平成20年7月30日

中央労働委員会事務局

第一部会担当審査総括室

審査官   辰 野 伸 之

Tel 03-5403-2169
Fax 03-5403-2250

東日本旅客鉄道(山形駅懲戒処分等)不当労働行為再審査事件
[平成2年(不再)第59号の2]命令書交付について

中央労働委員会第一部会[部会長 渡辺 章]は、平成20年7月29日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。

命令の概要等は以下のとおりです。

I  当事者

再審査申立人   東日本旅客鉄道株式会社(東京都渋谷区)

再審査被申立人  A

II  事案の概要

1 本件は、[1]会社が、国鉄労働組合(以下「国労」)の秋田地方本部山形県支部執行副委員長であったAに対し、同人が昭和62年10月27日、JR左沢線東金井駅の特別改札業務に従事中寒さのため体調を崩したとして山形駅に戻った際に、体調回復後の管理者の業務指示に関して暴言及びテーブル強打という行為をしたことを理由に2日間の出勤停止処分をしたこと、[2]会社及び会社の秋田支店が、無人駅の特改業務に国労組合員を偏って勤務指定したことが、不当労働行為に当たるとして、山形県労働委員会に救済申立てのあった事件(再審査において分離された、Aを再審査申立人とする事案に限る)である。

2 初審山形県労働委員会は、(1)出勤停止処分がなかったものとしての取扱い、(2)同処分がなかったとすれば受け取るはずであった賃金及び期末手当の額と既支給額との差額相当額(初審命令交付日までの分は半額控除)の支払い、(3)無人駅における特改業務の勤務指定に際しての国労組合員であることを理由とした不利益取扱いと支配介入の禁止を命じ、その余の申立てを棄却したところ、会社は、これを不服として、当委員会に再審査を申し立てた。

III  命令の概要

1 主文の内容

初審命令を一部変更(半額控除の対象を再審査命令交付日までの分に変更。無人駅における特改業務の勤務指定に際して国労組合員の不利益取扱い、支配介入の禁止を命じた初審命令主文第2項を取消し)したほか、その余の再審査申立てを棄却した。

2 判断の要旨

(1) 本件出勤停止処分について

ア(ア) Aの山形駅への帰駅の電話連絡とC総務助役の返答

Aが東金井駅の特改業務の従事中に山形駅に戻ってきたのは、昭和62年10月24日のB首席助役との確認(「現地で寒くて我慢できない場合には、山形駅管理者の判断により山形駅に戻すことも有り得る旨」)に基づき、山形駅に連絡をして寒さと体調の不具合を訴えたところ、C総務助役から帰駅を了承したと受け取れる返答を受けて、了承が得られたと判断したものと考えられる。

(イ) Aに対する山形駅での助役らの事情聴取の態様

Aが山形駅に戻ったところ、C総務助役らは、帰駅の理由を詰問したり、C総務助役の返答の事実を否定するなどし、また、病院での受診と診断書の提出を再三求め、Aが拒否すると、体調回復を理由に再度の特改業務への従事をほのめかすなどしていた。

(ウ)特別改札業務の実態

特改業務は、勤務開始時間が他業務より早く、朝の通勤・通学時を除きほとんど乗降客がいない状態での勤務であった。東金井駅は、待合室とトイレのみで執務室はなく、暖房設備もなかった。また、国労組合員の指定回数が多く、その中でも特にAの従事回数が多かった。

(エ) 以上によれば、AはC総務助役の了承を得たと判断して帰駅したところ、予期に反し、無断で職場離脱したと疑われ、また、体調を崩したためであったことも疑われているような対応を受け続け、一通りの事情聴取が行われた後に重ねてC総務助役から疑いの念を直接的に表すかのように、「本当に寒かったのか」と質されて、憤慨の感情を抑えきれず本件行為に及んでしまったと考えられる。そうすると、特改業務の実態、Aの特改業務の従事状況、事情聴取時の旅客事務室の執務環境を併せ考慮すれば、Aの憤慨感情の表出には無理からぬ点があり、情状酌量すべき事情があったことを否定することはできない。

イ 他方、本件出勤停止処分は、昇給幅、期末手当に大きな影響を与える不利益を伴い、Aの情状を考慮すれば不当に重い処分と認められる。

ウ 当時の山形駅における会社と国労との労使関係事情を総合すると、会社が国労組合員の組合活動を強く嫌悪していたことが推認され、これを考慮すれば、本件出勤停止処分はAが山形駅に転勤後、会社と対立していた国労の組合活動を積極的に展開したことを嫌悪し、Aの本件行為にやや行き過ぎの面があったことを奇貨として行ったものと判断できる。

エ 会社は、Aの憤慨に無理からぬ点があるとはいえないことや、本件処分はAに関する情状を十分斟酌したこと、事情聴取の方法・経過に関すること、Aの組合活動・役職など一切考慮しなかったこと等縷々主張するが、いずれも採用しがたい。

オ なお、Aの本件行為は、酌量すべき事情を考慮しても、やや行き過ぎの面があり、一応懲戒事由に該当する行為であることは否めず、本来受けるべき賃金及び期末手当の額と既支給額との差額相当額については、初審命令同様に半額の支払いが妥当と考える。

(2) 特改業務の勤務指定について

特改業務は、現在は廃止され再開される見通しがなく、また、平成18年11月6日に成立した会社と国労の一括和解には、配転事件も含まれ、公平・公正な人事・労務管理を行うとの条項が盛り込まれていることから、初審命令の主文第2項は、命令として維持する必要が失われたと考えられるから、この点に関する会社の主張については判断するまでもない。

(3) 結論

以上の次第であるから、本件出勤停止処分は労働組合法第7条第1項の不当労働行為であり、初審命令主文の一部を変更し、また、本件特改業務の勤務指定についての初審命令主文は取り消し、同部分に関する本件救済申立てを棄却する。

【参考】

本件審査の概要

初審救済申立日  昭和63年3月30日(山形県労委昭和63年(不)第2号)

初審命令交付日  平成 2年8月28日

再審査申立日    平成 2年9月12日


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