平成20年5月23日

中央労働委員会事務局第二部会担当
審査総括室審査官 池田  稔
電話 03−5403−2175
FAX  03−5403−2250


日本工業新聞社不当労働行為再審査事件
(平成18年(不再)第72号)命令書交付について

中央労働委員会第二部会(部会長 菅野和夫)は、平成20年5月23日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

命 令 の ポ イ ン ト

・     Aに対する配置転換及び懲戒解雇は、組合活動を理由として行われたものではない。

・     Aの配置転換等に係る団交申入れに会社が応じなかったことは、団体交渉拒否に当たるとまではいえない。

・     会社による組合機関紙の回収は、業務に支障を来すことのないようにするため、就業規則に則った対応であったことから、支配介入には当たらない。

I 当事者

1 再審査申立人 労働組合・反リストラ・マスコミ労働者会議・産経委員会(以下「組合」)
(東京都足立区) 組合員 12名(初審申立て時)
2 再審査被申立人 日本工業新聞社(以下「会社」)
(東京都千代田区) 従業員 約240名(初審申立て時)

II 事案の概要

1 会社が、東京本社に所属していたAに対して、平成6年2月1日付けで千葉支局の支局長への配転(以下「本件配転」)を内示したところ、[1]同年1月28日、Aは、会社に対し、組合の結成を通知するとともに、団体交渉を申し入れたが、会社はこれに応じなかった。[2]同年2月1日、会社は、Aに対して本件配転を発令した。これに対し、[3]組合は、本件配転を議題とする団体交渉を申し入れたが、会社はこれに応じなかった。[4]A外2名が、会社内で組合機関紙を配布したところ、会社は組合機関紙を回収した。[5]組合は、本件配転やAの千葉支局での業務等を議題として団体交渉を申し入れたが、会社はこれに応じなかった。[6]会社は、Aが業務指示に従わないことについて、同人を賞罰委員会に付議する旨通知したところ、組合は、当該付議する件を議題として、団体交渉を申し入れたが、会社はこれに応じなかった(上記[1]、[3]、[5]及び[6]の団体交渉申入れについて、以下「本件団交申入れ」)。[7]会社は、同年9月22日付けでAを懲戒解雇した(以下「本件懲戒解雇」)。
 本件は、上記[1][3][5][6]が労組法第7条第2・3号の、[2]が同条第1・3号の、[4]が同条第3号の、[7]が同条第1・3・4号の不当労働行為に該当するとして、組合から救済申立てがなされた事案である。

2 初審東京都労働委員会は、組合の申立てをいずれも棄却したところ、組合は、これを不服として、再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文

組合の再審査申立てを棄却する。

2 判断の要旨

(1) 本件配転について

本件配転には業務上の必要性が認められないとはいえず、また、Aを千葉支局長として人選したことは不合理であるともいえない。また、会社が本件配転を内示するまでの間において、Aの組合結成前に所属していた労働組合における組合活動を嫌悪したり、組合の結成ないし結成準備活動を了知ないし察知していたとは認められない。他方で、会社はAの同意を得るべく努力している。

よって、本件配転は、不当労働行為には当たらない。

(2) 本件懲戒解雇について

ア Aは、会社の種々の業務指示に従わず、また、勤務状況も千葉支局に在席していたことすら確認できない場合があるなど、極めて問題のある勤務状況であった。

イ 本件懲戒解雇については、Aにおいて長期間にわたって支局長としての任務を半ば放棄していると認められるような任務の著しい懈怠の事実があったのであるから、会社が同人の支局長としての任務懈怠の状況を放置できないと考えて、同人を懲戒処分の対象としても無理からぬものがあった。

ウ 以上、本件懲戒解雇については、Aが会社の業務指示を再三にわたって拒否し、支局長としての任務を半ば放棄していることなどその地位に照らしてみても、また、過去の処分例と比較してみても、会社がAに対して懲戒解雇という最も重い処分を行ったことには無理からぬ事情があったというべきであり、また、その手続も不相当とはいえない。そして、会社がAの組合活動や組合結成を嫌悪したが故に本件懲戒解雇を行ったとは認められないから、同解雇は不当労働行為には当たらない。

(3) 本件団体交渉について

ア 平成6年1月28日から同年2月7日までの期間、会社は、組合が労働組合法に適合した労働組合であるか否か疑義があるなどとして組合規約等の提出を求めて組合の団体交渉申入れに応じなかったという経緯が認められる。しかしながら、その経緯を子細にみると、組合が通常の労働組合が使用する名称や組織でなかったことから、組合が労働組合の実態を有する組織であるかどうかを確認するため、組合規約等を求めたものであったと思われる。以上の事情をかんがみれば、会社が、組合の法適合性について疑義をもち、組合規約等その実態を知り得る資料の提出を求めて、その提出があるまで交渉をしないとの態度をとったとしてもやむを得なかった。

イ 平成6年2月8日以降の団体交渉申入れについて、会社は、千葉支局へ赴任直後のAに対し、同人を交えた組合との話合いを提案し、この話合いを組合が正式な団体交渉と解釈してもかまわないと述べて、社外で実質的な団体交渉に応じる旨通知している。したがって、会社の方も、この時点では実質的な団体交渉に当たる話合いを行おうとしていたとみることができる。会社の当該通知に対して、Aは新たに、団体交渉の開催場所は社内とすることに加え、労使双方の代表者が押印した議事録の作成を求めた。そうすると、団体交渉が開催されるに至らなかったのは、組合が、団体交渉を社内で開催すること及び労使双方の代表者の押印のある議事録の作成という新たな条件を出してこれに固執したことに主たる原因があったと認められる。

ウ 以上のように、一連の組合の本件団交申入れのうち、上記アの期間の申入れについて会社が団体交渉に応じなかったのはやむをえないものと認められ、また、上記イの期間の申入れにつき団体交渉が開催されなかったより大きな要因は組合の対応にあったと認められるから、本件団交申入れに係る会社の対応をとらえて団体交渉拒否に当たるとまでいうのは相当ではない。

(4) 会社による組合機関紙の回収について

組合の行う機関紙配布も、会社の建物や敷地などの施設内で行う場合には、会社が有する施設管理権による一定の制約を免れず、たとえ勤務時間外であっても無制限に行い得るものとまではいえない。また、いまだ会社と組合との間で組合活動ルール等の労働協約が定められていない組合結成通知の4日後の時点で、会社内で、多くの従業員が就業している中で組合機関紙が配布されたことから、会社が、会社における業務に支障を来すことのないようにするため、組合に対して就業規則等に従った組合活動を求め、就業規則に則った対応をしたからといって格別異とするものではない。これらの事実からすると、組合の配布した機関紙を回収した会社の行為は、不当労働行為に当たるとはいえない。

【参考】本件審査の経過

初審救済申立日平成 6年 2月 4日 (東京都労委平成6年(不)第9号)
初審命令交付日平成18年12月 6日
再審査申立日平成18年12月19日 (平成18年(不再)第72号)

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