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平成13年12月27日

平成12年度家庭用品に係る健康被害病院モニター報告(要旨)

1.経緯

 標記病院モニター報告制度は、各種家庭用品に係る消費者の健康被害事例を継続的かつ広範に収集し、健康被害の実態を把握するとともに、家庭用品の安全対策を一層推進することを目的として、昭和54年より実施され、現在皮膚科領域8病院、小児科領域8病院の協力を得ている。また、平成8年度の報告からは(財)日本中毒情報センターが収集した吸入事故等の情報も併せて収集している。今般、平成12年度の報告を家庭用品専門家会議(危害情報部門)(座長:新村眞人 東京慈恵会医科大学皮膚科教授)において検討し、その結果を以下のとおりとりまとめた。

2.概要

 本制度は、モニター病院(皮膚科、小児科各8施設)の医師が家庭用品等による健康被害と思われる事例(皮膚障害、小児の誤飲事故)について、また、(財)日本中毒情報センターが収集した家庭用品等による吸入事故等と思われる事例について、それぞれ厚生労働省に報告する方法により行っているものである。
 平成12年度の報告件数は、皮膚科225件、小児科789件、吸入事故等546件で合計1,560件であった。なお、死亡事例は報告されていない。

(1)家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告

(1)健康被害の概要
・原因家庭用品上位5品目は順に、洗剤が65件、装飾品が51件、ゴム手袋・ビニール手袋が25件、洗浄剤が13件、ベルトが10件、であった。
・患者の性別では、女性が173件(76.9%)と大半を占め、そのうち20代の女性が49件と全体の21.8%を占めた。前年度と比較して減少したが依然年齢・性別集計で最も多かった。
・障害の種類のうち主なものは、アレルギー性接触皮膚炎が110件、刺激性皮膚炎が50件、KTPP型*の手の湿疹が37件等であった。

*KTPP(keratodermia tylodes palmaris progressiva:進行性指掌角皮症)
 手の湿疹の1種で、水仕事、洗剤等の外的刺激によりおこる。まず、利き手から始まることが多く、皮膚は乾燥し、落屑、小亀裂を生じ、手掌に及ぶ。程度が進むにつれて角質の肥厚を伴う。

(2)原因製品別結果と考察
(洗剤)
・洗剤に関する報告件数は65件(25.6%)であった。
・製品の種別のうち主なものは、台所用洗剤が29件、洗濯用洗剤が12件等であった。
・障害の種類のうち主なものは、刺激性の皮膚炎が27件、KTPP型の手の湿疹が24件、湿潤型の手の湿疹が9件等であった。
・原液での使用など、不適切な使用法を避け、使用上の注意・表示をよく読んで正しく使用することが重要である。また、使用者の必要に応じて、保護手袋を装着することや、使用後保護クリームを塗ることなどの工夫も有効と思われる。それでもなお、症状が発現した場合は原因と思われる製品の使用を中止し、専門医を受診することを推奨する。

(装飾品)
・装飾品に関する報告件数は51件(20.1%)であった。
・製品別の内訳のうち主なものは、ネックレスが13件、指輪が7件、ピアスが6件、イヤリングが4件、ブレスレッドが2件であった。
・アレルギー性接触皮膚炎が43件(84.3%)と障害報告事例の大半を占めた。
・46件についてパッチテストが実施され、前年度同様ニッケルにアレルギー反応を示した例が 29件と最も多かった。
・汗を大量にかくような運動をする際には装飾品類をはずすことが望ましい。また、ピアスは表皮より深部に接触する可能性が高く、初めて装着したり、種類を変更したりした際には、症状の発現に特に注意して使用する必要がある。症状が発現した場合には、専門医を受診するとともに、原因製品の装着を避け、装飾品を使用する場合には別の素材のものに変更することが必要である。

(ゴム、ビニール手袋)
・ゴム、ビニール手袋に関する報告件数は25件(9.8%)であった。
・素材が判明したものの内訳は、ゴム手袋が15件、ビニール手袋が3件であった。
・ラテックスアレルギーは重篤な場合ショック症状に陥り、生命の危険を伴う恐れがあり、注意が必要である。既往歴があり皮膚障害が心配される場合には、別の素材の手袋に変更すること等の対策が必要である。
・製造者においては、ラテックス蛋白質の含有量を低減する努力を引き続き行うことが重要である。

(洗浄剤)
・洗浄剤に関する報告件数は13件(5.1%)であった。
・障害の種類は、刺激性皮膚炎とKTPP型手の湿疹がそれぞれ4件、湿潤型手の湿疹が3件、化学傷害、アレルギー性接触皮膚炎、色素沈着が各1件であった(重複事例含む)。
・アルカリ性のものは、皮膚についた時の刺激は少ないが放置すると症状を悪化させるので、基本的に皮膚に直接接触しないようにし、ついてしまった場合はすぐに水でよく洗い流すことが必要である。

(3)全般的な留意事項
 家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどであり、家庭用品を使用することにより接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原因と考えられる家庭用品の使用を極力避け、様子をみることが必要である。再度使用して同様の症状が発現する場合には、同一の素材のものの使用は避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療を受けることが必要である。
 また、毎年誤使用から障害が発生した事例が見受けられることからも、日頃から使用前には必ず注意書をよく読み、正しい使用方法を守ること、自己の体質について認識し、製品の素材について注意を払うことが大切である。

(2)小児における家庭用品等の誤飲事故に関する報告

(1)健康被害の概要
・誤飲事故の原因製品上位5品目は順に、タバコが385件、医薬品・医薬部外品が108件、玩具が51件、洗剤・洗浄剤が34件、金属製品が27件であった。
・上位品目の全件数に占める割合の長期的傾向を見ると、変動はあるもののタバコの占める割合が依然として多かった。
・誤飲事故全体の約58%が午後4時から午後10時の間に発生していた。

(2)原因製品別考察
(タバコ)
・タバコに関する報告件数は385件(48.8%)で、小児科報告件数の約半数を占めていた。これは例年と同様の傾向であった。
・事故は6〜11ヶ月の乳児に発生が集中(257件,66.8%)しており、さらに12〜17ヶ月の幼児とあわせると乳幼児で報告例の90.9%を占めた。
・タバコや灰皿は乳幼児の手の届かないところに保管するなど、生後6ヶ月からの1年間は特にそれらの取り扱いや置き場所に細心の注意を払うことが必要である。

(医薬品・医薬部外品)
・医薬品・医薬部外品に関する報告は108件(13.7%)であった。
・誤飲事故は、各年齢層においてみられたが、特に1〜2歳児に多い傾向があった。
・誤飲事故の大半は、医薬品等の保管を適切に行っていなかった場合や、保護者が目を離したすきに発生していた。小児の医薬品の誤飲は症状が発現する可能性が高く、保管・管理に十分留意する必要がある。

(電池)
・電池に関する報告件数は14件(1.8%)であった。
・本年は12〜17ヶ月の乳児による事故が若干多い傾向があったが、6ヶ月〜5歳までの幅広い年代で報告が見られた。
・誤飲した電池の種類は、ボタン電池が10件と大半であるが、小型の乾電池を誤飲した事例も4件あった。
・誤飲事故は、玩具で遊んでいるうちに電池の出し入れ口のフタが開き、中の電池が取り出されてしまったために起こっている事例が多かった。
・最近、幼児が遊ぶ玩具でもボタン電池等を使用したものが多くあり、製造業者はこれらの製品について、幼児が容易に電池を取り外すことができないような設計を施すなどの配慮が必要である。
・また、保護者も、電池の出し入れ口のフタにある留め具等が機能しているか確認するとともに、未使用や放電しきっていない電池は子供の目につかない場所や手の届かない場所に保管する等の配慮が必要である。

(食品)
・食品類に関する報告では、ピーナッツが気管に侵入してしまい12日の入院が必要となった事例があった。
・ピーナッツや枝豆は、気道に入りやすい大きさ、形状及び硬さを有しているので、特に2歳未満の乳幼児においては、誤飲事故の原因となりやすい。また、このような食品は気道に入った場合摘出が困難であり、十分注意をする必要がある。乳幼児にそのまま食べさせることは禁忌とされている。平成5年度には食品の誤飲よる死亡事故の報告もあり、保護者自身が十分に注意する必要がある。

(3)全般的な留意事項
 乳幼児は、身の回りのあらゆるものを分別なく口に入れてしまうことから、保護者は子供の周囲の環境に気を付けなければならない。食品類であっても状況次第では危険なものになるということを認識する必要がある。特に重篤な事例に陥る可能性のあるものについて認識し、対象物品には特に注意を怠らないよう努めることが重要である。また、毎年最も報告の多いタバコの誤飲事故は、発生が集中している生後6ヶ月からの1年間の期間に保護者がもっと注意を払うことにより、事故の発生を減らすことができるはずである。
 今年度は保育所や幼稚園で発生した誤飲事故事例の報告はなく、誤飲の可能性のあるものを極力排除することで事故を減少させられるものと思われる。乳幼児の口に入るサイズはおおよそ直径30mmといわれており、このサイズ以下のものには注意が必要である。

(3)(財)日本中毒情報センターからの吸入事故等に関する報告

(1)健康被害の概要
・吸入事故等の原因製品上位5品目は順に、殺虫剤類(医療部外品も含む)が122件、洗浄剤が91件、芳香・消臭・脱臭剤が44件、漂白剤が38件、消火剤が29件であった。なお、本年度から芳香、消臭、脱臭剤はまとめて計上している。
・主な製品形態は、エアゾールタイプの製品が210件(内ハンドスプレー式76件)、次いで液状の製品が190件等であった。
・年齢別の内訳では216件(39.6%)が9歳以下の子供の事例であった。
・性別の内訳では女性が303件と全体の55.4%をしめた。

(2)原因製品別考察
(殺虫剤)
・殺虫剤(医薬部外品を含む)に関する事例は、122件(22.3%)であった。極端な大量使用や直接人体にかかってしまった例、燻煙後に十分に換気をせずに室内に入った事例など、誤使用と思われる例も見られた。
・保管中の液漏れや使用済み缶の処理の際に吸入した例も見られた。保管や廃棄にも留意する必要がある。

(洗浄剤)
・洗浄剤に関する報告件数は91件(16.7%)であり、そのうち最も多かったのが、次亜塩素酸系の製品で30件であった。そのうちの多くはハンドスプレー式(24件)のものであった。
・風呂場やトイレのような狭い場所で十分な換気をせずに使用した事例があった。また、酸性物質と混合し、塩素ガスを発生させてしまった事例も未だにみられた。塩素ガスは有毒であり、危険である。
・屋内で使用する際には、換気状況が良好であることを確認のうえ、適正量を使用することが重要である。

(漂白剤)
・漂白剤に関する報告件数は38件(7.0%)であり、そのうち次亜塩素酸系の製品が21件と最も多かった。
・原液での使用や、洗浄剤と同様、未だに酸性洗浄剤と混ぜて使用し塩素ガスを発生させてしまった事例もみられた。また、塩素系と酸素系のタイプに異なる漂白剤を混合したり、次亜塩素酸系の漂白剤と酢と混合使用したりしてガスを発生させた例もあり、一層の啓発を図る必要がある。

(防水スプレー)
・防水スプレーに関する事例は15件(2.7%)であった。
・特定製品に偏った傾向は見られなかった。
・製造者にあっては、過去の事例に鑑み、有用性が確認された方法で製品の安全性を十分に確認することが重要である。
・事故例は屋内での使用や大量使用であり、誤使用と思われるものも多かった。
・使用の際には、屋外で風下に向かって使用すること、一度に大量使用をしないこと等の注意が必要である。

(3)全般的な留意事項
 今回も、子供の健康被害に関する問い合わせが多くあった。いたずらや誤飲など子供自身が原因を作った例もあったが、親のそばにいて子供だけが被害を訴える場合など、子供が小さく、大人よりも化学物質に対する防御機能が十分に発達していないために健康被害を受けやすかった、と考えられる事例もあった。保護者は家庭用化学製品の使用や保管には十分注意するとともに、事業者も子供のいたずらや誤使用等による健康被害が生じないような方策を施した製品開発が重要である。
 事故の発生状況をみると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の発生を防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者も日頃から使用前には必ず注意書をよく読み、正しい使用方法を守ることが重要である。未だ塩素ガスを発生させた事例が見られることからも、事業者にあっては、より安全性の高い製品開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等について表示等により継続的な注意喚起をし、適正使用方法の推進を図る必要がある。また報告された被害の程度は軽度ではあるが、芳香・消臭・脱臭剤による事故が増加してきているので、注視していく必要がある。

3.おわりに

 家庭用品に起因する健康被害を防止するためには、消費者は製品情報に注意すること、事業者は製品の供給に先だって安全性の確認を十分に行い、安全な製品の供給に努めること、また、販売時には製品の適切な使用方法について、確実に消費者に伝わるよう努力することが必要である。
 また、乳幼児の事故を防止するためには、保護者自身が家庭用品や他の身の回りの品について、使用や保管に細心の注意を払うことが重要である。
 ここ数年、報告件数において上位を占める家庭用品の種類はほとんど変動していない。それだけ広く普及し、使用されているものでもあるのだが、引き続き注意の喚起と対策の整備を呼びかけ、注意により避けられる健康被害例を減少させるべく努めていく必要がある。また、酸性物質と混合し、塩素ガスを発生させてしまった事例が未だにみられた。この中には洗浄剤同士ではなく、食酢や有機酸との混合事例があった。タイプの異なる漂白剤を混合し、別のガスを発生させた例もあり、混合使用できるもの、できないものを何らかの形でわかりやすく伝える工夫も必要であろう。また、タバコの誤飲事故は生後6ヶ月〜17ヶ月の乳幼児に集中して起きている状態が依然継続しているので、保護者はこの期間にもっと注意を払うべきである。これらの注意喚起に加え、新たな健康被害が生じていないか、特に注意すべき事例は無いか等、引き続きモニターしていくことも本制度にかせられた役割である。最近、家庭用品の分野にも新しい製品が登場するようになり、使用の歴史が浅い化学物質を含有する製品も数多く開発されてきていることから、それらの安全性について引き続き注目していく必要がある。

平成12年度家庭用品に係る健康被害病院モニター報告


照会先 厚生労働省医薬局審査管理課
化学物質安全対策室
担当:吉田(2423),平野(2427)


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