ軽度な障害であっても、当該製品の使用を継続することにより症状が悪化してしまうことがあり得る。また、原因を取り除かなければ治療効果も失われてしまうので、何らかの障害が認められた場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、専門医を受診することを推奨したい。

◎事例1【原因製品:ゴム手袋】
患者 41歳 女性
症状 小学生のころから手荒れがあり、近くの皮膚科で加療していた。家事をする時はゴム手袋を使用していた。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト ゴム手袋(表)(+),ゴム手袋裏(+?)
治療・処置 ステロイド剤外用

<担当医のコメント>
 手袋抽出液のプリックテストは陰性、パッチテストで使用手袋にアレルギー反応を認めた。ゴム可塑剤、抗酸化剤は陰性であった。ゴム蛋白質による接触皮膚炎と診断した。

◎事例2【原因製品:ゴム手袋】
患者 29歳 女性
症状 3年ほど前にゴム手袋を着用し、痛みを感じてすぐにはずした。その後ゴム手袋を着用すると手が腫れて膨疹、紅斑を生じ、じんましんのような症状が出て、熱っぽく、息苦しくなり、ショック状態に陥った。3〜4回同様の症状を経験した。
 ゴム手袋の使用を中止し、ビニール手袋を使用していたところ症状は起こらなかった。初診の数週間前に婦人科の診療を受けた時、医師がゴム手袋を使用したところ腹痛、下血、眼囲の腫脹を生じたが、すぐに注射による治療を受け症状は治まった。受診時には皮膚障害はなかったが原因精査のため来院した。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎、接触じんましん
パッチテスト ゴム手袋(表)(+),ゴム手袋(裏)(+?),ラテックス(+)
プリックテスト 患者使用手袋抽出液(1/10濃度)(+++),天然ゴムラテックス抽出液(1/10濃度)(+++)

<担当医のコメント>
 プリックテストを実施したところ、20分判定で患者使用手袋抽出液(1/10濃度):+++、天然ゴムラテックス抽出液(1/10濃度):+++、パッチテストでは72時間判定で使用手袋:+であった。ゴム可塑剤、抗酸化剤については陰性であった。ゴムラテックス蛋白質によるアナフィラシキーショックと接触皮膚炎と診断した。

◎事例3【原因製品:ビニール手袋】
患者 22歳 女性
症状 17歳時より手に皮疹が出現していたが、1ヶ月ほど前より両手にも出現した。洗髪時にビニール手袋を使用していた。
障害の種類 手の湿疹(KTPP型)
パッチテスト ビニール手袋(+?)
治療・処置 ステロイド剤外用

<担当医のコメント>
 使用したビニール手袋のパッチテストで72時間後に(+?)を示した。使用状況及び皮疹の部位から、ビニール手袋の接触による皮膚炎と診断した。

4)洗浄剤
 平成12年度における洗浄剤が原因とされる皮膚障害の報告件数は13件(5.1%)であった。前年度4件(1.9%)と比較すると報告件数、全報告件数に対する割合ともに増加した(表2)。
 障害の種類は、刺激性皮膚炎とKTPP型手の湿疹がそれぞれ4件(30.8%)、湿潤型手の湿疹が3件(23.1%)の他、化学傷害、アレルギー性接触皮膚炎、色素沈着が各1件報告された(重複事例含む)。
 洗浄剤には酸やアルカリを含むものがあり、特にアルカリ性のものは皮膚についた時の刺激は少ないが、放置すると事例のように色素沈着を起こしたり、さらにひどい場合には化学傷害を起こしてしまうことがある。基本的に、使用に際しては手袋等を着用し、皮膚についてしまったらすぐに水でよく洗い流すことが重要である。また、洗剤と類似の成分を含有するものもあり、この場合洗剤の頁と同様の注意をすることが望ましい。

◎事例1【原因製品:洗浄剤(アルカリ性)】
患者 42歳 女性
症状 大掃除の時ゴム手袋をはめて洗浄剤を使用。原液が手袋の中に入ってしまったがそのまま掃除を続けたところ皮疹が出現していた。その後色素沈着も出てきた。
障害の種類 手の湿疹(湿潤型)、色素沈着
治療・処置 ステロイド剤外用、ビタミンC内服

<担当医のコメント>
 アルカリ性の洗浄剤で、使用上の注意として皮膚についた時はすぐ水で十分洗い流すとされている。アルカリ性のものは刺激は少ないが、長時間放置するとこのような障害をまねくので、使用上の注意を守りましょう。

5)ベルト
 平成12年度におけるベルトに関する報告件数は10件(3.9%)であった。前年度7件(3.3%)と比べると報告件数、全報告件数に対する割合とも若干増加していた(表2)。
 また被害を発症した原因は9件がバックル部分の金属によるものであった。この全てが金属アレルギーであり、そのうち6件でパッチテストが施行されていたが、全てニッケルに陽性反応を示していた。(表3)
 対策としては、皮膚に直接バックル部分が触れないように着用することが第一であるが、それでも症状が発現した場合には、原因となった部分の素材を別のものに変更することが必要である。また、このように金属部分でアレルギー症状が発現した場合には、イヤリング、ピアス、ネックレス、眼鏡、時計バンド等の他の金属製品の使用にあたっても注意が必要である。

◎事例1【原因製品:ベルトの留め具】
患者 25歳 男性
症状 5年ほど前から下腹部に痒みが激しい皮疹が出ている。特に夏に出現する。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
パッチテスト コバルト(++)、ニッケル(++)、パラジウム(++)
治療・処置 ステロイド剤外用

<担当医のコメント>
 ベルトのバックルの金属でかぶれを起こした事例。パッチテストでニッケル、コバルトが陽性。バックルが肌に触れる夏に繰り返しかぶれを生じていた。

6)その他
 その他、被害報告件数が多かったものは眼鏡、スポーツ用品と下着が各9件(3.5%)、時計が7件(2.8%)、時計バンドとナイロンタオルが各4件(1.6%)等であった。
 また、モニター報告中ではないが、手袋の滑り止めに含有されていたフタル酸ジ-2-エチルヘキシルに対して接触じんましんを発症した事例もあった。アレルギー反応については個人差が大きく、時に重篤な症状を引き起こすことがあるので、そのような症状が認められた場合には即座に使用を中止し、専門医を受診する等して原因を精査し、自己の体質について認識することも重要であろう。天然、合成を問わず、使用に際しては製品の性質や自己の体質を十分に理解し、用量・用法に注意することが必要である。

◎事例1【原因製品:下着】
患者 27歳 女性
症状 5年前頃から胸に滲出液を伴う湿疹が出現した。近医に通院して種々の外用剤を使用していたが完治しなかった。
障害の種類 刺激性皮膚炎
パッチテスト ブラジャーの中綿、刺繍糸、肩ひも(+?)
治療・処置 ステロイド剤外用

<担当医のコメント>
 平成7年頃から胸(乳輪部)に滲出液を伴う湿疹が出現した。ステロイド外用剤等を塗布したが、一時軽快しても再発を繰り返すため、精査を希望し来院した。パッチテストで使用薬剤等は陰性、ブラジャーの中綿、刺繍糸、肩ひもの部分で刺激反応を認めた。ブラジャーの摩擦による刺激性皮膚炎と診断した。


◎事例2【原因製品:セーター】
患者 45歳 女性
症状 1ヶ月ほど前から頚部に紅斑と丘疹が生じている。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎/刺激性皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用、タートルのセーターの使用中止

<担当医のコメント>
 タートルネックのセーターによる皮膚炎は刺激性皮膚炎がほとんどである。
 しかし、繊維成分や染色によってはアレルギー性の皮膚炎も起こる可能性があるため注意が必要です。


◎事例3【原因製品:眼鏡(耳にあたるつるの先端部分(先セル))】
患者 62歳 男性
症状 2週間前から耳介と側頭部にかけて痒みを伴う紅斑を生じている。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用、先セルの変更を指示

<担当医のコメント>
 眼鏡のつるの先端が接触する耳介上方の側頭部に痒みのある紅斑を生じたら、眼鏡の耳にあたるつるの先端部分(先セル)による「かぶれ」を考える。色素が原因になっていることが多い。


◎事例4【原因製品:時計バンド(金属)】
患者 67歳 女性
症状 5日前より左手首に痒みのある皮疹が生じた。3ヶ月ほど前に新しい時計を買った。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用、抗アレルギー剤内服

<担当医のコメント>
 腕時計の金属バンドでかぶれを起こした事例。このような人は金属の装飾品 (ネックレス、イヤリング等)でもかぶれを起こす可能性があるので注意が必要です。


◎事例5【原因製品:ナイロンタオル】
患者 32歳 女性
症状 2ヶ月前から背部、腕に痒みのある落屑性病変を生じた。
障害の種類 刺激性皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用、抗アレルギー剤内服、ナイロンタオルの使用中止を指示

<担当医のコメント>
 ナイロンタオルで上半身をこすりすぎてひび割れを生じ、痒くなった例。入浴時にナイロンタオル、あるいは垢すりタオル、ブラシ等で皮膚をこすりすぎるのは皮膚を傷つけ、皮膚炎を起こすことになる。こすると角質はいくらでも剥がれてくるが、これは垢ではありません。このような時にはナイロンタオルの使用はやめましょう。


◎事例6【原因製品:ルーズソックスを止めておくのり】
患者 17歳 女性
症状 1ヶ月前頃ルーズソックスを止めておくのりでかぶれ、両下肢に湿潤性の皮疹が生じた。その後色素沈着。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用、ビタミンC内服

<担当医のコメント>
 ルーズソックスの接着剤によるかぶれの事例。接着剤によって角層(皮膚の最表層)が繰り返し剥離されていたことが、アレルギーの感作成立に関与した可能性がある。


◎事例7【原因製品:紙おむつ】
患者 2ヶ月 女児性
症状 紙おむつを使って4,5日目から小さい紅色丘疹が生じた。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用

<担当医のコメント>
 紙おむつを使用し始めて4〜5日後におむつのあたっているところに皮疹が出現し、別の銘柄に変えたところ今度は腹部のゴムのあたるところに皮疹が出現していた。この症例ではもともと乳児湿疹があり、湿疹のひどい乳児では使用に際して注意が必要です。


◎事例8【原因製品:ゴーグル】
患者 22歳 男性
症状 2週間前より眼囲に紅斑が出現した。水泳でゴーグル着用。
 症状出現前10日頃より密着性のあるゴムのゴーグルに変更していた。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用、ゴーグルの変更を指示
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎

<担当医のコメント>
 ゴーグルは黒い色のゴム製で、かなり密着性のあるものであった。パッチテストは施行できなかったが、ゴーグルをプラスチック製に変更したところ皮疹の出現は見られなかった。


◎事例9【原因製品:ゴルフ手袋】
患者 49歳 女性
症状 6ヶ月前から両手掌に痒みのある落屑性の皮疹が生じた。ゴルフの手袋のあたる部位に一致。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用、抗ヒスタミン剤内服、手袋の変更を指示

<担当医のコメント>
 皮革でも人工皮革でも接触皮膚炎を起こすことがある。手袋をしていて、その接触している部分に痒みを生じてきたら、手袋によるかぶれ(接触皮膚炎)を考えましょう。

(4)全体について

 平成12年度の家庭用品を主な原因とする皮膚障害の種類別報告全225件のうち、108件はアレルギー性接触皮膚炎であった。この中でも、装飾品、眼鏡、ズボンのボタン、ベルトの留め金、時計や時計バンドなどで見られた金属アレルギーが約6割を占めた。平成8年来、上位3品目の内容は変わっておらず、これらで全体の半数以上を占めていた。
 家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどである。家庭用品を使用することによって接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原因と考えられる家庭用品の使用は極力避けることが望ましい。故意、もしくは気付かずに原因製品の使用を継続すると、症状の悪化をまねき、後の治療が長引く可能性がある。
 症状が治まった後、再度使用して同様の症状が発現するような場合には、同一の素材のものの使用は以後避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療を受けることが必要である。本年報告のあったゴム手袋のラテックスタンパク質に対するアナフィラシキーショックのように重篤なものもあるので、注意が必要である。
 また、使用法の誤りから障害が起こった事例も依然見受けられており、これらの被害を避けるためにも、日頃から使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることや、自己の体質について認識し、使用する製品の素材について注意を払うことも大切である。


2. 家庭用品等に係る小児の誤飲事故に関する報告

(1)原因家庭用品種別の動向

 小児の誤飲事故の原因製品としては、「タバコ」が385件(48.8%)で最も多かった。次いで「医薬品・医薬部外品」が108件(13.7%)、「玩具」が51件(6.5%)、「洗剤・洗浄剤」が34件(4.3%)、「金属製品」が27件(3.4%)、「硬貨」が24件(3.0%)、「プラスチック製品」と「化粧品」が各23件(2.9%)、「食品類」が16件(2.0%)、「電池」が14件(1.8%)であった(表4)。
 報告件数上位10品目までの原因製品のうち、上位2品目については、小児科のモニター報告が始まって以来変化がなく、本年も同様であった。

(2)各報告項目の動向

 障害の種類については、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の「消化器症状」が認められたものが80件(10.1%)と最も多かった。次いで咳、喘鳴等の「呼吸器症状」が認められたものが31件(3.9%)となっていた。これらには複数の症状を認めた例も含んでいたが、全体として症状の発現が見られたものは153件(19.4%)であった。本年度も幸い命が失われるといった重篤な事例はなかったが、「入院」、「転科」及び「転院」となったものが32件あった。それ以外はほとんどが「帰宅」となっていた。
 誤飲事故発生時刻については、例年同様夕刻以降に発生件数が増加するという傾向が見られ、午後4時〜10時の時間帯の合計は450件(57.9%:発生時刻不明を除く報告件数に対する%)であった(図3)。
 誤飲事故発生曜日については、曜日間による差は特に見られなかった。

(3)原因製品別考察

1)タバコ
 平成12年度におけるタバコの誤飲に関する報告件数は385件(48.8%)であった。前年度360件(45.2%)と同様、依然全報告例の約半数を占めていた(表4)。
 その内訳を誤飲した種別で見ると、タバコ*233件、タバコの吸い殻**142件、タバコの溶液***10件、となっていた。
 タバコを誤飲した年齢について見ると、例年と同様、ハイハイやつかまり立ちをはじめる6〜11ヶ月の乳児に報告例が集中しており、257件(66.8%)にのぼった。これに12〜17ヶ月の幼児(93件)と合わせると90.9%を占めた(図4)。乳幼児は1歳前後には独力で室内を移動できるようになり、その後期には動きも早くなって、両手で容器を持ち飲水できるようにもなる。タバコの誤飲事故の大半は、この1歳前後の乳幼児に集中してみられ、この時期を過ぎればタバコの誤飲例は急激に減少する。期間にしてわずか1年に過ぎないこの期間に注意を払うことにより、タバコの誤飲事故は大幅に減らすことができるはずである。子供の保護者は、この年齢の時期には特別に、タバコ、灰皿を子供の手の届く床の上やテーブルの上等に放置しないこと、飲料の空き缶等を灰皿代わりに使用しないこと等、その取り扱いや置き場所に細心の注意を払うことが必要である。特に、タバコの水溶液の場合はニコチンが吸収され易い状態にあるので、タバコ水溶液の誤飲の原因となりかねないジュースの空き缶を灰皿代わりにするなどの行為は避けるべきである。
 タバコの誤飲による健康被害を症状別に見ると、症状を訴えた52件中、消化器症状の訴えがあった例が39件と最も多かった。9割以上が受診後帰宅しているが、幸いなことに大事には至らなかったが、本年は6件の入院事例も報告されている。
 応急処置を行った事例は187件あった。行った処置としては何も飲ませずに「吐かせた」及び「吐かせようとした」事例が、あわせて88件と最も多かった。応急処置として、何らかの飲料を飲ませた例は52件あった。タバコの誤飲により問題となるのは、タバコに含まれるニコチン等を吸収してしまうことである。タバコを吐かせるのはニコチン等の吸収量を減らすことができるので有効な処置であるが、この際飲料を飲ませると逆にニコチンが吸収され易くなってしまう可能性がある。吐かせようとして飲料を飲ませても吐かなかった例もかなり見られており、タバコを誤飲した場合には飲料は飲ませず直ちに受診することが望ましい。
:「タバコ」 :未服用のタバコ
** :「タバコの吸い殻 :服用したタバコ
*** :「タバコの溶液」 :タバコの吸い殻が入った空き缶、空瓶等にたまっている液
◎事例1【原因製品:タバコ】
患者 11ヶ月 女児
症状 夕食後に嘔吐
誤飲時の状況 脱いであった父のズボンのポケットに入っていたタバコを口に入れていた。2本が約1/3ほど欠けていた。元気だったのでそのままにしていた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 2〜3時間未満
処置及び経過 胃洗浄(タバコの葉あり)、血液検査、点滴
入院2日


◎事例2【原因製品:タバコの吸い殻】
患者 8ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 寝室で灰皿に入っていた吸い殻2本程度を口に入れていた。灰皿に浸出液はなかった。口の中に葉が入っていた。
来院前の処置 指を入れ吐かせようとした
受診までの時間 1〜1時間30分未満
処置及び経過 胃洗浄
のち帰宅


◎事例3【原因製品:タバコを浸した溶液】
患者 3歳7ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 タバコの吸い殻の入った缶ジュースを一口飲んでしまい1回嘔吐した。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 吐根シロップ(タバコの葉確認)
のち帰宅

2)医薬品・医薬部外品
 平成12年度における医薬品・医薬部外品に関する誤飲の報告件数は108件(13.7%)であった。前年度は122件(15.3%)であり、件数、割合ともやや減少した(表4)。症状の認められた26件中、傾眠などの神経症状が認められた例が14件と最も多かった。入院を必要とした事例も12件あった。入院例の多くの場合は保護者が注意をそらせている間に薬品を大量服用してしまっている例であった。
 誤飲事故を起こした年齢について見ると、タバコとは異なり、例年と同様各年齢層にわたっているものの、特に1〜2歳児にかけて多く見られていた(78件,72.2%)。このころには、自らフタや包装をあけて薬を取り出せるようになり、また家人が口にしたものをまねて飲んだりもするため、誤飲が多くなっているものと思われた。また、誤飲の発生した時刻は、お昼前後や午後7〜9時の間の食事前後と思われる時間帯に高い傾向があった。本人や家人が使用した薬が放置されていたものを飲んだり、家人が口にしたのをまねて飲むこと等が考えられ、使用後の薬の保管には注意が必要である。
 原因となった医薬品・医薬部外品の内訳を見ると、中枢神経系の薬が38件で最も多いなど、一般の家庭に常備されている医薬品・医薬部外品だけではなく、保護者用の処方薬による事故も多く発生していた。
 医薬品・医薬部外品の誤飲事故の大半は、薬がテーブルの上に放置されていた等、医薬品の保管を適切に行っていなかった時や、薬を飲ませた直後等のように保護者が目を離した隙、等に発生している。また、シロップ等、子供が飲みやすいように味付けしてあるもの等は、子供がおいしいものとして認識し、冷蔵庫に入れておいても目につけば自ら取り出して飲んでしまうこともある。小児の医薬品の誤飲は、大量に誤飲したり、効力の強い薬を誤飲したりしがちで、時に重篤な障害をもたらす恐れがある。家庭内での医薬品類の保管・管理には十分な注意が必要である。
◎事例1【原因製品:錠剤】
患者 2歳10ヶ月 男児
症状 軽度のアシドーシス
誤飲時の状況 机の上に置いてあった痛み止めを2錠飲んでしまった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 血液検査,胃洗浄,点滴
入院

◎事例2【原因製品:風邪薬(シロップ) 】
患者 1歳9ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 冷蔵庫から姉(4歳)のシロップ薬を出して飲んでしまった。
来院前の処置 吐かせようとし少量吐いた
受診までの時間 3〜4時間未満
処置及び経過 胃洗浄
のち帰宅

3)電池
 平成12年度の電池の誤飲に関する報告件数は14件(1.8%)であった。前年度24件(3.0%)と比較して件数、割合とも減少した。しかし、単独製品による事故数としては依然軽視できない数である(表4)。
 誤飲事故を起こした年齢について見ると、本年は12〜17ヶ月の幼児に若干多い傾向はあったが、6ヶ月から5歳までわたって見受けられ、依然幅広い時期に発生している。
 誤飲した電池の大半は、ボタン電池であった(10件)が、単4や5サイズの小さい乾電池を誤飲した事例も4件の報告があった。幼児や子供が遊ぶ玩具にボタン電池を使用した製品が多数出回っているが、電池の誤飲事故は幼児が玩具で遊んでいるうちに電池の出し入れ口のフタが何らかの理由で開き、中の電池が取り出されてしまったために起こっている場合が多い。製造業者は、これらの製品について幼児が容易に電池を取り外すことができないような設計を施すなどの配慮が必要であろう。また保護者は、電池の出し入れ口のフタが壊れていないか確認する必要がある。特に放電しきっていないボタン電池は、体内で消化管等に張り付き、せん孔したりする可能性があるので、子供の目につかない場所や手の届かない場所に保管するなどの配慮が必要である。
◎事例1【原因製品:ボタン電池】
患者 1歳3ヶ月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 おもちゃの電池装着部を口に入れていた。ボタン電池が一つ足りなくなっていた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1〜1時間30分未満
処置及び経過 X線検査で胃内に異物確認、点滴、摘出術
入院(1日)

◎事例2【原因製品:ボタン電池】
患者 1歳7ヶ月 女児
症状 異常な泣き方
誤飲時の状況 突然立ったまま泣き、吐き気を訴えたり興奮して泣いていたりしている。
来院前の処置 指を入れた吐かせようとした
受診までの時間 1時間30分〜2時間未満
処置及び経過 X線検査で頚部食道に異物確認、点滴
転院、排泄(1日後)

4)食品
 本年度は誤飲したピーナッツが気管に侵入してしまい12日の入院が必要となった事例があった。幸いそれ以上重篤な症状には至らなかったが、他にもあめを飲み込んで気道が一時ふさがれたと思われる事例が見られた。ピーナッツやあめ等は、気道に入りやすい大きさ、形状及び硬さを有しているので、特に2歳未満の乳幼児においては、誤飲事故の原因となりやすい。しかもこのような食品は、気道に入ってしまうと摘出が困難であり、乳幼児にそのまま食べさせること自体禁忌である。平成5年度にはこれらによる死亡事故の報告もあり、保護者自身が十分に注意する必要がある。
 酒類については2件の報告があった。放置されたものの誤飲とジュースと誤ってアルコール飲料を誤飲した例で、全般的にいえることであるが、誤飲の危険のあるものを放置しないようにすることが重要である。また、酒類の保管方法や子供に飲料を与える前には内容を確認する等の注意も必要である。製造者にあっては、大人はもちろん、子供にも酒類であることの区別がつくような工夫を施すことが望まれる。
 未だ本報告の調査例では報告がないが、過去にこんにゃくゼリーの誤飲による死亡事故が発生している。カナダや米国において一部製品が回収や警告の措置うけたとの報告もある。当該事故後に硬さや形状の工夫等の対策はとられているが、こんにゃくのようなものは、かみ切りにくく、いったん気道へ詰まってしまうと、重篤な呼吸器障害につながる恐れがある。食品の誤飲で重篤な症状に至るもののほとんどは気道に詰まって窒息を起こすものである。食品とはいえ乳幼児等に与える際には、保護者はこのような点に十分に注意を払う必要がある。
◎事例1【原因製品:あめ】
患者 1歳8ヶ月 女児
症状 チアノーゼ
誤飲時の状況 いつもは砕いていたが、そのままあめを与えたところ声が変わりチアノーゼが出ていた。
来院前の処置 指で吐かせた
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 X線検査(異常なし)
のち帰宅
◎事例2【原因製品:ピーナッツ】
患者 1歳10ヶ月 男児
症状 咳、喘鳴、発熱
誤飲時の状況 皿に盛ったピーナッツを姉に食べられそうになり、4粒ぐらい口に入れて走り出した。しばらくして泣き出し、翌朝発熱、喘鳴があった。
来院前の処置 逆さにしてたたき吐かせた
受診までの時間 12時間以上
処置及び経過 X線検査(含気不均等)、気管支ファイバーで摘出
入院12日

 また、食品ではないが、食品の付属物や関連器具による誤飲例も下記のように見られている。重症例はないがこれらの物品の誤飲は全て昨年度も報告されており、誤飲の可能性のあるものとして注意が必要である。

◎事例1【原因製品:乾燥剤】
患者 3歳5ヶ月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 クッキーの箱の中のシリカゲルの袋を自分でむいて食べた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 なし
のち帰宅

◎事例2【原因製品:保冷剤】
患者 1歳5ヶ月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 冷蔵庫の掃除中に保冷剤を外に出していたところかじった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 なし
のち帰宅

◎事例3【原因製品:ビニール片】
患者 9ヶ月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 床に落ちていたシューマイのカラシの入ったビニールを食べた
来院前の処置 吐かせた
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 なし
のち帰宅
◎事例4【原因製品:プラスチックスプーン】
患者 1歳9ヶ月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 ヨーグルトを食べていてプラスチックのスプーンをかみ切り、飲んでしまった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1〜1時間30分未満
処置及び経過 X線検査(異常なし)
のち帰宅

<担当医のコメント>
 歯が生えそろってくると、製品に付属のスプーン程度の柔らかいものはかみ切ってしまうので、注意が必要である。

5)その他
 代表的な事例だけではなく、家庭内・外にあるもののほとんどが子供の誤飲の対象物となる可能性があり、子供のいる家庭においては保護者の配慮が必要である。11ヶ月を過ぎると指でものをつまめるようになるため、以下に紹介する事例のように様々な小さなものを無分別に口に入れてしまう。床などにものを置かないよう注意が必要である。
 また、灯油を誤飲し吐かせた事例が報告されたが、灯油等は、吐き戻した際に肺に侵入し、場合によっては化学性肺炎を引き起こして重篤な症状となる恐れがあるので吐かせず医師の診断を受けた方がよい。固形物の誤飲の場合は、誤飲したものが体内のどこにどんな状態で存在するかは一見したところではわからないので、専門医を受診し、経過を観察するか、必要に応じて摘出するかなど適切な判断を受けることが望ましい。誤飲製品が胃内まで到達すれば、いずれ排泄されると考えられることから問題はないとする向きもあるが、硬貨が胃内から長時間排泄されなかったり、小型磁石や先に別途例示されたボタン電池等の場合に腸壁に張り付きせん孔してしまったりして、後日腹痛や障害を発生させる可能性もあるので、排泄の確認はするようにしたい。
 本年は防虫剤の誤飲事例があったが、衣類用の防虫剤は見かけ上はみなよく似ているが、よく使用されている成分には数種類あるので、医療機関等に相談する場合は何を誤飲したかを正確に伝えた方がよい。またこれらの防虫剤を誤飲した場合は、吸収を促進することになるので応急処置として牛乳を飲ませてはいけない。

◎事例1【原因製品:磁石】
患者 1歳7ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 磁石(肩こり治療用)を食べてしまった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間30分〜2時間未満
処置及び経過 X線検査(胃内に直径5mmの磁石)
のち帰宅

◎事例2【原因製品:硬貨】
患者 12歳 男児
症状 腹痛
誤飲時の状況 誤って十円玉を飲んだ。直後から腹痛。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間30分〜2時間未満
処置及び経過 X線検査(食道下部にあり)、内視鏡下摘出
入院2日

◎事例3【原因製品:硬貨】
患者 2歳10ヶ月 女児
症状 腹痛、呼吸困難
誤飲時の状況 息苦しそうに泣きながら寄ってきた。
来院前の処置 指で触れたが奥に入ってしまった。
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 X線検査(上腹部にあり)
のち帰宅(グリセリン浣腸により排出(7日後))

◎事例4【原因製品:ヘアピン】
患者 11ヶ月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 ヘアピンを飲んでしまい、はじめは苦しそうだったがその後は無症状。
来院前の処置 他院でX線検査
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 X線検査(胃内にあり)、透視下摘出術
のち帰宅

◎事例5【原因製品:おもちゃの靴】
患者 1歳3ヶ月 女児
症状
誤飲時の状況 嘔吐、咳があり、着せ替え人形の靴が一つ足りないことに気付いた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 X線検査(異常なし)
のち帰宅

◎事例6【原因製品:おはじき】
患者 0ヶ月 女児
症状 元気がない。哺乳力低下。
誤飲時の状況 上の子がそばにいた。ミルクをあげようとしたら突然飲み方が悪くなった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間30分〜2時間未満
診察所見 口唇チアノーゼ
処置及び経過 X線検査(下咽頭部に円形の陰影)
入院(4日後排泄)

◎事例7【原因製品:石けん】
患者 10ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 風呂場で石けんをかじった。1cmくらいかけていた。
来院前の処置 水を飲ませ吐かせようとした。
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 なし
のち帰宅

◎事例8【原因製品:台所用漂白剤(塩素系)】
患者 1歳9ヶ月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 母が目を離した隙に漂白剤を2,3口誤って飲んだ。
来院前の処置 牛乳を飲ませた。
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 胃洗浄
のち帰宅

<担当医のコメント>
 塩素系の漂白剤はアルカリ性が強く、特に原液を誤飲した場合は危険性が高いので、速やかに専門医を受診すること。牛乳を飲ませるのはよい。

◎事例9【原因製品:芳香剤】
患者 1歳2ヶ月 男児
症状 嘔吐
誤飲時の状況 洗面所で芳香剤を口に入れていた。すぐ嘔吐した。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 なし
のち帰宅

◎事例10【原因製品:防虫剤】
患者 10ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 洋服の防虫剤の袋を破って食べていた。
来院前の処置 口内のものを掻きだした
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 胃洗浄
のち帰宅

<担当医のコメント>
 防虫剤には主なものでもパラジクロロベンゼン、ナフタレン、樟脳等があり、どれもよく見かけは似ているが、経口の急性毒性の面では樟脳が強い等、毒性は異なっているので、何を誤飲したのかを確認の上、専門医を受診した方がよい。また、いずれの場合も吸収を助ける可能性があるので牛乳は飲ませない方がよい。

◎事例11【原因製品:アリ駆除剤】
患者 2歳8ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 顆粒状のアリ駆除剤で遊んでいた。量が減っていた。
来院前の処置 吐かせようとした。
受診までの時間 1〜1時間30分未満
処置及び経過 なし
のち帰宅
◎事例12【原因製品:シャボン玉液】
患者 2歳9ヶ月 女児
症状 嘔吐
誤飲時の状況 シャボン玉液を誤って吸ってしまった。
来院前の処置 牛乳を50mlぐらい飲ませた。
受診までの時間 1〜1時間30分未満
処置及び経過 なし
のち帰宅
◎事例13【原因製品:灯油】
患者 1歳10ヶ月 男児
症状 異常な泣き方、咳
誤飲時の状況 玄関にあった灯油をなめた。
来院前の処置 吐かせた
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 X線検査、点滴、しばらく絶飲絶食
入院2日

<担当医のコメント>
 灯油は吐かせると気管から肺に進入し、化学性肺炎を起こすことがあるので、決して吐かせてはいけない。また牛乳は飲ませない方がよい。

(4)全体について

 小児による誤飲事故は相変わらずタバコによるものが多い。タバコの誤飲事故は生後6ヶ月からの1年間に発生時期が集中しており、この1年間にタバコの管理に特段の注意を払うだけでも相当の被害の軽減がはかれるはずである。一方、医薬品の誤飲事故はむしろこれよりも高い年代での誤飲が多い。そもそもが薬理作用を有し、子供が誤飲すれば症状が発現する可能性が高いものなのでその管理には特別の注意を払う必要がある。食品であってもそのものが気道を詰まらせ、重篤な事故になるものもあるので、のどに入るような大きさ・形をした物品には注意を怠らないように努めることが重要である。発生時間帯は夕刻以降の家族の団らんの時間帯に半数近くが集中しているという傾向が続いている。保護者が近くにいても、乳幼児はちょっとした隙に、身の回りのものを分別なく口に入れてしまう。(本年度事故例中約46%で保護者はそばにいた。)ので注意が必要である。
 一方、今年度は保育所や幼稚園等、多数の子供が生活している施設で起こった誤飲の報告事例はなかった。このことからも、誤飲は避けられない事故ではなく、誤飲をする可能性があるものを極力子供が手にする可能性のある場所に置かないことが最も有効な対策であることが伺い知れる。乳幼児のいる家庭では、乳幼児の手の届く範囲には極力、乳幼児の口に入るサイズのものは置かないようにしたい。特に、歩き始めた子供は行動範囲が広がることから注意を要する。口に入るサイズはおおよそ直径30mmの円に入るものであるとされている。
 誤飲時の応急処置は、症状の軽減や重篤な症状の発現の防止に役立つので重要な行為であり、応急処置に関して正しい知識を持つことが重要である。
 なお、平成9年度には、(財)日本中毒情報センターにより、小児の誤飲事故に関する注意点や応急処置などを記した、啓発パンフレットが作成され、全国の保健所あて送付されている。


3.家庭用品等が原因と考えられる吸入事故等に関する報告

 (財)日本中毒情報センターは、一般消費者もしくは一般消費者が受診した医療機関の医師からのあらゆる化学物質による健康被害に関する問い合わせに応ずる機関である。毎年数万件の問い合わせがあるが、このうち最も多いのが幼少児のタバコの誤食で、これのみで年間6,000件に達する。
 この報告は、これら問い合わせ事例の中から、家庭用品等による吸入事故及び眼の被害に限定して、収集・整理したものである。一般用医薬品や一部の殺虫剤など法的には家庭用品ではないものも、啓発と言う観点から、これを集計に加えている。

(1)原因製品種別の動向

 全症例数546例中、原因と推定された家庭用品等を種別で見ると、前年度と同様、殺虫剤類の報告件数が最も多く122件(約22.3%)であった。次いで洗浄剤(住宅用・家具用)が91件(約16.7%)、芳香・消臭・脱臭剤が44件(約8.1%)、漂白剤が38件(約7.0%)、消火剤が29件(約5.3%)、洗剤(洗濯用・台所用)が25件(約4.6%)、防虫剤が16件(約2.9%)、灯油、防水スプレーがそれぞれ15件(約2.7%)、塗料、園芸用殺虫・殺菌剤がそれぞれ10件(約1.8%)の順であった(表5)。前年度までは、芳香剤、消臭剤、脱臭剤を別個に計上していたが、昨今の商品は区別不能のものが増加しており、実情に合わせるため、今年度からはひとくくりにして計上している。また、この芳香・消臭・脱臭剤による報告事例は個別のものを足し合わせても、前年度に比べ増加していた。
 製品の形態別の事例数では、「エアゾール式」が210件(そのうちハンドスプレー式が76件)、「液状」190件、「粉末状」73件、「固形」41件、「蒸散型」22件、その他(ゼリー状)が2件で、不明が8件であった。

(2)各報告項目の動向

 年齢から見ると、0〜9歳の子供の被害報告事例が216件と半数近くを占め、前年度と同様、最も多かった。その他では30代が多く、次いで40代、20代の順で、前年度報告と比較すると、40代が増加していた。年齢別症例数は製品によって偏りが見られるものがあり、洗浄剤(住宅用・家具用)、漂白剤は0〜9歳以外に30代にピークが見られ、芳香・消臭・脱臭剤は0〜9歳の子供が多い。消火剤も同様に0〜9歳の子供が多く、次に10代であった。
 性別では、女性が303件(約55.4%)、男性が196件(約35.8%)、不明が47件(約8.6%)で男女比は過去とほぼ同等であった。電話での問い合わせのため、記載漏れ等があり、被害者の性別不明例が多少存在する。
 健康被害の問い合わせ者は、一般消費者からの問い合わせ事例が370件、受診した医療機関等医療機関関係者からの問い合わせ事例が176件であった。
 症状別に見ると、症状の訴えがあったものは302件(約55.3%)、なかったものは230件(約42.1%)、不明のものが14件(約2.6%)であった。症状の訴えがあった事例のうち、最も多かったのが、咳、喘鳴等の「呼吸器症状」を訴えたもので114件(約20.8%)であった。次いで、悪心、嘔吐、腹痛等の「消化器症状」を訴えたもの、「神経症状」を訴えたものがそれぞれ93件(約17.0%)となっていた。前年度と比べて上位に占める症状はほとんど変動していない。
 発生の時期を見ると、品目別では、殺虫剤類による被害が夏前後に多く、年末に漂白剤、洗浄剤(住宅用・家具用)による被害が若干多かった。いずれも使用頻度が高まると思われる時期にその製品による被害が増えていた。曜日別にも解析を行ったが、際だった特徴はなかった。時間別では午前9時〜午後9時の間にほぼ均等に発生しており、午前0時から午前7時頃までが少なくなっていた。前年度と比較して、際だった変化はなく、生活活動時間に比例している。

(3)原因製品別考察

1)殺虫剤・防虫剤
 殺虫剤に関する事例は、122件(約22.3%)、防虫剤に関する事例は16件(約2.9%)であった。
 被害事例の状況として
1.適応量を明らかに超えて使用する事例
2.換気を十分せずに使用する事例
3.燻煙剤を使用し、退室までにあるいは使用中に入室し、吸入してしまった事例
4.燻煙剤を使用後、十分換気せずに入室してしまった事例
5.隣の部屋で燻煙剤を使用し、煙を吸入してしまった事例
6.エアゾール缶を廃棄処理中に吸入してしまった事例
7.エアゾール缶で、噴射口の向きを間違えて使用した事例
8.高い場所に噴霧し、人体にかかってしまった事例
9.保管中に液漏れした事例
10.振動によりフタがはずれ、薬剤が噴出していた事例
等があり、使用・廃棄の際には細心の注意が必要である。また、保管する際にも留意する必要がある。通常に使用していて症状が出現している事例も散見された。

◎事例1.【原因製品:殺虫剤(エアゾール缶タイプ)】
患者 41歳 女性
状況 浴室内で1/2本使用。
症状 鼻の違和感、鼻の痛み、倦怠感
処置・転帰 受診したが胸部X線像に異常なし。無処置。
症状は2日間持続したが、その後は軽快。

◎事例2.【原因製品:殺虫剤(燻煙タイプ)】
患者 50歳 男性
状況 午前中に使用し、数時間換気後、その部屋で就寝。
症状 のどの痛み、咳、発汗
処置・転帰 胸部X線像に異常なし。経過観察。

◎事例3.【原因製品:防虫剤】
患者 50歳 女性
状況 衣替え時に防虫剤を取り替えた。
症状 翌日より、嘔気、めまい

2)洗浄剤(住宅用・家具用)、洗剤(洗濯用・台所用)
 洗浄剤(住宅用・家具用)に関する事例は、91件(約16.7%)で、最も多いのは、次亜塩素酸系(塩素系)の製品によるものであった(30件)。そのうちの多くはハンドスプレー式(24件)のものである。洗剤(洗濯用・台所用)に関する事例は、25件(約4.6%)であった。
 被害事例の状況として
1.換気不充分で使用している事例
2.狭い場所で、長時間あるいは大量に使用している事例
3.2剤を併用し、塩素ガスが発生した事例
4.誤ってかかってしまう、あるいは自分にかけてしまう事例(乳幼児に多い。)
5.高い場所に使用し、眼に入ったり、吸入してしまった事例
6.詰め 替え時に吸入してしまった事例
7.別商品の容器に移し替え、ガスが発生した事例
8.用途の異なる容器に移し替え、間違えて使用した事例
9.子供の近くで使用し、子供に影響が出た事例
等があり、被害を防ぐには、換気を十分に行う、長時間使用しない、適量を使用すること等に気をつける必要がある。また、塩素系の洗浄剤と酸性物質(事故例の多いものとしては塩酸や有機酸含有の洗浄剤や食酢等がある)との混合は有毒な塩素ガスが発生して危険である。これらの製品には「まぜるな危険」との表示をすることが徹底されているが、いまだに発生例が見られる。容器の移し替え時の事故例、流し等で使用後十分流したつもりが流されておらず、混合してしまった例、台所の排水口に吊るすぬめり取り剤を吊るしたまま酸性洗剤を使用する例等が見られ、こうした事故例も想定した一層の啓発が必要である。なお、乳幼児の事故事例は、保管場所を配慮することによって防止できるものが多い。
◎事例1.【原因製品:換気扇用洗浄剤(ハンドスプレータイプ)】
患者 50歳 男性
状況 上を向いて換気扇を掃除していた。原液が眼に入った。
症状 眼の違和感
◎事例2.【原因製品:衣類用洗剤】
患者 44歳 女性
状況 洗濯仕上げ剤の容器に間違えて入れ、アイロンかけに使用。
症状 息苦しい
処置・転帰 無処置。2−3日して改善。
◎事例3.【原因製品:衣類用洗剤】
患者 1歳6ヶ月児
状況 スプーンで粉末をすくい頭からかぶった。
症状 眼の充血・痒み、咳

3)漂白剤
漂白剤に関する事例は38件(約7.0%)で、このうち次亜塩素酸系(塩素系)が最も多く21件と大半を占めた。
 被害事例の状況として
1.塩素系漂白剤と酸素系漂白剤との混合によりガスが発生した事例
2.水で希釈する際に、はねて眼に入った事例
3.希釈して使用するところを原液のまま使用した事例
4.換気不充分で使用した事例
5.塩素系の漂白剤と酢を混合して塩素ガスが発生した事例
等があり、注意が必要である。塩素系の漂白剤と酸素系の漂白剤を混合し、ガス(塩化水素等)を発生させる事例が散見されている。また、塩素系の漂白剤と酸性物質とを混合し塩素ガスを発生させた例も相変わらず見られ、前述の洗浄剤と合わせるとこれら危険性の高い塩素ガス発生事例は23件にものぼる。塩素ガスを発生する恐れのあるものには「まぜるな危険」の表示、そうでなくとも「他剤と混合しない」という注意書きはなされているところではあるが、これら混合の危険性についてさらに一層の啓発をはかる必要がある。
◎事例1.【原因製品:塩素系漂白剤】
患者 42歳 女性
状況 原液を歯ブラシにつけて浴室で使用。窓は閉まっていたが、換気扇は使用していた。
症状 悪心、頭痛
転帰 翌日には改善。

◎事例2.【原因製品:塩素系漂白剤+酸素系漂白剤】
患者 74歳 女性
状況 塩素系と酸素系の漂白剤を混ぜて使用。
症状 くしゃみ、咳、鼻水
転帰 しばらくして改善。

4)防水スプレー
 防水スプレーに関する事例は15件(約2.7%)であった。今年の報告では特定製品に偏った傾向は見られていない。使用場所はほとんどが屋内であった。
 被害事例の状況として
1.狭い室内で使用した事例
2.長時間使用した事例
3.大量に使用した事例
4.誤って顔にかけてしまった事例
等があり、誤った使用方法によるものが多いと考えられる。防水スプレーを使用する際には、屋外で風下に向かって使用すること、短時間に大量を使用しないこと等、より一層、使用上の注意を徹底する必要がある。
◎事例1.【原因製品:防水スプレー】
患者 17歳 男性
状況 4畳間の部屋で防水スプレーを2本使用した。
症状 肺炎
処置・転帰 入院加療(7日間)。
◎事例2.【原因製品:防水スプレー】
患者 37歳 女性
状況 30分間戸外で何足もの靴に防水スプレーを使用した。
症状 直後から翌朝まで悪心
転帰 2日間安静していたら改善。

5)消火剤
 消火剤に関する事例は29件(約5.3%)であった。被害状況としては、消火器が倒れて消火剤が噴出した例、誤って噴射し吸入した例等、使用時以外の被害が目立った。使用中はもちろんのこと、保管場所、取り扱いには十分な注意が必要である。
◎事例1.【原因製品:消火剤(粉末)】
患者 16歳 女性
状況 消火器が転倒して粉末が噴出。倒れた瞬間に吸入。その後掃除をした。
症状 息苦しい、悪心
処置・転帰 経過観察のみ。

6)芳香・消臭・脱臭剤
 昨年度はそれぞれ別個に計上していたが、昨今の商品には区別不能のものが増加していることもあり、今年度からひとくくりにして計上した。芳香・消臭・脱臭剤に関する事例は、別個に計上されていたものを合計すると平成10年度は20件、平成11年度は26件であった。今年度は44件(約8.1%)とかなり増加している。被害状況としては、エアゾールを誤って自分にかけてしまった例が多く、使用中の取り扱いには十分な注意が必要である。また、通常の使用でも症状を訴える例も散見されていた。
◎事例1.【原因製品:芳香剤(エアゾール缶タイプ)】
患者 28歳 女性
状況 自分で誤って眼に向けてスプレーした。
症状 ぬるま湯で洗ったが、眼の痛み、まぶしさ、かすみ
転帰 念入りに洗眼。改善。

7)園芸用殺虫・殺菌剤
 園芸用殺虫・殺菌剤に関する事例は10件(約1.8%)であった。被害状況としては、風下にいたため吸入してしまった例、散布後に掃除をしていて吸入した例等があり、使用する際には十分注意が必要である。
◎事例1.【原因製品:園芸用殺虫剤(エアゾール缶タイプ)】
患者 72歳 男性
状況 噴霧中に急に風向きが変わり吸入した。
症状 嘔吐、顔面蒼白、軽度の縮瞳
処置・転帰 入院加療(1日)。

8)その他
 昨今色々な商品が発売されているが、それに伴って家庭の中でも様々な目新しい商品による事故の発生例が報告されてきている。いずれもわずかな注意で防げる事例が多い。
◎事例1.【原因製品:除菌剤(エチルアルコール含有)】
患者 1歳6ヶ月 男児
状況 台所で母親が使用。そばに子供がいた。
症状 顔が赤い、ふらついている
◎事例2.【原因製品:代替フロンガス(エアゾール缶タイプ、パソコン掃除用品)】
患者 1歳 男児
状況 パソコンの掃除をする代替フロンを吸入した。
症状 呼吸困難
◎事例3.【原因製品:ポリエステル粉末(美術工芸品)】
患者 46歳 女性
状況 年賀状などの作成時に、スタンプやペンの上にパウダーをかけ、加熱すると浮き出てくるものを使用中に粉が舞い散り、吸入。
症状 悪心

(4)全体について

 この報告は、医師や一般消費者から(財)日本中毒情報センターに問い合わせがあった際、その発生状況から健康被害の原因とされる製品とその健康被害について聴取したものをまとめたものである。したがって、一部の事例については、追跡調査を行っているが、大部分はその後の健康状態等の把握は行っていない。しかしながら、一般消費者等から直接寄せられるこのような情報は、新しく開発された製品を含めた各製品の安全性の確認に欠かせない重要な情報である。
 情報収集の対象は、吸入事故及び眼の被害に限定しているが、製品については一般用医薬品や一部の殺虫剤など法的には家庭用品ではないものも、啓発と言う観点から、これを集計に加えている。
 今年度も前年度同様、子供の健康被害に関する問い合わせが多くあった。いたずらや誤飲など子供自身がその原因を作ってしまった例もあったが、親のそばにいて子供だけが被害を訴える場合など、子供は体が小さく、また成人よりも化学物質に対する防御機能が十分に発達していないため、健康被害を受けやすかったと考えられる事例もあった。保護者は家庭用化学製品の使用時やその保管方法に十分注意するとともに、製造者も子供のいたずらや誤使用等による健康被害が生じないような対策を施した製品開発に努めることが重要である。
 製品形態別では、エアゾール式の製品による事故が多く報告された。エアゾール式の製品は内容物が霧状となって空気中に拡散するため、製品の種類や成分にかかわらず吸入したり、眼に入ったりという健康被害が発生しやすい。使用にあたっては換気状況を確認すること、一度に大量を使用しないこと等の注意が必要である。
 主成分別では、次亜塩素酸系の洗浄剤等による健康被害報告例が相変わらず多く見られた。次亜塩素酸系の成分は、臭いなどが特徴的で刺激性が強いことからも報告例が多いものと思われるが、使用方法を誤ると重篤な事故が発生する可能性が高い製品でもある。事業者においては、より安全性の高い製品の開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等について表示等により継続的な注意喚起と適正な使用方法の推進をはかる必要がある。なお、症状は軽いが、芳香・消臭・脱臭剤による被害報告事例はここ数年増加傾向にあり、注視する必要がある。
 また、事故の発生状況を見ると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の発生を防ぐことができた事例や、わずかな注意で防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者にあっては、日頃から使用前には注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることが大切である。万一事故が発生した場合には、症状の有無にかかわらず、専門医の診療を受けることを推奨したい。


おわりに

 はじめにも触れたように、現在のモニター報告は治療を目的に来院する患者から原因と思われる家庭用品等について情報を収集するシステムである。特定の家庭用品による健康被害の報告の変動があれば、その情報の周知をはかり、当該物品による被害の拡大を防止すること、また、必ずしも容易ではないが、そこから原因となった化学物質を特定し、必要な対策をとることにより新たな健康障害を未然に防止することを目指している。また、(財)日本中毒情報センターに問い合わせのあった事例に関する情報は、主に電話によって収集されたものであり、医学的により詳細な内容を把握したり、予後を明確にすることは困難であるが、モニター病院で収集している以外の情報が消費者より直接寄せられており、家庭用品等による健康被害をモニターするうえで重要な役割を果たしている。
 本モニター報告は平成12年度で22回目となった。ここ数年、報告件数において上位を占める製品はほとんど変動していない。それだけ広く普及し、使用されているものでもあるのだが、引き続き注意の喚起と対策の整備を呼びかけ、注意により避けられる健康被害例を減少させるべく努めていく必要がある。特に、次亜塩素酸系(塩素系)の洗浄剤・漂白剤と酸性洗浄剤の混合による塩素ガス発生死亡事故が過去に発生し、これらの混合使用に対して広く注意喚起が行われて久しいが、幸い死亡という痛ましい事例はないにせよ、いまだにガス発生事故事例の報告が存在している。この中には「まぜるな危険」の表示対象とはならない有機酸や食酢等との混合事例があり、タイプの異なる洗浄剤の混合使用を戒めると同時に、それ以外でも混合すると危険があり得るものをより具体的に明示し啓発していく必要がある。また、塩素系と酸性のものではないが、タイプの異なる複数の漂白剤等類の同時・混合使用により、別のガスを発生させる例もあり、注意の喚起と同時に、混合使用できるもの、できないものを何らかの形でわかりやすく伝えていく工夫も必要であろう。これらの注意喚起に加え、今までにない化学物質による、新たな健康被害が生じていないか、特に注意すべき事例はないか等、引き続きモニターしていくことも本制度にかけられた役割である。
 昨今、危機管理と言うことが盛んに叫ばれているが、危機管理というものは常日頃の連絡体制を効率よく運営することにより十分なされ得ることであり、平時のそのシステムの構築こそが最も重要である。本制度がそれに応え得るよう今後とも継続・充実をはかっていきたい。


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