男女間賃金差別に関する裁判例から

第37回労働政策審議会雇用均等分科会資料から抜粋


 岩手銀行事件
 (平成4年1月10日 仙台高裁判決/確定)

(事案)
 Y社の給与規程においては、「世帯主たる行員」に対して家族手当・世帯手当を支給するとし、配偶者に所得税法上の扶養控除対象限度額を超える所得がある場合には、夫のみを右「世帯主たる行員」とするとしていた。
 Xは、夫、長女、実父母と同居しており、家族手当等を支給されていたが、Xの夫が市議会議員に当選し、所得税法に規定されている扶養控除対象限度額を超える所得があることとなった以降、それまで支給されていた家族手当等の支給が停止されたため、Xは、長女を扶養する世帯主たる行員であるとして、家族手当等の支払い等を求めたもの。

(判決の要旨)
 本件家族手当等は就業規則により規定され、労働協約によって決められており、労基法上の賃金に当たる。Y社は給与規程上の条項を根拠にして、男子行員に対しては、妻に収入(所得税法上の扶養控除対象限度額を超える所得)があっても、本件家族手当等を支給してきたが、Xのような女子行員に対しては、生計維持者であるかどうかにかかわらず、実際に子を扶養するなどしていても夫に収入があると本件家族手当等の支給をしていないというのだから、このような取扱いは男女の性別のみによる賃金の差別扱いであると認めざるを得ない。
 よって、本件給与規程の当該条項及びこれによる本件家族手当等の男女差別扱いをして、合理性があるとするような特別の事情もないので、当該条項は強行規定である労基法4条に違反し、民法90条により無効であるといわなければならない。


 三陽物産事件
 (平成6年6月16日 東京地裁判決/平成7年7月 東京高裁和解成立)

(事案)
 Y社の給与制度においては、基本給は本人給と資格給に分けられ、本人給については、原則として年齢に応じて支給されることになったが、非世帯主及び独身の世帯主の労働者(後に勤務地限定の要件を追加)には所定の本人給を支給しないことがあると規定され、26歳の年齢給が適用されるとされていた。そして男性に対しては、全員「勤務地域無限定」であるとして実年齢による本人給を支給し続け、「非世帯主及び独身の世帯主」である女性に対しては「勤務地域限定」であるとして、26歳相当に据え置いたままであった。
 そこで、Xら3名の女性が、「世帯主・非世帯主」、「勤務地域限定・無限定」のいずれの基準も、労基法4条違反であるとして、実年齢相当の本人給との差額と一時金との差額の支払い等を請求したもの。

(判決の要旨)
(1) 世帯主・非世帯主の基準の効力
 Y社は、世帯主・非世帯主の基準を設けながら、実際には、男子従業員については、非世帯主又は独身の世帯主であっても、女子従業員とは扱いを異にし、一貫して実年齢に応じた本人給を支給してきていること、また、本人給は、本人の生活実態に見合った基準による最低生活費の保障を主たる目的として支給するという趣旨に合致しないこと等から、この基準は、女子従業員に対し、女子であることを理由に賃金を差別したものというべきであり、労基法4条の男女同一賃金の原則に反し、無効である。
(2) 勤務地限定・無限定の基準の効力
 一般論として、広域配転義務の存否により賃金に差異を設けることにはそれなりの合理性が認められるが、Y社においては、給与規定の改定に当たって、男子従業員には勤務地無限定、女子従業員には勤務地限定と記入した勤務地確認票を送付していたこと、また、男子従業員であっても、必ずしも営業職につくとはいえず、営業職についても広域配転の割合は微々たるものであると認められること等から、当該基準は、真に広域配転の可能性がある故に実年齢による本人給を支給する趣旨で設けられたものではなく、女子従業員の本人給が男子従業員のそれより一方的に低く抑えられる結果となることを容認して制定され運用されてきたものであるから、女子従業員に対し、女性であることを理由に賃金を差別したものであるというべきであり、したがって、労基法4条の男女同一賃金の原則に反し、無効である。


 京ガス事件
 (平成13年9月20日 京都地裁判決/控訴係争中)

(事案)
 Xが、同期入社・同年齢の男性と比較して、女性であることを理由に差別を受けたとして、Y社に対し、不法行為に基づき、差額賃金相当額の支払い等を求めたもの。

(判決の要旨)
 平成2年4月から平成13年3月までのXの給与総額は同期入社の男性社員であるAの75パーセント弱である。したがって、本件賃金格差が存在すると評価できる。XとAの各職務の遂行の困難さにつき、証拠を総合すれば、その各職務の価値に格別の差はないものと認めるのが相当である。XとAとは同期入社であり、年齢がほぼ同じであること、Y社の就業規則には、事務職と監督職も同じ事務職員に含まれていること、Y社では、男性社員のみ監督となることができ、女性社員であるXは本人の意欲や能力に関わりなく監督になることができる状況にはなかったこと、XとAの各職務の価値に格別の差はないものと認めるのが相当であることからすると、本件賃金格差は、Xが女性であることを理由とする差別によるものと認めるのが相当である。そうすると、本件賃金格差は労基法4条に違反して違法であり、Y社はXに対し、民法709条に基づき、生じた損害を支払う義務がある。

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