労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和5年(行コ)第52号
あんしん財団(資料配付)不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  一般財団法人X(「法人」) 
被控訴人  東京都(代表者兼処分行政庁 東京都労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Zユニオン(「組合」) 
判決年月日  令和5年8月2日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、少なくともその3つの支局において、「ユニオンとは何か-その実態と対応方法-」と題する資料(支局長会議の中で行われた研修(以下「本件研修」という。)の資料(以下「本件研修資料」という。))を職員に配布し説明したこと(以下「本件説明行為等」という。)が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
2 東京都労委は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、文書の交付及び掲示等を命じた。
3 法人は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、法人の請求を棄却した。
4 法人は、これを不服として東京高裁に控訴したところ、同高裁は、法人の控訴を棄却した。
 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加の費用を含む。)は控訴人の負担とする。
判決の要旨  1 当裁判所も、法人の請求は理由がないと判断する。その理由は、原判決を次のとおり補正する(略)ほかは、原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の1ないし5に記載のとおりであるから、これを引用する。
(注)以下、補正内容を反映したものである。

2 争点⑴ 労組法7条3号及び本件命令の憲法適合性について

(1) 労組法7条3号の法令としての憲法適合性について

ア 法人は、本件説明行為等は法人の表現行為であり、憲法21条1項の表現の自由として保護されるべきものであるが、労働委員会による救済命令は、使用者がこれに違反した場合に労組法28条により刑事罰が科されることになり、同条の犯罪構成要件の一部となるといえるから、不当労働行為が表現行為の形態をとる場合は使用者の表現行為に対する規制として機能することになるところ、労組法7条3号本文が掲げる不当労働行為の要件は漠然かつ不明確であるから、同規定の憲法適合性には疑義がある旨を主張するので、以下検討する。

イ 法人の上記アの主張は、労組法7条3号本文が刑罰法規として曖昧であるから、同規定に基づいて不当労働行為であると認定され、刑罰が科されることは憲法31条に違反する旨を主張する趣旨とも解される。
 しかしながら、労組法は、使用者の一定の類型の行為を不当労働行為として禁止するものの(同法7条)、使用者が不当労働行為を行ったことをもって直ちに刑事罰を科すという枠組みとはしておらず、労働委員会が使用者の行為を不当労働行為と認定して救済命令を発し(同法27条の12)、その救済命令の全部又は一部が確定判決によって支持された場合において、当該救済命令に違反した行為をした者に対して刑事罰を科すものと規定している(同法28条)。
 したがって、労組法7条3号本文それ自体が刑罰法規である旨の法人の上記主張は、使用者の不当労働行為に対して直ちに刑事罰を科すものとしていない労組法の構造とは相容れないものであり、採用することができない。

ウ 法人の上記アの主張が、労組法7条3号本文が同法28条と相まって刑罰法規の一部を構成するものであるところ、労組法7条3号本文は曖昧・不明確であるがゆえに憲法31条に違反する旨を述べる趣旨と解したとしても、以下のとおり、労組法7条3号本文が憲法適合性を欠くとはいえない。
 すなわち、刑罰法規の定める犯罪構成要件が曖昧・不明確のゆえに憲法に違反するものとして無効とされるのは、その規定が通常の判断能力を有する一般人に対して、禁止される行為とそうでない行為とを識別するための基準を示すところがなく、そのため、その適用を受ける国民に対して刑罰の対象となる行為をあらかじめ告知する機能を果たさず、また、その運用がこれを適用する国又は地方公共団体の機関の主観的判断にゆだねられて恣意に流れる等、重大な弊害を生ずるためであると解されるから、ある刑罰法規が曖昧不明確であるという理由で憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかも、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによってこれを決するのが相当である(最大判昭和50・9・10参照)。
 労組法27条の12に定める労働委員会の救済命令制度が設けられているのは、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した同法7条の規定の実効性を担保するためであり、同法が、上記の禁止規定の実効性を担保するために、使用者の上記規定違反行為に対して労働委員会という行政機関による救済命令の方法を採用したのは、使用者による組合活動侵害行為によって生じた状態を上記の命令によって直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るとともに、使用者の多様な不当労働行為に対してあらかじめその是正措置の内容を具体的に特定しておくことが困難かつ不適当であるため、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限をゆだねる趣旨に出たものと解すべきである(最大判昭和52・2・23参照)。
 かかる不当労働行為救済制度の趣旨に照らせば、労組法7条3号は、主体的かつ自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として労働組合を組織する権利が認められている労働者について、その主体的かつ自主的な独立した活動を保障するため、使用者において、労働者が労働組合を結成することやその運営することを支配し又はその運営に介入することなどを不当労働行為として禁止した趣旨の規定と解するのが相当である。
 そうすると、前示のとおり、労組法7条3号本文所定の支配介入の意義の解釈及びその適用が第一次的には労働委員会の判断に委ねられているとしても、その判断は、労働委員会の自由な裁量に委ねられているものではなく、使用者による支配介入という形態による組合活動侵害行為を禁じ、それが行われた場合に労働委員会による救済命令によって当該状態を直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという不当労働行為救済制度の趣旨及び目的に沿って合目的的に行われるべきものといえる。
 労組法7条3号本文が想定する不当労働行為の内容が多種多様なものに及び、これに併せて同号が規定する「支配」あるいは「介入」といった要件に一定の解釈の余地が残るとしても、同規定が通常の判断能力を有する一般人に対して、禁止される行為とそうでない行為とを識別するための基準を示すところがなく、そのため、その適用を受ける国民に対して刑罰の対象となる行為をあらかじめ告知する機能を果たさず、また、その運用がこれを適用する労働委員会の主観的判断に委ねられて恣意に流れるなどの重大な弊害が生ずるとは解し難く、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的な場合において、労組法7条3号所定の「支配」及び「介入」といった要件に該当するか否かの判断を可能ならしめるような基準を読みとることができないものではないというべきである。
 したがって、労組法7条3号が明確性を欠き憲法31条に違反するものではなく、法人の上記主張は採用することができない。

(2) 本件説明行為等に労組法7条3号を適用することの憲法適合性について

 法人は、第2(事案の概要)の4(争点に関する当事者)⑴の争点⑴(労組法7条3号及び本件命令の憲法適合性)の法人の主張イ(本件命令は労組法7条3号本文に定める「支配」及び「介入」といった要件の意義ないし定義を示さないままに本件説明行為等を不当労働行為(支配介入)に該当するものとして、救済命令を発しているが、本件説明行為等につき本件命令が支配介入に当たると述べるところは、使用者が労働組合を批判する言論を行う場合には避けることができない可能性の一例にすぎず、本件説明行為等は組織の混乱・崩壊を避けるために行った防衛のための言論にほかならないのに、本件命令は、使用者の反論手段を、組合との交渉、組合への抗議及び訴訟による法的手段等に限られるとした上で、主文1項により、「敵対する好ましくない存在であるなどと印象付ける内容の資料を配布し説明するなどして」などという曖昧で漠然とした内容の命令を発して、過度に広汎な言論の禁圧をしている。このような判断では、本件命令が確定した場合にどのような組合批判言論が許されるかが判然とせず、その結果、法人において組合に対する批判的言論を一切封じられるという抑圧効果が生じることになる。したがって、表現行為としての性質を有する本件説明行為等に労組法7条3号本文を適用することは違憲(適用違憲)である。)のとおり、本件説明行為等に労組法7条3号本文を適用する本件命令が違憲である旨主張する。
 法人の上記主張は、同条項の憲法適合性に疑義があるとする法人の第2の4⑴の法人の主張ア(本件説明行為等は法人の表現行為としての側面があり、憲法21条1項の表現の自由として保護されるべきものである。他方で、労働委員会の救済命令は、使用者がこれに違反した場合に労組法28条により刑事罰が科されることになり、同条の犯罪構成要件の一部となるといえるから、不当労働行為が表現行為の形態をとる場合は使用者の表現行為に対する規制として機能することになる。しかるに、労組法7条3号本文が掲げる不当労働行為の要件は、「労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること」という漠然かつ不明確なものにとどまり、表現の自由に対する規制として明確性を欠くものであるから、その憲法適合性には疑義がある。)を前提とするものであるところ、同条項の憲法適合性に係る法人の主張を採用することができないことは前記説示のとおりであるから、本件命令の違憲性を言う法人の上記主張は、実質的には、本件命令が違法であるとしてその適法性を争うものと解される。
 したがって、本件命令が違憲である旨の法人の上記主張は採用することができない。

3 争点⑵ア 本件説明行為等が労組法7条3号本文に定める労働組合の運営への支配介入に該当するか(本件説明行為等が労組法7条3号本文に該当するものとしてされた本件命令が、同規定を過度に広汎に解釈適用したものとして違法となるか)について

(1) 労組法7条3号本文所定の支配介入の意義及び判断枠組みについて

 前示のとおり、法人たる使用者にも意見表明の自由は保障されており、使用者の当該利益を確保することが正常な労使関係の形成発展にも資する部分があるとしても、このような使用者の意見表明の自由も労働者の団結権及び団体交渉権の保障との関係においては一定の制約を免れず、使用者が労働者ないし労働組合に対して意見を表明する場合には、労使関係の秩序を乱すことなく公正かつ妥当な形で自己の見解を表明するという合理的な配慮が求められているものというべきである(最三小判昭和58・12・20参照)。
 労働者ないし労働組合に対する使用者の意見表明等の言論行為が労組法7条3号の支配介入として不当労働行為に該当するか否かも、当該言論の内容、発表の手段、方法、発表の時期、発表者の地位、身分、言論発表の与える影響などの諸事情を総合考慮して判断するのが相当であって、その際、当該言論が、組合員に対して威嚇的に作用したり、労働組合の組織、運営に現実に支障を生じさせるといった程度に至らず、一般的・抽象的に影響を及ぼす可能性があるという程度にとどまったとしても、公正かつ妥当な形で自己の見解を表明するという合理的な配慮を欠き、労使関係の秩序を著しく乱すことになった場合には、労働者ないし労働組合の主体的かつ自主的な独立した活動を阻害する支配介入行為として労組法7条3号所定の不当労働行為を構成するものと解すべきである。

(2) 本件説明行為等の労組法7条3号本文該当性について

 本件研修資料の内容は、具体的には、「ユニオンは、通常の労働組合ではありません。」、「解決金として多額の金銭を要求する」、「社員が悪い場合でも、自分たちユニオンは弱者、会社は悪とのイメージを植え付ける」、「ユニオンは、いかにして会社を攻撃するか-法律の利用・活用-」などといった記載がされているほか、法人の本部前において組合が情宣活動を行ったことについて、周囲の企業が消極的あるいは否定的な反応であった旨がそれぞれ記載されていることが認められるのであって、組合の労働組合活動に対する否定的な評価がうかがわれる上、組合に対する批判的な意見や組合を揶揄する表現が少なからず見受けられる。
 そうすると、本件研修資料等は、上記の表現等を用いて、組合が通常の労働組合とは異なり労働問題の解決名目で金銭を取得することを意図する団体であるとの誹謗中傷をするとともに、その組合員に対しては、全ての社員が情報共有をして毅然たる態度で臨むことが肝心であることや、当該組合員が組織内にいる場合には、当該社員がいわゆる「ブラック社員」であり、周囲の社員にも分かるように公の場で議論して当該ブラック社員による組織分断行為を絶対に許さないことなどが組織防衛のために必要不可欠であることを指摘するなどして、当該ブラック社員とされる組合に加入する組合員による組合活動を許容しない態度や対応をとることを奨励する内容のものと理解される。
 加えて、本件研修は、組合による情宣活動が活発化し、A1ほか7名に係る損害賠償請求訴訟が係属するなど法人と組合との対立が深刻化する中で行われたものであるところ、B1専務やB2部長といった法人の管理職が全国の支局長が参集する会議の席上で本件研修資料の説明をし、更に、本件研修資料等の内容を支局の全職員に伝えるように指示し、現に各支局において本件研修資料が配布され、一部の支局長がこれを職員に読み聞かせるといった態様で職員に伝播したことが認められるのであって、法人は、前示のような組合に対する誹謗中傷や揶揄を含む意見や、組合の組合員による組合活動を許容しない態度及び対応を奨励する考え方を組合の組合員を含む全職員に向けて発していたものということができる。
 また、上記の期間に法人と組合との間でA1ほか7名に関する配転命令等の当否について具体的な団体交渉が実施され、交渉の場における民主的な過程を経るなどして相互の意見のやり取りがされた形跡は見られない。
 以上の諸事情に照らせば、本件説明行為等は、主として、法人の全職員に対して、組合の組合活動が労働問題の解決名目で金銭を取得する悪質なもので、組合及びその組合員が法人に敵対する好ましくない存在であることを印象付けるとともに、組合に加入する組合員による組合活動を許容しない態度や対応が奨励されることを周知することなどを企図してされたものと認められ、本件説明行為等を受けた組合の組合員を含む法人の職員らにおいても、法人が組合に対して厳しい対応を行う旨の意思表明をしているものと受け止められるものであるから、組合の組合員である職員に対しては威嚇的効果を与え、また、組合に未加入の職員に対しては新たに組合に加入することを躊躇させるに十分な内容であるといわざるを得ない。
 以上によれば、組合のそれまでの情宣活動に組合活動として許容される範囲を超える部分が皆無とはいえず、また、それに対して法人が一定の対抗措置を取ろうと考えることが無理からぬところがあったことを十分考慮しても、本件説明行為等は組合の組織、運営に影響を及ぼす可能性があったものとして労組法7条3号本文所定の支配介入に該当するものと認めるのが相当である。

(3) 法人の主張に対する判断

ア 法人は、都労委において労組法7条3号本文に定める「支配」及び「介入」といった要件の意義ないし定義を示さないままにその適用範囲を漠然と解釈し、本件説明行為等が支配介入に該当すると認定し本件命令を発したことには違法がある旨を主張する。
 法人の上記主張が、労組法7条3号本文の要件について限定的に解釈せずに本件説明行為等を不当労働行為と認定したことをもって違法がある旨の主張であるとすれば、これは、本件説明行為等を支配介入と認定した都労委の認定判断自体の誤りをもって本件命令の違法事由となる旨を主張するものにほかならないが、本件説明行為等が同号の支配介入に該当するとした都労委の認定判断が正当であることは、前記(2)において認定し説示したとおりであるから、法人の主張は採用することができない。
 もっとも、法人の上記主張については、上記の理を前提に本件命令に理由付記の不備がある旨を主張する趣旨とも解されるので、念のため検討するに、本件命令は、本件説明行為等が労組法7条3号本文の要件に該当し、組合に対する不当労働行為に該当する旨の処分理由は明記されているものと認められ、このような理由の付記は、本件説明行為等が不当労働行為に該当するとして救済を求めた組合の救済の申立てに対する都労委の判断過程及び結論の根拠を摘示したものとして当事者である法人及び組合においても十分に了知し得るものであると認められるから、本件命令に係る都労委の判断の理由付記に手続上の違法があるとはいえない。
 したがって、法人の前記主張は採用することができない。

イ 法人は、法人の表現行為としての性質を含む本件説明行為等を労組法7条3号本文の不当労働行為と認定するには、組合への抽象的な影響のみでは足りず、威嚇や不利益の示唆等の強い圧力があったことが必要である旨を主張する。
 しかしながら、前記(1)において認定し説示したとおり、労働者ないし労働組合に対する使用者の言論が支配介入として不当労働行為に該当するか否かについては、当該言論の内容、発表の手段、方法、発表の時期、発表者の地位、身分、言論発表の与える影響などの諸事情を総合考慮して判断するのが相当であって、その際、当該言論が組合員に対する威嚇的効果を与えたり、労働組合の組織、運営に現実に影響を及ぼしたといえる程度に至らず、一般的な影響を及ぼす可能性のある場合であっても、公正かつ妥当な形で自己の見解を表明するという合理的な配慮を欠き、労使関係の秩序を著しく乱すことになる場合には、支配介入として不当労働行為を構成する場合があるものと解すべきである。したがって、法人の上記主張は採用することができない。

ウ 法人は、本件説明行為等は、組合による違法な攻撃から法人を守るために受動的に行った防衛行為であって、労働組合に対する積極攻撃ではないから、本件説明行為等を労組法7条3号本文の支配介入と認定したことは誤りである旨を主張する。
 組合の情宣活動については平和的説得の範囲を超え、正当な組合活動と評価し難い部分があったものといわざるを得ず、そうすると、これらの行動が法人にとって労働組合からの一方的な攻撃ないし名誉の毀損と受け止められ、その対抗措置として法人が本件説明行為等を行ったとしても、その動機として了解し得ないではない。
 しかしながら、使用者と労働組合との間の団体的労使関係において紛争が生じ、その際に労働組合による組合活動の正当性に疑義が生じた場合の使用者側の対応としては、基本的には労使間における団体交渉を通じた誠実かつ民主的な交渉と互譲といった過程による解決を試みることが期待され、当事者間における解決が困難である場合には、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律3条、4条に基づく都道府県労働局長による総合労働相談、助言あるいは指導、同法6条に基づく紛争調整委員会によるあっせん、あるいは労働関係調整法に基づく労働委員会によるあっせん、調停又は仲裁といった行政機関による公的な労働関係紛争解決手続による解決のほか、私生活の平穏や地域における名誉、信用を侵害する組合活動に対する裁判上の差止請求や損害賠償請求等の法的手続により対応することができるのであるから、正当性を欠く組合活動への対抗手段としての使用者側の対応であるという一事もって直ちに不当労働行為の成立が否定されるということにはならないというべきである。
 したがって、組合の情宣活動に必ずしも相当とはいえない部分があり、本件説明行為等に上記の組合の情宣活動に対する法人の組織防衛としての側面があったとしても、本件説明行為等が支配介入に該当しないとか、正当な支配介入行為として不当労働行為を構成しないとはいえない。
 この点、法人は、本件説明行為等は違法な情宣活動等に対する組織防衛として行われたものであるから、正当防衛あるいは正当行為(刑法35条、36条、民法720条1項)として違法性が阻却される旨を主張する。
 法人の上記主張は、正当性を欠く組合活動に対する防衛的措置として行われた使用者の対応については支配介入と認定すべきではない旨を主張する趣旨と解されるが、上記のような解釈を採用することができないことは前記(2)において説示したとおりである(なお、念のため検討しても、本件説明行為等は、事後に予期された組合による情宣活動への対抗措置としてされたものであったことが認められ、また、本件説明行為等のほかに組合の組合活動への対応ができなかったといえないことは前示のとおりであるから、刑法35条、36条あるいは民法720条1項本文の要件を充足するものとは認められない。)。
 したがって、法人の上記主張は、いずれも採用することができない。

4 争点⑵イ 本件命令の内容が漠然・曖昧なもの等として違法となるかについて

 法人は、本件命令の主文第1項は、「申立人Zユニオン及びその組合員を被申立人財団に敵対する好ましくない存在であるなどと印象付ける内容の資料を配布し説明するなど」の支配介入を禁じるものであるところ、上記の命令では通常の判断能力を有する一般人において何が禁止されているのかが不明というほかなく、漠然・曖昧としており、法人の今後の言論に対する事前の告知機能を全く持たないから違法である旨を主張するところ、かかる主張は、本件命令の内容には、労組法27条の12が労働委員会に付与した裁量権の範囲を超え、又は裁量権を逸脱した違法がある旨を主張する趣旨と解される。
 本件命令の主文第1項は、法人に対し、その職員に組合及びその組合員を法人に敵対する好ましくない存在である旨を印象付ける内容の資料を配布し、説明するなどして、組合の運営に支配介入してはならない旨を命じたものであるところ、これは本件説明行為等が労組法7条3号本文所定の支配介入に該当するという判断を前提としてされたものであるし、また、その内容も、本件説明行為等と同様の行為を繰り返すことを禁じる旨をいう趣旨であることは容易に判別し得るところであるから、これが法人にとって一定の行為規範になるとしても、その内容が漠然・曖昧としており、法人の今後の言論に対する事前の告知機能を全く持たないとまでは認められず、また、同様の不当労働行為を繰り返さないことを命じることは法人と組合との間の集団的労使関係秩序を回復、確保する措置として必要性も高かったものというべきである。
 よって、都労委が本件命令において主文第1項の救済命令を発したことに裁量権の逸脱又は濫用があったということはできず、他に同認定を覆すに足りる的確な証拠はない。したがって、法人の上記主張は採用することができない。

5 小括

 以上によれば、本件説明行為等が労組法7条3号本文所定の不当労働行為を構成するとした都労委の判断は正当であり、本件命令が定めた救済方法も含めて、本件命令を発したことに裁量権の逸脱又は濫用があったということはできないから、本件命令は適法である。 
 法人のその余の主張も、いずれも前記2ないし3の本件説明行為等の不当労働行為の成否及び本件命令の適法性についての認定判断を左右するに足りるものとは認められない。

6 その他、法人が縷々主張するところを踏まえて一件記録を参照しても、本件命令が違法であったと認めるに足りる的確な証拠や事情は見当たらない。
 以上によれば、法人の請求は理由がない。

7 結論

 よって、法人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成31年(不)第3号 全部救済 令和3年6月15日
東京地裁令和3年(行ウ)第379号 棄却 令和5年1月26日
最高裁令和5年(行ツ)第380号・令和5年(行ヒ)第417号 上告棄却・上告不受理 令和6年1月25日
 
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