中央労働委員会事務局

第三部会担当審査総括室

室長 神田義宝

Tel 03(5403)2172

Fax 03(5403)2250

平成20年3月25日


日酸TANAKA不当労働行為再審査事件(平成19年(不再)第24・25号)
命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成20年3月25日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要は、次のとおりです。

〜組合活動を理由とする不就労の是非が争われた事例〜

命令のポイント

1 組合活動が会社における就業規則上の欠勤事由「病気その他やむを得ない事由」に該当するものと解することはできないから、これによる組合員の不就労に対し、会社が欠勤を認めなかったことは不合理な取扱いであるとまでいえず、欠勤の取扱い上、無断欠勤扱いとされることはやむを得ない。

2 組合員が組合活動を理由に欠勤届による不就労を繰り返したことに対し、会社が抗議及び処分の警告をしたことには相応の理由があり、不合理な措置であるとまではいえない。

I 当事者

再審査申立人(24号)日酸TANAKA株式会社(埼玉県入間郡)
再審査被申立人(25号)(従業員数393名(18.1.1現在))
再審査被申立人(25号)全日本金属情報機器労働組合
再審査申立人(24号)(組合員数8,361名(19.10.23現在))
全日本金属情報機器労働組合長野地方本部
(組合員数551名(19.10.23現在))
全日本金属情報機器労働組合長野地方本部日酸TANAKA支部
(組合員数43名(19.10.23現在))

II 事案の概要

1 本件は、上記Iの会社が、上記Iの支部に所属する会社の従業員である組合員において、本件当事者間の別件不当労働行為事件(以下「A事件」)の長野県労働委員会(以下「長野県労委」)の調査・審問手続(以下「労委手続」)に支部代表者・補佐人として出席し、又は上記Iの上部団体の会議に支部を代表して出席するため、「病気その他やむを得ない事由」(就業規則第35条。以下「欠勤事由」)によるものとして、欠勤届を繰り返し提出し就労しなかったことにつき、(1)組合活動としての上記出席は欠勤事由に該当しないとして、欠勤を認めず、無断欠勤扱いにし、(2)二度にわたり、書面で、支部及び上部団体(以下「支部等」)に抗議し、当該組合員に懲戒処分を含む処分の警告をしたことが、いずれも労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たる(A事件労委手続出席による不就労に対する(1)及び(2)は同条第4号にも当たる)として、支部等が長野県労委に救済を申し立てた事件である。
なお、会社においては、「欠勤」とは欠勤事由に該当する場合の不就労をいい、有給(月例賃金の控除はないが、一時金が減額される)とされている。

2 初審長野県労委は、A事件労委手続出席による不就労に対する上記抗議及び警告は労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たるとして、上記不就労に対する懲戒処分及び既に行った賃金控除以外の賃金、一時金、昇格その他労働条件に関する不利益取扱いの禁止を命じ、その余の申立てを棄却した。これを不服として、会社及び支部等は、再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文要旨

(1)初審命令主文第1項を取り消し、同項に係る救済申立てを棄却する。

(2)支部等の本件再審査申立てを棄却する。

2 判断要旨

(1)本件無断欠勤扱い

ア 会社の就業規則には組合活動に関する特別休暇の規定はなく、また、会社と支部との間には就業時間中の組合活動に関する労働協約は締結されておらず、団体交渉、事務折衝等を就業時間中に行うことが認められている以外には就業時間中の組合活動を認める労使慣行もない。

イ 就業規則第35条の規定についてみると、欠勤事由に該当する場合のみ欠勤と認められるものであり、その事由は、労務提供義務を履行しないことが正当とされる場合であるから、病気その他代替者のないやむを得ない事由に限られるというべきである。また、組合活動は、自由ではあるが労働契約上の義務を免れうる根拠となるものでも、一般的に上記やむを得ない事由に該当するものでもない。そして、労働委員会の手続上、労委手続への出席は当事者の権利であるが、そのことから当然に労働契約上の就労義務が免除される事由になるわけでなく、一般的に代替措置を講じることができないほどの事由とは認められない。他に、やむを得ない事由に該当すると認めることができる事実関係についての主張立証はない。以上により、組合活動としてのA事件労委手続及び上部団体会議への出席が欠勤事由に該当するものと解することはできない。

ウ 就業時間中の組合活動に関し、併存する別組合に対する会社の取扱いについてみると、会社と別組合との間には支部との労使慣行(上記ア)と同じ労使慣行があるだけであり、欠勤の取扱いについて、会社が支部を別組合と差別したとは認められない。
他に、会社の反組合的意図ないし動機を推認するに足りる事実は認められない。

エ 上記から、本件無断欠勤扱いは不合理な取扱いであるとまではいえず、かつ、A事件労委手続及び上部団体会議への出席を妨害するなど支部等弱体化意図をもって行われたものとは認められない。

(2)本件抗議及び警告

ア 上記(1)エのとおり、本件無断欠勤扱いが不合理な取扱い、ないしは、支部等弱体化意図によるものとはいえないことに加え、多いときには7名もの組合員(支部は長野工場敷地内に勤務する従業員から成り、7名は、その約6パーセントにあたる。)が本件無断欠勤扱いに係る不就労を6か月余りにわたり繰り返していたことからすれば、本件抗議及び警告の内容は、会社が、就業規則違反を放置できないとしてこれを是正し、正常な職場秩序を維持するものとして、不合理なものであるとまではいえない。

 会社は、支部等に対し、(1)就業時間中の組合活動に関し、A事件の申立てがなされる以前に提出した回答書により、また、A事件の申立て後に行われた団体交渉の当初から、就業時間中の組合活動については労使慣行により認められている団体交渉等を除き認められないとして、就業規則等に違反した場合には処分することがあるなどと回答し、(2)組合員が団体交渉の継続途中に欠勤届を提出して就労しなかったことに抗議し、(3)抗議に応じず、組合員が欠勤届の提出を繰り返していることに、就業規則に照らし処分しなければならないと何度も回答していた。それにもかかわらず、組合員が欠勤届による不就労をやめなかったため、会社は、二度にわたる本件抗議及び警告に及んだものである。
また、就業時間中の組合活動に関して7回にわたって行われた団体交渉においては、支部等及び会社とも包括的な要求・回答のやり取りに終始した以上には、さらに、個別・具体的事項に関する交渉や譲歩案等の提示・協議は何ら行われず、歩み寄ることはなかった。上記団体交渉の間、支部は、会社との合意が得られないまま、欠勤届提出によるA事件の労委手続及び上部団体の会議への出席を決定し、組合員が欠勤届の提出を繰り返していたことからすれば、一方的に会社の対応を取り上げて、誠実ではなかったということはできない。

ウ 上記から、本件抗議及び警告は不合理な措置であるとまではいえず、かつ、A事件労委手続及び上部団体会議への出席を妨害するなど支部等弱体化意図をもって行われたものとは認められない。

以上のとおり、 会社の本件再審査申立てには理由があるが、支部等の本件再審査申立てには理由がない。

【参考】1 本件審査概要 初審救済申立日平成18年1月11日
初審命令交付日平成19年4月18日
再審査申立日平成19年4月27日(会社)
平成19年5月 1日(支部等)

2 初審命令主文要旨

(1)A事件労委手続出席による組合員の不就労に対する懲戒処分及び既に行った賃金控除以外の賃金、一時金、昇格その他労働条件に関する不利益取扱いの禁止

(2)その余の申立ての棄却


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