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コリネバクテリウム・ウルセランスに関するQ&A

(平成21年7月22日作成)
(平成30年1月10日更新)

【一般の方向け】

Q1 コリネバクテリウム・ウルセランス感染症(以下「当該感染症」という。)とは?

 ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)と同様にコリネバクテリウム属に分類されるコリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans、以下、ウルセランス菌)という細菌によって引き起こされ、ジフテリアによく似た症状を示す感染症です。

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Q2 人への感染経路は?

 当該感染症は、人、犬、猫、牛のほか、様々な動物において感染事例が確認されており、咽喉頭、肺、皮膚、乳腺などに、様々な症状を呈する動物由来感染症です。
 海外においては、乳房炎や関節炎に罹患した牛の生乳からの感染が主に確認されていました[1-3]。最近では、ウルセランス菌に感染した犬や猫からの感染が国内外で広く確認されるようになっています[3]。
 なお、人から人への感染事例は、国内では現在まで報告がなく、国外においても、非常にまれです[4, 5]。

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Q3 臨床症状は?

 基本的にジフテリアと類似した臨床症状を示します。呼吸器感染の場合には、初期に風邪に似た症状を示し、その後、咽頭痛、咳などとともに、扁桃や咽頭などに偽膜形成や白苔を認めることがあります。重篤な症状の場合には呼吸困難等を示し、死に至ることもあります。また、呼吸器以外(頸部リンパ節腫脹や皮膚病変)の感染例も報告されています[3, 6]。

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Q4 治療方法は?

 抗菌薬が有効であるとされています[6]。国内においては、マクロライド系抗菌薬の使用による回復例が報告されています。

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Q5 感染予防のためには?

 人での国内感染事例の多くは犬や猫からの感染であることが確認されており、ウルセランス菌に感染した動物と接する場合には注意が必要です。感染した動物は、くしゃみや鼻汁などの風邪に似た症状や皮膚病を示すことがあり、動物間で感染が拡大することも報告されています[7]。
 一方で、無症状の保菌動物の存在も報告されています。ただし、過度に神経質になることよりも、一般的な衛生管理として動物と触れあった後は手洗いを確実に行うことなどにより、感染のリスクを低減することが重要です。
 国内では、人に対する定期の予防接種の対象である3種混合(最近では4種混合)ワクチンにジフテリアトキソイド(ワクチン)が含まれています。このワクチンは、当該感染症に対しても有効であると考えられています[8, 9]。

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Q6 ペットが感染したかもしれないと思った時は?

 飼育している犬や猫が咳やクシャミ、鼻水などの風邪様症状、皮膚炎、皮膚や粘膜潰瘍などを示しているときは、早めに獣医師の診察を受けるようにしてください。
 また、こうした犬や猫に触る場合は、過度な接触を避け、手袋やマスクをし、触った後は手洗いなどを励行してください。

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Q7 日本での発生状況は?

 2001年から2017年11月末までに国立感染症研究所で発生を確認しているものは、25例です。公表されているものは以下のとおりです。(国立感染症研究所調べ)

No. 発症年月 患者 臨床経過等 その他 参考文献
1 2001年2月 50歳代、女性、
千葉県
呼吸困難、嗄声、上咽頭と喉頭前庭に白色偽膜形成 飼育している猫20匹飼のうち1匹で皮膚炎 [10, 11]
2 2002年10月 54歳、男性、
千葉県
同上 1例目の患者と同地区に住居 [12]
3 2005年9月 50歳代、男性、
岡山県
左耳下腺部腫脹、軽度の咳等 飼育していた犬が皮膚炎(犬死亡後に患者が発症) [13]
4 2005年10月 50歳代、男性、
大分県
肺に多発性空洞病変、咳、痰、発熱等 猫を12匹飼育 [14]
5 2006年7月 50歳代、女性、
神奈川県
呼吸困難、嗄声等。上咽頭と喉頭前庭に白色偽膜形成。ジフテリア抗毒素使用により加療 その後患者は重症肺炎の増悪により死亡 [15]
6 2009年1月 50歳代、女性、
東京都
咽頭痛、嗄声等、上咽頭と喉頭前庭に白色偽膜形成 自宅で餌やりをしている猫5匹中2匹から菌分離。 [16]
7 2010年7月 50歳代、男性、
神奈川県
腋下膿瘍(穿刺液より菌分離) 猫10匹飼育。屋外でも猫に餌やりを行う [17]
8 2010年10月 50歳代、女性、
茨城県
咽頭痛、嗄声等、上咽頭と喉頭前庭に白色偽膜形成 猫1匹飼育  [18]
9 2011年4月 50歳代、女性、
滋賀県
同上 猫14匹、犬7匹、ヤギ2匹飼育 [19]
10 2011年12月 30歳代、女性、
山形県
右肘膿瘍(穿刺液より菌分離) 猫6匹飼育 [20]
11 2012年1月 30歳代、男性、
香川県
腋下リンパ節膿瘍(穿刺液より菌分離) 親戚宅で犬3匹飼育 [21]
12 2012年11月 70歳代、女性、
埼玉県
呼吸困難、嗄声等、上咽頭と喉頭前庭に白色偽膜形成 飼育している猫4匹中1匹から菌分離 [22]
13 2013年4月 20歳代、女性、
埼玉県
呼吸困難、嗄声等、喉頭前庭に白色偽膜形成 猫18匹飼育 [23]
14 2014年4月 歳、女児、
徳島県
頸部リンパ節膿瘍(穿刺液より菌分離) 猫1匹飼育(発病時皮膚病) [24]
15 2015年9月 60歳代、女性、
東京都
発熱、鼻汁等、気管支に黄白色偽膜形成 猫3匹飼育(うち1匹に皮膚疾患あり)。屋外でも猫に餌やりを行う [25]
16 2016年2月 17歳、女性、
北海道
皮膚病変 犬飼育 [26]
17 2016年3月 63歳、女性、
栃木県
咽頭痛、呼吸困難より人工呼吸処置要。咽頭から正門にかけて白苔あり 猫7匹飼育
18 2016年3月 岡山県 右頚部化膿性リンパ節炎 犬飼育(患者発症2ヶ月後に死亡)
19 2016年5月 60歳代、女性、
福岡県
呼吸困難。救急搬送されて3日目に死亡。喀痰と血液から菌検出。 屋外で猫3匹に餌やり [27]

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Q8 諸外国での発生状況は?

 英国においては2007年から2013年までの7年間に20例の毒素原性コリネバクテリウム(Corynebacterium diphtheriaeまたはCorynebacterium ulcerans)による人への感染が認められており、そのうち過半数の12例(60%)を毒素原性ウルセランス菌による感染が占めています
 (https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/417983/Diphtheria_notifications_and_deaths_1986-2014.pdf)。
 また、フランスにおいては2002年から2008年までの間に12例の毒素原性ウルセランス菌による感染(うち2例で犬から菌が分離された)[28]が報告されています。

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【専門家、特に医療関係者と獣医師の方向け】

Q9 ジフテリア菌との違いは?

 当該感染症は、ジフテリアによく似た症状であることから、欧州の国々では「ジフテリア」として扱われている感染症ですが、日本では、感染症法上の届出疾患ではありません。ウルセランス菌とジフテリア菌は血液平板培地上や亜テルル酸含有培地上で良く似たコロニー性状を示すため、コロニー性状では区別できませんが、後述のように生化学的性状での鑑別が可能です。
 イングランド公衆衛生局(Public Health England (PHE))では、ジフテリア(当該感染症を含む。)の予防・診断・治療に関するガイドラインを公開しています[1]。
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/416108/Diphtheria_Guidelines_Final.pdf

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Q10 診断方法は?

 当該感染症は、二類感染症であるジフテリアと類似した症状を示すため、ジフテリアとの鑑別が重要となります。
 特に咽頭部に難治性の白苔が認められ、培養でグラム陽性桿菌が検出された場合には、必ず当該感染症を疑ってください。また、臨床症状による鑑別が容易でない場合も多いため、以下のような検査が必要です。

(検査)
  • 咽頭や鼻腔から採取された検体からのウルセランス菌の分離培養・同定
  • 分離菌株からの、ジフテリア毒素遺伝子のPCR法による検出
  • 分離菌株が産生する毒素の検出(Vero細胞法)

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Q11 治療方法は?

 抗菌薬が有効であるとされています[6]。国内においては、マクロライド系抗菌薬の使用による回復例が報告されています。原因菌を分離し薬剤感受性試験を実施することは、患者の治療に有用です。また、PHE作成のガイドライン(Q9参照)では、ジフテリアと同様、抗毒素による治療も選択肢のひとつとされていますが、抗毒素はウマ血液由来の製剤であり、アナフィラキシーや血清病などの可能性への留意が必要であるとも記載されています。PHE作成のガイドライン(抜粋)を巻末に掲載しています。なお、人に対するワクチンについて、最近では、定期の予防接種が必ずしも有効とは言い切れないという見方[3]も出てきていますが、PHE作成のガイドラインにおいては、患者及びその接触者へのワクチン接種が推奨されています。

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Q12 感染が疑われるペットの検査は?

 ウルセランス菌に感染したペットは、くしゃみ、鼻水、眼脂、皮膚疾患が認められたり、元気がなくなったりします。当該感染症に感染した患者がペットを飼育している場合、症状の有無に関わらず、ペットの咽頭、皮膚、眼脂等から採取した検体において、Q10に記載のある検査を行い、ウルセランス菌が分離された場合は、患者から分離された菌と比較することで、感染経路が推定可能です。また、患者と接触したペットでは、このような症状がなくても検査すると、菌が分離されることがあります。このようなペットにおける検体採取は、獣医師により、あるいは獣医師の指導のもと実施してください。
ペットの検査について、サンプリングする際の調査票(別紙1 [34KB])を作成しました。
 また、サンプリング時の注意事項及び検体処理については別紙2 [156KB]のとおりです。

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Q13 ジフテリア菌とウルセランス菌の鑑別は?

 アピコリネキット(シスメックス・ビオメリュー社)やRapID CB Plusキット(アムコ社など)による生化学試験が有効です。また、rpoB遺伝子の配列による鑑別も可能です。しかし、16S rRNA遺伝子の配列は鑑別に有効ではありません。コロニー形態やグラム染色像のみでの鑑別はできません。

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Q14 ウルセランス菌による感染が診断された動物への対応は?

  • 推奨される処置方法
     感染動物は、ほかの動物に感染が広がる可能性を考慮して隔離して入院させることが推奨されます。感染動物への処置を行う場合は、ほかの動物や処置を行うスタッフへの感染予防を考慮して手袋、マスク等の防護を行って処置を実施してください。動物の治療や世話に用いた手袋等は(可能であれば高圧蒸気滅菌後)感染性廃棄物として廃棄してください。
     感染動物については、入院させて、抗菌薬(エリスロマイシンまたはクラリスロマイシン等のマクロライド系)を2週間ほど投与してください。なお、治療を行った動物については、再検査の結果、菌が分離されなければ、他の動物や人へ感染はしないと考えられます。
  • 多頭飼育がなされている場合の対応
     多頭飼育(おおむね5匹以上)下にある動物において、当該感染症の感染が確認された場合、発症した動物のみを治療することは飼育群全体への対処として有効ではありません。発症した動物を治療しても飼育されている動物群の中では保菌―発症―自然治癒が繰り返されるため、飼育群から菌を排除することはできませんので、発症していない動物についても、可能な限り検査(Q12)を実施してください。
  • 感染動物の飼い主とその家族への対応
     当該感染症は、犬、猫等の動物から人に感染する可能性のある人獣共通感染症です。感染動物の飼い主とその家族へのワクチン接種を考慮することが必要です。DPT3種混合ワクチンやDPT-IPV4種混合ワクチンなどのジフテリアトキソイドを含むワクチンの接種歴を確認し、その情報とともに(特に接種歴がない、あるいは不明の場合)ワクチン接種などに関して、かかりつけ医師や感染症に詳しい医師に相談するように助言をお願いします。

C.diphtheriae C.ulcerans
C.diphtheriae C.ulcerans
いずれの菌も乳白色で光沢のあるコロニーとして観察される。
C.diphtheriae C.ulcerans
corynebacterium

[PHE作成のガイドラインについて]

 PHE作成のガイドラインにおいて、当該感染症はジフテリアとして扱われるため、隔離及び接触者の取扱いなどについても詳述されています。日本では、当該感染症はジフテリアとして扱われないため、日本における対応と異なることについてご留意下さい。
 治療についてもPHE作成のガイドラインでは、当該感染症はジフテリアと一緒にまとめて扱われており、抗毒素と抗菌薬について記載があります。

抗毒素については

  • ジフテリア抗毒素の使用は、確定あるいは強く疑われる場合(ガイドラインに診断基準が示されています)に限って病院内で行うこと
  • 古典的な呼吸器ジフテリアの場合は実験室診断を待たずに抗毒素治療を開始すること
  • 皮膚ジフテリアの場合には抗毒素による効果よりもリスクを考慮すべきこと
  • 抗毒素はウマ血清由来なのでアナフィラキシー等のリスクがあり、そのため使用前には十分な過敏性のチェックなどを行うこと

抗菌薬については

  • マクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン)
  • ベンジルペニシリン

が推奨されています。
※病原体検査用の検体採取は、抗菌薬を投与する前に行うべきです。

 さらに、感染により十分な抗体価の上昇が期待できるとは限らないとして、患者のそれまでのワクチン歴に応じて適切なワクチン接種を行うことが推奨されています。

(参考文献)

  1. 1.Diphtheria Guidelines Working Group, Public health control and management of diphtheria (in England and Wales) 2015 Guidelines, P.H. England, Editor. 2015, Public Health England: London.
  2. 2.Department of Health, U.K., Diphtheria, in Immunisation against infectious disease, D. Salisbury, M. Ramsay, and K. Noakes, Editors. 2009, The Stasionery Office: Norwich. p.109-125.
  3. 3.Zakikhany, K. and A. Efstratiou, Diphtheria in Europe: current problems and new challenges. Future Microbiol, 2012. 7: p.595-607.
  4. 4.Konrad, R., S. Hormansdorfer, and A. Sing, Possible human-to-human transmission of toxigenic Corynebacterium ulcerans. Clin Microbiol Infect, 2015. 21: p.768-71.
  5. 5.Wagner, K.S., et al., Diphtheria in the United Kingdom, 1986-2008: the increasing role of Corynebacterium ulcerans. Epidemiol Infect, 2010. 138: p.1519-30.
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  7. 7.Katsukawa, C., et al., Prevalence of Corynebacterium ulcerans in dogs in Osaka, Japan. J. Med. Microbiol., 2012. 61: p.266-273.
  8. 8.Kretsinger, K., et al., MMWR Morb. Mortal. Wkly. Rep., 2006. 55 (RR17): p.1-33.
  9. 9.McDonald, S., et al., MMWR Morb. Mortal. Wkly. Rep., 1997. 46: p.330-332.
  10. 10.Hatanaka, A., et al., Corynebacterium ulcerans diphtheria in Japan. Emerg. Infect. Dis., 2003. 9(6): p.752-753.
  11. 11.畑中ら, 病原微生物検出情報, 2002. 23(3): p.61.
  12. 12.Komiya, T., et al., Two Japanese Corynebacterium ulcerans isolates from the same hospital: ribotype, toxigenicity and serum antitoxin titre. J. Med. Microbiol., 2010. 59: p.1497 - 1504.
  13. 13.朝倉ら, 病原微生物検出情報, 2006. 27(5): p.124-125.
  14. 14.Nureki, S.-i., et al., Corynebacterium ulcerans infection of the lung mimicking the histology of Churg-Strauss syndrome. Chest, 2007. 131(4): p.1237-1239.
  15. 15.萩原ら, 病原微生物検出情報, 2006. 27(12): p.334-335.
  16. 16.野口ら, 病原微生物検出情報, 2009. 30(7): p.188-189.
  17. 17.吉村ら, 病原微生物検出情報, 2010. 31(11): p.331.
  18. 18.畑中ら, 病原微生物検出情報, 2011. 32(1): p.19-20.
  19. 19.廣瀬ら, 病原微生物検出情報, 2013. 34(5): p.143.
  20. 20.Urakawa, T., et al., Subcutaneous abscess formation in the upper extremity caused by toxigenic Corynebacterium ulcerans. J. Med. Microbiol., 2013. 62: p.489-493.
  21. 21.堀ら, 病原微生物検出情報, 2013. 34(3): p.71-72.
  22. 22.仲田ら, 病原微生物検出情報, 2013. 34(12): p.381-382.
  23. 23.石井ら, 病原微生物検出情報, 2014. 35(10): p.247-248.
  24. 24.寺田ら, 病原微生物検出情報, 2014. 35(9): p.226-227.
  25. 25.石藤ら, 病原微生物検出情報, 2016. 37(3): p.56-57.
  26. 26.杵渕ら, 第28回日本臨床微生物学会総会・学術集会. 2017年1月. 長崎.
  27. 27.尾辻ら, 第91回日本感染症学会総会・学術講演会. 2017年4月: 東京.
  28. 28.Bonmarin, I., et al., Diphtheria: a zoonotic disease in France? Vaccine, 2009. 27: p.4196-200

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