平成20年5月29日

中央労働委員会事務局第一部会担当審査総括室

室 長   西野幸雄

Tel 03−5403−2157
Fax 03−5403−2250


大阪市不当労働行為再審査事件〔平成19年(不再)第33号〕
再審査命令書交付について

―大阪市は市バス事業受託会社の従業員の労組法上の使用者には該当しない―

大阪市は、市バスの一部営業所の運行業務を民間会社に委託しており、市バス運行業務に関し一定の関与をしている(基本勤務ダイヤの作成等)。しかし、会社従業員との関係において、組合員の労働条件等に対しても、本件団交事項(正規社員としての雇用等)に対しても、大阪市は、労組法7条2号の使用者たる立場にあるとはいえない。

中央労働委員会第一部会(部会長 渡辺章)は、平成20年5月28日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

1 当事者

再審査申立人:日本自治体労働組合総連合大阪市バス労働組合(「組合」)[大阪市北区]組合員21名(平成19年2月14日現在)

再審査被申立人:大阪市(「市」)

2 事案の概要等

(1) 本件は、市が、市バス事業の一部業務を受託している運輸会社(「会社」)の従業員で組織する組合が申し入れた組合員の正規社員としての雇用等に係る団体交渉(「団交」)に応じなかったことが不当労働行為であるとして、平成17年11月10日、救済申立てがあった事件である。

(2) 初審大阪府労委は、市は本件団交事項を議題とする団交に応諾する義務のある使用者であるとはいえないとして、申立てを却下した。

(3) 組合は、これを不服として、平成19年6月11日、再審査を申し立てた。

3 命令の概要等 (初審決定を維持)

(1) 命令主文

本件再審査申立てを棄却する。

(2) 判断要旨 (市は労組法7条2号の使用者に該当しない)

ア 会社に対する市の包括的支配性の有無について

市は、基本となる勤務ダイヤの作成や業務指示等の通知を通じて、市は市バス運行業務等に対して一定の関与をしているといえる。しかしながら、市は、市民に対し市バスの円滑な運行を確保すべき責務を負うものとして、会社の市バス運行業務に関し一定の関与をしているものと判断される。基本となる勤務ダイヤの作成等はいずれも市バス運行業務の委託内容に基づくものであり、市が一定の関与をしていることをもって会社を包括的に支配しているものということはできない。よって、市は会社従業員との関係において、労組法7条の使用者たる立場にあるとはいえない。

次に労働条件面についてみると、市バス運転手は市の指揮命令下で運行業務に従事しているとはいえないこと、また、会社の市バス運転手の賃金・賞与の決定等に市が関与しているということはできず、会社自身がそれらの決定を行っていることからすると、市は組合員の労働条件面に対して、現実的かつ具体的な支配力を有しているということはできない。

さらに、組織面についてみると、市は、資本出資者として、会社に対し一定の影響力を有しているといえる。しかしながら、会社は独立の事業者としてバス運行業務を受託して行っており、市交通局の一部門とみなしうるというものではなく、市と会社との関係は、独立した事業者間の委託者・受託者の関係である。

以上判断したとおり、市は、会社の組織面において一定の影響力を有していることは認められるとしても、会社の業務面や労働条件面において会社を包括的に支配しているということはできず、組合員の労働条件等に対して、現実的かつ具体的な支配力を有しているとはいえない。

イ 本件団交事項に対する市の使用者性について

(ア) 団交事項[1](正規社員としての雇用)について

市からの派遣者である役員が市の指示を受けて組合員の雇用形態を決定しているとする事実はないこと、会社は平成17年度から正規社員への登用基準を設定し自らの判断で登用していることから、正規社員としての雇用に関し、市が現実的かつ具体的に支配力を有しているとはいえない。

(イ) 団交事項[2](初任給を22万円とすること)について

初任給及び給与の方針は会社の社内会議において決定されていること、平成15年度の定期昇給延伸措置や平成16年の給料改定措置は市の内容と異なるものであったこと等からすると、会社の市バス運転手の初任給及び給与は、会社が自らの判断で決定しているものといえる。他方、市が初任給の決定過程に関与したり指示をしているという事実も認められない。したがって、初任給や給与額の決定は市の支配のもとに行われているとの組合の主張は採用できない。

(ウ) 団交事項[3](組合事務所の貸与)について

本件においては、会社はいずれの労働組合にも組合事務所を貸与しておらず、会社は市に対し、市バス営業所の施設使用に係る協議及び承認も申し入れていない。したがって、組合事務所の貸与について、市が組合に対し便宜供与をすべき立場にあるとはいえない。

(エ) 団交事項[4](公営交通の計画・方針の公開・説明)について

市の公営交通施策が会社の経営方針や労働者の賃金に影響を与えることがないとはいえないが、「市の今後の公営交通の計画・方針を公開し、労働者に説明すること」というのは交渉事項とはいえず、組合員の労働条件等の直接の関連性も不明確であり、義務的団交事項に該当するとはいえない。

(3) 結論

以上判断したとおり、市は、市バス運転手の労働条件等に対しても、本件団交事項に対しても、現実的かつ具体的な支配力を有しているとはいえず、会社の市バス運転手との関係において労組法7条2号の使用者には当たらない。

【参 考】  本件審査の状況

・初審救済申立日 平成17年11月10日(大阪府労委平成17年(不)第45号)

・初審命令交付日 平成19年5月31日

・再審査申立日 平成19年6月11日


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