平成20年11月17日

中央労働委員会事務局

第三部会担当審査総括室

審査官高橋孝一

TEL03(5403)2265

FAX03(5403)2250

東京海上日動火災保険不当労働行為再審査事件(平成19年(不再)第31号)命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長赤塚信雄)は、平成20年11月17日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要は、次のとおりです。

〜組合分裂後の組合費をチェックオフし、他方組合に渡したこと及び便宜供与につき他組合と差異を設けていることが、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するか争われた事例〜

命令のポイント

(1)社が、組合が事実上分裂した後、分裂以前の協定を根拠に組合費をチェッ クオフし、自ら協定の承継者と認めた多数組合へ引き渡し、少数組合からの返 還要求に応じなかったこと、少数組合に対し時間内組合活動、会社施設の利用 等便宜供与の面においても、多数組合との間に差異を設けていたことは、労 働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

(2)の後会社が、チェックオフした組合費の返還や便宜供与に関する提案をし、 時間内組合活動について協定を結んだことによって、少数組合の救済利益が消 滅したとはいえない。

I当事者

再審査申立人東京海上日動火災保険株式会社(以下「会社」)

(16年10月1日、日動火災海上保険(株)と東京海上火災保険(株)が合併して設立)

再審査被申立人全日本損害保険労働組合(以下「組合」)

(組合員数約15,000名(初審時))

全日本損害保険労働組合日動火災外勤支部(以下「支部」)

(組合員数約51名(初審時))

II事案の概要

本件は、(1)組合からの脱退をめぐって、分裂した後に、会社が分裂以前の旧組合と締結していたチェックオフ協定に基づき、支部の組合員の平成16年6、7月分の組合費を多数組合に引き渡し、少数組合からの返還要求に応じなかったこと、(2)時間内組合活動、会社施設(組合事務所、会議室、掲示板その他)の利用、新たなチェックオフ協定の締結などの便宜供与の面において多数組合よりも低い程度の取り扱いをしたことは、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たるとして、東京都労働委員会に救済を申し立てた事件である。

初審東京都労委は、会社の上記(1)及び(2)の行為が不当労働行為に当たるとして、会社に対してチェックオフした上記組合費を組合員に返還すること、便宜供与については、一部を除き申立外全日本損害保険労働組合東京海上支部(以下「東海支部」)と同程度の内容となるよう、会社と支部との間で協議を行うこと及び文書交付を命じたところ、会社はこれを不服として再審査を申し立てた。

なお、再審査結審後、会社は支部に対し、チェックオフした組合費を支部へ返還すること、及び便宜供与に関して初審命令の水準を充たす旨の提案をし、その後時間内組合活動についても同組合との間で協定が締結されたものである。

III命令の概要

主文

初審命令主文のうち、第1項ないし第4項を、東海支部との協約に留意して、支部とチェックオフ協定について継続協議する旨の文書手交を命じることに変更する。

判断の要旨
(1)労働組合法第7条第3号の該当性

チェックオフした組合費を多数組合に引き渡し、少数組合である支部の返還要求に応じなかったこと。

組合が分裂した翌日に支部は、会社に対して所属組合員の給与について、会社に対しチェックオフしないよう求めており、その後も支部からのチェックオフしないことなどを議題とする団交要求に対し、会社は旧組合との組織の同一性などを問題にし、団交に応じようとはしなかった。

会社は組合からの脱退をめぐる状況などを了知していたことから、支部が労働組合として存在していた事実を知っており、また、団交要求書には支部組合員全員の名前が記載されていたことから、会社は支部組合員がチェックオフした組合費を多数組合へ渡すことを望んでいないことを認識していた。

それにもかかわらず、組合費相当額をチェックオフし、多数組合へ渡していたのであり、チェックオフした組合費の再三の返還要求にも応じようとしなかったことは、支部に対する会社の嫌悪感の表れであり、金銭面での打撃を与えるなどして支部を弱体化する意図のもとに行われたものである。

便宜供与に関する支部と他組合との差異について

支部に対する便宜供与(時間内組合活動の保障、会議室等会社施設の利用及びチェックオフ協定)については、他組合に比べて低位におかれており、組合の活動能力を抑制している。

会社は、これらの差異をその規模、沿革、労使交渉の経緯によるとしているが、組合員4名の東海支部と組合員数12,000名の多数組合との扱いがほぼ同一であることから考えても、差異について合理的な理由はない。

以上ア、イについて、会社が少数組合に対して少なからず嫌悪感を有していたことを併せ考えれば、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

(2)救済利益の有無について

会社は、支部に対して組合費の返還、及び会社施設等に関する便宜供与について提案し、時間内組合活動について同組合との間で協定を締結したことから、不当労働行為制度の趣旨に照らし、救済利益の消滅を主張する。しかし、チェックオフした組合費の返還がまだ行われていないこと、時間内組合活動の差別状態を放置していたこと、会社施設の利用について、未だ支部との間で協議が整っていないこと、及びチェックオフ協定について支部と継続協議することに留まっていること、などから救済利益が消滅したとは言えない。

【参考】

1本件審査の概要

初審救済申立日成17年8月30日(東京都労委平成17年(不)第65号)

初審命令公布日成19年5月23日

再審査申立日成19年5月29日(中労委平成19年(不再)第31号)

結審日成20年1月22日

審問再開日成20年8月21日

結審日成20年8月21日


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