平成13年7月24日
平成13年7月5日、第7回シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会(座長:林 裕造 元国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター長)が開催され、別紙の通り、中間報告書−第6回〜第7回のまとめが、とりまとめられた。
中間報告書は以下の内容を含む。
中間報告書の主な内容
1.個別の揮発性有機化合物(VOC)の指針値等について |
照会先 厚生労働省医薬局審査管理課化学物質安全対策室 室長 山本 徹(内2421) 担当 吉田 淳(内2423) 高江 慎一 (内2424) 平野 英之(内2427) 電話 03-5253-1111
平成13年7月5日
1. 個別の揮発性有機化合物(VOC)の指針値等について(別添1)今般、室内空気汚染に係るガイドラインとして、新たにテトラデカン、ノナ ナール、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ダイアジノンの室内濃度指針値に係る検討結果をとりまとめたので、下記に概要を示す。なお、これまで指針値等を策定した物質についても再掲し、指針値策定の目的と期待される効果、並びにこれら対象物質の選定の考え方を記した。
(1) 室内濃度に関する指針値の概要
指針値の策定は、室内空気環境汚染の改善又は健康で快適な空気質の確保を目的としている。我々はその生活の大部分を室内空間で過ごす訳であり、健康で快適な空気質を享受することは、一般国民の権利である。従って、基本的には、室内空気環境中に存在する可能性のある物質は全て指針値策定の対象となり得る。指針値の適用範囲は、特殊な発生源がない限り全ての室内空間が対象となる。
ここで示した指針値は、現時点で入手可能な毒性に係る科学的知見から、ヒトがその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても、健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値を算出したものである。これらは、今後集積される新たな知見や、それらに基づく国際的な評価作業の進捗に伴い、将来必要があれば変更され得るものである。
一方、シックハウス症候群と呼ばれる病態で苦しんでいる方の中には、空気中の微量の物質に過敏に反応してしまうことがあると報告されているように、この指針値を満たしている室内空気質であれば絶対に安全であるとは言えない場合もある。しかし、指針値を定め、普及啓発することで、住宅や建物の環境改善が進めば、多くの人たちが新たに健康悪化をきたさないようにすることができるはずである。
従って、指針値を満足するような建材等の使用、住宅や建物の提供もしくはそのような住まい方を期待するところである。一方、指針値設定はその物質が「いかなる条件においても人に有害な影響を与える」ことを意味するのではない、という点について、一般消費者をはじめ、関係業界、建物の管理者等の当時者には、正しく理解していただきたい。
指針値を策定する際、どの物質を選定するかについては、本検討会中間報告書−第1回〜第3回のまとめ(平成12年6月)の指針値策定の今後の方針で述べてある通り、対象物質を選定する際に考慮すべき6つの事項に従っている。それらは、1)海外で指針が提示されているもの、2)実態調査の結果、室内濃度が高く、その理由が主として室内の発生源によると考えられるもの、3)パブリックコメントから特に要望のあったもの、4)外国で新たな規制がかけられたこと等の理由により、早急に指針値策定を考慮する必要があるもの、5)主要な用途からみて、偏りがないようにすること、6)主要な構造分類からみて、偏りがないようにすること、であり、今後も、首尾一貫性をもった方針で、指針値策定を進めていくこととする。
(2) 個別物質の室内濃度指針値等
ここに示した物質の指針値は、ホルムアルデヒドの場合は短期間の暴露によって起こる毒性を指標に、それ以外の物質の場合は長期間の暴露によって起こる毒性を指標として、それぞれ策定している。また、総揮発性有機化合物(TVOC)の暫定目標値は、毒性学的知見にはよらず、国内家屋の実態調査の結果から、合理的に達成可能な限り低い範囲で決定した値であり、個別物質の指針値とは独立に、室内空気質の状態の目安として利用される。
なお、ノナナールについては、情報量が乏しく暫定値の提案であったが、新たなデータは入手できなかったことから、暫定値のまま継続して検討することとした。またテトラデカン及びノナナールの指針値策定の検討に関連して、今後C8-C16飽和脂肪族直鎖炭化水素及びC8-C12飽和脂肪族直鎖アルデヒドという物質群としての指針値が策定できるか検討することとした。
揮発性有機化合物* | 毒性指標 | 室内濃度指針値** |
テトラデカン 2),6) | C8-C16混合物のラット経口暴露における肝臓への影響 | 330μg/m3 (0.04ppm) |
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル 3),5) | ラット経口暴露における精巣への病理組織学的影響 | 120μg/m3 (7.6ppb)注1 |
ダイアジノン 4),5) | ラット吸入暴露における血漿及び赤血球コリンエステラーゼ活性への影響 | 0.29μg/m3 (0.02ppb) |
注1: | フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)の蒸気圧については1.3×10−5Pa(25℃)〜8.6×10−4Pa(20℃)など多数の文献値があり、これらの換算濃度はそれぞれ0.12〜8.5ppb相当である。 |
揮発性有機化合物* | 毒性指標 | 室内濃度指針値** |
ホルムアルデヒド | ヒト吸入暴露における鼻咽頭粘膜への刺激 | 100μg/m3 (0.08ppm) |
トルエン 1),2) | ヒト吸入暴露における神経行動機能及び生殖発生への影響 | 260μg/m3 (0.07ppm) |
キシレン 1),2) | 妊娠ラット吸入暴露における出生児の中枢神経系発達への影響 | 870μg/m3 (0.20ppm) |
パラジクロロベンゼン 1),2) | ビーグル犬経口暴露における肝臓及び腎臓等への影響 | 240μg/m3 (0.04ppm) |
エチルベンゼン 1),2),3) | マウス及びラット吸入暴露における肝臓及び腎臓への影響 | 3800μg/m3 (0.88ppm) |
スチレン 1),2) | ラット吸入暴露における脳や肝臓への影響 | 220μg/m3 (0.05ppm) |
クロルピリホス 4),5) | 母ラット経口暴露における新生児の神経発達への影響及び新生児脳への形態学的影響 | 1μg/m3 (0.07ppb) 但し、小児の場合は、 0.1μg/m3 (0.007ppb) |
フタル酸ジ-n-ブチル 1),3),5) | 母ラット経口暴露における新生児の生殖器の構造異常等への影響 | 220μg/m3 (0.02ppm) |
総揮発性有機化合物量 (TVOC) 1),3) |
国内の室内VOC実態調査の結果から、合理的に達成可能な限り低い範囲で決定 | 暫定目標値 400μg/m3 |
揮発性有機化合物* | 毒性指標 | 室内濃度指針値案 |
ノナナール 2),6) | C8-C12混合物のラット経口暴露における毒性学的影響 | 41μg/m3 (7.0ppb) (情報量が乏しいことから暫定値) |
2.測定法について(別添2)
今回新たに指針値が提案された物質の測定法についてはそれぞれ別添2に示した方法によるものとする。
3.測定マニュアルについて(別添3)
室内空気中の化学物質濃度は測定方法や条件によって変動が予想されることから、指針値に具体性を与えるためには、測定にあたって標準となる条件等の取り決めが必要であった。厚生省(当時)では、平成12年6月にホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼンの標準的測定法について、「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会 中間報告書−第1〜3回のまとめ」の別添2として公表したのを初め、この後に指針値が追加された物質についても条件の追加を行ってきたところである。
本マニュアルは、これまで提示した測定方法に、追加事項、用語、運用にあたってのガイド、並びに補足説明を加えるものとして作成した。なお、クロルピリホス、ダイアジノン、フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシルTVOC等については現時点ではマニュアルの対象となっていないが、利用可能な部分については適宜参考としていただきたい。
4.相談マニュアル作成の手引きについて(別添4)
室内空気汚染に関する関心が高まっていることもあり、近年明らかにこの問題に関する相談が増加の傾向にある。本資料は、これまでに報告された相談事例や、学術論文等の科学的情報、また最新の調査研究報告等を基に、現時点における室内空気汚染問題に関する知見や情報、とりうる対策の指針を示したものである。居住環境の指針や対策書をまとめるための手引き書として、また参考資料集として利用されることを想定している。快適な居住環境を確保するためにはこれに加えて、ダニ、カビ、衛生害虫、ネズミ等の生物に対する対策や、給排水、採光・照明、騒音・振動、ゴミ処理、臭気等にも考慮し、対策や指針を示す必要があるが、これらについては先に「快適で健康的な住宅に関するガイドライン」が作成されており、これを参照していただきたい。
なお、当該問題解決にあたって重要と考えられる課題として、専門医療機関ネットワーク、改修技術等が考えられるが、これらについては現在、関係省庁や部局とも協力し、別途調査、研究、検討が進められているところであり、成果の得られた段階で同様に普及啓発が図られる予定である。
5.次回以降予定する室内濃度指針値策定の対象物質
新たに検討を行う物質は、本検討会中間報告書−第1回〜第3回のまとめ(平成12年6月)の指針値策定の今後の方針に従い、以下の2物質とする。
また以下の物質(群)について、検討することとする。