ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 社会保障審議会(年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会)> 第10回社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会議事録
2013年4月16日 第10回 社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会議事録
年金局
○日時
平成25年4月16日(火)10:00~12:00
○場所
全国都市会館3階 第2会議室
東京都千代田区平河町2-4-2
○出席者
吉野 直行 (委員長) |
小塩 隆士 (委員) |
川北 英隆 (委員) |
駒村 康平 (委員) |
武田 洋子 (委員) |
西沢 和彦 (委員) |
米澤 康博 (委員) |
森川 正之 (独立行政法人経済産業研究所 副所長) |
石原 典明 (独立行政法人労働政策研究・研修機構 調査解析部情報統計担当部長) |
中野 諭 (独立行政法人労働政策研究・研修機構 研究員) |
○議題
(1)日本経済の成長力等に関する有識者からのヒアリング
(2)労働力需給推計について
○議事
○吉野委員長 定刻になりましたので、ただいまから「社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会」第10回を開催いたします。本日の出欠状況ですが、植田先生、小野委員、山田委員が御欠席で、米澤先生は電車の関係で遅れて来られます。議事に入りますので、カメラ撮りはここまでとさせていただきます。最初に、事務局から連絡をお願いいたします。
○大臣官房参事官 年金局資金運用担当参事官の森です。私から資料の確認をさせていただきます。資料1「日本経済の成長力について」は、森川正之様御提出資料です。資料2「労働力需給推計」は、労働政策研究・研修機構提出資料です。前回もお出しいたしました「労働力需給推計(2012年8月)」です。
本日は、議題1について独立行政法人経済産業研究所から、副所長の森川正之様に来ていただいております。議題2に関しては、独立行政法人労働政策研究・研修機構から、調査解析部情報統計担当部長の石原典明様と研究員の中野諭様、そして厚生労働省職業安定局雇用政策課から藤井宏一労働市場分析官に来ていただいております。
○吉野委員長 議題1「日本経済の成長力等に関する有識者からのヒアリング」として、経済産業研究所の森川副所長に御説明をお願いいたします。
○森川副所長((独)経済産業研究所) お手元の資料は白黒のプリントになっていると思いますので、スクリーンで御覧いただきながら、お話を聞いていただければと思います。私は、経済産業研究所の副所長をしています。マネジメントの仕事が半分ぐらいなのですけれども、生産性の関係の研究なども少しやっております。それから、経済産業省で成長戦略といった政策の実務に関わったこともありますので、そういうことも含めこれからの成長力、特にTFPの問題に事務局では大変関心を持っているようでしたのでお話をさせていただきます。
本日は、短時間で手短に簡潔にやりたいと思います。日本の過去及び最近のTFPの状況。日本経済が成長軌道に乗るために必要な経済政策(成長戦略)。日本経済の中長期的なTFPの先行き。TFP上昇率の設定に当たっての留意点。これは、社会保障制度の設計に当たって、過去にもいろいろ工夫してTFPを設定してこられたと伺っております。今後、こういうことを考えるときの留意点ということでお話をさせていただきます。最後に、日本経済の今後の成長力、見通しを考える上でのポイント、という4つの項目からなっております。
まず、過去及び最近のTFPの状況です。これは、RIETIで一橋の深尾京司先生が中心になり、「JIPデータベース」という、日本産業生産性データベースを作り、毎年詳細なデータを公表しております。これは、政策の実務でもいろいろ使われているわけですが、このデータベースに基づいて、いわゆる成長会計の結果を示したのがこのグラフです。一番左が1970年代、1980年代、1990年代、2000年から最新のデータである2009年までの経済成長の要因で、労働投入増加の寄与が赤い部分です。グリーンの部分が資本投入増加の寄与です。ブルーの部分が、今一番関心のあるTFP、生産性上昇率の寄与です。折れ線グラフは、これらを合わせたGDPの成長率です。
1970年代、1980年代においては、TFPの伸び率が2%台の半ばぐらいと、非常に高い生産性上昇率でした。資本の伸び率も1.5%、1.6%です。労働投入というのは労働時間で、小さいですけれどもプラスの成長に寄与していました。1990年代に入り、失われた20年に入って、労働投入量の減少で赤い部分がマイナス寄与になっています。資本の投入は、1990年代は比較的大きかったのですが、2000年以降は非常に低い成長寄与になっています。ブルーの部分がTFPですけれども、これも1990年代に大幅に減速し、年率で0.6%の成長寄与、2000年代は0.8%の成長寄与と幾分回復したことが、このデータベースから読み取れます。この推計方法の詳細については、深尾先生、宮川先生が書かれた論文の中に詳しく書いてあります。
注意すべき点は、私がこのグラフに示したブルーのTFPは、純粋のTFPというか、狭義のTFPのほかに、資本と労働の質の向上を含む意味でのTFPです。通常、マクロのGDP統計等を基に、例えば政策実務でTFPを計測するときには、余り労働とか資本の質の変化は考慮しておりません。例えば、労働者の平均的な学歴が上がるということで、労働力の質が向上し、普通はマクロでザックリ計算するときには、TFPに入っておりますので、これは広義のTFPと呼ぶことにいたします。ここで、ブルーで示しているのは広義のTFPになります。
広義のTFPの中で、労働の質の向上、資本の質の向上、そういうものを考慮した上での残差といいますか、狭義のTFPに分けて見ると、1970年代、1980年代はオレンジ色の部分で狭義のTFP、技術進歩と言ってもいいかもしれませんが、これが非常に高い寄与でした。興味深いのは、ブルーで書いた労働の質の向上の部分が、1970年から足元まで一貫して年率0.5%ぐらいの成長寄与をしています。
下に注記しましたが、労働の質というのは男女、年齢、学歴、従業上の地位という4つの属性を考慮して計測されております。労働の質を測るのはそう簡単ではありませんが、通常こういった分析をするときによく行われる、賃金をもって生産性の代理指標と考えるという考え方でやっております。つまり、労働者の平均的な学歴、勤続年数といったものが平均的に高くなると、これは成長にプラス寄与する、あるいは労働の質が上がったと捉えて計算しているものです。
それから、非常に小さいですけれども資本の質の向上がピンク色の部分です。これは39種類の資本ストックを考慮して推計されています。近年僅かながらプラス寄与ということです。ここで言いたいことは、純粋の狭義のTFPというオレンジ色の所が非常に小さくて、労働の質の向上というのが、最近の日本の広い意味でのTFPに対して大きく効いているということです。
これは参考までですけれども、よくサービス産業の生産性上昇率が低い、ということが日本経済の問題として言われます。JIPデータベースを、産業108部門それぞれについてのTFPの数字を出して公開しています。これを、製造業と非製造業に分けて示したのがこのグラフです。ブルーの部分が製造業、ピンクの部分が非製造業です。明らかに製造業に比べて、非製造業の生産性、TFPの上昇率が低いということです。後で触れますけれども、これは日本に限った現象ではなくて、世界のどこの国でもこういったことになっています。
日本のTFPのパフォーマンスというのは、他の主要国と比べてどうかということです。先ほど紹介いたしましたJIPデータベースもこの一部に使われているのですが、EUKLEMSという、国際的な産業別の生産性比較のデータベースがあります。これに基づいて日本、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ドイツと、ドイツは統合後ということで、1990年代半ばからの数字しか入っておりませんけれども、これら主要国について比較したのがこの表です。
左側が全産業になります。1980年から1995年までの所で見ると、日本は平均か平均よりちょっと良いぐらいのパフォーマンスです。アメリカは、非常にパフォーマンスが悪かったということです。これを、1995年から2007年という比較可能な一番新しい所で見ると、イタリアがマイナスになっているのですが、日本は0.2%という非常に低い伸び率になっています。
製造業について見ると、1980年代、製造業の生産性上昇率は、どの国でも経済全体の生産性上昇率に比べて高い数字になっています。逆に言うと、非製造業は製造業に比べて低い生産性上昇率であるということは、どの国でも見られることです。
横に見ると、日本の全産業のTFPの上昇率は0.9%から0.2%に減速する。アメリカが0.2%から0.6%と加速しています。製造業について見ても、日本は2.2%から0.8%と大幅に減速しています。この間、アメリカは製造業の生産性上昇率はプラスになっています。国によって違いますけれども、イギリスやフランスも比較的高い2%近い生産性の伸び率を製造業については示してきました。1990年代半ば以降の日本の生産性上昇率の低迷というのは、製造業・非製造業に共通した現象であることを確認していただけるのではないかと思います。
成長戦略は皆さん御案内のとおりですけれども、2006年の小泉内閣での「新経済成長戦略」以下、政権も毎年のように代わっておりましたけれども、それに見合う形でほぼ毎年のようにいろいろな成長戦略が作られてきた歴史があります。現内閣では、今年の6月をメドに成長戦略を策定することになっています。戦略の中にはいろいろなメニューが入っているわけですが、こういったものがどれだけ経済成長、あるいは生産性を上げるのかというところに関心があります。
宣伝になりますが、私ども経済産業研究所では、様々な生産性についての実証研究をやってきています。先ほど御紹介したJIPデータベースという、産業生産性データベースもその一つです。これは、日本全体について、先ほど言いました108の産業ごとの生産性を示しています。今進めているのが都道府県別の産業別TFPの上昇率のデータベースです。恐らく今月中に第1バージョンが公開できるのではないかと考えています。
生産性に関しては動態分析を行ってきています。今も産業競争力会議で新陳代謝ということが盛んに言われています。低い生産性の企業や事業所が退出し、新しく生産性の高い事業所が参入する。あるいは、非常に生産性の高い企業や事業所が、市場でのシェアを増やすといったことを通じ、集計的な生産性は上がるわけですが、こういうことについてかなりたくさん分析が行われてきています。
個別の政策に関連する問題としては、グローバル化と生産性の関係について企業レベル、あるいは事業所レベルのデータを使い、対内直接投資であるとか、日本企業の海外展開、これは輸出と対外直接投資と両方を含みます。それから、オフショアリングといったものが、多くの研究で成長にプラスに効くことが分かっています。特に生産性の向上に寄与することが分かっています。
イノベーションについても幾つか研究が行われています。研究開発投資、あるいは技術とか知識の企業間でのスピルオーバーといったものが、日本企業の生産性向上に貢献していることが明らかにされてきています。最近では、いろいろな企業統治の仕組み、合併・買収、労使関係といったことが生産性とどう関係を持っているのかという研究にも取り組んでいます。人的資本とか労働市場制度、特に解雇規制といったことと生産性の関係についても分析されています。集積の経済性というのは、私どもの藤田所長が空間経済学の大変な権威ということもあって、この領域には積極的に取り組んでいます。こういうものがTFP、生産性を高める要因としてどのぐらい効くのかということが、こういう研究から徐々に分かってきているということです。私自身、こういう研究についてのサーベイ論文を書いていて、間もなくアップデートする予定にしていますので参照していただければと思います。
具体的に幾つかの成長政策を取り上げてお話いたします。マスコミ等では、TPPに代表されるグローバル化を進めるべきだ、法人税率の引下げを行うべきだ、規制緩和を行うべきだ、ということが成長戦略の柱としてしばしば言われています。ここに挙げたような幾つかの項目について少し過去の研究について、これは必ずしもRIETIの研究には限りませんけれども、御紹介いたします。
貿易自由化(TPP)については政府の試算があります。GDPを3.2兆円押し上げる効果があるという試算になっています。ここで「水準効果」と書いたのは、TFPを考えるときに、レベルを上げる政策と、成長率そのものを高める政策というのは頭の中で分けて考えたほうがいいということがあります。
この3.2兆円というのは水準効果として計算されていますから、仮に10年間でこの成果が出尽くすと考えると、10年間にわたって平均年率0.06%程の成長寄与があることになります。その10年が経過した後は、この成長効果が剥落します。つまり、その10年間の成長率に比べて、この分だけマイナスになってくるということになります。ここでは、安藤さんという慶應の先生がRIETIでやった研究の成果を紹介しています。こういうFTAの経済効果についての推計は、大体同じぐらいの量的なマグニチュードということです。
最近、ペトリ教授が3兆円ではなくて10兆円だという試算を出して、一部で話題になっています。仮に10兆円だとすると、この0.06%が0.2%ぐらいになります。ただ、日本の経済の開放度を高めるということは、実際には水準効果だけではなくて、成長効果を持つ、つまり、TFPそのものを高める、上昇率を高める効果がある可能性があり、こういう数字はやや控えめな試算結果と理解すべきだと思います。ただ、いずれにしてもこういうものがどのぐらいの量的な効果を持つのかを頭に入れながら考えることが重要だと思って御紹介しています。
法人税率を、仮に10%ポイント引き下げると仮定して、通常の資本コストの計算、これは吉野先生が御専門ですけれども、設備投資の資本コストに対する弾性値を前提にしザックリ計算すると、その分、設備投資が促進されます。設備投資を行って、その資本収益率がより低くても採算が合うことになりますので、法人税率引下げというのは、そういう形で資本ストックの伸びを高める効果があって、これが潜在成長率を引き上げる効果は年率0.06%程度ではないかと考えています。これは、いろいろな仮定によって違ってくると思います。後ほど御紹介する経済学者の方々に対するサーベイによると、法人実効税率を10%引き下げたときの設備投資の増加幅は3%程度です。これは、設備投資の増加ということですから、資本ストックの増加に換算するともっと小さい伸びになります。数字としては、大体この計算と整合的な結果になります。
研究開発というのは、基本的にイノベーションそのものですから、成長効果を持ちます。つまり、TFP上昇率を高める効果を持つと普通は考えます。内外の実証研究の多くは、研究開発投資の社会的収益率は非常に高いことを示しています。これらの結果に基づいて計算すると、研究開発投資のGDP比率が1%ポイント高くなると、成長率は0.3%ぐらい高くなります。これは、ほとんどがTFPに効いてくると考えていただいていいかと思います。やはり、この研究開発投資というのが、TFPを高める上では量的にかなりインパクトが大きいということになろうかと思います。
成長戦略の中では余り扱われないのですが、先ほどの成長会計でも見ましたように、人的資本の質の向上は、成長に対して長い目で見ると大変大きな効果を持ちます。長期的には、人的資本の質の向上が、成長を規定する最も重要な要素であると私は考えています。ただ、経済成長戦略というのは大体5年とか10年という期間で物事を考えます。そうすると、初等教育の質をものすごく高めても、10年間では全く成長に寄与しません。ですから、成長戦略の中では余り取り上げられないのですが、年金とか社会保障という、より長期の仕組みを考えるときには、こういうものが成長率を高める大きな要素であることを考える必要があるだろうと思います。
海外の研究によると、単なる教育年数ということではなくて、教育の質、特に教師の質の向上が非常に重要であると言われています。OECDのPISAという、国際的な学力比較のデータがありますが、最近、日本は真ん中辺りになってきています。ある試算によると、PISAの成績が100点上昇する。この成績というのは、いわゆる偏差値を10倍した数字だと考えていただいていいと思います。つまり、1標準偏差が100点ということになります。これが100点高くなると、40年間平均して見たときの年平均成長率を2%ポイント近く高めるというような試算もあります。
この結果に基づいて概算すると、日本の学力が、現在世界トップの上海、韓国、フィンランド並みに上昇すると、成長率は長い目で見ると年率0.5%ポイント強加速する。これは機械的な計算ですけれども、このようなマグニチュードで非常に大きいということです。この辺りは小塩さんが専門ですので、もし補足的なコメントなどを頂ければ有り難いと思います。
これは全くの参考ですけれども、昨年、経産省の資源エネルギー調査会で、電源構成の原発比率別の経済への影響を、4つの大学・シンクタンクに委託して試算した結果があります。ここに書いた数字は、2030年の時点で、GDPがどれだけレベルとして低くなるかということで、原発ゼロと、原発比率が35%のケースを比較したものです。2030年までで割り戻して年率で見るとこういうマグニチュードで、単純平均すると原発がゼロになると、原発比率が最も高いケースに比べて0.06%ほど、年率で見たときの成長率が低くなるというマグニチュードです。これは、全部Webサイトで公表されている資料から取ってきています。炭素制約がない、要は二酸化炭素を出し放題にしてもいいという設定をすると、より成長率への影響は小さいことになります。
社会保障ですけれども、これはいろいろ議論もあるところかと思います。高齢化に伴って社会保障給付が増加傾向にあり、これが経済成長率にマイナスの影響を持つ可能性があります。これは政府の大きさと経済成長の関係の議論に関係があると思います。これはなかなか計算が難しいので、経済学者・エコノミスト数百人を対象にしたサーベイをかつて行い、その結果に基づいています。社会保障制度による所得移転のGDP比が10%上昇すると、平均値で年率0.7%ポイント成長率が低下する。中央値は0.5%のマイナスというのが、経済学者の平均的な見方です。
この数字に基づいて、社会保障給付負担の拡大の影響を概算すると、1990年から2010年の間で、経済成長率を押し下げる効果が年率マイナス0.9%大きくなったと計算できます。今後2025年までの、社会保障にかかる費用の将来推計に基づいて計算すると、今後追加的に0.2%ほど、自然体でいくと経済成長率を押し下げる効果があるということかと思います。ただ、これはTFPを引き下げるというよりは、恐らく労働供給といった要素投入に影響があって、こういう結果になるのではないかと考えられます。
ごく最近私どもの所で、いろいろな制度とか政策の先行きの不透明性について、企業にアンケートを行った結果を御紹介いたします。税制、社会保障制度、許認可、労働市場制度、環境規制、土地利用規制、消費者保護、会社法制という制度について、その「制度政策の先行きが非常に不透明だ」とお答えになった上場企業の割合を見ると、社会保障制度の先行きに対して、非常に不透明性が高いということです。最近、政策とか制度の不確実性自身が経済成長に負の影響を持つという研究も盛んになっています。そういう意味でも、社会保障制度の先行きを透明にしていくということは、それ自身が成長政策としての効果を持つのではないかとも考えます。
こういう成長政策の効果を量的に、横断的に比較してみると、今御紹介しなかったものも含めてということですが、研究開発投資、教育・人的資本の質の向上というものが、量的には成長に対してかなり大きく効く。この2つはかなりの部分が、広い意味でのTFPの上昇に寄与するということではないかと思っています。
実際にTFPの先行きをどのように見込むべきかという論点に移ります。日本でいろいろ行われたビジョンとか展望の中でいうと、2005年の内閣府の「日本21世紀ビジョン」が2030年までというかなり長期の展望をしている珍しい例です。そのときのTFPの想定はどうなっていたかを振り返ってみると、2030年度までTFPが1%弱という設定がされていました。
労働生産性で見ると2%程度という数字になっていて、やや高い印象があります。なぜかというと、これは資本投入の伸びをかなり強めに見ているということが、その背景にあるのではないかと思います。資本ストックが増加すると、労働者1人当たりとか、1時間当たりの生産性は高くなりますので、TFP以外に資本投入の伸びをかなり高く見ている結果、こういう数字になっているのではないかと思います。
OECDがEconomic Outlookの資料の中で、2050年までの日本の潜在成長率というデータを出していたのが興味深かったので御紹介いたします。左から2001~2007年の実績、2012~2017年、2018~2030年、2031~2050年です。これは、TFPの数字は示していませんけれども、労働者数の増加率と、労働生産性の上昇率をこのデータとして示しています。結果として潜在成長率がこの黒いグラフで書いたような数字になっています。当面は1%弱で、2020年ぐらいから2050年ぐらいにかけては1.3%程度の潜在成長率だと見込んでいるようです。ここでTFPの数字は公表されていませんが、この数字から逆算して考えると、足元では0.8~0.9%程度を見込んでいるのではないかと推測されます。
成長率についての企業の見方ですが、これは内閣府が毎年やっている企業行動のアンケート調査で、今年の初めに調査したものが最近公表されましたので御紹介いたします。実質成長率がブルーの線になります。今後5年間の所までしか取っていませんが、1.2%という数字になっています。OECDの見通しなどと大きく違わない数字かと思います。
先行きをどのように考えるべきかということですが、特に、TFPというのは計算上は残差ですのでなかなか分かりません。これも数年前にやったものですけれども、日本の経済学者数百人と民間エコノミスト数十名に対してサーベイを行い、今後30年間の実質GDP成長率の予測を聞きました。その結果を分布で示したのがこのグラフです。1%ぐらいの所に非常に高いピークがありますが、人によって見方にばらつきがあるということです。単純平均すると1.26%で、標準偏差が0.7%ぐらいで、中央値は1.2%という数字になっています。ただ、これはリーマンショックの前の調査ですので、足元の成長率が高かった時期だということに留意してください。
TFPについても、同じサーベイで調査をしています。今後30年間のTFP成長率は、年率1.1%が平均値、中央値は1%で、標準偏差が0.6%ぐらいです。先ほどのGDPの成長率の分布に比べると、分布が中央に集中して立っているというのを見ていただけるのではないかと思います。つまり、TFPは1%ぐらいと見ても、資本ストックとか労働の見方が違うと、GDP成長率の見通しについても差が出てくるということではないかと思います。申し上げたいことは、こういう見通しには幅があるということで、この標準偏差を見ていただいても分かるように、1つの点推定値だけで物事を考えるのは難しいということを示唆しているように思います。
同じ調査で、名目成長率とか長期金利についても聞いてみました。よく名目成長率と、長期金利とどっちが高いのだということが議論になります。かつて経済財政諮問会議などでも盛んに議論されたわけですが、経済学者の平均、あるいは中央値の見方を見ると、長期金利のほうが長い目で見たときには名目成長率よりも幾分高いというのが支配的な見方ではないかという印象があります。参考までに御紹介させていただきました。
政府のいろいろな見通しについては、上方バイアスを持っていることが知られています。これは、やや短期の予測ですが、主要国政府の経済見通しの上方バイアスを持っているという分析、あるいは日本政府の過去の実質GDPの見通しが、実証的に見てかなりの上方バイアスを持っていたという研究があります。
これは、単純に同じような計算をしただけですけれども、1970年代から2000年代まで、政府経済見通し、翌年度の見通しと実績を比較してみると、特に1990年代以降、実績がこの見通しを下回ってきています。名目については省略いたします。
私も関わったものが幾つかありますので、多少反省を込めてということになります。過去に長期展望というものを、経産省、内閣府などがいろいろ作ってきています。詳しくは御説明いたしませんが、大体この10年とか、長い期間の成長率の見通しに対して実績は大体下回ってきています。もちろん、リーマンショックがあったとか、足元で言えば東日本大震災の影響もあったではないかということになりますが、長期の経済展望を考えるときには、何回かそういうことがあるということを当然織り込む必要があると考えます。
そういうことで考えると、成長戦略のような高めの成長を目指す水準と、社会保障制度などの前提として考えるべき成長率の水準は多少違ってくるのではないかという印象を持ちます。
最後に、以上御紹介したようなことを踏まえ、成長率を展望する上での留意点を総括して終わりにいたします。過去の成長戦略とか経済見通しというのは、常に上方バイアスを持っていました。そもそも成長戦略というのは、そういうものを目指すことが目的なので、性格が違うということがあります。こういう高めの成長を目指す戦略と、社会保障制度とか財政の持続可能性といったことを議論する前提としての成長率は分けて考えたほうがいいと考えます。また予測の不確実性は、専門家の間でもかなりばらつきがあることを考えると、かなりの幅を持って制度設計を行うことが望ましいだろうと思われます。
幾つか成長戦略の効果を量的にザックリ御紹介しましたけれども、政策で基調的な成長率、特にTFPを量的に大きく高めるのはそう簡単なことではありません。GDPやTFPの見通しに政策効果を織り込もうとするときには、過去の趨勢との比較で、引下げ寄与する要因、あるいはこれまでいろいろ政策を取ってきて、それが成長率を押し上げてきた効果が剥落することも考慮に入れる必要があると考えます。
社会保障負担とか給付の大きさ自体が経済成長率と一定の関係を持っている可能性があります。見通しを作るときに、やはりTFPというのは外生で置かざるを得ないということは、私も実務的に非常に理解できるのですが、そのことの制約を念頭に置いておく必要があるということです。
TFPは、最初に成長会計で御紹介しましたが、元のデータの制約から非常に多くの計測誤差があります。特に非製造業、サービス産業の生産性は私が専門に研究している分野ですが、品質向上の過小評価を含め、非常に多くの計測誤差があります。景気が良い時には、計測されるTFPの上昇率は高めに出るというような、景気同調性があるということはよく知られていることです。こういうことに注意する必要があるだろうと思います。
本日は必ずしも十分お話ししていませんけれども、持続可能な資本ストックの伸び率というのは、当然一定の投資収益率を確保することが前提になりますので、TFPとか労働投入の伸びと、資本ストックの伸びというのは独立ではありません。ですから、TFPの伸び率が高くなると、その分、収益をあげられる設備の伸びは高くなります。それから、労働投入の伸びの減り方が小さくなると、その分、資本ストックの伸びはある程度大きくできるということがあります。この資本ストックの伸びが、TFPと独立ではないということを、成長率全体を考えるときには注意すべきことではないかと思います。頂いた時間丁度ぐらいだと思いますので、私の説明はこれで終わります。
○吉野委員長 どうもありがとうございました。これから30分ぐらい御質問させていただきます。私から2、3質問させていただきます。こういうTFPを計算するのは生産関数からずっと見るわけです。需要サイドというのは、この場合生産すればその分だけ必ず需要があるという仮定かどうかというのが全体の1つの流れです。それから、産業の中ではサービス産業の所で、金融業は含まれているのかどうか。人的資本の所で、これは小塩先生の御専門かもしれませんが、ゆとり教育とか、最近はいろいろ変わった教育制度がありましたが、ここにはそういうものも含まれているのか、それは入っていないのか、この3点をお聞きします。
○森川副所長 TFPの計測ですが、基本的に成長会計から事後的に出てくるので、需要サイドというか、言わばノンパラメトリックに計測しています。ただ、労働分配率と資本分配率は前提にしていますので、結果的には需要サイドの影響は入ってきていると思います。吉野先生の、完全に消費されるということを仮定しているのか、仮定していないのか、どちらかと言われれば仮定していることになります。したがって、計測されるTFPはかなりプロシクリカルになります。
ただ、1点留保しなければいけないのは、設備の稼働率はコントロールしています。そういう意味でインプットのうちの設備については、たくさん設備があっても半分しか動いていなければ、それは半分の投入だと考えてやっています。ただ、アウトプットの所は、需要の変動に見合っていますから、その結果として需要サイドは完全に需要されるところを仮定している、という結論は変わらないと思いますけれども、稼働率の調整はしていますし、それから労働投入についても労働時間の調整はしています。
金融業を含むかということですが、これはデータの中では完全に含んでいます。
人的資本の所のゆとり教育については、御紹介したものの範囲で私が言えることはほとんどないです。先ほど申しましたような、15歳時点での学力にゆとり教育が影響を持っていたとすれば、今後長期的にその負の影響が幾分出てくる可能性は排除できないと思います。
○吉野委員長 それでは、先生方いかがでしょうか。小塩先生いかがですか。
○小塩委員 御指名がありましたので、まずコメントから申し上げます。人的資本の所で、森川さんが海外の研究を紹介されました。確かに教育の効果はかなり大きくて、学校教育の質を高めると、経済成長に大きな影響を及ぼすというのはそのとおりですが、もう1つ重要なことがあります。ここにも書いてあるのですが、初等教育、あるいは学校に入る前の教育が重要だという点です。
ここではHanushekとWoessmannの研究が紹介されていますが、このうちWoessmannがその辺をよく研究しています。確かに平均的に見ると、学校教育の人的資本に及ぼすプラスの効果は非常に重要なのですが、その一方で学生間のバリエーション、つまり、学力の差は学校だけでは説明し尽くせず、家庭要因や環境要因が非常に大きく作用するようです。Woessmannは東ヨーロッパの実証研究もしているのですが、そこでも子供たちの学力差は学校以外の要因で決まっていることが示されています。
これは社会保障にとっても重要なことです。できるだけ学校を卒業する前に差が付かないほうがいいのです。そうしないと、後で税や社会保障で再分配しなければいけなくなり、それが社会に歪みを掛けるということがあります。平均的な人的資本の蓄積を促進するという意味で、教育はとても重要なのですが、その一方で、子供の間の格差をできるだけ早い段階で小さくするという点でも重要だと思います。まず、それをコメントとして申し上げます。
○米澤委員 2点お伺いします。最初の点は吉野先生とも関係しているのですが、これは完全にサプライサイドになっているのではないかという気がしています。その需要の落ち込みにどう取り組むかということに関しての質問です。具体的に言うと、将来の資本ストックを計算するときには何を積み上げていくのか、貯蓄なのでしょうか。もちろん減耗などは調整していくのでしょうけれども、聞きたいのは、日本が海外に直接投資する際に、逃げていくという表現はおかしいのですけれども、その際に国内に残っている資本ストックというところは区別して計算されているのかどうか。そこのところは今後重要というか、既に重要ではないかという印象があります。これが1点目です。
2点目は、労働生産性が意外と高い水準が17ページに出ていて、2%前後になっています。ここ何年間か賃金率が下がっていることとの考え方はどのように専門的に考えたらよろしいのかをお聞きします。
○森川副所長 2点目は私がやったものではなくて、内閣府の試算を御紹介したものですので、なかなか難しいところがあります。賃金率が下がっている問題というのは、長期の潜在成長率の話というよりは、循環的な要因が大きいのではないかという気がします。仮に長期のことであると考えれば、要するに賃金が労働者の生産性を的確に反映しているという考え方に立てば、賃金率が下がっているということは、労働者の生産性が下がっていることを意味しているのではないかと思います。ただし、最近議論されている賃金率とか、労働分配率の問題は、むしろ循環的な要素が大きいのではないかと思いますので、今後数十年という長期を考えたときの経済展望とはやや次元の違う話ではないかという印象を持ちました。
資本ストックですけれども、過去のデータについては推計方法の詳細をWebサイトに全て公開していますので御覧いただければと思います。これは民間企業の資本ストックということで、国内の資本ストックになります。将来の展望を行うときには、展望しているものによって違うと思いますが、恐らく一定の資本ストックの伸び、現在の国内の資本ストックを前提に、ストック自体が何パーセントで伸びるという想定の仕方をしているものがあると思います。私自身が行ったときには、むしろ設備投資関数を作って、設備投資が何パーセント伸びると。そこで積み上がる資本ストックから想定される除却を引いて資本ストックを出す手続を取っています。いろいろなシンクタンクとか、官庁が持っているやや長期のモデルでは、設備投資関数を入れて将来の展望をするスタイルのものが多いのではないかと思います。
○米澤委員 かなり需要のことを取り込んで積み上げていっているわけで、普通のサプライサイドの貯蓄を積み上げていっているのとは多少違う感じなのですね。
○森川副所長 貯蓄を積み上げるということではないですけれども、基本的には設備投資関数なので、それ自身は設備投資という需要を説明しているわけですが、考え方はかなり長期なので、完全雇用に近い状態を想定しており、供給サイドから決まってくる考え方になっている場合が多いと思います。
○川北委員 2点あります。1点目は3ページの推計の図の所で、TFPの寄与で労働とか資本の質を反映しているというお話でした。そのときの労働の質に関しては賃金で代替しているとおっしゃったと思います。そのときに、特に団塊の世代がリタイアすることによって、高賃金の人が労働市場から出ていく。そうすると、この効果によってこの計算でのTFPが低下すると考えていいのかどうか、多少細かい質問ですが教えてください。
2点目は、日本企業が海外に現地法人を設立して進出していく。この動きが、国内のTFPに与える影響に関してどのように考えたらいいのかということです。
○森川副所長 最初の話は比較的簡単だと思うのです。4ページのスライドの(注)に書きましたが、労働の質というのは性別、年齢、学歴、従業上の地位の4つのファクターで考えていって、その数だけセルができるわけですが、セルごとの賃金の比率をもって労働力の質の違いと考えています。
この年齢というのは、具体的にこの中でどのような数字になっていたかということまでは覚えていませんが、「賃金構造基本調査」とか賃金についてのデータを見ると、40代後半ぐらいがピークになるような形になっていると思います。したがって、団塊の世代がリタイアというか、その年齢を過ぎた時期というのはこの数字に入っているわけです。それが50代、60代になって落ちてくるマイナス要因も当然あるのだろうと思いますが、新しく追加的に入ってくる若い労働者、これは年齢が若い分だけ質が熟練の人よりも低いという前提になるわけですが、量的に少ないので加重平均したときの結果としてこういう姿になっているということだと思います。
これから年齢構成がどうなっていくかにもよりますし、もちろん労働のセル間の生産性の比率も当然変わってくると思うので一概には言えないと思います。学歴の上昇というのはかなりサチュレートしているのではないかと思います。そういう意味で言うと、今後の労働の質の向上の寄与を展望すると、今までよりは幾分低くなる可能性があると考えていいのではないかと思います。これも小塩さんが専門ですけれども、今は誰でも大学に行ける時代になっているので、大卒だからということではなくて、先ほど小塩さんからコメントがあったように、初等教育のところで平均的な質を上げていくことのほうが意味があるのではないかという感じがいたします。
海外進出の影響については余り詳しく説明する時間がなかったのですが、御紹介したRIETIの生産性研究という8ページのスライドに、グローバル化と生産性についての研究があります。例えば、優れた外資系企業が日本に入ってくることで生産性が上がる、というのが対内直接投資の分析です。日本企業の海外展開というのが、日本国内の企業の生産性をどれだけ高めるかという分析が幾つかあります。海外展開といったときには、輸出とおっしゃったような対内直接投資と両方を含んでいるわけですが、両方のタイプの研究があります。
注意しなければいけないのは、見かけ上相関があるといっても、むしろ生産性の高い企業が海外展開するというのが、最近の異質な企業のモデルから出てくる考え方です。関係があるというのは、優れた企業が海外展開していることを示すにすぎない可能性が高いわけです。ただ、一方でラーニング・バイ・エクスポーティングとか、ラーニング・バイ直接投資ということを指摘するものもあります。最近の研究では、同じような属性を持つ日本企業であって、海外直接投資を行った企業と、行っていない企業をマッチングさせて、それで進出した後に生産性の上昇率が対照サンプルに比べて高くなっているかどうかを確認することがかなり行われています。
結論は、必ずしもコンクルーシブではないですけれども、海外進出自体が、様々な外国の技術の知識の吸収を通じて、国内の企業自身の生産性を高める効果を見付けているものが、RIETIの研究の中では過半数を占めていると思います。量的なマグニチュードは、分析方法や対象とする業種によって違いがあると思います。
○小塩委員 非常に明快な御説明なのですが、27ページで森川さんは非常に重要なことをおっしゃっています。政府のいろいろな経済成長の見通しには上方バイアスがあるという点です。これは、社会保障や財政を議論するときには、そのまま使わないほうがいいですよとインプリシットにおっしゃっている気がします。どうしても我々は、年金財政の将来を見通すときに政府が出す数字を重視しなければいけないのですが、それに上方バイアスがかかっているという御指摘がありました。では、具体的にどのようなスタンスで私たちは年金の数についての数字を固めていったらいいのか。個人的な見解で結構なのですが、お聞きします。
それから、TFPについても学術的に精緻な研究をされていますが、将来を見通すときにはやはり0.8%とか0.9%という形で仮置きをしてしまうわけですね。資本や労働だったらこのように設定しましたと将来の人に説明できる、つまりアカウンタビリティは一応担保できると思うのです。しかし、TFPについては非常に弱い。もう少しエレガントに、このように想定しましたという、説明がちゃんと付くようなアプローチはないかなと常に思っています。それについて、もし何か御意見があればお聞きします。
○森川副所長 上方バイアスの問題ですが、これは日本だけではなくて、御紹介したのはどこの国でもある現象だということですね。他方で、私も実務をやっていましたから、公式のものとか、理想的には閣議決定されたものなどを前提に使うのが、一番簡単であることはよく理解できます。
代案を出すことになると、当然より詳しい説明が必要になるということだと思いますが、私であればやはり幅をもって、高いケース、低いケースを作るしかないのではないかと思います。年金などの過去のいろいろなものでも、幾つかのケースを想定していると思いますが、量的に申し上げられることは、先ほど見たようなTFPの見通しについてのばらつき、標準偏差などを考えると、過去にやっていたよりももう少し大きい幅をとる必要があるかもしれないことは言えると思います。0.3%ぐらいの差をとっていたのではないかと思うのですが、標準偏差で見ても0.7%ぐらいあるので、もうちょっと低いケースも考えておく必要があるのではないかと思います。
TFPは確かに残差なので、適当な数字を理屈をもって置くのは非常に難しいのです。それで私も経済学者の方の御意見を聞いたわけです。ですから、ここにも大勢、日本を代表する優れた経済学者の方、エコノミストの方が入っておられるので、皆様の意見を集約するのも1つの方法ではないかと思います。それから、説明して必ず「ああ、そうか」と言われる話は、諸外国との比較です。例えば私は2006年の成長戦略にかかわりましたが、そのときには生産性の国際比較のデータがようやく使える段階になっていたので、日本が特に低いとすれば、アメリカとかヨーロッパの主要国平均並みになるのは想定してもおかしくないのではないかとか、そういう説明は追加的な理屈としては比較的分かりやすいものだったのではないかと思います。以上です。
○吉野委員長 そうすると、幅をもたせるときには、政府の見通しを最高値にして、むしろ下のほうの幅を広げたほうがいいということ。普通の場合、これを中位置として両方でやることが多いのですが、幅を大きくもたせるということですね。ほかにありますでしょうか。
○武田委員 今の議論の続きという形になるのですが、私も27ページに書いていただいた点が非常に重要なメッセージではないかと強く感じました。なお、私ども民間のシンクタンクでも、中長期の経済予測を行っています。本日御紹介いただいた資料では、例えばOECDでは2030年で1.3%程度の成長と予想しているのですが、私どもで計測するとより低い0.4とか0.5程度の成長率となります。その程度の違いは試算方法や前提などによって生じるようなものであることは、この場を借りて報告させていただきたいと思います。
そのうえで、こちらの数字を見ますと、大体、労働投入のマイナスの度合は、そんなに大きな差がないわけですね。先ほどおっしゃっていたとおり、資本のストックの伸びとTFPの伸びは決して無関係ではないので、独立して資本ストックだけがどんどん伸びることは想定し難く、なぜOECDはTFPが一段と上昇する姿が描けるのかという点については、少々疑問に感じます。
○森川副所長 これはちょっと私が答える立場ではないのですが、一応私なりに解釈すると、今おっしゃったのは、設備投資をすると、それが資本に体化された新しい技術か何かでTFPが高くなるみたいなメカニズムを考えておられたように思うのです。それもあると思うのですが、もうちょっと単純なこととして、生産性上昇率が高くなれば、ある程度設備投資をしても過剰設備にならないで、ある程度の収益率がとれるという意味で、私はどちらかというとTFPから資本ストックという因果関係を前提に今日、説明させていただいたのです。
OECDのこの見通しを見ると、労働のところは余り変わっていないので、TFPが2020年頃から伸びが高くなるというような設定になっているように思います。足下で0.8%から0.9%が、2000年代の2020年以降は1.2%ぐらいのTFPになっているように思います。ただ、その根拠が何なのかは私には分かりません。
○吉野委員長 ほかによろしいでしょうか。森川副所長、どうもありがとうございました。今後、ここで我々がTFP、あるいは成長率みたいなものを計測するのに非常に参考になる御意見をどうもありがとうございました。
次の議題にいきたいと思います。次の議題は、「労働力需給推計について」です。今日は、独立行政法人労働政策研究・研修機構の石原部長と中野研究員にお越しいただいておりますので、資料2に基づいて御説明をお願いしたいと思います。
○石原情報統計担当部長((独)労働政策研究・研修機構) 労働政策研究・研修機構の石原と申します。資料2に沿って説明申し上げます。平成24年8月、昨年8月に出した労働力需給推計について、何点か御質問がある旨、厚生労働省の雇用政策課を通じて承りました。本日は、実際に推計作業を担った研究員の中野と、またこの推計作業そのものは厚生労働省の要請を受けて行ったもので、要請元である雇用政策課の藤井労働市場分析官と対応させていただきますので、よろしくお願いいたします。
御質問は3点あり、1つはこの需給推計モデルにおいて賃金が決定される仕組み、2つ目に2030年における推計の労働力率が2008年3月、前回出した2007年推計と異なる点、3つ目は想定した経済成長率と伺っております。本日はモデルの概要を示す図や説明があるほうがよろしいかと思い、そのペーパーを資料の先頭に3ページほど、モデルについて、(1)(2)(3)として付けました。前回の委員会でも、この需給推計の説明があったかと伺っておりますが、整理の意味も含めて、簡単ではありますが、最初にモデルの概要を説明申し上げて、その上で御質問いただいた点について説明したいと思います。
まず、このモデルについて(1)ですが、このモデルは3つのブロックからなります。労働力需要ブロック、供給ブロック、そして需給調整ブロックの3つです。この需給推計そのものは、過去にも2008年3月など、何回か行っておりますが、モデルの枠組み、考え方は、基本的に従来のものを踏襲しております。まず、需要ブロックですが、3枚目にフローチャートがあります。1ページの文字で書いたものと、モデルについて(3)、3ページ目のフローチャートを対比させながら御覧いただきたいと思います。需要ブロックは3枚目のフローチャートですと左上の部分となります。このモデルは、経済成長率や最終需要構成は外生的に外から与えますので、その外から与えた数字で各最終需要の額、民間最終消費などといった額を求めます。そういった最終需要の額から産業連関表を利用して、産業別の生産額、国内生産額を出します。その産業別の国内生産額を出す際には、1枚目でちょっと書いてありますが、2010年6月の「新成長戦略」や、昨年の「日本再生戦略」において成長分野とされている、例えば医療・介護の分野など、成長分野の市場規模も考慮して調整を行っております。
産業別の生産額と別途、賃金水準、あるいは労働時間から労働需要関数を用いて、労働力需要を推計します。需要関数の形はコブ-ダグラス型生産関数を前提とするエラー・コレクションモデルといったものです。
一方、供給ブロックですが、3枚目のフローチャートで右側になります。網掛けで「労働力率」とありますが、労働力率関数を性別、年齢階級別に、特に女性については有配偶と無配偶の別に推計します。この関数の説明変数は、性・年齢階級によって変わりますが、若年の就労に影響を与えると考えられる進学率や高齢者の就労に影響を与えると考えられる65歳まで雇用確保の状況、あるいは女性の就業に影響を与えると思われる女性の出生率や短時間雇用者比率といったものを説明変数として関数を推計します。そうして、各説明変数の将来の値を想定の上、将来の労働力率を推計するわけですが、その際「政策要因等」ということで、フローチャートの右下に書いてありますが、例えば短時間勤務制度普及による継続就業率の向上の効果、フリーター対策の効果などといったものを外から織り込むという形にしております。そうして推計した労働力率に社人研が出している将来推計人口を乗じて、労働力人口の推計値を得るわけです。
また、需給調整ブロックは、3枚目のフローチャートでいえば真ん中の下の部分になります。需要ブロックで推計される各産業の労働力需要の合計と、供給ブロックで推計される性別・年齢階級別の労働力人口の合計の比率を、ここでは「労働力需給倍率」と呼んでおりますが、需給倍率を出して、それを有効求人倍率に変換します。変換は、過去の実績に基づいて推計した変換式に基づきます。そうして有効求人倍率、また別途外生的に与える消費者物価上昇率といったものから、フィリップスカーブの考え方を利用して出した関数を使って、賃金上昇率を得ます。この点は、後ほどもう少し詳しく説明申し上げます。
この賃金上昇率が出ると、賃金水準なり、あるいは賃金水準を通じて労働力需要、あるいは賃金上昇率の一部が労働力率関数の説明変数の一部に使われておりますので、供給人口にも影響を与えるという構図になっているわけです。モデルとしては、当年の賃金上昇率、賃金水準、有効求人倍率が同時に成り立つように、それぞれの値を反復法と呼ばれる手法で得ます。また、有効求人倍率からは、過去の実績に基づいて求めた変換式によって年齢階級別の求人倍率なり、性別・年齢階級別の完全失業率を出します。完全失業率については、一般的な就労環境を表すものとして、翌年の供給のほうにも影響を与えるという構図にしております。
将来推計そのものは資料の(2)にありますが、3つのシナリオで行っております。ゼロ成長A、慎重B、成長戦略Cの3つです。将来各年の経済成長率の想定と、若年・女性・高齢者といった人たちの労働市場参加の進み方、この2つを組み合わせて、3つのシナリオでモデルを解くという形にしております。経済成長率の想定については、後ほどまた説明申し上げます。また、市場参加の進み方については、ゼロ成長Aは現状と同じ、つまり性別・年齢階級別の労働力率を2010年と同じ水準ということで計算しております。また、成長戦略Cは労働力率関数の説明変数の値の想定の際、あるいは計算に織り込む継続就業率の向上の効果などに、市場参加が進むことを考えた状態を反映させて、モデルを解いているものです。慎重Bはその中間的なものです。簡単ではありましたが、以上が需給推計のモデルなりシナリオの内容です。
続きまして、いただいた御質問について、研究員の中野から、それぞれ詳しく説明申し上げますので、よろしくお願いいたします。
○中野研究員((独)労働政策研究・研修機構) 前回の委員会で、個別にいただいた御質問について回答いたします。ページが振っていなくて申し訳ないのですが、今、説明に用いたフローチャートの次のスライド、「賃金の決定メカニズムについて」からです。「賃金の決定メカニズムについて」ですが、これは先ほどモデルの概要で説明がありましたように、労働力需給調整ブロックの中で決まってくるところです。そもそもここで言っている賃金は、「賃金構造基本統計調査」における一般労働者の時間当たり決まって支給する現金給与のデータを使っています。どのように決まるかですが、これはフィリップス曲線の考え方を応用して、賃金上昇率関数を考えており、労働力需給双方のブロックから決定されてくる労働力需要と労働力供給の比率から決定される有効求人倍率、外生変数である消費者物価の上昇率及び交易条件といったものから賃金上昇率が決定するような関数を考えております。具体的な関数形については、資料にあるような形ですが、この推定結果によれば、有効求人倍率の上昇、消費者物価の上昇、さらには交易条件の改善といったものが賃金上昇率の上昇に寄与するようになっております。
2点目の2009年の財政検証で用いられた我々の2007年推計の推計値と、今回私どもが行った2012年推計、両者の2030年時点の推計値を比較したときに、前回に比べて今回、特に男性の労働力率の推計値が下方シフトしているという御指摘がありました。これについて回答しますが、2030年における男性労働力について、どういう結果になっているかというのを示したものが「男性労働力率のシフトについて(1)」です。全体的に前回に比べて今回は下がっているのですが、とりわけ丸を付けた20~24歳、55~64歳といった年齢階級で、今回の推計のほうが2007年推計値よりも下回っているような状況にあります。
この原因についてですが、次のスライドです。とりわけ差が大きい20~24歳の所を詳しく見ると、2007年推計は、2006年までの労働力率の実績値に基づいて、将来を推計しています。一方、今回の推計は2010年までの実績値に基づいて将来を推計しています。今回の推計は2008年以降、景気後退の影響で男性の雇用情勢が厳しくなった。そういった状況などを反映しておりますので、直近の労働力率が減少傾向にあったことが将来の労働力率にも影響を与えて、前回の推計値よりも幾分、労働力率の値が小さくなっているというような状況が生み出されるということです。
次のスライドですが、これはちなみにということなのですが、前回の2007年推計のときには2012年時点の推計値も公表しております。また、2012年に関しては、既に労働力調査の実績値が公表されておりますので、この両者を比較すると、2007年推計の2012年時点の推計値が、実績値をおおむね上回っているという状況にあります。つまり、2007年は景気が上向いていた時期の労働力率が上昇傾向にあったところを汲んで将来を推計しているのですが、直近の労働力率の減少傾向と比較すると、実績値よりも推計値が上回っているような結果になっているということです。
3点目にいただいた経済成長率の想定について、最後のスライドで説明します。私どもは3つの成長率に関するシナリオを用意していると先ほど説明しましたが、そのうち成長戦略シナリオと慎重シナリオの2つについて、2023年までの実質経済成長率は、内閣府の「経済財政の中長期試算」に基づいております。具体的にどういう数値かを申し上げると、表の区切りが余り良くないのですが、下のブロックの上の段の左から2列目に「内閣府試算対象期間」があります。そこで2010年から2023年を御覧いただくと、成長戦略シナリオについては年率1.9%、慎重シナリオは年率1.1%、このような内閣府の試算結果になっており、これを使っています。
ただ、2023年以降は、内閣府の試算対象期間外になりますので、ここについては私ども独自の想定になります。そこをどう想定しているかということですが、2010年から2023年の内閣府が試算した実質のマクロ経済成長率と、社会保障・人口問題研究所が推計している人口減少率、その両者から人口1人当たり成長率の年平均値を求めて、これが2023年以降も維持されることを仮定する。その上で、さらに2023年以降の人口減少分を考慮して、マクロの経済成長率を想定しております。
具体的に御覧いただくと、一番下の段の内閣府試算対象期間の2010年から2023年の欄は、成長戦略シナリオでは年率1人当たり成長率が2.3%、慎重シナリオが年率1.5%ということで、これが2023年以降も2030年まで同じ年率でいくというのを想定すると。そうするとどうなるかといいますと、その上の段の「JILPT想定」ですが、マクロで見れば2023年から2030年については、成長戦略シナリオで年率1.6%、慎重シナリオでは0.8%を見込んでいます。
3つある成長のシナリオのうち、ゼロ成長シナリオはこの想定とは異なり、2015年までは復興需要等を見込んで、慎重シナリオと同じマクロの経済成長率を見込んでおりますが、2015年以降は内閣府試算対象期間である2023年まで、あるいはJILPTが想定している2023年以降、いずれについても成長率はゼロとして想定しております。以上です。
○吉野委員長 皆様から御質問を頂きたいと思いますが、私から2、3、質問させていただきます。3ページのフローチャートで、右側は労働供給ブロックで性別、あるいは年齢階層別に細かく供給を出されているわけですが、左側にいくと需要ブロックでもコブ-ダグラス生産関数では男女別、年齢階層別の生産関数を作られているかどうかが第1点です。それが真ん中に来ているのかどうかということです。
2番目は、フローチャートの下の賃金決定メカニズムのフィリップス曲線の考え方のところです。右辺の有効求人倍率TKが普通入りますし、DCPIと書いてある消費者物価の変化率は、普通は予想物価上昇率が入るのですが、これは実際の値を使われて、それが長く続くと考えられてこうされたのかどうかということです。
最後に、交易条件が入っているのですが、フィリップス曲線では普通は交易条件を入れないと思うのですが、これを入れられてここは有意になっていますが、なぜこれを入れられたのかということです。
最後は、8ページで先ほどの森川副所長のお話ですと、政府の見通しはどちらかというと高いわけですから、ここでいう慎重というよりは、もうちょっと下のほうも今後は少し増やしたほうがいいのかなという、ちょっとした感想です。お願いいたします。
○中野研究員 1点目について、需要サイドで性・年齢階級別に推計を行っているかどうかという点は、産業別で性・年齢階級計の値でしか推計を行っておりません。一応、性・年齢階級別に検討することもあったのですが、まだ具体的な推計までには至っていないという状況です。
2点目の賃金決定メカニズムの関数についてですが、消費者物価の上昇率には予想ではなく、実際の値を使ってパラメータを推定しております。なお、将来期間は最後に説明した内閣府の経済財政の中長期試算で、消費者物価の推計値も公表しておりますので、これに基づいて計算しております。
最後の交易条件は、最初は交易条件を入れない状態で推定していたわけですが、近年入れない状態では非常に関数形のフィットが悪い。つまり、有効求人倍率が上昇しているにもかかわらず、賃金が上昇していないという状況がありました。ここをどう説明するかということで、先行研究を参照しつつ交易条件を入れたところ、ある程度説明力を得たという状況です。
○米澤委員 いろいろ参考になりました。1つは今伺った賃金の決定メカニズムですが、私はこれは有効需要を考えたタイプという理解なのですが、1つはこの賃金上昇も、将来グルグル回しているわけで、グルグルというか外挿しているわけですね。アバウトでいいのですが、そこでの実質賃金の伸び率と一番最後のページ、内閣府云々の所で、総人口1人当たり実質経済成長率がありますね。例えば成長戦略シナリオですと、2010年から2023年が2.3%、1.5%、0.8%。これはこれが実質賃金の伸び率に近いものになりますよね。それと比べてどう違うのか。というのは、我々が前回やったのも生産関数の1人当たり実質経済成長率みたいなところから、賃金の伸び率を出したわけですが、それだとやはりこれに近い数字。これに近い数字というのは、2.3%とか1.5%とか。1.5%ぐらいになるわけなのですが、どう見ても今、足下はそんなところ説得力はないという言われ方をしている感じがするので、その場合にはそうでないフィリップスカーブで求めていって、将来の賃金の上昇率はそれより大分低いのが出てくるのか、いや、全体としては似たような数字が出てくるのか。もちろん、こちらは名目ですから、これを実質ベースに直して、もし今データの御記憶があれば、そこのところをお教えいただきたいという点です。
○中野研究員 最後の1人当たり成長率の値と比べてどうかというところは、今ちょっと記憶にないので申し訳ないのですが、賃金の決定メカニズムについて、計算の過程の中では、賃金上昇率が過去の推移と比較して、極端に外れた値をとっていないかというチェックだけは行っております。
○駒村委員 需給モデルの(3)のフローチャートについて、4ページと3ページを見ながら、それから参考資料の5ページ、7ページを見ながら確認させてもらいたいのです。需要ブロックで成長戦略に基づいて、経済成長の前提を3通り置いている、0、1、2ということです。前のページを見ると、労働供給はある程度政策を講ずるというのと、適切に政策を講ずると、何もしないと、こちらも3通りあるというので、それを調整ブロックでぶつけているという理解でいいのか。そうすると、外から与えられた成長と政策が3通りあるのですから、本来は9通りのストーリーが出来得るわけなのですが、ここではそのうち3通りを抽出していると、こういう整理でいいか、そこを確認させていただきたいのです。
労働政策でも、需要の話とは別に3通りの政策の想定を置いているわけですが、供給ブロックのうちのどれを変えていくと、例えば資料の5と7のような形でですね。5ページはゼロ成長と点線の間、あるいは黒い実線の間では、特に高齢者において大きな乖離が生まれているわけですし、7ページは同様に有配偶でもかなり大きな乖離が生まれているのです。こういう上昇がどの労働供給ブロック、これは丸の中のどれかが動かしていると思うのですが、その辺をちょっと説明していただければと思います。
○中野研究員 まず、シナリオの想定の仕方については、先生の御指摘のとおり、そのように供給側、需要側、それぞれ3つずつの考え方を用意して、そのうち妥当だと考えられるシナリオ3つの組合せをこちらで用意しています。
参考資料の5ページにあるように、シナリオの組合せによって、どうして労働力率の間に差が生まれるかということなのですが、この差が生まれる大きな要因は、もちろん供給側の要因によるところが大きいのですが、需要側の想定がどういう影響を与え得るかを説明しますと、労働力率を決定する説明変数の中に実質賃金を入れており、より高い成長を想定すると、賃金が相対的に高くなりますので、それを通じて労働力率も高まるというのがあります。
もう1つは、説明変数の中に1年前の失業率が入っており、この失業率も経済成長率の高さに応じてより下がりますので、そういった状況を反映して、1年ラグはあるわけですが、次の年の労働力率を高めるという効果を持ちます。
一方で、供給側の要因については、先生に御指摘いただきましたように、労働力需給推計モデルのフローチャートの一番右にある丸で囲まれているようないろいろな行動要因、政策要因、こういったものの影響でその差が生まれてくるというところです。ですから、例えば高齢の部分で言えば、希望者全員が65歳まで雇用される企業割合が、成長戦略Cシナリオでは2025年までに100%になるような想定を置いて推計しているところです。一方で、ゼロ成長でAシナリオ、進まないシナリオは足下、2010年のまま一定の労働力率を想定しているところで差が生まれるというところです。
また、有配偶の女性の、いわゆる女性のM字カーブの底と言われるような年齢階級については、例えば保育所、幼稚園の在所児童比率が高まる、あるいは男性の家事分担比率が高まる、あるいは短時間勤務制度が普及するといったところの影響を、成長戦略Cシナリオでは見込んでおりますので、その分だけゼロ成長Aシナリオに比べて労働力率が高まるような結果になっております。
○駒村委員 確認が1つ、先ほどの需要サイドの3通りと労働供給サイドの3通りで9通り、これはお手元に9通りというものは作っていらっしゃるかどうか確認です。それから、専門委員会のお話になるかもしれませんが、政策効果が2つのルートで入っていることを考えておかないといけない。労働政策が効いた場合と効かない場合。何通りか効いた場合と需要の見通しというので、政策見込みが2つのルートで入ってきていることは考えておいたほうがいいのではないかと思います。
○中野研究員 回答は前半の部分だけでよろしいですか。9通りについて、手元に推計結果があるわけではありません。これはなぜかと申しますと、やはり高い成長率を実現するためには、それなりの労働供給が必要になってまいりますので、高い成長率に組み合わせるのは労働市場への市場参加が進んだ姿を組み合わせる。そういう考え方の下、この3つのシナリオを作ったということです。
○吉野委員長 9通りのマトリックスができると思うのですが、その中のあるところだけを現実的に見られたということですか。
○中野研究員 そうです。
○西沢委員 ちょっと視点が変わるかもしれないですが、マクロで社会保障給付費の推計があって、それと賃金の関係なのですが、マクロで例えば森川さんの資料だと、社会保障の将来推計があったと思うのです。結局、社会保障費がかなり社会保険料で構成されているので、社会保険料が上がっていくと、賃金に与える影響もあると思うのです。この年金の計算は、賃金上昇率が一定でずっと続いていくわけですが、本当は社会保険料が上がっていけば賃金なりに影響を与えているという経路があると思います。ですので、企業の方の話を聞いても、これ以上、社会保険料を上げると人を雇えないという話がある中で、JILPTの資料、3番のフローチャートの中で、例えば労働力需要の中に今後、社会保険料が上がっていくものを盛り込んで、そこにマクロで行っている社会保障の負担の推計を入れるとか、JILPTのはそういう目的でやっているわけではないので、こういうモデルになっていると思うのですが、私たちが賃金上昇率を出すときには、マクロの社会保障給付費とその財源の社会保険料と賃金上昇率の関係を意識したほうがいいのではないかと、これは感想です。
○吉野委員長 もし今のに何かコメントがあればお願いします。ほかにいかがですか。先ほどの賃金推計関数の労働力需給の表が出ている下のフィリップス曲線ですが、やはりちょっと普通のと違うかなという感じがあります。なぜ交易条件を入れないとフィットが良くなくなったかという想像ですが、1986年から2008年の間、TKの係数を全部0.036で一定にされているわけですね。だから、それが多分、最近この係数が大分変わってきて、有効求人倍率がいろいろ変わっても賃金に余り影響しないとすると、この係数を可変にされるとフィットが良くなると思います。そっちのほうが重要なのではないかという気が1つしました。
あとカルボ型の賃金決定関数ですと、1期前の賃金、あるいは賃金の変化率が影響して、賃金が徐々にしか変わりませんから、右辺にDWTのT-1を、日本の場合、特に前の年の賃金が影響してきますから、それが入るといいような気がしました。やはり何で交易条件が急にここに入ってきたのかが、もう少しきちんと説明ができていればいいのかもしれませんが、0.036の係数の変化のほうが大きいような気がします。コメントです。ほかにありますでしょうか。
○米澤委員 将来の賃金はアウトプットとして、中ではデータとして持っていらっしゃるのですか。もちろんどこかにあるわけですよね。公表のデータとしては作っていないということですか。
○吉野委員長 でも、計算はされているはずですよね。
○米澤委員 だから、もちろんあるわけです。それを必要があれば我々もレファレンスにするとかという手はあるのかなということが1つです。感想としてそれだけです。
○中野研究員 先ほども申しましたように、賃金上昇率は計算の過程において過去の実績と比較する確認作業を担当1名によって行っておりますが、公表はしておりません。
○武田委員 こちらの賃金の決定メカニズムの入っている消費者物価指数、先ほど予想物価上昇率ではなくて、将来については内閣府の消費者物価の推計値を使っていらっしゃるということでお伺いしたのですが、それは慎重シナリオと成長シナリオが、また消費者物価上昇率にもあるわけなのですが、こちらも両方のパターンでやられているということでしょうか。
○中野研究員 はい。
○吉野委員長 賃金に関しても全てシナリオごとに違って動いているはずということで、よろしいですか。
○中野研究員 はい、そういうことになります。
○吉野委員長 労働力推計に関して随分詳細な御説明をありがとうございました。前回のときにいろいろ疑問が出たものですから、大分明らかになりました。少し予定より早めですが、これで今日の会合を終わらせていただきたいと思います。今後の日程などについて、森参事官からお願いいたします。
○大臣官房参事官 日程については、改めて調整させていただきたいと存じますので、後日改めて連絡いたします。
○吉野委員長 今日は参考の御報告をどうもありがとうございました。これで終了させていただきます。ありがとうございました。
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