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視覚障害者の雇用の継続のために眼科医の皆様にご理解いただきたいポイント

2007/10

視覚障害者の雇用の継続のために
眼科医の皆様にご理解いただきたいポイント

厚生労働省 職業安定局 高齢・障害者雇用対策部 障害者雇用対策課

働き盛りに視覚障害を受障した方にとって、職業生活を維持・継続できるかどうかは、家族の生活にも関わる問題だけに、とりわけ重要です。視覚障害が原因でいったん退職すると、再就職は容易ではありません。それ故、退職することなく働き続けられるようにすることが肝要です。

そのため、ハローワークにおいては、眼科医の皆様をはじめ、視覚障害当事者団体や支援機関等の連携・協力を得ながら、視覚障害のある求職者の方の「就職支援」と併せて、在職中に視覚障害を受障した方の「継続雇用支援」を柱のひとつとして視覚障害者の雇用支援を実施しているところです。

視覚障害を受障した時、誰もがいつかは患者として眼科医療機関にかかります。その時、眼科医の皆様方の中には、視覚障害者の職業は「三療」(按摩マッサージ指圧、鍼、灸)しかないと考えておられる方もまだまだいらっしゃると思われますが、視覚障害があっても、工夫することによって、事務の仕事や他にもできることは多く、第一線で仕事をしている方も少なくないことをご理解いただくとともに、在職中の患者さんに対して「仕事を続けることができること」を伝えていただくようお願いいたします。また、患者さんが仕事を続けるためにハローワークを始め関連機関が連携して支援を行っていく間も、主治医としての立場から患者さんに対して種々の指導・助言をしていただければ幸いです。

今般、中途視覚障害者の当事者団体である「タートルの会(中途視覚障害者の復職を考える会)」により、具体的な事例を交えながら関係者の連携による視覚障害者の継続雇用支援のポイントをわかりやすく示した「視覚障害者の雇用継続支援実用マニュアル 〜連携と協力、的確なコーディネートのために〜」がまとめられました。以下は、厚生労働省障害者雇用対策課において、このマニュアルを踏まえて、視覚障害者の雇用の継続のために眼科医の皆様にご理解いただきたいポイント等を整理(※)したものです。併せて、マニュアルで紹介されている実用チェックリストのうち、医療機関用のチェックリストを掲載させていただきました。

ぜひともお目通しいただき、視覚障害者の雇用の継続支援に一層の連携・協力をいただけますようお願いいたします。

※ 整理に当たっては、タートルの会の承諾を得て、マニュアルの記述の編集等を行っています。

眼科受診から職場定着まで、医療、福祉、労働など多くの関係者の連携が不可欠

視覚障害者の雇用の継続には、多くの関係者の連携と協力が不可欠です。どのような場面で、どのような連携や協力が必要になるのか、中途視覚障害者の復職(職場復帰)の過程からイメージすることで理解できます。

まず、眼科で治療を行いながら、適切な時期にロービジョンケアを開始します。そして、ニーズに応じて、福祉の現場で生活訓練を受けます。その上で、音声パソコンなどを用いての職業訓練を受けて、復職となります(図1参照)。

中途視覚障害者の場合、復職に向けたリハビリテーション実施のタイミングを逸することがないようにするため、医療機関における早期の情報提供と、生活訓練を行う福祉機関、ハローワークなど労働関係機関へつなぐことが重要です。

眼科医の重要な役割:「見えなくても仕事はできる」という基本姿勢

医師には障害を告知する役割があります。障害の告知は、障害の受容に関係する重要な問題ですが、告知に当たっては、障害のマイナス面だけでなく、病気やその治療方法に関して説明し、生活訓練や職業訓練などの社会資源の存在とその活用などによって、マイナス面も克服できるということも伝えることが重要です。場合によっては、医療の段階で、当事者団体に引き合わすことも効果的です。

医師には司令塔としての役割があり、その姿勢は他の医療スタッフの姿勢にも影響します。また、復職のための診断書や意見書の作成等、その後の患者への対応にも影響を与え、人生の岐路を分けることにもなります。「視力は戻らないけれども、仕事はできる」とアドバイスされると、本人もそれなりに対処できるものです。次のリハビリテーション過程へスムーズに移行できるようにするためにも、医療関係者から早期に情報提供を行ってください。

視覚障害者に対する的確な雇用支援:ハローワークにつなぐ

平成19年4月17日、「視覚障害者に対する的確な雇用支援の実施について」との厚生労働省通知を各都道府県労働局に対して発出しました。このなかで、ハローワークにおける視覚障害者の支援には、「求職視覚障害者の就職支援」と「在職視覚障害者の継続雇用支援」の2本柱があることを明確にして、それぞれの支援を的確に行うためのポイントを示しています(図2参照)。

ハローワークでは、視覚障害者についても、支援団体や関係機関等とも連携・協力しながら、チームによる支援を行っています。眼科医は、患者さんが在職中に受障等により雇用上の課題が生じた場合、雇用継続を図るためにも、できるだけ早くハローワークに相談するよう助言してください。

図1 ロービジョンケアの実際(内容と関係者)

医学的リハビリテーション
プライマリーロービジョンケア

・失明の可能性

・視覚的困難
(関係者)
眼科医

基礎的ロービジョンケア

・視機能再評価

・補助具選定と訓練

・情報提供

・心理的援助

・視覚障害の認定
(関係者)
眼科医
視能訓練士
看護師
臨床心理士
メディカルソーシャルワーカー等

職業的リハビリテーション・社会的リハビリテーション
実践的ロービジョンケア

・身体障害者手帳取得

・日常生活訓練

・歩行訓練

・コミュニケーション訓練

・職業訓練

・職場復帰・再就職

・職場定着
(関係者)
福祉事務所職員
視覚障害生活訓練専門職員
歩行訓練士
特別支援学校(盲学校)等の教員
ハローワーク職員・障害者専門支援員
障害者職業カウンセラー(障害者職業センター)
障害者職場適応援助者(ジョブコーチ)
雇用管理サポート専門協力家
事業主(人事担当)
産業医
健康相談医師
当事者(団体)等

図2 ハローワークにおける視覚障害者雇用支援

ハローワークにおいて、視覚障害者の雇用の促進と安定を支援
支援の二つの柱
I 求職視覚障害者の就職支援

○的確な職業相談・職業指導

○関係者・関係機関と連携した「チーム支援」

・ハローワーク

・地域障害者職業センター

・障害者就業・生活支援センター

・眼科医

・視覚障害者支援団体

・障害者職業訓練コ−ディネーター  等

○機能の習得・向上

II 在職視覚障害者の継続雇用支援

○雇用事業主の理解の促進

○障害者本人の雇用継続意欲の維持・喚起

○関係者・関係機関と連携した「チーム支援」

・ハローワーク

・雇用事業主

・地域障害者職業センター

・障害者就業・生活支援センター

・眼科医

・視覚障害者支援団体

・障害者職業訓練コ−ディネーター  等

○機能の習得・向上

視覚障害に関する事業主の正しい理解の促進

医療機関用チェックリスト

<就労継続の対象となる患者に対して適用>

1)文字処理について

□新聞の文字は見えますか。
大見出しは?中見出しは?本文は?

□読みたい記事はすぐみつかりますか。

□自分で書いた文字は読めますか。

□書式の決まった書類に記載できますか。

□ルーペ、単眼鏡、拡大読書器を知っていますか。

□音声パソコンを知っていますか。

2)パソコン活用について

□視覚障害者の雇用・就業ではパソコンは必須ですが、目を使ってできますか。

□パソコンを持っていますか。

□パソコン画面の読み上げソフトや拡大ソフトを知っていますか。

□それらに補助があることを知っていますか。

□インターネットはできますか。

□Wordはできますか。Excelはできますか。

□他につかえるソフトは何ですか。

3)移動について

□通勤時の移動は問題がありませんか。あれば、それを教えてください。

□信号の色はわかりますか。

□横断歩道で、歩行者用信号は見つかりますか。

□信号のない道を横断できますか。

□階段の昇降はできますか。

□白杖は使っていますか。

□点字ブロックは活用していますか。

4)就労について
<在職者に対して>

□いま働いていますか。

□経済面も含めて、困っていることはありませんか。

□病気療養中ですか。

□休職中ですか。

□職場の上司、人事担当と相談しましたか。

□その結果はどうでしたか。

□労働組合はありますか。

□相談しましたか。

□その結果はどうでしたか。

□視覚障害者の就労支援団体を知っていますか。

□ハローワークや障害者職業センターに相談しましたか。

□生活訓練は受けましたか。

□職業訓練について知っていますか。

<離職者に対して>

□どのような形で辞めましたか。

□経済面も含めて、困っていることはありませんか。

□再就職したいと思いますか。

□そのための訓練を受けたいと思いますか。

□視覚障害者の就労支援団体を知っていますか。

□生活訓練を受けましたか。

□職業訓練について知っていますか。

□ハローワークに相談していますか。

□雇用保険(失業給付等)の手続きはしましたか。どのような説明を受けましたか。

□健康保険の任意継続制度を知っていますか。(掛け金の負担が少なくて済むことがあるので、手続きについては退職前から職場に相談しておくことが望ましい。)

5)身体障害者手帳

□持っていますか。

□何級ですか。見せていただけませんか。(コピーをさせてもらう)

□持つ気はありますか。

□手帳を取得することで、公的支援制度を活用できることを知っていますか。

□補装具や日常生活用具などへの援助を知っていますか。

6)障害年金

□年金はもらっていますか。

□厚生年金を払っていますか。

□国民年金を払っていますか。

□20歳前の発症ですか。

□障害年金は月給をもらっていても支給されることがあることを知っていますか。

コメント: 年金の等級は、身体障害者手帳の等級とは関係なく、年金支給の要件基準で判断され、1級は「日常生活の用をたすことができない程度」(身体障害者手帳の概ね1〜2級)、2級は「日常生活に著しい制限を受ける程度」(身体障害者手帳の概ね3級)とされています。
7)特定疾患(難病)

□手続きしていますか。

8)診断書

□診断書の内容によっては、復職を不可能にすることがあることを知っていますか。

コメント: 例えば、休職の際に提出する診断書では、復職する時のことを想定して書く必要があります。つまり、単に、「療養を要する」だけでは、療養の結果、目が見えるようにならなければ、復職は認められないと言われることがあります。視覚障害からくる日常生活の支障や社会的不利を軽減する措置(文字の読み書きや移動など、いわゆる視覚リハビリテーション)が必要であることを併記する必要があります。復職に際しては、「就労が可能」であることを読みとれなければなりません。このように、医師の診断書によってその人の人生が左右されることを、医師自身が自覚しなくてはなりません。しかし、一方的に患者や障害者に有利に書くべきでは無論ありません。

チェックリスト活用に当たって

このチェックリストは、医療機関において、個別具体的な視覚障害者支援を的確に実施するためのツールとして作成されました。

これを活用することにより、支援対象者である視覚障害者の障害の状況等を正しく理解できるだけでなく、視覚障害者自身も自らの現状を再認識できるとともに、各関係者が支援のための連携のポイントを認識できるようになっています。

この他に、連携・協力して視覚障害者の雇用支援に当たる「ハローワーク等の就労支援機関」「訓練施設」「事業主」用のチェックリストが「視覚障害者の雇用継続支援実用マニュアル」に掲載されていますので、是非、これら他のチェックリストにもお目通しいただけますと幸いです。

なお、「視覚障害者の雇用継続支援実用マニュアル」に関しましては、タートルの会にお問い合わせください。

タートルの会  Tel 03-3351-3208
Email mail@turtle.gr.jp

CASE 眼科医のコーディネートにより復職した事例

〜「補助具など視覚的配慮をすれば、業務遂行が可能」という診断書で分限免職の壁を乗り越える〜

両眼のレーベル遺伝性視神経症の40代男性。団体職員。家族は妻と子供2人。身体障害者手帳2級(矯正視力は右0.03、左0.01)。

急激な視力低下・中心暗点があり、休職し、ある大学病院の眼科に入院しましたが、治療の効果はみられず、神経内科の治療も併せて受けるようになりました。その神経内科の医師から、ロービジョンケアを行っている眼科医を紹介されました。

<当事者団体との連携>

まず、眼科医は、神経内科から紹介されて来院した本人と妻に対して、改めて障害を告知するとともに、障害の受容を図りました。また、最初にタートルの会に繋ぐ際には、本人の希望を確認し、目の前で直接電話をかけました(この方法により、個人情報保護の問題はクリアされます)。タートルの会は、本人や妻の揺れ動く気持ちを支えるとともに、パソコンの活用、安全な通勤、福祉制度の活用、職場での処遇面の問題などを話し合いました。

<訓練等>

ロービジョン訓練については、固視・眼球運動訓練、補助具の選定と訓練、拡大読書器などを使った文字処理の訓練を行いました。

職業訓練については、ロービジョン訓練を終えた後、まず、障害者職業センターでOA講習を受けました。この講習中、タートルの会は、職業センター、地元の障害者雇用促進協会とともに、本人を同伴し、事業主に対して復職の実現をお願いしました。しかし、元々「事業主は見えなくてはできる仕事はない」という立場をとっていましたので、復職を拒否し、本人に対して、さらに1年間の治療専念を命じました。復職を拒否されることはある程度想定されていましたので、本人は、スキルアップのために日本ライトハウスに入所し、本格的な職業訓練に専念しました。

日本ライトハウスでの訓練中も、事業主と復職について話し合いの場がもたれました。改めて復職の希望を伝えましたが、これに対し、事業主から、県の担当者と協議の結果、原職での復職は無理と考えており、最終決定は県が行うと告げられました。

タートルの会は、所定の訓練を終えても、復職を認めようとしないことに対して、職場の最高責任者とそれを指導監督する県知事の双方に対して、視覚障害者の復職・就労事例などを添えて、嘆願書を送付しました。本人も、県知事に対して、復職を願う直訴の手紙を送付しました。

<対事業主:診断書>

一方、主治医である眼科医(A)は、「補助具など視覚的配慮をすれば、業務遂行が可能である」という診断書を提出しました。しかし、事業主はこれを認めず、いわゆる分限免職規定を盾に、事業主の指定する医師2名以上(B、C)の診断書を求めました。その結果、Cの診断書には就労は可能である旨が記述されていましたが、Bの診断書には就労の可否について記述されていませんでした。結局、事業主はAの診断書を認めることを言明するに至りました。

<復職>

このようにして、ようやく復職が実現しました。復職後の状況は、極めて良好です。復職に際しては、助成金制度を利用して拡大読書器、スキャナー、音声変換ソフト、デジタルルーペなどの各種機器の整備を行いました。日本ライトハウスの指導員のフォローを得ながら職場環境にも慣れ、最も能力を発揮できる部署に職場定着が図られました。本人の存在は、職員全体に影響を与え、職場のノーマライゼーション実現にも寄与しています。

<まとめ>

本事例において、特に問題になったのが、診断書と解雇を巡る問題でした。事態を困難にした背景には、事業主に「目が見えなければ仕事はできない」という旧態依然とした偏見があったことです。そして、その事業主が復職を認めることになったのは、ロービジョンケアを行ってきた医師の「就労は可能」とする診断書と、本人の確固たる復職への意志であったといえます。なお、分限免職規定や解雇規定は、雇用継続のための最大限の努力が前提であるものであることを十分ご理解いただきたいと思います。

また、本事例においては、実際に職場復帰してから事業主が本人の実力を改めて認めることとなり、事業主も積極的に職場改善を図りました。その結果、平成16年度に「職場改善好事例」として表彰されました()。このように、企業にとっても視覚障害者の雇用継続はメリットがあり、そのきっかけをつくった第一歩が眼科医の対応であったと言っても過言ではありません。

*(独法)高齢・障害者雇用支援機構発行の「平成16年度障害者雇用職場改善好事例(視覚障害者)入賞事例集」に掲載されております。


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