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2017年8月25日 第16回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産流通部会議事録
健康局健康課予防接種室
○日時
平成29年8月25日(金)13:00~
○場所
国立感染症研究所戸山庁舎共用第一会議室
○議事
○事務局 定刻になりましたので、ただいまより第16回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会を開催いたします。本日は、御多忙のところ御出席をいただき、誠にありがとうございます。本日の議事は公開ですが、カメラ撮りは議事に入るまでとさせていただきますので、プレス関係者の方々におかれましては御協力をお願いいたします。また、傍聴の方は、傍聴の際の留意事項の遵守をお願いいたします。
はじめに、本日の委員の出欠状況について御報告いたします。本日は、委員10名のうち、現在、7名の方に御出席いただいております。森委員からは、遅れて来られる旨の御連絡を頂いております。また、福島委員、山口委員からは、御欠席の旨の御連絡を頂いております。現時点で、厚生科学審議会の規定により定足数を満たしておりますので、本日の会議が成立したことを御報告申し上げます。
また、本日は参考人として5人の方をお呼びしていますので、御紹介申し上げます。国立感染症研究所所長の倉根一郎参考人です。国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長の小田切孝人参考人です。保健医療経営大学学長の廣田良夫参考人です。一般財団法人阪大微生物病研究会品質管理部品質管理一課長の中川幸毅参考人です。一般財団法人化学及血清療法研究所生産本部第二製造部長の松浦健太参考人です。冒頭のカメラ撮りにつきましては、ここまでとさせていただきますので、御協力をお願いいたします。
それでは、議事に先立ちまして配布資料の確認をさせていただきます。議事次第、委員名簿、参考人名簿、配布資料一覧、資料1から資料3、及び参考資料を御用意しています。配布資料一覧と照らしまして不足しております資料がございましたら、事務局におっしゃっていただければと思います。
次に、審議参加に関する御報告を申し上げます。本日の議事内容におきまして、個別に調査、審議される品目はございませんので、本日の議事への不参加委員はございません。それでは、ここからは伊藤部会長に議事進行をお願いいたします。
○伊藤部会長 ありがとうございます。夏の暑い中、少し駅から距離があるところをお出でいただきまして、ありがとうございます。ただ、厚生労働省の中のエアコンの効きよりは、こちらのほうがしっかり効いているので、余り暑くならずに済むのかもしれません。いずれにしましても皆さん、お暑い中お集まりいただきまして、ありがとうございました。それでは、議題に入りたいと思います。
本日の議題は「2017/18シーズンのインフルエンザワクチンについて」と「その他」となっております。まず議題1についてですが、資料は事務局、小田切参考人、廣田参考人からそれぞれ御用意いただいておりますが、相互に関連するものですので一括で説明いただいて、その後に質疑を行いたいと思います。まずは、事務局から説明をお願いいたします。
○江浪予防接種室長 厚生労働省で予防接種室長を務めます江浪でございます。資料1に基づきまして説明を申し上げたいと思います。資料1の1枚目の下です。季節性のインフルエンザに関しましては、株の選定を毎年行うということになっていまして、その流れを記載しています。厚生労働省の健康局長から国立感染症研究所長に、次シーズンのインフルエンザワクチンの製造株の検討を依頼させていただくということです。国立感染症研究所長は、所長の私的諮問機関であります「インフルエンザワクチン株選定のための検討会議」の意見を踏まえて製造株を選定し、選定した製造株を健康局長に回答いただくということです。この国立感染症研究所長からの回答を踏まえ、次シーズンのインフルエンザワクチンの製造株決定の旨の健康局長通知を発出するという流れになっています。
下のページで2となっているところです。今シーズンにおきましては、国立感染症研究所からの回答を頂いたあとに、業者の方から、選定されたH3N2亜型に関しまして、増殖効率が想定よりも著しく悪い旨の報告を頂きました。それを受けまして、感染症研究所に再検討をお願いしまして、その再検討結果の回答を頂き、最終的に健康局長通知を発出したという流れがあったということです。2ページの下に、最初に国立感染症研究所から頂いたときの回答を付けています。この中では、A型株の2つ目に、A/埼玉/103/2014(CEXP002)(H3N2)というものがありますけれども、3ページの上ですが、この株に関しまして、先ほど申し上げました増殖効率が想定より著しく悪いということを受けまして、再検討のお願いを申し上げたということです。
2段落目ですが、前回回答通知により選定のあった4株のうち、A/埼玉/103/2014(CEXP002)(H3N2)については、前回回答通知別紙「平成29年度インフルエンザワクチン株選定理由」において示されたとおり、昨シーズンのワクチン株A/香港/4801/2014(X-263)と比較して、約84%の蛋白収量であるということを前提に選定がなされたということですが、今般、実際の蛋白収量(暫定値)が昨シーズンのワクチン株と比較して約33%程度と大幅に低下し、最大限の生産を行った場合であっても、平成29年度インフルエンザHAワクチンの総生産量は、昨年度比で約71%程度にとどまる可能性が明らかとなった。
仮に最終的にそのような生産量となった場合、希望してもワクチン接種が困難となる事例が相当数発生し、社会的に極めて大きな混乱が生じる可能性が高いことを考えまして、蛋白収量に係る大幅な低下の見込みが報告されていること、また、H3N2亜型以外のインフルエンザウイルスに対する効果を考慮すれば、ワクチンを接種する機会を幅広く確保することが非常に重要と考えられることから、平成29年度インフルエンザHAワクチンのH3N2亜型に係る製造株として、昨シーズンのワクチン株であるA/香港を使用することを可とすべきではないかと考えているということで、この株選定会議における従前の結論を見直して、A/香港の使用を可とすることの可否について、検討をお願い申し上げたということです。
その結果、その下に付けておりますが、感染症研究所からの回答としては、当初の株選定の結論とそれに至った考え方には変わりはないものの、製造供給量の大幅な減少が見込まれ、A/H1pdm09及びB型ワクチンの供給にも影響が出るという状況を考慮すれば、厚生労働省の提案でありますA/H3N2のワクチンとして香港株の使用を可とすることについて了承いただいたということです。
これを受けまして、4ページの上ですが、健康局長通知として、4つの株を決定したということです。このH3N2亜型製造株決定の考え方につきまして、4ページの下にありますが、先ほど説明申し上げましたことの繰り返しになりますが、H3N2亜型以外のインフルエンザウイルスに対する効果を考慮した場合に、ワクチンを接種する機会を幅広く確保することが重要ではないかという考え方については、近年の各シーズンにおきます最も流行した亜型に関しましては、近年H3N2とH1N2と交互に流行するというパターンがありまして、昨シーズンについてはH3の流行するパターンだったということもあり、また、予想される製造量を考慮した場合に、H3N2亜型単独で考えた場合であっても、疫学的学観点から、香港型の株としたほうがメリットが大きいのではないかということで、香港株のほうに決定することとしたものです。
6ページのスライドの12番目を少し見ていただきますと、当初、業者の方々から、増殖効率が想定より著しく悪いということで御報告いただいたときには、非常に大きな減少幅になることが危惧されたわけですけれども、株を切り替えたことにより、平成29年度の総供給量に関しては、昨年の使用量と余り変わらない程度の量を確保できると考えています。その場合に、5ページの上ですが、総供給量が、しかしながら昨年の使用量よりも少し下回っているという状況ではありますけれども、例えばここに書いてありますとおり、13歳以上の方に関しては、医師が特に必要と認める場合を除きまして1回注射ということではありますけれども、下のページで7ページの上を御覧いただきますと、年齢別のインフルエンザ予防接種状況を書いていますが、実際には1回接種で十分な効果が見込まれる年齢層におきましても、2回接種が一定程度行われているという実態があるわけですが、この部分に関しまして、1回接種であることを周知していくという対策であったり、また、昨年度以上にワクチンの効率的な活用を徹底していくことにより、昨年度と同等程度の接種者数を確保できる見込みではないかと考えています。
接種回数に関するエビデンスとしては、5ページの下にありますけれども、WHOあるいは米国のACIPにおきましても子供、小さいお子様以外に関しましては1回接種ということとなっているということです。今回、インフルエンザワクチンに関する株選定に関する大きな流れにつきましては、今申し上げたことですけれども、このあと感染症研究所の先生、あるいは廣田先生のほうから、株選定会議におきます検討の詳細、あるいはワクチンの有効性につきましても御報告いただけるのではないかと考えております。事務局からの説明は以上です。
○伊藤部会長 ありがとうございました。今の事務局からの御説明では、ワクチンの生産量が、当初予定していた株を変えたというところもあるのでしょうけれども、今年の生産量の見込みが変更になった、それに対する対応策を大変工夫して考えられたと思っておりますが、この後、メーカーの立場からの追加発言と、小田切先生や廣田先生のお話を伺って、議論にさせていただきたいと思いますので、メーカーの立場から、どうぞよろしくお願いいたします。
○中川参考人 インフルエンザワクチンのメーカーを代表しまして、中川より、来シーズンのインフルエンザワクチンに関する株選定検討会議から現在に至るまでの、ワクチンメーカーの取組と製造状況について簡単に御報告させていただきます。ワクチンメーカーは、感染研から配布される製造候補株につきまして、増殖性を検討し、株選定検討会議で報告をしております。株選定検討会議の際には、ショ糖クッション法と呼ばれる方法で測定した数値をウイルス蛋白質の収量として報告しております。この方法は、製造候補株を発育鶏卵に接種して培養し、ウイルス液を得まして、ウイルスを簡易精製し、蛋白質量を測定いたします。実製造で、出来高とある程度相関が得られる方法として、これまでもこの方法で数値を報告してまいりました。この方法を使用したH3N2亜型製造候補株である埼玉株の増殖性の検討結果は、4社平均で作年度の香港株の84%でした。
生産性につきましては、埼玉株の増殖性の検討結果から、ベストケースとして昨年度の93%程度、埼玉株のウイルス粒子の形状から想定される製造工程の収率低下を加味したワーストケースとして、昨年度の82%程度と予想されることを報告いたしました。
ワクチンの生産本数につきましては、ベストケースの場合は、製造期間を延長することで昨年並みに生産することは可能、また、ワーストケースの場合でも、かなりの努力を要しますが、製造期間を最大限延長することで昨年並みに生産することが何とか可能だろうと考えておりました。
株選定検討会議の終了後、実製造スケールの生産性を評価したところ、エーテルによるスプリット化工程で大幅な収率低下が起きることが判明いたしました。この原因につきましては、ウイルス株固有の性質によるものと考えておりますが、原因の解明には至っておりません。このエーテルスプリット化工程での収率低下を考慮しますと、埼玉株の生産性は昨年度比50%を下回る生産性となりますので、製造期間を最大限延長したとしても、ワクチン生産本数は昨年度比71%程度となることが予想されましたので、厚生労働省に報告いたしました。各メーカーとも現在、製造期間を可能な限り延長しまして、ワクチンの生産本数を最大化するように製造しておりますが、原材料である発育鶏卵の入手可能数及び期間が限られていることもありまして、これ以上のワクチン生産本数の上乗せは困難な状況となっております。以上で、来シーズンのインフルエンザワクチンに関するワクチンメーカーからの報告といたします。
○伊藤部会長 ありがとうございました。関連しますので、小田切参考人から御説明をお願いいたします。
○小田切参考人 資料に沿って御説明いたします。先ほど事務局からワクチン株の選定の経緯の全体的な流れと結果について御報告がありましたので、私からはワクチン株選定検討委員会、いわゆる専門家の会議の視点から、どういうデータに基づいてワクチン株を選定したかについて御報告申し上げます。資料のスライドの右肩にスライド番号がふってありますので、必要なときはその番号を御指摘いたします。
まず、スライド2は、今現在、地球規模ではどういうインフルエンザが流行となっているかを、北半球と南半球に分けてWHOが報告しているデータに基づいてまとめたのがこのスライドです。北半球は既に流行が終わっていますけれども、H3N2が流行の主流であったというのが大体国内も国外も似たような状況でした。流行期が半年遅れる南半球は正に今流行期の真っ最中にあって、流行がかなり立ち上がっているというところですが、今の南半球はH3N2が流行の主流です。
スライド3は、主だった南半球諸国での流行パターンを書いています。オーストラリアはH3とB型が主流、南アフリカはH3が流行の主流、アルゼンチンはH3とB型、チリはH3が流行ということで、大体南半球もH3が流行の主流であるという状況です。これからしまして、次の半年遅れた北半球、今度の冬はどういう亜型が流行するかは、ある程度予想ができることが分かります。
スライド4は、国内の累計患者数を情報センターのデータでまとめたものをグラフに示しています。2016/17シーズンは、その前のシーズンよりも少し患者数が多くて、大体1,700万人ぐらいが患者として受診したという集計になっています。次のスライド5に円グラフがありますが、これは累積の患者数の年齢別の区分ですけれども、前シーズンに比べて少し高齢者の患者数が増えているのが2016/17シーズンの特徴です。そして下のスライド6のグラフですが、2016/17シーズンは、特に60歳以上の高齢者が重症化して入院するというケースが、グラフで立ち上がっている所で分かると思いますが、これはその2つ前のシーズンの2014/15シーズンも同じように高齢者が重症化して入院するケースが多いと。これの特徴は、H3N2が流行の主流になったシーズンは高齢者が重症化するケースが多いので、これはワクチンの有効性というのがかなり重要な役割をすることがこれで分かります。
次のスライド7です。2016/17シーズンは流行の主流がH3N2だったということがこの円グラフで分かります。実際に16/17シーズンはどういうウイルスが流行していたかというのを、それぞれの亜型ごとに解析した結果です。この3月1日に行われました流通部会で、暫定的な経過報告をしましたけれども、シーズンが終わってみて、基本的には、傾向としては大きな変化はなかったというのが全体的な流れです。次のスライド9が、A(H1N1)pdm09ウイルスの解析の結果ですが、国内も国外もほぼ同じような状況で、下に系統樹を示していますけれども、国内も国外も今の流行の主流は6B.1というグループに入るウイルスです。その中で代表選手として挙げられるのはミシガン/45と、下の所に赤い字で書いてありますけれども、それが今流行しているウイルスの代表選手です。実際にワクチンとして使っているカリフォルニア/7が左下にありますけれども、遺伝的には6B.1と大きく抗原性は違いはないというのが特徴です。
スライド11枚目です。円グラフが4つありますが、これが抗原性を解析したものです。サーベイランスで抗原性を解析するということはどういうことかと言いますと、ワクチン株と流行株の抗原性ができるだけマッチしたものを使うというのがワクチンの有効性を上げるために必要です。したがって、サーベイランスでは、流行しているウイルスがワクチン株と抗原性がどれぐらいマッチしているかを評価します。、その結果をまとめたものがこれになります。ワクチンに使っているのはカリフォルニア/7で、実際の製造株としてはX-179Aというものをワクチンに使っていますので、これと流行株ウイルスとの抗原性のマッチ度を見ますと、オレンジ色で示しました8倍以上の許容容できないぐらい抗原性が違っているパーセンテージですが、ワクチン株A/カリフォルニア/07/2009(X-179A)は、ほぼ80%以上が流行株と抗原的にマッチしていますので、ワクチンとしては適正なものが使用されていることになります。
下の段にミシガン/45ですが、これが今の流行しているウイルスの代表選手ですけれども、これを仮にワクチンとした場合には、流行株と抗原性がほぼ99%マッチしていますので、こちらのほうをワクチンとして使うほうが有効性が高いことが期待できるということを示しています。ということでH1N1の流行株は、少し抗原性が変わってきていて、よりミシガン/45に近い状況になってきているということです。
次のスライド12は、最初に簡単なほうから御説明しますので、B型ウイルスのまとめから示します。B型は昨シーズンから流行のパターンも状況も全く変わっていません。ビクトリア系統と山形系統の大きく2つの系統がB型にはありますけれども、これらが混合流行しています。それらはほぼ同じような比率で流行していますので、4価のワクチン、いわゆるB型ビクトリア系統と山形系統の両方入っているワクチンを日本は採用していますので、両方の系統に対応できます。
ビクトリア系統の流行しているウイルスは、WHOが推奨しますB/ブリスベン/60、それと日本が採用しているB/ブリスベン/60の類似株であるB/テキサス/2、これと類似しているウイルスが流行しています。同じく山形系統はB/プーケット/3073類似株が流行していますので、ワクチン株と流行株の抗原性はびったりマッチしていることが分かります。
ただ、B型で今一つ懸念事項として上がっているのは、一番下に示していますが、米国を中心にビクトリア系統で変異株が散発的に出てきております。昨日WHOのワクチン選定のための電話会議がありましたけれども、やはり米国国内では少しずつこの変異株が増えてきているということで、この変異株は、今使っていますワクチン株のB/ブリスベン/60、若しくはB/テキサス/2からは抗原性が大きく違っていますので、これが世界的に流行した場合には、ワクチン株の変更が必要になります。米国以外としては、ノルウェー、ドミニカ、カナダ、オーストラリアにも散発的に検出されていますので、もう少し傾向をよく見ないといけませんが、世界的に広がる可能性があることを懸念事項として認識しておく必要があります。これがB型です。
次にスライド13は、H3N2ウイルスです。大体、国内国外とも今シーズンはH3N2が流行の主流であったということです。下に系統樹がありますが、流行の主流は3C.2aのグループにほぼ100%入りまして、その中で最近のウイルスは3C.2a.1という更にサブクラスターに分かれたものが流行しているということです。実際にワクチンに使っていますのは香港/4801というもので、3C.3aに入るグループですが、それとは遺伝的には少しずつ変わってきているということです。ただ、抗原的にはこの3C.2a.1、3C.2a及び3C.3aとも、大きな違いはありません。
スライド15は実際にワクチンに使っている香港/4801というウイルスが実際の流行株を代表しているかどうかを見たものです。「Cell」と書いてありますが、これが実際の流行しているウイルスの抗原性をある程度代表しているものですが、流行期の前半9月~1月、後半の2月以降というのを分けて集計していますけれども、今現在におきましても、流行しているH3N2は、香港/4801類似株であることがこれで分かります。大体この濃い水色の部分で60%近くを占めていますので、香港/4801が流行の代表であることが分かります。
スライド16です。来シーズンの2017/18シーズンの北半球用ワクチンとして、WHOは下に示しますような3つのウイルスを推奨いたしました。H1N1をカリフォルニア/7からミシガン/45というウイルス、今の最新のウイルスに変更したと、この1点だけを変更しています。H3N2は香港/4801類似株に、それからB型はビクトリア系統にブリスベン/60類似株、もし4価のワクチンを採用する国の場合は、更に山形系統のプーケット類似株を推奨するということです。WHOの場合は類似株として推奨しますので、必ずしもH1N1pdmワクチン株にミシガン/45と同じ名前のウイルスを使わなければいけないということではなくて、ミシガン/45と抗原性が類似していれば違う名前のワクチン株でも問題ない、これがWHOの推奨法です。
次にスライド17、まとめの2ですが、H3N2の問題点についての部分になります。ワクチンは卵で製造しますので、H3N2ウイルスを卵で継代しますとウイルスの性質が変わってきて、それにより抗原性が変化してしまいます。いわゆる卵に馴化した抗原変異を起こすことが最近のH3N2ウイルスの致命的な問題です。
下の18枚目のスライドに円グラフを4つ示していますが、日本はA/香港/4801/2014(X-263)をワクチンとして今シーズン使いましたけれども、それぞれ上の段が流行期の前半、下の段が後半で、実際に流行株とどれぐらい抗原性がマッチしているかを示しています。ほとんどが赤色若しくはオレンジ色ですので、許容できないぐらい流行株とワクチン株の抗原性が違っていることを示しています。特に流行期後半は99%近く、流行株とワクチン株がミスマッチしているということを示しています。
次のスライド19は、昨シーズン国内で非常にユニークなウイルス株、埼玉/103ウイルスが国内で分離されました。円グラフの左側にCellと書いていますが、これが流行株との相性の状況、それから左側のCEXP-002という、これがワクチン製造株の候補ですけれども、埼玉株というのは、ワクチン製造のために卵に接種をして、何回も継代しても、流行しているウイルスと抗原性が余り変わらないという非常にユニークなウイルスです。円グラフのCEXP-002という所を見ますと、卵で馴化させてもほぼ60%は流行株と抗原性が一致しているということで、卵に馴化した抗原変異の程度は非常に小さく、ワクチンに採用すると非常にメリットが大きい株が開発できたわけです。このウイルスはWHOが推奨株香港/4801の類似株ですので、下のスライドの20枚目に示したように、WHOはこのA/埼玉/103(CEXP-002)ウイルスをWHOの推奨株に認定し、このようにWHOワクチン株の一覧表に掲載しています。これによってどの国も埼玉/103というワクチン製造株を使えるという状況になっているわけです。
スライド21枚目です。そういう背景を踏まえまして、ワクチン選定検討委員会が選定したワクチン株は、H1N1は、WHOが推奨するミシガン/45の類似株で製造効率のいいA/シンガポール/GP1908/2015(IVR-180)、H3N2は、ワクチンの抗原性が卵に馴化しても余り変化しないA/埼玉/103/2014(CEXP002)、それからB型は去年と同じで、ビクトリア系統はB/テキサス/2、山形系統はB/プーケット/3073、をそれぞれ推奨するという結論に至りました。これを感染研の所長経由で厚生労働省に結論として御報告申し上げたという経緯であります。以上です。
○伊藤部会長 ありがとうございました。5月の段階までの御説明を頂いたというように思っております。そこから先が、多分、ワクチンが増えなかったので、再度選定を変えたという話なのかなと思っておりますが、予定としてはここから廣田先生にお話を頂いて、それからの議論ということになっておりますので、お話を頂いてからいろいろな御質問を受けようと思いますので、よろしいでしょうか。廣田先生、どうぞよろしくお願いいたします。
○廣田参考人 私どもの研究班は「ワクチンの有効性・安全性の臨床評価とVPDの疾病負荷に関する疫学研究」です。この疫学研究というのは、ヒトを対象とする研究ですので、ヒト・データの意義という、ヒト・データの観点から発表させていただきます。
まず、1933年にヒトインフルエンザウイルスが発見されて、1947年にワクチン開発が始まっています。1950年代の後半には不活化ワクチンの製造体制が先進諸国では整備されたわけですが、この時点で、インフルエンザ不活化ワクチンは血中抗体を上げるけれども、気道粘膜上の局所抗体の産生には余り関与しないということから、感染防止効果があるのかという、まず批判が出ています。
それで、1960~1970年代は、感染防止効果を証明しようということで、ほぼ証明されたかに見えたのですが、感染の確認というのは、流行前に比べて流行後の血清抗体価が4倍以上上昇ということで確認します。ワクチンの接種者は既に抗体が上がっておりますので、それ以上は抗体が上がりにくいということ、negative feedbackです。それによって接種者の感染を見逃したために効果があるように見えたのではないかという、またここで感染防止効果が批判を浴びております。
1980年代になると、発病防止、あるいは合併症、肺炎とか、それから死亡の予防を確認しようということで、そういった臨床効果が証明されて、インフルエンザワクチンが普及したという経緯があります。
インフルエンザワクチンの評価に係る固有の問題ですが、まず、疾病特性及び流行特性による差があります。流行ウイルスが時と場所で異なり、抗体保有者の割合が時・場所・年齢で異なり、ワクチン株がシーズンによって異なるといった非常に難しい背景があります。
また、研究にはある程度の流行規模が必要です。ワクチン株と流行株が良好にマッチしたシーズンというのは絶好の研究機会になりますが、そういうシーズンは前シーズンから流行株の抗原変異が小さくて、流行規模が小さくなる。一方、流行規模が大きいシーズンは、前シーズンから流行株の抗原変異が大きくて、ワクチン株と流行株とは抗原性がImperfectly matchedということになるので、非常に研究環境が厳しい。
それから、対象者の特性によっても差があります。同じ高齢者でも地域在住か施設入所か、介護度によっても異なります。同じ乳幼児でも、通園状況や同胞数、家族数などによって異なります。また、基礎疾患、使用薬剤、栄養状態、罹患歴などによっても異なります。このような訳で、インフルエンザワクチンの有効性というのは、たとえ無作為化比較対照試験を行っても、その時と場所と対象者に特異的な結果しか得られないという制約があります。したがって、良好にデザインされた観察研究を積み上げるということが重要になってまいります。
インフルエンザワクチンの有効性ですが、大体ワクチンの有効率70%と言われておりますが、これは非接種者の発病率を1としたときに、接種者の発病率が0.3になる。この差0.7がワクチン有効率の70%にあたります。したがって、非接種で発病したヒトの70%は、接種していれば発病が避けられたという、結構ややこしい概念ですので、この相対危険を使うことが多いです。インフルエンザワクチンの接種は発病のリスクを0.3に下げるということになります。したがって、非接種者が20%発病するときは接種者は6%発病する、非接種者が10%発病するときは接種者が3%発病するということです。
よくインフルエンザワクチン接種によって発病率がどの位まで下がるかという議論がありますが、これは意味がありません。発病率の低下は、そのシーズンの流行強度によって異なります。このワクチン有効率70%を、ほぼ全ての医師が、かつては100人に接種したら、70人がかからないと誤解していた経緯があります。
それから、相対危険の0.3ですが、本日の私の発表の中では、相対危険の近似値として「オッズ比」という言葉を使います。
有効率70%として、非接種者が20%発病、接種者が6%発病するという前提でいくと、かつて小学校で集団接種していたとき、550人の生徒のうち500人が接種を受けて、50人が接種を受けないといった状況でした。そうすると、50人の20%の10人が発病し、500人の6%の30人が発病する。この40人が小児科診療所に来ると、小児科の先生は、患者40人のうち30人、75%がワクチンの接種を受けている、ワクチンは効かないのだといった誤解が生じたわけです。常に患者だけを観察する臨床医の誤解というのがありました。
それから、この有効率70%、相対危険0.3ですが、例えば、麻しんなど通常のワクチンは感染する前に打ちますので、相対的に非接種者の発病率が高くなります。インフルエンザの場合は非接種者も抗体を持ちますので、接種者がかかりやすいのではなくて、非接種者がかかりにくいためにワクチンの有効性を検出しにくいという、重要な側面があります。ただ、これはほとんど考慮されません。
次に、交差免疫です。これはPlotkinという方のワクチンのテキストですが、ワクチン株はA/香港で流行株がA/イングランドで抗原の合致度50%のときに発病防止効果が15%。ワクチン株がA/ビクトリアで流行株がA/テキサスで抗原の合致度が13%のときに発病防止効果が80%。このように、抗原の合致度と実際の臨床的な有効性というのが一致しないといった例があります。
これはどのように説明されているかというと、ワクチンによって生体に抗体が誘導されます。その後、流行株の曝露を受けるわけですが、ワクチン株と流行株の抗原性が少し離れている場合は、ワクチンによって誘導されたこの抗体は効くだろう。しかし、流行株の抗原性がワクチン株と大きく離れていたらワクチンで誘導された抗体は効かないだろうというように考えられるわけです。しかしこれはウイルスへの曝露歴がない実験室の環境の話です。ヒトは過去にたくさんの感染歴がありますので、こういった既存抗体を持っております。そうすると、ワクチンによる抗原刺激は、この既存抗体にも及んで、ここで上がります。これは共上がり現象、抗体の「共上がり」と言われています。この共上がりで上がった抗体が、ワクチン株と大きく抗原性が離れている流行株に対しても効くということです。このように説明されております。
そこで、有効性の研究ですが、これは6歳未満児を対照に、平成11年から4シーズン、厚生労働科学研究費で調べた分です。最初の1年間で研究デザインをしっかり立てて、その後、3シーズン。研究代表者は、神谷先生、加地先生と交代しています。
全国の7地域、54の小児科診療所で、2002/03シーズンには、接種者1,500人、非接種者1,400人をエントリーして、17週間観察しました。返信用はがき5万枚を使って、感冒症状を毎週報告してもらっています。そして、最流行期の5週間から7週間にインフルエンザ様疾患に罹患したということをアウトカム指標としております。その結果、4シーズン連続して有意な相対危険の低下、発病リスクの低下を認めております。これをもって、小児に対するインフルエンザワクチンの有効性は結論されたわけですが、これはあくまで、インフルエンザ様疾患に対する有効性でして、この数値はインフルエンザウイルス感染症に対する有効性の数値ではありません。
このように、研究者側が、調査側がその対象者全員に接近して、全部の発病状況を調べることをActive surveillanceと言っております。ところが、受診した対象者だけから患者を特定する、これはPassive surveillanceです。ただ、受診しない者の中には、発病していない者、発病して非受診、他院受診、死亡、転居、これらがたくさんあります。気付かれておりません。
先ほどの厚生科学研究で、2000/01シーズンに、小児とかかりつけ医師を別々に調査しました。そうすると、流行ピークに発熱39℃以上のエピソードを報告したのは415人、そのうちかかりつけ医を受診したのは208人、50%でした。一番やっかいなのは、接種行動と受診行動が独立ではないということです。20年以上前に、インフルエンザワクチンが余り信頼されていなかったとき、当時、子供に接種を受けさせる親というのは、かなりsocio-economicステイタスが高くて、インテリジェンスも高い、そういう状況でした。だから、子供が感冒症状を出すと受診しやすいのです。接種者のほうが受診しやすい。そうすると、接種者の発病を多く測定してしまう。その結果、ワクチンの有効性がますます検出しにくいということになります。ワクチンの有効性が信頼されていない上に、そこで発表されるスタディーが、また有効性が低い、こういうことになりました。
現在は、比較的ワクチンの有効性は信頼されてきておりますので、子供が感冒症状を起こしたときに、インフルエンザワクチンを接種していなかったということで、かえって心配して受診する傾向が多くあります。非接種者のほうが受診しやすい。こうなると、非接種者の発病率が高くなります。それによって、ワクチンの有効性は検出しやすくなっています。このバイアスを、「迅速診断できちんと診断するようになって有効性が検出されるようになった」という人がいますけれども、これは誤りです。基本的にPassive surveillanceによる調査は容認されません。
ずっとインフルエンザ様疾患に対する有効性が算出されてきたわけですが、これに対する批判は、「インフルエンザではないのではないか」というものでした。これは長いこと、今も続いています。これは、現実的にできなかったのです。インフルエンザ様疾患には、大体1シーズンに2、3回かかります。そのどれがインフルエンザか分かりません。受診しないと確定診断できませんけれども、その受診は全員がするわけではない。おまけに、ワクチン接種行動と受診行動が独立ではないという、この3つの難しい点があります。
では、これをどうやって克服できるかというと、今まで私が知る限りで2例の研究があります。1つは、1998年に米国で発表されたものですが、1,500人の接種者と非接種者、これを毎週電話を掛けて、そこで感冒症状の報告があると、すぐ家庭訪問して、咽頭ぬぐい液を採ってウイルス分離する。1,500人ですから、3,000回以上の訪問回数です。検体も3,000以上です。完璧なスタディーで、これ以上の質の高い研究は今までありません。しかし、これには1,000万ドル以上掛かっています。日本円で10億円です。Active surveillanceと病原診断を絡ませるというのは、並大抵なことではありません。それだけの金を掛けて行っても、それは、その時と場所と対象者に特異的な結果でしかない、一般化できないということで、この15年ほどは、このようなスタディーはもう行われておりません。私どもがハガキで行ったActive surveillanceは2,000万円でやっております。そのかわりアウトカム指標はインフルエンザ様疾患です。
このような困難性の中で光が見えてきたのが、この数年行われ始めたtest-negative デザインによる症例対照研究です。まず、コホート研究と、症例・対照研究ですが、コホート研究は接種者と非接種者を前向き、将来にわたって観察して、インフルエンザの罹患頻度を比較するというものです。一方、症例対照研究は、インフルエンザ罹患者と対照の非罹患者を過去に向かって観察して、接種の頻度を比較するというものです。
私どもの研究班でtest-negativeデザインによる症例対照研究によって、インフルエンザワクチンの有効性モニタリングに取り掛かりました。これはインフルエンザ様疾患で受診した患者から鼻汁吸引液を採取してPCR検査をし、インフルエンザ陽性を症例、陰性を対照として、症例・対照間で接種/非接種状況を比べて陰性を対照として、症例・対照間で接種/非接種状況を比べてオッズ比を計算するというものです。ここではPCR検査をしますので、確実な病原診断ができる。そして、症例・対照間で受診行動が一緒です。比較群間で受診行動が似通うということです。ただし、ここで、通常のインフルエンザ様疾患による受診患者の中から、対象者をピックアップして鼻汁吸引検体を採取する、その場合、この対象者がインフルエンザ様疾患の受診患者を代表しているかということが問題になりますので、ここでは各小児科診療所で流行期に受診患者を1日5人まで連続して登録するという、系統的な登録をしております。これをしないと、ワクチン接種したのに、これはどうもインフルエンザらしいから、念のために検査してみようといった医師の恣意的なリクルートが起こりますので、このような系統的登録をしております。
これが大阪エリアと、福岡エリアの登録状況です。この棒グラフが登録した患者です。青の部分がインフルエンザ陽性の患者です。折れ線グラフが地域の感染症発生動向調査による患者の動向です。インフルエンザ陽性患者とこの折れ線グラフが、一応、パラレルになっております。このスタディーでは、登録した患者はインフルエンザの受診患者を代表していますし、一般のインフルエンザ患者も代表しているだろうと考えることができます。
2013/14シーズンから、2016/17シーズンまで、4シーズン実施しております。その結果、いずれのシーズンもワクチン接種による有意なオッズ比の低下、すなわち、インフルエンザ発病リスクの低下を認めております。1引くオッズ比が有効率です。まず、2013/14と、2015/16シーズン、A(H1N1)pdmの流行期ですが、これはワクチン株との合致度が良好なときですが、有効率51%と、有効率60%です。2014/15シーズンは、H3の流行でしたが、ワクチン株との合致度は良好ではなかったのですが、50%の有効率を認めております。2016/17シーズンは、ここもH3の流行期で、流行株とワクチン株との合致度は良好ではなかったけれども、有効率42%を検出しております。今、まだ2016/17シーズンは解析途上です。まだいろいろな交絡因子を考慮して、計算を繰り返しておりますので、最終的には、数パーセントの差が出るかと思います。
続いて、これを流行株別に見ると、有効率はH1pdm株に対して56%、H3株に対しては有効率50%。次のシーズンはH1pdmに対して有効率は65%、このシーズンから4価ワクチンが導入されましたが、B型2系統に対しても有効でした。ついこの前のシーズンは、H3に対しては有効率38%を検出しております。
これを詳細に観察すると、このH1pdmですが、前田章子先生が、別の小児集団でワクチンを打った後、ワクチン株に対する抗体と、ワクチンで誘導された流行株に対する抗体を測定しています。そうすると、ワクチン株のA/カリフォルニアに対して、接種前が122倍、接種後が403倍、3.3倍の上昇を示しております。このシーズンは、流行分離株のA/大阪に対して1.6倍の上昇を示しております。だから、ワクチン株によって流行株に対しても、1.6倍の抗体価が誘導されたということです。そして、抗体保有率、防御レベルの40倍以上を保有する割合ですが、ワクチン株に対しては接種後97%、流行株に対しても93%、このようにワクチン株で、流行株に対する抗体も誘導されています。
次は、B型です。これがやっかいでして、実はこの年のワクチン株は山形系統であるのに、ビクトリア系統に有効性が検出されて、山形系統に有効性は検出されなかったということで、非常に悩みました。
前田先生の解析結果では、ワクチン株のB/マサチューセッツに対して、接種前24倍、接種後31倍、1.3倍の上昇です。ビクトリア系統のB/ブリスベンに対して、30、31、1と全く上がっておりません。抗体保有割合でも、B/ブリスベンに対してほとんど上がっていないということです。結局、説明がつかなかったのです。多分、このシーズンはインフルエンザの診断既往を有するヒトは、対象から除外したのですが、何かこの影響が出ているのではないかということで、この除外基準を次シーズンから外しています。
前田先生が次のシーズンも調べられて、2014/15シーズン、ワクチン株のマサチューセッツに対しては、接種前60倍、接種後110倍、1.8倍上がっております。このシーズンはブリスベンに対しても1.8倍上がっています。また、抗体保有割合も、このように上がっております。このシーズンは山形系統の株を打って、ビクトリア系統のブリスベン株に対する抗体も誘導されています。これは解釈が難しいです。よく分かりません。
次に、2014/15シーズンのH3ですが、有効率は50%、このシーズンはワクチン株と流行株の抗原性の合致度は良好ではありませんでした。同じく、前田先生のこのシーズンの解析ですが、ワクチン株のA/ニューヨークに対しては、接種前245倍、接種後403倍、1.6倍の上昇を示しております。A/OSK/18、A/OSK/16、これらの流行分離株に対しても1.8倍、1.5倍の上昇を示しております。幾何平均抗体価はそれほど高くありません。
抗体保有割合についても、A/OSK/18、A/OSK/16のどちらの流行分離株に対しても上がっております。この流行分離株に対して、40倍以上誘導されたのはほぼ50%ですが、20倍以上誘導されたのは90%ぐらいいるのです。これは流行分離株に対する抗体ですので、perfectly matchedの抗体です。だから、この20倍でも十分効くと考えられますので、ワクチン株と流行株の抗原性の合致度が良好でなかったシーズンにおけるこのH3に対する有効率というのは、こういうところからきていると解釈しております。
続いて、インフルエンザワクチンの1回接種と2回接種です。これは2003/04シーズンの調査結果で、成人56人です。H1に対しては、幾何平均抗体価が接種前に29、1回接種後は107、2回接種後は110、流行後が76.9で、1回接種と2回接種はほとんど変わりません。H3に対して、接種前で75、1回接種後は202、2回接種後は184、流行後は180、1回接種と2回接種はほとんど変わりません。Bに対しても、このようにほとんど変わりません。
抗体保有割合も、1回目の接種後が55%、2回接種後が50%です。H3に対しても、1回接種後は93%、2回接種後は88%。Bに対しても、20%、18%で、1回接種と2回接種はほとんど変わりません。ただし、1回接種と2回接種の差を見るときは詳しく解析する必要があります。
これは大藤先生が、2009年のパンデミックのときに、健常人で2シーズン続けて調べられた結果です。2009年は、大部分の対象者が初めて遭遇するウイルスです。次のシーズンは、通常の流行期に近いシーズンということになります。そうすると、接種前の抗体価を3段階に分けると、このように抗体価の低い、あるいは抗体を持たないレベルに、42人のうち30人、多くが分布します。こういう分布は乳幼児の調査結果に近いです。ところが、次シーズンには、この<1:10に分布するのは、ほんの僅かで、みんな高いレベルに上がっています。これが普通の流行期の成人の分布です。
<1:10の30人ですが、幾何平均抗体価は1回接種後36倍、2回接種後40倍です。ところが、次シーズンは、この3人ですが、1回接種後が13、2回接種後は13、反応が低いです。すなわち、2009年に上がりきらなかった人が、2010年にはこのレベルにいます。そもそもここの3人というのは、上がりにくい人が集まったということになります。
それから、接種前から1回接種後にかけて7倍、4倍、2倍となっています。接種前抗体価が高いほど上昇倍数が低くなっています。これがnegative feedbackに該当します。2シーズン目もこのようにnegative feedbackがかかっております。なお、両シーズンとも1回目に比べて2回目が何倍上がったかをみると、ほとんど上がりません。
抗体保有割合ですが、最初のシーズンが大体60、70、80、100、これも1回接種後と2回接種後の抗体保有割合はほぼ一緒です。2シーズン目、より通常の流行期に近いところは、1回接種後と2回接種後は全く一緒です。
続いて、2015/16シーズン、これは原先生による最近のデータですが、H1pdmのA/カリフォルニア株と、H3のA/スイス株に対する抗体です。接種前抗体価3段階の分布、これが普通の流行期における成人の分布です。
<1:10のレベルでは、H1に対して、1回接種で14倍、2回接種で16倍、H3に対しても、1回接種で20倍、2回接種で20倍、1回目と2回目でほとんど変わりません。接種前に比べて1回目接種後には上がっております。ここでもnegative feedbackがかかっています。ただし、1回目と2回目というのは、1倍前後で変わりません。
抗体保有割合をみると、1回接種後と2回接種後でほとんど変わりません。むしろ落ちているという感じです。
以上から、1回接種と2回接種は変わらないと結論できるかと思います。あらゆる薬剤の有効性とか安全性というのは、最終的にヒト・データで判断されます。人集団を対象に有効性を調査して、そして、ヒトから得た検体に関するラボデータでもって矛盾がないかを確認しながら研究を進めてきているという、これが私どもの研究班の活動です。
それから、資料にもう1つ最後に付いている2008年のMMWR、これは2009年のパンデミックの前の年のACIPの勧告です。日本ではインフルエンザワクチンは感染防止効果がないと、50、60年前から議論がずっと続いて、実験病理、ラボラトリーデータをもとに、インフルエンザワクチンは感染防止効果がないと決めつけられて、定説になっております。しかし、この勧告で書かれているのは、「鳥と接する人はヒトインフルエンザワクチンを打ちなさい。それによって、ヒトインフルエンザと鳥インフルエンザに同時感染して、新たなウイルスが遺伝子再集合で生じることを、理論上予防できる」ということです。感染防止効果がないということは、何も断言しておりません。こういったことが実験データだけから定説となると、国策にも影響してきます。あらゆる薬剤の有効性・安全性というのは、ヒト・データによって結論されるということを最後に強調させていただきたいと思います。以上です。
○伊藤部会長 ありがとうございました。廣田先生からは、インフルエンザのワクチンが大体40~60%の有効性があるということと、抗原が乖離していたと思われる年でも、同じぐらいの有効性があるというのと、インフルエンザのワクチンに関しては1回接種でいいということを、データをもってお示しいただいたと思っています。
以上で一応、今までのところからの御説明だったと思いますが、まず何か御質問はありますか。小田切先生から御説明があったのは、H1N1に関しては、現在、A/ミシガンというのが流行していますが、今のワクチン株に近いワクチン株であるA/カリフォルニアとほぼ一緒。B型に関して一部、変異が疑われるものが出てきている可能性がありますが、今のところ現在のワクチン株でどうにかカバーできるだろうという話と、H3N2関しては、前回3月のときに御説明を頂いたように、埼玉株が随分有効性が高そうだという話だったと思いますが、残念ながら様々な理由で、実際に製造しようと思ったときに難しかったということで、現在のところ、去年作られたワクチン株が製造されているというところが、多分、今までのお話のまとめかなと思っています。
その中で今後どうするのかという議論が、これから進んでいくと思っていますが、そこら辺のところで理解は間違いないでしょうか。ワクチン製造を担当される方にもお出でいただいていますが、当初の予定よりも製造で相当程度手こずったということについて、予測がついていた話なのでしょうか。そこら辺のところはどうでしょうか。
○中川参考人 埼玉株については、先ほど報告させていただきましたように、実験室レベルでの増殖性については84%という数値で報告させていただいたのですが、このウイルスについては、ウイルスの形状が球状ではなくて、少し細長い形をしています。こういう形ですと、製造工程の中でフィルターでろ過する工程というのがありまして、そういうところで収量の低下が起きるというところは、過去に同じような株があったものですので、その経験を踏まえて想定されていました。
ですが、この度の埼玉株については、エーテル処理工程というところのスプリット化工程で、大幅な収量低下については想定外だったということになります。
○伊藤部会長 最終的に予定どおりいかなかったということが、こういう形になっていると思うのですが、ほかにウイルスの専門家の方もいらっしゃいますし。
○加藤委員 今のエーテル化工程のところで質問させていただきたいのですが、先ほど小田切参考人からの意見をお聞きしますと、やはり埼玉株を使ったほうが、より卵で……ミートしていると。だからワクチンとしては、より効果があるものが出来るはずなのだけれども、香港株にしてしまうと、ずれてしまって、8倍以上の違いがあるということだったので、この流通部会としては流通を確保するという意味で、ワクチンを作れたかもしれないけれど、効果のあるワクチンが出来るかどうかについては、多少「あれ?」という感じだと思うのです。
質問ですが、そもそもウイルスは増えていて、スクロースのクッションの上に落ちてくると。しかし、エーテルのところでうまくHAが分離できないとなると、例えばエーテルの入れ方とかかき混ぜ方というところを、多少、試行錯誤することによって、これはクリアできなかったのかなと思うのですが、そこはどうなのでしょうか。
○松浦参考人 製造販売承認書に製造方法が書かれておりますので、その範疇で製造するということで、毎シーズンやってきております。今回の埼玉株について、実験室レベルというか、いろいろ検討すると、少し収量回復できるような条件も幾つか見えましたが、それをすぐに実製造でやるということはできませんでしたので、現状の承認書に従った製造方法では、改善は無理ということになります。
○加藤委員 要するに技術的にはクリアできそうだったのですが、規制上、それを一変するとなると、また時間が掛かるので、そこはできなかったという理解でよろしいですか。
○松浦参考人 量の観点でしかやっておらず、こうやったら少しロス量が減るというところまでは検討しましたが、そこですぐに一変申請というところに持っていくためには、いろいろなデータ取りが必要ですので、それをまたすぐやるというのは少し難しいと思われます。
それと、このエーテル処理工程でのウイルスのロスというのは、これまでずっとショ糖クッション法でウイルスを粗精製して、増殖性を評価して、それで株選定会議に報告すると。そのデータと実製造のほうは、ほぼパラレルに来ていましたが、エーテル処理工程でのロスというのは初めての経験でしたので、なかなか今までから予想できるものではなかったということになります。
○伊藤部会長 森先生、どうぞ。
○森委員 ウイルスの形は違っていたということが1点で、スクロースのクッションに乗せたときも大きさが変わっていたけれど、最終的なウイルスの収量は同じだったということでしょうか。
○松浦参考人 小スケールでの候補株の検討の段階で、増殖性を評価します。そのときは卵を何十個か使いまして、ウイルスを培養して、ショ糖クッションでウイルスの量を見ます。
ただ、実製造のほうは、培養が終わった後、マクロ化工程だったり、いろいろな精製を経ていますので、形状が大きなウイルス、長細いウイルスなどがありますと、それは候補株の段階ではやっていないろ過工程で除去されてしまいますので、一応そこは加味してワーストケースということで、株選定会議のほうには報告させていただきましたが、それ以外のところでの、想定外の収量ロスというのが多く発生したということになります。
○森委員 それでは、大きさなどにかかわらず、別のところで収量のロスがあったと理解してよろしいのでしょうか。
○松浦参考人 大きさのところについては、ほぼ想定の範囲内での収量率低下がありましたが、それ以外のところでの収量の低下というのが非常に大きかったということになります。
○森委員 その点は、もう既に判明しているということでしょうか。
○松浦参考人 実製造スケールでの検討によって、その結果は出ていますが、具体的なこうやったら改善できるというところまでは、まだ至っておりません。
○森委員 ありがとうございました。
○伊藤部会長 どちらかというと、今は、ワクチンそのものが何でこうなったのかということについて、対外的に説明するために、幾つかの質問をさせていただかないといけないのだろうと思っています。それから、今後どうするのかということについては、事務局も含めて、きちんと国民の人たちに情報提供するための方法を説明していかなければいけないと思っています。
小田切先生から御説明いただいたのは5月2日までの段階で、そこから先、実際に製造を担当される方々から、このままではどうも製造ができそうもないということで、最後、感染研からの再検討結果の回答をされる過程というのは、あったような気はするのですが、先生、そこら辺はもし御説明いただけるものでしたら、説明を頂けますか。
○小田切参考人 流れとしては事務局から説明があったとおりですが、ワクチン株選定委員会としては、こういうメリットが大きい埼玉株を採用との結論を出して、御報告申し上げたのですが、実製造をやると、製造量を確保するのが厳しくなるということで、もう1回、埼玉株の選定を見直してほしいというのが厚生労働省からの要望で、これに関して再度、選定検討委員会のほうに、埼玉株をもう1回、香港に戻したほうがいいのではないかという厚生労働省の提案について意見を聞きました。
委員は16名いるのですが、委員全員が一致した意見としまして、やはりワクチンの有効性の期待できないものをたくさん供給するよりは、供給量が若干減ったとしても、有効性の期待できるものを国民に提供するべきだと、これが全員一致した回答でした。したがって委員会としては、厚労省の要望に対する回答として、委員会の結論とは変わりません。埼玉株を採用しますという、回答をしました。
その後に、今度は実製造をメーカーのほうですると、やはり今説明があったように、想定よりも製造量が悪いということで、厚生労働省からもう1回考え直してほしいとの依頼があり、それで再度、委員会で2回目の意見調整をしました。このときは、製造量が確保できないと、H1ワクチンやB型ワクチン供給にも影響が出るということが厚生労働省から言われていましたので、そのことも含めてもう1回検討しました。
委員会としては、意見が割れました。16名中9名は、そういう状況であれば致し方ないかなと。それから7名は、やはり最初の結論どおり、有効性の改善の期待できないワクチンを国民に供給することは、国民をだましたことになるだろうと、やはり埼玉株を採用して、足りない分についてはきちんと国民に、なぜ足りなくなったかを説明して、ワクチンの流通・供給で工夫して、優先順位とか、そういうのが新型インフルエンザの対策でもあるわけですから、それに則ってやれば乗り切れるだろうと。よって7名の委員は埼玉株でいくべきだという意見でした。
多数決を取れば、確かにしょうがないねというほうが、少し多かったので、結論としては、2回目の感染研からの回答として厚生労働省の提案は致し方ないので了承するということになりました。その回答を踏まえて、健康局長から、去年使ったA/香港/4801/2014(X-263)でしょうがないけれど製造するという、通知が出たという経緯です。以上です。
○伊藤部会長 開けてはいけない箱を開けてしまったかなという気がしないでもないのですが、でも、専門家の方々の苦渋の決断の結果が、こういう形になってきたということだと認識しましたので、インフルエンザの流行を最大限に抑えるためにはどうすればいいのかということを、この委員会の責務として情報提供していくことを考えたいと思います。ほかの方で御質問などはありますか。
○釜萢委員 今、伊藤部会長から御説明のとおり、現実に今後、接種をしなければなりませんので、今年はこの株でいくことになるわけですが、先ほど製造のほうからの御説明の中に、どうして製造過程で収量が落ちてしまったのかが、まだ十分原因が、どこが悪かったというのは分かるけれども、どうしてそうなったのかについては、まだ検討が必要だというお話がありました。
これは今後も毎年、このように株を選んでいかなければならない。私の記憶では、株選定会議で一度決まった株がもう1回やり直しというのは、多分なかったのではないかと思うのですが、今後そういう事態を防ぐために、製造メーカーとしてはどのようなことが今後必要になるとお考えか、教えていただけますか。
○中川参考人 埼玉株については先ほどから申し上げているように、増殖性の観点に加えまして、ろ過収率が悪かった。さらにエーテルスプリット化工程で、大幅な収量低下が起きてしまいました。
今回の事例を踏まえまして、これから製造候補株の増殖性の評価について、特に生産性の評価方法について、より実製造を反映した形で評価できるように、メーカーで検討をしていきたいと考えています。
また、株選定検討会議におきましては、特に低増殖性が見込まれるような製造候補株については、それから予想されるワクチンの生産本数についても情報提供していきたいと考えています。
また、今回の埼玉株の事例から、A型でリアソータントでない製造候補株、今回の埼玉株、野生株ですね、それについては、特に慎重に生産性の評価をしていく必要があるのではないかと考えています。これらについては、感染研や厚生労働省と相談しながら、対策を検討していきたいと考えています。
○伊藤部会長 来年、もし埼玉株を作れと言われたときに、対応できる準備はされているのでしょうか。
○松浦参考人 現状では、今の製造方法では、このエーテル処理工程での蛋白ロスというのは埼玉株特有で起きていますので、来年も埼玉株では製造することはできないと思われます。
○伊藤部会長 当然のことで、今までの経緯から考えると、起きてきて、埼玉株がまた選定される、若しくは埼玉株と類似の株が選定される可能性があると、同じ現象は起き得ると思うのですが、何も対策を立てずにまた来年を迎えるということは、避けたほうがいいのではないかという気も、個人的にはするのですが、そこら辺は何らかの形をお考えなのでしょうか。
○松浦参考人 恐らく埼玉株に対応するためには、製造方法を変える必要があると思われます。それは時間が掛かることでして、承認書の変更と、それにはいろいろなデータ取り等が必要になりますので、すぐというわけにはいかないと思います。
埼玉株が、今までの候補株の中で、我々が経験して初めてエーテル処理工程でのロスが大きかったと。そういった特徴のある株でしたので、そういったところが、まずはしっかりと株選定会議のほうに情報を提供して、生産性も含めたワクチン株の選定の議論をしてもらうことが必要かなと思っています。
○伊藤部会長 逆の言い方をすると、承認書というか製造方法の変更というのは、あっても多分いいですよね。対応できる方法であれば、変えるべきかもしれないと普通は思ったりするのですが、それは技術的には可能なのでしょうか。技術的に可能な方法があれば、承認書を変えればいいだけの話だと思っていて、そこは行政の方々も含めて、対応していただけるのではないかと思うのですが、いかがですか。技術的に無理なのか、無理ではないのか、教えていただけますか。
○松浦参考人 こうやれば少しは改善するだろうということは、少し分かりましたが、それがすぐワクチンの製造として用いられるかどうかというのは、いろいろな検討をしなければいけませんので、今の段階ですぐできるという回答はできません。
○小田切参考人 今の回答は非常にネガティブというか、消極的な回答なのですが、実は埼玉株というのは今年初めて議論に上がったのではなくて、去年のワクチン選定会議で、既にH3のワクチン候補株として使うかどうかという議論をしました。
その時点では製造効率がかなり悪いということで断念して、香港の4801というワクチン株にしたわけですが、今年、もう1回俎上に上がってきたというのは、米国のFDAのシーバーという所が、埼玉株の製造効率を上げる工夫をしてくれまして、増殖量が上がったのです。そのように増殖量が改善された埼玉株になったので、もう1回、今年、ワクチンの選定のところに上がってきて、それでワクチン選定会議のときには、先ほど報告があったように大体84%ぐらいの収量が見込まれるということで、メーカーもやれるという回答だったので、委員会としては埼玉株のCEXP-002という、増殖効率の改善されたものを選んだという、そういう背景があります。
だから今のような、いつまでも改善する意思があるのかどうかよく分からないような回答だと、こういう非常にいいユニークなワクチン株が出てきても、永久にそれを採用できないということになるので、いつまでも有効性が改善できないものを延々と供給し続けることになるので、これはかなり問題だと思います。
○伊藤部会長 どうしましょうか。この委員会としては、国民に一番近い所にいて、一番いいものを国民に供給するにはどうすればいいのかと考えなければいけないと思っておりますので、そういう点から言うと、この委員会としては、できるだけいいワクチンを供給できるように、研究者、製造販売業者の人たちも努力してほしいという要望を出すしかないというか、要望を出すのが一番いいかなと思っているのですが、それでよろしいでしょうか。事務局で何かコメントされますか。
○江浪予防接種室長 議論の前提という辺りで、少し確認させていただきたいと思います。議論の前提として、ワクチンの候補株が2種類あったという中で、1つの株に関しては、流行株との抗原性の乖離が一定程度あるのではないかということで、有効性がどうなのだろうかということが、株選定委員会のほうで議論があったということは承知しています。
一方で、ヒトにおけるワクチンの有効性に関しまして、廣田先生のほうでも研究していただいておりまして、その結果についても今日、御報告を頂いているという中で、前提としてワクチン株の候補株が2株あったときに、一方の株は有効性が期待されて、一方の株は有効性が期待されないのかということについては、是非、ヒトでの成績について廣田先生から御意見を頂きたいと考えています。
○廣田参考人 有効性が期待されるというのが、ちょっと正確ではないのではないかと思うのです。流行株との抗原性が最も合致することが期待される、ということではないでしょうか。
そうなるとセカンドベスト、要するに収量が悪いからセカンドベストを選んだということで、その選定に際する責任という点では、何ら問題ないのではないかと思うのです。有効性が期待できる、一方は有効性が期待できない、とんでもないということになると、そこまで踏み込むから、何か話がややこしくなるような気がするのです。
実際、有効性はやはりヒトで最終的に見ないと分からないという点はある。ただし、だから、流行株と抗原性が最も合致することが期待できる、これは、立派な方針だし、それ以外に方法はないと思います。
○加藤委員 廣田先生のおっしゃることは、専門家なのでごもっともだと思うのですが、先ほど小田切参考人も言いましたが、過去に卵で培養すると、H3N1の抗原性が変わってしまうという事実があったのです。
結果的に卵で培養して、変わってしまったものを入れたワクチンというのは、既に過去において、やはりワクチンの効果が悪いという結果が出ているのです。ということから推測すると、一致率が高いほうがいいというのは、多分ジェネラライズできるのではないかと私は思います。
○小田切参考人 今の発言に関連してですが、既に2016/17シーズンに使ったこの香港/4801というワクチン株の、ヒトでの臨床的な有効性は各論文に出ています。カナダでも出していますし、ヨーロッパでも出し、アメリカでも出しています。廣田先生の発表にもありましたが、どれぐらいの有効率かと言うと、カナダの評価は42%、EUの有効率は38%、それからUSAの有効率は34%ということで、やはりかなり有効性は低いという評価なのです。ヨーロッパでは、これだけ低い有効性なので、老人の入院・死亡率とか重症化というのはかなり問題になっています。
実際、それを改善できる埼玉株というのが日本で取れたので、日本は恐らくこれを採用するだろうと世界各国で見ていました。しかし、それが残念ながら香港/4801になったということで世界中が失望しています。そういう状況なので、有効性は香港/4801株を使うとたかだか30数%しか期待できないことは、もう論文として発表になっています。
○伊藤部会長 まとめないと怒られるのですが、今、インフルエンザのワクチンの有効性がそれほど他のワクチンに比べて著しく高くないことは皆さん承知の上で、あともう1つは、廣田先生の御説明にもあったように、一度感染したりとか、抗体価が1回ついた人が、次の別の少しずれていようがブーストがかかると何らかの形で予防的な意味を持つというのも十分に分かった上で、今、議論をしているのは、一番良さそうなワクチンができそうだったのができなかったということについて、今後の改善について議論している段階で、そうは言っても、今、ある中でどうやってベストを尽くしていくのかというのとはまた別な話だろうと思います。多少ワクチン株がずれているかもしれないから打たないほうがいいという議論にはならないと思っていますので、そこは傍聴の方も含めて誤解をしていただきたくないと思います。
あと、この中で厚生労働省からの説明がありましたが、収量の問題もあったのかと思いますが、今年のワクチンの製造予定株が、昨年の実施量とほぼ同じぐらいしかない。ですからマージンがそれほどない状況の中で、今年どういう形にするのがいいのかというのが幾つか厚生労働省から提案が出ていると思っております。提案としては、廣田先生の話にもありましたが、13歳以上、海外では10歳以上、ですから小学校の高学年以降で、多分、毎年ワクチン接種をされている人に関しては1回接種で十分ではないかということが世界のコンセンサスかと思っていますので、足りなくなる可能性を考えると、2回打たなくてもいい人に関しては1回でどうでしょうかという提案をしていきたいと認識をしております。事務局としてはそういう理解でよろしいのですよね。
○江浪予防接種室長 資料1の後半で御説明いたしまして、また、先ほど廣田先生からも1回接種、2回接種のことについて御説明があったところです。2回接種をする必要性が低いということですので、その部分を効率化していくことも含めて、返品対策も含めた対策を進めていくことによって例年どおりの接種者数を、接種を受ける方の数という観点からは確保することができるのではないかと考えているところです。
○伊藤部会長 それ以外に、委員の先生方からほかにいい提案とかありますでしょうか。
○坂元委員 川崎市の坂元です。今シーズン、我々市町村としては、特にこの老人の方に公費負担をしてインフルエンザの予防接種を推奨していく中において、現在、今までの議論をどうやって説明していくかということです。もちろん我々市町村は、おそらく多くの市町村は医師会にこの事業を委託しているところが多いと思います。そうすると、市町村と医師会との間でこの問題をしっかり共通認識を持って正しく説明していくことが大事ではないかと思います。例えば、今年のワクチンは効かないかもしれないとかそういう変な情報が流れないように、きちんとしっかりした、ある程度そういう行政と医師会で共有できる資料を作っていただくとありがたいと思います。
特にこういう時期、こういう議論が報道されると、いろいろなハレーションが出てくるかと思います。不足とは逆の意味では、効かないなら打つのをやめようかといって接種率が下がってしまうとかいろいろな問題も出てくると思います。我々自治体としては、そういう専門家の意見をどうやって接種をお願いする医師会の先生にしっかり伝えていくか、それから受ける方にどうやって伝えていくか、その辺の統一的見解のようなものをきちんと作っていただきたいというこれはお願いです。
○細矢委員 13歳以上の者の1回接種についてなのですが、これは、今回の供給量が少なくなる見込みなので、今年度限り、今シーズン限りというわけではないのですね。今後継続してこれが原則1回という形になると考えていいのですか。
○江浪予防接種室長 インフルエンザワクチンに関しては、定期の予防接種で、65歳以上の高齢者の方と、60歳以上の基礎疾患がある方について定期接種の対象としておりますが、その際の接種回数に関しては1回となっております。
そういった意味では、従来から接種回数に関しては1回で十分だという考え方に基づいて、小児は別ですが、実施してきたというものですので、その考え方を今回、再度周知するということでして、今回に限った特別な措置というよりも、データとしてはそういったものがあるのですよということを改めて周知しながら、御理解を頂いていくことではないかと考えております。
○細矢委員 そうしますと、添付文書上ではそう書いていないですね。13歳以上については1回ないしは2回という書き方をされているのです。それを、例えば1回注射であることを周知徹底と書かれると、もうこれが公知であったかのように書いてあるのですが、一般的な認識ではそうではなかったと思うのです。そうすると、添付文書の改訂も必要になってくるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
○江浪予防接種室長 添付文書上、1回又は2回ということで、1回接種ができる、あるいは2回接種ができることが明らかになっているものと考えております。一方で、感染症対策を進めるという上で、あるいは重症化を予防するという観点で、何回接種が必要なのかについては、また別途、予防接種行政の中でも情報発信をしていくことになるのかと考えております。
なお、誤解のないよう申し上げますが、何か2回接種を禁止しようということではなくて、1回接種で十分な方に関しては1回接種ということで御理解を頂きたいということを周知していくのかと考えているところです。
○伊藤部会長 ほかには。確かに、2009年のH1N1のときにも臨床試験をやりましたが、10歳以上の人に関しては1回できちんと抗体価が上がることは上がりますので、2回打たなくても大丈夫。成人に関しては、H1N1の試験から言うと全く1回目と2回目を比べて追加で抗体価が上がりませんでしたから、そういう意味では1回で十分というデータはもう蓄積はしていると思います。
○小田切参考人 今、供給量のところに関連してお話しされていますが、1つ懸念事項は、今回、確かに埼玉株をやめて香港株に戻して、製造効率のいいウイルスに戻したわけなのですが、決定の通知が従来のよりも2か月遅れたので、製造の開始がそれだけ遅れたことに伴い、ワクチンのキャンペーンの一番供給量が必要なときに、もしかすると製造効率のよい香港を使ったとしても足りなくなる可能性があることを、国は事前に医療機関のほうに説明しておく必要があるのではないかと思います。
○坂元委員 1点だけ、どなたかお分かりになれば。もしそういう効かないみたいな情報が流れたときに、例えば、お年寄りでインフルエンザ様の症状でインフルエンザを確認されたときに、早めに投薬をしたほうが、ワクチンを打つよりもそちらのほうが効果的なのかどうか、ワクチンの効果の疑義の議論がされると当然そういう質問が出てくると思うのです。お年寄りがインフルエンザにかかった場合にワクチンを受けていても早く投薬してくださいとか、そういう抗インフルエンザ薬とワクチンの有効性のその辺の何か情報が分かれば、もし分かる方がいたら教えていただければと思います。
○伊藤部会長 事務局、分かりますか。
○江浪予防接種室長 インフルエンザ対策において、予防接種を優先すべきか、予防接種をむしろやらないで、感染した後に抗ウイルス薬なりで対応すべきかということに関しては、抗インフルエンザウイルス薬が今市販されている状況においても、インフルエンザワクチンの接種を高齢者に対して受け入れる状態に予防接種法上している中では、お互いに抗インフルエンザウイルス薬があるからワクチンは要らないのだという議論ではないのではないかと考えております。
ちょっと繰り返しになりますが、昨シーズンにおいてはH3が主体としての流行であった。昨シーズンにワクチンに使用されたワクチン株は、流行株と卵馴化の関係があって抗原の乖離があったことも事実でありますが、一方で今日、日本における最新の感染防御という観点での有効性のデータの紹介を廣田先生から御報告いただきましたが、感染防御という観点から見た場合の有効性については一定程度確認もできているという状況であります。
また、先ほど御説明申し上げたように、接種回数の効率化などの観点から、必要な接種者数を例年どおり確保できるのではないかと考えますと、何か予防接種をするのを控えて、代わりに抗インフルエンザウイルス薬でやりましょうということを情報発信する段階ではないと考えております。
○伊藤部会長 ありがとうございました。あともう1つは、ワクチンの中にH1N1がもちろん入っているわけで、天気予報と感染研とどちらが当たるのかよく分かりませんが、今年はH3N2が出てくるのかH1N1が出てくるのかよく分からないところがあって、もしかすると今年はH1N1が出てくるかもしれませんので、そういう意味ではその点に関しては、少なくともB型に関しては感染研が責任を持って当たっていますとおっしゃっていますから、ワクチンが少なくとも4分の3は当たっているという前提で接種をしていくことなのだろうと思います。H3N2も、ずれていてももしかするとブーストがかかるかもしれないという期待もありますし、ワクチンそのものを否定するという議論はこの場ではしなくてもいいのではないかと個人的には思います。ほかに何か御意見ありますでしょうか。
○釜萢委員 先ほどの坂元先生の御発言に対して、実地で診療する立場から申しますと、やはりワクチンの接種はしっかりと多くの方にお勧めする。高齢ばかりではありませんが、インフルエンザに対してはやはり早期の対応が必要ですから、抗インフルエンザ薬も含めて、従来のしっかりした診療体制を維持するということで現場は動いておりますので、今回の、今日の議論を踏まえて、何か医療現場において今年大きく方針を変えなければいけないということは私はないのではないかと判断しております。
○細矢委員 製造量と使用量のグラフを見ますと、これまではずっと製造量に対して使用量が少ない、かなり余って返品されている状況があったわけです。今回、製造量が少ないとなれば、やはりワクチン不足というのが問題になって、いろいろこれまで起こっているような問題がまた再燃する可能性がありますので、未使用で終わって返品ということが全くないように、ここは特に生産・流通部会ですので、その点について厚労省として、2点目で「ワクチンの効率的な活用を徹底」と書いてあるのですが、具体的にどういうことをやるつもりなのか、その見込みを教えていただきたいと思います。
○江浪予防接種室長 事務局が用意しました資料1の6ページに、「ワクチン流通予定量を踏まえた安定供給対策」ということで少し細かく書いております。今回、いろいろな経緯があって、今回のワクチン供給量ということですが、基本的な考え方としましては、関係者の皆様方の御協力を最大限いただきながら、その御理解を頂きながら対策を進めていくことが一番重要なのではないかと考えております。
ですので医療機関、今、御質問いただきました返品の関係に関しても、まずはそういったことを前提としたような注文を行わないということに関して、医療関係団体の皆様方の御協力も頂きたいと考えております。
また資料の中では、返品対策の考え方の1つとして、ワクチンを返品した医療機関の名称について、厚生労働省が関係者に情報共有することを前提に情報収集する予定であることもお伝えしながら、そういうものも少し抑止力になればということを期待しながら御協力をお願いしていくことなのではないかと考えております。
○川西委員 私は今年からこの分科会に出させていただいております。全体の状況をずっと聞かせていただき、私は医薬品の品質に長く関わっておりまして、結局のところ、やはり供給がきちんとできないようなものは、特にこういう公衆衛生に関わるものは、やめておいたほうがよいと思うので、今回の結論としては、セカンドベストかもしれないけれども、今、厚労省がやろうとしていることは供給という視点を加味するとベストだということでよいのではないかと私は思います。
ただし、先ほどから言っているように、埼玉株というのが次の時代、次のフェーズでは有効である可能性が非常に高いというのは見えていますから、その辺りは、引き続き精製工程の改良等々は、私はどういう仕組みでどこがどのようにそれをやるかというのはよく分からない部分もありますが、メーカーにはそれを引き続き検討していただくし、また、そういう研究をなさっている方は新たな課題としてテーマに取り上げたりしていただく。医薬品の進歩は常にそういうことの連続だということであって、今回はセカンドベストかもしれませんが、制約のなかではベストだと考えればいいのではないかと思いました。
○伊藤部会長 ありがとうございました。今、川西先生にまとめていただいたとおりだろうと思いますので、この辺で議論を終わりにさせていただきます。参考資料について事務局から御説明をお願いします。
○黒崎予防接種室長補佐 資料の一番後ろに付いております参考資料を御覧ください。平成24年度から平成28年度における麻疹・風疹含有ワクチンの医療機関納入実績と定期接種実施者数及び定期接種の接種率についてお示ししております。本資料については、7月27日に開催しました第3回麻疹・風疹対策推進会議で御報告しております。ワクチンの供給問題が懸念された平成28年度に関しては、定期接種実施者数については、ここのところで暫定値ではありますが、納入実績及び定期接種実施者数の両方において前年度を上回ることができ、接種率についても僅かですが前年度を上回る結果となっております。事務局からは以上です。
○伊藤部会長 ありがとうございました。御質問とかございますでしょうか。よろしいでしょうか。では、本日の議事は以上で終了ですが、その他、事務局から何かありますでしょうか。
○事務局 次回の開催についてはまた追って御連絡をしたいと思います。
○伊藤部会長 ありがとうございました。それでは、本日の予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会を終了させていただきます。本日はどうもありがとうございました。
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