平成20年7月30日

中央労働委員会事務局第二部会担当

審査総括室 審査官 池田 稔

電話 03−5403−2175

FAX 03−5403−2250


ネスレジャパンホールディング(東京)不当労働行為再審査事件
(平成17年(不再)第59号・第60号)命令書交付について

命 令 の ポ イ ン ト

・ 組合東京支部が団体交渉を申し入れた東京支店に係る会社再編に関する事項は、支部が独自で交渉できる事項であるといえ、会社が、連名方式(組合本部及び5支部一括で日時・開催場所は会社が指定し交渉員は5名以内とする方式)での交渉応諾に固執し、実質的に交渉を拒否したことは労組法7条2号に該当する。しかしながら、支部が交渉事項を整理した日以降の交渉申入れに会社が応じなかったとしても不当労働行為の問題は生じない。

・ 労働委員会において確認された団体交渉に関する労使間の取扱いに反した団体交渉開催場所への移動時間に係る賃金控除は、労組法7条3号に該当する。

中央労働委員会第二部会(部会長 菅野和夫)は、平成20年7月30日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者

[第59号再審査申立人・第60号再審査被申立人]

ネスレ日本株式会社(以下「会社」):従業員数約2200名(平成20年4月現在)

[第60号再審査申立人・第59号再審査被申立人]

ネッスル日本労働組合東京支部(以下「支部」):組合員数9名(平成19年5月現在)

II 事案の概要

1 本件は、(1)会社及び関係する2会社(関係2社)が、支部が平成15年1月6日付けで開催を申し入れた団体交渉(本件団体交渉申入れ)等のうち、東京支店に係る会社組織再編に関する事項(本件申入れ事項)について、自ら提案する団体交渉方式(連名方式)でなければ支部の交渉に応じられないなどとして、支部単独の交渉に応じなかったこと、(2)本件団体交渉申入れ等において、支部が会社の組織再編に伴い、東京支店における賃金決定の権限は会社及び関係2社のいずれにあるのか等説明を求めたのに対し、これに応じなかったこと、(3)本件団体交渉申入れ等に東京支店の支店長らを出席させなかったこと、(4)14年7月以降に行った支部との団体交渉に際して、団体交渉開催場所への移動時間について賃金控除を行ったことが、それぞれ会社及び関係2社による不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。

2 初審東京都労委は、17年8月24日、関係2社に対する救済申立ては却下し、会社に対し、団体交渉開催場所への移動時間について賃金控除を行ったこと及び東京支店に係る会社組織再編に関する事項について具体的な説明を行わなかったことに関する文書交付及び履行報告を命じ、その余の救済申立ては棄却した。会社及び支部はこれを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 命令主文要旨

初審命令を変更し、会社に対し、東京支店に係る会社組織再編に関する事項について、15年1月5日から16年1月26日までの間、連名方式に固執して支部単独の団体交渉に応じなかったこと及び団体交渉場所への移動時間について支部交渉員の賃金を控除したことが不当労働行為であると認定されたこと並びに今後このような行為を繰り返さない旨の文書を支部に対し手交することを命じ、その余の組合の救済申立ては棄却し、会社の再審査申立ては棄却した。

2 判断の要旨

(1) 東京支店に係る会社組織再編に関する事項についての会社の対応について

ア 会社組織再編においては、支部組合員自らの労働条件に直接関係する基本給通知書の名義人、年間休日の通知等について他社名義が使用されていたのであるから、支部組合員が自らの身分と会社の法的関係について疑念を持つとともに、重大な関心を持っていたことは容易に推認でき、支部が会社に対し説明を求めたことは相応の理由がある。

イ 平成7年最高裁判決によって支部の団体交渉権が確認され、組合本部も各支部の要求に対し、それぞれ支部団体交渉として誠実に対応することを会社に求めていることからすると、会社の組織再編問題についても支部独自の問題に関する限り、支部に会社と団体交渉をすることが認められているといえる。そして、本件申入れ事項は、会社が組合本部と交渉を行った会社従業員全体の組織再編後の所属先といった議題とは異なり、東京支店における組織再編後の企業名の使い分けという支部独自のものであって、支部と会社間の義務的団体交渉事項であり、会社が同事項の団体交渉を拒否することは労働組合法7条2号に該当することになる。

ウ そこで、会社の対応は当該交渉拒否といえるかどうかについて検討すると、本件申入れ事項に係る交渉申入れについて、会社は、いずれも連名方式により交渉に応じる旨回答していること、団体交渉においても、当該交渉を支部団交とは位置づけようとしなかったり、会社の連名方式の提案をめぐって対立し、具体的な内容に入らないまま交渉が終了しているのことからすると、会社は連名方式に固執することにより実質的に交渉を拒否したものといえ、下記エのとおり、団体交渉議題が整理された16年1月26日までの間の対応は労働組合法7条2号に該当する。

エ 16年1月26日、支部は、会社及び関係2社らに対し本件申入れ事項は要望事項とする旨の要望書を提出したが、同要望書の冒頭には「支部団体交渉議題とは区別し本要望書を提出します。」とあること等から、同事項については、今後支部・会社間の団体交渉議題とせず、同支部の会社への要望事項として整理したものといえる。したがって、本件申入れ事項は、同日までは支部独自の義務的団交事項であったが、同日以降は支部が会社に義務的な交渉事項としては団体交渉を求めることができなくなったといえる。よって、会社が同日までの間、上記事項について連名方式に固執し実質的な団体交渉が開催されなかったことは労働組合法7条2号に該当するが、同日以降同事項について会社が交渉に応じなかったとしても不当労働行為の問題は生じない。

オ 支部は、団体交渉の場に東京支店の実情を知る支店長らを出席させなかったことは不誠実団交に該当すると主張するが、このことによって団体交渉の円滑な運営に支障を来したり、そのおそれがあるといった事情は見受けられない。したがって、東京支店の支店長らを団体交渉に出席させなかったことをもって、会社の対応を不誠実であるということはできない。

カ なお、組合本部及び5支部の団体交渉申入れは、交渉議題や交渉希望日の重複あるいは近接等があり、会社は繰り返し組合内部での調整を求めたが、組合らは特段の対応を取らなかったのであるから、会社が連名方式を提案したこと自体を不当とまでいえないし、このことにより支部の組織のあり方や運営の仕方を支配したり、組合活動を抑制しようとした事情は認められないから、本件団体交渉申入れ等に対する会社の対応は支配介入には当たらない。

(2) 団体交渉開催場所への移動時間の賃金控除について会社は、(1)都労委の別件調査において団体交渉を実施する場合の移動時間の賃金保障については保障することを約束までしておらず、賃金カットを行わない旨記載した都労委の調査調書の記載は誤記である、(2)支部と実施した3回の団体交渉でも移動時間の賃金保障は行っていない等主張するが、会社は、上記調書の記載について訂正を申し出る等の措置をとっていないこと、上記団体交渉について賃金控除を行ったことを裏付ける証拠を提出していないことから、上記主張する事実は認めることができない。したがって、団体交渉の際に会社が団体交渉開催場所への移動時間にかかる賃金控除を行ったことは、別件調査において確認された団体交渉に関する労使間の取扱いを自ら破るものであり労組法7条3号に該当する。

【参考】本件審査の経過 

初審救済申立日 平成15年 2月13日(東京都労委平成15年(不)第15号事件)

初審命令交付日 平成17年 8月24日

再審査申立日 平成17年 9月 7日(平成17年(不再)59号)

平成17年 9月 7日(平成17年(不再)60号)


トップへ